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(ka0000)
【落葉】リフレインが叫んでる「クリピクロウズ殲滅」リプレイ


▼【落葉】グランドシナリオ「リフレインが叫んでる」(12/5?12/25)▼
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作戦2:「クリピクロウズ殲滅」リプレイ
- クリピクロウズ
- リューリ・ハルマ(ka0502)
- アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
- 春日 啓一(ka1621)
- フィロ(ka6966)
- セレス・フュラー(ka6276)
- アルマ・A・エインズワース(ka4901)
- 仙堂 紫苑(ka5953)
- キャリコ・ビューイ(ka5044)
- フリーデリーケ・カレンベルク (kz0254)
- リリア・ノヴィドール(ka3056)
- 夜桜 奏音(ka5754)
- レイア・アローネ(ka4082)
- リュー・グランフェスト(ka2419)
- 澪(ka6002)
- 夢路 まよい(ka1328)
- レイオス・アクアウォーカー(ka1990)
- Gacrux(ka2726)
- マッシュ・アクラシス(ka0771)
- フワ ハヤテ(ka0004)
- アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)
- 八島 陽(ka1442)
- サクラ・エルフリード(ka2598)
- 蓬(ka7311)
- 神楽(ka2032)
- ゾファル・G・初火(ka4407)
- 南護 炎(ka6651)
- アーサー・ホーガン(ka0471)
- シガレット=ウナギパイ(ka2884)
- ユウ(ka6891)
●
邪神翼リヴァイアサン。その主・不滅の剣魔クリピクロウズを倒すため、ハンター達は無数の神殿を連ねた建造物の頂点についにたどり着いた。
そこで待っていたのは最も高い尖塔の上で楽しげにドレスの裾を揺らす剣魔。彼女のいる尖塔を骸骨の群れが囲んでいる。
『あは! 遊び相手が沢山で嬉しいっ』
ハンターが現れたその時、剣魔が歪んだ笑みを浮かべて塔から滑り降りる。6mもの背丈を持つ骨の壁に囲まれてはその姿は見えやしない。
リューリ・ハルマ(ka0502)は【月待猫】の仲間のアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)と、春日 啓一(ka1621)に溌溂と声をかけた。
「どのくらい沸いてくるか分からないけど、ガンガン叩こうね! アルトちゃん、啓一さん!」
「うん。まずはボクが本陣周辺の奴らを一掃する。リューリちゃんと啓一も頼むよ」
「ここで負けたら邪神翼がヤバいことになんだろ。そうなったらこの国はどうなるか……俺は絶対に負けねえからな」
啓一の両の拳が小気味良い音を立ててぶつかり合う。その決意にリューリとアルトが深く頷き、駆け出した。
まずはアルトが飛花・焔で赤い残像を作り出し、敵が密集している地域を駆け抜ける。立体攻撃で敵の妨害や建造物の段差を軽々と跳び越え、散華による斬撃の連続は分厚い骨も易々と切断する。――赤の長髪を振り乱し、舞うような動きで周囲を突き崩す姿はまさに紅蓮の風神。
リューリはその中で辛うじて生き残った骸骨に巨大な戦斧を十文字に叩きつけた。呆気なく崩れる骨に彼女は言う。
「油断しちゃダメだよ。アルトちゃんの他にもつよーい仲間がいっぱいいっぱいいるんだからっ!」
一方で啓一は激しく渦巻く炎のオーラを纏うと、次々と襲い来る骸骨をカウンターアタックで殴り倒した。
「おうおう骸骨ども、てめえらと同じように俺らにも守るもんがあるんだ。成仏してもらうぜ!!」
文字通りの命を懸けた壮絶な啖呵に骸骨達は目を離せず、おろおろと武器を構えた。
その頃、フィロ(kaka6966)はバイクのアクセルを全開にした。
剣魔の周りには強靭な骸骨が揃っている。それでも想いを伝えねばと、フィロは臆さない。
(やり方は間違ってしまったけれど、誰かを守りたかったこの方を慰めも感謝もせず見送ってはいけないと思った。そのためだけに、最後まで一番近い場所に立つ!)
セレス・フュラー(ka6276)もママチャリに乗り、前線の仲間達に足取りを合わせる。
(軽薄を装っても顔は歪んでた。随分、苦しそうじゃないのさ。さっさと楽になりなよ!)
そう考えた瞬間、彼女の頬を矢が掠めた。セレスは自転車から飛び降りるとグローブからマテリアルの障壁を広げ、続く矢を受け流す。
「手荒な歓迎だね。だったら存分にお返ししてあげるよ」
そう言うと、彼女はテンポの速い歌を口ずさみ、敵陣に跳び込む。マーキス・ソングで敵の守りを薄め、拳でのアサルトディスタンスで骸骨の群れを粉砕するセレスは巨岩さえも風化させる古の風に酷似していた。
アルマ・A・エインズワース(ka4901)は後衛に控えながら射線上にハンターの不在を確認するや、尖塔の麓へ蒼く燃える腕を向けた。その顔には普段の好戦的な色ではなく、悲しみを湛えている。
「正義の反対は慈悲、寛容だって誰か言ってたです。けど、それだけだと……片方だけだと壊れちゃうです。だから……未来と我儘の為に、今は君たちを殺します。でも、絶対忘れません。少なくとも、僕らは」
彼の腕から刃の如き無数の氷柱が一直線に展開されていく。その氷は突出した小兵たちを次々と打ち砕いた。……だが。
「っ!?」
アルマが表情を凍らせた。巨大な骸骨が壁となり、氷柱の行く手を阻んだのだ。無論、盾となった者は全て深い傷を負っている。ただし氷柱は見えぬ場所までは届かない。つまり剣魔と奥に控える骸骨は健在なのだ。
「アルマ、気にするな。何のために俺達がいる? フリーデ、お前も考えは同じはずだ。数は多けれど限界はあるはず。俺は剣魔を射貫いてみせる」
そう言って、斬りかかる骸骨の頭を拳銃で難なく撃ち抜いたのはアルマや仙堂 紫苑(ka5953)とチーム【悪童】を組んでいるキャリコ・ビューイ(ka5044)。
フリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)は彼に深く頷いた。紫苑は修祓陣を張りつつ、フリーデに視線を投げかける。
「光には必ず影が差す。陰陽論然り、この世は常にプラマイゼロだ。その点において俺は中立だ。正も負も飲み込んで、どこまでもフラットに。……忘れてなんかやらないからな。負の歴史として、帝国の歴史書に書いてやる。いいか、英霊」
『今の帝国に必要なのは我々軍人や皇族による正しき禊だ。私は生前の戦争や古の戦の伝承なら覚えている。多少は役に立てるだろう』
「……ん、それならきちんと生き残らないとですね。僕ら全員で」
気力を取り戻したアルマが再び術を紡ぎ始める。紫苑は深く頷くと符の一部をその手に再び集めた。
リリア・ノヴィドール(ka3056)はワイヤーウィップ「セグラ」を巧みに操り、小兵や中型の骸骨を次々と粉砕していた。
(ここまでは順調。ただし、ここからよね。あの壁を突破して剣魔の動きを封じなきゃ)
リリアは傍にある壁に身を隠すと気配を隠す業に集中する。
――だが、その時。不気味な波動が頭の中に流れ込んできた。
『殺しあいなよ』
暗い声が響くと同時に視界が歪む。
「「うっ……」」
斬るべき相手が認識できなくなったその瞬間、少女の声が凛と響いた。
「この呪詛、纏めてお返ししますッ!」
前方に突き進む夜桜 奏音(ka5754)が呪詛返しの業を放ったのだ。
そこで正気を取り戻したレイア・アローネ(ka4082)がソウルエッジで強化した刺突一閃で尖兵たちを突き崩し、叫ぶ。
