ゲスト
(ka0000)
【落葉】これまでの経緯




リアルブルーも含め世の中色々大変そうだが、時は流れてはや数年……。
なんで今になってラズビルナムの名前を聞くことになるのかねぇ。
帝都の精霊事件で、帝国もやっと落ち着いたかと思ったんだが……やれやれだぜ。
ま、下っ端に政治の事はよくわからん。せいぜい言われた仕事を頑張りますか。
錬魔院テストパイロット:クリケット(kz0093)
更新情報(12月25日更新)
過去の【落葉】ストーリーノベルを掲載しました。
【落葉】ストーリーノベル
●プロローグ「そして革命者は是非を問う」(9月14日更新)

ブリジッタ・ビットマン

クリケット
ゾンネンシュトラール帝国、その首都バルトアンデルスの通りに、若い記者の声が響き渡る。
大柄の男が身体を縮こませ石畳に落ちた紙を拾い上げる。
「皇帝陛下は“庶民議会”の議員十名に、亜人を盛り込む事を決定した! これで残る席は六つになったぞ?!」
民衆は連日この話題で持ち切りだった。独裁軍事国家の帝国が、庶民の意見で政治をやるというのだから、話題性は確かにある。
「……が、そんなに盛り上がる事かねぇ?」
担いだ紙袋にビラをねじ込み、男は岐路を急ぐ。
帝都バルトアンデルスに聳え立つ機導術のメッカ、ワルプルギス錬魔院。そこが男の職場だった。
既に顔パスの警備を抜けて中に入り、エレベーターで移動する。
入り組んだ研究塔を迷うことなく突き進んで部屋の扉を開けると、そこには携帯ゲームで遊ぶブリジッタ・ビットマン(kz0119)の姿があった。
「遅いのよさ、デカブツー! ただの食料の買い出しにどんだけ時間かけてるのよさ!!」
「大通りが庶民議会のせいで混雑してるんだよ。これでも急いだんだぜ?」
大男――クリケット(kz0093)が研究机に紙袋を置くとほぼ同時、ブリジッタが牙を剥いて林檎を強奪する。
「で、監査の方はどうなんだい?」
「どーもこーも、ぜーんぜん終わる気配ないのよー。もう遊ぶゲームもなくなってきたのよねー」
天誓事件以降、帝国はその歴史全体の見直しを迫られた。
その中にはこのワルプルギス錬魔院についての調査も含まれている。
「錬魔院は成り立ちが複雑だからなぁ」
「ここはあたしのような天才なら外国人だろーがお子様だろーが入れちゃうような組織なのよね。てか、元犯罪者とか普通に働かせてるし、ワカメ自身も拾われっ子だしー」
「革命戦争当時は後ろ暗い研究も多かったって噂だしな。埃なんざ叩けば叩くだけドッサリだぜ」
そんなわけで、監査は長引きに長引いていた。
必要最低限の機能だけを残し、錬魔院は凍結されている。故に二人とも、長らく暇を持て余していた。

ユレイテル・エルフハイム

ヴィルヘルミナ・ウランゲル

カッテ・ウランゲル
バルトアンデルス城の迎賓室でユレイテル・エルフハイム(kz0085)が眉を顰める。
同席するハジャ・エルフハイムは気楽な様子で、テーブルに並んだフルーツを遠慮なく口に放り込んでいた。
「別にいいじゃねーか、皇子様がいいって言うんだからよ」
「ハイ。これも陛下のお考えです。先だって行われた、天誓作戦への見返りとしてご理解いただいて構いません」
「確かに、あの事件における我々の働きを評価していただけるというのはありがたい。だが、国政への直接参加というのは急ではないか? その席が限られたものだというのなら、尚の事」
庶民議会という制度について、ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)が発表したのはつい先日のこと。
帝国は元々、皇帝とその直属の部下に該当する十名の師団長からなる“騎士議会”により管理されてきた。
この騎士議会こそ、帝国が独裁国家たる所以であり、強固な軍事路線を突き進める地盤であった。
しかし皇帝は、この騎士議会と双肩をなすもう一つの政治機関、庶民議会を発足させると言うのだ。
「さほど珍しいものではありません。軍事と民事、双方の視点で互いを監視し、より健全な国政を目指すものですから」
カッテ・ウランゲル(kz0033)はティーカップをゆっくり傾け、静かに語る。
「帝国は既に、この国に存在するすべての者を“国民”と定義しています。流石に敵性存在まで一緒くたにはできませんが、エルフハイムには十分な市民権があるはずです」
「願ったりかなったりじゃねえか?。ユレイテルは何が不満なんだ?」
「ハジャ……不満なのは私ではない、世間だ。……カッテ皇子は、巷で騒がれているヴルツァライヒの噂はご存知だろう?」
ヴルツァライヒ――もう随分と聞かなくなった名前だ。
かつて帝国領ではびこっていた反政府組織だが、歪虚とのつながりが取りざたされ、歪虚もろともハンターと帝国軍により殲滅された過去を持つ。
組織の全てが消滅したわけではなく、今も涙ぐましく活動を続けていたが、弱体化の一途を辿り自然消滅も間もなくと言われていた。
そんな消えかけの反政府組織が息を吹き返したのには、理由がある。
「革命の英雄――“獅子王”ヒルデブラント・ウランゲル。失踪していたかの者が、ヴルツァライヒを率いていると」
「もちろん承知していますよ。そしてきっと、その獅子王は本物ですね」
「なぜそのようなことに……いや、そうであるならばこそ、私は亜人の国政参加への根強い不信の表れだと解釈している」
実際、ヴルツァライヒというのは旧貴族体制下への回帰を目指す組織である。
最早その目的も曖昧になりつつはあるが、旧体制下への回帰というのは亜人への反発も十分に含むだろう。しかし――。
「いや、それは違いますね」
カッテはきっぱりと答える。不安、考える余地など微塵も存在しないといった調子に。
「彼は所詮、過去の英雄、記憶喪失で責任を放り投げた愚か者です。何も問題はない。敵に回るというのなら、敵として撃滅すればよいのです」
「父王を討つことに躊躇いはないのか……そこまでして変革を急ぐ理由はなんだ?」
「この国は今、揺らいでいます。揺らぎというのは何も悪い事ばかりではないのです。揺れているからこそ、陰っているからこそ、痛みと真っすぐに向き合い、そして間違いを正す好機となるでしょう。痛みに慣れた時、人は考える事をやめてしまうから」
カッテの声は、表情は優しく穏やかだ。しかし、瞳だけは爛々と燃え盛る炎のようだ。
これはどれだけ愛らしかろうと、やはり獅子の子。そう思い知らされる。
「お互い変革を求める同士。ユレイテル・エルフハイム――その手腕に、森都の未来を賭けるお覚悟を」

ナサニエル・カロッサ

オズワルド
鉄格子ごしに彼を見つめているのは、帝国軍第一師団長のオズワルド(kz0027)。彼もまた、鉄格子の外にはいるものの、手錠をつけられていた。
ナサニエル・カロッサは今、重犯罪人としての追及を受けていた。
彼は機導術の比類なき天才。彼のおかげで実現した技術は数知れず、魔導型CAMやサルヴァトーレ・ロッソの改造など、功績は枚挙にいとまがない。
だがその数と同じ程度には、表に出せない非人道的な研究もあったのだ。
そんなことは誰もが知っていた。あの錬魔院の院長は人間ではないと。
破滅的な天才は、成果のみでその立場を辛うじて維持していた。代わりがいないという理由だけで、無罪放免となっていた。
だが、帝国が過去の歴史を正すというのなら、ナサニエルに関しても放置するわけにはいかなかった。
「俺も、革命の時にゃ少なくない数の法に触れてる。革命の直後もそうだ。時効ってわけにもいかんだろうし、ま、何らかの処分は下る」
とは言え、オズワルドの余罪など大したことはない。目の前の極悪人に比べれば。
「フロイデがお前を拾ってきた時の事、今でもはっきり覚えてるよ」
ナサニエルは話を聞いているのか聞いていないのか、簡素なベッドに仰向けに寝転がり、天井のシミをじっと見つめていた。
「あの頃の帝国は……滅茶苦茶だったな。革命の中で過去を隠そうと提案した一人が、この俺だ」
オズワルドは、この国を開いたという古い騎士の家系だった。
先祖代々貴族として皇帝の傍に仕えてきた。それを、良しとしてきた。
ファミリーネームを――騎士の位を捨てた男は、見るに堪えない過去の汚点から、かつての皇帝を守ろうとした。
そしてその汚点が未来まで汚すことがないように、蓋をするべきだと主張した。
「あの時はそれでよかった。この国の卑劣さを国民が自覚すれば、一つにまとまるなんざ不可能だったからな。ま、その償いに関しちゃ避けられねぇんだけどよ」
「私は……オズワルドとは違いますよ」
かつて、自分を拾った義理の母は言った。フロイデ・カロッサ――正統なる最後の魔女は言った。
お前に心はないと。理解することはあれど、得ることはついぞないのだと。
「あなたは他人の為に罪を犯した。私は自分の為に罪を犯した。大きな違いです」
「そんなにいいもんかね。誰かの為ってのは」
「少なくとも、尊いのではないでしょうか。まぁ……私には無縁の感情ですけどねぇ」
しみじみと呟き、ナサニエルは目を閉じる。
裁判官が余罪を調べ上げるまで、まだもう少し時間が必要らしかった。
「喜ぶのよさデカブツーッ!! 新しい仕事なのよッ!!」
ブリジッタの飛び蹴りを受けても、クリケットが体勢を崩す事はなかった。むしろブリジッタが吹っ飛んでいく。
「良かったじゃないか。オヒムのお嬢ちゃんに先輩っぷりを見せつけるチャンスだぜ」
「あんな新参者、天才のあたしの敵じゃないのよさ! ていうか一緒にくるのはあんたなのよね!」
「俺?」
男は首をかしげる。はて、錬魔院からご指名が下るような心当たりがあっただろうか。
「今、帝国は庶民議会の設立がどーとかでエキサイトしてるけど、それ以外にも解決しなければならない問題はあるのよさ! 天才の求められている新たな戦場……その名は、ラズビルナム!!」
「ラズビルナム」
復唱し、クリケットは腕を組む。
「そいつは新しい問題じゃなくて、元々あったやつじゃねぇか。懐かしいな?」
「そうなのよさ! あんたが前にやってたやつなのよ! なんでサボってるのよ職務放棄野郎ーーーッ!!」
「いやサボってるわけじゃなくて。汚染がキツ過ぎて進めなくなったんだって」
重度汚染地域、ラズビルナム。
帝国随一と言ってもいいほど強烈な負のマテリアルに汚染された場所で、過去にクリケットはその調査指揮を執っていた経験がある。
だが、帝国各地でそれどころではない事件が発生したり、北伐やら何やらがあったり、汚染を浄化する技術が不足し、攻略は難航していたのだ。
「今はエルフハイムからもらった技術とか、ボインとかハイデマリーが作った機導浄化術があるから、行けるのよさ!」
「そりゃあいけるだろうが……わざわざ今からあそこを攻略する必要性ってあるのか?」

