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【落葉】リフレインが叫んでる「リヴァイアサン破壊」リプレイ


▼【落葉】グランドシナリオ「リフレインが叫んでる」(12/5?12/25)▼
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作戦1:「リヴァイアサン破壊」リプレイ
- セシア・クローバー(ka7248)
- グリューエリン・ヴァルファー (kz0050)
- フォークス(ka0570)
- ガルガリン(ka0570unit005)
- デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)
- 閻王の盃(R7エクスシア)(ka0013unit001)
- キヅカ・リク(ka0038)
- ペリグリー・チャムチャム(ユグディラ)(ka0038unit004)
- 高瀬 未悠(ka3199)
- 近衛 惣助(ka0510)
- 真改(魔導型ドミニオン)(ka0510unit002)
- ボルディア・コンフラムス(ka0796)
- オウカ・レンヴォルト(ka0301)
- 夜天弐式「王牙」(オファニム)(ka0301unit005)
- 時音 ざくろ(ka1250)
- アニス・テスタロッサ(ka0141)
- レラージュ・ベナンディ(オファニム)(ka0141unit003)
- アイゼンハンダー (kz0109)
- 岩井崎 メル(ka0520)
- ヒース・R・ウォーカー(ka0145)
- アーベント(イェジド)(ka0145unit001)
- シェリル・マイヤーズ(ka0509)
- エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)
- Uisca Amhran(ka0754)
- アニス・エリダヌス(ka2491)
- シリウス(イェジド)(ka2491unit002)
- シレークス(ka0752)
- アウレール・V・ブラオラント(ka2531)
- オルテンシア(ユグディラ)(ka2531unit002)
- クリケット (kz0093)
- 八劒 颯(ka1804)
- Gustav(魔導アーマー量産型)(ka1804unit002)
- エアルドフリス(ka1856)
- ゲアラハ(イェジド)(ka1856unit001)
- ソフィア =リリィホルム(ka2383)
- ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)
- オリーヴェ(イェジド)(ka0239unit001)
●開戦前
もうすぐ作戦が開始される。
ハンターはそれぞれ武器やパートナーたる幻獣、ユニットの最終点検などをしていた。
大作戦前の緊張漂う中、歌声の聞こえる方へ、セシア・クローバー(ka7248)が進んでいく。
歌声の主は、この作戦で邪神翼の放つ忘却の波動を歌声で相殺する役割を与えられたグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)だ。喉を温めているのだろう。
「やあ」
発声練習がひと段落したところで、セシアがグリューエリンに声をかけた。
「失礼ですが、貴女は?」
「私はセシア。風邪を引いた妹に友達を頼むと言われてな。よろしく、『グリューさん』」
その呼ばれ方に、グリューエリンはある人物を思い出し、セシアに微笑んだ。
「ええ、よろしくお願いしますわ」
「ちょっと、確認しておきたいんだけど……どれだけ歌い続けられるかについてなんだが」
「そいつはあたいも聞いておきたいネ」
小麦色の肌をした女、フォークス(ka0570)が話を聞きつけた。
「場合よっちゃ、それなりの対応をしないといけないんでネ。どのくらい歌えるもんなんだい?」
グリューエリンは今回の作戦では、精霊や巫女のバックアップがあるので、歌える時間に制限はないと答えた。もちろん、長時間の歌唱による疲労はあるが、覚醒者にとって問題になる程のものではない。
「なるほど。一応飲料水とか用意しておいたんだけど、必要なかったカナ」
「作戦中は歌い続けられると思います。フォークス殿、お気遣いありがとうございますわ」
「それなら心配ないね。じゃ、本番ではよろしく頼むヨ」
必要な情報を手に入れたフォークスはひらひら手を振って、桃色の髪をなびかせて、去って行く。
セシアはさらに、グリューエリンとエレメンタルコールが繋がるかどうか試したが、彼女たちは交友関係を結んでいないので使用することは出来なかった。
「私もペガサスのレイヴに乗って共に戦うつもりだ。きみの邪魔はさせないよ」
セシアもレイヴの武装のチェックなどをするために戻っていった。
「グリりん」
漆黒のマントをなびかせるのはデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)だ。
「こんだけの大舞台を任されるまでになったのは感慨無量だ。こうなりゃ決めるしか無ぇだろ、最高のライヴをな」
「ええ──今の私だかこそ歌える歌を」
「いい意気込みだ」
グリューエリンの眼差しを確認して、デスドクロは満足げだ。
「や、エリンちゃん……って取り込み中だった?」
諸々の確認を終えたキヅカ・リク(ka0038)がやってきた。
「いや、ちょうど終わったところだ」
と、デスドクロは言い、R7エクスシア、閻王の盃の元へ戻って行く。
「リク殿、何か……?」
「開戦前の重要な儀式に来たんだよ」
すっと、キヅカはグリューエリンに手のひらが見えるように、手を上げた。
それを見て、グリューエリンも理解した。キヅカの上げた手に、自分の手のひらを合わせてハイタッチする。
「前は僕が拓くから」
「はい、私が皆様を忘却から守ります」
●戦闘、開始
「これがクリピクロウズが召喚したスケルトンたち……。数が多くて、突破するにはそれなりの火力が必要ね」
高瀬 未悠(ka3199)はペガサスのユノに乗り、その翼で空を飛んで戦域を確認していた。
「そしてあれが邪神翼」
暗い空の下、それより暗い翼が、どこへも行けずにもがいていた。
「この戦いが終わったら美味しいカレーを作ってあげる。絶対に生きて帰るわよ」
「邪神翼まで辿り着くぞ!」
魔導型ドミニオン、真改に搭乗した近衛 惣助(ka0510)が後ろに続くハンターに言う。
まずはキヅカを先頭にスケルトンへ切り込む算段だ。惣助はキヅカと離れないように位置どりをして、機体の装甲を活かし、彼を支える。
キヅカが超覚醒を発動し、心技体、鋼の如しにより注視を促す光を纏う。
スケルトンの意識が一斉にキヅカに向く。がしゃがしゃと骨を鳴らして、敵も進んでくる。大した知性のないスケルトンは易々と注視に釣られた。
「行くぜ、シャル!!」
空中を行くのはワイバーン、シャルラッハに跨ったボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。
ボルディアがシャルラッハに指示し、ドラゴンブレスで眼下のスケルトンを焼き払った。
「塵も積もれば山となる……雑魚もここまで多くなると圧巻だな」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)はオファニム、夜天弐式「王牙」を操り、斬艦刀でキヅカに群がるスケルトンを叩き斬る。
「ざくろたちも!」
天を駆けるのはグリフォンの蒼海熱風『J9』に騎乗する時音 ざくろ(ka1250)。
「自らを突風と化して爆撃……J9ダウンバーストだ!」
飛んでいる蒼海熱風『J9』は勢いよく地面に降り立って、その衝撃で周囲の敵を吹き飛ばす。
「もう一度いくよ、J9」
再び飛び上がるざくろと蒼海熱風『J9』。
剣などを持った前衛スケルトンの後方には弓矢を装備したスケルトンが控えている。矢のほとんどは、注視のままにキヅカを狙っていた。
敵は占有スクエアを利用して進んできているので、ハンターからの遠距離攻撃は射線が通らなかった。矢の威力は高くない。だが、数は多く、乱れ飛んで来ているのも事実。弓矢装備のスケルトンをこのまま放置しておけば、前進に支障を来すだろう。
「先に潰す、か……」
そう判断したオウカは夜天弐式「王牙」に装備された[SW]ウイングフレーム「ゲファレナー・エンゲル」のフライトシステムを起動する。
上空から、弓を持っているスケルトンに向けてプラズマクラッカーを発射した。高出力プラズマ弾は着弾と共に、爆ぜて周囲を爆風に巻き込む。続けざまに弓矢を持っているスケルトンの集団を撃破し、オウカは再び地上戦に戻る。
さらに、スケルトンの前列に弾丸の雨が降り注いだ。