「夜桜、感謝する! さぁ皆、こちらだ、私に続け!!」
雄々しい号令に奏音が頷く。
「呪詛返しは7度までが限界です。残りは6回、それまでにどうか決着を!」
「了解だ。それとリュー、伝えたい事があるのだろう? ならば行け。私たちの分までぶつけてこい!」
レイアは隣で戦うリュー・グランフェスト(ka2419)の背を軽く押した。
そこで共に剣を振るう澪(ka6002)も促す。
「出来れば救ってあげて」
いたわるような澪の声。彼女の先手必勝の業がリューの進むべき時を示す。彼は仲間の顔を見回した。
「いいのか」
「当然だ、心配するな」
レイアの声を受けてリューが走り出す。仲間たちの信頼に応えるために。
「行きなさい、魔の矢!」
夢路 まよい(ka1328)はフォースリングの力で5本に増したマジックアローを操り大小様々な骸骨を砕いた。しかし盾役の骸骨を崩し、剣魔の回避力を弱めるまで彼女の本懐を果たすことは難しい。
(正直、もどかしいわね。早く骸骨達を倒さないと)
帽子のつばを若干下げて苛立つ視線を隠すまよい。
その隣を駆けるのはレイオス・アクアウォーカー(ka1990)。彼はソウルエッジを宿した刃を二振り構えた。
「恩を仇で返すその怨念、今ここで断つ!」
彼は一気に中型の骸骨を叩き斬ると、その勢いのままアスラトゥーリで大型の骸骨にオーラを放つ。骸骨は小石の如く崩れた。
その瞬間をGacrux(ka2726)は見逃さない。前傾している敵陣の横から巨大骸骨の背を一気に駆け上がると、ソウルエッジの宿った両手槍を頭頂部に全力で突き刺した。
『グアァアァッ!?』
崩れ落ちていく骸骨。彼らに占有されていた地は着実に減っている。もう少しだ、憎き剣魔と遭うまでは。
その動きに合わせ、マッシュ・アクラシス(ka0771)はダンピールを宿した無銘の灰剣で粛々とスケルトンを葬る。
「はて、さて……随分聞いた名とも、聞き納めとしたいものですな」
「全くです。この地に抑圧されていた感情が漸く発露されたのでしょうか。強烈な亡霊の怨嗟、清々しささえ感じます」
マッシュの独り言じみた言葉にGacruxが頷く。
(その先には一体何があるのやら……と)
思案するマッシュ。彼の後方についたフワ ハヤテ(ka0004)は魔導バイクを駆りながら、先ほどアルマが倒し損ねた骸骨達に火球を投げつけた。
「悪いがボクらも急いでいるんでね。憎悪を背負ってばかりというのも辛いだろう? 一足先に休んでくれ」
灰となる骸骨達へ慰めの声をかけながら、彼は後衛に敵が向かわぬよう、したたかに視線を巡らせた。
激しい戦いが続くさなか、アルヴィン・オールドリッチ(ka2378)はアイデアル・ソングを歌いつつ剣魔に向かう。
(辛い事や痛い事を、抱えていられないカラ忘れてしまいタイ。ソウ言う弱さを否定は出来ない)
陽の感情に偏る彼だが、それでも苦痛の存在は知っている。
(ケレド、誰も覚えてイナイ事柄は、無かった事と同じ事で、辛くテモ痛くテモ、ソコには確かに掛け替えのない想いがあって。ソレを無かった事にしてシマウ事は、僕には出来そうもナイカラ……弱き者を救おうとしたクリピクロウズの事も、憶えておきたいと思うヨ)
このめぐり合わせの記憶は剣魔への慰めになろう。アルヴィンはせめて自分の歌で仲間を守り、剣魔に安らぎを与えようと思った。
一方、フライングスレッドでI.F.O.を用いて空から本陣へ迫る八島 陽(ka1442)はアサルトライフルを、辛うじて視界に収まった剣魔へ向けた。
「クリピクロウズ、きみは忘れないと前に進めない!」
叫ぶと同時にその一帯へ激しく銃撃する陽。すると骸骨の数体が身を竦め、剣魔が陽を鋭く睨みつける。陽は銃を構えたまま、彼女の憎悪の籠った瞳を見つめ返した。必ず救う、と誓いながら。
後方で構えるサクラ・エルフリード(ka2598)は蓬(ka7311)へプロテクションの術を施した。駆け出しでありながら前線へ行くと主張する蓬を放ってはおけない。
「守りの術を与えましたが……過信は禁物。大きな傷を負ったら退がるのも大切な勇気……忘れないで……」
「はい、胆に銘じておきます!」
真面目に答え、駆け出す蓬。その背を見守りつつ、サクラは後衛の位置を維持しながら呟いた。
「今回は縁の下の力持ち、という感じですが……これも必要でしょうし頑張ります……」
陽が剣魔達へ隙を与えたその間に、もうひとつ、空をゆくものがあった。テンタクル・ローバーに騎乗する神楽(ka2032)、そしてそれに絡みつく形で同乗するのは戦闘力に優れながらも機動力に劣るゾファル・G・初火(ka4407)と南護 炎(ka6651)だ。
神楽は移動する最中、剣魔に立ち向かう仲間達にコンバートソウルとシンクロナイズを使用することで支援し、剣魔からそう遠くない区域でふたりを降ろすと、塔の陰へ身を隠した。己が策のために。
そこでゾファルと炎は神楽の存在を感づかれぬよう、すぐに剣魔を守る骸骨達へ派手に斬り込む。
特に今までの剣魔戦では真正面からの真剣勝負ができなかったゾファルが鬱憤を晴らすべく、満面の笑みを湛えて全力で駆ける。
「今回は死ぬまで遊ぼうぜじゃーん、クリスマスピクピクローズちゃんっ!」
ソウルエッジを付与したドラセナがマテリアルの刃を広げ、前方を大きく薙ぎ払う。その威力は凄まじく、小兵は敢え無く粉砕。中型の骸骨も脚を砕かれるも、鉈を持つ腕をゾファルへ振り上げた。
そこへ炎が割って入り、腕を斬り飛ばす。
「きみはクリピクロウズと戦うために来たんだろ? ならこんなところで止まっちゃいけない。俺も共に駆ける!」
「わかってんじゃん、炎ちゃん。俺様ちゃんってば必殺の如来掌を頭の外に置いてきちまったんだけどー、でも命を懸けてあいつをブン殴る。真面目に遊び倒すじゃんッ!」
この状況に於いて決定打を忘れるとは失態だが、それでも彼女は前向きだ。炎は力強く頷き、再び地を踏みしめた。
アーサー・ホーガン(ka0471)は弓持ちの骸骨を倒すべく、刺突一閃で中衛に潜む骸骨達を貫いた。それと同時に先ほどの異様な剣魔の姿を思い返し、彼は呟く。
「裸の王様ならぬ、裸の女神様だったわけか。そうなると、お前のそれは誰の望みだったんだ?」
弱者から苦しみを解放したい。その優しさは本来なら歪虚が持つ感情ではないはずだ。ならば何者かの影響を受けたのか? 疑問を胸に駆けるアーサー。そこに突出した中型の骸骨が斧を振り上げた。
「くっ!」
咄嗟に防御態勢をとる彼の前に光の障壁が展開される。シガレット・ウナギパイ(ka2884)のホーリーヴェールで斧の勢いが弱まり、アーサーの被害は軽傷に留まった。
「アーサー、らしくねえんじゃねえの? 剣魔は今や怨念の塊だ。今は真実も何もわからねえ。匿った相手に乗っ取られるのは哀れだが、俺らにできんのはただ安らかに眠らせてやるだけだ」
「……そうだな、亡霊退治といくか」
アーサーはそう返すと「礼は言わない。が、戦果で十分に返してやる」と骸骨へ剣を向ける。ウナギパイは深く頷くとフライングスレッドに乗り、目的地へと急いだ。
その頃、ユウ(ka6891)は仲間達と足並みを揃えつつ、鞭によるエンタングルで味方の支援に専念していた。
しかしその胸には複雑な想いが去来する。
剣魔が抱えた永遠の孤独――それを打ち払うのはハンターやヒトの意思だ。ユウはただ、それの実現だけを願いながら戦う。
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戦が始まってからしばらくして、四方から奇妙な音が聞こえ始めた。
その音の主は20体もの骸骨の軍勢。前方の骸骨の半分近くはアルトが潰し、それ以外の小兵から中型の骸骨はほとんどハンターが倒していたのだが、まさか四方から増援が来るとは!