オルクス
雑魔が際限なく湧いてくるが、ちゃんと帝国軍が包囲して警戒ラインから出てくると撃破しているし。
何がなんだかよくわからないままではあったが、ぶっちゃけもう軍事的には調査する必要性が薄いのだが……。
「なんか、四大精霊のサンダル野郎ってやつが、そこがヤバイって言ってるらしーのよさ」
「サンデルマンね」
「それなのよさ! さあーデカブツ、御託はいいからとっとと準備するのよさ! いざ、暇つぶ……任務に出発なのよさーッ!!」
「今、暇つぶしって言ったよな?」
こうして二人はラズビルナムへと向かう事となる。
それが新たな事件の始まりであることを、まだ知らぬままに。
(執筆:近藤豊)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●「忘却の彼方、途絶えた足跡」(10月5日更新)

タングラム

クリケット

ブリジッタ・ビットマン
元々攻略されていた場所であること、浄化術の進歩、ハンターの投入などがその理由で、諸々すべて予定通りの進行である。
そして攻略班は比較的安全なルートを確保し、地図も作成した上で、地下への突入口発見。
その周辺に簡単な浄化キャンプを作り、拠点として数日が経過していた。
「――なるほど。これは……普通じゃねーですね」
タングラム(kz0016)が応援に呼ばれたのには理由がある。
「一応調べてみたけど、かなり強力な結界の類だと思うわ。浄化術でどうにかできる問題じゃないわね」
錬金術師組合から派遣されたハイデマリー・アルムホルム博士が解説すると、タングラムはおもむろにそこに片手を突っ込んだ。
「別に痛くも痒くもないですが……これはソサエティのデータベースで見た事あるですよ。“異界”ってやつに似てるです」
ハンターズ・ソサエティを中心に行われた、前人未到の大地、グラウンド・ゼロの探索。
反影作戦と呼ばれたその戦いの中で観測された、“再現された異世界”……即ち異界と呼ばれるものと酷似していた。
「なんなのよさ、その異界って?」
「邪神によって再現された、既に滅びてしまった世界を再現された結界だろ? 少し前に話題になった」
「なんだぁ!? デカブツの分際で煽ってんのか!?」
クリケット(kz0093)の太ももをブリジッタ・ビットマン(kz0119)が強かに打ち付ける。
「クリケットの言う通り、邪神に汚染された土地だからこそ発生していた現象で、その発生源はソードオブジェクト――邪神の一部であるとされているです」
「つまりあれなの? ラズビルナムの地下には邪神の一部があるってことなのよね?」
「普通に考えればそういうことになるですよ」
確かにこのラズビルナムは帝国が発足するよりずっと前から存在している。
ソードオブジェクトが地下にあり、それを亜人が信仰していたとしてもおかしくはない。
「元々クリピクロウズは石碑みたいなものを使ってあちこちにワープしてたですよ。ソードオブジェクトは転移門としての能力も持っているので、辻褄が合うです」
「よりによって邪神か……。そんなレベルの話になってくると、俺らの手には負えないぜ?」
「そんなこともないんじゃね? だって本当に激ヤバの邪神くんが地下にいるのだとしたら、帝国が平和すぎるのよさ。何らかの理由で正常に稼働していない、或いはそもそも邪神ではなく類似する能力を持った何かであると考えた方が妥当なのよね」
ブリジッタの推測は間違いではない。大人たちは同時に頷く。
「逆に、まだ正常に稼働していないのなら破壊するチャンスってことか……」
「コレ、中は覗いてみたのかしら?」
「よくわからんから大事を取って見てなかったが、確か覚醒者なら異界の中は覗けたよな?」
タングラム、クリケット、ハイデマリーの三名は覚醒者だ。揃って遺跡の入り口を覆っている異界に首を突っ込む。
「「「こ……これはッ!?」」」
「おいいいいいいい!? ずるいのよさー!! あたしにも見せろーーーい!!!!」
そしてブリジッタは覚醒者ではなかった。
「めちゃくちゃ広いぞ。元々広いとは思ってたが、普通じゃないな」
「そしてもうクリピクロウズ的なもんがフツーに歩いてるですよ」
「まるで迷路みたいね……」
「大人ども、それが人間のやることか!? 見せてーーー!! あーーーしにもみーーーせーーーてーーーー!!!」
●