オファニム、レラージュ・ベナンディに搭乗したアニス・テスタロッサ(ka0141)がフォールシュートを降らせたのだ。
弾丸に撃ち据えられて膝をつくスケルトン。更に、ダンピールで不死狩りの力を付与された未悠が槍を振るう。
「さて……スケルトンは邪魔だが、本命はあの邪神翼だよな」
機体のスコープとセンサーでアニスは邪神翼の発射台である神殿を観察する。
神殿部分をバリアは覆っていないようだ。
「核と変わんねぇな……いや、場合によっちゃアレよりタチ悪ぃか」
並行して、神殿に脆く壊せそうな部分がないか探る。そういった部分はあるにはあったが、1人で破壊するには時間がかかりすぎるとアニスは判断した。
神殿を破壊すれば邪神翼を横倒しに出来る可能性は高い……が、コアは現時点でも攻撃できる位置にあるのだ。
「結局は突っ込んで、バリア剥がして、コアを破壊するしかねぇか」
バリアまではまだ距離がある。目下、スケルトンを蹴散らし、道を開くのが先決だ。
注視の効果により、キヅカに向かってスケルトンが集まってくる。
超覚醒と、守護者スキルにより、強化された肉体を有象無象のスケルトンが傷つけるのは難しい。しかし、時折盾をすり抜けて攻撃が加えられるのも事実だ。彼方からは、邪神翼リヴァイアサンの砲塔からビームによる射撃攻撃も飛んで来ているのだ。
先陣を切るキヅカに向かって放たれたビームを、彼とスクエアを占有するように共に移動していた惣助が真改を滑り込ませて庇う。すでに発動されていたプラズマデフレクターがビームを散乱させ威力を下げた。
「俺が代わろう、今の内に態勢を建て直せ」
同行しているユグディラのペリグリー・チャムチャムの森の午睡の前奏曲に身を預け、キヅカは体力を回復する。
先頭を征くハンターたちは最短距離で邪神翼を目指していた。
「おーい、ツィカーデ!」
邪神翼へ向かおうとしているアイゼンハンダー(kz0109)へ岩井崎 メル(ka0520)が声をかけた。
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)とシェリル・マイヤーズ(ka0509)もいる。
彼、彼女らはアイゼンハンダーに今回のハンターたちの作戦を伝え、邪神翼の情報を提供する。リヴァイアサンが破壊されたら、クリピクロウズも助からないことも同様に伝えた。
「アレを破壊すればお前が救いたい相手がどうなるかは理解したか? それでもなお奴を解放したいと、救いたいと願うのならば……ボクらは今だけお前と一緒に戦えるよ」
「……そんな気はしていたんだ」
アイゼンハンダーはクリピクロウズを救いたいと思い、ここへ来た。だが、ヒースやメルの話した、リヴァイアサンを破壊すればクリピクロウズも無事では済まないことを聞いても、特に表情に変化はなかった。
「今ばかりは私も貴様たちと戦うつもりはない」
アイゼンハンダーははっきりとそう告げた。
「……決まり。一緒に、戦おう……」
と、シェリル。
「捉まって!」
メルが自分の搭乗する機体、オファニムのアカツキの膝をついて、アイゼンハンダーに手を差し出す。
「ひとっ飛びで連れて行くから!」
●進め
邪神翼を中心に、光波が照射された。
それにより、ハンターやユニットの攻撃の手が止まってしまった。
「──攻撃不能の波動、ですか」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)がそう分析した。
放たれる波動は、その“溜め”も含めて魔法の光として認知できる。だが、認知できたところで発射されたものをどうこうできるわけではない。
エラは攻撃不能のBSにかかった刻令ゴーレム「Volcanius」の七竃に機導浄化術・浄癒を施す。
邪神翼はビームを降り注がせ、ハンターに追い打ちをかけた。
シャルラッハはローリングでビームを躱したが、BS攻撃不能にかかっている。
「一旦、降りるか……!」
ボルディアはそう判断して、着地態勢に移る。
攻撃不能の対抗手段として、Uisca Amhran(ka0754)、アニス・エリダヌス(ka2491)、ざくろなどはアイデアルソングを使って、BS強度を下げたが、それでもBSを完全に防ぐことはできない。
再び、邪神翼が攻撃不能の波動を照射する。
また、何人かのハンターやユニットがBSにかかった。
「まずいですね……」
エラは元々の抵抗値が高いこととアイデアル・ソングの効果でBSに抵抗出来ていたので、三烈でスケルトンを攻撃し、同時に、状況を分析する。
攻撃不能者が増えると言うことは、ハンター側の攻撃の手数が減ることを意味している。
加えて、スケルトンは次々召喚されて行く。
ハンターたちがスケルトンを掃討して、なんとか切り拓いた道も、召喚されたスケルトンによってみるみる塞がれてしまう。スケルトンは占有スクエアを作ることを意識しているため、ハンター側の射線が通らない。つまり、マテリアルビームなどの一直線上の効果範囲をもつスキルも、敵の占有スクエアに射線を遮られるために最大射程を選択出来ず、大勢の敵を巻き込めないのだ。
「このままじゃ前に進めねぇぞ!?」
ボルディアは斧を振り回して、スケルトンを粉砕している。
ボルディアなどの一部の高い抵抗値を持つハンターはBSをものともしないが、どう考えても手数が足りない。さら言えば、ハンターの本命は邪神翼である。最大火力は本命を攻略する時までとっておきたいという思いもあるのだ。
戻ることはもとより出来ず、だからと言って、進むこともまた出来ない、拮抗した状況になってしまった。
「永い間彼女は1人で頑張って来たんだ」
メルはアカツキの手のひらにアイゼンハンダーを乗せて飛行しながら話しかける。
「そんな心を今度こそ必要としてあげる存在が何人かいたっていいじゃない。ねぇ、ツィカーデ」
「……私がしようとしていることは、自己満足だ」
ぽつりと、アイゼンハンダーが呟いた。
リヴァイアサンを破壊すれば、クリピクロウズも無事では済まない。それはハンターに教えられる以前から理解していた。それでもアイゼンハンダーはあの翼に巣食う怨念からクリピクロウズを解き放ちたいと思ったのだ。その行いによってクリピクロウズが消滅するようなことがあっても。
「そんな私でも、いいんだろうか?」
「いいんじゃないかな」
メルはアカツキに搭乗しているため、アイゼンハンダーからメルの顔は見えない。でも、その時のメルは力強く笑っていると、アイゼンハンダーは確信した。
「スケルトンが邪魔で、邪神翼まで進めないみたいだね……」
眼下の戦況をメルが見て取った。
「なら、スケルトンの排除は私が引き受けた」
「まかせた。あの翼に喰われる前に、速攻で攻めるよ……!」
「わかっている」
「よし、それじゃあ……」
メルは、アイゼンハンダーが乗っている方の手を動かし、野球の投法で言えば上手投げのような姿勢になる。
アイゼンハンダーもまた、振り落とされないように、指に捉まって、攻撃対象のスケルトンどもを見据える。
「ツィカーデ、行ってこーーーーーーーーーい!!」
アカツキがアイゼンハンダーをぶん投げた。
押し出されたアカツキの掌底を、さらにアイゼンハンダーが蹴って加速。
重力すら味方につけて、アイゼンハンダーは鋼鉄の腕を振りかざす。
「道を、開けろ──!」
その拳は隕石の如く、スケルトンの軍勢を叩き潰した。拳を振り抜いた時に発生した衝撃波が周囲にいたモノさえ塵に変えていく。
「救いたいと、願うアナタにも……」
シェリルがホーリーセイバーをアイゼンハンダーに施した。
聖なる光を纏った、亡霊の義手が振り回されて、次々とスケルトンを粉砕する。
「さて、ボクたちも暴れるとするかぁ」
ヒースがアクセルオーバーで残像を纏い肉体を加速させる。
「うん。ヒー兄……」
シェリルが手裏剣を投げつけた。それぞれマテリアルの込められたそれは、効果範囲内を飛び回って、敵を斬り裂いて行く。
弱ったところに、ヒースが紅蓮斬で追い打ちをかける。
ヒースはアイゼンハンダーを狙う敵に対しても攻撃を加えて援護していた。
また、シェリルのユグディラのユエは、ヒースのイェジド、アーベントに乗って歌を奏でている。幻獣は主人から遠く離れてしまうと命令が上手く伝達できず混乱することもあるが、この程度の距離なら問題ない。
そこへ、邪神翼が攻撃不能の波動を放った。
が、アイゼンハンダーの勢いは止まらない。彼女はすでに精神を汚染されているために、精神系BSがほぼ効かないのだ。
「今だ! 一気に道を拓け!!」
惣助が、今が好機と声を上げた。
機動力を活かして、オウカ斬り込んだ。黒を基調とした機体にあしらわれたアクセントとしての深紅が目にも鮮やかだ。刀が振るわれ、骸骨を叩き斬っていく。
未悠も槍の重量を利用して、周囲の敵を薙ぎ払い、5本のマジックアローを撃ち、仲間が通れる道を開こうとする。
だが、敵の矢が飛んで来て、未悠の肩に突き刺さった。
