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【幻洞】これまでの経緯


更新情報(3月3日更新)
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【幻洞】ストーリーノベル
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事の発端は、帝国と辺境の境――『ノアーラ・クンタウ』の一室からだった。
「失礼します」
要塞管理者ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の執務室を訪れたのは、工房管理官のアルフェッカとドワーフ工房を事実上取り仕切るドワーフのカペラ(kz0064)であった。
「おや、二人揃ってとは珍しいですね。何か問題がありましたか?」
「はい。実は鉱物性マテリアルの供給が追いつきません」
「そうなんです。ドワーフの採掘担当が総力を挙げているのですが、どうしても需要の方が……」
アルフェッカの報告にカペラが補足する。
辺境のドワーフ工房は、帝国と友好な関係を継続している。
他国の発注も受け付けるが帝国からの発注は工房管理官がまとめてドワーフ工房へ発注する。ドワーフにとっては大口の顧客である事からこのような役職が設けられているのだが、最近鉱物性マテリアルの供給が追いつかない為に帝国側への納品が滞るケースが見られるケースもあるという。
「なるほど、報告によれば採掘量は一定しています。となれば、需要の方が増大していると考えるべきでしょうか」
ヴェルナーは報告書に視線を落とす。
報告によればドワーフ工房における鉱物性マテリアルの供給は下落していない。むしろ毎月同程度の採掘量を確保できている。しかし、それでも納品が滞るのであれば帝国の発注量が大幅に増大したのでもない。
「確かに帝国の発注量は増えていますが、大幅に発注が増えてはいません。工房管理官として発注量の調整しています」
自分の職務は適正だと主張するアルフェッカ。
事実、帝国はエルフ関連の騒乱で発注量は上がっている。しかし、その量だけで供給不足に陥るとは考えられない。
「そうですか。帝国でないとすれば……連合軍ですか」
「そうです。ハンターのCAMや魔導アーマーが行動するようになってから飛躍的に発注が上がっています」
カペラが鉱物性マテリアル供給不足の原因を語る。
ハンターがCAMや魔導アーマーを対歪虚戦へ持ち込むようになった上、クリムゾンウェスト各地へ戦乱が広がった関係から鉱物性マテリアルの需要が高まっているのである。
同盟など他国でも増産を続けているが、鉱物性マテリアルの需要が減る気配はない。
「対歪虚は今後も継続するでしょうから、需要が減るとは思えません。
アルフェッカさん、何か……良い案はありませんか?」
ヴェルナーはアルフェッカへ向き直る。
アルフェッカが単にヴェルナーへ悪い報告を話す為に来たのではない。そうでなければカペラもこの場に同伴させるはずがない。
何か提案がある。
そう考えたからこそ、ヴェルナーはアルフェッカへ話を振ったのだ。
「はい。ドワーフ工房側と相談させていただいたのですが……帝都へ魔導アーマー配備を打診していただけないでしょうか」
「魔導アーマーを、ですか?
……なるほど。発案はあなたでしたか。理由を伺いましょうか、お嬢さん」
ヴェルナーはカペラが毅然とした態度である事に気付いた。
カペラにとってこの提案は是非とも通したい案件なのだ。だからこそ、アルフェッカと共に『勝負の場』へ赴いた。
「ドワーフの採掘は……今も手掘りなんです」
「手掘り?」
「そうです。昔ながらの方法で鉱物を採取しています。彼らが採掘した物をフェルツやクレムトが加工、エテルタが薬品を配合していました。 でも、この方法では限界です。連合軍を支える為には、今までのやり方を変えないといけないんです」
カペラは、力説する。
辺境ドワーフは採掘担当が採掘した鉱物をそれぞれの担当が加工する。フェルツがマテリアル鉱を加工して、クレムトが通常の金属を加工する。エテルタは薬品や染色など様々な配合を担当して一つの武具を製作する。
それも今までの需要であれば十分にやっていけたのだ。
だが、今は有事。対歪虚により需要は高まっている。その需要が採掘担当へしわ寄せとして集まり始めたのだ。カペラはこの事態に対して魔導アーマーによる採掘で鉱物そのものの増産を図ろうとしていたのだ。
「鉱物性マテリアルの採掘量を増産するのであれば不可能ではありません。ですが、フェルツやクレムトの職人を採掘へ回す事になれば他の発注にも影響がでます」
「…………」
ヴェルナーはカペラの言葉を聞きながら、考えをまとめ始める。
ここで魔導アーマーを断れば、帝都の指示で増産を指示された段階で破綻する。そればかりかドワーフからの信頼を失う事になりかねない。
採掘用途ならば、何も最新式の魔導アーマーである必要はない。量産体制に乗っている魔導アーマーを帝都から回して貰えばいい。帝都への理由が必要であればノアーラ・クンタウ防衛の為と称しても構わない。
ならば――。
「分かりました。できる限りの事はやってみましょう」
ヴェルナーの一言に、アルフェッカとカペラは笑顔を浮かべる。
緊張した面持ちだったのだが、これで胸を撫で下ろしたようだ。
安心する二人を前に、ヴェルナーは一言だけ釘を刺した。
「あくまでもこの魔導アーマーはドワーフへ貸し出しとします。
いいですか、くれぐれも『壊さないように』お願いしますね」
●
そして、数週間後。
辺境ドワーフの城『ド・ウェルク』へ魔導アーマーが配備された。
あくまでも帝国から辺境ドワーフへ貸し出された機体である事から武装は解除されている。それでも魔導アーマーで採掘できれば鉱物の採掘量は各段に上がる。
配備完了を聞いたカペラは、魔導アーマーに期待を馳せる。
そう、カペラは期待していたのだ――この時点では。
「どいて! 給仕!」
「ちょっとお待ち下さい、カペラ様。あ、それと私は執事のキュジィです」
