※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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交わす、刃と
──そう言えば合図をどうするのか、話し合っていなかった。
逆に言えば話し合いもなく合意はしていたのだろう。
結局のところ、何が「それ」になったのかはよく分からない。
何かは感じたのだろう。床の軋みだとか。呼吸、視線。それらから分かる、重心や、緊張感の変化。
いうなれば、覚悟の気配。
鞍馬 真の最初の一撃はそう言ったものに反応して繰り出されたもので。
それを伊佐美 透が受け止めてみせた時点で、そう、互いの間にそういうものだという認識は、間違いなく擦り合っていた。
無言で始まった戦いは、そうして、異議の発せられることはなく続けられる。
真の二剣による攻撃を、斜めに大きく掬い上げるような動きで透の刀が纏めて弾く。
押し返し離れた身体を追うように踏み込んだ透の切り下ろしを、真は軽い足さばきで避けた。
打ち合う音は断続的。刃が絡み合うのは専ら透が受けるときで、透の攻撃が真を襲う時は大体空を切る。
偶々同じタイミングで訓練場に居合わせた、故に真から声をかける形で実現した手合せ。
透は、俺で君の相手が務まるかな、なんて言いながらも、すぐに準備して応じてくれたわけだが。
(本当……ああは言ったくせに……中々!)
崩せない。
左右からの挟撃を、一刀で的確に振り、弾いて威力を逸らされる。
そのまま突いてきた透の反撃を、見切って身体を捻って躱す。
未だ、互いに決定打は出ない。
そのことは。
(まあ……愉しいし、嬉しい……かな)
段々と、身体の動きが良くなっていくのを感じる。すぐ横を、彼の刃が通り過ぎるその度に、奥底で沸き立つものを感じている。
──……本性が出てきてるなあ。
自覚していた。
依頼の時は、必要に応じて援護に回ることも多い。だが、元来、真は最前線での戦闘を好む隠れ武闘派だ。
その衝動を、今は遠慮せずに出して、仕掛ける。意識を集中し、今までで最大の鋭さでもって、右の剣を振りかぶる。
透は、無駄のない動きで刀を軽く掲げ、これまでと同じように受けようと……
「──……っ!」
して、寸前、やや無駄に見えるほど勢いをつけて、向かい来る刃を外側に大きく弾く。
そのまま、反動も利用して斜めに剣閃を振り下ろしていった。
透の切っ先が向かう先に……死角を突くように、低い位置より迫っていた真の左の剣!
気付いて、それでも透の表情から驚愕と焦りは消えていない。迎撃に向かう間にも、真の一撃は透に伸びて……──
響いたのは、ガツリと、床を叩く鈍い音。
(……これも止められるか!)
透の刀に、真の剣が床に抑えつけられるような形で重なっている。
今度は真が驚愕の顔を浮かべる番で……しかし、長続きはしない。次の瞬間、込み上げてくる歓喜に、口元が緩む。
見れば……透の口元にも、同じようなものが浮かんでいた。
紙一重の攻防だった。間に合ったのがどちらでもおかしくは無いような。
互いにそれを認めあって、だからこそ、思うのだ。
ああ全く、本当に。
──……君が味方で、良かったよ!
こうやって全力で打ち合いながらも次の瞬間には思い出すほど、同じ戦場を駆け抜けてきた。
それでいて、やっぱり。
でもごめん。ああなんか、だからこそ、負けたくないなあ。
今のが通じないなら、どうしようか。
高揚しながらも冷静に、真は相手を分析する。
今のが防がれたのは、多分、思っていた以上に彼が戦闘において知覚出来ている範囲は広い。
……殺陣の技術を底に敷いた剣術、か。言われてみれば、複数人を相手取る、というシチュエーションは多いのかも。その経験なのかな。
そんな相手を、どうやって攻める?
……答えは、すぐに浮かんだ。
小細工は捨てる。持てる技術を尽くして、ただ、鋭く、早く。
突進。後はただ、舞うように只管、連撃!