「未悠!」
キヅカが未悠に声をかける。
反射的に発動されたリジェネーションが傷を癒し、再生された肉が刺さった鏃を体外へ押し出した。
「大丈夫よ、リク」
覚醒により細くなった虹彩の瞳でキヅカを見て、未悠はいつも通り優しく笑った。
「貴方には幸せになって欲しいのよ。だから絶対に死なせない。リクが守りたいものを一緒に守ってみせるわ」
槍を構えて、未悠は次の攻撃に備える。
未悠はキヅカの隣に立ち、力の限り戦い続けると決めていた。無茶ばかりする心配な弟分に、幸せになって欲しいと彼女は願っている。
「ここは通してもらうわ。ユノ!」
未悠は傍にいるユノはヒールウィンドを発動し、周囲の仲間を癒していく。
「これで、まだまだ戦えるな」
夜天弐式「王牙」の損傷が回復され、オウカは舞うように敵を斬り刻んでいく。
このようにスケルトンを蹴散らしていたハンターであったが、その眼前に、無数の骨が集合した巨大なスケルトンが立ちはだかった。
「邪魔だ! 道を開けろ!」
惣助の乗る、真改が加速して、巨大スケルトンへの距離を一気に詰めた。
真改が握るのは、赤と青に発光する二股のドリルランス。
そのドリルランスが易々と装甲を貫通し、巨大スケルトンを刺し貫ぬいた。
巨大スケルトンの体が砂と消えていく。
ハンターたちとアイゼンハンダーの攻撃よって、スケルトンのいない空白地帯ができた。
だが、スケルトンもその穴を埋めようと雪崩れ込んでくる。
「させるか! 皆、射線を開けてくれ!!」
惣助が味方に退避を促した。[SW]試作波動銃「アマテラス」にマテリアルが充填されていく。
敵が占有スクエアを形成しきるよりも先だったので長い射程を確保できた。光線が一条、戦場を駆け抜け、スケルトンどもを焼き払う。
「私も援護するよ!」
もう一条、メルが[SW]クイックライフル「ウッドペッカー」によるマテリアルビームでさらに道幅を押し広げた。
こうして、ようやく道が拓かれたのだ。
ハンターは邪神翼へ前進してく。
●止まるな
いよいよ邪神翼もこれ以上ハンターに接近されるのはまずいと判断したのだろう。忘却の波動を撒き散らした。
しかし、それはハンターに届くことはない。
魔導アーマーの舞台にいるグリューエリンの歌声で相殺されるからだ。
「奴も本気を出して来たようだな」
閻王の盃に搭乗するデスドクロが言う。彼はグリューエリンの側に付き、シンガーの調子を把握する。グリューエリンにはなんら問題ない。
「盛り上がっていこうじゃねえの!」
歌に合わせるように、ヘビーガトリングが撃ち込まれる。銃声が、より華やかに歌を盛り上げていく。
警戒した邪神翼や弓を装備するスケルトンがグリューエリンの乗る魔導アーマーに射撃を集中させるが、どうにも狙いが定まらず、見当違いの方向へ攻撃が逸れる。
「カリブンクルス、おめーの技の魅せどころでやがります!」
シレークス(ka0752)のポロウ、カリブンクルスによる惑わすホーが敵の命中を下げているのだ。
「エクラの教えのもと、歪虚滅ぶべし──聖なる拳を喰らいやがれ!!」
白に統一された機甲拳鎚がスケルトンをぶち抜いた。
「おらおらおらぁっ!!」
シレークス式聖闘術『聖なるもの』により魔法威力を付与された拳が次々と敵を塵に変えていく。
シレークスの進撃を阻むように、巨大な剣が振り下ろされた。巨大スケルトンの斬撃である。
「いい図体していやがりますねぇ!」
その斬撃を、シレークスは半身になって最小限の動きで躱し、剣の重みに振り回されて、地面に垂れたスケルトンの頭蓋骨を掴んだ。彼女の肉体はシレークス式聖闘術『怒りの日』で強化済みだ。
「ホネホネスロー!!」
巨大なスケルトンを物ともせず、シレークスは投げ飛ばした。からからという音を立てて巨体がひっくり返る。
「そろそろ来るか」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が邪神翼を見た。攻撃不能の波動はもう直ぐ照射されるだろう。
「エリンさん、貴女だけには背負わせません……私も一緒に歌うよっ」
Uiscaも攻撃不能の波動のタイミングを見計らって、[SA]電光楽器「パラレルフォニック」により、強度が増したアイデアルソングを歌う。
BSの強度がマイナスされたことにより、Uiscaに同行するユキウサギも抵抗に成功した。
「リヴァイアサンが壊れても貴方達の想い出が全て消えたりしないっ。貴方達の苦い過去を、歴史を、私達が伝え教訓にするから……!」
想いを歌に乗せ、Uiscaは【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻で、龍の牙や爪でスケルトンを串刺しにする。
アウレールは斬霊剣「剣豪殺し」によって、武器に魔法剣の効果を付与して、敵を斬り払う。また、展開されたガウスジェイルによって味方を攻撃から守っていた。
味方を狙った鋭いビームがガウスジェイルにより捻じ曲げられて、アウレールに命中する。瞬時に体を動かして、防御の厚い部分で攻撃を受けるも、積み重なったダメージもあり、血を零す。
ユグディラのオルテンシアが森の午睡の前奏曲を奏でる。また、アウレールはリペアキット「キズナオール君」を打ち込んでダメージに対処した。
デスドクロはブラストハイロゥを展開し、グリューエリンのいる魔導アーマーへの射線を妨害する。
魔導アーマーも、護衛のハンターに導かれて邪神翼に向かって前進していた。操縦するのはクリケット(kz0093)。今回の魔導アーマーはグリューエリンのお立ち台としてしか機能していないので、丸腰の状態で戦場の最中を移動していることになる。しかし、周囲をガッチリハンターが固めているのでクリケットもグリューエリンも落ち着いている。
魔導アーマーを狙う矢を、フォースクの乗るマテリアルを纏ったガルガリンが代わりに受ける。
「休憩が必要ないってんなら、思う存分歌ってもらうヨ」
ダメージを肩代わりしながら、射撃によって、スケルトンにダメージを与える。
セシアはレイヴで上空を飛び、ファイアエンチャントやウィンドガストで味方の支援だ。ダメージの蓄積が多い味方へは、距離を縮め癒しの光る風で回復させる。
一丸となって進軍するハンター。邪神翼へ間近に迫り、ついに先頭集団から八劒 颯(ka1804)が飛び出し、バリアへ肉薄する。
「はやてにおまかせですの!」
魔導アーマー量産型のGustavが疾駆する。アーマードリル「轟旋」がバリアの表面に当たった。だが、バリアは強力で、どんなにドリルを押し込んでも破ることは出来ない。
「これでは火力が足りませんか。それなら」
颯はコックピットから出て生身になった。手に持っている[SW]ツインドリルランス「コスモ」に解放錬成をかけて巨大化させる。
「びりびり電撃どりる!」
再度、ドリルがバリア表面に突きつけられるが、それでも威力が足りなかった。
邪神翼は颯に向けて、ビームを撃った。
Gustavに乗り込むよりも先だったので、その攻撃は颯自身に直撃した。
ダメージにより、颯の体が揺らぐ。Gustavから落ちそうになる体を、イェジドのシリウスに跨ったアニス・エリダヌスが受け止めた。
「しっかりしてください! 今回復しますから!」
フルリカバリーで颯の傷を癒していくアニス。
「一旦下がりましょう。ここは攻撃のタイミングを見計らうべきです」
再びGustavのコックピットに乗り込んだ颯は、体勢を立て直すためにも引き下がることにした。
「ようやく、ここまで辿り着いた」
キヅカと惣助を先頭にしたハンターたちが邪神翼を攻撃圏内に捉えた。
「キヅカ、存分にやれ」
惣助がキヅカを攻撃から庇い、反撃のタイミングをつくり出した。
「世界はだれか1人で成り立つもんじゃない……1人1人の声が、願いが、折り重なって初めて世界を作るんだ」
正義が光によって顕現する。ペリグリー・チャムチャムの奏でる旋律がマテリアルを調和せていく。
「お前は僕に何を示せるのか、と言った。受け止めて見せる。この憎悪も怨嗟も……全て。そうやって背負って、寄り添って、託していくのがヒトなんだ……!」
キヅカを中心に燦然と輝く正義は、我が正義の侭に敵を焼き尽くした。氾濫する光の奔流は避けることすら困難だ。光を浴びた敵は、瞬間的に防御すら許されない。
「空、風、樹、地、結ぶは水。天地均衡の下、巡れ」
世界は《円環》に見立てられる。エアルドフリス(ka1856)は厳かに言葉を紡ぐ。
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す。理に叛く代償の甘受を誓約せん──灰燼に帰せ!」
燃え盛る蒼い炎の矢が雨の如く邪神翼に降り注ぐ。
矢が着弾するたびに、バリアが空気を軋ませるような音をあげる。
「──ぶち抜く」
レラージュ・ベナンディの機体が赤く発光する。赤いマテリアル粒子が機体を覆っているためだ。
