ゲスト
(ka0000)
【幻兆】これまでの経緯




ドウか、ヘレを一緒に助けてくれマセンカ?
このママでは聖地の白龍が絶えてしまいマス……。
デモそれよりも、ワタシの大切な友人であるヘレをこのママにしておきたくないのデス。
どうか助けるタメの方法を、一緒に探しテくれませんカ……?
辺境ユニオンリーダー:リムネラ(kz0018)
更新情報(5月14日更新)
過去の【幻兆】ストーリーノベルを掲載しました。
【幻兆】ストーリーノベル
各タイトルをクリックすると、下にノベルが展開されます。
――とうとうここまで来た。
リムネラは感慨深げに目の前に広がる世界を見やる。
龍園――青龍の加護篤き北の土地。いままで報告書やハンターの言葉でしか知り得なかった世界が、彼女の目の前に、いま、確かに広がっていた。
背負い籠の中にいる彼女の相棒・白龍のヘレはいまだに目を覚ますことはない。静かに眠り続けている。
「……ヘレ、もう少しデスから」
ヘレの変調の原因が成長のためのものだと知ってはいても、もしこのまま目を覚まさずにいたらと不安になってしまうことはしょっちゅうだった。
いつもリムネラ(kz0018)の傍らにいて、それが当たり前と感じていた。
言い方を変えてみれば、ヘレはリムネラの相棒とも言える存在なのだ。あるいは幼い頃から傍にいてくれた、かけがえ無い友人とも言える。
そんなヘレという存在を、失うわけにはいかない。ハンターたちも、傍にいて助けてくれる。
「ようこそ参られた、白龍の巫女殿。改めてお名前と、ご用件をうかがえますか?」
神官の一人らしき人物が、丁寧に問いかけてくる。その神官の首もとにちらりと見えるのは、紛れもなく鱗。……青龍の加護を受けたドラグーンであるのは間違いなかった。
「ワタ……わたしは、白龍の棲まう聖地リタ・ティトの巫女、そして辺境のユニオン『ガーディナ』のリーダー、リムネラと言います。今回は、……青龍様に、ご助力賜りたく」
そう挨拶をする声は、いつもよりもゆっくりと、そして微かに震えていた。
●
クリムゾンウェストの北方、リグ・サンガマと呼ばれた地域。
視界には降り積もる雪。
世界は、純白へ染め上げられていく。
すべてが白になっていく錯覚を覚えるが、この地域には白に染まらないモノもある。
龍園の主、青龍。
そして、青龍に仕える神官や龍騎士。
青に彩られた者は、純白の平原でも堂々と突き進む。
彼らは世界の守護者の剣。
仇成す者は、容赦なく斬る。
龍騎士には、誇りと矜持を胸に――。
だが、そんな龍騎士の中には、様々の事情から龍園を追われた者もいる。
「奴ら、青龍様と謁見しているのか」
「青龍様に何用だ? 害を及ぼすなら、今からでも龍園へ行くべきだ!」
リグ・サンガマに点在する遺跡に集まった数人の龍騎士。
龍園を守護する者にしては、刺々しい雰囲気を醸し出している。
実は彼らは龍園から追い出された者達だ。
青龍を強く信奉する余り、龍園以外の国も武力制圧を主張。結果、この過激な意見はドラグーン同士の対立に発展、龍騎士同士の武力衝突へ至る事態となった。
多数の死傷者が発生した事を重く見た先代龍騎士隊隊長は、事件の中心となった過激思想の龍騎士達を龍園から永久追放の処分としたのだ。
追い出され、龍騎士隊隊長がシャンカラ(kz0226)に代わった今でも、彼らの青龍に対する想いは変わらない。
「危険分子は排除すべきだ!」
一人の龍騎士が高らかに主張する。
「待て」
制止したのは中央に立つこの集団のまとめ役――その名をアルフォンソという男だ。
「何故、止める? こうしている間にも青龍様に危機が及んでいるんだ。早く追い出すべきだ。それとも、アルフォンソは龍園を守る不心得者の龍騎士に臆したか?」
「そんな訳あるか。連中が何人来ようと負ける気はせん。だが、龍園へ赴いた者の中に腕の立つ者が混じっている。奴らの正体を掴まなければ、返り討ちに合うぞ」
腕を組みながら、アルフォンソは思い返した。
先日、遭遇したと南からの来訪者。
龍園の龍騎士とは一線を画す強さを持った者達。油断して良い相手ではない。
一体、彼らは何者なのか。
「彼らはハンター。精霊と契約した傭兵ですよ」
集団に近付く一人の男。
リアルブルーで言えば神父のような出で立ち。手には聖書らしき本、首からは十字架を模した首飾りを下げている。
奇妙なのは、神父の周りに輝く光球が漂っている事だ。
「ブラッドリー、何処へ行っていた?」
「小旅行ですよ。それより、あなた達もハンターと遭遇しましたか。私も東方の片田舎で遭遇しましてね。
ハンターの中には恐ろしい力を持つ者もいます。下手をすれば青龍を脅かすような……」
ブラッドリー(kz0252)がそう言い掛けた瞬間、アルフォンソの槍がブラッドリーに向けられる。
「それ以上、貴様が青龍様の事を口にするな」
だが、刃は光球が生み出した盾により阻まれてしまう。
「おや、気分を害しましたか」
アルフォンソは槍に力を込めながら、ブラッドリーを睨み向けた。
怒気を孕んだ視線を向けられているが、当のブラッドリーは涼しい顔をしている。
「ですが、青龍を守りたければハンターから目を離さない方がいいでしょう。何をするかは分かりません」
「今は奴らの動向を調べるのが先だ。斥候へ行った奴らに伝えろ。目を離すな、とな」
アルフォンソの命を受けた龍騎士達は、早々に遺跡を立ち去っていく。龍園周辺のハンターを追跡するつもりなのだろう。
「ブラッドリー、お前にも働いてもらうぞ」
「分かりました。あなた達は青龍の為に、力を追い求めて神の信徒となりました。ならば、私も力を貸すのが導き手としてのあるべき姿でしょう」
アルフォンソとブラッドリー。
二つの黒い影が、北方の雪原で動き出した。
●
「オイオイ。こいつはどういうこった!? こんな風になるなんざ聞いてねえぞ!」
「……その言葉そっくり返させて貰おうか。あそこにニュークロウス以外の物があるとは聞き及んでいない」
遥か頭上から聞こえる太い声。声の主である怠惰の王を青木 燕太郎(kz0166)が睨みつける。
ビックマー・ザ・ヘカトンケイルはもふもふの茶色の毛並みを乱暴に掻き毟った。
「あそこの調査はコーリアスに任せてたからな……。オレともあろうものが失敗したぜェ……」
この山のように大きなぬいぐるみが言う『あそこ』とは辺境の地下に眠っていたチュプ大神殿のことだ。
アルナス湖畔で見つかった入口。
ハンター達がそれの開錠に成功すると、大きな石が積み上げられただけの遺跡と思われていた場所は、石に刻まれた独特の文様が青白く光る不思議な空間へと様変わりした。
――そう。正しい機能を取り戻し、まさに目覚めたという訳だ。
そしてハンター達は更に神殿の調査を進め、先日新たな力を手にしている。
……それはまさに、ビックマーの喉元に刀を突きつけるような発見だった。
「……お前が言っていた『厄介な匂い』というのがその『ラメトク』だったんじゃないのか? 鼻はきちんと利いていたじゃないか」