興奮するカペラを前にキュジィ(kz0078)が大慌てで行く先を阻もうとする。
カペラの表情を見ればかなり立腹しているのは、誰が見ても明らか。その怒り具合がはっきりと分かるからこそ、キュジィも力づくで止められない。
「ここね」
カペラは勢い良く目の前の扉を開いた。
確かここは配備された魔導アーマーが格納されていたはずだ。
そして事前情報ではドワーフ王のヨアキム(kz0011)が魔導アーマーに興味を示していたらしい。
そこから導き出される未来予想図。それはカペラにとって頭痛の種でしかない。
「なに、これ……」
扉の向こうに現れた魔導アーマー。
それは配備時と比較して外観が変わっていた。
配備された時には二脚だった魔導アーマー。それが何故か六脚になっているのはまだマシだ。両肩に盾とトゲが付けられた機体や右腕がバルカン砲、酷い機体は操縦席に冷蔵庫を完備。採掘しながら酒を飲める機能まで付与されていた。
「お、カペラじゃねぇか。どうだ、この魔導アーマー辺境カスタムは?」
「どうだじゃないでしょ、お父さん! この機体は鉱物を採掘するために帝国から借りた物なのよ! なんで改造しちゃったの?」
「そりゃー、おめぇ。職人の腕が疼きやがったのよ。こいつらも新たな力を手に入れたいってワシに言っている気がしてな。採掘している最中に見つけた良く分からんパーツを取り付けてやったんだ。ぶわっはっは!」
カペラが思い浮かべていた最悪の展開。
それは帝国から借りた魔導アーマーをヨアキムが勝手に改造する事。
魔導アーマー導入に対する体制整備を進めていた為に、魔導アーマーそのものにまで気が回らなかったのは失敗だった。既に魔導アーマーは派手な改造が施され原型はない。挙げ句、『辺境カスタム』などという意味不明な単語まで付けられる始末だ。
「カペラ様、あのパーツは?」
「あれは採掘担当がたまに拾ってくる謎の赤いパーツなの。材質も分からないけど、とにかく丈夫で。
調べる為に城の物置に入れておいたんだけど……頭痛くなってきちゃった」
頭痛を訴える、カペラ。
その脳裏には魔導アーマーへ正体不明のパーツを付与して調子に乗るヨアキムが浮かぶ。
そして――それだけに終わらない。
「あー! ヨアキム様、魔導エンジンまで外しちゃったんですか!?」
キュジィが悲鳴にも上げた声を上げる。
そこには魔導アーマーに付けられていた帝国技術の結晶である魔導エンジンが床に転がっていた。見れば、機体の方には魔導エンジンの代わりに複数の丸いパーツが取り付けられている。
「ああ、今回の目玉の一つだ。おめえら、鉱物性マテリアルが必要なんだろ? なのに、鉱物性マテリアルを消費する機体を採掘使ったら意味ねぇだろ。
だから、ワシが新型エンジンを搭載しておいた。辺境の純正新型魔導エンジン――名付けて『QSエンジン』だ。こいつの燃料にマテリアルは必要ねぇ。稼働実験も済んでいるからいつでも採掘へ行けるぜ」
「……は?」
魔導エンジンは帝国錬魔院の技術者が尽力して作り上げた代物だ。
それを馬鹿の四番バッターであるヨアキムが別の形で魔導エンジンを生み出したという。
ジェットコースター級の展開で疲労困憊のカペラ。
手近の椅子に腰掛けて頭を抱えている。
「キュジィ。悪いんだけど、お水を持ってきて貰える?」
「はい……あの、その、お察ししますね」
●
辺境某所。
実はあの新型魔導エンジン『QSエンジン』はヨアキム一人で完成させたのではない。ある協力者が存在した事で完成した逸品なのだ。
その協力者の元へ、エンジンの稼働実験成功の一報が入った。
「さすがはドワーフの王であります! ささ、我輩も協力者として名乗りを上げて王の威厳を皆に示すであります!」
協力者を名乗るその『生物』は、いそいそとドワーフの地下城『ヴェドル』へ向かうのであった。
「テルルっ! テルルでは無いですか!
我輩であります! みんなの偉大なる王、チューダでありますよ!」
自称『幻獣王』チューダ(kz0173)は、大型のシマエナガに似た風体の大幻獣テルルとの再会を喜んだ。
幻獣の森に身を隠す幻獣も多く存在しているが、中にはひっそりと隠れ住んでいる幻獣もいる。長命な幻獣もいる中ではチューダも長年出会えない大幻獣も存在する。
「旧知の仲だったか。では、あの赤いカマキリのような機体について何か知っているか?」
発掘物の学術調査に赴いていた久延毘 大二郎(ka1771)は、チューダに謎の機体について問いかける。
調査中、突如赤いカマキリの姿をした謎の機体が現れた。敵かと思われたものの、中から現れたのは白くて丸い飛行帽を被ったテルル。恐ろしさよりも可愛らしさが優先されていた。
「我輩もその機体については知らないであります。でも、テルルは昔から幻獣でありながら魔導が大好きだったであります。きっと遺跡から拾い集めて作ったで……」
「てめぇこら! 勝手に喋るんじゃねぇ!
俺っちはお前らの味方になった記憶はねぇぞ!」
ベラベラとテルルの事を喋り出すチューダに対して、テルルはクチバシによる突き攻撃を繰り出す。硬いクチバシがチューダにバシバシと突き刺さる。
「痛い! 痛いであります! 我輩、みんなの為を思って……」
「うるせえ! どうせしゃしゃり出てロクな事をしてねぇんだろ!」
図星――さすがテルルも大幻獣。
チューダの性格を熟知しているようだ。
「まあまあ。ここで暴れても仕方ない。落ち着けって」
テルルとチューダの間に割って入るラティナ・スランザール(ka3839)。
興奮するテルルに対してチューダはボコボコになっている。
「邪魔するんじゃねぇ! 言ってるだろう、味方になった覚えはねぇ!」
「そうかもしれないが、共闘はできるんじゃないか? 歪虚には困っているんだろ?」
ラティナの一言にテルルは黙るしかなかった。
最近になって歪虚が地底に姿を見せるケースが多くなった。理由は明確ではないが、ハンターとしても歪虚を放置しておく訳にはいかない。
「ちっ、確かお前らも歪虚を倒しているんだったな。俺っちの住処である遺跡にまで現れやがって……ま、まあお前らがどうしても俺っちを手伝いたいというなら、共闘してやってもいいぜ」
「ああ、是非『共闘』を頼む」
