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『選挙』?『総司令官決定』までの経緯


更新情報(9月30日更新)
【蒼祭】と共に開催となる『クリムゾンウェスト連合軍』の総司令官を決める選挙。
その選挙が行われることになった経緯を振り返ってみましょう。
その選挙が行われることになった経緯を振り返ってみましょう。
【蒼祭】ストーリーノベル
●連合(9月2日公開「【東征】エピローグ」より)
「西方諸国の面々、それからハンター達には本当に世話になった。感謝するぜ」 深々と頭を下げるスメラギの前には各国首脳陣が集まっていた。 歪虚王討伐から一夜明け、それぞれが十分に休息をとった午後。各国軍は徐々に撤退を開始し、王達も東方を去る時が迫っていた。 「まだ城も壊れたままで宴の準備もできずに申し訳ねぇな。この礼は改めて国をあげてさせてもらう」 「お気になさらないでください、スメラギ様。そのお言葉だけで十分ですし、わたくし達は当然の事をしただけなのですから」 「ああ……。これでようやく、本当の意味で父祖の誓いは果たされたと言える。英霊達も溜飲を下げられるだろう……」 システィーナ・グラハム(kz0020)に続きバタルトゥ・オイマト(kz0023)も頷く。 「暫く通い詰めだったのだ。少しばかりの名残惜しさすらあるな」 「何言ってんだ。国王クラスがバンバン異国の最前線に来る奴があるかよ。とっとと帰っとけ。これからはいつでも来られるんだからよ」 ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)の言葉に苦笑を浮かべるスメラギ。それから咳払いを一つ。 「今、エトファリカはボロボロで自立する力もない。暫くはまだ西方諸国やハンターの力を借りるだろう。だが、この大恩には必ず報いる。この国の技術、力、返せるものから返していくつもりだ。そして必ず国を立て直し、お前たちと共に歪虚と戦うと誓う」 ふっと柔らかく笑うスメラギの表情は以前とは少し違うように見える。 これまで東方を雁字搦めにしていた因習、因縁から解き放たれた少年は。それに打ち勝つ為に戦った少年は。王としても大きく成長したようだ。 「エトファリカ連邦国という頼もしい友人ができた事、心から嬉しく思います!」 「辺境と、東方を結ぶ…絆は、後世にも、継がねばならない……。オイマトの族長として、これからも、良き関係を望む……」 「と、言うわけでだ。ここで一つ私から提案があります」 和やかなムードの中、無表情に挙手したヴィルヘルミナに微妙に嫌な予感が走った。 「……そんなに露骨に嫌そうな顔をするな。いくら私でも落ち込むぞ」 「いや嘘つけお前絶対落ち込まないだろ。もういいから早く要件言えって」 「うむうむ。今回の九尾を撃破した事で、我々は人類史に残る快挙を達成したと言えるだろう。始祖たる七とも呼ばれる、最強の一角を打ち破ったのだからな」 憤怒の歪虚王、九尾獄炎。その圧倒的な力は一国を滅ぼし余りある程であった。 そんな歴史上撃破例のない怪物を相手に人類は初の白星を刻んだ。これは凄まじい戦果であると言える。 「で、だ。なぜそんな奇跡が起こせたのだと思う?」 「それは……西方諸国と、ハンターの皆様と、東方とが力を合わせて立ち向かったから……ですね?」 「システィーナの言う通りだ。今回の勝利は“みんな”の力だ。だがそれが“奇跡”なのはなぜか?」 「……本来は手を取り合えないような立場の者達が……互いの利害を厭わず、協力したから……だ」 頷くヴィルヘルミナ。そう、今回の作戦では本来協力し得ない者達の力が一つに合わさった。 だからこそ起きた奇跡なのだ。 「だが、これが西方に行くとなかなか難しくなる。互いの国の利益、領土と言った問題が作戦行動に絡むからだ。また各国軍の指揮系統も問題となる。今回の東方での作戦では、立花院卿が私達に指揮権の一部をすんなりと譲渡してくれたからこそ、迅速な展開が可能だった」 「我々エトファリカには、手段や立場を気にかけている余裕はありませんでしたからね」 「まあ紫草の言う通りだが、普通に考えたら他国の人間に軍権の一部だろうが一時的だろうが預けるってのはやりすぎだな」 「我ながら英断でした」 にっこりと微笑む立花院 紫草(kz0126)に冷や汗を流すスメラギ。 「……んで、つまりアレだな。西方に帰ったらお前らはまた敵同士ってわけだな?」 「敵同士だなんて、そんな……」 「……我らは表立って争っているわけではない。 だが……それぞれの民族意識や政治的立場が付きまとう……」 |
![]() スメラギ ![]() システィーナ・グラハム ![]() バタルトゥ・オイマト ![]() ヴィルヘルミナ・ウランゲル ![]() 立花院 紫草 |
そのヴィルヘルミナの言葉には重苦しい説得力があった。
西方の総戦力は東方とは比べ物にならないほど強力なはずなのに、なぜだろうか。歪虚王に勝利できるイメージが浮かんでこないのは。
「人はきっと本当に自分の喉元に滅びを突きつけられた時になって初めて思うのだ。“ああ、自分は独りだ”……とね」
先ほどまで勝利と友情に和やかだった空気はどこへやら、悲痛な沈黙が横たわる。
「そう辛気臭い顔をするな。解決策は既にある」
「ヴィルヘルミナ様は、どうなさるおつもりなのですか……?」
「うむ。簡単な話だ。指揮系統を一本化し、なおかつ“国固有”ではない軍隊を作る方法。すなわち――“クリムゾンウェスト連合軍”を作れば良い」
「連合軍だぁ?? ん、ん?……まあ、なるほどな……」
顎に手を当てしきりに頷くスメラギ。考えれば考えるほど、連合軍という発想は合理的だ。
例えば東方がこれから西方へ援軍を送る場合。どの国家に援軍を送ったとしても、他の国家との間に軋轢は生まれる。
勿論全ての西方諸国に有事の際は援軍を送るつもりだが、そこまで東方に余力がないのは明らかであり、派兵できる戦力、付き合える国家は限定される。
それが王国でも帝国でも辺境でも同盟でも、その付き合う相手を選ぶという行為はそれ以外の国家との付き合いを選ばないという事になる。
「ん?……お前らいつもこんなめんどくせぇこと考えながら戦ってんのか……そら抜けだして最前線で剣振りたくもなるわ」