サンデルマン

カッテ・ウランゲル
カッテ・ウランゲル(kz0033)から報告を受けた正義の精霊サンデルマンは、バルトアンデルス城の窓辺に(小さくなって)ちょこんと腰かける。
「しかし、ブリジッタさんの言う通り、もし邪神なのであれば活動規模が小さすぎないでしょうか?」
邪神の活動目的は世界を侵食することだ。
ラズビルナムは恐らくそれを成すだけの力がある。だというのに、その力をラズビルナムという小さな世界に閉じこもることに使っているように見える。
『皇子はそれをどう見る?』
「あの地下にいる何者かは、そもそも外に出る気がないんです。出たくない、と言った方が正確でしょうか。能力は邪神に近いですが、邪神とは異なるロジックで活動している。下手につつくのは危険かもしれません」
『だが、放置もできまい……』
邪神は紀元前にこの世界を破壊した際、多くの楔を打ち込んだ。
その最大であるダモクレスは破壊されたが、“翼”から放たれた“羽”は、まだこの星の反対側に突き刺さっていることだろう。
「ダモクレスから発生した異界はすべて消えたわけですから……ラズビルナムは、ダモクレスから発生したものではないのでしょう」
『あり得る話だ』
少年はしばし、顎を撫でで思案する。
「軽く計算しましたが……放置するリスクの方が上ですね。ハンターズ・ソサエティに本格的に協力を要請しつつ、探索を進めましょう。いざという時には、帝国以外にも被害が拡散してします。それは我が国の面子に関わりますので」
『面子と言えば……父王の件はよいのか?』
「……サンデルマン、その質問は意外です。政治の話に口添えするタイプでしたか?」
小さな巨人はしばし沈黙し。
『政治の話ではない。……私の世話をしてくれる、人間の心配をしている』
「あはは……感謝致します。しかし、心配はご無用です。彼のやろうとしていることは、最初からわかっていますから」
少年は苦笑し、肩をすくめる。
「何を願ってどこに進むのか……英雄と呼ばれる者は、ただ足跡だけを残す。ならば私は私に出来ることをするだけです」
●
「自由には必ず相応の責任が伴う。それをわかっていない……いや、理解したくないのさ」
その男はヒルデブラント・ウランゲルを前にして言った。
天誓作戦が始まろうという正にその頃。二人の男は鬱蒼と生い茂った森の中、焚火を挟んで向き合っていた。
「自由っていうのは、“何をしてもいい”ということだけれど、“何をしても許される”のとは違う。考えたり、選択する権利を有するということは、その一瞬一瞬に生じる責任も請け負うってことだろ?」
人間には優劣がある。それは紛れもない事実だ。
強いもの、弱いもの。
優れたもの、劣ったもの。
姿、形、声、肌や目の色。差異と呼ばれるすべてのものは、必ず何らかの優劣を含んでいる。
「まあ、あくまで部分的なものだけどね。結局は適材適所なんだけど、それを人間は理解できない。自分が何者なのかなんて、誰も知らないのさ」
その点において、皇帝も農民も何も変わらない。
「僕は思ったのさ。それは――不幸だと」
誰しもが、己が何者なのかを知らぬまま生まれ、知らぬまま死んでいく。
時には突きつけられることもあるだろう。だが、諦めない限り、人はいつまでも夢を見てしまう。
「実は俺には秘められた才能がある! 本当の私は美しい! とかね。鏡や他人を見ればわかる現実を、どうしてか人間は見ようとしない。そんな不完全な存在だからこそ、僕は神だけを愛した」
結局のところ、世界は主観的にはその人物が見て、感じて、考えた通りのものだ。
であるならば、神という存在を敬愛するのも同じこと。むしろ、低俗な人間よりずっとマシだ。
「人間には、役割が必要なんだよ」
存在の本質など、誰も理解しない。だって、理解すると苦しいから。
表面ばかりを塗りたくり、浴びるように虚偽を飲み干し、理想的な幻想に酔い続ける。
「そういう人間達に、彼女は言うわけだ。自分の頭で考えろ。自分の足で立って歩けってね。それってさ、幸せなのかな?」
可能性なんて言葉があるから、身の丈に合わない願いを抱く。
「いいじゃないか、別に。一生農民だって。美味しい野菜が食べられるし、それで喜んでくれる人もいる。あったかい家庭を作って、ちょっとずつ農地を広げて……それじゃ駄目なの? 貴族ってそんなにエラい? エラくなきゃ生きていちゃいけない? 誰かを見下して、その上に立っていなければ自分を認められないなんて、あまりにもさもしいよ」
小さな幸せを拾い集めるような、そんな輝きでは満足できない。
燃え盛る炎のような喝采を。何もかも焼き付くす、炎のような羨望を――。
「光に飛び込んで死んでいく虫みたいだ」
それでも夢を抱けと。それでも未来を描けと。
感じて考えて、意思を持って生きろというのなら。
「試してみようじゃないか。それが本当に、世界に望まれることなのか。人の正しき道なのか」
金髪の男が、妖艶な笑みを浮かべる。
「獅子王ヒルデブラント・ウランゲル。僕と一緒に、賭けをしないかい?」
「いいぜ」
答えに悩むことはなかった。獅子王は以前から同じ疑問を抱いていたからだ。
人が清く正しくあってほしいというのは、結局は強者の傲慢だ。
「乗ってやるよ、その賭けに」
それでもと願うのなら、問わねばなるまい。
真に求められる正義とは、何なのかを……。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●「万華鏡の夢、不滅なるもの」(10月24日更新)
●
汚染領域ラズビルナムの調査はハンターズ・ソサエティの介入により大きく進展した。
内部構造もかなり解明され、安定して敵を撃退し、地下へと進む事が出来るようになりつつある。
「元々こいつは、“地下神殿”と言うのが正しい。それが幾つか繋がっちまってるわけだが、それでも本質的には神殿なわけだ。なので、この地下にある聖堂がゴール地点と見ていいだろう」
ラズビルナム内に設営された調査拠点のテントの中でクリケット(kz0093)が写真を広げる。
異界内に入れるのは精霊の加護を受けている覚醒者だけだが、覚醒者が身に着けた道具は普通に使用できる。なのでこういった魔導カメラで撮影した画像なども持ち帰れるのだ。
「負のマテリアルの強さもここが一番だ。つまり、異界の発生源はここにあるはずだ」
「しかーし、異界の発生源っぽい人物は映ってないのよね?」
ブリジッタ・ビットマン(kz0119)は眉間と顎に皺を作り、険しい表情で説明する。
「異界ってぇーのは、発生源になるVOIDがいるって話なのよね。その世界のコアを破壊しないといけないんだけど、それは常にそこにあるわけじゃなくて、当人も自分がコアだと自覚してない事があるらしーのよ」
「ほー。詳しいんだな」
「お前らが覚醒者なのをいいことにあたしをハブるから、調べてやったのよさ!! このでくのぼーがぁーっ!!」
ブリジッタに執拗に太ももを殴られるが、クリケットは全く気にしない。
「まあ、そもそも反影作戦で見た異界と同一なのかも謎なわけだが」
「そーなのよねー。まぁでも、どうも調べた感じラズビルナム自体けっこー昔からあるみたいなのよさ」
この土地を浄化しようとして出来なかったという精霊の話や、帝国各地から集められた情報をまとめるに、この土地の歴史は極めて深い。
「丁度帝国は過去の歴史の再編纂をしていて、その為に精霊の聴取も集めてるのよね。あとは、天誓作戦以降亜人も協力的なのがいるから、ちっと調べてみたのよ」
「それで暫くテントから消えてたのか。てっきり不貞腐れて錬魔院に戻ったのかとばかり……」
「超絶天才のあーしが逃げ帰るわけないのよーこれだから凡人共はー!! 意地でもお前ら全員見返してドヤ顔してやるからなァァァ!!!! 仲間はずれにしたことを地獄で後悔しろーーーー!!!!」
涙目である。
地団太を踏みまくる勢いそのままにクリケットの爪先を踏みつけるが、特に気にしない。
(痛くないからなあ)
「畏れおののけー! このブリジット・ビットマンがバカにもわかるように説明してやるのよおおおおっ!!」
●
“ソレ”は、遠い遠い昔、この星に落ちてきた。
夜空を駆ける流星のひとつ。きらきらと輝きながらこの土地に堕ちて、そして大きな穴を開けた。
天より舞い降りたソレが当時の亜人に受け入れられたのは、彼らの信仰と何らかの親和性があったのかもしれない。
「――結局、現在から遡れる最も古い記録がどこにあるのかと言うと、帝国ではなく森都だと思ったんです。それで、森都に協力を要請しました」
カッテ・ウランゲル(kz0033)は帝都バルトアンデルスに届けられた報告書の中からそれらしき記録を拾い上げ、情報をまとめ上げる。
「エルフハイムの森の神への信仰と、ラズビルナムの剣魔への信仰は同系統なんですよ」
外敵の排除と保身。
変わることを望まなかった者たちは、ただ深い闇の中で静かな余生を送ることだけを願った。
『それが、ラズビルナムの地下にある異界の正体だと……?』
「ええ。人間という外敵に対し、徹底して閉じこもろうとした。そして都合のいい夢を見る為に、神の力を必要としたのでしょう」
ラズビルナムに祈る者はもういない。――“生きている者”は。
だが、あそこからは次々に様々な種類の亜人やスケルトンが確認されている。
スケルトンというのは基本、“ヒトガタの骨格を持つ生命の成れの果て”だ。
「つまり――あそこで生きていた古代の亜人達は、クリピクロウズと一つになったのでしょう」
クリムゾンウェストにおいて、歪虚を信仰する人物ないし小集団が現れることは、実はあまり珍しくもない。
ソレの行きつくところは破滅しかないため、結局は歪虚事件の一つとして処理される。
人間には、命を賭しても叶えたい、他人や世界を壊してでも守りたい夢というものがある。だから契約者というケースも存在しているのだ。
「ある意味、歪虚信仰の究極系かもしれませんね。クリピクロウズという歪虚は単体ではなく、集合体なのかもしれません」
『それにしても、空から来た神か……邪神と関連性があると見て間違いないだろう』
「そこなんですが……じゃあ、つまり邪神っていったい何なのでしょう?」
反影作戦の報告書に目を通した時にも違和感があった。
邪神が世界を滅ぼすことを目的としているのだとするには、あまりにも無駄が多すぎる。
邪神は恐らく理性的な存在ではない。融通が利かない、どちらかというと機械のような存在のはずだ。
だがその行動には明確に不合理性が含まれる。まるで人間のように、目的に向かって最短距離を走ろうとしていない。
『ふむ……ならば、クリピクロウズは“英霊”なのではないか?』
精霊は機械的で、自らの中にある絶対的な基準の中で生きる、ヒトとは異なる価値観を持つ存在だ。
そんな彼らの中にある「ゆらぎ」は、ヒトと交わる事やヒトそのものが精霊に昇華されることで発生する。
「私も同じ考えです。クリピクロウズは……もっと言うなら邪神は、精霊と同じく人間と密接に関係しているのかもしれません」
そうであってほしいと願われた精霊が、その願う誰かにとって神となり、その姿形を取るように。
クリピクロウズという歪虚が、誰かの願いの中で紡がれた伝承ならば。
「間違いありません。クリピクロウズは――ヒトの形をしているはずです」
●
――観測し、再現する。それが■■■の持つ基本性能だ。
だからそうする。思考を挟む余地はない。
それだけを繰り返せるのであれば、他に望むことなどなかった。
そうやって静かに時を数え、朽ちていく命の余韻を楽しむ事こそ、ヒトという生物が持つ神聖さのすべてではないのか。
地下大聖堂のステンドグラスに光はない。だが、これが元々は光ある場所から持ち込まれたことを示唆している。
そう。神殿も、迷宮も、何もかもこの世界のものではない。
再現したのだ。そして、それこそを彼らの願いを叶える箱庭とした。
誰も傷つけたくない。何も奪われたくない。
それでも争いを繰り返してしまうのなら、「ヒト」との繋がりを断ってしまえばいい。
「――どうして」
言葉を紡いだのは何百年ぶりだろう。
「どうして……ただ静かに眠ることさえ、許せないのですか?」
自分にとって不利益だから?
ヒトにとって不都合だから?
世界にとって、あってはならないものだから?
「争う事なんて――私“達”は望んでいないのに」
ふらりと、幻のような光が揺らめく。
ドレス姿の幽鬼が、ステンドグラスへと手を伸ばした。
それだけで暗闇が光に暴かれる。神殿の時が巻き戻る。かつてここに通い詰めては祈りを捧げた、彼らのいた時代に――。
「私達は“何も奪わない”。だから……私達から、“何も奪わないで”」
●
ナサニエル・カロッサ(kz0028)は、ひたすら大人しく裁判が終わるのを待っていた。
彼は覚醒者を拿捕する為の頑丈な牢屋に入れられていたが、見張りの数は日に日に減っていった。
何故ならば彼は極めて模範的な囚人……厳密には容疑者だが……だったためである。
ナサニエルという男は常軌を逸しているが、部分的には常識人であり、滅多なことはしない。それが帝国軍の共通認識だったのだ。
故に、そんな彼が――ある日突然見張りがいなくなったタイミングを見計らい、鉄格子を機導剣で切り裂いてしまうなんてこと、誰も想定していなかったのだ。
「覚醒者は発動体がなければスキルを使用できないんですが、身に着けていれば何でもいいんですよね」
――と言ってもどこにも何も身に着けているようには見えない。
彼の肉体改造に気付けというのも、流石に酷な話である。
ナサニエルは悠々と一つしかない出入口から外に出ていく。
無論、場内の構造も見張りの移動パターンもすべて計算ずくで、誰にも出会う事もなく、あっさりと月を拝むことができた。
「陛下はこうなるとわかっていたと思うんですけどねぇ。暗黙の了解ってやつですか」
ナサニエルには行くべき場所があった。正しくは、会うべき人がいた。
人類への貢献は、もうそれなりに充実している。後世に名を残したいわけでもないし、ここから先は義務を果たすことに使うべきだ。
「そんなわけで。長い間お世話になりました。オズワルドさん、ヴィルヘルミナ陛下……それなりにお元気で」
ぺこりと頭を下げ、男は夜の闇へと駆け出して行った。