4基あるエンジンの内1基の出力を火力に指向。搭乗者であるアニス・テスタロッサは負荷のために、口から血を流す。
身体感覚、視覚情報が機体と一体化された。MODE:Indraによる、人機一体の技。
プラズマライフル「ラッド・フィエル01」から弾丸が撃ち出された。弾丸はマテリアルによって加速し、バリアに激突。それでもバリアを破壊しきれなかった弾丸が砕けて塵となって消えていった──刹那、着弾点に罅が入った。
「今度こそ貫いてみせます!!」
態勢を立て直した颯がGustavの轟旋をバリアの罅を狙って突き出す。
ドリルによる突きの衝撃で、卵の殻が毀れるように、バリアがぼろぼろと剥がれ落ちた──ついに邪神翼が晒されたのだ。
「よーやく本命との対決ですね。最大火力を叩き込んでやりましょう! 邪神翼叩き潰し隊の皆さんはわたしの攻撃の後に続いてくださいねー!」
そう言うのはソフィア =リリィホルム(ka2383)。彼女はすでに攻性強化を発動しており、[SW]星神器「ブリューナク」にはクリスタルバレットを装填済みだ。
ソフィアは紫色の右目と、覚醒により紅く変化した左眼で射るように敵を見据え、ブリューナクの銃口を邪神翼に向けた。
「太陽とは、翼を堕とすモノ!」
続いてブリューナクが紅い雷電を纏う。魔導機械を媒介にして発動されたアルケミックパワーで、武器にさらにマテリアルを込めていく。
「救われぬ古き怨念と共に焼き尽くされるがいい、邪神の翼よ!」
ブリューナクを握るソフィアの手には炎の幻影が立ち上っている。覚醒により灰色の髪は銀灰色に染まり、なびく。
「顕現せよ……紅き、太陽!!!」
銃身を駆け抜けた龍鉱石の弾丸には、ソフィアに同行するユグディラ、ケルンの森の宴の狂詩曲も重ねられている。
弾丸は空中で小さな太陽に姿を変え、空間転移によりソフィアが設定した座標へ送り込まれる。
設定座標は全て邪神翼。2kmに渡る長大な体を焼き尽くす5個の太陽が、邪神翼のコアを中心に十字に現れ、同時に爆発を起こした。
ラヴァダの光条が発動された時点で、回避など不可能。その光は防御を無効にし、さらに、ガーディアンウェポンによる邪神翼への特効により、絶大なダメージを与えた。
太陽の光の後には、ハンターを理想の光が包んだ。
「幾度失敗しようとも、どんな苦境にあろうとも、また一歩踏み出す者の元に明日は来る。それは素朴な夢に手を伸ばす少しの勇気。そしてその背を押してくれる誰か。人は変われる、誰でも強くなれる──信じぬならば見るがいい」
光の中心にいるのは、聖祈剣「ノートゥング」を掲げたアウレールだ。
「諦めぬ限り、何物も失われはしない!」
御伽噺「御旗のもとに」が味方の能力を底上げする。
かくして、一斉攻撃の手筈が整った。
躍り出る白銀の姿は、イェジドのオリーヴェに跨ったユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)だ。
蒼姫刀「魂奏竜胆」は青白い雷光を纏い、輝いている。
「大切な者達と共に明日を生きるという祈りと願い、それを為すという渇望(たましい)を込めて……その核にこの刃を穿ち突き立てるっ!! 受け取れ邪神の残滓、これが……想いを託し、明日を斬り拓く意志の一撃だっ!!」
オリーヴェが迅雷の速さで踏み込み、ユーリが鋭い突きを放つ。最後には蒼刃魂奏によって蒼白の雷光が叩きつけられた。
「インドラの矢が一発しか無いなんて誰が言ったよ。切り札は残しとくもんだ!!」
アニス・テスタロッサは再度MODE:Indraを発動して、高加速射撃を撃つ。
メルのアカツキによる、MBやマジックエンハンサーなどで威力が増したマテリアルライフルも邪神翼に突き刺さる。
炎獣憑依の儀『紅狗』により祖霊を憑依させたボルディアがコアに斧を叩き込んだ。
ラヴァダの光条により全身の防御点が0になった邪神翼へ、ハンターの今まで温存していた高火力攻撃が次々とヒットし、大ダメージを与えていく。
●散るモノ、進む者
傷だらけになった邪神翼であるが──その傷が瞬時に癒えた。クリピクロウズから生命力を奪って回復したのだ。クリピクロウズの生命を食らってでも生き延びようとするのは、翼に渦巻く怨念の数々。
『私僕お前俺私君私僕俺私お前君』
『許せない』『許さない』
『復讐』『報復』『破壊』
『お前の幸福を認めない』
『何もかも滅茶苦茶になればいい』
『幸せになれなかった』『なら、全員不幸になればいい』
怨念の声が漏れてくる。
「皆が常に強くいられはしない、逃げたくなる事もあるだろう。けど、過去に籠って忘却を願うだけでは何処にも行けない。クリピクロウズ──貴様は拾い上げるばかりで導く事をしなかった!」
アウレールが叫んだ。
「人は昨日を積み上げて明日に向かえる。その権利と可能性を奪って腐敗させた結果がそれだ! 弱者を永遠に弱さに縛り付ける心算か!」
ノートゥングの切っ先を邪神翼へ突きつける。
「私は何度でも言おう……諦めぬ限り、何物も失われはしないと!」
「弱者の救済、か。あぁ、お前は立派だと思うし、間違っちゃいねぇ。……だけどな、お前は方法を間違えたんだ」
怨念の声を受け止めてボルディアが言う。
「いくら逃げたって嫌なことはどこまでも追いかけてくる。仮に全部から逃げたって、"自分"からは逃げられねぇ。だからテメェは、強ぇとか弱ぇとか線引きする前に、テメェはテメェの人生を"戦える"んだってコイツ等に教えてやるべきだったんだよ」
クリピクロウズのいう弱者たちは、怨嗟の声となってハンターに降り注いでいた。
「結局のところ……けじめってやつなのかな……」
訥々とシェリルも言葉を紡ぐ。
「強いとか、弱いとか関係ない……つらくて泣きたい記憶も……心の整理がつけば……忘れなくても前を向ける……受け止める事は、忘れさせることじゃなくて……想い、聞いてあげる事で……支えあえたら……弱くても、前は向けるんじゃないかな……」
「人は全てを救えない。肩は貸せるけど結局自分で立つしかない……でも、僕はヒトの可能性を信じてる。エリンちゃんや僕の様に、僕らは何度でも立ち上がれると……そんな世界を作ってみせる」
キヅカが、ペリグリー・チャムチャムの狂詩曲でマテリアルの流れを整えた一撃を邪神翼に浴びせる。
「進め、どんなに傷つこうとも」
「クリピクロウズさん、私は貴方の弱き者に寄り添う精神を受け継ぎたい。でも貴方のしている事はただ逃げてるだけ……だからっ、私は真に弱き者の涙を止める道を探したいの!」
Uiscaは、この先の未来への祈りを唱えた。
『嫌だ』『まだ終わりたくない』
『私は』
『僕は』
『俺は』
『君は』『お前は』『あなたは』
『君も』『お前も』『あなたも』
『引きずり落としてやる』
邪神翼もハンターへ30門ある砲塔からビームを雨あられと降らせて対抗した。
ビーム降りしきる中、アニス・エリダヌスはフルリカバリーで重傷者を回復していく。
「……必ず、皆で無事に帰りましょう。わたしは、そのためにここに来ました。帰らぬ人を待つ悲しみは、もうたくさんです」
ハンターが同行させているユグディラやペガサスの範囲回復魔法も戦線を支えているが、重い傷を治すにはやはり、アニスのフルリカバリーの方が効果的だ。
「帝国の膿が蠢くのは冬と相場が決まっているのかねぇ。それも今年はまた特大の災厄ときた」
イェジドのゲアラハがジャンプしてビーム攻撃を避けた。
エアルドフリスは邪神翼本体への攻撃は味方に任せている。ビームからはゲアラハがスティールステップで守っていた。ゲアラハは主人が紙装甲なのをよく理解しているのだ。
ゲアラハはお返しだと言わんばかりに鼻を鳴らし、幻獣ミサイル「シンティッラ」を発射。プラズマバーストが炸裂する。
「バリアはまだ再展開しない……それに、グリューエリン嬢もアイゼンハンダーも問題なしときた。ならば、俺たちは存分にやってやろうじゃあないか」
結局は人の妄念こそが呪いを呼ぶ。そういったものに、今を生きる人間がしてやれることは少ない。
「これが俺にできる、せめてもの餞だ」
エアルドフリスは次々に大魔法を繰り出し、容赦なく爆撃を行う。
『まだ、』
『だって、まだ幸せを破壊してない』
『まだ、まだ、まだ、まだ、』
『他人の不幸を』『怒りを』『嘆きを』『味わいたい』
傷を受けた邪神翼はクリピクロウズから際限なく生命力を奪っていく。
蒼海熱風『J9』はざくろを背に乗せ、巧みにビームを避けていた。
「J9、お前の翼に賭ける」
華麗に空を舞い、みるみる敵への距離を詰める。
ざくろは剣に超重錬成をかけ、巨大化させる。さらに、解放錬成により瞬間的に威力を跳ね上げた。
「超・重・剣・解・放……天空直下一文字斬り!! 砕け散れぇぇぇぇ」
邪神翼に深い刀傷が出来た。蓄積したダメージもあり、クリピクロウズから命を吸い上げても、癒し切ることは難しかった。バリアを再展開しようにも、それにはまだ時間がかかるらしい。