「歪虚王の襲来を始めとした有事の際には各国が兵力を集め、連合軍として戦力を運用する。これは国家権力とは独立した中立の兵力として扱えば、これまでとは比べ物にならないほどスムーズな武力行使が可能となるだろう」
「利点はそれだけではない……というお顔をしておりますが」
紫草の言葉にニヤリを笑みを作り。
「連合軍が中立の兵力であるとすれば、他にも正々堂々と兵力を無心できる場所が二つある」
「……あっ! それは、もしかして……!?」
「ハンターズ・ソサエティと……サルヴァトーレ・ロッソ……か?」
システィーナとバタルトゥの言葉にヴィルヘルミナは力強く頷く。
「この二つは元々中立の戦力だが、中立であるが故に特定国家への能動的な派兵は行えない立場にあった」
「ならば特定国家ではなく、それらの連合軍という中立兵力への支援を要請する、という事ですね?」
「その通りだ立花院卿。どうかな、諸君? この東方で人類の脅威の最前列に立った君達ならば、共感してもらえると思うが?」
「素晴らしいお考えだと思います! ヴィルヘルミナ様はやっぱり人類全体の事を案じていらっしゃったのですね!」
わっと立ち上がり、ヴィルヘルミナの手を取り上下にブンブン振り回すシスティーナ。
一方、バタルトゥや立花院は難しい表情だ。スメラギは組んだ胡座に頬杖を突き。
「……んで、その連合軍の指揮は誰が執るんだ?」
「それは勿論、この世界最強の軍事国家である帝国の皇帝、この私………………と言うともれなく反論がついて回るので」
途中で全員から一斉に非難めいた視線を向けられ、ヴィルヘルミナは咳払い。
「ま、それも任せておきたまえ。誰もが納得する、公正公平な手段を用意しておこうじゃないか」
「艦長?。艦長、入りますよ?」 サルヴァトーレ・ロッソの艦長室。自動ドアが開くと同時、ダニエル・ラーゲンベック(kz0024)が新聞から顔を上げる。 「スミス……なんでお前は返事を待つってことができねぇんだ」 呆れるように溜息を零すダニエルにジョン・スミス(kz0004)がウィンクし。 「急ぎの用件だったもので。それにちゃんと声はかけてますし、ご不在でしたらドアロックくらいされているでしょうから♪」 「お前との長話は疲れる。手短にしろ」 「では手短に。艦長あてにお手紙が届いています。保安の為に内容物の検閲は完了していますのでご心配なく」 「勝手に見るのは失礼だよジョン。ラブレターだったらどうするんだ?」 「え? その時は燃やしますけど♪」 「お前らは俺に何の恨みがあるんだ……っつーかなんでお前まで来たんだ、マーティン?」 自動ドアからひょっこり顔を覗かせたクリストファー・マーティン(kz0019)。ダニエルは視線を手紙に向けたまま低い声で問う。 「実は偶然ジョンから内容を聞いてしまいまして」 「スミスの口の軽さは諜報員失格だな」 「えぇ?……ボク、こんなに組織に貢献しているのに?♪」 二人の男の軽口を聞き流し手紙を読み込むダニエル。徐々にその表情が変わっていく。 「成る程な……何をしに来たのかと思いきや、お前ら命令待ちか」 ゆっくりと立ち上がり、クリムゾンウェストの新聞を折り畳むとダニエルはスタンドライトに引っ掛けた帽子を手に取る。 「乗組員を集めろ。久々の作戦会議と洒落込むぞ。この艦の先行きを決める重大会議だ。全員五分で出頭させろ」 同時に敬礼し駆け出す二人の若者を見送り、ダニエルは帽子を目深に被って自室を後にした。 「あ?、ちょっとちょっと! ミリアちゃん!」 ハンターズ・オフィスで書類を整理していたミリア・クロスフィールド(kz0012)に職員の一人が声をかける。 恰幅の良い中年の女は右手に持った便箋をミリアに差し出すと、額の汗を拭き。 「ごめんねミリアちゃん。悪いんだけど、この手紙を届けてもらえるかしら? 私ちょっと手が放せないのよ?……」 「いえ、全然構いませんよ。それで、誰に届ければいいんですか?」 くるりと便箋を裏返し、宛名を見て少女はきょとんと目を丸くする。 そこに書かれていたのは、ハンターズ・ソサエティ――“総長殿”という言葉。 「総長……?」 「うん、総長よ」 「えっと……総長って、誰ですか?」 「えぇ? ミリアちゃん知らないのかい? あ?……そう言われてみると、もう長い間総長の顔を見ていないような気がするねぇ……」 このおばちゃん、実はエルフである。そのおばちゃんが長らく見ていないとはどれくらいの時間を指すのだろうか? こめかみを人差し指で叩きながらミリアは記憶を掘り返す。もうこのオフィスで働き出してそれなりに経つが、総長の姿を見たことはあっただろうか? |
![]() ジョン・スミス ![]() ダニエル・ラーゲンベック ![]() クリストファー・マーティン ![]() ミリア・クロスフィールド |
「そうだねぇ。一番エラ?イ人だねぇ」
「でも、これまで一度も見たことがないような気がするんですけど……」
「私は何回か見たことあるんだけどねぇ。ん?……そういえばミリアちゃんみたいな若い子の前には姿を見せたことがないかもしれないねぇ」
「姿を見せない総長って、一体何者なんですか……」
「あっはっは! 変わり者であるのは間違いないだろうねぇ。でもこのリゼリオのオフィスの上にあるんだよ。総長室」
「そ、そうなんですか……。じゃ、じゃあとりあえず行ってみます……」
困惑したままミリアは自分の席を離れ階段を登り出した。
オフィスでの仕事はもう新人とは呼べない程度にはこなしているし、仕事柄オフィスは隅々まで歩きまわった筈だった。
「おかしいなあ……総長室なんてどこにあるんだろう……?」
暫くあちこちの部屋をうろつき、しかし見つからない目的地にがくりと肩を落とした時だ。
廊下の突き当り、ハンター達が無造作にオフィスにおいて行った忘れ物の武具が収められているロッカーの影に何か光る物が見えた。
恐る恐る近づいてみると、それは鉄製のネームプレートであり、そこには“総長室”の文字が埃に埋もれていた。
「……………………もう何十年も誰も出入りしてない雰囲気なんですけど」
ハンカチで口元を抑えながら埃を払い、ドアノブをひねる。
鍵はかかっていない。ぎしりと軋むような音と共に、ゆっくりと扉が開いていく。
「失礼……しまぁ?す。総長……いらっしゃいますか?……?」