「ヒュー! オレの勘も捨てたもんじゃねぇな! お前がもっとしっかり破壊してきてくれりゃあ何てこたぁなかったんだがな」
「言われただけの仕事はした。文句を言われる筋合いはない」
「どーだかな。災厄の十三魔の力を手にしたお前にしちゃあ随分ヌルかったんじゃねえのか」
鋭い目線をぶつけ合う青木とビックマー。
そこに聞こえた衣擦れの音。ビックマーの膝の上で丸くなって眠っていた少女が、ふわあ……と小さな欠伸をした。
「……ビックマー、ケンカしてるの……?」
「おお、オーロラ。煩かったか。すまん」
「ううん……。いいよ。でも、青木とケンカはダメ……」
「オイオイ。随分こいつの肩を持つんだな」
「……前にね、ビックマーがいない時におんぶしてくれたの。……いい子なのよ」
「ん? ……ああ、青木はお前の……そういやぁそうだったなぁ。分かった分かった。オーロラの言う通りにしよう」
「……ありがと、ビックマー。だいすきよ」
蕩けた笑みを浮かべて、再び夢の世界に落ちていくオーロラ。ビックマーは彼女を抱え直すとじろりと青木を見る。
「我らが姫君がこう言ってんだ、仲良くやろうや。なぁ、青木?」
「断る権利はないのだろう?」
「ヒュー! よく分かってるじゃねえか。もののついでだ、お前もう1回行って遺跡壊して来てくれ。……あれは、危険なものだ」
怠惰の王の目線を受け止める青木。
微かに頭痛を覚えて顔を顰める。
――理由は思い出せないけれど。
青木自身が気が付いた時には既に、『ビックマーとオーロラ』という存在を憎んでいた。
別に王位とか立場が欲しい訳ではない。
ただただ、排除することを渇望する。
でも。あの娘は、何故か憎みきれない。
排除すべきという声と。
思い出せという声が――。
……頭が痛い。
あの――を。どこかで。
そんなはずはない。
――ウ。
――エ…………ロウ。
……やめろ。俺を呼ぶな。
ヒトとしての記憶は捨てた。
それは不要なものだ。
思い出したくない。
俺は遍く全てを破壊する。
――頭が、痛い。
「青木よ。……どうした?」
「……いや、何でもない。その仕事引き受けよう。ああ、ビックマー」
「何だ?」
「この仕事が終わったら暫く留守にする。そのつもりでいてくれ」
「あぁ? しょーがねぇなあ……。今は人手不足だ。どうせ行くなら契約者の一人でも連れて来てくれ」
「考えておこう」
踵を返す青木。振り返ることもなく、闇に溶けるようにその場を去った。
――龍園にある聖地の一つ、『龍のへそ』。
主に龍種が傷ついた身体を癒したり、或いは成長を促進する為に用いる場所、なのだという。
リムネラ(kz0018)は一人、その中心にヘレを横たえてからそっと手を組み、祈りを捧げる。
――どうか、ヘレが無事に起きることが出来ますようにと。
幼い頃からともに居た存在。
種族などは違っても、心の結びつきはなによりも強い。
しかし――青龍の言葉を思い出す。
『ヘレを迎え入れ、預かるわけには行かないだろうか』
それはヘレにとって、悪い提案では無かった。むしろ、ヘレの成長を願えば、とてもありがたい申し出だ。
それでも実のところ、リムネラはまだ少し悩んでいる。
ヘレを最優先に思うというのは、裏を返せば自分を殺すことに他ならない。それでもヘレの健やかな成長を願えば、自分よりもヘレを優先したくなる。
ヘレは大切な友達だ。
けれど同時に、ヘレはこのクリムゾンウェストにとっての大切な存在になろうとしている。青龍の言うことも、理解できる。
今までずっとヘレを護ってきていたと思っていた。
でももしかしたら、護られていたのは、リムネラのほうだったのだろうか?
いや、今は深く考えるのはやめよう。
リムネラは深く息を吸い込んだ。
白い巫女装束が、ふわりと風になびく。
マテリアルの活性化を助けるため、リムネラもここで舞うつもりだ。
万が一の襲撃がないよう、祈りながら。
「嗚呼――」
祈りの舞の曲を、そっと口ずさみはじめた。
●
「アルフォンソさん、聞いていますね?」
ブラッドリー(kz0252)が掛けた言葉。
それは、事実確認ではない。
次に取るべき行動が何か。それを自身で理解しているのか。
それをブラッドリーは、アルフォンソへ確認したのだ。
「斥候からな。青龍様と白龍の眷属が謁見したのだろう。青龍様は、何故龍のへそを紹介されるのか……。あそこは聖地のはずだ。白龍に使わせる必要はない」
「お怒りのようですね。ですが、これはチャンスではありませんか?」
ブラッドリーに突然もたらされたチャンスという言葉。
それに対してアルフォンソは怪訝そうな顔を浮かべる。
「チャンス?」
「聞けば、白龍は龍のへそにある石の舞台で眠っている訳です。これは白龍を消すチャンスです。敵も相応の防御を固めるでしょうが、白龍自体は無力です。神は我らに『機会』を与えて下さいました」
ブラッドリーの指摘にアルフォンソは気付く。
龍のへそは高濃度のマテリアルが噴き出す場所である。眠り続けるヘレが成長を促進するには最適の場所だが、成長するまでの間は完全に無防備である。
ハンターが守りを固めている事は予想できるが、もしこの防衛網を突破できれば白龍という『可能性の芽』を摘む事ができる。
「確かにそうだ。これは白龍を亡き者にするチャンスだ。狙わない手はないな」
「はい。アルフォンソさんなら、必ず成し遂げる事ができるでしょう」
「ブラッドリー、お前の手も借りるぞ。龍のへそに向けて総攻撃を仕掛ける」
アルフォンソは槍を手に取った。
六大龍は不要。青龍だけがいれば世界の均衡は保たれる。
そう信じて戦い続ける龍騎士。
龍園の連中は間違っていると言い放つが、いずれ自分が正しいという事が証明できるはずだと信じている。
「良いでしょう。神の御名において、彼らに道を与えましょう。
救済か、それとも……死か」
ブラッドリーの周囲を浮遊する光球が、一際輝きを増した。
●
「オイ! あのクソ装置動いちまったじゃねえか! どーなってやがる!」
「俺は言われただけの仕事はした。装置の起動が存外早かっただけだ」
遥か頭上から聞こえる怠惰王の怒声。青木 燕太郎(kz0166)は悪びれる様子もなく肩を竦める。
――アルナス湖近くの古城の地下にある『ラメトク』のリミット解除装置。
ハンター達の活躍により、予想より早い段階で起動に成功し、その結果、青木も早々に撤退することとなった。
――まあ。青木自身、多少ハンターとの会話に時間を取られたというのはあるが、誤差の範囲内だ。別段報告するまでもない。
そう。古城で出会ったハンターが面白い提案をしてきた。
その事実は、彼が手心を加えるには十分すぎる理由だった。
――ビックマーを陥れてみても、楽しいかもしれないよ。
脳裏に過るハンターの声。
ああ、そうだ。遅かれ早かれそのつもりだ。
その為に蓬生に働きかけ、黙示騎士への紹介を頼んだ。
いずれはあれも殺してやるつもりだが、役に立ってくれるなら生かしておくのも吝かではない。
それに――ハンターもまた、ビックマーを陥れる駒として十分な働きをしてくれるだろう。