クリケット

ブリジッタ・ビットマン
内部構造もかなり解明され、安定して敵を撃退し、地下へと進む事が出来るようになりつつある。
「元々こいつは、“地下神殿”と言うのが正しい。それが幾つか繋がっちまってるわけだが、それでも本質的には神殿なわけだ。なので、この地下にある聖堂がゴール地点と見ていいだろう」
ラズビルナム内に設営された調査拠点のテントの中でクリケット(kz0093)が写真を広げる。
異界内に入れるのは精霊の加護を受けている覚醒者だけだが、覚醒者が身に着けた道具は普通に使用できる。なのでこういった魔導カメラで撮影した画像なども持ち帰れるのだ。
「負のマテリアルの強さもここが一番だ。つまり、異界の発生源はここにあるはずだ」
「しかーし、異界の発生源っぽい人物は映ってないのよね?」
ブリジッタ・ビットマン(kz0119)は眉間と顎に皺を作り、険しい表情で説明する。
「異界ってぇーのは、発生源になるVOIDがいるって話なのよね。その世界のコアを破壊しないといけないんだけど、それは常にそこにあるわけじゃなくて、当人も自分がコアだと自覚してない事があるらしーのよ」
「ほー。詳しいんだな」
「お前らが覚醒者なのをいいことにあたしをハブるから、調べてやったのよさ!! このでくのぼーがぁーっ!!」
ブリジッタに執拗に太ももを殴られるが、クリケットは全く気にしない。
「まあ、そもそも反影作戦で見た異界と同一なのかも謎なわけだが」
「そーなのよねー。まぁでも、どうも調べた感じラズビルナム自体けっこー昔からあるみたいなのよさ」
この土地を浄化しようとして出来なかったという精霊の話や、帝国各地から集められた情報をまとめるに、この土地の歴史は極めて深い。
「丁度帝国は過去の歴史の再編纂をしていて、その為に精霊の聴取も集めてるのよね。あとは、天誓作戦以降亜人も協力的なのがいるから、ちっと調べてみたのよ」
「それで暫くテントから消えてたのか。てっきり不貞腐れて錬魔院に戻ったのかとばかり……」
「超絶天才のあーしが逃げ帰るわけないのよーこれだから凡人共はー!! 意地でもお前ら全員見返してドヤ顔してやるからなァァァ!!!! 仲間はずれにしたことを地獄で後悔しろーーーー!!!!」
涙目である。
地団太を踏みまくる勢いそのままにクリケットの爪先を踏みつけるが、特に気にしない。
(痛くないからなあ)
「畏れおののけー! このブリジット・ビットマンがバカにもわかるように説明してやるのよおおおおっ!!」
●

カッテ・ウランゲル
夜空を駆ける流星のひとつ。きらきらと輝きながらこの土地に堕ちて、そして大きな穴を開けた。
天より舞い降りたソレが当時の亜人に受け入れられたのは、彼らの信仰と何らかの親和性があったのかもしれない。
「――結局、現在から遡れる最も古い記録がどこにあるのかと言うと、帝国ではなく森都だと思ったんです。それで、森都に協力を要請しました」
カッテ・ウランゲル(kz0033)は帝都バルトアンデルスに届けられた報告書の中からそれらしき記録を拾い上げ、情報をまとめ上げる。
「エルフハイムの森の神への信仰と、ラズビルナムの剣魔への信仰は同系統なんですよ」
外敵の排除と保身。
変わることを望まなかった者たちは、ただ深い闇の中で静かな余生を送ることだけを願った。
『それが、ラズビルナムの地下にある異界の正体だと……?』
「ええ。人間という外敵に対し、徹底して閉じこもろうとした。そして都合のいい夢を見る為に、神の力を必要としたのでしょう」
ラズビルナムに祈る者はもういない。――“生きている者”は。
だが、あそこからは次々に様々な種類の亜人やスケルトンが確認されている。
スケルトンというのは基本、“ヒトガタの骨格を持つ生命の成れの果て”だ。

クリピクロウズ
クリムゾンウェストにおいて、歪虚を信仰する人物ないし小集団が現れることは、実はあまり珍しくもない。
ソレの行きつくところは破滅しかないため、結局は歪虚事件の一つとして処理される。
人間には、命を賭しても叶えたい、他人や世界を壊してでも守りたい夢というものがある。だから契約者というケースも存在しているのだ。
「ある意味、歪虚信仰の究極系かもしれませんね。クリピクロウズという歪虚は単体ではなく、集合体なのかもしれません」
『それにしても、空から来た神か……邪神と関連性があると見て間違いないだろう』
「そこなんですが……じゃあ、つまり邪神っていったい何なのでしょう?」
反影作戦の報告書に目を通した時にも違和感があった。
邪神が世界を滅ぼすことを目的としているのだとするには、あまりにも無駄が多すぎる。
邪神は恐らく理性的な存在ではない。融通が利かない、どちらかというと機械のような存在のはずだ。
だがその行動には明確に不合理性が含まれる。まるで人間のように、目的に向かって最短距離を走ろうとしていない。
『ふむ……ならば、クリピクロウズは“英霊”なのではないか?』
精霊は機械的で、自らの中にある絶対的な基準の中で生きる、ヒトとは異なる価値観を持つ存在だ。
そんな彼らの中にある「ゆらぎ」は、ヒトと交わる事やヒトそのものが精霊に昇華されることで発生する。
「私も同じ考えです。クリピクロウズは……もっと言うなら邪神は、精霊と同じく人間と密接に関係しているのかもしれません」
そうであってほしいと願われた精霊が、その願う誰かにとって神となり、その姿形を取るように。
クリピクロウズという歪虚が、誰かの願いの中で紡がれた伝承ならば。
「間違いありません。クリピクロウズは――ヒトの形をしているはずです」
●
――観測し、再現する。それが■■■の持つ基本性能だ。
だからそうする。思考を挟む余地はない。
それだけを繰り返せるのであれば、他に望むことなどなかった。
そうやって静かに時を数え、朽ちていく命の余韻を楽しむ事こそ、ヒトという生物が持つ神聖さのすべてではないのか。
地下大聖堂のステンドグラスに光はない。だが、これが元々は光ある場所から持ち込まれたことを示唆している。
そう。神殿も、迷宮も、何もかもこの世界のものではない。
再現したのだ。そして、それこそを彼らの願いを叶える箱庭とした。
誰も傷つけたくない。何も奪われたくない。
それでも争いを繰り返してしまうのなら、「ヒト」との繋がりを断ってしまえばいい。
「――どうして」
言葉を紡いだのは何百年ぶりだろう。
「どうして……ただ静かに眠ることさえ、許せないのですか?」
自分にとって不利益だから?
ヒトにとって不都合だから?
世界にとって、あってはならないものだから?
「争う事なんて――私“達”は望んでいないのに」
ふらりと、幻のような光が揺らめく。
ドレス姿の幽鬼が、ステンドグラスへと手を伸ばした。
それだけで暗闇が光に暴かれる。神殿の時が巻き戻る。かつてここに通い詰めては祈りを捧げた、彼らのいた時代に――。
「私達は“何も奪わない”。だから……私達から、“何も奪わないで”」
●