照明のついていない室内は薄暗く、綺麗なのか汚いのかも良くわからない。
おどおどと部屋に足を踏み入れたミリア。突然、その手から手紙がするりと抜け。
「――いらっしゃいますよ」
「ひっ!?」
目の前に人影が浮かび、そして声が聞こえ――たところで、ミリアは悲鳴を上げ総長室をから飛び出すのであった。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●“中立者”と“ロッソ祭”(9月11日公開)
クリムゾンウェスト連合軍。その結成に向けた検討会の場所はリゼリオにて提供された。
ハンターズソサエティの所持するその会議室は、あの大転移の日諸王が顔を合わせたのと同じ場所だ。
ミリアが淹れた茶に息を吹きかけながら、ナディアは口火を切る。
「結論から言おう。ソサエティは連合軍への参加に同意するぞ。基本無条件でな。やることはこれまでと大して変わらぬしの」
「ほう。それは喜ばしい知らせだね。それで、地球軍は?」
「俺達も連合軍には同意する。こっちに条件はいくつかあるがな」
サルヴァトーレ・ロッソが戦闘に大々的に参加できない大きな二つの理由。そのうち一つは連合軍の存在で解決する。
だがもう一方、“非戦闘員の避難”は別途解決せねばならず、この部分こそロッソ側の大きな要求となる。
「ロッソ内の資源には限界がある。現在の生活水準を維持し続ける事は不可能だ。よって、ロッソへの支援物資を要求したい」
「今現在もロッソは異世界との物資のやり取りである程度“外貨”を獲得したり、物々交換は行っておるじゃろう?」
お茶菓子を口に放り投げながらのナディアの言葉にダニエルは目を丸くする。
「驚く程の事ではない。外の出来事も一通り承知しておる」
「……お嬢ちゃんの言うとおり、ロッソは現状でもある程度この異世界相手に輸出入は行っている。そうでなければ一年以上も生活はできんからな」
だが、それにも限度はある。
この一年以上のリゼリオへの停泊で、すっかりサルヴァトーレ・ロッソは背景として馴染んだ。
ロッソに乗っていたリアルブルー人達も多くは異世界に順応し、ハンターやそれ以外の手段で自分なりに生活を始めている。
だがそうではない者達、異世界を恐れ拒絶する者達の生活は今後もロッソで補償しなければならなかった。
「俺達は初陣でもあったLH044での戦いで、こちらでは狂気と呼ばれるVOIDとの戦闘中、異世界へ転移した。結果、まだ艦の中にはあの事件で保護した非戦闘員が大勢生活している」
「となると、支援は物資だけでは足りないな」
「ああ。サルヴァトーレ・ロッソが戦場を飛ぶ為には、この非戦闘員をどこかに降ろさねばならない。これが最大の問題だな」
「ふーむ。して、その保護すべき者達の人数は?」
「俺達は来るモノは拒んできたが、去る者は追っていない。正確な人数は把握できていないが、四桁は堅い」
「ソサエティが所持しているリゼリオ内の領地は全体のおよそ二割。そこに全員を収容する事は難しいのう。どう解決する、ヴィルヘルミナ?」
まるで話を振られるのを待っていたと言わんばかりにヴィルヘルミナはうなずき。
「これに関しては王国、帝国、同盟、辺境、東方……連合軍に参加する諸国にて負担を共有し、生活区域を提供したいと考えている」
「ありがたい提案だが、そう簡単に行くか?」
異世界人に対する偏見は何もリアルブルー人に限った事ではない。
リアルブルー人ハンターの活躍や、元々存在していた異世界からの救世主伝説のおかげでクリムゾンウェスト側の反発は少ないと言えるが、ゼロというわけではない。
『雲の上の存在』、都合よく利用される傭兵、正義の救世主だからこそ、『雲の上の存在』だから受け入れられるのであって、共に生活しろと言われては話が違う。
「それにどの国も今更難民を大量に受け入れる余力があるとは思えんがのう。特におぬしの帝国はそうじゃ」
「ああ。どの国も貧富の差は加速する一方だし、同盟や王国にもスラムはある。これはリアルブルー人の受け入れとは関係ない。長らく人類の生活圏が歪虚に奪われ続け、版図を制限されてきた以上当然の事だ」
人類種は歪虚に作られた狭い領土の中で限定された繁栄を続けてきた。
檻の中で刻まれた歴史は光と闇を産み、その結果多くのまつろわぬ民が生まれた。
「だが、これらが一挙に解決するとしたらどうだ? リアルブルー人の受け入れも、一時的なものであるとすれば?」
「……ほう? つまり?」
「北狄への侵攻。これが連合軍が成すべき至上命題であると私は考えている」
これまではそれぞれの国が独自の軍事力で自らの身を守るので精一杯だった。
しかしそれらの国々が力を合わせれば、今度はこちらから打って出る事も可能となるだろう。
「新たな土地があれば食糧問題も住居問題も解決する。開拓で経済は加速し、大量の労働力雇用が必要となるだろう。居住区と言わず、国一つ作る事すら夢ではない」
「――ははあ。まるでナイトハルトのようなことを言うのじゃな、おぬしは」
頬杖を尽きながら笑みを浮かべるナディア。その眼光は直ぐに鋭さを失い。
「まあそれはよいとして。そもそもリアルブルー人とクリムゾンウェスト人が分かり合えるかの?」
「それ以前にクリムゾンウェスト諸国が本当に一丸となる事は可能なのか? 連合軍が成立するという前提で俺達は話をしているが」
「その辺もまるっと解決しようと手は打ってある」
そう言ってヴィルヘルミナが取り出したのは一枚のチラシだ。二人は立ち上がり、覗き込むようにして確認する。
「とにもかくにもまずは連合軍制度を盤石にせねばならない。問題は誰がとりあえず連合軍を纏めるかだ」
連合軍程の巨大な軍事力であれば、当然指揮系統は必要となる。誰も管理しない武力は直ぐに腐敗し暴走するからだ。
故に形だけでも連合軍に司令官は必要とされた。だがこれをどこの国が務めるかというのは高度に政治的なやり取りを必要とする。
「まともに決めようとすれば、ヘタすると一年以上議論するかもしれんな」
「わははは! 本末転倒もいいところじゃな!」
「流石にもう一年じっとしてるのは御免こうむりたいぜ。で、その口ぶりでは秘策があると見るが?」
「お二人は好きかね? “民主主義”は」
怪訝な表情を浮かべる二人に対し、ヴィルヘルミナはとても楽しそうにチラシを指さし、説明を始めた。
●“ロッソ祭!”