ラティナはテルルに話を合わせる。
機体性能は謎だが、魔導アーマーとしてもそのスペックはかなり高い。戦力としてはチューダよりも数段役に立つはずだ。
「あ、あれ? チューダ、なんでここに? それに見た事無い幻獣もいるみたいだけど」
そこへちょうどファリフ・スコール(kz0009)とクレール・ディンセルフ(ka0586)が通りかかる。
「うわあああんっ! あんまりでありますうううぅぅぅ!」
テルルに突かれ倒したチューダは、クレールの胸元へ飛び込む。
状況を理解していないクレールも思わず狼狽する。
「え? 何? なんでチューダがこんなに傷だらけなの? 大丈夫?」
泣きじゃくるチューダを慰めようとするクレール。
その優しさに甘えるチューダは、ちょっと鼻にかかった声で甘えてみせる。
「テルルが、我輩を……えっぐっ……イジめるであります」
「ちっ、人間に助けを求めるたぁ相変わらず情けねぇ奴だ。幻獣なら自分で何とかしろってぇんだ」
悪態をつくテルル。しかし、その外見の可愛らしさから迫力は一切ない。
「ところで、ファリフ君。君は何故この地底に?」
大二郎はファリフへ問いかける。
その理由はある程度予想できるが、大二郎は敢えてファリフに理由を聞き出そうとしていた。
「あ、ヴェルナーから部族会議へ救援要請があったんだ。地底から歪虚が侵攻しているって」
●
「トーチカ・J・ラロッカ。それが敵の指揮官です」
辺境要塞管理者ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、集まった者達へ状況を説明する。
魔導アーマーの採掘実験中に遭遇した歪虚のトーチカ。ハンターを前に不敵な行動を見せた後、再び来た道を引き返すように地底へと消えていったらしい。
「今まで敵が移動する坑道はなかったのでしょう? 敵はどうやってそんな坑道を作れたのでしょう? あまりにも短期間に構築しています」
ザレム・アズール(ka0878)は疑問を口にする。
ドワーフは自分の採掘鉱山を熟知している。合わせてそこに至る坑道もすべて把握している。しかし、トーチカはドワーフも把握していない坑道を通って姿を見せた。もしトーチカが坑道を作ったとすれば驚くべき早さで進んでいる事になる。
「その理由はおそらく『ロックワン』と呼ばれる巨大グランドワームです。最近頻発していた地震もロックワンが原因でしょう」
ヴェルナーが口にしたロックワンという名称はトーチカとその部下が口にしていた。
合わせてヨアキム(kz0011)がQSエンジン実験中に遭遇した巨大な白い蛇。その蛇こそがロックワンと呼ばれる巨大グランドワームに違いない。
「ああ、ワシらが見た奴がそのロックワンって奴なら相当デカいぞ」
魔導アーマーの数倍にも匹敵する巨大なグランドワーム。
龍園で目撃された同種よりももっと巨大と考えた方が良いだろう。
「で、そのロックワンが進んだ道をトーチカは進んできたって訳か。
ロックワンは真っ直ぐこのヴェドルへ向かっているのか?」
「……いや、そうではない……明らかに迷走している」
ロベリア・李(ka4206)が気にしていた疑問に、部族会議のバタルトゥ・オイマト(kz0023)が答える。
報告によればロックワンは真っ直ぐドワーフの地下城『ヴェドル』へ向かっていない。
言うなれば地下を迷走している状況だ。単なる地下侵攻では無いと見るべきだろう。
「ご指摘通り、何かの理由で地底を徘徊しています。ですが、このままではヴェドルへ到達するのも時間の問題です。倒すしかありません。
既に私の方から龍園で使われたイニシャライザーの手配を連合軍へ行っておきました。それがあればロックワンの侵攻を阻害する事ができるはずです」
ヴェルナーは既に対ロックワンに動き出していた。
連合軍からイニシャライザーを入手して迷走するロックワンを追い込むべく準備を始めていた。
「でも、追い詰めてどうするのよ? 相手は魔導アーマーより大きいんじゃ、決定打に欠けない?」
八原 篝(ka3104)は不安を抱く。
相手はグランドワームよりも大きい相手だ。単に数を集めて叩くとしても、そう簡単な話ではない。ましてや地底という場所だ。魔導アーマーが何処まで実力を発揮できるか分からない。
「その点はワシに任せておけ」
八原の不安に対してヨアキムが胸を張る。
何やら裏で準備を開始しているようだが、ヨアキムの頑張りの方に不安を覚えてしまう。
「分かりました。イニシャライザーが届くまで時間がかかります。それまでに敵が現れたら……」
「ヴェルナー様、敵が現れました! 第二採掘場の多数の歪虚です!」
ヴェルナーの言葉を遮るように、部下が駆け込んできた。
予想通りの動きに思わずため息をつく。
「敵を撃退します。なるべく敵にダメージを与えて時間を稼いで下さい」
●
「姐さん、なんであたしらが直接手を下すんです? ロックワンで一気に押しつぶせばいいじゃない?」
モルッキーと呼ばれるノッポのモグラがトーチカ・J・ラロッカへ問いかける。
このまま進めば敵と遭遇するのは確実。ロックワンを使えば一気に突き進む事も不可能では無い。
モルッキーの言葉にデブのモグラであるセルトポも同調。
「そうでおますなー。その方が楽ちんでおます」
「相変わらずの馬鹿だねぇ。そんな事をすればあっという間に終わっちまうじゃないのさ。今後を考えれば、ロックワン抜きでもあたしらが強いって事を教えてあげないとねぇ」
トーチカはロックワンを使わず、自身の戦力で人類と対峙するつもりだ。
ロックワンを使わなければ勝てないと人類に思われるのは癪だ。面倒この上ないが、ここで強さを見せつけておけば人類は必ず戦いを躊躇する。
「ロックワンは戦う為に使っているんじゃないの。目的を達するために必要。下手に戦って傷物にされても困るしねぇ」
煙管を吸って、煙を吐き出すトーチカ。
心なしか、煙は蝶の形となって消えていく。
「さすが姐さん! 先々まで考えているとは。そこに痺れる憧れるぅ!」
「褒めたって何もでないよ。それよりあたしらの強さを教えてやらないとねぇ……あんた達、やっておしまいっ!」
●採掘実験と、それから……(1月10日公開)

