※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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きっとまた立ち上がる
「おーい、決まったか? 真」
「え。いや、えーと……」
何気なく、鞍馬 真が、神代 誠一のいる小隊の拠点、木漏れ日の家と呼ばれるログハウスに顔を出した後の事である。誠一は真の顔を覗きこんで暫く何かを考え込むと、やがて。
「今日はとことんゲームに付き合ってもらうからな!」
そう宣言して、まずは買い出し、と、首根っこ引っ掴むようにして連れ出されたのである。
「え、ゲーム??いや今はそんな余裕……ちょっと待って話聞いて!?」
楽しくゲームの相手をしろ、と言われると、今の自分に務まるのか……。そう思って真は反論するが、今のところ有耶無耶にされたまま、そうして今は、
「あー着替えもいるか。んー、あとは……」
と無視して呟く誠一に、パジャマを選ばされている。
「ちなみにあと30秒で決めないと、強制的にさっき見つけたこの『パジャマ仕様・まるごとふわふわうさぎ』に決定する」
「うんアラサー男性が着るものではないね!?」
「にじゅーう」
「うっそだ十秒も経ってない!? ええと分かった! これ!」
慌てて無難なストライプ柄、厚手の生地で暖かそうなそれをひっ掴んで渡すと、誠一は「計画通り」と言いたげな顔を浮かべていた。
「あー……そうだな、領収書は射光名義にしときゃいっか」
抵抗虚しくそのまま会計を済まされ──何せ高レベルの疾影士だ。せめて自分で払うとレジに向かうのを止めようとした腕はするする避けられた──終始そんなノリに乗せられて、徹夜ゲーム会への買い出しは順調に進められていくのだった。
「さって、そんじゃゲームだゲーム!」
酒とつまみを広げながら、誠一が宣言する。
この頃には真も、ここまでされて誠一に全く付き合わないわけにも行かないだろうと腹を括っていた。……もっとも、その真意にも、薄々気付きつつはあったが。
「ほら、真、始めるぞ」
「……うん」
コントローラーを手渡されて、始めるのは人気キャラクターで乱闘する対戦アクション、協力型の陣取りシューティング、有名なボードゲームをデジタル化したすごろくゲームなど様々だ。ただ、パズルは、手加減が出来なくなるから今日は無し。
今のところ、真はどんなゲームを提案してもそこそこに楽しんでいるようだった。アクションの腕前はそんなに悪くない。運要素の高いゲームは若干運の悪さが見てとれたが、不服に思う様子はない。
そんな風に、誠一は。楽しめているかそれとなく様子を伺っていた、つもりだったが。
「その、……ごめん」
ふと。何度目かの誠一の視線を察した真が、とうとう画面に向かいながらもポツリと言った。
分かって、いたのだ。今日のこの会が、誠一が楽しむためではなく、様子のおかしい真を心配して、気分転換をさせるために開かれたのだろう、ということは。
地球封印。それを巡る戦いの中──人を斬った感触。戦いが決着したことでそれらが一気にのし掛かってきて。本当はもう精神的に瀕死なのに……弱音を吐くことも出来なくて。結局、心の隙間には、依頼を捩じ込んで誤魔化していたけど。
そんな自分の態度に、彼が気付かない、わけがなくて。それなのに。
「ん? 何のことだ?」
誠一はそれでも、例え真が気付いたのだとしても、今日その話をするつもりは無かった。
とぼけた様子で、視線は目の前の画面から離さない。そうして、気落ちする様子の真を励ます代わりに──デッドヒートのレースゲーム、真の操るカートを華麗に抜き去ると、その眼前に妨害アイテムをポイッと投げる。
「うわわわわわ!?」
小回りの効く車体を選んでいたことが幸いして、ギリギリのところで避けることに成功する真!
