※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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なんなんだろうね?
緊急事態故だったのだろう。急遽ハンターオフィスに掲載されたその依頼内容は簡潔なものだった。
『ランカスター市街を失踪していた強化人間が占拠した。軍と共同でこれらの制圧にあたり同市を奪還すること』
言葉にすると、たったそれだけで。
鞍馬 真にとっては。
……やっぱり、それだけの事だった。
対峙する強化人間──見た目は十歳くらいの少年──を前に、抜身のままだった剣を静かに向ける。
これらを、一体一体相手にして、すべて倒して制圧する。そういう依頼。それだけの依頼。
「うあああああっ!」
叫んで、少年が、その身体に不釣り合いな大剣を振りかざして襲い掛かってくる。
技術に未熟さは見受けられるが、身体能力のお陰で下手な達人より速い剣閃。つまり、だから同じかそれ以上の身体能力を持つ者からすればやはり、未熟な剣。
なんてことなく絡めて払い落とし、そのまま肩からぶつかるようにして少年の身体を弾き飛ばす。
「なん……何なんだよコイツ……」
その一回の応酬で、実力差を肌で感じつつあるのだろう。怯えを滲ませながら少年が呟く。
「『何なんだよ』……か」
思わず、鸚鵡返しに真は呟き返していた。
……呪法により洗脳された強化人間たちは、ハンターたちが異質な姿に見えているらしい、という情報は把握していた。少年の呻きは、『討伐すべき化け物に立ち向かったら、予想以上に強くて混乱した』という意図に過ぎないのだろうが。
「なんなんだろうね? 私も考えていた所なんだ、それ」
つい、そんな言葉が零れる。乾いた響きの声だった。
その声が届いたのか、いないのか。怯えながらも少年は逃げることはせずに再び襲い掛かってくる。痛みと混乱のせいだろう、攻撃の精度は先ほどよりも落ちていた──余分なことを考えている余裕が、増えた。
……何なんだろうね、本当に。
私は一体、何なんだろう。
お菓子作りみたいに、それはこうだよ、って教えてあげられたら良かったんだけど。
ふと、自嘲気味にそんなことが思い浮かんだ。
ああ、覚えている。ほんのつい先日の事だった。
あれはとても楽しい、穏やかな一日だったね。
お菓子作りだけじゃない、君たちはこれから色んな事を覚えていくんだよと、その笑顔が、未来が、眩しかった。
──そんな君たちの仲間の一人を、さっき、殺したよ。
思い出すと、身体の奥底がスッと冷え込んでいくような感触を覚えた。
同時に身体は今も冷静に、目の前の少年の繰り出す必死な一撃を片手間と言えるほどに難なく、捌く。
罪の意識は覚えながらもそれに潰されはしない程度には割り切っている自分が居た。
人を殺すのはこれが初めてではあったものの、いつかそういう機会が訪れると思っていた。感慨としては、そう、いつか来る日が、今日だったのか、というだけ。
でも、ぐるぐるする。
納得していて、もうどうにもならないことなのに、胸の奥で渦巻き続ける何かが止まる気配がない。
そうしている間にも変わらず、少年は襲い掛かってきて。
自分も、変わらず、それを迎え討って。
「……そうだね。じゃあ、一緒に考えてみようか」
また、そんな風にふと零していた。
どんな形であれ、彼は問いを発したのだ。
それを、知らないから君だけで考えろ、というのは、雑に過ぎるじゃないか。
……一度は彼らから、「先生」と呼ばれたんだから。
今度は真から仕掛けると、容易く刃は少年の防御を掻い潜りその身を斬り割いていく。
(やはり自分はこの戦いを、割り切っている)
もっと、一気に致命傷を負わせることは出来た、と思う。
(だが殺すことが当たり前、とは思っていない)
周囲の気配の変化に気がついた。複数人が近づく気配。おそらく軍だろう、と思って、真はとっさに怒気を膨らませた。ここは自分がやるから近づくな、と彼らを牽制する。
邪魔をされるのを厭ったわけでは無く、軍の邪魔をするつもりもない。ただ、少年が彼らに殺意を向けるならば、それが行使される前に少年を止めなければならなくなるだろうと思ったから。
(ああ、私は同じようなことがあれば同じように躊躇なく殺すのか)
同時にこうも考えている。逆も然り。軍人もやはり、少年への対処は殺すつもりで行うのだろう。……それが、力がないから、あるいは、命令されて仕方なく、と思っての上ならば。せざるを得ない彼らよりも、自分がやるべきだ。
(でも、自分よりも優しい人が手を下すことにならなくて良かったんだ)
「……とまあ、こんな感じだよ」
そんな風に、一つ一つ己を省みて、その輪郭が浮かび始めた頃。
少年は地に倒れ伏して、動かなくなっていた。
……まだ、息はある。そういう風に剣を振るった。今は、その猶予があったから。
意識を失う最後、少年に自分は結局、どう映ったのだろうか。それを聞くことは多分、叶いそうにないけど。
自分自身の、答えは。
「──気持ち悪いな」
刺し殺したときの、今とは違う感触を思い出しながら、真は思った。
人間の肉を、筋を、破り、貫いていく感触。はっきりと殺す意図を伴って。その時の感覚は、今振るった剣のそれとはやはり、明確に異なったもので。
死ぬまで忘れない。掌に残るものを閉じ込めるように握り込み、誓いながら。
「……うん、気持ち悪い」
あまり動揺はしていない自分の精神に、そう思った。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闘狩人(エンフォーサー)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご発注有難うございました。
まあ……その、なんだ、なんか色々、すみません。