ヴェルナー・ブロスフェルト

カペラ

キュジィ・アビトゥーア

ヨアキム
「失礼します」
要塞管理者ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の執務室を訪れたのは、工房管理官のアルフェッカとドワーフ工房を事実上取り仕切るドワーフのカペラ(kz0064)であった。
「おや、二人揃ってとは珍しいですね。何か問題がありましたか?」
「はい。実は鉱物性マテリアルの供給が追いつきません」
「そうなんです。ドワーフの採掘担当が総力を挙げているのですが、どうしても需要の方が……」
アルフェッカの報告にカペラが補足する。
辺境のドワーフ工房は、帝国と友好な関係を継続している。
他国の発注も受け付けるが帝国からの発注は工房管理官がまとめてドワーフ工房へ発注する。ドワーフにとっては大口の顧客である事からこのような役職が設けられているのだが、最近鉱物性マテリアルの供給が追いつかない為に帝国側への納品が滞るケースが見られるケースもあるという。
「なるほど、報告によれば採掘量は一定しています。となれば、需要の方が増大していると考えるべきでしょうか」
ヴェルナーは報告書に視線を落とす。
報告によればドワーフ工房における鉱物性マテリアルの供給は下落していない。むしろ毎月同程度の採掘量を確保できている。しかし、それでも納品が滞るのであれば帝国の発注量が大幅に増大したのでもない。
「確かに帝国の発注量は増えていますが、大幅に発注が増えてはいません。工房管理官として発注量の調整しています」
自分の職務は適正だと主張するアルフェッカ。
事実、帝国はエルフ関連の騒乱で発注量は上がっている。しかし、その量だけで供給不足に陥るとは考えられない。
「そうですか。帝国でないとすれば……連合軍ですか」
「そうです。ハンターのCAMや魔導アーマーが行動するようになってから飛躍的に発注が上がっています」
カペラが鉱物性マテリアル供給不足の原因を語る。
ハンターがCAMや魔導アーマーを対歪虚戦へ持ち込むようになった上、クリムゾンウェスト各地へ戦乱が広がった関係から鉱物性マテリアルの需要が高まっているのである。
同盟など他国でも増産を続けているが、鉱物性マテリアルの需要が減る気配はない。
「対歪虚は今後も継続するでしょうから、需要が減るとは思えません。
アルフェッカさん、何か……良い案はありませんか?」
ヴェルナーはアルフェッカへ向き直る。
アルフェッカが単にヴェルナーへ悪い報告を話す為に来たのではない。そうでなければカペラもこの場に同伴させるはずがない。
何か提案がある。
そう考えたからこそ、ヴェルナーはアルフェッカへ話を振ったのだ。
「はい。ドワーフ工房側と相談させていただいたのですが……帝都へ魔導アーマー配備を打診していただけないでしょうか」
「魔導アーマーを、ですか?
……なるほど。発案はあなたでしたか。理由を伺いましょうか、お嬢さん」
ヴェルナーはカペラが毅然とした態度である事に気付いた。
カペラにとってこの提案は是非とも通したい案件なのだ。だからこそ、アルフェッカと共に『勝負の場』へ赴いた。
「ドワーフの採掘は……今も手掘りなんです」
「手掘り?」
「そうです。昔ながらの方法で鉱物を採取しています。彼らが採掘した物をフェルツやクレムトが加工、エテルタが薬品を配合していました。 でも、この方法では限界です。連合軍を支える為には、今までのやり方を変えないといけないんです」
カペラは、力説する。
辺境ドワーフは採掘担当が採掘した鉱物をそれぞれの担当が加工する。フェルツがマテリアル鉱を加工して、クレムトが通常の金属を加工する。エテルタは薬品や染色など様々な配合を担当して一つの武具を製作する。
それも今までの需要であれば十分にやっていけたのだ。
だが、今は有事。対歪虚により需要は高まっている。その需要が採掘担当へしわ寄せとして集まり始めたのだ。カペラはこの事態に対して魔導アーマーによる採掘で鉱物そのものの増産を図ろうとしていたのだ。
「鉱物性マテリアルの採掘量を増産するのであれば不可能ではありません。ですが、フェルツやクレムトの職人を採掘へ回す事になれば他の発注にも影響がでます」
「…………」
ヴェルナーはカペラの言葉を聞きながら、考えをまとめ始める。
ここで魔導アーマーを断れば、帝都の指示で増産を指示された段階で破綻する。そればかりかドワーフからの信頼を失う事になりかねない。
採掘用途ならば、何も最新式の魔導アーマーである必要はない。量産体制に乗っている魔導アーマーを帝都から回して貰えばいい。帝都への理由が必要であればノアーラ・クンタウ防衛の為と称しても構わない。
ならば――。
「分かりました。できる限りの事はやってみましょう」
ヴェルナーの一言に、アルフェッカとカペラは笑顔を浮かべる。
緊張した面持ちだったのだが、これで胸を撫で下ろしたようだ。
安心する二人を前に、ヴェルナーは一言だけ釘を刺した。
「あくまでもこの魔導アーマーはドワーフへ貸し出しとします。
いいですか、くれぐれも『壊さないように』お願いしますね」
●
そして、数週間後。
辺境ドワーフの城『ド・ウェルク』へ魔導アーマーが配備された。
あくまでも帝国から辺境ドワーフへ貸し出された機体である事から武装は解除されている。それでも魔導アーマーで採掘できれば鉱物の採掘量は各段に上がる。
配備完了を聞いたカペラは、魔導アーマーに期待を馳せる。
そう、カペラは期待していたのだ――この時点では。
「どいて! 給仕!」
「ちょっとお待ち下さい、カペラ様。あ、それと私は執事のキュジィです」
興奮するカペラを前にキュジィ(kz0078)が大慌てで行く先を阻もうとする。
カペラの表情を見ればかなり立腹しているのは、誰が見ても明らか。その怒り具合がはっきりと分かるからこそ、キュジィも力づくで止められない。
「ここね」
カペラは勢い良く目の前の扉を開いた。
確かここは配備された魔導アーマーが格納されていたはずだ。
そして事前情報ではドワーフ王のヨアキム(kz0011)が魔導アーマーに興味を示していたらしい。
そこから導き出される未来予想図。それはカペラにとって頭痛の種でしかない。
「なに、これ……」
扉の向こうに現れた魔導アーマー。
それは配備時と比較して外観が変わっていた。
配備された時には二脚だった魔導アーマー。それが何故か六脚になっているのはまだマシだ。両肩に盾とトゲが付けられた機体や右腕がバルカン砲、酷い機体は操縦席に冷蔵庫を完備。採掘しながら酒を飲める機能まで付与されていた。
「お、カペラじゃねぇか。どうだ、この魔導アーマー辺境カスタムは?」
「どうだじゃないでしょ、お父さん! この機体は鉱物を採掘するために帝国から借りた物なのよ! なんで改造しちゃったの?」
「そりゃー、おめぇ。職人の腕が疼きやがったのよ。こいつらも新たな力を手に入れたいってワシに言っている気がしてな。採掘している最中に見つけた良く分からんパーツを取り付けてやったんだ。ぶわっはっは!」
カペラが思い浮かべていた最悪の展開。
それは帝国から借りた魔導アーマーをヨアキムが勝手に改造する事。
魔導アーマー導入に対する体制整備を進めていた為に、魔導アーマーそのものにまで気が回らなかったのは失敗だった。既に魔導アーマーは派手な改造が施され原型はない。挙げ句、『辺境カスタム』などという意味不明な単語まで付けられる始末だ。
「カペラ様、あのパーツは?」
「あれは採掘担当がたまに拾ってくる謎の赤いパーツなの。材質も分からないけど、とにかく丈夫で。
調べる為に城の物置に入れておいたんだけど……頭痛くなってきちゃった」
頭痛を訴える、カペラ。
その脳裏には魔導アーマーへ正体不明のパーツを付与して調子に乗るヨアキムが浮かぶ。
そして――それだけに終わらない。
「あー! ヨアキム様、魔導エンジンまで外しちゃったんですか!?」
キュジィが悲鳴にも上げた声を上げる。
そこには魔導アーマーに付けられていた帝国技術の結晶である魔導エンジンが床に転がっていた。見れば、機体の方には魔導エンジンの代わりに複数の丸いパーツが取り付けられている。
「ああ、今回の目玉の一つだ。おめえら、鉱物性マテリアルが必要なんだろ? なのに、鉱物性マテリアルを消費する機体を採掘使ったら意味ねぇだろ。
だから、ワシが新型エンジンを搭載しておいた。辺境の純正新型魔導エンジン――名付けて『QSエンジン』だ。こいつの燃料にマテリアルは必要ねぇ。稼働実験も済んでいるからいつでも採掘へ行けるぜ」
「……は?」
魔導エンジンは帝国錬魔院の技術者が尽力して作り上げた代物だ。
それを馬鹿の四番バッターであるヨアキムが別の形で魔導エンジンを生み出したという。
ジェットコースター級の展開で疲労困憊のカペラ。
手近の椅子に腰掛けて頭を抱えている。
「キュジィ。悪いんだけど、お水を持ってきて貰える?」
「はい……あの、その、お察ししますね」
●
辺境某所。
実はあの新型魔導エンジン『QSエンジン』はヨアキム一人で完成させたのではない。ある協力者が存在した事で完成した逸品なのだ。
その協力者の元へ、エンジンの稼働実験成功の一報が入った。
「さすがはドワーフの王であります! ささ、我輩も協力者として名乗りを上げて王の威厳を皆に示すであります!」
協力者を名乗るその『生物』は、いそいそとドワーフの地下城『ヴェドル』へ向かうのであった。
(執筆:近藤豊)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●地底に蠢くもの(1月27日公開)