「忘却という選択肢を否定する気はない」
惣助が邪神翼を見て呟いた。
「だが、悪いが放っておく訳にもいかないんだ」
絶叫が聞こえた。
邪神翼に蠢く怨念の断末魔だった。
コアには罅が入り、叩きつけられたハンターたちの攻撃によりついに、砕けた。
邪神翼全体に亀裂が走る。そして、足元から崩れるように邪神翼は倒壊し、全ては塵になって消えた。
●終わりに
「終わったのか……」
アイゼンハンダーが崩れ去る邪神翼リヴァイアサンを見ていた。
「ツィカーデ!」
会った時と同様に、メルがアイゼンハンダーに声をかけた。
「クリピクロウズの許へ行って」
「……そうだな」
もう、この戦場で戦うこともないと判断したアイゼンハンダーはメルの言う通り、クリピクロウズの許へ向かうことにした。
「……」
その後ろ姿を、シレークスも見ていた。
シレークスからすれば、迂闊に手出しはしないが、アイゼンハンダーも滅ぶべき存在である歪虚だ。今回の戦闘で弱体化、できれば消滅を願っていたが、彼女は無事なようだった。
「さて、私もキヅカくんのところに行こうっと。超覚醒の影響もあるだろうからね」
と、メルはアカツキを操縦し、仲間の元に向かっていくのだった。
もうすぐ作戦が開始される。
ハンターはそれぞれ武器やパートナーたる幻獣、ユニットの最終点検などをしていた。
大作戦前の緊張漂う中、歌声の聞こえる方へ、セシア・クローバー(ka7248)が進んでいく。
歌声の主は、この作戦で邪神翼の放つ忘却の波動を歌声で相殺する役割を与えられたグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)だ。喉を温めているのだろう。
「やあ」
発声練習がひと段落したところで、セシアがグリューエリンに声をかけた。
「失礼ですが、貴女は?」
「私はセシア。風邪を引いた妹に友達を頼むと言われてな。よろしく、『グリューさん』」
その呼ばれ方に、グリューエリンはある人物を思い出し、セシアに微笑んだ。
「ええ、よろしくお願いしますわ」
「ちょっと、確認しておきたいんだけど……どれだけ歌い続けられるかについてなんだが」
「そいつはあたいも聞いておきたいネ」
小麦色の肌をした女、フォークス(ka0570)が話を聞きつけた。
「場合よっちゃ、それなりの対応をしないといけないんでネ。どのくらい歌えるもんなんだい?」
グリューエリンは今回の作戦では、精霊や巫女のバックアップがあるので、歌える時間に制限はないと答えた。もちろん、長時間の歌唱による疲労はあるが、覚醒者にとって問題になる程のものではない。
「なるほど。一応飲料水とか用意しておいたんだけど、必要なかったカナ」
「作戦中は歌い続けられると思います。フォークス殿、お気遣いありがとうございますわ」
「それなら心配ないね。じゃ、本番ではよろしく頼むヨ」
必要な情報を手に入れたフォークスはひらひら手を振って、桃色の髪をなびかせて、去って行く。
セシアはさらに、グリューエリンとエレメンタルコールが繋がるかどうか試したが、彼女たちは交友関係を結んでいないので使用することは出来なかった。
「私もペガサスのレイヴに乗って共に戦うつもりだ。きみの邪魔はさせないよ」
セシアもレイヴの武装のチェックなどをするために戻っていった。
「グリりん」
漆黒のマントをなびかせるのはデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)だ。
「こんだけの大舞台を任されるまでになったのは感慨無量だ。こうなりゃ決めるしか無ぇだろ、最高のライヴをな」
「ええ──今の私だかこそ歌える歌を」
「いい意気込みだ」
グリューエリンの眼差しを確認して、デスドクロは満足げだ。
「や、エリンちゃん……って取り込み中だった?」
諸々の確認を終えたキヅカ・リク(ka0038)がやってきた。
「いや、ちょうど終わったところだ」
と、デスドクロは言い、R7エクスシア、閻王の盃の元へ戻って行く。
「リク殿、何か……?」
「開戦前の重要な儀式に来たんだよ」
すっと、キヅカはグリューエリンに手のひらが見えるように、手を上げた。
それを見て、グリューエリンも理解した。キヅカの上げた手に、自分の手のひらを合わせてハイタッチする。
「前は僕が拓くから」
「はい、私が皆様を忘却から守ります」
●戦闘、開始
「これがクリピクロウズが召喚したスケルトンたち……。数が多くて、突破するにはそれなりの火力が必要ね」
高瀬 未悠(ka3199)はペガサスのユノに乗り、その翼で空を飛んで戦域を確認していた。
「そしてあれが邪神翼」
暗い空の下、それより暗い翼が、どこへも行けずにもがいていた。
「この戦いが終わったら美味しいカレーを作ってあげる。絶対に生きて帰るわよ」
「邪神翼まで辿り着くぞ!」
魔導型ドミニオン、真改に搭乗した近衛 惣助(ka0510)が後ろに続くハンターに言う。
まずはキヅカを先頭にスケルトンへ切り込む算段だ。惣助はキヅカと離れないように位置どりをして、機体の装甲を活かし、彼を支える。
キヅカが超覚醒を発動し、心技体、鋼の如しにより注視を促す光を纏う。
スケルトンの意識が一斉にキヅカに向く。がしゃがしゃと骨を鳴らして、敵も進んでくる。大した知性のないスケルトンは易々と注視に釣られた。
「行くぜ、シャル!!」
空中を行くのはワイバーン、シャルラッハに跨ったボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。
ボルディアがシャルラッハに指示し、ドラゴンブレスで眼下のスケルトンを焼き払った。
「塵も積もれば山となる……雑魚もここまで多くなると圧巻だな」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)はオファニム、夜天弐式「王牙」を操り、斬艦刀でキヅカに群がるスケルトンを叩き斬る。
「ざくろたちも!」
天を駆けるのはグリフォンの蒼海熱風『J9』に騎乗する時音 ざくろ(ka1250)。
「自らを突風と化して爆撃……J9ダウンバーストだ!」
飛んでいる蒼海熱風『J9』は勢いよく地面に降り立って、その衝撃で周囲の敵を吹き飛ばす。
「もう一度いくよ、J9」
再び飛び上がるざくろと蒼海熱風『J9』。
剣などを持った前衛スケルトンの後方には弓矢を装備したスケルトンが控えている。矢のほとんどは、注視のままにキヅカを狙っていた。
敵は占有スクエアを利用して進んできているので、ハンターからの遠距離攻撃は射線が通らなかった。矢の威力は高くない。だが、数は多く、乱れ飛んで来ているのも事実。弓矢装備のスケルトンをこのまま放置しておけば、前進に支障を来すだろう。
「先に潰す、か……」
そう判断したオウカは夜天弐式「王牙」に装備された[SW]ウイングフレーム「ゲファレナー・エンゲル」のフライトシステムを起動する。
上空から、弓を持っているスケルトンに向けてプラズマクラッカーを発射した。高出力プラズマ弾は着弾と共に、爆ぜて周囲を爆風に巻き込む。続けざまに弓矢を持っているスケルトンの集団を撃破し、オウカは再び地上戦に戻る。
さらに、スケルトンの前列に弾丸の雨が降り注いだ。
オファニム、レラージュ・ベナンディに搭乗したアニス・テスタロッサ(ka0141)がフォールシュートを降らせたのだ。
弾丸に撃ち据えられて膝をつくスケルトン。更に、ダンピールで不死狩りの力を付与された未悠が槍を振るう。
「さて……スケルトンは邪魔だが、本命はあの邪神翼だよな」
機体のスコープとセンサーでアニスは邪神翼の発射台である神殿を観察する。
神殿部分をバリアは覆っていないようだ。
「核と変わんねぇな……いや、場合によっちゃアレよりタチ悪ぃか」
並行して、神殿に脆く壊せそうな部分がないか探る。そういった部分はあるにはあったが、1人で破壊するには時間がかかりすぎるとアニスは判断した。
神殿を破壊すれば邪神翼を横倒しに出来る可能性は高い……が、コアは現時点でも攻撃できる位置にあるのだ。
「結局は突っ込んで、バリア剥がして、コアを破壊するしかねぇか」
バリアまではまだ距離がある。目下、スケルトンを蹴散らし、道を開くのが先決だ。
注視の効果により、キヅカに向かってスケルトンが集まってくる。
超覚醒と、守護者スキルにより、強化された肉体を有象無象のスケルトンが傷つけるのは難しい。しかし、時折盾をすり抜けて攻撃が加えられるのも事実だ。彼方からは、邪神翼リヴァイアサンの砲塔からビームによる射撃攻撃も飛んで来ているのだ。
先陣を切るキヅカに向かって放たれたビームを、彼とスクエアを占有するように共に移動していた惣助が真改を滑り込ませて庇う。すでに発動されていたプラズマデフレクターがビームを散乱させ威力を下げた。