「コフィンのために後方に控えていたのが役に立ちそうですね」
「ああ、そうだな。後方の数体ぐらいなら何とかしてみせる」
アルマと紫苑が冷静に術式を唱え、キャリコも拳銃で牽制を始めた。
「フリーデお姉さん! 一緒にやるです!」
『いいだろう、黒雷よ!!』
次々と襲い掛かる骨達にデルタレイで粉砕するアルマと、周囲に雷光を轟かせるフリーデ。
それをギリギリの距離で躱し襲い来る骸骨を紫苑のファイアスローワーとキャリコの弾丸が確実に潰していった。
その時、後方の敵の殲滅を確認した紫苑がぽつりと呟く。
「もう少し前進して全体と連携した方が良いかもしれないな」
後衛ならば敵に襲われることなくキャリコの必殺の策が通ると考えていたのだが、事態はそう甘くないようだ。
「……そうだな。少なくともコンバージェンスをチャージ仕切るまでは時間を稼ぎたい」
同意するキャリコ。【悪童】は中衛との合流を決定した。
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戦は一進一退の様相を呈し始めていた。何しろ5秒ごとに骨の軍団が20体現れ、剣魔の守りに就くなり、ハンターを奇襲するなりで、戦線が混沌としているのだ。
それに剣魔は呪詛のみならず、流星による破滅的な連続攻撃や黒い刃を降らせハンター達の動きを広範囲にわたり止めるなど、強烈な業を繰り出してくる。ひらりひらりとハンターの攻撃を躱しながら。
ゾファルとフィロは骸骨達の攻撃を辛うじて受け流しつつ何度も拳を剣魔に打ち込んだが、そのいずれも驚異的な動きにより回避されていた。剣魔が無邪気に問う。
『どうせ当たんないのに何で繰り返すのさ』
「感謝を、伝えるためですっ。貴女は世界を、人を守ろうとしたっ……やり方は間違っても、それで苦しむ人が増えてもっ」
骸骨の度重なる打撃で関節がギシギシと音を立て始める。それでもフィロは諦めない。その拳で想いを伝えるために。
一方ゾファルは好戦的な剣魔に満足げに笑うと「全員、吹っ飛べー!」と叫びドラセナで薙いだ。もちろん剣魔には当たらず、その影響を受けている骸骨どももひらりと躱す。しかも揃ってゾファルに報復せんとしたのか、次々と武器を叩きつけてくる始末だ。――それを受け、血まみれになってもゾファルは笑う。
「そうだよ、これだ……クリッピーもさぁ、俺様ちゃんを本気で殺しに来なよ。その瞬間に俺様ちゃんもガチの一撃を打つからさ!」
決定打がないのが何だ。生命の危機を乗り越えるアドレナリン溢れる快感を得るために彼女は死地にあるのだ。
『変な子……それじゃ、次はあなたにしようかな?』
剣魔が笑う。ふたりの表情はひどく壮絶だった。
『アハハハハハッ、皆死んじゃえッ!』
剣魔が手を宙に翳す。蓬が妨害射撃を行うも、剣魔はそれをものともせず流星が――落ちてくる。
「……! 壁役ならやれましょう。皆さん、お下がりを」
事前に奏音の傍でガウスジェイルを使用していたマッシュがラストテリトリーを展開する。すると5つの流星が彼に叩きつけられた。
――ドドドドドッ!!!
「いやあああっ、マッシュさん!!」
奏音が悲鳴を上げた。
「っ、さすがは四霊剣の最後のひとり。苛烈の一言に尽きますな……ッ」
その威力は今までのものより激しかったらしい。焼けただれた肌を掻き抱くようにして両膝を地に着くマッシュ。サクラが駆け寄り「戦線を崩壊させるわけには……。回復を行います……」とリザレクションを行使する。たちまち皮膚が治癒し、マッシュがついと立ち上がった。
「無理はなさらずに。あなたの護りは要なのですから……」
「そのご厚意、感謝いたします。でもそれ以上の使命があるのですよ」
マッシュはすぐ後ろに控える奏音の無事を確認すると再び剣を手にする。その一連の様子を駆けながら見守ったリューが剣魔に向かって叫んだ。
「攻撃しないんじゃないのか!」
しかしその懸命な声に剣魔は応じない。リューは悔しさを胸に巨大な骸骨を星神器エクスカリバーと重き鞘で打ち据えた後、激しいオーラを放ちその身を砕いた。
それを機にハンター達が反撃に出た。兼ねてより続けられていた歌で闘志を鼓舞し、死者の戦意を引き下げていく。そして何よりも。
「いくら現れようとも痛みは一瞬だ。死者よ、永遠の闇へ還れ!」
「何度来たって私の斧は逃がさないよっ」
「何を怯えている? さっさとかかってきな! 全員ぶっ飛ばしてやるよ」
アルトの散華による破滅的な連続攻撃をはじめとした【月待猫】の活躍により、もはや前衛は剣魔のみという状況となった。
「奇襲は俺らに任せな、剣魔のことは頼んだぜ!」
アーサーとレイオスが中型骸骨の群れを相手に剣技を次々と繰り出す。蓬は彼らの応戦を頼もしく思いつつ、剣魔に牽制のための射撃を幾度も繰り返した。
「……当たるまで、諦めません」と言って。
一方、隠の徒で気配を隠したリリアは尖塔の傍に潜んでいた。ロープで剣魔拘束を考えていた彼女だが、護衛役のスケルトンが現れることを考え、前に進む覚悟を決める。
そして仲間達の前進を確認するなり、剣魔の動きを封じ込めべくセグラをその足元で複数回打ち鳴らした。突然の鋭い音に振り向く剣魔に彼女は冷徹な声で言い放つ
「貴女はあたしの知っているクリピクロウズとはある意味違う、なのね。でも……だからこそ意地でも一発殴らせてもらうわ、なの」
それに乗じ、Gacruxもワイヤーウィップを剣魔の腰に絡め、くらりとバランスを崩させた。
その時、今まで波動の対応に専念していた奏音がついに剣魔との距離12m内に踏み入る。マッシュと仲間が命をかけて開いた道を無駄にはできない。彼女は10枚の符を指に挟むと宙に放った。
「黒曜封印符ッ!!」
東方から伝わる封印術が剣魔の身体を縛り付ける。奏音は自らの動きを犠牲にする代わりに相手の手番を封じたのだ。
「よっし、奏音さんナイス!!」
弾む声と同時に宙から現れたのは今まで隠れていた神楽。彼はシンクロナイズを炎達に再び付与しつつ、幻影の触手を伸ばし、剣魔を包む。そして急速に吊り上げた。
『なっ……何を!?』
「クリたんゲット! 皆、攻撃っす!」
クリピクロウズが普通の高位歪虚ならば、ただ持ち上げるだけで身動きが取れなくなるようなことはないだろう。
だが、彼女はあくまでもスケルトンに守られる存在であり、機動力も膂力も決して高くはない。そういったイレギュラー的な性能が、神楽の作戦とうまくマッチしていた。
墜落しないよう、僅かにハンター側に移動しながら飛行する神楽。
レイアがリューに並び、天羽羽斬からオロチアラマサを放つ。
それは生憎ギリギリで躱されたが、剣魔はその報復に術を唱えるも奏音の封印により術式がかき消されてしまう。
レイアが誇らしく叫んだ。
「その尋常でない動きは私達との戦闘経験を収集した結果なのだろう? ならば、私たちは過去を超えるのみだ。いつまでも人が同じところで足踏みしているなどと思わないことだな!」
再びレイアは刀を構えた。もう相手は籠の中の鳥だ、攻撃の機会ならいくらでもある。
そして。
「今が好機ね!」
まよいとフワが体内のマテリアルを頭脳と指先に集中させる。
「空中にいれば避け辛いだろう? 悪いけど、数で押させてもらうよ」
冷徹で強固な力が指先に集まり、アブソリュートゼロの術式が完成し――ふたりが合計4発の水と土の力を帯びた魔法を放った。
――シャアアアアッ!!