チューダ

久延毘 大二郎

ラティナ・スランザール

ファリフ・スコール

クレール・ディンセルフ

ヴェルナー・ブロスフェルト

ザレム・アズール

ヨアキム

ロベリア・李

バタルトゥ・オイマト
我輩であります! みんなの偉大なる王、チューダでありますよ!」
自称『幻獣王』チューダ(kz0173)は、大型のシマエナガに似た風体の大幻獣テルルとの再会を喜んだ。
幻獣の森に身を隠す幻獣も多く存在しているが、中にはひっそりと隠れ住んでいる幻獣もいる。長命な幻獣もいる中ではチューダも長年出会えない大幻獣も存在する。
「旧知の仲だったか。では、あの赤いカマキリのような機体について何か知っているか?」
発掘物の学術調査に赴いていた久延毘 大二郎(ka1771)は、チューダに謎の機体について問いかける。
調査中、突如赤いカマキリの姿をした謎の機体が現れた。敵かと思われたものの、中から現れたのは白くて丸い飛行帽を被ったテルル。恐ろしさよりも可愛らしさが優先されていた。
「我輩もその機体については知らないであります。でも、テルルは昔から幻獣でありながら魔導が大好きだったであります。きっと遺跡から拾い集めて作ったで……」
「てめぇこら! 勝手に喋るんじゃねぇ!
俺っちはお前らの味方になった記憶はねぇぞ!」
ベラベラとテルルの事を喋り出すチューダに対して、テルルはクチバシによる突き攻撃を繰り出す。硬いクチバシがチューダにバシバシと突き刺さる。
「痛い! 痛いであります! 我輩、みんなの為を思って……」
「うるせえ! どうせしゃしゃり出てロクな事をしてねぇんだろ!」
図星――さすがテルルも大幻獣。
チューダの性格を熟知しているようだ。
「まあまあ。ここで暴れても仕方ない。落ち着けって」
テルルとチューダの間に割って入るラティナ・スランザール(ka3839)。
興奮するテルルに対してチューダはボコボコになっている。
「邪魔するんじゃねぇ! 言ってるだろう、味方になった覚えはねぇ!」
「そうかもしれないが、共闘はできるんじゃないか? 歪虚には困っているんだろ?」
ラティナの一言にテルルは黙るしかなかった。
最近になって歪虚が地底に姿を見せるケースが多くなった。理由は明確ではないが、ハンターとしても歪虚を放置しておく訳にはいかない。
「ちっ、確かお前らも歪虚を倒しているんだったな。俺っちの住処である遺跡にまで現れやがって……ま、まあお前らがどうしても俺っちを手伝いたいというなら、共闘してやってもいいぜ」
「ああ、是非『共闘』を頼む」
ラティナはテルルに話を合わせる。
機体性能は謎だが、魔導アーマーとしてもそのスペックはかなり高い。戦力としてはチューダよりも数段役に立つはずだ。
「あ、あれ? チューダ、なんでここに? それに見た事無い幻獣もいるみたいだけど」
そこへちょうどファリフ・スコール(kz0009)とクレール・ディンセルフ(ka0586)が通りかかる。
「うわあああんっ! あんまりでありますうううぅぅぅ!」
テルルに突かれ倒したチューダは、クレールの胸元へ飛び込む。
状況を理解していないクレールも思わず狼狽する。
「え? 何? なんでチューダがこんなに傷だらけなの? 大丈夫?」
泣きじゃくるチューダを慰めようとするクレール。
その優しさに甘えるチューダは、ちょっと鼻にかかった声で甘えてみせる。
「テルルが、我輩を……えっぐっ……イジめるであります」
「ちっ、人間に助けを求めるたぁ相変わらず情けねぇ奴だ。幻獣なら自分で何とかしろってぇんだ」
悪態をつくテルル。しかし、その外見の可愛らしさから迫力は一切ない。
「ところで、ファリフ君。君は何故この地底に?」
大二郎はファリフへ問いかける。
その理由はある程度予想できるが、大二郎は敢えてファリフに理由を聞き出そうとしていた。
「あ、ヴェルナーから部族会議へ救援要請があったんだ。地底から歪虚が侵攻しているって」
●
「トーチカ・J・ラロッカ。それが敵の指揮官です」
辺境要塞管理者ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、集まった者達へ状況を説明する。
魔導アーマーの採掘実験中に遭遇した歪虚のトーチカ。ハンターを前に不敵な行動を見せた後、再び来た道を引き返すように地底へと消えていったらしい。
「今まで敵が移動する坑道はなかったのでしょう? 敵はどうやってそんな坑道を作れたのでしょう? あまりにも短期間に構築しています」
ザレム・アズール(ka0878)は疑問を口にする。
ドワーフは自分の採掘鉱山を熟知している。合わせてそこに至る坑道もすべて把握している。しかし、トーチカはドワーフも把握していない坑道を通って姿を見せた。もしトーチカが坑道を作ったとすれば驚くべき早さで進んでいる事になる。
「その理由はおそらく『ロックワン』と呼ばれる巨大グランドワームです。最近頻発していた地震もロックワンが原因でしょう」
ヴェルナーが口にしたロックワンという名称はトーチカとその部下が口にしていた。
合わせてヨアキム(kz0011)がQSエンジン実験中に遭遇した巨大な白い蛇。その蛇こそがロックワンと呼ばれる巨大グランドワームに違いない。
「ああ、ワシらが見た奴がそのロックワンって奴なら相当デカいぞ」
魔導アーマーの数倍にも匹敵する巨大なグランドワーム。
龍園で目撃された同種よりももっと巨大と考えた方が良いだろう。
「で、そのロックワンが進んだ道をトーチカは進んできたって訳か。
ロックワンは真っ直ぐこのヴェドルへ向かっているのか?」
「……いや、そうではない……明らかに迷走している」
ロベリア・李(ka4206)が気にしていた疑問に、部族会議のバタルトゥ・オイマト(kz0023)が答える。
報告によればロックワンは真っ直ぐドワーフの地下城『ヴェドル』へ向かっていない。
言うなれば地下を迷走している状況だ。単なる地下侵攻では無いと見るべきだろう。
「ご指摘通り、何かの理由で地底を徘徊しています。ですが、このままではヴェドルへ到達するのも時間の問題です。倒すしかありません。
既に私の方から龍園で使われたイニシャライザーの手配を連合軍へ行っておきました。それがあればロックワンの侵攻を阻害する事ができるはずです」
ヴェルナーは既に対ロックワンに動き出していた。
連合軍からイニシャライザーを入手して迷走するロックワンを追い込むべく準備を始めていた。
「でも、追い詰めてどうするのよ? 相手は魔導アーマーより大きいんじゃ、決定打に欠けない?」
八原 篝(ka3104)は不安を抱く。
相手はグランドワームよりも大きい相手だ。単に数を集めて叩くとしても、そう簡単な話ではない。ましてや地底という場所だ。魔導アーマーが何処まで実力を発揮できるか分からない。
「その点はワシに任せておけ」
八原の不安に対してヨアキムが胸を張る。
何やら裏で準備を開始しているようだが、ヨアキムの頑張りの方に不安を覚えてしまう。
「分かりました。イニシャライザーが届くまで時間がかかります。それまでに敵が現れたら……」
「ヴェルナー様、敵が現れました! 第二採掘場の多数の歪虚です!」
ヴェルナーの言葉を遮るように、部下が駆け込んできた。
予想通りの動きに思わずため息をつく。
「敵を撃退します。なるべく敵にダメージを与えて時間を稼いで下さい」
●