リアルブルーの技術で作られた街頭モニターには、各国代表者が演説する映像がリピートで流されている。
大きな画面の中で力強く演説するヴィルヘルミナの姿を見上げながら、神薙はロッソ祭のチラシを握り締めた。
クリムゾンウェスト連合軍の結成に伴う総司令官の選出は、リゼリオの住民とサルヴァトーレ・ロッソの移民希望者、そしてハンターズソサエティに所属するハンター達の手に委ねられた。
実際にロッソの移民の受け皿として最も負担を背負うリゼリオと、そこへ移り住むロッソ民。そしてこれまでの戦いで世界を守る為戦ってきた名も無き英雄達にこそこの連合軍の司令官を選出する権利がある――。
『これまで死地に立ち、そしてこれからも立ち続けるであろう諸君にとって最も信頼できる者。総司令官としてそれを選出する権利は、諸君らハンターにこそあるべきなのだ!』
「確かに、これまでの戦いでハンター達は各国の思惑や軋轢の犠牲者として、常に最前線に立ち続けた。立ち続けなければならなかった」
歪虚王獄炎を打ち倒した東方の戦いでも、彼らの力がなければ今頃国が一つ消滅していたかもしれない。
これまでだってずっとそうだ。国同士がまとまりきれない力不足を補ってきたのは中立であるハンターだった。
だからこそ、彼らに一票ずつ投票券が配られたのは、ある意味に置いては当然の措置と言えたのかもしれない。
突如、サルヴァトーレ・ロッソから打ち上げられた無数の花火が空に広がった。
その音に驚いて振り返った少年は、ふっと笑みを浮かべる。
「俺達一人一人が決める未来、か……」
「カナギー! ロッソの中入ってみようよー! カナギも中に入ったことないんでしょー?」
「……ああ、今行くよ!」
空に上がった花火の光。それをハンターズソサエティの総長室からナディアは見上げていた。
久々に開いた窓から身を乗り出し町中の騒ぎを眺めてみる。
「時代は変わったのう」
そう、状況は変わった。
ハンターズソサエティは能動的に動く組織ではない。それは組織がはじまった時から変わらない。
元々は覚醒者の互助組織。中立を保つための器にして、人々に効率的に精霊の力を開花させるためのシステムに過ぎないのだ。
「だが……そう。世界は変わってゆく」
辺境の白竜が。そして東方の黒龍が逝ったと言う。
そして歪虚王の一体が倒れた今、“ヒト”に求められる役割も変わっていくだろう。
「見届けさせて貰うぞ。おぬし達が守護者足りえる存在なのか……舞台に上がるには、頃合いじゃろう?」
真剣な表情で風に髪をなびかせた後、ころりと表情を変え。
「……ていうかわらわもサルヴァトーレ・ロッソの中見てみたいのじゃー! そ・し・て、わらわも司令官に立候補するのでヨロシクの☆」
誰もいない空に向かってあざとくポーズを取り、ウィンクするのであった。
ハンターズソサエティの所持するその会議室は、あの大転移の日諸王が顔を合わせたのと同じ場所だ。
「フッ、懐かしいものだな……。あの頃とは随分と状況が変わったものだ」 どっかりと椅子に腰掛けたヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)が腕を組みながら笑う。 「貴殿らもそうは思わないかね? ダニエル・ラーゲンベック艦長殿」 同じく堂々と椅子に腰掛けたダニエル・ラーゲンベック(kz0024)は微動だにしない。勿論表情筋も動かずムッツリとした様子だ。 「確かに、いい加減俺達もなんらかの結論を出すべき時だが……調整役はあんたで問題ないのか?」 「他諸国は調整に色々と時間がかかるが、我が国は例外。帝国は独裁国家だ。私による意思決定が全てという意味において、他国と政治決定のスピード感は比べ物にならん」 「つまりあんたは既にやることは済んでいると?」 「そう解釈して貰って構わないよ。最も手が空いている……それ以外の理由はないと考えていただきたい」 うっすらと笑みを浮かべたヴィルヘルミナと眉を潜めたダニエルはテーブル越しに見つめ合う。 その如何ともし難い緊張感にカタカタとカップを震わせながら、ミリア・クロスフィールド(kz0012)は泣きそうな様子で二人をもてなしていた。 (うう……一刻も早く帰りたいですぅ……) お茶を注ぐ手どころか足まで震えている。容赦なく巡ってくるこういう損な役回りを断れる強い女になりたかった。 「してお茶組みのミリア君。ソサエティ総長はどちらに?」 「はひ! そ、そろそろおいでになられるかと思われますけれども!」 「……そんなに怯える事はない。別にとって食いやしないからな」 からかうように笑うヴィルヘルミナとは対照的にダニエルはバツの悪そうな様子で帽子を目深に被った。 そうして二人のカップが二回程空になり、ミリアの精神的負担が臨界点を迎えたその時、会議室の扉が開いた。 「いや??! すまんの! ほんのチョッピリだけ遅刻してしまったようじゃ!」 現れたのはゴシックロリータ風のドレスを纏った少女。明るくよく抜ける笑い声を響かせながら二人の視線の先へ立つ。 「……? なんだ? 迷子か?」 「テンプレな反応じゃのう、ひげもじゃ。この身は諸君らが待ち望んだ最後の中立者であるぞ?」 お世辞にも立派とは言えない胸に片手を当て、少女はウィンクする。 「ハンターズソサエティの最高権力者たる“総長”。成る程、お目にかかるのは初めてだ」 「あのちんちくりんがそうだってのか? アレか……エルフだかドワーフってやつか……?」 苦い表情を隠そうともせずダニエルは帽子を脱ぎながら溜息を零す。 それも無理のない事だ。少女は明らかに少女であり、とてもソサエティという組織の責任者には見えなかった。 「乙女の種族や年齢にしょっぱら首を突っ込むのは紳士的とは言えんのう、ひげもじゃよ。まあよい。ミリア、わらわにも茶を寄越せ! ぬるめで甘いやつだ!」 机の上に両足を投げ出し、ふんぞり返るように着席する少女。二人の“大人”は顔を見合わせる。 「お初お目にかかる、総長殿。ゾンネンシュトラール帝国皇帝、ヴィルヘルミナ・ウランゲルと申す」 「……地球統一連合宙軍大佐、ダニエル・ラーゲンベックだ」 「ハンターズソサエティ総長、ナディア・ドラゴネッティじゃ。よろしくのう、人間諸君」 |