うち、まよいの一撃のみ剣魔の左腕に当たりその指先までが凍りつく。
再び術式を唱えるまよいを横にフワは肩を小さく竦めると「何度でも撃とう。下手な鉄砲も何とやらさ」と呟き、次こそはと落ち着いた声音で術を紡ぎ始めた。
次いでバトルジャンキーの眼光で強烈な睨みを効かせたゾファルが身捧の腕輪から発されるソウルエッジを拳に宿す。
「まー、思うような戦いじゃなかったのが残念無念ってとこだけど! 思う存分やらせてもらうじゃんッ」
彼女のマテリアルの刃が伸び、剣魔を斬る。
フィロも鹿島の剣腕を発動させ、鎧通しを二連繰り出した。金剛不壊の力は骸骨達との戦いで尽きかけているが、まだ諦める時ではない。何度躱されようが彼女は剣魔の真正面に立ち続ける。
その時、満を持して炎が一之太刀に炎桜による桜吹雪を重ね、命中率の増した刃で至高の業――終之太刀を高く跳び上がり剣魔の身体と同時に巨大な骸骨の首も跳ねた。
「終之太刀……これならば認識阻害の守りを突破できる!」
ゴゴッと崩れ落ちる骨。そこにコンバージェンスを今まで仲間に護られながらもチャージしてきたキャリコがアルコルにたったひとつ込めた弾丸へ自身のマテリアルを注ぎ込む。
「俺の力も貸す。外すなよ、キャリコ」
紫苑の手が銃身に重なり、解放錬成の力が備わる。「当然だ」とキャリコはスコープから目を離さず――トリガーから手を離した。
ギュオオオオオオッ!!
常人なら耳を塞ぐほどの風音を唸らせ、弾丸が剣魔の肩を抉り取った。
『ああああッ!!』
凄まじい痛みが奔ったのだろう、剣魔の悲鳴が響き渡る。あともう少し、そう誰もが思った時――大柄な骸骨が神楽を取り囲み、彼を一斉に攻撃し始めた。
「くっ、離すもんっすか。俺は小物っすけど、こんぐらい……!」
「もう少しだけ我慢してくださいっ。必ず助けます!」
アルマがデルタレイで骸骨達の頭や腕を撃ち抜き、敵の目を惹いては仲間達と連携し、それらを倒していく。
しかしローバーも傷つき、いよいよ落下しようかという瞬間。ウナギパイと陽のスレッドが急行し、神楽をふたりがかりの腕で支えた。
「神楽くん、きみを死なせるわけにはいかない!」
「剣魔を怨念から解放するにはお前が必要なんだ。落とさねえし死なせねえ、絶対にな」
「……っ!」
神楽はふたりに深く頷くと、触手を握り直した。落下しかけたローバーはアルヴィンがフルリカバリーで治療してくれたようだ。再び浮上し、神楽の身体を支えてくれた。
一方、澪は前進してきたフリーデの雷撃と縦横無尽のタイミングを合わせ、骸骨達を斬り裂いた。本来なら次元斬を叩き込みたいが、乱戦では味方をも巻き込む刃は危険だ。
「誰も死なせない……一緒に帰る」
澪が着地した瞬間呟いた言葉にはこの地に来ることの叶わなかった親友への誓いが込められている。
(フリーデもローザリンデも皆、無事に帰る。それが最低限、あの子への約束)
そんな澪と逆側で戦うセレスは骸骨を惹きつけるべく剣魔に手裏剣を投げた。しかし今なお剣魔はそれを容易く交わす。だが、その表情には明らかな戸惑いと憂いが浮かんでいる。そして、身体から淡い光が漏れては抜けていく様も見えた。
「もしかして、怨念が抜けているの?」
セレスの声にユウがはっとし、龍騎士の勇敢さと優しさを表す二篇の歌を交互に歌いつつ剣魔のもとへ駆けた。
「不滅の剣魔クリピクロウズ。貴女の願い、貴女の想い、それは私の目指す形の一つです。……ならば何故逃げた。ファナティックブラッドの破滅という現実がありながら!」
そう、今も邪神の脅威は収まっていない。弱者救済が剣魔の存在意義であるのなら、歪虚の定義に反してでも邪神に抗うべきだ。さすれば多くの世界に真実が齎され、多くの命が救われたはずと。
『……ごめんなさい、それは私には……』
俯く剣魔に彼女は尚も強く本音をぶつける。
「その為に零れ落ちた命、助けられなかった想いは貴女にとって無価値な者なんですか!?」
ユウの問いかけにいやいやをするように首を横に振る剣魔。何らかの事情があって話せないのだろう。その哀れな姿にユウは悲しみを覚え、呟いた。
「でも……だから、そんな強者な貴女は一人なんですね。記憶を好きなように解釈し、操る。本当にある意志は貴女だけなんだから」
この戦いを終わらせ、正面から剣魔と向き合う。それこそが世界を救う鍵となると信じ、ユウは左右の鞭を振るい触手の傍にある壁を打ち鳴らす。
その時だ。『もう嫌ああああッ!!』と剣魔が叫んだ。黒曜封印術が解けたのだ。
『私を責めないで虐めないで、ただ皆を助けたかっただけなの。苦しい辛いって気持ちを消してあげたかった。それなのになんでこんなにこんなに……!』
涙をぼろぼろと零し、無数の刃を散らす剣魔。突然のことだったためにマッシュのガウスジェイルが間に合わず、フィロとゾファルが傷を深めて倒れてしまう。
そして再びぞろりと現れる骸骨達。蓬はサクラの言葉を思い出し、傷ついたフィロ達を前線から引き離そうと肩を貸した。
「私が手伝います、どうか生きてください!」
しかし辛うじて中距離まで下がったところ、巨大な骸骨の放った矢が蓬の背に刺さった。倒れた3人にサクラが咄嗟にリザレクションを発動するも、実は先の戦いで一度は戦う力を失いリザレクションでの治療を受けていた者達である。効果は――無効。サクラはせめて彼女たちが命を落とさないようにと自らの身を盾に「私は……少し固いですから……」とまっすぐに前を見据えて立ち塞がった。
「くっ、厄介な連中だ!」
早急にアルトが骸骨のほとんどを殲滅するも、振り返ってみれば……剣魔の様子が明らかにおかしい。
身体を震わせ、蹲るその姿。無意識に彼女は身構えたが――その時、床がずずんと揺れた。どうやら下方でリヴァイアサンを攻略していた部隊が勝利を収めたらしい。白亜の神殿の各部が崩れ、機能が停止していく様子が全員の目に映る。
「やったっす……かね?」
神楽の呟きと同時に、崩れた神殿から無数の亡霊が現れた。そのどれもが泣き叫ぶような顔で『消えたくない』『まだ殺したりない』と嘆きながら宙を舞い、剣魔に縋る。
『だ、だめ……私にはもうあなた達を助ける力はないの』
『そんなこと仰らずに。今まで私達を助けてくださったじゃありませんか!』
『我々を見捨てるのですか! ひどい、ひどい。助けて……』
亡霊達がエゴを露わにし、無力な剣魔の生命力を吸い取っていく。あまりにも無残な光景だ。
「亡霊に縋られているの? でも、今なら! 行くわよ、アブソリュートゼロッ!!」
まよいとフワが頷きあい、再び4発の魔法が発動する。すると今度は――まよいが2発、フワが1発を当て、剣魔は満足に動くことすら叶わなくなった。
だが、リリアはそれよりも亡霊たちの姿に顔を顰める。
「一方的に救いだけ求めて……最低。今はあの子よりもあいつらが赦せないっ」
彼女はセグラでエンタングルを繰り出し、亡霊を怯えさせた。
「終わりにしてやる。こんな悲劇、繰り返してたまるものか!」
炎が再び一之太刀に桜吹雪を舞わせ、終之太刀で亡霊の群れごと剣魔を斬る。次いでリューが剣に紋章を浮かべ、叫んだ。
「クリピクロウズ!! 俺は、お前みたいな弱くて強くて頑固で人の話を聞かない、優しすぎる奴を、忘れてなんかやるものか!」
剣に魔力が溢れる中で訥々と彼は剣魔に想いを告げる。
「強ければ守れた。溢さなかった。共にあれた! 後悔は数え切れない。忘れたいと考えた事なら星の数だ。けど、忘れちゃダメだ。お前は救いたいと願ったことも忘れるのか? 忘れていいのか!?」
そして剣を翳すと……それはリバース・エッジの構えだった。
「弱くていい。逃げたっていい。でも忘れちゃダメなんだ。そのままでいいなんて、お前が消してきた記憶達はホントにそんな事思ってたと言うのか! 弱くても、その中で少しでも前に進もうって人が俺は大好きだ。俺は忘れない。あった事を、想い出を。全部全部背負って足掻き続けてやる!」
全力をもって放たれるオーラ。剣魔は『それを受け入れることも……強さなのですね』と、痛みを受け入れた。胸の核が現れ、ひくひくと揺れている。