腹の中でこんな算段を立てていることを億尾にも出さず、涼しい顔をしている青木。
ビックマー・ザ・ヘカトンケイルはもふもふの茶色の毛並みを乱暴に掻き毟ってため息をつく。
「まー。起動しちまったもんはしょーがねえ。別途対策を考えるしかねェなぁ」
「……そうだな」
「何か策はあるか? オレだったらあの地下遺跡ごと踏み抜いたりできねェもんかね」
「試してみるか? あまりお勧めはせんが。目覚める前の遺跡だったらともかく、今は完全に機能を回復している。ある程度の防衛機能を備えていると見た方がいい」
「ヒュー! どこまでも憎たらしいクソ遺跡だな! ……となると、あいつらが準備を固める前にこっちから叩くくらいしかねえか。怠惰の巨人たちも動けるようにしといた方が良さそうだなァ。青木よ、お前も準備しといてくれ」
「分かった」
「んー? やけに素直じゃねえか。どういう風の吹き回しだ?」
「オーロラの顔を立てろと言ったのは他でもないお前だろう。ビックマー」
「あぁ。そうだったなぁ。そういや青木よ。お前出かけて来たらしいが、どうよ。怠惰の眷属増やしてきたか?」
「その件だが。怠惰眷属ではないが……1人、面白いのを紹介できそうだ」
「……へえ? どれ、詳しく聞かせてくれねぇか」
ニヤリと笑うビックマー。暗闇に、青木の声が響いた――。
●プロローグ「少女と龍と、黒い影」(3月14日更新)
――少女が一人、泣いていた。
「ひっく、ひっく……」
十年ほど前の、大霊堂。
少女は、名をリムネラ(kz0018)と言った。まだ巫女の修行を始めて間もない少女――特に一族の中でも稀有な資質を見出され、大霊堂にやっと慣れてきたばかりの少女。
しかし、彼女に今、還る場所はもうない。
先だって、連絡を受けたのだ。
――彼女の出身部族が歪虚に襲われ、壊滅状態に陥ったのだと。
それを知らせてくれた者も、大霊堂にたどり着くとたちまち疲労と怪我で昏睡状態に陥り、つい先ほど息を引き取った。
「白龍様、私たちは何か悪いことをしたのでしょうか?」
思わずそう言いたくなってしまう。しかしそれも詮無いことだと、リムネラ自身判っていた。
この大霊堂には、似たような立場の巫女も少なくない。巫女として聖地リタ・ティトにきたのはいいが、還る場所を失ってしまった、そんな者が。
辺境の民の中にはそう言う居場所を失った者達を集め、「部族なき部族」という集団を作っている者もいるとは言うが……巫女という立場は絶対的な中立だ。何処かひとところに肩入れするわけにもいかない。
リムネラもそれを知っている。聖地を去らず、この地で一生を過ごす巫女が多いのもそれに一因があるのは恐らく間違いないだろう。
それでもリムネラはまだ子どもだった。まだ成人の儀式も終えていないあどけない少女なのだ、理屈はわかっても感情では理解しきれない。だから、大霊堂の隅でぽろぽろと涙を零してしゃがみ込み、俯いていた。
――と。
リムネラの腕に、何かがすがりついてきた。
「……?」
リムネラはそのすがりついてきた何かを、見つめる。
それは、白い龍だった。無論、信仰対象である白龍ではない。いつごろからか大霊堂で時折見掛けられるようになった、小さな白い龍だった。
……確か、先輩の巫女たちはこの龍に名前をつけていた。リムネラはまだ震える声音で、その名前をそっと呼ぶ。 「……ヘレ?」
するとその龍――ヘレは、ちいさな羽をぱたつかせながら、リムネラに更に擦り寄り、そして頬ずりをして目を細めた。
まるで大丈夫だよと、言うかのように。
その優しいぬくもりは、何処か懐かしい、母親の温もりを思い出させた。
リムネラはまた泣いた。
けれどそれは、前進するための涙だった。
●
「それにしても、龍園まで足を運ぶのは……大丈夫ですか?」
ジーク・真田(kz0090)が不安そうに問いかける。するとリムネラは、にっこり笑って頷いた。
「もちろんデス。ヘレのため、デスから」
ナディア、イクタサ、そしてナーランギ――彼らの示す答えはほぼ同一だった。
――ヘレは成長の為の眠りについている。目覚めの為には、青龍たちの力を借りるのがいいだろう――と。
確かに龍について一番詳しいのは龍自身。しかしその肝心の龍が殆ど消滅している現在、青龍の加護篤い龍園が今回の問題を解く鍵を握っているだろうことは間違いなかった。
龍はある意味人間よりも繊細で、マテリアルの質や量に多大な影響を受けやすい。リムネラが先日訪れたリアルブルーで感じたものがリアルブルーの大精霊のマテリアルの一部であるのなら、それにヘレも影響を受け、成長を促されたと思われる――と言うのが、それぞれの見立てだった。
「聖地カラも手助けに来て下さるようデスから、ユニオンの仕事は滞らないと思いマス。ジークも手伝ってクレマスシ」
そう、今回の件を大霊堂に報告したところ、聖地の巫女たちもリムネラとヘレの為に動いてくれることになったのだ。何しろヘレは大霊堂にとって次代の白龍と目されている存在。その変化を見過ごすわけがなかった。
一部の巫女はリムネラと龍園に赴き、龍についての資料や情報を得て記録を作る為に。そして別の一部の巫女は、しばらくユニオンを離れることになるリムネラの名代としてユニオンの運営に協力することに。
もちろんこうなってくると、ソサエティ側も援助を惜しまない。龍園への道はあえて転移門を用いず、いにしえからの巡礼路を使うと言うことで、リムネラの護衛も必要だろうと提案し、また突然の訪問も失礼に当たるだろうと言うことで事前に龍園の支部にも情報は伝えられる。
何しろ今回は龍が大きく関わってくる。ヘレのことだけではない、六大龍として信仰の対象になっている青龍にハンターやリタ・ティトの巫女たちが直接話を聞こうということなのだから、色んな意味で大きな出来事になるのは間違いない。聖地リタ・ティトからの使節団、と言う名目で向かうことになってはいるが、その目的の多くはその重要性の為に一般には伏せられた。もし何か不具合があっても困るのは、龍園の側も、リタ・ティトの側も、同様だからだ。
「サテ、と。じゃあジーク、しばらくはガーディナをよろしくお願いシマス。手伝いにクル巫女たちにも、ヨロシクと」
「……はい、判りました」
リムネラはそう言うと、ジークも微笑み返した。不安も多いだろうに、それでもこの少女は気丈に振る舞っている。強がりというわけではないが、いまが踏ん張りどきなのだからと、頑張っている。それがわかるから、皆がリムネラを支援しようとするのだ。無論、ジークも。
先日リアルブルーで撮影した写真が、僅かに風に揺れた。
● ――それとほぼ時を同じくした、とある山の奥。
「……そうか。なるほど……どこの馬の骨とも知れぬ龍が、この龍園にくる、と」
鎧を纏った男が、そう呟いた。何処か薄ら暗いものを持った、低い声だった。
「そんな者を勝手にこの地に入れるわけにはいかないな……行くぞ」
男はそう言うと、脇に立てかけてあった槍を手にして歩きだした。
――使節団とやらを、迎え撃つために。
「ひっく、ひっく……」