「……っく!」
透としても、一方的にやられるばかりではない。真の剣を弾きながら、時折に反撃の刃を振るう。真の攻勢は受けることを捨てたような物だ。幾度かその切っ先が身体を掠めていく痛みを確かに認識していて、しかしそれを彼はまったく気にしない。
やがて。
かなり苦し紛れに攻撃を受け止めることになった透の刀は、真の剣に絡められ動きを封じられ。
そのまま、逆の剣が、透の首筋にピッタリと突き付けられた。
「──……うん」
静かに、大きく息を吐き出すように、透が声を漏らす。
「負けだな。これは。参った」
そうして、彼が笑ってそう言うと、真も静かに剣を引いたのだった。
「……ちょっと、面白いと思ったかな」
互いに緊張を解いて、息を整える。心地よい疲労感を感じながら、真は素直な気持ちを零していた。
「こうして、相手として見てみると、透さんの剣はどちらかというと防御寄りなんだね」
それが……捨て鉢とすら言えるほどに攻撃的な自分の剣とは、対照的。そう思えたことが。
「考えてみたら、インタラプタが相手の時にああいう戦術がとれたのも、その自信があるからなのか」
それから、ふと思い出したように言うと、あー……、と、透は何処か微妙な表情を浮かべた。
「自信は別に……無いかな。もうわかってるとは思うけど、俺は結構小心者だよ」
そう言って、苦笑交じりの微笑を真っ直ぐに真へと向ける。
「あんなこと考えられるときは、そうだな。まず、隣に立ってる人が誰かは、かなり限られるよ」
「──……」
状況を思い出し、意味をしばらく考えて……ああ、と、真は思わず深く息を吐いていた。
つまり──かなり、信頼してくれているからなのか。自分のことを。
「まあ、防御寄りなのは、そうかもな。多分無意識に、あまり怪我したくないと思ってる。ハンターとしてはどうかとは思うが……」
しばし、声が出ない真の横で、透は続けた。
「基本的には、怪我するのは御法度だったから。稽古は勿論、本番に穴を開けたら目も当てられない」
「ああ……成程」
「だから、今はうん、特にその気持ちが出てたかもなあ」
「──……もしかして。今何か、新しくそういう話……!?」
驚いて、真は透の方を見る。充実感に満ちた笑みが、そこにあった。
「まだ、正式に喋っていい段階じゃないから、ここだけの話な」
そして、悪戯っぽくしぃ、と指を立てて、そう答える。
はっと気づく。
「え! あ! 大丈夫!? さっきかなり全力でやっちゃったけど!」
「まあこっちも夢中になってたし……どのみち覚醒者なんだからある程度は大丈夫って、頭では分かってるんだよな。重傷になることは無いだろ」
「そっか。……そうだね」
ほっと胸をなでおろし……安堵するとともに、じわじわと込み上げるものがある。
ああ、眩しいなあ、と。
彼の、真っ直ぐに夢を追う姿は尊敬するし、応援したいと思う。
……夢を持たない、自分には。
それから、思う。以前は、こんな時どう思っていただろうか。
空っぽの自分。失くした自分。失くす程度のものしかなかったのかと、己を嫌悪した──空虚な想いは、今はそれほど無い。
だってほら。少なくとも、自分が戦ってきたことが、こうして今、誰かの夢に繋がっている。
ただ、がむしゃらに依頼を受けて、人のために尽くす、その先には、こうやって。
それを、こうして感じられたら……今はそれでいいんだと。
また夢に向かっている友人の隣で。今は真は、そう思うことにした。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闘狩人(エンフォーサー)】
【kz0243/伊佐美 透/男性/27/闘狩人(エンフォーサー)】(NPC)
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注、有難うございます。
OMCはIFノベルです。実際のシナリオ上でのNPCの強さとスキル構成の参考にはなさらないようにお願いします。
いや実際こいつの分際で生意気じゃなかろうかもっと容赦も身も蓋もなくフルボッコにすべきじゃないかとかなり思ったと言いますか今も思ってるんですが。
まあ何といいますか……雰囲気重視? で?
はい。何かすみませんでした。
改めまして、ご発注有難うございます。