そこにレイオスがアイデアルソングを歌いながら歩み寄ってきた。これ以上、剣魔が苦しむことのないように。
「かつてのお前の救いをオレは必要としていない。だがそれがお前を救わない理由にはならないぜ。さあ、キャリコ……後はもう苦しまないように」
「わかっている。さようなら、だ」
そう告げてキャリコがコンバージェンスと解放錬成を重ねたトリガーエンドをマトリカリアから撃った時――剣魔の核が砕けた。
●
戦が、終わった。
白亜の床に横たわる剣魔にリューが真っ先に駆け寄る。彼は迷うことなく剣魔の手をとった。冷たい手にぬくもりが伝わる。
「なあ、邪神翼を切り離せないか? お前を救いたいんだ」
『ありがとう、優しい人。……でも邪神翼は私と対の存在。そのどちらかが力を失えば、もう片方も消えるのです。……私は攻撃するつもりはなかったのですが……怨念達の真意に気づいてあげられなくて……皆さん、ごめんなさい……』
「そうか……なら、最期まで見けるよ。お前が寂しくないように」
リューが剣魔を労わる一方、Gacruxが剣魔の傍で腕を組み、見下ろした。彼の瞳には強い怒りが宿っている。
「それならお前が消える前に聞かせてもらう」
『な、にを……?』
「彼の英霊がお前の出現以後の異界で事実を捻じ曲げられ、歪虚とされた。想い出が大切とは笑わせる。彼女の想いも誇りも泥に塗り替え、お前らは悪びれもしない! 貴様らが生成した異界の歪虚は実体のない虚像なのか?」
Gacruxが以前侵入した異界で起きた異常に思うことがあるのだろう。フリーデが斧を強く握りしめ、彼を守るように隣に立つ。剣魔は逡巡したのち、口を開いた。
『それは邪神によるものではありません。……おそらく、怨念かそれとも何者かによる幻想……』
「あんなものを、ヒトが望んだと言うのか……」
受け入れがたい、しかし薄々は感づいていた事実。
異界は邪神側ではなく、そこに取り込まれた人々の歪んだ心に依存しているのだと。
「そうか。ならばもうひとつ。負のマテリアルに侵された魂は消滅後、どこへ向かう。貴様が邪神の末端なら答えろ!!」
『……それはわかりません……主人格以外の私は幾度も殺されましたが、その行く末までは……ごめんなさい』
そう。剣魔は生者が魂の行く先を宗教や伝承の物語でしか知らないように、死したことのない彼女もその行方を知らないのだ。素直に謝る剣魔にGacruxは怒気を抜かれたのか、息を深く吐くと立ち上がり、背を向けた。
「そうか、それならもうお前に用はない。俺は英霊にしろ心ある歪虚にしろ、その遺志や誇りが穢されない世界を望む。お前と怨念が消えることで、捏造の危険性が減るのならそれで良い」
『……ごめんなさい』
尋問が終わったのを見計らうと、神楽は頭を掻きながら剣魔の傍で座り込んだ。
「えーと。今までの話はともかくとして。お前は寄り添った彼等から影響を受けたっす。俺らは彼等から影響を受けたお前から影響を受けたっす。お前に影響を受けた俺らは誰かに影響を与え、その誰かもまた違う誰かに影響を与えるっす」
『影響……』
「命が続く限りこうやってお前が寄り添った彼らは世界に影響を与え続けるっす。彼らは既に世界の一部っす。だから忘れられても消えることはないっす」
『でも……』
「それでも忘れられることが悲しいなら、俺達が彼らの想いを記録し後世に伝えるっす。これで世界が続く限り彼らが忘れられる事もないから安心するっす」
そこに紫苑が歩み出て、告げる。
「安心しろ。俺が帝国の建国と繁栄のために多大な犠牲が払われたと真実の記録を石碑で残すよう提案する。事実の周知が大事なんだ。歴史は『勝者の日記』であっては意味がない」
その後方で佇むキャリコが頷いた。
「ああ。石碑は良い案だ。各地の大通りなど誰もが通る場所に慰霊を兼ねて設置すれば何十年、手入れ次第では百年以上ゆうに伝えられるだろう。それに職人が打ち直すことで永遠にその歴史が広まり……伝わっていく」
彼等の言葉に何度も頷いた炎は、剣魔の両手を己が手で包み込むと強く誓った。
「だがまずはあらゆる脅威から世界を守らないとな。俺は君に約束する! 弱者の悲しみを生まない世界を作ると!」
『ありがとう、やさしい人たち……これで怨念達も本当の意味で救われる。私の役目も……これで終わる……』
そこにフィロが骨格の一部をむき出しにした痛々しい姿で歩み寄った。オートマトンならではの重い身体を、応急処置に携わるウナギパイが支えている。
「大丈夫か、なんだったら俺が代わりに伝えても……」
「いいえ、私が伝えます……ご厚意に感謝いたします」
深い傷を負ったままのフィロは剣魔の傍で膝を折ると、ぎこちなく手を伸ばした。
「今度は、共に人を守りましょう……お休みなさい、クリピクロウズ様」
フィロが剣魔の頬を伝う涙を拭う。すると剣魔の顔が微笑んだように見えて――そのまま意識を失った。身体に異常がないことから、すぐに消失するわけではないようだ。
レイオスが剣魔の額をそっと撫でた。
「悪いな……こんな救済しか用意できなくて……」
――その声が響くや、優しすぎた歪虚に縋った怨念達が光となって消えていく。
その姿を見送りながらアルヴィンが歌う。朴訥な優しき愛の歌を。その声は相変わらず朗らかで、心の痛みを取り去るようだ。
アーサーが呟いた。「救済はお前自身の願いだったんだな。歪虚のくせにとんでもなく不器用で優しい女神様」と。
ダイアモンドダストに似た魂の煌きをいつまでもハンター達は見守っていた。
邪神翼リヴァイアサン。その主・不滅の剣魔クリピクロウズを倒すため、ハンター達は無数の神殿を連ねた建造物の頂点についにたどり着いた。
そこで待っていたのは最も高い尖塔の上で楽しげにドレスの裾を揺らす剣魔。彼女のいる尖塔を骸骨の群れが囲んでいる。
『あは! 遊び相手が沢山で嬉しいっ』
ハンターが現れたその時、剣魔が歪んだ笑みを浮かべて塔から滑り降りる。6mもの背丈を持つ骨の壁に囲まれてはその姿は見えやしない。
リューリ・ハルマ(ka0502)は【月待猫】の仲間のアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)と、春日 啓一(ka1621)に溌溂と声をかけた。
「どのくらい沸いてくるか分からないけど、ガンガン叩こうね! アルトちゃん、啓一さん!」
「うん。まずはボクが本陣周辺の奴らを一掃する。リューリちゃんと啓一も頼むよ」
「ここで負けたら邪神翼がヤバいことになんだろ。そうなったらこの国はどうなるか……俺は絶対に負けねえからな」
啓一の両の拳が小気味良い音を立ててぶつかり合う。その決意にリューリとアルトが深く頷き、駆け出した。
まずはアルトが飛花・焔で赤い残像を作り出し、敵が密集している地域を駆け抜ける。立体攻撃で敵の妨害や建造物の段差を軽々と跳び越え、散華による斬撃の連続は分厚い骨も易々と切断する。――赤の長髪を振り乱し、舞うような動きで周囲を突き崩す姿はまさに紅蓮の風神。
リューリはその中で辛うじて生き残った骸骨に巨大な戦斧を十文字に叩きつけた。呆気なく崩れる骨に彼女は言う。
「油断しちゃダメだよ。アルトちゃんの他にもつよーい仲間がいっぱいいっぱいいるんだからっ!」
一方で啓一は激しく渦巻く炎のオーラを纏うと、次々と襲い来る骸骨をカウンターアタックで殴り倒した。
「おうおう骸骨ども、てめえらと同じように俺らにも守るもんがあるんだ。成仏してもらうぜ!!」
文字通りの命を懸けた壮絶な啖呵に骸骨達は目を離せず、おろおろと武器を構えた。
その頃、フィロ(kaka6966)はバイクのアクセルを全開にした。
剣魔の周りには強靭な骸骨が揃っている。それでも想いを伝えねばと、フィロは臆さない。
(やり方は間違ってしまったけれど、誰かを守りたかったこの方を慰めも感謝もせず見送ってはいけないと思った。そのためだけに、最後まで一番近い場所に立つ!)