リムネラ
少女は、名をリムネラ(kz0018)と言った。まだ巫女の修行を始めて間もない少女――特に一族の中でも稀有な資質を見出され、大霊堂にやっと慣れてきたばかりの少女。
しかし、彼女に今、還る場所はもうない。
先だって、連絡を受けたのだ。
――彼女の出身部族が歪虚に襲われ、壊滅状態に陥ったのだと。
それを知らせてくれた者も、大霊堂にたどり着くとたちまち疲労と怪我で昏睡状態に陥り、つい先ほど息を引き取った。
「白龍様、私たちは何か悪いことをしたのでしょうか?」
思わずそう言いたくなってしまう。しかしそれも詮無いことだと、リムネラ自身判っていた。
この大霊堂には、似たような立場の巫女も少なくない。巫女として聖地リタ・ティトにきたのはいいが、還る場所を失ってしまった、そんな者が。
辺境の民の中にはそう言う居場所を失った者達を集め、「部族なき部族」という集団を作っている者もいるとは言うが……巫女という立場は絶対的な中立だ。何処かひとところに肩入れするわけにもいかない。
リムネラもそれを知っている。聖地を去らず、この地で一生を過ごす巫女が多いのもそれに一因があるのは恐らく間違いないだろう。
それでもリムネラはまだ子どもだった。まだ成人の儀式も終えていないあどけない少女なのだ、理屈はわかっても感情では理解しきれない。だから、大霊堂の隅でぽろぽろと涙を零してしゃがみ込み、俯いていた。
――と。
リムネラの腕に、何かがすがりついてきた。