![]() ヴィルヘルミナ・ウランゲル ![]() ダニエル・ラーゲンベック ![]() ミリア・クロスフィールド ![]() ナディア・ドラゴネッティ |
ミリアが淹れた茶に息を吹きかけながら、ナディアは口火を切る。
「結論から言おう。ソサエティは連合軍への参加に同意するぞ。基本無条件でな。やることはこれまでと大して変わらぬしの」
「ほう。それは喜ばしい知らせだね。それで、地球軍は?」
「俺達も連合軍には同意する。こっちに条件はいくつかあるがな」
サルヴァトーレ・ロッソが戦闘に大々的に参加できない大きな二つの理由。そのうち一つは連合軍の存在で解決する。
だがもう一方、“非戦闘員の避難”は別途解決せねばならず、この部分こそロッソ側の大きな要求となる。
「ロッソ内の資源には限界がある。現在の生活水準を維持し続ける事は不可能だ。よって、ロッソへの支援物資を要求したい」
「今現在もロッソは異世界との物資のやり取りである程度“外貨”を獲得したり、物々交換は行っておるじゃろう?」
お茶菓子を口に放り投げながらのナディアの言葉にダニエルは目を丸くする。
「驚く程の事ではない。外の出来事も一通り承知しておる」
「……お嬢ちゃんの言うとおり、ロッソは現状でもある程度この異世界相手に輸出入は行っている。そうでなければ一年以上も生活はできんからな」
だが、それにも限度はある。
この一年以上のリゼリオへの停泊で、すっかりサルヴァトーレ・ロッソは背景として馴染んだ。
ロッソに乗っていたリアルブルー人達も多くは異世界に順応し、ハンターやそれ以外の手段で自分なりに生活を始めている。
だがそうではない者達、異世界を恐れ拒絶する者達の生活は今後もロッソで補償しなければならなかった。
「俺達は初陣でもあったLH044での戦いで、こちらでは狂気と呼ばれるVOIDとの戦闘中、異世界へ転移した。結果、まだ艦の中にはあの事件で保護した非戦闘員が大勢生活している」
「となると、支援は物資だけでは足りないな」
「ああ。サルヴァトーレ・ロッソが戦場を飛ぶ為には、この非戦闘員をどこかに降ろさねばならない。これが最大の問題だな」
「ふーむ。して、その保護すべき者達の人数は?」
「俺達は来るモノは拒んできたが、去る者は追っていない。正確な人数は把握できていないが、四桁は堅い」
「ソサエティが所持しているリゼリオ内の領地は全体のおよそ二割。そこに全員を収容する事は難しいのう。どう解決する、ヴィルヘルミナ?」
まるで話を振られるのを待っていたと言わんばかりにヴィルヘルミナはうなずき。
「これに関しては王国、帝国、同盟、辺境、東方……連合軍に参加する諸国にて負担を共有し、生活区域を提供したいと考えている」
「ありがたい提案だが、そう簡単に行くか?」
異世界人に対する偏見は何もリアルブルー人に限った事ではない。
リアルブルー人ハンターの活躍や、元々存在していた異世界からの救世主伝説のおかげでクリムゾンウェスト側の反発は少ないと言えるが、ゼロというわけではない。
『雲の上の存在』、都合よく利用される傭兵、正義の救世主だからこそ、『雲の上の存在』だから受け入れられるのであって、共に生活しろと言われては話が違う。
「それにどの国も今更難民を大量に受け入れる余力があるとは思えんがのう。特におぬしの帝国はそうじゃ」
「ああ。どの国も貧富の差は加速する一方だし、同盟や王国にもスラムはある。これはリアルブルー人の受け入れとは関係ない。長らく人類の生活圏が歪虚に奪われ続け、版図を制限されてきた以上当然の事だ」
人類種は歪虚に作られた狭い領土の中で限定された繁栄を続けてきた。
檻の中で刻まれた歴史は光と闇を産み、その結果多くのまつろわぬ民が生まれた。
「だが、これらが一挙に解決するとしたらどうだ? リアルブルー人の受け入れも、一時的なものであるとすれば?」
「……ほう? つまり?」
「北狄への侵攻。これが連合軍が成すべき至上命題であると私は考えている」
これまではそれぞれの国が独自の軍事力で自らの身を守るので精一杯だった。
しかしそれらの国々が力を合わせれば、今度はこちらから打って出る事も可能となるだろう。
「新たな土地があれば食糧問題も住居問題も解決する。開拓で経済は加速し、大量の労働力雇用が必要となるだろう。居住区と言わず、国一つ作る事すら夢ではない」
「――ははあ。まるでナイトハルトのようなことを言うのじゃな、おぬしは」
頬杖を尽きながら笑みを浮かべるナディア。その眼光は直ぐに鋭さを失い。
「まあそれはよいとして。そもそもリアルブルー人とクリムゾンウェスト人が分かり合えるかの?」
「それ以前にクリムゾンウェスト諸国が本当に一丸となる事は可能なのか? 連合軍が成立するという前提で俺達は話をしているが」
「その辺もまるっと解決しようと手は打ってある」
そう言ってヴィルヘルミナが取り出したのは一枚のチラシだ。二人は立ち上がり、覗き込むようにして確認する。
「とにもかくにもまずは連合軍制度を盤石にせねばならない。問題は誰がとりあえず連合軍を纏めるかだ」
連合軍程の巨大な軍事力であれば、当然指揮系統は必要となる。誰も管理しない武力は直ぐに腐敗し暴走するからだ。
故に形だけでも連合軍に司令官は必要とされた。だがこれをどこの国が務めるかというのは高度に政治的なやり取りを必要とする。
「まともに決めようとすれば、ヘタすると一年以上議論するかもしれんな」
「わははは! 本末転倒もいいところじゃな!」
「流石にもう一年じっとしてるのは御免こうむりたいぜ。で、その口ぶりでは秘策があると見るが?」
「お二人は好きかね? “民主主義”は」
怪訝な表情を浮かべる二人に対し、ヴィルヘルミナはとても楽しそうにチラシを指さし、説明を始めた。
●“ロッソ祭!”