セレス・フュラー(ka6276)もママチャリに乗り、前線の仲間達に足取りを合わせる。
(軽薄を装っても顔は歪んでた。随分、苦しそうじゃないのさ。さっさと楽になりなよ!)
そう考えた瞬間、彼女の頬を矢が掠めた。セレスは自転車から飛び降りるとグローブからマテリアルの障壁を広げ、続く矢を受け流す。
「手荒な歓迎だね。だったら存分にお返ししてあげるよ」
そう言うと、彼女はテンポの速い歌を口ずさみ、敵陣に跳び込む。マーキス・ソングで敵の守りを薄め、拳でのアサルトディスタンスで骸骨の群れを粉砕するセレスは巨岩さえも風化させる古の風に酷似していた。
アルマ・A・エインズワース(ka4901)は後衛に控えながら射線上にハンターの不在を確認するや、尖塔の麓へ蒼く燃える腕を向けた。その顔には普段の好戦的な色ではなく、悲しみを湛えている。
「正義の反対は慈悲、寛容だって誰か言ってたです。けど、それだけだと……片方だけだと壊れちゃうです。だから……未来と我儘の為に、今は君たちを殺します。でも、絶対忘れません。少なくとも、僕らは」
彼の腕から刃の如き無数の氷柱が一直線に展開されていく。その氷は突出した小兵たちを次々と打ち砕いた。……だが。
「っ!?」
アルマが表情を凍らせた。巨大な骸骨が壁となり、氷柱の行く手を阻んだのだ。無論、盾となった者は全て深い傷を負っている。ただし氷柱は見えぬ場所までは届かない。つまり剣魔と奥に控える骸骨は健在なのだ。
「アルマ、気にするな。何のために俺達がいる? フリーデ、お前も考えは同じはずだ。数は多けれど限界はあるはず。俺は剣魔を射貫いてみせる」
そう言って、斬りかかる骸骨の頭を拳銃で難なく撃ち抜いたのはアルマや仙堂 紫苑(ka5953)とチーム【悪童】を組んでいるキャリコ・ビューイ(ka5044)。
フリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)は彼に深く頷いた。紫苑は修祓陣を張りつつ、フリーデに視線を投げかける。
「光には必ず影が差す。陰陽論然り、この世は常にプラマイゼロだ。その点において俺は中立だ。正も負も飲み込んで、どこまでもフラットに。……忘れてなんかやらないからな。負の歴史として、帝国の歴史書に書いてやる。いいか、英霊」
『今の帝国に必要なのは我々軍人や皇族による正しき禊だ。私は生前の戦争や古の戦の伝承なら覚えている。多少は役に立てるだろう』
「……ん、それならきちんと生き残らないとですね。僕ら全員で」
気力を取り戻したアルマが再び術を紡ぎ始める。紫苑は深く頷くと符の一部をその手に再び集めた。
リリア・ノヴィドール(ka3056)はワイヤーウィップ「セグラ」を巧みに操り、小兵や中型の骸骨を次々と粉砕していた。
(ここまでは順調。ただし、ここからよね。あの壁を突破して剣魔の動きを封じなきゃ)
リリアは傍にある壁に身を隠すと気配を隠す業に集中する。
――だが、その時。不気味な波動が頭の中に流れ込んできた。
『殺しあいなよ』
暗い声が響くと同時に視界が歪む。
「「うっ……」」
斬るべき相手が認識できなくなったその瞬間、少女の声が凛と響いた。
「この呪詛、纏めてお返ししますッ!」
前方に突き進む夜桜 奏音(ka5754)が呪詛返しの業を放ったのだ。
そこで正気を取り戻したレイア・アローネ(ka4082)がソウルエッジで強化した刺突一閃で尖兵たちを突き崩し、叫ぶ。
「夜桜、感謝する! さぁ皆、こちらだ、私に続け!!」
雄々しい号令に奏音が頷く。
「呪詛返しは7度までが限界です。残りは6回、それまでにどうか決着を!」
「了解だ。それとリュー、伝えたい事があるのだろう? ならば行け。私たちの分までぶつけてこい!」
レイアは隣で戦うリュー・グランフェスト(ka2419)の背を軽く押した。
そこで共に剣を振るう澪(ka6002)も促す。
「出来れば救ってあげて」
いたわるような澪の声。彼女の先手必勝の業がリューの進むべき時を示す。彼は仲間の顔を見回した。
「いいのか」
「当然だ、心配するな」
レイアの声を受けてリューが走り出す。仲間たちの信頼に応えるために。
「行きなさい、魔の矢!」
夢路 まよい(ka1328)はフォースリングの力で5本に増したマジックアローを操り大小様々な骸骨を砕いた。しかし盾役の骸骨を崩し、剣魔の回避力を弱めるまで彼女の本懐を果たすことは難しい。
(正直、もどかしいわね。早く骸骨達を倒さないと)
帽子のつばを若干下げて苛立つ視線を隠すまよい。
その隣を駆けるのはレイオス・アクアウォーカー(ka1990)。彼はソウルエッジを宿した刃を二振り構えた。
「恩を仇で返すその怨念、今ここで断つ!」
彼は一気に中型の骸骨を叩き斬ると、その勢いのままアスラトゥーリで大型の骸骨にオーラを放つ。骸骨は小石の如く崩れた。
その瞬間をGacrux(ka2726)は見逃さない。前傾している敵陣の横から巨大骸骨の背を一気に駆け上がると、ソウルエッジの宿った両手槍を頭頂部に全力で突き刺した。
『グアァアァッ!?』
崩れ落ちていく骸骨。彼らに占有されていた地は着実に減っている。もう少しだ、憎き剣魔と遭うまでは。
その動きに合わせ、マッシュ・アクラシス(ka0771)はダンピールを宿した無銘の灰剣で粛々とスケルトンを葬る。
「はて、さて……随分聞いた名とも、聞き納めとしたいものですな」
「全くです。この地に抑圧されていた感情が漸く発露されたのでしょうか。強烈な亡霊の怨嗟、清々しささえ感じます」
マッシュの独り言じみた言葉にGacruxが頷く。
(その先には一体何があるのやら……と)
思案するマッシュ。彼の後方についたフワ ハヤテ(ka0004)は魔導バイクを駆りながら、先ほどアルマが倒し損ねた骸骨達に火球を投げつけた。
「悪いがボクらも急いでいるんでね。憎悪を背負ってばかりというのも辛いだろう? 一足先に休んでくれ」
灰となる骸骨達へ慰めの声をかけながら、彼は後衛に敵が向かわぬよう、したたかに視線を巡らせた。
激しい戦いが続くさなか、アルヴィン・オールドリッチ(ka2378)はアイデアル・ソングを歌いつつ剣魔に向かう。
(辛い事や痛い事を、抱えていられないカラ忘れてしまいタイ。ソウ言う弱さを否定は出来ない)
陽の感情に偏る彼だが、それでも苦痛の存在は知っている。
(ケレド、誰も覚えてイナイ事柄は、無かった事と同じ事で、辛くテモ痛くテモ、ソコには確かに掛け替えのない想いがあって。ソレを無かった事にしてシマウ事は、僕には出来そうもナイカラ……弱き者を救おうとしたクリピクロウズの事も、憶えておきたいと思うヨ)
このめぐり合わせの記憶は剣魔への慰めになろう。アルヴィンはせめて自分の歌で仲間を守り、剣魔に安らぎを与えようと思った。
一方、フライングスレッドでI.F.O.を用いて空から本陣へ迫る八島 陽(ka1442)はアサルトライフルを、辛うじて視界に収まった剣魔へ向けた。
「クリピクロウズ、きみは忘れないと前に進めない!」