ヘレ
リムネラはそのすがりついてきた何かを、見つめる。
それは、白い龍だった。無論、信仰対象である白龍ではない。いつごろからか大霊堂で時折見掛けられるようになった、小さな白い龍だった。
……確か、先輩の巫女たちはこの龍に名前をつけていた。リムネラはまだ震える声音で、その名前をそっと呼ぶ。 「……ヘレ?」
するとその龍――ヘレは、ちいさな羽をぱたつかせながら、リムネラに更に擦り寄り、そして頬ずりをして目を細めた。
まるで大丈夫だよと、言うかのように。
その優しいぬくもりは、何処か懐かしい、母親の温もりを思い出させた。
リムネラはまた泣いた。
けれどそれは、前進するための涙だった。
●

ジーク・真田
ジーク・真田(kz0090)が不安そうに問いかける。するとリムネラは、にっこり笑って頷いた。
「もちろんデス。ヘレのため、デスから」
ナディア、イクタサ、そしてナーランギ――彼らの示す答えはほぼ同一だった。
――ヘレは成長の為の眠りについている。目覚めの為には、青龍たちの力を借りるのがいいだろう――と。
確かに龍について一番詳しいのは龍自身。しかしその肝心の龍が殆ど消滅している現在、青龍の加護篤い龍園が今回の問題を解く鍵を握っているだろうことは間違いなかった。
龍はある意味人間よりも繊細で、マテリアルの質や量に多大な影響を受けやすい。リムネラが先日訪れたリアルブルーで感じたものがリアルブルーの大精霊のマテリアルの一部であるのなら、それにヘレも影響を受け、成長を促されたと思われる――と言うのが、それぞれの見立てだった。
「聖地カラも手助けに来て下さるようデスから、ユニオンの仕事は滞らないと思いマス。ジークも手伝ってクレマスシ」
そう、今回の件を大霊堂に報告したところ、聖地の巫女たちもリムネラとヘレの為に動いてくれることになったのだ。何しろヘレは大霊堂にとって次代の白龍と目されている存在。その変化を見過ごすわけがなかった。
一部の巫女はリムネラと龍園に赴き、龍についての資料や情報を得て記録を作る為に。そして別の一部の巫女は、しばらくユニオンを離れることになるリムネラの名代としてユニオンの運営に協力することに。
もちろんこうなってくると、ソサエティ側も援助を惜しまない。龍園への道はあえて転移門を用いず、いにしえからの巡礼路を使うと言うことで、リムネラの護衛も必要だろうと提案し、また突然の訪問も失礼に当たるだろうと言うことで事前に龍園の支部にも情報は伝えられる。
何しろ今回は龍が大きく関わってくる。ヘレのことだけではない、六大龍として信仰の対象になっている青龍にハンターやリタ・ティトの巫女たちが直接話を聞こうということなのだから、色んな意味で大きな出来事になるのは間違いない。聖地リタ・ティトからの使節団、と言う名目で向かうことになってはいるが、その目的の多くはその重要性の為に一般には伏せられた。もし何か不具合があっても困るのは、龍園の側も、リタ・ティトの側も、同様だからだ。
「サテ、と。じゃあジーク、しばらくはガーディナをよろしくお願いシマス。手伝いにクル巫女たちにも、ヨロシクと」
「……はい、判りました」
リムネラはそう言うと、ジークも微笑み返した。不安も多いだろうに、それでもこの少女は気丈に振る舞っている。強がりというわけではないが、いまが踏ん張りどきなのだからと、頑張っている。それがわかるから、皆がリムネラを支援しようとするのだ。無論、ジークも。
先日リアルブルーで撮影した写真が、僅かに風に揺れた。
● ――それとほぼ時を同じくした、とある山の奥。
「……そうか。なるほど……どこの馬の骨とも知れぬ龍が、この龍園にくる、と」
鎧を纏った男が、そう呟いた。何処か薄ら暗いものを持った、低い声だった。
「そんな者を勝手にこの地に入れるわけにはいかないな……行くぞ」
男はそう言うと、脇に立てかけてあった槍を手にして歩きだした。
――使節団とやらを、迎え撃つために。
(執筆:四月朔日さくら)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●「冥道 ?交差する思惑?」(4月4日更新)