――サルヴァトーレ・ロッソ祭。そんな旗を片手にジョン・スミス(kz0004)とはリゼリオの街角に立っていた。 「いや?、艦長も人使い荒いですよねぇ。ボク、広報員じゃなくて諜報員なんですけど♪」 『多分自覚していると思うけど、結構似合っているよ、ジョン』 背後から拡声器越しの声が響く。クリストファー・マーティン(kz0019)が乗り込んだ魔導型CAMが通行人を蹴飛ばさないように慎重に前進していた。 CAMは両手にドでかい旗を掲げ、やはりそこにもロッソ祭なる謎のイベントの広告が派手にペイントされている。 コックピットを開いて身を乗り出したクリストファーが手を振るのにジョンはまんざらでもない様子で手を振り返した。 サルヴァトーレ・ロッソ祭。それはリアルブルー人とクリムゾンウェスト人の相互理解を目的として開催される交流イベントだという。 これまで部外者には閉ざされていたサルヴァトーレ・ロッソの一部区画を開放し、クリムゾンウェストの人々に艦内を案内し、リアルブルーの文化を理解してもらう事。 そして、これまでサルヴァトーレ・ロッソの外に出たがらなかったリアルブルー人に、クリムゾンウェストの文化に興味を持ってもらう事。 この二つの為に、リゼリオとロッソ内の一部を舞台に、ロッソ祭は催される。 「サルヴァトーレ・ロッソ市街地が開放中で?す♪ リアルブルーの素敵な文化を堪能したい方はこちらへどうぞ?♪」 『アニメ、マンガ、ゲーム、なんでもありま?す。CAM等の近代兵器の展示も行ってますよ?』 二人は待ちゆく人々へ声を張り上げながらチラシをくばる。なんだかんだで結構楽しそうである。 「アニタも来ればよかったのに♪」 『彼女はほら、リアルブルーの本を広める移動図書館の準備をしてるから』 「うわ?っ、あのCAM踊ってるよ!? 見て見てカナギ、すごくない!?」 両手を上下に振りながら瞳を輝かせるラキ(kz0002)の隣、篠原神薙(kz0001)は遠い目で同じものを見つめていた。 あんな動きができるのだから、間違いなくエース級のパイロットが動かしているのだろう。技術力の無駄遣いに思える。 「なんかリアルブルーの人達って冷たい印象だったけど、こうしてみるとなんか普通の人達だね?」 「あ、ああ……うん。まあ、彼は漂流者だったからね……普通に考えて冷たいっていうか、冷静ではあったと思うけど……」 だが、結局これまでの戦いでも殆ど地球軍が救援に来たことはなかった。 彼らは強大な力を持ちながら、これまでクリムゾンウェスト人を見殺しにし続けた。そう思っている者も少なくはないだろう。 「うわっ! カナギ見てアレ! リアルブルーの伝説のドージンシだよ! 男の人しか表紙に描いてないんでしょ!?」 「極端な先入観だなあ……まあ、リアルブルーに興味を持ってもらえさえすれば手段はどうでもいいのかな……」 頬を赤らめながら見本紙を開くラキを他所に神薙は町中に設置された掲示板を眺めていた。 そこには各国からの代表者の顔写真が張られており、上には“クリムゾンウェスト連合軍初総代司令官選挙実施!”と見出しがある。 「連合軍か……」 |
![]() ジョン・スミス ![]() クリストファー・マーティン ![]() ラキ ![]() 篠原 神薙 |
大きな画面の中で力強く演説するヴィルヘルミナの姿を見上げながら、神薙はロッソ祭のチラシを握り締めた。
クリムゾンウェスト連合軍の結成に伴う総司令官の選出は、リゼリオの住民とサルヴァトーレ・ロッソの移民希望者、そしてハンターズソサエティに所属するハンター達の手に委ねられた。
実際にロッソの移民の受け皿として最も負担を背負うリゼリオと、そこへ移り住むロッソ民。そしてこれまでの戦いで世界を守る為戦ってきた名も無き英雄達にこそこの連合軍の司令官を選出する権利がある――。
『これまで死地に立ち、そしてこれからも立ち続けるであろう諸君にとって最も信頼できる者。総司令官としてそれを選出する権利は、諸君らハンターにこそあるべきなのだ!』
「確かに、これまでの戦いでハンター達は各国の思惑や軋轢の犠牲者として、常に最前線に立ち続けた。立ち続けなければならなかった」
歪虚王獄炎を打ち倒した東方の戦いでも、彼らの力がなければ今頃国が一つ消滅していたかもしれない。
これまでだってずっとそうだ。国同士がまとまりきれない力不足を補ってきたのは中立であるハンターだった。
だからこそ、彼らに一票ずつ投票券が配られたのは、ある意味に置いては当然の措置と言えたのかもしれない。
突如、サルヴァトーレ・ロッソから打ち上げられた無数の花火が空に広がった。
その音に驚いて振り返った少年は、ふっと笑みを浮かべる。
「俺達一人一人が決める未来、か……」
「カナギー! ロッソの中入ってみようよー! カナギも中に入ったことないんでしょー?」
「……ああ、今行くよ!」
空に上がった花火の光。それをハンターズソサエティの総長室からナディアは見上げていた。
久々に開いた窓から身を乗り出し町中の騒ぎを眺めてみる。
「時代は変わったのう」
そう、状況は変わった。
ハンターズソサエティは能動的に動く組織ではない。それは組織がはじまった時から変わらない。
元々は覚醒者の互助組織。中立を保つための器にして、人々に効率的に精霊の力を開花させるためのシステムに過ぎないのだ。
「だが……そう。世界は変わってゆく」
辺境の白竜が。そして東方の黒龍が逝ったと言う。
そして歪虚王の一体が倒れた今、“ヒト”に求められる役割も変わっていくだろう。