ナサニエル・カロッサ
彼は覚醒者を拿捕する為の頑丈な牢屋に入れられていたが、見張りの数は日に日に減っていった。
何故ならば彼は極めて模範的な囚人……厳密には容疑者だが……だったためである。
ナサニエルという男は常軌を逸しているが、部分的には常識人であり、滅多なことはしない。それが帝国軍の共通認識だったのだ。
故に、そんな彼が――ある日突然見張りがいなくなったタイミングを見計らい、鉄格子を機導剣で切り裂いてしまうなんてこと、誰も想定していなかったのだ。
「覚醒者は発動体がなければスキルを使用できないんですが、身に着けていれば何でもいいんですよね」
――と言ってもどこにも何も身に着けているようには見えない。
彼の肉体改造に気付けというのも、流石に酷な話である。
ナサニエルは悠々と一つしかない出入口から外に出ていく。
無論、場内の構造も見張りの移動パターンもすべて計算ずくで、誰にも出会う事もなく、あっさりと月を拝むことができた。
「陛下はこうなるとわかっていたと思うんですけどねぇ。暗黙の了解ってやつですか」
ナサニエルには行くべき場所があった。正しくは、会うべき人がいた。
人類への貢献は、もうそれなりに充実している。後世に名を残したいわけでもないし、ここから先は義務を果たすことに使うべきだ。
「そんなわけで。長い間お世話になりました。オズワルドさん、ヴィルヘルミナ陛下……それなりにお元気で」
ぺこりと頭を下げ、男は夜の闇へと駆け出して行った。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●「Vergiss-mein-nicht!」(11月15日更新)
●
「なんだあ、こりゃあ?」
ある朝、羊飼いの男が眠い目を擦りながら農場を見回っていると、得体の知れない風景に出くわした。
羊を放している柵の内側に、ぽっかり黒い穴が空いているのだ。それも地面ではなく、空中にである。
ぽかんとしながら近づいてみると、羊たちは怯えたように距離を置き、しかし警戒を忘れずにぐるりと「穴」を包囲している。羊にも見えているのなら、ひとまず幻の類ではないらしい。
男は手にした杖で穴をつついてみた。ずぶりと、抵抗の強い水に刺し込むような手ごたえがあった。
しばらくそうして首をひねっていた男の顔色が変わったのは、穴から出てきた人間の手が、杖をがしりと掴んだからだ。
「ひええっ!?」
現れたのはただの人間ではなくスケルトンで、それも一体ではなく複数体。
ぞろぞろと這い出したスケルトンを前に、男は羊を守ることも忘れ、一目散に逃げだした。
●
「異界だな」
「ええ。異界です」
辺境との境に作られた城塞、ノアーラ・クンタウにしばし視察のために滞在していたヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は、戻るなりカッテ・ウランゲル(kz0033)からの報告を受けた。
帝国各地に出現した謎の黒い穴――反影作戦に参加したハンターならば、それが異界と呼ばれる空間だとすぐに理解するだろう。
「反影作戦の時は、鱗とも言うべき小型のソードオブジェクトが地面に突き刺さって発生していました。今回も同じケースでしょう」
「つまり、ソードオブジェクトを発射する輩がいたということか」
「はい。ラズビルナムの地下で不滅の剣魔クリピクロウズと交戦したというお話をしたと思いますが」
「うむ」
「それからちょっと状況が変わりまして……」
話は数日前に遡る。
「なんなのよさああああああ?????!?!?!?!」
ブリジッタ・ビットマン(kz0119)は走っていた。だが足が遅いので途中でクリケット(kz0093)に抱え上げられる。
ハンターとクリピクロウズの戦闘は複数回にわたって行われた。そしてその中で、クリピクロウズ本体らしき個体も撃破されている。
なのに地下の異界は消え去らなかったし――それどころかむしろ拡大しはじめていた。
出入口付近に設営してた調査キャンプは既に闇に飲み込まれた。今まさに、それから逃れるように森の中を走っているところだ。
「あわわわわわ……! デカブツ、もっとキビキビ走らんかいっ!」
「これでも全力疾走なんだがねぇ……デスクワークが長引き過ぎたか……!」
「ごめん私もう脇腹痛い……」
「え……ハイデマリー死ぬの? こんなところで意味もなく死ぬの?」
「どちらかというとブリジッタの方が危険だと思うけど。ほら、私は覚醒者だから異界に入っても平気だけど、そうでない生物が異界に巻き込まれた場合、多分……」
「のおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
そうなのである!
異界というのは超強力な負のマテリアルにより構築された結界だ。精霊の加護を受けない人間は入れば、その影響は免れられないのである!
「デカブツーーーー!!! もっと急ぎやがってくださいですほんとにお願いしまっしゅ!!」
「言われんでもお前さんを見捨てたりはしないって」
慌てて逃げだしていく研究者や巫女やらを追いかけるように広がっていく闇は、ついにはラズビルナム全体を覆いつくしてしまったのである。
「そんなわけで、現在はラズビルナム周辺に距離を置いて帝国軍の包囲網を作っています」
「フ……まるで森都の事件の焼き直しだな。あの時も時間を止める剣妃の結界を前に成すすべもなく――いや、あったか」
「はい。一応、結界には違いないと思うので、スペルアンカーの埋め込みによる遅延を試みています。森都の事件のお陰でデータは揃ってますから。それで分かったのですが、陛下の仰る通り、あれはオルクスの時間凍結結界にも近いようですね」
「リアルブルーも封印されたばかりだし、トレンドを抑えていて何よりだ」
「それはさておき、その異界から帝国領各地にソードオブジェクトが発射されています。他国はまだ射程圏外ですが放置すればいずれは国際問題ですね」
ぎしりと、深く腰掛けた椅子が軋む。
辺境部族がひとつにまとまり、国家としての自立に向かっていこうと言うことめでたい時世に余計な心配をかけたくはない。
王国もようやく女王が即位したばかりでいきなり隣国からなんか歪虚を発生させる変なものが飛んできますなんてジョークにもならない。
『長らく放置されていた分、あれは数百年単位の負の思念に凝り固まっている。その矛先がこの国に向いている間は安全だろうが……』
と、正義の四大精霊サンデルマンも言っているので、ひとまずは自国の防衛に努めればよいだろう。
「して、あれに呑み込まれると実際のところどうなるのだ?」
「覚醒者ならば問題ありません。しかし非覚醒者の場合は異界の影響を受けます」
「ほう。既に犠牲者が出ているのか」
「残念ながら。その報告によりますと、あの異界の性質は感情や記憶を忘却することにあるようです」
運悪く、あるいは好奇心から「穴」に入ってしまった人間は、しばらくの後、異界からポンを吐き出されたらしい。
衰弱はしていたが命に別状はない。その代わり、彼らは自分が何者なのかをさっぱり忘れてしまっていた。
「一種の歪虚病というか、負のマテリアルの中毒症状なのかもしれませんが、今の所回復させる方法は見つかりません」
「……何が目的だ?」
「実際に交戦したハンターによると、クリピクロウズは戦闘そのものを嫌う歪虚のようです。彼女にしてみればこれらの行動も自衛の一種という解釈なのでしょう」
「なるほど。過去がなければそもそも争う理由がない、ということか」
ヴィルヘルミナは前髪をかきあげ、どこか楽し気に笑う。
「嫌いではないよ、そういう考え方も。想いがなければ、そもそも争う事も悲しむ事もないだろうからね」
「さすが陛下。一度は過去を失っているだけに含蓄がありますね」
「まあな。しかしだからこそ、このやり方は無意味だとわかる」
記憶や想いを失っても、その人間が持つ指向性までは変えられない。
どこかを目指して歩き出したヒトは、それを喪ってもまたきっと同じ道を歩き出す。
過去を喪って立ち止まるのは、結局“どこにも向かうつもりがない者”だけだ。
「奴が本当に止めたい人間の業というのは――何度記憶を失ってもまた前に進む道を選んでしまうのさ」
●
『記憶を封印する能力か。確かにこれを戦略的に利用できれば大きな成果が期待できそうだ』
鋼鉄の義手はそう語る。
実際その通りだろう。この能力はクリピクロウズに持たせておくには惜しい。
暴食王ハヴァマールが獲得すれば、一息に世界を終わらせる事すら夢ではない。
想いと過去を奪うというのは、それほどまでに冷酷なことなのだから。
「あなたは……忘れたの? 自分が何者であったのかを」
アイゼンハンダー(kz0109)の問いかけに義手は逡巡する。
『さてな。己が何者であったかなど些末な事よ。だがこうして歪虚としてわだかまっている以上は、わしも何かを喪ったのだろうな』
十三魔アイゼンハンダーは、暴食の系統の中でも剣機というカテゴリーに属する。
剣機とは死体を起き上がらせたゾンビ外側から機械的に強化し、コントロールするという思想を持つ系統だ。
しかし、鋼鉄の右腕には亡霊型の歪虚も宿っており、アイゼンハンダーは剣機系と剣豪系、双方の融和により成立している歪虚だった。
ツィカーデと呼ばれた少女の肉体を憑代にしたデュラハンとも解釈できる。それだけ二人は文字通りの一心同体なのだ。
だからこそ、右腕には少女の気持ちが良くわかる。
『お前はどうしたいのだ、ツィカーデ』
黒く、ゆっくりと広がっていくラズビルナムの闇を遠巻きに眺め、少女は目を細める。
「任務は理解してるよ。でもね……私やっぱり、忘れるのはよくないって思うんだ」
嫌な事も、苦しい事も、認めたくないような現実も。
嬉しかった事も、幸せだった事も、もう取り戻せない過去も。
「全部、なかったことにはしちゃいけないんだよ」
『自分の言っていることの意味をきちんと理解しておるのか?』
「うん。ハヴァマールさんは優しいね。あの人は、最初からこうなると分かっていたんだ」
骨だけで出来た、あのへんてこな司令官様は、そのとげとげしい手で何度も頭を撫でてくれた。
大丈夫だと、お前の好きなようにしろと言って、そしてこの地へ奔れと言ってくれた。
「変だよね。歪虚だってわかってるのに……暖かいと感じた」
ハヴァマールだけではない。なんだかんだ言って、暴食はひとつの家族のようだった。
変わり者も多かったけれど、奇妙な絆は確かにあったのだ。
『ならばそれこそ、お前だからこそ辿り着けた答えではないか?』
あらゆる者と戦った。正規軍も、反政府組織も、亜人も、歪虚も。
みんな理由があって、みんな正義があって、救われない嘆きや、溢れんばかりの喜びがあって。
「だから……もしクリピクロウズが全部を忘れなきゃいけないくらい苦しんでいるのなら、助けたい」
『どうやって?』
「わからない。だから、舞台に上がってみるよ」
ヒトでも死体でも機械でも亡霊でもない、中途半端な役柄だけど。観客席に座っていたら、何も変えられない。
やれるだけのことはやって、ちゃんと頑張って。ダメでも見当はずれでもいい。ただ最後まで正直に……。
「せめて納得して――自分を認めて、前に進みたいんだ」
●
不滅の剣魔はただ見ていた。観測し、蓄積し、そして再現する。
なぜか自分たちの中にはこの閉鎖された空間の外に出たいと言う想いもあり、意見が割れた場合、それらは外を目指した。
より多くの事象を観測したいというのは■■■の本能的には当然である。御せるはずもない。
そうやって旅をした。何度も何度も旅をして、そして見た。
死も、嘆きも、苦しみも、怒りも、憎しみも……。
そうした者たちの中から歪虚が生まれて。それがいつの間にか四霊剣と呼ばれるようになり、また興味を持った。
歪虚は哀れだ。可愛そうだ。
何にもなれない。何も解決できない。
ただ暴れて、足掻いて、泣きわめいて。まるで母親に見捨てられた赤子のよう。
でも本当に可哀そうなのは――何もできずに奪われて、消え去っていく命の方だ。
何も願わなければ何も失うことはない。
ヒトが当たり前に持つ忘却性能は、存在を維持するために必要なシステムだ。
痛み。苦しみ。憎しみ。忘れなければ生きていられない。
どんなに正しくても。どんなに美しくても。忘れなければ生きていられない。
命が続くという真実に比べれば、想いなどなんと些細なのだろう。
忘れてしまえばいい。そしてもう二度と、届かぬ夢になど手を伸ばさないように。
それこそが、神として望まれた彼女の役割なのだから――。
「なんだあ、こりゃあ?」
ある朝、羊飼いの男が眠い目を擦りながら農場を見回っていると、得体の知れない風景に出くわした。
羊を放している柵の内側に、ぽっかり黒い穴が空いているのだ。それも地面ではなく、空中にである。
ぽかんとしながら近づいてみると、羊たちは怯えたように距離を置き、しかし警戒を忘れずにぐるりと「穴」を包囲している。羊にも見えているのなら、ひとまず幻の類ではないらしい。
男は手にした杖で穴をつついてみた。ずぶりと、抵抗の強い水に刺し込むような手ごたえがあった。
しばらくそうして首をひねっていた男の顔色が変わったのは、穴から出てきた人間の手が、杖をがしりと掴んだからだ。
「ひええっ!?」
現れたのはただの人間ではなくスケルトンで、それも一体ではなく複数体。
ぞろぞろと這い出したスケルトンを前に、男は羊を守ることも忘れ、一目散に逃げだした。
●