リムネラ

ヘレ
龍園――青龍の加護篤き北の土地。いままで報告書やハンターの言葉でしか知り得なかった世界が、彼女の目の前に、いま、確かに広がっていた。
背負い籠の中にいる彼女の相棒・白龍のヘレはいまだに目を覚ますことはない。静かに眠り続けている。
「……ヘレ、もう少しデスから」
ヘレの変調の原因が成長のためのものだと知ってはいても、もしこのまま目を覚まさずにいたらと不安になってしまうことはしょっちゅうだった。
いつもリムネラ(kz0018)の傍らにいて、それが当たり前と感じていた。
言い方を変えてみれば、ヘレはリムネラの相棒とも言える存在なのだ。あるいは幼い頃から傍にいてくれた、かけがえ無い友人とも言える。
そんなヘレという存在を、失うわけにはいかない。ハンターたちも、傍にいて助けてくれる。
「ようこそ参られた、白龍の巫女殿。改めてお名前と、ご用件をうかがえますか?」
神官の一人らしき人物が、丁寧に問いかけてくる。その神官の首もとにちらりと見えるのは、紛れもなく鱗。……青龍の加護を受けたドラグーンであるのは間違いなかった。
「ワタ……わたしは、白龍の棲まう聖地リタ・ティトの巫女、そして辺境のユニオン『ガーディナ』のリーダー、リムネラと言います。今回は、……青龍様に、ご助力賜りたく」
そう挨拶をする声は、いつもよりもゆっくりと、そして微かに震えていた。
●
クリムゾンウェストの北方、リグ・サンガマと呼ばれた地域。
視界には降り積もる雪。
世界は、純白へ染め上げられていく。
すべてが白になっていく錯覚を覚えるが、この地域には白に染まらないモノもある。
龍園の主、青龍。
そして、青龍に仕える神官や龍騎士。
青に彩られた者は、純白の平原でも堂々と突き進む。
彼らは世界の守護者の剣。
仇成す者は、容赦なく斬る。
龍騎士には、誇りと矜持を胸に――。

青龍

シャンカラ

アルフォンソ
「奴ら、青龍様と謁見しているのか」
「青龍様に何用だ? 害を及ぼすなら、今からでも龍園へ行くべきだ!」
リグ・サンガマに点在する遺跡に集まった数人の龍騎士。
龍園を守護する者にしては、刺々しい雰囲気を醸し出している。
実は彼らは龍園から追い出された者達だ。
青龍を強く信奉する余り、龍園以外の国も武力制圧を主張。結果、この過激な意見はドラグーン同士の対立に発展、龍騎士同士の武力衝突へ至る事態となった。
多数の死傷者が発生した事を重く見た先代龍騎士隊隊長は、事件の中心となった過激思想の龍騎士達を龍園から永久追放の処分としたのだ。
追い出され、龍騎士隊隊長がシャンカラ(kz0226)に代わった今でも、彼らの青龍に対する想いは変わらない。
「危険分子は排除すべきだ!」
一人の龍騎士が高らかに主張する。
「待て」
制止したのは中央に立つこの集団のまとめ役――その名をアルフォンソという男だ。
「何故、止める? こうしている間にも青龍様に危機が及んでいるんだ。早く追い出すべきだ。それとも、アルフォンソは龍園を守る不心得者の龍騎士に臆したか?」
「そんな訳あるか。連中が何人来ようと負ける気はせん。だが、龍園へ赴いた者の中に腕の立つ者が混じっている。奴らの正体を掴まなければ、返り討ちに合うぞ」
腕を組みながら、アルフォンソは思い返した。
先日、遭遇したと南からの来訪者。
龍園の龍騎士とは一線を画す強さを持った者達。油断して良い相手ではない。
一体、彼らは何者なのか。
「彼らはハンター。精霊と契約した傭兵ですよ」
集団に近付く一人の男。
リアルブルーで言えば神父のような出で立ち。手には聖書らしき本、首からは十字架を模した首飾りを下げている。
奇妙なのは、神父の周りに輝く光球が漂っている事だ。
「ブラッドリー、何処へ行っていた?」
「小旅行ですよ。それより、あなた達もハンターと遭遇しましたか。私も東方の片田舎で遭遇しましてね。
ハンターの中には恐ろしい力を持つ者もいます。下手をすれば青龍を脅かすような……」
ブラッドリー(kz0252)がそう言い掛けた瞬間、アルフォンソの槍がブラッドリーに向けられる。
「それ以上、貴様が青龍様の事を口にするな」
だが、刃は光球が生み出した盾により阻まれてしまう。
「おや、気分を害しましたか」
アルフォンソは槍に力を込めながら、ブラッドリーを睨み向けた。
怒気を孕んだ視線を向けられているが、当のブラッドリーは涼しい顔をしている。
「ですが、青龍を守りたければハンターから目を離さない方がいいでしょう。何をするかは分かりません」
「今は奴らの動向を調べるのが先だ。斥候へ行った奴らに伝えろ。目を離すな、とな」
アルフォンソの命を受けた龍騎士達は、早々に遺跡を立ち去っていく。龍園周辺のハンターを追跡するつもりなのだろう。
「ブラッドリー、お前にも働いてもらうぞ」
「分かりました。あなた達は青龍の為に、力を追い求めて神の信徒となりました。ならば、私も力を貸すのが導き手としてのあるべき姿でしょう」
アルフォンソとブラッドリー。
二つの黒い影が、北方の雪原で動き出した。
●