トーチカ・J・ラロッカ
モルッキーと呼ばれるノッポのモグラがトーチカ・J・ラロッカへ問いかける。
このまま進めば敵と遭遇するのは確実。ロックワンを使えば一気に突き進む事も不可能では無い。
モルッキーの言葉にデブのモグラであるセルトポも同調。
「そうでおますなー。その方が楽ちんでおます」
「相変わらずの馬鹿だねぇ。そんな事をすればあっという間に終わっちまうじゃないのさ。今後を考えれば、ロックワン抜きでもあたしらが強いって事を教えてあげないとねぇ」
トーチカはロックワンを使わず、自身の戦力で人類と対峙するつもりだ。
ロックワンを使わなければ勝てないと人類に思われるのは癪だ。面倒この上ないが、ここで強さを見せつけておけば人類は必ず戦いを躊躇する。
「ロックワンは戦う為に使っているんじゃないの。目的を達するために必要。下手に戦って傷物にされても困るしねぇ」
煙管を吸って、煙を吐き出すトーチカ。
心なしか、煙は蝶の形となって消えていく。
「さすが姐さん! 先々まで考えているとは。そこに痺れる憧れるぅ!」
「褒めたって何もでないよ。それよりあたしらの強さを教えてやらないとねぇ……あんた達、やっておしまいっ!」
(執筆:近藤豊)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●緊急事態! すべてはチューダに……(2月15日公開)
「まったく。お前達は、本当にだらしないねぇ」
トーチカ・J・ラロッカは部下のモグラコンビに説教中だった。
ドワーフの第二採掘場へ突貫したまでは良かったが、ハンターの前にトーチカ一味は敗走。デブモグラのセルトポも、ノッポモグラのモルッキーも痛い目を見て逃げ帰ってきたのだ。
「もうそんな事言ったって、相手も結構やりますのよ」
「でも、おいは知ってる。姐さんもやられて逃げ帰ってきたでおます」
セルトポの一言でトーチカは、一瞬固まる。
実は当のトーチカもハンターの前に手酷くやられて撤退していたのだ。
つまり、自分の事を棚に上げて盛大にモグラコンビを説教していた事になる。
「うるさいうるさい、うるさーーいっ!
あたしの事はどうだっていいのよ! それよりモルッキー、どうするのよ?」
「そーですなー。敵もかなり強いですからねぇ。
こうなったら思い切って今月のビックリドッキリプランと言っちゃいましょう」
モルッキーは腕を組みながら、不敵な笑みを浮かべる。
その横で首を捻るセルトポ。
「プラン? なんでおます? プリンの仲間でおますか?」
「プランよ、プラン。計画って意味よ。
……で、どーするのよ。モルッキー」
トーチカはワクワクしながらモルッキーを見つめている。
三馬鹿から炸裂する作戦なのだからロクでも無い代物なのだが……。
「全国の女子中学生の皆さーん。注目っ!
なんと、我が一味の切り札『ロックワン』を先行させて一気に敵陣を蹂躙しちゃいまーす!」
「おおっ! それならあたし達も余裕で勝てそうじゃないのさ!」
モルッキーの案にトーチカは喜んだ。
トーチカが使役している大型グランドワーム『ロックワン』。
あの巨体が作った地底路を通ってトーチカ達はやってきたのだが、ついにロックワンを前面に押し出す案をとってきたという訳だ。
「あれ? でも、ロックワンっておい達が遺跡を……」
「こら、セルトポ! 誰が聞いているか分からないんだから、余計な事を言うんじゃないよ! この前も言ったじゃないか。忘れたのかい?」
トーチカは慌ててセルトポの口を塞ぐ。
三馬鹿は三馬鹿なりに何かしら意図を動いているようなのだが……。
「敵に勝つにはこれしかりませんわね。どうされます、姐さん?」
モルッキーは、トーチカに視線を移す。
それを受けてトーチカは力強く立ち上がる。
「決まってるじゃないのさ。すぐにロックワンを呼び寄せて進軍だよ。
お前達っ、遅れるんじゃないよ!」
「あいあいさー!」
モグラコンビは、横に並び揃って敬礼。
こうして連合軍と三馬鹿の新たなる戦いが始まろうとしていた。
●
「イニシャライザーの制御システムですか」
辺境要塞管理者ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、報告を受けて満足そうな笑みを浮かべる。
辺境ドワーフ攻防を取り仕切るカペラ(kz0064)の説明によれば、イニシャライザーの起動を離れた場所から制御できるシステムだという。
「問題は思ったほど離れた場所で制御できないから、どうしても制御する人は危険が伴うの。あと開発中のシステムだから長時間の利用は無理ね」
「十分ですよ。制御システムの護衛は不可欠ですが、作戦遂行に問題ありません」
カペラの告げる問題点。
それは制御システムを遠く話す事ができないため、イニシャライザーの近くで行う必要がある事。
もう一つは、長時間の稼働ができない事。
それでもヴェルナーは、制御システムに問題ないとの判断を下した。
「十分、です。ハンターも……います。それに、ヴェルナーさんが良いと仰って……おられます」
桜憐りるか(ka3748)は、ヴェルナーの言葉を補足する。
制御システムに危機が陥る事になるならば、ハンターや帝国の軍人が守る事もできる。
もっとも、りるかは視線の先にいるヴェルナーに期待を寄せているようだ。
「ふふ、ありがとうございます。あなたの期待に添えられるよう最善を尽くします」
「できれば、今回の作戦について教えていただけないでしょうか」
守原 有希弥(ka0562)がヴェルナーに対して問いかけた。
如何にハンターであっても作戦の全体像が分からなければ充分な成果を出す事は難しい。単に歪虚を撃退するだけではなく、作戦全体を成功に導かなければならないからだ。
その問いについて、ヴェルナーは快く答える。
「作戦は単純です。
敵は未だロックワンと呼ばれる大型グランドワームを使っていません。一度は撃退していますが、おそらく次はロックワンを用いてくるでしょう。
我々は、このロックワンは撃破します」
「でも、どうやって倒すんだい? ロックワンってCAMや魔導アーマーよりも大きいんだよね?」
アルカ・ブラックウェル(ka0790)は、話を聞いていた者達の疑問を口にする。
大型グランドワームと表現しているが、その大きさはかなりの物だ。
CAMよりも大きい存在が地中を縦横無尽に蠢いている。仮に追いかけたとしても、その巨体を使ってさらに地中へと逃げてしまう。
その問いについてもヴェルナーは、動揺する事なく答える。
「この連合軍から貸与されたイニシャライザーでロックワンを追い詰めます。
龍園からの報告では、グランドワームはこのイニシャライザーから逃れるようにしていたそうです。であれば、このロックワンも必ずこのイニシャライザーから逃れるように動くはずです」
「攻撃を加えつつ、ロックワンをこちらの用意した罠へ追い込むのですね」
有希弥の一言に、ヴェルナーは大きく頷く。
「その通りです。イニシャライザーとハンターの皆さんの攻撃でロックワンを特定の場所へ追い込みます」
「じゃあ、その罠って何? 相手はもの凄く大きいんでしょ」
罠という言葉を聞いてテンシ・アガート(ka0589)は考えてみる。
しかし、相手はCAMよりも巨大な存在。
そんな相手にどのような罠が使えるというのか。
「ええ。その罠ですが、ヨアキムさんにお願いを……」
「ヴェルナーさんっ!」
ヴェルナーの声を遮るようにドワーフが駆け込んできた。
息を切らせている辺り、何か問題が発生したようだ。
「おや、そんなに息を切らせてやってくるとは……何かありましたか?」
「アニキが呼んでます。問題発生だそうです」
アニキ――ヨアキム(kz0011)の呼び出し。
この状況に、その場に居たハンター達は一抹の不安を覚えた。
●
「ひっひっふー、ひっひっふー……」
ヨアキムの前では幻獣王チューダ(kz0173)が床で寝転んでいた。
普段と異なりかなり呼吸が乱れている。
呼ばれて姿を見せたヴェルナーにとっては、状況がさっぱり分からない。
「すいません。どなたか状況を説明していただけませんか?」
「あのね。あそこにあるでっかい大砲のエネルギーを充電しようとしてたの」
宵待 サクラ(ka5561)は、後方にある巨大な大砲を指差した。
地下にありながらもその巨大さは異様と表すに値する。
「あれは……」
「決戦兵器『ロックワンバスター』。ヴェルナーに頼まれて作ってたロックワンを倒す為の兵器だ」
ヨアキムが答える。
実はヴェルナーはヨアキムへロックワン撃破の為の兵器を準備していた。
予定ではロックワンを第二採掘場へ誘導。そこへ追い込んだ後、ロックワンバスターで一気に止めを刺すはずだった。
状況から、このロックワンバスターに問題が発生した事は明白であった。
「問題は、あのロックワンバスターに搭載されたエンジンなんだ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が指し示す大きく丸い物体。
ヴェルナーの記憶では、物体を小型化した物はQSエンジンと呼ばれる代物である。幻獣キューソが中に入って歯車を回す事でマテリアルを生じさせるというものだ。
それに比較するとかなり大がかりな仕掛けだ。
「『チューダエンジン』。そういう名前だそうじゃ。なんでも、QSエンジンよりも凄いらしいのぅ」
ヨアキムからの説明を、記憶を辿りながら口にするヴィルマ・ネーベル(ka2549)。
チューダエンジンはその名の通りチューダが中に入って回す事で大規模なマテリアルを生じさせる仕掛けである。
チューダはその逃げ足に定評のある存在として知られている。
その逃げ足を生かしてチューダエンジンを製作したヨアキムだったが、ここで大きな問題があったようだ。
「どういう事ですか?」
「つまり、チューダがチューダエンジンを回せないんだ」
水流崎トミヲ(ka4852)は、改めて状況を説明する。
当初、チューダは自慢の逃げ足を生かしてチューダエンジンを回そうとしていた。
だが、30秒程度でダウン。予定よりも大幅に短い時間で息切れしてしまったという訳だ。
「所謂、運動不足ですね」
それがヴェルナーの見解であった。
日頃、チューダは幻獣の森でご飯を食べさせて貰い、巫女の膝枕の上でグーグー寝るだけの生活を送っていた。元々丸い体型もさらに丸みが強まり、幻獣としての運動能力は著しく低下していた。
その結果、逃げ足も鈍った挙げ句、少し走っただけで息切れを起こすようになっていたのだ。
ハンター達も思い返せば、チューダが食っちゃ寝しているシーンしか思い浮かばない。
「おいおい。これじゃ、ロックワンバスターは発射できねぇぞ!」
「本当、困りましたねぇ」
ヨアキムが叫ぶ中、ヴェルナーは笑みを浮かべながら思案する。
運動不足のチューダ。
ロックワンは確実にこちらへ向かっている。
連合軍の作戦開始時間は、着実に近づいていた。
トーチカ・J・ラロッカは部下のモグラコンビに説教中だった。
ドワーフの第二採掘場へ突貫したまでは良かったが、ハンターの前にトーチカ一味は敗走。デブモグラのセルトポも、ノッポモグラのモルッキーも痛い目を見て逃げ帰ってきたのだ。
「もうそんな事言ったって、相手も結構やりますのよ」