「俺が代わろう、今の内に態勢を建て直せ」
同行しているユグディラのペリグリー・チャムチャムの森の午睡の前奏曲に身を預け、キヅカは体力を回復する。
先頭を征くハンターたちは最短距離で邪神翼を目指していた。
「おーい、ツィカーデ!」
邪神翼へ向かおうとしているアイゼンハンダー(kz0109)へ岩井崎 メル(ka0520)が声をかけた。
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)とシェリル・マイヤーズ(ka0509)もいる。
彼、彼女らはアイゼンハンダーに今回のハンターたちの作戦を伝え、邪神翼の情報を提供する。リヴァイアサンが破壊されたら、クリピクロウズも助からないことも同様に伝えた。
「アレを破壊すればお前が救いたい相手がどうなるかは理解したか? それでもなお奴を解放したいと、救いたいと願うのならば……ボクらは今だけお前と一緒に戦えるよ」
「……そんな気はしていたんだ」
アイゼンハンダーはクリピクロウズを救いたいと思い、ここへ来た。だが、ヒースやメルの話した、リヴァイアサンを破壊すればクリピクロウズも無事では済まないことを聞いても、特に表情に変化はなかった。
「今ばかりは私も貴様たちと戦うつもりはない」
アイゼンハンダーははっきりとそう告げた。
「……決まり。一緒に、戦おう……」
と、シェリル。
「捉まって!」
メルが自分の搭乗する機体、オファニムのアカツキの膝をついて、アイゼンハンダーに手を差し出す。
「ひとっ飛びで連れて行くから!」
●進め
邪神翼を中心に、光波が照射された。
それにより、ハンターやユニットの攻撃の手が止まってしまった。
「──攻撃不能の波動、ですか」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)がそう分析した。
放たれる波動は、その“溜め”も含めて魔法の光として認知できる。だが、認知できたところで発射されたものをどうこうできるわけではない。
エラは攻撃不能のBSにかかった刻令ゴーレム「Volcanius」の七竃に機導浄化術・浄癒を施す。
邪神翼はビームを降り注がせ、ハンターに追い打ちをかけた。
シャルラッハはローリングでビームを躱したが、BS攻撃不能にかかっている。
「一旦、降りるか……!」
ボルディアはそう判断して、着地態勢に移る。
攻撃不能の対抗手段として、Uisca Amhran(ka0754)、アニス・エリダヌス(ka2491)、ざくろなどはアイデアルソングを使って、BS強度を下げたが、それでもBSを完全に防ぐことはできない。
再び、邪神翼が攻撃不能の波動を照射する。
また、何人かのハンターやユニットがBSにかかった。
「まずいですね……」
エラは元々の抵抗値が高いこととアイデアル・ソングの効果でBSに抵抗出来ていたので、三烈でスケルトンを攻撃し、同時に、状況を分析する。
攻撃不能者が増えると言うことは、ハンター側の攻撃の手数が減ることを意味している。
加えて、スケルトンは次々召喚されて行く。
ハンターたちがスケルトンを掃討して、なんとか切り拓いた道も、召喚されたスケルトンによってみるみる塞がれてしまう。スケルトンは占有スクエアを作ることを意識しているため、ハンター側の射線が通らない。つまり、マテリアルビームなどの一直線上の効果範囲をもつスキルも、敵の占有スクエアに射線を遮られるために最大射程を選択出来ず、大勢の敵を巻き込めないのだ。
「このままじゃ前に進めねぇぞ!?」
ボルディアは斧を振り回して、スケルトンを粉砕している。
ボルディアなどの一部の高い抵抗値を持つハンターはBSをものともしないが、どう考えても手数が足りない。さら言えば、ハンターの本命は邪神翼である。最大火力は本命を攻略する時までとっておきたいという思いもあるのだ。
戻ることはもとより出来ず、だからと言って、進むこともまた出来ない、拮抗した状況になってしまった。
「永い間彼女は1人で頑張って来たんだ」
メルはアカツキの手のひらにアイゼンハンダーを乗せて飛行しながら話しかける。
「そんな心を今度こそ必要としてあげる存在が何人かいたっていいじゃない。ねぇ、ツィカーデ」
「……私がしようとしていることは、自己満足だ」
ぽつりと、アイゼンハンダーが呟いた。
リヴァイアサンを破壊すれば、クリピクロウズも無事では済まない。それはハンターに教えられる以前から理解していた。それでもアイゼンハンダーはあの翼に巣食う怨念からクリピクロウズを解き放ちたいと思ったのだ。その行いによってクリピクロウズが消滅するようなことがあっても。
「そんな私でも、いいんだろうか?」
「いいんじゃないかな」
メルはアカツキに搭乗しているため、アイゼンハンダーからメルの顔は見えない。でも、その時のメルは力強く笑っていると、アイゼンハンダーは確信した。
「スケルトンが邪魔で、邪神翼まで進めないみたいだね……」
眼下の戦況をメルが見て取った。
「なら、スケルトンの排除は私が引き受けた」
「まかせた。あの翼に喰われる前に、速攻で攻めるよ……!」
「わかっている」
「よし、それじゃあ……」
メルは、アイゼンハンダーが乗っている方の手を動かし、野球の投法で言えば上手投げのような姿勢になる。
アイゼンハンダーもまた、振り落とされないように、指に捉まって、攻撃対象のスケルトンどもを見据える。
「ツィカーデ、行ってこーーーーーーーーーい!!」
アカツキがアイゼンハンダーをぶん投げた。
押し出されたアカツキの掌底を、さらにアイゼンハンダーが蹴って加速。
重力すら味方につけて、アイゼンハンダーは鋼鉄の腕を振りかざす。
「道を、開けろ──!」
その拳は隕石の如く、スケルトンの軍勢を叩き潰した。拳を振り抜いた時に発生した衝撃波が周囲にいたモノさえ塵に変えていく。
「救いたいと、願うアナタにも……」
シェリルがホーリーセイバーをアイゼンハンダーに施した。
聖なる光を纏った、亡霊の義手が振り回されて、次々とスケルトンを粉砕する。
「さて、ボクたちも暴れるとするかぁ」
ヒースがアクセルオーバーで残像を纏い肉体を加速させる。
「うん。ヒー兄……」
シェリルが手裏剣を投げつけた。それぞれマテリアルの込められたそれは、効果範囲内を飛び回って、敵を斬り裂いて行く。
弱ったところに、ヒースが紅蓮斬で追い打ちをかける。
ヒースはアイゼンハンダーを狙う敵に対しても攻撃を加えて援護していた。
また、シェリルのユグディラのユエは、ヒースのイェジド、アーベントに乗って歌を奏でている。幻獣は主人から遠く離れてしまうと命令が上手く伝達できず混乱することもあるが、この程度の距離なら問題ない。
そこへ、邪神翼が攻撃不能の波動を放った。
が、アイゼンハンダーの勢いは止まらない。彼女はすでに精神を汚染されているために、精神系BSがほぼ効かないのだ。
「今だ! 一気に道を拓け!!」
惣助が、今が好機と声を上げた。
機動力を活かして、オウカ斬り込んだ。黒を基調とした機体にあしらわれたアクセントとしての深紅が目にも鮮やかだ。刀が振るわれ、骸骨を叩き斬っていく。
未悠も槍の重量を利用して、周囲の敵を薙ぎ払い、5本のマジックアローを撃ち、仲間が通れる道を開こうとする。
だが、敵の矢が飛んで来て、未悠の肩に突き刺さった。
「未悠!」
キヅカが未悠に声をかける。
反射的に発動されたリジェネーションが傷を癒し、再生された肉が刺さった鏃を体外へ押し出した。
「大丈夫よ、リク」
覚醒により細くなった虹彩の瞳でキヅカを見て、未悠はいつも通り優しく笑った。
「貴方には幸せになって欲しいのよ。だから絶対に死なせない。リクが守りたいものを一緒に守ってみせるわ」
槍を構えて、未悠は次の攻撃に備える。
未悠はキヅカの隣に立ち、力の限り戦い続けると決めていた。無茶ばかりする心配な弟分に、幸せになって欲しいと彼女は願っている。
「ここは通してもらうわ。ユノ!」
未悠は傍にいるユノはヒールウィンドを発動し、周囲の仲間を癒していく。
「これで、まだまだ戦えるな」
夜天弐式「王牙」の損傷が回復され、オウカは舞うように敵を斬り刻んでいく。
このようにスケルトンを蹴散らしていたハンターであったが、その眼前に、無数の骨が集合した巨大なスケルトンが立ちはだかった。
「邪魔だ! 道を開けろ!」
惣助の乗る、真改が加速して、巨大スケルトンへの距離を一気に詰めた。
真改が握るのは、赤と青に発光する二股のドリルランス。
そのドリルランスが易々と装甲を貫通し、巨大スケルトンを刺し貫ぬいた。
巨大スケルトンの体が砂と消えていく。
ハンターたちとアイゼンハンダーの攻撃よって、スケルトンのいない空白地帯ができた。
だが、スケルトンもその穴を埋めようと雪崩れ込んでくる。
「させるか! 皆、射線を開けてくれ!!」