「見届けさせて貰うぞ。おぬし達が守護者足りえる存在なのか……舞台に上がるには、頃合いじゃろう?」
真剣な表情で風に髪をなびかせた後、ころりと表情を変え。
「……ていうかわらわもサルヴァトーレ・ロッソの中見てみたいのじゃー! そ・し・て、わらわも司令官に立候補するのでヨロシクの☆」
誰もいない空に向かってあざとくポーズを取り、ウィンクするのであった。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●やさしい王様(9月18日公開)
「お疲れ様でした、スメラギ様」 演説台の裏側は厳重な警備体制で守られた立候補者達の控え席が用意されていた。 システィーナ・グラハム(kz0020)が差し出したグラスを受け取りスメラギはウィンクする。 「いや、すげえなこの町は。天ノ都しか知らない俺様にはちと刺激的過ぎるぜ」 「そんな事はありませんよ。スメラギ様は不慣れな西方で立派に務めを果たしておられます。それに比べてわたくしときたら……」 がっくりと肩を落とすシスティーナ。その背後からひょっこり姿を見せたのはダンテ・バルカザールである。 「あんなに一生懸命原稿を考えた割にゃあ、カミにカミまくってましたからねェ」 王国副騎士団長である彼は、先の演説でシスティーナをヴィオラ・フルブライト(kz0007)と共に支援した。 それを必要としてしまった事を恥じてか、或いはダンテのからかうような笑顔のせいか、王女は縮こまって顔を赤らめる。 「うぅ……もっとしっかりしなくては……」 「気負いすぎなんじゃねぇか? 聞いたか、あのソサエティ総長の演説。あそこまでやれとは言わねぇが、肩の力を抜けば大丈夫だ」 苦笑を浮かべつつ励ますスメラギだが、お付きの東方兵からの言葉に耳を傾け。 「……そろそろ時間だな。まだ投票期間中だが、俺達はそろそろリゼリオを発つぜ」 「え? スメラギ様もお忙しい身だとは思いますが、急にどちらへ……?」 「ん? もしかして……あんた聞いてないのか?」 きょとんと首を傾げるシスティーナ。スメラギは頬を掻き、視線を逸らしながら語り始めた。 「ヴィルヘルミナ様! これから北伐へ向かうというのは本当ですか!?」 その姿を探すのはそう難しくなかった。演説台から聞こえる声を背景に、王女は皇帝の背に問いかける。 「申し訳ございません、システィーナ様。陛下は今ご出立の準備の最中で、時を惜しんでおられます」 その背を遮るようにカッテ・ウランゲル(kz0033)が割り込む。 少年は少女より年下ではある。だが、落ち着き払った振る舞いからは確かな威圧と拒絶が感じられた。 「……無礼をお許し下さい。しかしどうしてもあなた様の口から直接お聞きしたいのです」 少女の視線は少年を飛び越えている。僅かに目を細めたカッテが口を開く前に、ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は踵を返す。 「カッテ、構わないよ。準備を進めてくれ」 「しかし……」 「良い。私の個人的な問題だ」 納得が行かない……そんな気配を隠し、少年は一礼する。 二人きりで対面すると、ヴィルヘルミナは腕を組み。 「まず質問に答えよう。北伐……つまり、歪虚の領域である北狄へ進軍するというのは事実だ」 「どうして今……なのですか? まだ連合軍の総司令官も決まっていないというのに……」 「連合軍としてではなく、帝国が進める計画だからだ。尤も、オイマトのやスメラギのには協力を取り付けてあるが」 「東方での戦いで負った人々の傷はまだ癒えていません。それに……」 それに……何だ? 胸に手を当てたまま少女は感情の機微に惑う。 スメラギもバタルトゥ・オイマト(kz0023)も話は聞いてたのに。自分の知らない所でそんな計画が進んでいたなんて……。 「北伐は政治活動でもある。私は自分の生き方を行動でしか示せない女だ」 「それは……それは、違います。だってヴィルヘルミナ様は……」 ここには二人だけ。喧騒が遠ざかり、静寂に包まれていくのを感じる。 深呼吸を一つ。少女は皇帝の瞳を見つめ、口を開いた。 「覚えていらっしゃいますか? まだわたくしが物心ついたばかりだった頃、王国と帝国との交流会で、宴に馴染めないわたくしに声をかけてくださった事……」 ヴィルヘルミナの表情が変わるのがわかった。だからもう一歩近づいてみる。 「良く、お父様達の目を盗んでお話ししましたよね? 大きくなって、世界を旅するあなたが王国を訪ねてくれた時の事は……?」 「勿論、覚えているよ」 「沢山の冒険譚を語ってくれたあなたは、いつだって優しかった。わたくしにとっての憧れで、かけがえのない……友人で……」 そんな関係は、彼女が皇帝になった時から変わってしまった。 いつも優しく笑っていたあの人は、公の場で冷たく人に死を強いるようになってしまった。 「本当は……本当のあなたは……戦いなんて望んでいないのではありませんか? 傷つける事を、誰よりも憎んだあなたは……!」 「君は優しいね、システィーナ。私はそんな君の優しさが大好きだよ」 そっとシスティーナの頭を撫で、ヴィルヘルミナは目を瞑る。 |
![]() スメラギ ![]() システィーナ・グラハム ![]() ダンテ・バルカザール ![]() ヴィオラ・フルブライト ![]() ヴィルヘルミナ・ウランゲル ![]() カッテ・ウランゲル |
「では……なぜ……」
「それを君が知る必要はない」
離れていく身体はそのまま心の距離のように思えた。