……こんな場合でも、咄嗟に反応してしまうものである。そのまま、悩む思いは散らされていく。
「やるじゃないか」
「もう……誠一さんは」
にやりと笑う誠一に、微苦笑する真。だがこの隙に誠一は大きくリードを奪っている。手を抜くのは失礼と、必死で追いすがる真。
──その時ぐまが動いた。
それまでどこに居たかもわからない、マイペースなこのペットは、不意に誠一の頭上に飛び乗り更に跳躍する。
「ぐお!?」
何のことは無い、一瞬頭を踏まれただけ。それだけでは誠一の優位を揺るがすほどのものではない。
問題は、そのタイミングである。誠一の焦点が戻った時、そこには。
……先ほど自分自身が設置したバナナがあった。
「ぐま! ちょ、おっまなんでここでああああああ!」
批難の声は半ばから只の悲鳴に変わって……そして誠一のカートは盛大にスピンする。
狙ったとしか思えないその結末に。魂の抜けた顔で誠一がギギィ、と首を動かしてぐまを見る。ウサギは勿論、人間の事など分からないという体で毛繕いなどしていた。
「ぷっ……あはは!」
つい。本当につい、真の口から笑いが零れる。
声が出る程笑う、というのは弱っているとき、驚くほど精神を回復させる。だからだろうか、酔いのせいもあって真は思った。今日は……甘えてしまっても、良いのだろうかと。
「誠一さん……。ありがとう。私は誠一さんに甘えてばかりだね」
気持ちを後ろ向きなものから感謝の気持ちに変えようと言って、真は座り直す。
「だから……何のことだ?」
そしえ誠一はただ微笑んだ。
以降、ぐまに警戒しながら、気を取り直してゲームが再開される。
だが、この場に潜むトラップはそれだけでは無かった。
──自動掃除ロボット、テトラ。
起動したそれは、散らかり放題の室内を、健気に、あるいは無慈悲に進んでいく。
そして。
──ブツン。
最初に彼らに認識できた事態は、突然テレビへの入力が途切れた、という事だけだった。ここに至り、ようやく彼らは、先ほどからそれなりに音を立てていた掃除ロボットの存在に注意を向ける。同時に向けた彼らの視線の先で、テトラは絶賛、床掃除をしつつそこに在る配線をかき混ぜていた。
「おおおおい、テトラぁぁぁぁ! だからなんで今!」
またも叫ぶ誠一。貴方が設定した通り今フル充電が完了したからですが何か? と、緑色の電源ランプを元気に明滅させるテトラ。とかく誠一は慌ててテトラを拾い上げて一旦電源を切ると、配線に目を落して……そして見事にこんがらがったそれに頭を抱えた。正直、一旦集中が切れるとそろそろ眠気を覚えてくる頭には、きつい。
実の所、誠一自身はいっそそろそろお開きにしても良いかというくらいの満足感はあったが。
(……まだ、人前で眠れる状態じゃない、って感じだな)
戸惑い気味に視線を送る真の様子から、誠一は察する。どうするか。テトラの電源は切ったものの、一旦こういうことがあると安心できない。ぐまにもテトラにも邪魔されない形のゲーム。今この場に一つしかない携帯ゲーム機では対戦は出来ない──いや。
(……ある。携帯ゲーム機一台で対戦出来るゲーム)
思い出す。少し前に、リアルブルーからの荷を運んできたロッソのゲーム屋で見つかって、思わず手に取ったもの。……だけど一人では、中々封を切れる気になれなかったそれ。だけど。今なら。彼になら、もしかして。
「──真。次はこれで勝負しないか」
誠一が示したのは。有名な、鉄道会社経営と双六を組み合わせたゲーム。日本各地で目的地がランダムに決まり、鉄道の旅でそれを目指し、報奨金を資金として経営する。双六だけに、一台のゲーム機を回しながらのプレイが可能だ。
サイコロの結果に一喜一憂し、お邪魔キャラの妨害に悲鳴を上げ各地を巡り、そうして。
(ああ……この辺)
地元を、知ってる駅名を通りかかる度に。郷愁の想いが湧き上がるのが、やはり誠一には止められなかった。……思い出してしまう。景色。人。
それでも。これを手に取ってしまったのは。
「あっ?」
真が、思わず声を出す。
ゲーム内年数が一年と少し経って、そのイベントは、発生した。
『大船~鎌倉間の路線が復旧しました』
──手に取ってしまったのは。このゲームが、復興をテーマにしていたからだった。
ゲーム開始直後。このゲームは、鎌倉周辺がほぼ壊滅した状態で始まる。……だが、年数の経過とともに、路線が復活していく。
目の前で、線路が伸びて繋がる。その演出は、ゲーム内の出来事だと分かっていても……胸を突くものがあった。
新しく線路が繋がったばかりの駅のマスはまだ、黒いまま。
「……ここにたどり着けば……復興するんだよね?」
確認する真に、誠一は頷く。とたん、真は目的地を忘れたかのようにまっしぐらにそこへ向かい始めた。
……戦略として間違いではない。最初に復興駅を踏んだプレイヤーには強力なカードが渡されるのだ。一旦目的地を譲っても取り返す余地は十分ある。
「えっいや。来ただけなのにこんないいカード貰っちゃっていいのかな?」
なのに、そうして復興駅にたどり着くと、そんなつもりじゃなかったとばかりに首をかしげる真。
「まあ、俺たち設定上は鉄道会社の社長だろ? 地元復興に貢献した大会社の社長が観光に来たってなりゃ、そりゃ市を挙げて歓迎するんじゃないかな」
「あー……成……程?」
いまいち納得しきらない様子の真に、誠一は苦笑して。
「けどさ。別に。……辛い時に、真っ先に駆け付けて、心から親身になってくれるってさ。それくらい、有難くないか?」
そうして。別の見解を述べると、真は今度こそ「ああ……」と呟いて……そうして、まじまじと誠一を見た。
「……そうだね。うん。本当にそうだ。……ありがとう」
それから、また礼の言葉を口にする真に。本当の意味で言いたいことは伝わってないんだろうなあと、誠一は心の中だけで苦笑した。
(だからさ。俺がこうやって真のことを気にするのだって。それだけのことをしてもらったと思うから返してるって、それだけなんだぞ?)