惣助が味方に退避を促した。[SW]試作波動銃「アマテラス」にマテリアルが充填されていく。
敵が占有スクエアを形成しきるよりも先だったので長い射程を確保できた。光線が一条、戦場を駆け抜け、スケルトンどもを焼き払う。
「私も援護するよ!」
もう一条、メルが[SW]クイックライフル「ウッドペッカー」によるマテリアルビームでさらに道幅を押し広げた。
こうして、ようやく道が拓かれたのだ。
ハンターは邪神翼へ前進してく。
●止まるな
いよいよ邪神翼もこれ以上ハンターに接近されるのはまずいと判断したのだろう。忘却の波動を撒き散らした。
しかし、それはハンターに届くことはない。
魔導アーマーの舞台にいるグリューエリンの歌声で相殺されるからだ。
「奴も本気を出して来たようだな」
閻王の盃に搭乗するデスドクロが言う。彼はグリューエリンの側に付き、シンガーの調子を把握する。グリューエリンにはなんら問題ない。
「盛り上がっていこうじゃねえの!」
歌に合わせるように、ヘビーガトリングが撃ち込まれる。銃声が、より華やかに歌を盛り上げていく。
警戒した邪神翼や弓を装備するスケルトンがグリューエリンの乗る魔導アーマーに射撃を集中させるが、どうにも狙いが定まらず、見当違いの方向へ攻撃が逸れる。
「カリブンクルス、おめーの技の魅せどころでやがります!」
シレークス(ka0752)のポロウ、カリブンクルスによる惑わすホーが敵の命中を下げているのだ。
「エクラの教えのもと、歪虚滅ぶべし──聖なる拳を喰らいやがれ!!」
白に統一された機甲拳鎚がスケルトンをぶち抜いた。
「おらおらおらぁっ!!」
シレークス式聖闘術『聖なるもの』により魔法威力を付与された拳が次々と敵を塵に変えていく。
シレークスの進撃を阻むように、巨大な剣が振り下ろされた。巨大スケルトンの斬撃である。
「いい図体していやがりますねぇ!」
その斬撃を、シレークスは半身になって最小限の動きで躱し、剣の重みに振り回されて、地面に垂れたスケルトンの頭蓋骨を掴んだ。彼女の肉体はシレークス式聖闘術『怒りの日』で強化済みだ。
「ホネホネスロー!!」
巨大なスケルトンを物ともせず、シレークスは投げ飛ばした。からからという音を立てて巨体がひっくり返る。
「そろそろ来るか」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が邪神翼を見た。攻撃不能の波動はもう直ぐ照射されるだろう。
「エリンさん、貴女だけには背負わせません……私も一緒に歌うよっ」
Uiscaも攻撃不能の波動のタイミングを見計らって、[SA]電光楽器「パラレルフォニック」により、強度が増したアイデアルソングを歌う。
BSの強度がマイナスされたことにより、Uiscaに同行するユキウサギも抵抗に成功した。
「リヴァイアサンが壊れても貴方達の想い出が全て消えたりしないっ。貴方達の苦い過去を、歴史を、私達が伝え教訓にするから……!」
想いを歌に乗せ、Uiscaは【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻で、龍の牙や爪でスケルトンを串刺しにする。
アウレールは斬霊剣「剣豪殺し」によって、武器に魔法剣の効果を付与して、敵を斬り払う。また、展開されたガウスジェイルによって味方を攻撃から守っていた。
味方を狙った鋭いビームがガウスジェイルにより捻じ曲げられて、アウレールに命中する。瞬時に体を動かして、防御の厚い部分で攻撃を受けるも、積み重なったダメージもあり、血を零す。
ユグディラのオルテンシアが森の午睡の前奏曲を奏でる。また、アウレールはリペアキット「キズナオール君」を打ち込んでダメージに対処した。
デスドクロはブラストハイロゥを展開し、グリューエリンのいる魔導アーマーへの射線を妨害する。
魔導アーマーも、護衛のハンターに導かれて邪神翼に向かって前進していた。操縦するのはクリケット(kz0093)。今回の魔導アーマーはグリューエリンのお立ち台としてしか機能していないので、丸腰の状態で戦場の最中を移動していることになる。しかし、周囲をガッチリハンターが固めているのでクリケットもグリューエリンも落ち着いている。
魔導アーマーを狙う矢を、フォースクの乗るマテリアルを纏ったガルガリンが代わりに受ける。
「休憩が必要ないってんなら、思う存分歌ってもらうヨ」
ダメージを肩代わりしながら、射撃によって、スケルトンにダメージを与える。
セシアはレイヴで上空を飛び、ファイアエンチャントやウィンドガストで味方の支援だ。ダメージの蓄積が多い味方へは、距離を縮め癒しの光る風で回復させる。
一丸となって進軍するハンター。邪神翼へ間近に迫り、ついに先頭集団から八劒 颯(ka1804)が飛び出し、バリアへ肉薄する。
「はやてにおまかせですの!」
魔導アーマー量産型のGustavが疾駆する。アーマードリル「轟旋」がバリアの表面に当たった。だが、バリアは強力で、どんなにドリルを押し込んでも破ることは出来ない。
「これでは火力が足りませんか。それなら」
颯はコックピットから出て生身になった。手に持っている[SW]ツインドリルランス「コスモ」に解放錬成をかけて巨大化させる。
「びりびり電撃どりる!」
再度、ドリルがバリア表面に突きつけられるが、それでも威力が足りなかった。
邪神翼は颯に向けて、ビームを撃った。
Gustavに乗り込むよりも先だったので、その攻撃は颯自身に直撃した。
ダメージにより、颯の体が揺らぐ。Gustavから落ちそうになる体を、イェジドのシリウスに跨ったアニス・エリダヌスが受け止めた。
「しっかりしてください! 今回復しますから!」
フルリカバリーで颯の傷を癒していくアニス。
「一旦下がりましょう。ここは攻撃のタイミングを見計らうべきです」
再びGustavのコックピットに乗り込んだ颯は、体勢を立て直すためにも引き下がることにした。
「ようやく、ここまで辿り着いた」
キヅカと惣助を先頭にしたハンターたちが邪神翼を攻撃圏内に捉えた。
「キヅカ、存分にやれ」
惣助がキヅカを攻撃から庇い、反撃のタイミングをつくり出した。
「世界はだれか1人で成り立つもんじゃない……1人1人の声が、願いが、折り重なって初めて世界を作るんだ」
正義が光によって顕現する。ペリグリー・チャムチャムの奏でる旋律がマテリアルを調和せていく。
「お前は僕に何を示せるのか、と言った。受け止めて見せる。この憎悪も怨嗟も……全て。そうやって背負って、寄り添って、託していくのがヒトなんだ……!」
キヅカを中心に燦然と輝く正義は、我が正義の侭に敵を焼き尽くした。氾濫する光の奔流は避けることすら困難だ。光を浴びた敵は、瞬間的に防御すら許されない。
「空、風、樹、地、結ぶは水。天地均衡の下、巡れ」
世界は《円環》に見立てられる。エアルドフリス(ka1856)は厳かに言葉を紡ぐ。
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す。理に叛く代償の甘受を誓約せん──灰燼に帰せ!」
燃え盛る蒼い炎の矢が雨の如く邪神翼に降り注ぐ。
矢が着弾するたびに、バリアが空気を軋ませるような音をあげる。
「──ぶち抜く」
レラージュ・ベナンディの機体が赤く発光する。赤いマテリアル粒子が機体を覆っているためだ。
4基あるエンジンの内1基の出力を火力に指向。搭乗者であるアニス・テスタロッサは負荷のために、口から血を流す。
身体感覚、視覚情報が機体と一体化された。MODE:Indraによる、人機一体の技。
プラズマライフル「ラッド・フィエル01」から弾丸が撃ち出された。弾丸はマテリアルによって加速し、バリアに激突。それでもバリアを破壊しきれなかった弾丸が砕けて塵となって消えていった──刹那、着弾点に罅が入った。
「今度こそ貫いてみせます!!」
態勢を立て直した颯がGustavの轟旋をバリアの罅を狙って突き出す。
ドリルによる突きの衝撃で、卵の殻が毀れるように、バリアがぼろぼろと剥がれ落ちた──ついに邪神翼が晒されたのだ。
「よーやく本命との対決ですね。最大火力を叩き込んでやりましょう! 邪神翼叩き潰し隊の皆さんはわたしの攻撃の後に続いてくださいねー!」
そう言うのはソフィア =リリィホルム(ka2383)。彼女はすでに攻性強化を発動しており、[SW]星神器「ブリューナク」にはクリスタルバレットを装填済みだ。
ソフィアは紫色の右目と、覚醒により紅く変化した左眼で射るように敵を見据え、ブリューナクの銃口を邪神翼に向けた。
「太陽とは、翼を堕とすモノ!」
続いてブリューナクが紅い雷電を纏う。魔導機械を媒介にして発動されたアルケミックパワーで、武器にさらにマテリアルを込めていく。
「救われぬ古き怨念と共に焼き尽くされるがいい、邪神の翼よ!」