ビックマー・
ザ・ヘカトンケイル

青木 燕太郎
「……その言葉そっくり返させて貰おうか。あそこにニュークロウス以外の物があるとは聞き及んでいない」
遥か頭上から聞こえる太い声。声の主である怠惰の王を青木 燕太郎(kz0166)が睨みつける。
ビックマー・ザ・ヘカトンケイルはもふもふの茶色の毛並みを乱暴に掻き毟った。
「あそこの調査はコーリアスに任せてたからな……。オレともあろうものが失敗したぜェ……」
この山のように大きなぬいぐるみが言う『あそこ』とは辺境の地下に眠っていたチュプ大神殿のことだ。
アルナス湖畔で見つかった入口。
ハンター達がそれの開錠に成功すると、大きな石が積み上げられただけの遺跡と思われていた場所は、石に刻まれた独特の文様が青白く光る不思議な空間へと様変わりした。
――そう。正しい機能を取り戻し、まさに目覚めたという訳だ。
そしてハンター達は更に神殿の調査を進め、先日新たな力を手にしている。
……それはまさに、ビックマーの喉元に刀を突きつけるような発見だった。
「……お前が言っていた『厄介な匂い』というのがその『ラメトク』だったんじゃないのか? 鼻はきちんと利いていたじゃないか」
「ヒュー! オレの勘も捨てたもんじゃねぇな! お前がもっとしっかり破壊してきてくれりゃあ何てこたぁなかったんだがな」
「言われただけの仕事はした。文句を言われる筋合いはない」
「どーだかな。災厄の十三魔の力を手にしたお前にしちゃあ随分ヌルかったんじゃねえのか」
鋭い目線をぶつけ合う青木とビックマー。
そこに聞こえた衣擦れの音。ビックマーの膝の上で丸くなって眠っていた少女が、ふわあ……と小さな欠伸をした。
「……ビックマー、ケンカしてるの……?」
「おお、オーロラ。煩かったか。すまん」
「ううん……。いいよ。でも、青木とケンカはダメ……」
「オイオイ。随分こいつの肩を持つんだな」
「……前にね、ビックマーがいない時におんぶしてくれたの。……いい子なのよ」
「ん? ……ああ、青木はお前の……そういやぁそうだったなぁ。分かった分かった。オーロラの言う通りにしよう」
「……ありがと、ビックマー。だいすきよ」
蕩けた笑みを浮かべて、再び夢の世界に落ちていくオーロラ。ビックマーは彼女を抱え直すとじろりと青木を見る。
「我らが姫君がこう言ってんだ、仲良くやろうや。なぁ、青木?」
「断る権利はないのだろう?」
「ヒュー! よく分かってるじゃねえか。もののついでだ、お前もう1回行って遺跡壊して来てくれ。……あれは、危険なものだ」
怠惰の王の目線を受け止める青木。
微かに頭痛を覚えて顔を顰める。
――理由は思い出せないけれど。
青木自身が気が付いた時には既に、『ビックマーとオーロラ』という存在を憎んでいた。
別に王位とか立場が欲しい訳ではない。
ただただ、排除することを渇望する。
でも。あの娘は、何故か憎みきれない。
排除すべきという声と。
思い出せという声が――。
……頭が痛い。
あの――を。どこかで。
そんなはずはない。
――ウ。
――エ…………ロウ。
……やめろ。俺を呼ぶな。
ヒトとしての記憶は捨てた。
それは不要なものだ。
思い出したくない。
俺は遍く全てを破壊する。
――頭が、痛い。
「青木よ。……どうした?」
「……いや、何でもない。その仕事引き受けよう。ああ、ビックマー」
「何だ?」
「この仕事が終わったら暫く留守にする。そのつもりでいてくれ」
「あぁ? しょーがねぇなあ……。今は人手不足だ。どうせ行くなら契約者の一人でも連れて来てくれ」
「考えておこう」
踵を返す青木。振り返ることもなく、闇に溶けるようにその場を去った。
●「誰かが誰かの身を案じたとしても、その答えが常に最良とは限らない」(4月25日更新)