だけど、それも口には出さない。今日は余計な、説教めいたことも一切言わない。
気は遣わせない。余計なことを考える余裕だって与えない。
──……ただ今日は、夢中になって。俺と笑って楽しく時間を過ごせれば、それでいい。
ゲームを進めていく。年月が過ぎていく。
線路が繋がる。
都市の機能が復活していく。
人が戻ってくる。
……今はゲームの中の光景だけど、きっといつか現実になる。そんな祈りを、そして信じる心を感じた。
だって、これまでどんな災害に対してだって、人類はそうしてきた。
人も。
都市も。
世界だって。
挫けない。何度でも、また蘇る。
そして。
「えっ終わり!? ちょっと!?」
突如迎えるエンディングに、真が怒りの声を上げる。……が、そういうゲームである。盛り上がりの真っ最中だろうが平坦な移動中だろうが、最初に設定した年月が経過すれば容赦なく終了となる。
この時点で、順位を決める総資産は誠一の方が上。今真っ最中だった目的地争いに真が勝利していれば逆転もあったかもしれない、が。問題は勿論、そこじゃないんだろう。
「だってあの路線がまだ復旧してないよ!? あそこの復興もまだ出来てなかったのに!」
「あー……まあ、この年数だとそんなもんなのかな」
困ったように誠一が答える。そうなると、勿論──
「誠一さんもう一回やろう!? 今度はもっと長い年数で!」
「お……ふわぁ……」
「ここで寝落ちとか無いよね? 夜はまだこれからだよ?」
「お……おぅ……」
そうして、夜は更に更けていく──。
……ゆっくり、意識が浮上していく。薄く開けた目はやたらと眩しさを感じた。
どうやら結局、いつの間にか寝落ちしたらしい。
その前には、つけっぱなしの携帯ゲーム。どうやら、途中でお互い寝てしまったようだが……。
いや、途中とも言えないか。ふと誠一は思い直す。
操作されないゲーム機から流れ続けているのは──全ての駅の復興を完遂した時の、特別BGMだった。
「たまにはこういうのも悪くないだろ?」
気絶したように眠る真、深く、どこか満足げな顔で寝ている彼に、毛布を掛け直してやり、呟く。
これでお互い……。
──Game Clear。
暫く後。
ログハウスに現れる、別の気配。
「お? おっす。悪いな、今真が寝てるから静かに……」
振り向きざま、言いかけた挨拶の言葉は、途中で途切れた。
新たな来客。口よりもその雰囲気から語られる言葉。
『ところでこの散らかりようは一体なんだ?』
……Or Game Over?
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2086/神代 誠一/男/32/疾影士(ストライダー)】
【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闘狩人(エンフォーサー)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご発注いただきありがとうございます。
……ご注文はほのぼのですが? だから膨らまし過ぎだよ! すいません。
鞍馬さんの気分転換という事で、これは私も全力で楽しめたらいいな、と。
じゃあ鞍馬さんが夢中になりそうなゲームって何だろう、と思ったら、ふとこれを思い出してしまいまして。
そうしたらあれよあれよとこんな感じでまとまってしまい。
いや大体、励まそうったってそもそも鞍馬さんを落ち込ませてるのが大体私のシナリオなんですけどね。
マッチポンプって言わないのかこれ、という疑念がわかなくもないんですが。
良かったんでしょうか当方で。不都合あったら申し訳アリマセン。
改めまして、ご発注有難うございました。