しかしシスティーナにそれを繋ぎ止める事はできない。
「私はね。正義の味方になりたかったんだ。お伽噺の英雄のように、世界を救う勇者のようにね。でもだめだった。一人の人間には限界があった」
少しずつ遠ざかっていく背中。女は足を止め、暗幕の向こうの喧騒に目を細める。
「誰かが変えなければならないんだ。そしてその為には暴力が必要になる。例え闇に堕ちる事になったとしてもね」
「わたくしには……ヴィルヘルミナ様のお考えが良くわかりません。その痛みは本当に必要なのですか?」
「必要だ」
「自分を……傷つけるとしても?」
「――痛みと嘆きを知らない王様に、誰が付き従うんだい?」
その言葉は少女の胸に深く突き刺さった。
そうだ。いつも向き合うと気圧されてしまうのは、彼女の言葉には強い実感が篭っているからだ。
本気の憎悪と本気の悲嘆。そしてきっと本物の愛情と、本物の優しさ。
“気持ち”では負けないつもりだった。けれど、その“気持ち”だって本当はまるで追いついてはいないのだ。
背負っているモノの重さが見えないから、その本音が見えないから、時折その笑顔は恐ろしく映る。
「……ダンテ・バルカザール副師団長。そこにいますね?」
振り返らずに投げかけるシスティーナの言葉に男は暗幕の向こうで頬を掻く。
「あらら。ばれてーら」
「わたくしの護衛が任務である以上、当然ですから」
姿を見せたダンテは腕を組み、二人を交互に見やる。
「して、どのようなご用件で?」
「帝国の提案する北伐作戦……王国も何らかの形で支援をしようと考えています」
「なるほどなるほど。俺をお目付け役にってワケで?」
「お願い……できますか?」
顎に手をやり、男はふっと笑みを浮かべる。
「まァ、こっちもこっちでやる事は山積み。ゴブリン共の騒ぎも終わったわけじゃねぇが……王女サマ直々のご依頼とあらば」
仰々しく一礼し、皇帝の背中に歩み寄る。
「実際問題、これァ俺が適任ですわ。北伐だなんて愉快な仕事、他の奴には譲れねぇな。そんなわけで宜しくお願いしますよ、皇帝陛下殿?」
「歓迎しよう、ダンテ副師団長。貴様とは気も合いそうだ」
ひらひらと手を振り去っていくヴィルヘルミナ。見送るシスティーナの表情と見比べ、ダンテは溜息を零した。
「王女サマの想い人、ねぇ……」
●再動
リゼリオに停泊したサルヴァトーレ・ロッソ。そこへワルプルギス錬魔院の魔導トラックが次々に飲み込まれていく。 「お久しぶりですね、院長。長旅ご苦労様でした」 クリストファー・マーティン(kz0019)の求める握手に笑顔で応じるナサニエル・カロッサ(kz0028)。 「いえいえ。こちらとしても今回の仕事は非常に興味深いものですからねぇ。陸路でお尻を痛める価値はありますよ♪」 二人が顔を合わせるのはCAMの魔導型への改修作業時以来だが、どこか性格的に通じ合うのか、見た目以上に仲は良さそうだ。 「ワカメー! ワカメー! もう待ちきれないのよさー! 早く中に入りたいのよー!」 笑顔で握手をする二人の足元を猛然と転がり回るブリジッタ・ビットマン(kz0119)。白衣は現在進行形で汚れている。 「そうですねぇ。あまり時間もなさそうですし、早速ですがご案内していただけますか?」 「ええ。では、皆さんこちらへ」 クリストファーの案内に従い歩き出すナサニエル。転がっていたブリジッタを抱え、クリケット(kz0093)は救世艦を見上げる。 「まさか、こんな形で戻ってくる事になろうとはな」 LH044事件、そして大転移とその後の狂気の歪虚との戦い。 その中で多くの乗組員や避難民がクリムゾンウェストに降り立ち、新しい生活を始めている。 クリケットもその中の一人であり、大転移以来遠ざけてきたこの艦を見るのは感慨深い物があった。 「こらデカブツ! 乙女を片手で抱えるんじゃないのよさ!」 「……お嬢ちゃんは気楽でいいな」 「サルヴァトーレ・ロッソの再起動に立ち会えるのに、何が不満なのか理解できないのよさ」 「俺はラズビルナムの調査中に何も知らされないままぶっこ抜かれていきなりここだぞ。不満の一つや二つは言わせてくれ」 「デカヒゲってこういう時の為に雇われてたんじゃないの?」 「……いや、それはそうなんだが……」 そう。これからこの艦では、祭の喧騒を隠れ蓑にある試みがが行われる。 それは長らく封印されてきたメインエンジンの調整と再起動である。 CAMがこちらの世界では自由に動けなかったように、同じくリアルブルーの製造物であるこの艦には問題が残されている。 しかしそれらの多くは、恐らくは魔導型CAMから得られた技術フィードバックの適用により、状況改善の見込みがあった。 その為に魔導型CAMの関係者が呼びだされたのは当然の事であり、その殆どが錬魔院のスタッフであることも必然だと言えた。 「それにしても、なんで魔導アーマーまでいっぱい運び込んだのよさ?」 「それに関しちゃ俺にもさっぱり。ナサニエルに訊いてくれ」 「なんでやねんって訊いてフツーに教えてくれるようなワカメに見えんのか?」 「そんな親切なワカメなら誰も苦労してないな」 二人同時に溜息を零す。クリケットはそうしてブリジッタを抱えたまま、のしのしとタラップを歩き出した。 |
![]() クリストファー・マーティン ![]() ナサニエル・カロッサ ![]() ブリジッタ・ビットマン ![]() クリケット |
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)