リムネラ

ヘレ
主に龍種が傷ついた身体を癒したり、或いは成長を促進する為に用いる場所、なのだという。
リムネラ(kz0018)は一人、その中心にヘレを横たえてからそっと手を組み、祈りを捧げる。
――どうか、ヘレが無事に起きることが出来ますようにと。
幼い頃からともに居た存在。
種族などは違っても、心の結びつきはなによりも強い。
しかし――青龍の言葉を思い出す。
『ヘレを迎え入れ、預かるわけには行かないだろうか』
それはヘレにとって、悪い提案では無かった。むしろ、ヘレの成長を願えば、とてもありがたい申し出だ。
それでも実のところ、リムネラはまだ少し悩んでいる。
ヘレを最優先に思うというのは、裏を返せば自分を殺すことに他ならない。それでもヘレの健やかな成長を願えば、自分よりもヘレを優先したくなる。
ヘレは大切な友達だ。
けれど同時に、ヘレはこのクリムゾンウェストにとっての大切な存在になろうとしている。青龍の言うことも、理解できる。
今までずっとヘレを護ってきていたと思っていた。
でももしかしたら、護られていたのは、リムネラのほうだったのだろうか?
いや、今は深く考えるのはやめよう。
リムネラは深く息を吸い込んだ。
白い巫女装束が、ふわりと風になびく。
マテリアルの活性化を助けるため、リムネラもここで舞うつもりだ。
万が一の襲撃がないよう、祈りながら。
「嗚呼――」
祈りの舞の曲を、そっと口ずさみはじめた。
●

アルフォンソ

ブラッドリー
ブラッドリー(kz0252)が掛けた言葉。
それは、事実確認ではない。
次に取るべき行動が何か。それを自身で理解しているのか。
それをブラッドリーは、アルフォンソへ確認したのだ。
「斥候からな。青龍様と白龍の眷属が謁見したのだろう。青龍様は、何故龍のへそを紹介されるのか……。あそこは聖地のはずだ。白龍に使わせる必要はない」
「お怒りのようですね。ですが、これはチャンスではありませんか?」
ブラッドリーに突然もたらされたチャンスという言葉。
それに対してアルフォンソは怪訝そうな顔を浮かべる。
「チャンス?」
「聞けば、白龍は龍のへそにある石の舞台で眠っている訳です。これは白龍を消すチャンスです。敵も相応の防御を固めるでしょうが、白龍自体は無力です。神は我らに『機会』を与えて下さいました」
ブラッドリーの指摘にアルフォンソは気付く。
龍のへそは高濃度のマテリアルが噴き出す場所である。眠り続けるヘレが成長を促進するには最適の場所だが、成長するまでの間は完全に無防備である。
ハンターが守りを固めている事は予想できるが、もしこの防衛網を突破できれば白龍という『可能性の芽』を摘む事ができる。
「確かにそうだ。これは白龍を亡き者にするチャンスだ。狙わない手はないな」
「はい。アルフォンソさんなら、必ず成し遂げる事ができるでしょう」
「ブラッドリー、お前の手も借りるぞ。龍のへそに向けて総攻撃を仕掛ける」
アルフォンソは槍を手に取った。
六大龍は不要。青龍だけがいれば世界の均衡は保たれる。
そう信じて戦い続ける龍騎士。
龍園の連中は間違っていると言い放つが、いずれ自分が正しいという事が証明できるはずだと信じている。
「良いでしょう。神の御名において、彼らに道を与えましょう。
救済か、それとも……死か」
ブラッドリーの周囲を浮遊する光球が、一際輝きを増した。
●

ビックマー・
ザ・ヘカトンケイル

青木 燕太郎
「俺は言われただけの仕事はした。装置の起動が存外早かっただけだ」
遥か頭上から聞こえる怠惰王の怒声。青木 燕太郎(kz0166)は悪びれる様子もなく肩を竦める。
――アルナス湖近くの古城の地下にある『ラメトク』のリミット解除装置。
ハンター達の活躍により、予想より早い段階で起動に成功し、その結果、青木も早々に撤退することとなった。
――まあ。青木自身、多少ハンターとの会話に時間を取られたというのはあるが、誤差の範囲内だ。別段報告するまでもない。
そう。古城で出会ったハンターが面白い提案をしてきた。
その事実は、彼が手心を加えるには十分すぎる理由だった。
――ビックマーを陥れてみても、楽しいかもしれないよ。
脳裏に過るハンターの声。
ああ、そうだ。遅かれ早かれそのつもりだ。
その為に蓬生に働きかけ、黙示騎士への紹介を頼んだ。
いずれはあれも殺してやるつもりだが、役に立ってくれるなら生かしておくのも吝かではない。
それに――ハンターもまた、ビックマーを陥れる駒として十分な働きをしてくれるだろう。
腹の中でこんな算段を立てていることを億尾にも出さず、涼しい顔をしている青木。
ビックマー・ザ・ヘカトンケイルはもふもふの茶色の毛並みを乱暴に掻き毟ってため息をつく。
「まー。起動しちまったもんはしょーがねえ。別途対策を考えるしかねェなぁ」
「……そうだな」
「何か策はあるか? オレだったらあの地下遺跡ごと踏み抜いたりできねェもんかね」
「試してみるか? あまりお勧めはせんが。目覚める前の遺跡だったらともかく、今は完全に機能を回復している。ある程度の防衛機能を備えていると見た方がいい」
「ヒュー! どこまでも憎たらしいクソ遺跡だな! ……となると、あいつらが準備を固める前にこっちから叩くくらいしかねえか。怠惰の巨人たちも動けるようにしといた方が良さそうだなァ。青木よ、お前も準備しといてくれ」
「分かった」
「んー? やけに素直じゃねえか。どういう風の吹き回しだ?」
「オーロラの顔を立てろと言ったのは他でもないお前だろう。ビックマー」
「あぁ。そうだったなぁ。そういや青木よ。お前出かけて来たらしいが、どうよ。怠惰の眷属増やしてきたか?」
「その件だが。怠惰眷属ではないが……1人、面白いのを紹介できそうだ」
「……へえ? どれ、詳しく聞かせてくれねぇか」
ニヤリと笑うビックマー。暗闇に、青木の声が響いた――。