トーチカ・J・ラロッカ
セルトポの一言でトーチカは、一瞬固まる。
実は当のトーチカもハンターの前に手酷くやられて撤退していたのだ。
つまり、自分の事を棚に上げて盛大にモグラコンビを説教していた事になる。
「うるさいうるさい、うるさーーいっ!
あたしの事はどうだっていいのよ! それよりモルッキー、どうするのよ?」
「そーですなー。敵もかなり強いですからねぇ。
こうなったら思い切って今月のビックリドッキリプランと言っちゃいましょう」
モルッキーは腕を組みながら、不敵な笑みを浮かべる。
その横で首を捻るセルトポ。
「プラン? なんでおます? プリンの仲間でおますか?」
「プランよ、プラン。計画って意味よ。
……で、どーするのよ。モルッキー」
トーチカはワクワクしながらモルッキーを見つめている。
三馬鹿から炸裂する作戦なのだからロクでも無い代物なのだが……。
「全国の女子中学生の皆さーん。注目っ!
なんと、我が一味の切り札『ロックワン』を先行させて一気に敵陣を蹂躙しちゃいまーす!」
「おおっ! それならあたし達も余裕で勝てそうじゃないのさ!」
モルッキーの案にトーチカは喜んだ。
トーチカが使役している大型グランドワーム『ロックワン』。
あの巨体が作った地底路を通ってトーチカ達はやってきたのだが、ついにロックワンを前面に押し出す案をとってきたという訳だ。
「あれ? でも、ロックワンっておい達が遺跡を……」
「こら、セルトポ! 誰が聞いているか分からないんだから、余計な事を言うんじゃないよ! この前も言ったじゃないか。忘れたのかい?」
トーチカは慌ててセルトポの口を塞ぐ。
三馬鹿は三馬鹿なりに何かしら意図を動いているようなのだが……。
「敵に勝つにはこれしかりませんわね。どうされます、姐さん?」
モルッキーは、トーチカに視線を移す。
それを受けてトーチカは力強く立ち上がる。
「決まってるじゃないのさ。すぐにロックワンを呼び寄せて進軍だよ。
お前達っ、遅れるんじゃないよ!」
「あいあいさー!」
モグラコンビは、横に並び揃って敬礼。
こうして連合軍と三馬鹿の新たなる戦いが始まろうとしていた。