叫ぶと同時にその一帯へ激しく銃撃する陽。すると骸骨の数体が身を竦め、剣魔が陽を鋭く睨みつける。陽は銃を構えたまま、彼女の憎悪の籠った瞳を見つめ返した。必ず救う、と誓いながら。
後方で構えるサクラ・エルフリード(ka2598)は蓬(ka7311)へプロテクションの術を施した。駆け出しでありながら前線へ行くと主張する蓬を放ってはおけない。
「守りの術を与えましたが……過信は禁物。大きな傷を負ったら退がるのも大切な勇気……忘れないで……」
「はい、胆に銘じておきます!」
真面目に答え、駆け出す蓬。その背を見守りつつ、サクラは後衛の位置を維持しながら呟いた。
「今回は縁の下の力持ち、という感じですが……これも必要でしょうし頑張ります……」
陽が剣魔達へ隙を与えたその間に、もうひとつ、空をゆくものがあった。テンタクル・ローバーに騎乗する神楽(ka2032)、そしてそれに絡みつく形で同乗するのは戦闘力に優れながらも機動力に劣るゾファル・G・初火(ka4407)と南護 炎(ka6651)だ。
神楽は移動する最中、剣魔に立ち向かう仲間達にコンバートソウルとシンクロナイズを使用することで支援し、剣魔からそう遠くない区域でふたりを降ろすと、塔の陰へ身を隠した。己が策のために。
そこでゾファルと炎は神楽の存在を感づかれぬよう、すぐに剣魔を守る骸骨達へ派手に斬り込む。
特に今までの剣魔戦では真正面からの真剣勝負ができなかったゾファルが鬱憤を晴らすべく、満面の笑みを湛えて全力で駆ける。
「今回は死ぬまで遊ぼうぜじゃーん、クリスマスピクピクローズちゃんっ!」
ソウルエッジを付与したドラセナがマテリアルの刃を広げ、前方を大きく薙ぎ払う。その威力は凄まじく、小兵は敢え無く粉砕。中型の骸骨も脚を砕かれるも、鉈を持つ腕をゾファルへ振り上げた。
そこへ炎が割って入り、腕を斬り飛ばす。
「きみはクリピクロウズと戦うために来たんだろ? ならこんなところで止まっちゃいけない。俺も共に駆ける!」
「わかってんじゃん、炎ちゃん。俺様ちゃんってば必殺の如来掌を頭の外に置いてきちまったんだけどー、でも命を懸けてあいつをブン殴る。真面目に遊び倒すじゃんッ!」
この状況に於いて決定打を忘れるとは失態だが、それでも彼女は前向きだ。炎は力強く頷き、再び地を踏みしめた。
アーサー・ホーガン(ka0471)は弓持ちの骸骨を倒すべく、刺突一閃で中衛に潜む骸骨達を貫いた。それと同時に先ほどの異様な剣魔の姿を思い返し、彼は呟く。
「裸の王様ならぬ、裸の女神様だったわけか。そうなると、お前のそれは誰の望みだったんだ?」
弱者から苦しみを解放したい。その優しさは本来なら歪虚が持つ感情ではないはずだ。ならば何者かの影響を受けたのか? 疑問を胸に駆けるアーサー。そこに突出した中型の骸骨が斧を振り上げた。
「くっ!」
咄嗟に防御態勢をとる彼の前に光の障壁が展開される。シガレット・ウナギパイ(ka2884)のホーリーヴェールで斧の勢いが弱まり、アーサーの被害は軽傷に留まった。
「アーサー、らしくねえんじゃねえの? 剣魔は今や怨念の塊だ。今は真実も何もわからねえ。匿った相手に乗っ取られるのは哀れだが、俺らにできんのはただ安らかに眠らせてやるだけだ」
「……そうだな、亡霊退治といくか」
アーサーはそう返すと「礼は言わない。が、戦果で十分に返してやる」と骸骨へ剣を向ける。ウナギパイは深く頷くとフライングスレッドに乗り、目的地へと急いだ。
その頃、ユウ(ka6891)は仲間達と足並みを揃えつつ、鞭によるエンタングルで味方の支援に専念していた。
しかしその胸には複雑な想いが去来する。
剣魔が抱えた永遠の孤独――それを打ち払うのはハンターやヒトの意思だ。ユウはただ、それの実現だけを願いながら戦う。
●
戦が始まってからしばらくして、四方から奇妙な音が聞こえ始めた。
その音の主は20体もの骸骨の軍勢。前方の骸骨の半分近くはアルトが潰し、それ以外の小兵から中型の骸骨はほとんどハンターが倒していたのだが、まさか四方から増援が来るとは!
「コフィンのために後方に控えていたのが役に立ちそうですね」
「ああ、そうだな。後方の数体ぐらいなら何とかしてみせる」
アルマと紫苑が冷静に術式を唱え、キャリコも拳銃で牽制を始めた。
「フリーデお姉さん! 一緒にやるです!」
『いいだろう、黒雷よ!!』
次々と襲い掛かる骨達にデルタレイで粉砕するアルマと、周囲に雷光を轟かせるフリーデ。
それをギリギリの距離で躱し襲い来る骸骨を紫苑のファイアスローワーとキャリコの弾丸が確実に潰していった。
その時、後方の敵の殲滅を確認した紫苑がぽつりと呟く。
「もう少し前進して全体と連携した方が良いかもしれないな」
後衛ならば敵に襲われることなくキャリコの必殺の策が通ると考えていたのだが、事態はそう甘くないようだ。
「……そうだな。少なくともコンバージェンスをチャージ仕切るまでは時間を稼ぎたい」
同意するキャリコ。【悪童】は中衛との合流を決定した。
●
戦は一進一退の様相を呈し始めていた。何しろ5秒ごとに骨の軍団が20体現れ、剣魔の守りに就くなり、ハンターを奇襲するなりで、戦線が混沌としているのだ。
それに剣魔は呪詛のみならず、流星による破滅的な連続攻撃や黒い刃を降らせハンター達の動きを広範囲にわたり止めるなど、強烈な業を繰り出してくる。ひらりひらりとハンターの攻撃を躱しながら。
ゾファルとフィロは骸骨達の攻撃を辛うじて受け流しつつ何度も拳を剣魔に打ち込んだが、そのいずれも驚異的な動きにより回避されていた。剣魔が無邪気に問う。
『どうせ当たんないのに何で繰り返すのさ』
「感謝を、伝えるためですっ。貴女は世界を、人を守ろうとしたっ……やり方は間違っても、それで苦しむ人が増えてもっ」
骸骨の度重なる打撃で関節がギシギシと音を立て始める。それでもフィロは諦めない。その拳で想いを伝えるために。
一方ゾファルは好戦的な剣魔に満足げに笑うと「全員、吹っ飛べー!」と叫びドラセナで薙いだ。もちろん剣魔には当たらず、その影響を受けている骸骨どももひらりと躱す。しかも揃ってゾファルに報復せんとしたのか、次々と武器を叩きつけてくる始末だ。――それを受け、血まみれになってもゾファルは笑う。
「そうだよ、これだ……クリッピーもさぁ、俺様ちゃんを本気で殺しに来なよ。その瞬間に俺様ちゃんもガチの一撃を打つからさ!」
決定打がないのが何だ。生命の危機を乗り越えるアドレナリン溢れる快感を得るために彼女は死地にあるのだ。
『変な子……それじゃ、次はあなたにしようかな?』
剣魔が笑う。ふたりの表情はひどく壮絶だった。
『アハハハハハッ、皆死んじゃえッ!』
剣魔が手を宙に翳す。蓬が妨害射撃を行うも、剣魔はそれをものともせず流星が――落ちてくる。
「……! 壁役ならやれましょう。皆さん、お下がりを」
事前に奏音の傍でガウスジェイルを使用していたマッシュがラストテリトリーを展開する。すると5つの流星が彼に叩きつけられた。
――ドドドドドッ!!!