ブリューナクを握るソフィアの手には炎の幻影が立ち上っている。覚醒により灰色の髪は銀灰色に染まり、なびく。
「顕現せよ……紅き、太陽!!!」
銃身を駆け抜けた龍鉱石の弾丸には、ソフィアに同行するユグディラ、ケルンの森の宴の狂詩曲も重ねられている。
弾丸は空中で小さな太陽に姿を変え、空間転移によりソフィアが設定した座標へ送り込まれる。
設定座標は全て邪神翼。2kmに渡る長大な体を焼き尽くす5個の太陽が、邪神翼のコアを中心に十字に現れ、同時に爆発を起こした。
ラヴァダの光条が発動された時点で、回避など不可能。その光は防御を無効にし、さらに、ガーディアンウェポンによる邪神翼への特効により、絶大なダメージを与えた。
太陽の光の後には、ハンターを理想の光が包んだ。
「幾度失敗しようとも、どんな苦境にあろうとも、また一歩踏み出す者の元に明日は来る。それは素朴な夢に手を伸ばす少しの勇気。そしてその背を押してくれる誰か。人は変われる、誰でも強くなれる──信じぬならば見るがいい」
光の中心にいるのは、聖祈剣「ノートゥング」を掲げたアウレールだ。
「諦めぬ限り、何物も失われはしない!」
御伽噺「御旗のもとに」が味方の能力を底上げする。
かくして、一斉攻撃の手筈が整った。
躍り出る白銀の姿は、イェジドのオリーヴェに跨ったユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)だ。
蒼姫刀「魂奏竜胆」は青白い雷光を纏い、輝いている。
「大切な者達と共に明日を生きるという祈りと願い、それを為すという渇望(たましい)を込めて……その核にこの刃を穿ち突き立てるっ!! 受け取れ邪神の残滓、これが……想いを託し、明日を斬り拓く意志の一撃だっ!!」
オリーヴェが迅雷の速さで踏み込み、ユーリが鋭い突きを放つ。最後には蒼刃魂奏によって蒼白の雷光が叩きつけられた。
「インドラの矢が一発しか無いなんて誰が言ったよ。切り札は残しとくもんだ!!」
アニス・テスタロッサは再度MODE:Indraを発動して、高加速射撃を撃つ。
メルのアカツキによる、MBやマジックエンハンサーなどで威力が増したマテリアルライフルも邪神翼に突き刺さる。
炎獣憑依の儀『紅狗』により祖霊を憑依させたボルディアがコアに斧を叩き込んだ。
ラヴァダの光条により全身の防御点が0になった邪神翼へ、ハンターの今まで温存していた高火力攻撃が次々とヒットし、大ダメージを与えていく。
●散るモノ、進む者
傷だらけになった邪神翼であるが──その傷が瞬時に癒えた。クリピクロウズから生命力を奪って回復したのだ。クリピクロウズの生命を食らってでも生き延びようとするのは、翼に渦巻く怨念の数々。
『私僕お前俺私君私僕俺私お前君』
『許せない』『許さない』
『復讐』『報復』『破壊』
『お前の幸福を認めない』
『何もかも滅茶苦茶になればいい』
『幸せになれなかった』『なら、全員不幸になればいい』
怨念の声が漏れてくる。
「皆が常に強くいられはしない、逃げたくなる事もあるだろう。けど、過去に籠って忘却を願うだけでは何処にも行けない。クリピクロウズ──貴様は拾い上げるばかりで導く事をしなかった!」
アウレールが叫んだ。
「人は昨日を積み上げて明日に向かえる。その権利と可能性を奪って腐敗させた結果がそれだ! 弱者を永遠に弱さに縛り付ける心算か!」
ノートゥングの切っ先を邪神翼へ突きつける。
「私は何度でも言おう……諦めぬ限り、何物も失われはしないと!」
「弱者の救済、か。あぁ、お前は立派だと思うし、間違っちゃいねぇ。……だけどな、お前は方法を間違えたんだ」
怨念の声を受け止めてボルディアが言う。
「いくら逃げたって嫌なことはどこまでも追いかけてくる。仮に全部から逃げたって、"自分"からは逃げられねぇ。だからテメェは、強ぇとか弱ぇとか線引きする前に、テメェはテメェの人生を"戦える"んだってコイツ等に教えてやるべきだったんだよ」
クリピクロウズのいう弱者たちは、怨嗟の声となってハンターに降り注いでいた。
「結局のところ……けじめってやつなのかな……」
訥々とシェリルも言葉を紡ぐ。
「強いとか、弱いとか関係ない……つらくて泣きたい記憶も……心の整理がつけば……忘れなくても前を向ける……受け止める事は、忘れさせることじゃなくて……想い、聞いてあげる事で……支えあえたら……弱くても、前は向けるんじゃないかな……」
「人は全てを救えない。肩は貸せるけど結局自分で立つしかない……でも、僕はヒトの可能性を信じてる。エリンちゃんや僕の様に、僕らは何度でも立ち上がれると……そんな世界を作ってみせる」
キヅカが、ペリグリー・チャムチャムの狂詩曲でマテリアルの流れを整えた一撃を邪神翼に浴びせる。
「進め、どんなに傷つこうとも」
「クリピクロウズさん、私は貴方の弱き者に寄り添う精神を受け継ぎたい。でも貴方のしている事はただ逃げてるだけ……だからっ、私は真に弱き者の涙を止める道を探したいの!」
Uiscaは、この先の未来への祈りを唱えた。
『嫌だ』『まだ終わりたくない』
『私は』
『僕は』
『俺は』
『君は』『お前は』『あなたは』
『君も』『お前も』『あなたも』
『引きずり落としてやる』
邪神翼もハンターへ30門ある砲塔からビームを雨あられと降らせて対抗した。
ビーム降りしきる中、アニス・エリダヌスはフルリカバリーで重傷者を回復していく。
「……必ず、皆で無事に帰りましょう。わたしは、そのためにここに来ました。帰らぬ人を待つ悲しみは、もうたくさんです」
ハンターが同行させているユグディラやペガサスの範囲回復魔法も戦線を支えているが、重い傷を治すにはやはり、アニスのフルリカバリーの方が効果的だ。
「帝国の膿が蠢くのは冬と相場が決まっているのかねぇ。それも今年はまた特大の災厄ときた」
イェジドのゲアラハがジャンプしてビーム攻撃を避けた。
エアルドフリスは邪神翼本体への攻撃は味方に任せている。ビームからはゲアラハがスティールステップで守っていた。ゲアラハは主人が紙装甲なのをよく理解しているのだ。
ゲアラハはお返しだと言わんばかりに鼻を鳴らし、幻獣ミサイル「シンティッラ」を発射。プラズマバーストが炸裂する。
「バリアはまだ再展開しない……それに、グリューエリン嬢もアイゼンハンダーも問題なしときた。ならば、俺たちは存分にやってやろうじゃあないか」
結局は人の妄念こそが呪いを呼ぶ。そういったものに、今を生きる人間がしてやれることは少ない。
「これが俺にできる、せめてもの餞だ」
エアルドフリスは次々に大魔法を繰り出し、容赦なく爆撃を行う。
『まだ、』
『だって、まだ幸せを破壊してない』
『まだ、まだ、まだ、まだ、』
『他人の不幸を』『怒りを』『嘆きを』『味わいたい』
傷を受けた邪神翼はクリピクロウズから際限なく生命力を奪っていく。
蒼海熱風『J9』はざくろを背に乗せ、巧みにビームを避けていた。
「J9、お前の翼に賭ける」
華麗に空を舞い、みるみる敵への距離を詰める。
ざくろは剣に超重錬成をかけ、巨大化させる。さらに、解放錬成により瞬間的に威力を跳ね上げた。
「超・重・剣・解・放……天空直下一文字斬り!! 砕け散れぇぇぇぇ」
邪神翼に深い刀傷が出来た。蓄積したダメージもあり、クリピクロウズから命を吸い上げても、癒し切ることは難しかった。バリアを再展開しようにも、それにはまだ時間がかかるらしい。
「忘却という選択肢を否定する気はない」
惣助が邪神翼を見て呟いた。
「だが、悪いが放っておく訳にもいかないんだ」
絶叫が聞こえた。
邪神翼に蠢く怨念の断末魔だった。
コアには罅が入り、叩きつけられたハンターたちの攻撃によりついに、砕けた。
邪神翼全体に亀裂が走る。そして、足元から崩れるように邪神翼は倒壊し、全ては塵になって消えた。
●終わりに
「終わったのか……」
アイゼンハンダーが崩れ去る邪神翼リヴァイアサンを見ていた。
「ツィカーデ!」
会った時と同様に、メルがアイゼンハンダーに声をかけた。
「クリピクロウズの許へ行って」
「……そうだな」
もう、この戦場で戦うこともないと判断したアイゼンハンダーはメルの言う通り、クリピクロウズの許へ向かうことにした。
「……」
その後ろ姿を、シレークスも見ていた。
シレークスからすれば、迂闊に手出しはしないが、アイゼンハンダーも滅ぶべき存在である歪虚だ。今回の戦闘で弱体化、できれば消滅を願っていたが、彼女は無事なようだった。
「さて、私もキヅカくんのところに行こうっと。超覚醒の影響もあるだろうからね」
と、メルはアカツキを操縦し、仲間の元に向かっていくのだった。
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ゆくなが | 8人 |
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