ヴィルヘルミナ・ウランゲル

カッテ・ウランゲル

ブリジッタ・ビットマン

クリケット
「ええ。異界です」
辺境との境に作られた城塞、ノアーラ・クンタウにしばし視察のために滞在していたヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は、戻るなりカッテ・ウランゲル(kz0033)からの報告を受けた。
帝国各地に出現した謎の黒い穴――反影作戦に参加したハンターならば、それが異界と呼ばれる空間だとすぐに理解するだろう。
「反影作戦の時は、鱗とも言うべき小型のソードオブジェクトが地面に突き刺さって発生していました。今回も同じケースでしょう」
「つまり、ソードオブジェクトを発射する輩がいたということか」
「はい。ラズビルナムの地下で不滅の剣魔クリピクロウズと交戦したというお話をしたと思いますが」
「うむ」
「それからちょっと状況が変わりまして……」
話は数日前に遡る。
「なんなのよさああああああ?????!?!?!?!」
ブリジッタ・ビットマン(kz0119)は走っていた。だが足が遅いので途中でクリケット(kz0093)に抱え上げられる。
ハンターとクリピクロウズの戦闘は複数回にわたって行われた。そしてその中で、クリピクロウズ本体らしき個体も撃破されている。
なのに地下の異界は消え去らなかったし――それどころかむしろ拡大しはじめていた。
出入口付近に設営してた調査キャンプは既に闇に飲み込まれた。今まさに、それから逃れるように森の中を走っているところだ。
「あわわわわわ……! デカブツ、もっとキビキビ走らんかいっ!」
「これでも全力疾走なんだがねぇ……デスクワークが長引き過ぎたか……!」
「ごめん私もう脇腹痛い……」
「え……ハイデマリー死ぬの? こんなところで意味もなく死ぬの?」
「どちらかというとブリジッタの方が危険だと思うけど。ほら、私は覚醒者だから異界に入っても平気だけど、そうでない生物が異界に巻き込まれた場合、多分……」
「のおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
そうなのである!
異界というのは超強力な負のマテリアルにより構築された結界だ。精霊の加護を受けない人間は入れば、その影響は免れられないのである!
「デカブツーーーー!!! もっと急ぎやがってくださいですほんとにお願いしまっしゅ!!」
「言われんでもお前さんを見捨てたりはしないって」
慌てて逃げだしていく研究者や巫女やらを追いかけるように広がっていく闇は、ついにはラズビルナム全体を覆いつくしてしまったのである。
「そんなわけで、現在はラズビルナム周辺に距離を置いて帝国軍の包囲網を作っています」
「フ……まるで森都の事件の焼き直しだな。あの時も時間を止める剣妃の結界を前に成すすべもなく――いや、あったか」
「はい。一応、結界には違いないと思うので、スペルアンカーの埋め込みによる遅延を試みています。森都の事件のお陰でデータは揃ってますから。それで分かったのですが、陛下の仰る通り、あれはオルクスの時間凍結結界にも近いようですね」
「リアルブルーも封印されたばかりだし、トレンドを抑えていて何よりだ」
「それはさておき、その異界から帝国領各地にソードオブジェクトが発射されています。他国はまだ射程圏外ですが放置すればいずれは国際問題ですね」
ぎしりと、深く腰掛けた椅子が軋む。
辺境部族がひとつにまとまり、国家としての自立に向かっていこうと言うことめでたい時世に余計な心配をかけたくはない。
王国もようやく女王が即位したばかりでいきなり隣国からなんか歪虚を発生させる変なものが飛んできますなんてジョークにもならない。

サンデルマン
と、正義の四大精霊サンデルマンも言っているので、ひとまずは自国の防衛に努めればよいだろう。
「して、あれに呑み込まれると実際のところどうなるのだ?」
「覚醒者ならば問題ありません。しかし非覚醒者の場合は異界の影響を受けます」
「ほう。既に犠牲者が出ているのか」
「残念ながら。その報告によりますと、あの異界の性質は感情や記憶を忘却することにあるようです」
運悪く、あるいは好奇心から「穴」に入ってしまった人間は、しばらくの後、異界からポンを吐き出されたらしい。
衰弱はしていたが命に別状はない。その代わり、彼らは自分が何者なのかをさっぱり忘れてしまっていた。
「一種の歪虚病というか、負のマテリアルの中毒症状なのかもしれませんが、今の所回復させる方法は見つかりません」
「……何が目的だ?」
「実際に交戦したハンターによると、クリピクロウズは戦闘そのものを嫌う歪虚のようです。彼女にしてみればこれらの行動も自衛の一種という解釈なのでしょう」
「なるほど。過去がなければそもそも争う理由がない、ということか」
ヴィルヘルミナは前髪をかきあげ、どこか楽し気に笑う。
「嫌いではないよ、そういう考え方も。想いがなければ、そもそも争う事も悲しむ事もないだろうからね」
「さすが陛下。一度は過去を失っているだけに含蓄がありますね」
「まあな。しかしだからこそ、このやり方は無意味だとわかる」
記憶や想いを失っても、その人間が持つ指向性までは変えられない。
どこかを目指して歩き出したヒトは、それを喪ってもまたきっと同じ道を歩き出す。
過去を喪って立ち止まるのは、結局“どこにも向かうつもりがない者”だけだ。
「奴が本当に止めたい人間の業というのは――何度記憶を失ってもまた前に進む道を選んでしまうのさ」
●