ヴェルナー・ブロスフェルト

カペラ

桜憐りるか

守原 有希弥

アルカ・ブラックウェル

テンシ・アガート

ヨアキム

チューダ

宵待 サクラ

レイオス・アクアウォーカー

水流崎トミヲ
「イニシャライザーの制御システムですか」
辺境要塞管理者ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、報告を受けて満足そうな笑みを浮かべる。
辺境ドワーフ攻防を取り仕切るカペラ(kz0064)の説明によれば、イニシャライザーの起動を離れた場所から制御できるシステムだという。
「問題は思ったほど離れた場所で制御できないから、どうしても制御する人は危険が伴うの。あと開発中のシステムだから長時間の利用は無理ね」
「十分ですよ。制御システムの護衛は不可欠ですが、作戦遂行に問題ありません」
カペラの告げる問題点。
それは制御システムを遠く話す事ができないため、イニシャライザーの近くで行う必要がある事。
もう一つは、長時間の稼働ができない事。
それでもヴェルナーは、制御システムに問題ないとの判断を下した。
「十分、です。ハンターも……います。それに、ヴェルナーさんが良いと仰って……おられます」
桜憐りるか(ka3748)は、ヴェルナーの言葉を補足する。
制御システムに危機が陥る事になるならば、ハンターや帝国の軍人が守る事もできる。
もっとも、りるかは視線の先にいるヴェルナーに期待を寄せているようだ。
「ふふ、ありがとうございます。あなたの期待に添えられるよう最善を尽くします」
「できれば、今回の作戦について教えていただけないでしょうか」
守原 有希弥(ka0562)がヴェルナーに対して問いかけた。
如何にハンターであっても作戦の全体像が分からなければ充分な成果を出す事は難しい。単に歪虚を撃退するだけではなく、作戦全体を成功に導かなければならないからだ。
その問いについて、ヴェルナーは快く答える。
「作戦は単純です。
敵は未だロックワンと呼ばれる大型グランドワームを使っていません。一度は撃退していますが、おそらく次はロックワンを用いてくるでしょう。
我々は、このロックワンは撃破します」
「でも、どうやって倒すんだい? ロックワンってCAMや魔導アーマーよりも大きいんだよね?」
アルカ・ブラックウェル(ka0790)は、話を聞いていた者達の疑問を口にする。
大型グランドワームと表現しているが、その大きさはかなりの物だ。
CAMよりも大きい存在が地中を縦横無尽に蠢いている。仮に追いかけたとしても、その巨体を使ってさらに地中へと逃げてしまう。
その問いについてもヴェルナーは、動揺する事なく答える。
「この連合軍から貸与されたイニシャライザーでロックワンを追い詰めます。
龍園からの報告では、グランドワームはこのイニシャライザーから逃れるようにしていたそうです。であれば、このロックワンも必ずこのイニシャライザーから逃れるように動くはずです」
「攻撃を加えつつ、ロックワンをこちらの用意した罠へ追い込むのですね」
有希弥の一言に、ヴェルナーは大きく頷く。
「その通りです。イニシャライザーとハンターの皆さんの攻撃でロックワンを特定の場所へ追い込みます」
「じゃあ、その罠って何? 相手はもの凄く大きいんでしょ」
罠という言葉を聞いてテンシ・アガート(ka0589)は考えてみる。
しかし、相手はCAMよりも巨大な存在。
そんな相手にどのような罠が使えるというのか。
「ええ。その罠ですが、ヨアキムさんにお願いを……」
「ヴェルナーさんっ!」
ヴェルナーの声を遮るようにドワーフが駆け込んできた。
息を切らせている辺り、何か問題が発生したようだ。
「おや、そんなに息を切らせてやってくるとは……何かありましたか?」
「アニキが呼んでます。問題発生だそうです」
アニキ――ヨアキム(kz0011)の呼び出し。
この状況に、その場に居たハンター達は一抹の不安を覚えた。
●
「ひっひっふー、ひっひっふー……」
ヨアキムの前では幻獣王チューダ(kz0173)が床で寝転んでいた。
普段と異なりかなり呼吸が乱れている。
呼ばれて姿を見せたヴェルナーにとっては、状況がさっぱり分からない。
「すいません。どなたか状況を説明していただけませんか?」
「あのね。あそこにあるでっかい大砲のエネルギーを充電しようとしてたの」
宵待 サクラ(ka5561)は、後方にある巨大な大砲を指差した。
地下にありながらもその巨大さは異様と表すに値する。
「あれは……」
「決戦兵器『ロックワンバスター』。ヴェルナーに頼まれて作ってたロックワンを倒す為の兵器だ」
ヨアキムが答える。
実はヴェルナーはヨアキムへロックワン撃破の為の兵器を準備していた。
予定ではロックワンを第二採掘場へ誘導。そこへ追い込んだ後、ロックワンバスターで一気に止めを刺すはずだった。
状況から、このロックワンバスターに問題が発生した事は明白であった。
「問題は、あのロックワンバスターに搭載されたエンジンなんだ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が指し示す大きく丸い物体。
ヴェルナーの記憶では、物体を小型化した物はQSエンジンと呼ばれる代物である。幻獣キューソが中に入って歯車を回す事でマテリアルを生じさせるというものだ。
それに比較するとかなり大がかりな仕掛けだ。
「『チューダエンジン』。そういう名前だそうじゃ。なんでも、QSエンジンよりも凄いらしいのぅ」
ヨアキムからの説明を、記憶を辿りながら口にするヴィルマ・ネーベル(ka2549)。
チューダエンジンはその名の通りチューダが中に入って回す事で大規模なマテリアルを生じさせる仕掛けである。
チューダはその逃げ足に定評のある存在として知られている。
その逃げ足を生かしてチューダエンジンを製作したヨアキムだったが、ここで大きな問題があったようだ。
「どういう事ですか?」
「つまり、チューダがチューダエンジンを回せないんだ」
水流崎トミヲ(ka4852)は、改めて状況を説明する。
当初、チューダは自慢の逃げ足を生かしてチューダエンジンを回そうとしていた。
だが、30秒程度でダウン。予定よりも大幅に短い時間で息切れしてしまったという訳だ。
「所謂、運動不足ですね」
それがヴェルナーの見解であった。
日頃、チューダは幻獣の森でご飯を食べさせて貰い、巫女の膝枕の上でグーグー寝るだけの生活を送っていた。元々丸い体型もさらに丸みが強まり、幻獣としての運動能力は著しく低下していた。
その結果、逃げ足も鈍った挙げ句、少し走っただけで息切れを起こすようになっていたのだ。
ハンター達も思い返せば、チューダが食っちゃ寝しているシーンしか思い浮かばない。
「おいおい。これじゃ、ロックワンバスターは発射できねぇぞ!」
「本当、困りましたねぇ」
ヨアキムが叫ぶ中、ヴェルナーは笑みを浮かべながら思案する。
運動不足のチューダ。
ロックワンは確実にこちらへ向かっている。
連合軍の作戦開始時間は、着実に近づいていた。
(執筆:近藤豊)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)