セスト・ジェオルジ
恒例の村長会議を前に、農業振興地域ジェオルジの領主の館では、家族会議が開催されていた。
家族会議とはいえ領主一族のものだから、つまりはジェオルジ首脳会議といえる。
「祭りの取り止めは、絶対反対だ! 我が家の家訓に反するだろう」
力強く主張するのは、ジェオルジ領主のセスト・ジェオルジ(
kz0034)……ではなくて、父親のルーベン。
一応の肩書は先代領主だが、自分の趣味の新種植物交配や諸々にかまけたくて、年若い息子に代替わりを強行したとんでもない親父である。
近年、息子が仕事に慣れるに従い、ますます趣味への耽溺を深めているルーベンが、家族に強硬に主張しているのは村長祭の開催だった。
村長祭、最近は郷祭(さとまつり)と呼ぶ者も多いこの催しは、代替わりしたばかりのセストがジェオルジ以外の人々も招くようになってから、拡大の一途を辿ってきた。
元々はジェオルジ内の各村の村長達が集まって諸問題を相談し、その後に余剰生産物をやり取りしていたような内輪の集まりだった。それが、今では各村の開発した名産品のお披露目から、他地域の商人の商用の場にまで広がっている。
それだけに人出も多いが、これまでは幸いに大きな被害が出るような事故、事件は起きていない。
しかし、ジェオルジ領内でも歪虚事件が頻発する昨今、祭りの開催は見合わせるべきかとの意見が、ちらほらと出ていた。ルーベンは、それに強硬に反対しているのである。
「ジェオルジ家は同盟を農業で支配することを目的としているのに、歪虚に負けて祭りを中止してどうする」
「あなた、同盟を支配するのではなく、同盟の食卓を支えるのが目的ですわよ」
握った拳を振り回して力説するルーベンを、妻のバルバラが諫めている。確かにジェオルジの農業推進目標は『同盟の、ひいてはクリムゾンウェストの食卓を支える』で、支配者になりたいとは掲げていない。
そんなこと、外聞が悪いので言う訳にはいかないではないか。
実はジェオルジ家の初代が『よそには負けねえ。うちが一番になってやる。そのためには食を押さえるのが一番だ』と考えていたとしても、あくまで胸の裡でのこと。
当代のセストは、そこまで露骨な野望の持ち主ではない、はずだ。
単に、
「すでに祭りに向けて準備をしてきた村も多いですから、開催はしましょう。ですが、領外への招待は今回は見合わせで。歪虚を警戒するにも限度があるので、万一の時にすぐ駆け付けられる体制を作っておく。それでいかがでしょう」
年齢の割に切れ者で、父親よりも頼りになると姉のルイーザに評されるくらい。
「ルイーザ、父親に対してだな」
「来客のもてなしの準備と当日の取り仕切りをしてくれたら、お父さんステキって言ってあげる」
父娘が益体もない事を言いあっている間、すでにセストとバルバラは今回の祭りでの変更点を詰め始めていた。
表向きは昨年と大差なく、しかしもしもの時には十分な対応が出来るように。
「ハンターの皆さんにも、お手伝いをお願いするようかしら」
「それも見込んで、予算を少し組み直します」
ジェオルジの村長会議と春郷祭は、今年もいつもの様に開催される。
でも、少し違うところもあるかもしれない。