アイゼンハンダー

ハヴァマール
鋼鉄の義手はそう語る。
実際その通りだろう。この能力はクリピクロウズに持たせておくには惜しい。
暴食王ハヴァマールが獲得すれば、一息に世界を終わらせる事すら夢ではない。
想いと過去を奪うというのは、それほどまでに冷酷なことなのだから。
「あなたは……忘れたの? 自分が何者であったのかを」
アイゼンハンダー(kz0109)の問いかけに義手は逡巡する。
『さてな。己が何者であったかなど些末な事よ。だがこうして歪虚としてわだかまっている以上は、わしも何かを喪ったのだろうな』
十三魔アイゼンハンダーは、暴食の系統の中でも剣機というカテゴリーに属する。
剣機とは死体を起き上がらせたゾンビ外側から機械的に強化し、コントロールするという思想を持つ系統だ。
しかし、鋼鉄の右腕には亡霊型の歪虚も宿っており、アイゼンハンダーは剣機系と剣豪系、双方の融和により成立している歪虚だった。
ツィカーデと呼ばれた少女の肉体を憑代にしたデュラハンとも解釈できる。それだけ二人は文字通りの一心同体なのだ。
だからこそ、右腕には少女の気持ちが良くわかる。
『お前はどうしたいのだ、ツィカーデ』
黒く、ゆっくりと広がっていくラズビルナムの闇を遠巻きに眺め、少女は目を細める。
「任務は理解してるよ。でもね……私やっぱり、忘れるのはよくないって思うんだ」
嫌な事も、苦しい事も、認めたくないような現実も。
嬉しかった事も、幸せだった事も、もう取り戻せない過去も。
「全部、なかったことにはしちゃいけないんだよ」
『自分の言っていることの意味をきちんと理解しておるのか?』
「うん。ハヴァマールさんは優しいね。あの人は、最初からこうなると分かっていたんだ」
骨だけで出来た、あのへんてこな司令官様は、そのとげとげしい手で何度も頭を撫でてくれた。
大丈夫だと、お前の好きなようにしろと言って、そしてこの地へ奔れと言ってくれた。
「変だよね。歪虚だってわかってるのに……暖かいと感じた」
ハヴァマールだけではない。なんだかんだ言って、暴食はひとつの家族のようだった。
変わり者も多かったけれど、奇妙な絆は確かにあったのだ。
『ならばそれこそ、お前だからこそ辿り着けた答えではないか?』
あらゆる者と戦った。正規軍も、反政府組織も、亜人も、歪虚も。
みんな理由があって、みんな正義があって、救われない嘆きや、溢れんばかりの喜びがあって。
「だから……もしクリピクロウズが全部を忘れなきゃいけないくらい苦しんでいるのなら、助けたい」
『どうやって?』
「わからない。だから、舞台に上がってみるよ」
ヒトでも死体でも機械でも亡霊でもない、中途半端な役柄だけど。観客席に座っていたら、何も変えられない。
やれるだけのことはやって、ちゃんと頑張って。ダメでも見当はずれでもいい。ただ最後まで正直に……。
「せめて納得して――自分を認めて、前に進みたいんだ」
●

クリピクロウズ
なぜか自分たちの中にはこの閉鎖された空間の外に出たいと言う想いもあり、意見が割れた場合、それらは外を目指した。
より多くの事象を観測したいというのは■■■の本能的には当然である。御せるはずもない。
そうやって旅をした。何度も何度も旅をして、そして見た。
死も、嘆きも、苦しみも、怒りも、憎しみも……。
そうした者たちの中から歪虚が生まれて。それがいつの間にか四霊剣と呼ばれるようになり、また興味を持った。
歪虚は哀れだ。可愛そうだ。
何にもなれない。何も解決できない。
ただ暴れて、足掻いて、泣きわめいて。まるで母親に見捨てられた赤子のよう。
でも本当に可哀そうなのは――何もできずに奪われて、消え去っていく命の方だ。
何も願わなければ何も失うことはない。
ヒトが当たり前に持つ忘却性能は、存在を維持するために必要なシステムだ。
痛み。苦しみ。憎しみ。忘れなければ生きていられない。
どんなに正しくても。どんなに美しくても。忘れなければ生きていられない。
命が続くという真実に比べれば、想いなどなんと些細なのだろう。
忘れてしまえばいい。そしてもう二度と、届かぬ夢になど手を伸ばさないように。
それこそが、神として望まれた彼女の役割なのだから――。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●「銀河の果てまで抱きしめて」(12月5日更新)
不滅の剣魔クリピクロウズとの闘いは、基本的に人類側有利で進行した。
理由はシンプルで、まずクリピクロウズ側にそもそも被害を広げる意識がないというのが第一にあげられる。
確かに各地にソードオブジェクトを打ち込みはしたが、その攻撃は戦術的なものではなく、例えば主要都市に対する攻撃は今のところゼロときている。
相手はあくまでも救済のつもりであって、戦争をしているつもりはないのだ。
そして第二に、既に反影作戦を経て異界への対応方法は知れ渡っている点も大きい。
なんだか得体の知れないものが相手では調査などに手間がかかるが、種が割れている手品に動じるほどソサエティも帝国軍も耄碌していない。
付け加え、この国には過去の戦いで獲得した様々な戦術への対応ノウハウがある。
異界の展開も、さして危機的な状況ではなかったのだ。
「とはいえ、放置するわけにもいきませんからね。そろそろラズビルナムにも大人しくなってもらいましょう」
戦力をまとめる時間は十分にあったので、カッテ・ウランゲル(kz0033)は特に焦る事もなく作戦を組み立てた。
「結局内部に入って発生源を叩くしかありません。反影作戦のケースと同様であれば、それで小型の異界もまとめて消滅するはずです」
皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は腕を組み、小さく息を吐く。
「まあ、倒す分には問題ないだろう。倒す分には」
「と、仰いますと?」
「戦闘力ならナイトハルトやオルクスの方がずっと厄介だったからな。だが、クリピクロウズからはもっと情報を引き出せるような気がする」
「お考えは理解できますが、それはクリピクロウズは他の歪虚とはちょっと話が違いますからね」
お喋りな歪虚であれば会話にも応じるし、情報を得られることもある。
だが、クリピクロウズは会話は可能だが基本的に一方的な要求を突き付けてくるだけでかみ合わないタイプだ。
「間違いなく、邪神の本質と何か関係がありそうなのだがな……」
「それなら別に現段階でもある程度分かるじゃないですか」
ヴィルヘルミナの視線が作戦図から弟へと移る。
「というか、陛下もお分かりなのかとばかり」
「ふむ。意見が食い違うとアレだ。君の考えを聞かせてくれ」
「そうですね。あくまでも既に公開されている情報から推測するに――ですが」
●
大精霊には元々、紐づいた世界の事象を観測する機能がある。
だがそれはありとあらゆるものを無差別に観測するのではなく、基本的に観測する存在が必要だ。
それらは高位の知性を持つ存在。クリムゾンウェストで言うところの龍や人間が該当する。
“守護者”とは文字通り世界を物理的な破滅から守る存在であると同時に、観測の欠落から守る存在でもあるのだ。
そう。世界とはそもそも、誰かが願い、誰かが観測し、誰かがそれを承知するという行いが無限に連なって成立している。
大精霊はそうした無限の願いを受け止め、よりよい世界を幻想する為のデータベースだ。
「ファナティックブラッドは大精霊と同じだけの容量を持つ神だ。しかしだからこそ、いずれは限界を迎えるだろう」
“彼”は言った。世界は有限だ。無限ではないと。
どんな命も、その総体である星も、いずれは終わりを迎える。
「その有限こそがファナティックブラッド最大の欠点だ。“維持”に割いているようでは、“救済”に割くリソースが枯渇する。つまりどこかでリソースを供給しなければならないし、不要なデータは削除しなければならない」
最も輝いた記憶だけが、その世界のすべてだ。
最も美しいものだけが。最も強いものだけが。最も悪辣なものだけが世界のラベルとなるならば――。
弱者はどうなる? 取るに足らない記憶はどうなる? 淘汰された進化はどうなる? 辿り着けなかった、捨て去られたモノはどうなる?
忘れられてしまったものは――どうなる?
弱者は強者より圧倒的に多いじゃないか。
天才よりも凡才の方が、金持ちより貧乏人の方が、幸せより不幸せの方が圧倒的に多いじゃないか。
大多数はどうなる? 消えるしかないのか? 善でも悪でもないのなら、存在する価値すらないのか?
(争って争って、最後に残された想い出にしか価値がないというのなら……どうか、教えてください)
敗北者の涙を止める方法はないの?
善にも悪にもなれなかった、どこにも辿り着けない者を、愛してあげる手段はないの?
「見捨てられる者に寄り添うというのか」
本当の無よりはいいから。
「世界の価値を再定義しようというのか」
悲鳴に耳を塞ぐよりはいいから。
「ならば袂を別つがいい。お前はお前の方法で世界を補完しろ。他の翼がそうするように。いずれは王がそうあるように。お前の愛で――世界を救って見せろ」
紀元前のクリムゾンウェストが破砕された時、邪神はその翼の一つを天に打ち上げた。
衛星軌道上を旋回する剣は、長い年月を経て地上へと再び舞い戻る。
炎にきらめく流星は、まだろくな文明も持たない大地へと突き刺さる。
いつか求められるその日まで。時を忘れ、罪を忘れ、ただ何かを救いたいと言う願いだけを抱いて――。
「私は……ただ、救いたかった。争いたくなかった。悲鳴を止めたかった。この両手で……消えゆくものをただ、抱きしめてあげたかった……」
ラズビルナム異界の中心で、女は一人空に語り掛ける。
「世界が彼らを“観ない”というのなら……ただ忘れて消し去るだけだというのなら……せめて私が……」
乾いた女の頬に涙が伝う。その言葉を、女の背後に立つ騎士が聞いていた。
「あくまでも失われるものに寄り添う、か。ファナティックブラッドに――黙示騎士に合流するつもりはないのだな」
「ええ。私は……お父様とは相容れません。だって彼は、本当に強いものだけしか救わないのですから」
「“今”が続けばそれでいい――考え方は同じだと思ったのだがな」
クリピクロウズは首を横に振る。
「クリュティエ。あなたは強いひとだから……弱いひとの可愛らしさを知らない。“今”さえも要らないという、悲痛な声が聞こえない」
「確かに、私の言葉は強者の論だ。お前の意見を尊重するよ」
ふっと笑みを浮かべ、騎士は女へ歩み寄る。
「さようならだ、遠い世界の翼……哀れなる我が姉よ」
差し出した右手。それをクリピクロウズが両手で握り締めると、瞬時にクリュティエの姿は消え去った。
「……ここに在ることを許されないのなら、忘却されたすべてを連れて、もう一度飛びましょう」
両腕を広げるクリピクロウズの背後。地中より、直径2kmにも及ぶ巨大な翼がせり上がる。
それは光の羽を広げ、遥か彼方の空を睨んだ。
「愛すべきものを守るために――お願い、私の“リヴァイアサン”」
●
帝国軍によるラズビルナムの完全包囲と突入準備が完了する頃。
それを知ってか知らずか、巨大な異界から無数のソードオブジェクトが再び帝国中に発射された。
そして巨大な異界のヴェールは晴れ、それが姿を現す。
「勝手に異界を解除したと思ったら……いきなりデカい神殿が出てくるだとぉ!?」
包囲網の中に作られたキャンプで、ブリジッタ・ビットマン(kz0119)が空を見上げる。
「なんだありゃ……地下神殿がまるっと地上側にひっくり返ったとでもいうのか?」
クリケット(kz0093)や多くの帝国兵がどよめく中、ブリジッタはびしりと指さす。
「見りゃわかるのよね! あの異界は“異界を展開する”のではなく、“内側の空間を作り替えるの”のが目的だったってことよさ! 地下深くに埋没したソードオブジェクトを……地上に引っ張り出す採掘手段だっ!!」
神殿の向こうに見える巨大な塔――いや。あれがなんなのか、既に知っている。
ダモクレス級ソードオブジェクト――。
「第三の翼、リヴァイアサン」
神殿の上に立ち、クリピクロウズは空を仰ぐ。
宙へ向けられた剣は、眩い輝きと共に、再び世界に敵対した。
理由はシンプルで、まずクリピクロウズ側にそもそも被害を広げる意識がないというのが第一にあげられる。
確かに各地にソードオブジェクトを打ち込みはしたが、その攻撃は戦術的なものではなく、例えば主要都市に対する攻撃は今のところゼロときている。
相手はあくまでも救済のつもりであって、戦争をしているつもりはないのだ。
そして第二に、既に反影作戦を経て異界への対応方法は知れ渡っている点も大きい。
なんだか得体の知れないものが相手では調査などに手間がかかるが、種が割れている手品に動じるほどソサエティも帝国軍も耄碌していない。
付け加え、この国には過去の戦いで獲得した様々な戦術への対応ノウハウがある。
異界の展開も、さして危機的な状況ではなかったのだ。

カッテ・ウランゲル

ヴィルヘルミナ・ウランゲル
戦力をまとめる時間は十分にあったので、カッテ・ウランゲル(kz0033)は特に焦る事もなく作戦を組み立てた。
「結局内部に入って発生源を叩くしかありません。反影作戦のケースと同様であれば、それで小型の異界もまとめて消滅するはずです」
皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は腕を組み、小さく息を吐く。
「まあ、倒す分には問題ないだろう。倒す分には」
「と、仰いますと?」
「戦闘力ならナイトハルトやオルクスの方がずっと厄介だったからな。だが、クリピクロウズからはもっと情報を引き出せるような気がする」
「お考えは理解できますが、それはクリピクロウズは他の歪虚とはちょっと話が違いますからね」
お喋りな歪虚であれば会話にも応じるし、情報を得られることもある。
だが、クリピクロウズは会話は可能だが基本的に一方的な要求を突き付けてくるだけでかみ合わないタイプだ。
「間違いなく、邪神の本質と何か関係がありそうなのだがな……」
「それなら別に現段階でもある程度分かるじゃないですか」
ヴィルヘルミナの視線が作戦図から弟へと移る。
「というか、陛下もお分かりなのかとばかり」
「ふむ。意見が食い違うとアレだ。君の考えを聞かせてくれ」
「そうですね。あくまでも既に公開されている情報から推測するに――ですが」
●
大精霊には元々、紐づいた世界の事象を観測する機能がある。
だがそれはありとあらゆるものを無差別に観測するのではなく、基本的に観測する存在が必要だ。
それらは高位の知性を持つ存在。クリムゾンウェストで言うところの龍や人間が該当する。
“守護者”とは文字通り世界を物理的な破滅から守る存在であると同時に、観測の欠落から守る存在でもあるのだ。
そう。世界とはそもそも、誰かが願い、誰かが観測し、誰かがそれを承知するという行いが無限に連なって成立している。
大精霊はそうした無限の願いを受け止め、よりよい世界を幻想する為のデータベースだ。
「ファナティックブラッドは大精霊と同じだけの容量を持つ神だ。しかしだからこそ、いずれは限界を迎えるだろう」
“彼”は言った。世界は有限だ。無限ではないと。
どんな命も、その総体である星も、いずれは終わりを迎える。
「その有限こそがファナティックブラッド最大の欠点だ。“維持”に割いているようでは、“救済”に割くリソースが枯渇する。つまりどこかでリソースを供給しなければならないし、不要なデータは削除しなければならない」
最も輝いた記憶だけが、その世界のすべてだ。
最も美しいものだけが。最も強いものだけが。最も悪辣なものだけが世界のラベルとなるならば――。
弱者はどうなる? 取るに足らない記憶はどうなる? 淘汰された進化はどうなる? 辿り着けなかった、捨て去られたモノはどうなる?
忘れられてしまったものは――どうなる?
弱者は強者より圧倒的に多いじゃないか。
天才よりも凡才の方が、金持ちより貧乏人の方が、幸せより不幸せの方が圧倒的に多いじゃないか。
大多数はどうなる? 消えるしかないのか? 善でも悪でもないのなら、存在する価値すらないのか?
(争って争って、最後に残された想い出にしか価値がないというのなら……どうか、教えてください)
敗北者の涙を止める方法はないの?
善にも悪にもなれなかった、どこにも辿り着けない者を、愛してあげる手段はないの?
「見捨てられる者に寄り添うというのか」
本当の無よりはいいから。
「世界の価値を再定義しようというのか」
悲鳴に耳を塞ぐよりはいいから。
「ならば袂を別つがいい。お前はお前の方法で世界を補完しろ。他の翼がそうするように。いずれは王がそうあるように。お前の愛で――世界を救って見せろ」
紀元前のクリムゾンウェストが破砕された時、邪神はその翼の一つを天に打ち上げた。
衛星軌道上を旋回する剣は、長い年月を経て地上へと再び舞い戻る。
炎にきらめく流星は、まだろくな文明も持たない大地へと突き刺さる。
いつか求められるその日まで。時を忘れ、罪を忘れ、ただ何かを救いたいと言う願いだけを抱いて――。

クリピクロウズ

クリュティエ
ラズビルナム異界の中心で、女は一人空に語り掛ける。
「世界が彼らを“観ない”というのなら……ただ忘れて消し去るだけだというのなら……せめて私が……」
乾いた女の頬に涙が伝う。その言葉を、女の背後に立つ騎士が聞いていた。
「あくまでも失われるものに寄り添う、か。ファナティックブラッドに――黙示騎士に合流するつもりはないのだな」
「ええ。私は……お父様とは相容れません。だって彼は、本当に強いものだけしか救わないのですから」
「“今”が続けばそれでいい――考え方は同じだと思ったのだがな」
クリピクロウズは首を横に振る。
「クリュティエ。あなたは強いひとだから……弱いひとの可愛らしさを知らない。“今”さえも要らないという、悲痛な声が聞こえない」
「確かに、私の言葉は強者の論だ。お前の意見を尊重するよ」
ふっと笑みを浮かべ、騎士は女へ歩み寄る。
「さようならだ、遠い世界の翼……哀れなる我が姉よ」
差し出した右手。それをクリピクロウズが両手で握り締めると、瞬時にクリュティエの姿は消え去った。
「……ここに在ることを許されないのなら、忘却されたすべてを連れて、もう一度飛びましょう」
両腕を広げるクリピクロウズの背後。地中より、直径2kmにも及ぶ巨大な翼がせり上がる。
それは光の羽を広げ、遥か彼方の空を睨んだ。
「愛すべきものを守るために――お願い、私の“リヴァイアサン”」

ブリジッタ・ビットマン

クリケット
帝国軍によるラズビルナムの完全包囲と突入準備が完了する頃。
それを知ってか知らずか、巨大な異界から無数のソードオブジェクトが再び帝国中に発射された。
そして巨大な異界のヴェールは晴れ、それが姿を現す。
「勝手に異界を解除したと思ったら……いきなりデカい神殿が出てくるだとぉ!?」
包囲網の中に作られたキャンプで、ブリジッタ・ビットマン(kz0119)が空を見上げる。
「なんだありゃ……地下神殿がまるっと地上側にひっくり返ったとでもいうのか?」
クリケット(kz0093)や多くの帝国兵がどよめく中、ブリジッタはびしりと指さす。
「見りゃわかるのよね! あの異界は“異界を展開する”のではなく、“内側の空間を作り替えるの”のが目的だったってことよさ! 地下深くに埋没したソードオブジェクトを……地上に引っ張り出す採掘手段だっ!!」
神殿の向こうに見える巨大な塔――いや。あれがなんなのか、既に知っている。
ダモクレス級ソードオブジェクト――。
「第三の翼、リヴァイアサン」
神殿の上に立ち、クリピクロウズは空を仰ぐ。
宙へ向けられた剣は、眩い輝きと共に、再び世界に敵対した。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)