「いやあああっ、マッシュさん!!」
奏音が悲鳴を上げた。
「っ、さすがは四霊剣の最後のひとり。苛烈の一言に尽きますな……ッ」
その威力は今までのものより激しかったらしい。焼けただれた肌を掻き抱くようにして両膝を地に着くマッシュ。サクラが駆け寄り「戦線を崩壊させるわけには……。回復を行います……」とリザレクションを行使する。たちまち皮膚が治癒し、マッシュがついと立ち上がった。
「無理はなさらずに。あなたの護りは要なのですから……」
「そのご厚意、感謝いたします。でもそれ以上の使命があるのですよ」
マッシュはすぐ後ろに控える奏音の無事を確認すると再び剣を手にする。その一連の様子を駆けながら見守ったリューが剣魔に向かって叫んだ。
「攻撃しないんじゃないのか!」
しかしその懸命な声に剣魔は応じない。リューは悔しさを胸に巨大な骸骨を星神器エクスカリバーと重き鞘で打ち据えた後、激しいオーラを放ちその身を砕いた。
それを機にハンター達が反撃に出た。兼ねてより続けられていた歌で闘志を鼓舞し、死者の戦意を引き下げていく。そして何よりも。
「いくら現れようとも痛みは一瞬だ。死者よ、永遠の闇へ還れ!」
「何度来たって私の斧は逃がさないよっ」
「何を怯えている? さっさとかかってきな! 全員ぶっ飛ばしてやるよ」
アルトの散華による破滅的な連続攻撃をはじめとした【月待猫】の活躍により、もはや前衛は剣魔のみという状況となった。
「奇襲は俺らに任せな、剣魔のことは頼んだぜ!」
アーサーとレイオスが中型骸骨の群れを相手に剣技を次々と繰り出す。蓬は彼らの応戦を頼もしく思いつつ、剣魔に牽制のための射撃を幾度も繰り返した。
「……当たるまで、諦めません」と言って。
一方、隠の徒で気配を隠したリリアは尖塔の傍に潜んでいた。ロープで剣魔拘束を考えていた彼女だが、護衛役のスケルトンが現れることを考え、前に進む覚悟を決める。
そして仲間達の前進を確認するなり、剣魔の動きを封じ込めべくセグラをその足元で複数回打ち鳴らした。突然の鋭い音に振り向く剣魔に彼女は冷徹な声で言い放つ
「貴女はあたしの知っているクリピクロウズとはある意味違う、なのね。でも……だからこそ意地でも一発殴らせてもらうわ、なの」
それに乗じ、Gacruxもワイヤーウィップを剣魔の腰に絡め、くらりとバランスを崩させた。
その時、今まで波動の対応に専念していた奏音がついに剣魔との距離12m内に踏み入る。マッシュと仲間が命をかけて開いた道を無駄にはできない。彼女は10枚の符を指に挟むと宙に放った。
「黒曜封印符ッ!!」
東方から伝わる封印術が剣魔の身体を縛り付ける。奏音は自らの動きを犠牲にする代わりに相手の手番を封じたのだ。
「よっし、奏音さんナイス!!」
弾む声と同時に宙から現れたのは今まで隠れていた神楽。彼はシンクロナイズを炎達に再び付与しつつ、幻影の触手を伸ばし、剣魔を包む。そして急速に吊り上げた。
『なっ……何を!?』
「クリたんゲット! 皆、攻撃っす!」
クリピクロウズが普通の高位歪虚ならば、ただ持ち上げるだけで身動きが取れなくなるようなことはないだろう。
だが、彼女はあくまでもスケルトンに守られる存在であり、機動力も膂力も決して高くはない。そういったイレギュラー的な性能が、神楽の作戦とうまくマッチしていた。
墜落しないよう、僅かにハンター側に移動しながら飛行する神楽。
レイアがリューに並び、天羽羽斬からオロチアラマサを放つ。
それは生憎ギリギリで躱されたが、剣魔はその報復に術を唱えるも奏音の封印により術式がかき消されてしまう。
レイアが誇らしく叫んだ。
「その尋常でない動きは私達との戦闘経験を収集した結果なのだろう? ならば、私たちは過去を超えるのみだ。いつまでも人が同じところで足踏みしているなどと思わないことだな!」
再びレイアは刀を構えた。もう相手は籠の中の鳥だ、攻撃の機会ならいくらでもある。
そして。
「今が好機ね!」
まよいとフワが体内のマテリアルを頭脳と指先に集中させる。
「空中にいれば避け辛いだろう? 悪いけど、数で押させてもらうよ」
冷徹で強固な力が指先に集まり、アブソリュートゼロの術式が完成し――ふたりが合計4発の水と土の力を帯びた魔法を放った。
――シャアアアアッ!!
うち、まよいの一撃のみ剣魔の左腕に当たりその指先までが凍りつく。
再び術式を唱えるまよいを横にフワは肩を小さく竦めると「何度でも撃とう。下手な鉄砲も何とやらさ」と呟き、次こそはと落ち着いた声音で術を紡ぎ始めた。
次いでバトルジャンキーの眼光で強烈な睨みを効かせたゾファルが身捧の腕輪から発されるソウルエッジを拳に宿す。
「まー、思うような戦いじゃなかったのが残念無念ってとこだけど! 思う存分やらせてもらうじゃんッ」
彼女のマテリアルの刃が伸び、剣魔を斬る。
フィロも鹿島の剣腕を発動させ、鎧通しを二連繰り出した。金剛不壊の力は骸骨達との戦いで尽きかけているが、まだ諦める時ではない。何度躱されようが彼女は剣魔の真正面に立ち続ける。
その時、満を持して炎が一之太刀に炎桜による桜吹雪を重ね、命中率の増した刃で至高の業――終之太刀を高く跳び上がり剣魔の身体と同時に巨大な骸骨の首も跳ねた。
「終之太刀……これならば認識阻害の守りを突破できる!」
ゴゴッと崩れ落ちる骨。そこにコンバージェンスを今まで仲間に護られながらもチャージしてきたキャリコがアルコルにたったひとつ込めた弾丸へ自身のマテリアルを注ぎ込む。
「俺の力も貸す。外すなよ、キャリコ」
紫苑の手が銃身に重なり、解放錬成の力が備わる。「当然だ」とキャリコはスコープから目を離さず――トリガーから手を離した。
ギュオオオオオオッ!!
常人なら耳を塞ぐほどの風音を唸らせ、弾丸が剣魔の肩を抉り取った。
『ああああッ!!』
凄まじい痛みが奔ったのだろう、剣魔の悲鳴が響き渡る。あともう少し、そう誰もが思った時――大柄な骸骨が神楽を取り囲み、彼を一斉に攻撃し始めた。
「くっ、離すもんっすか。俺は小物っすけど、こんぐらい……!」
「もう少しだけ我慢してくださいっ。必ず助けます!」
アルマがデルタレイで骸骨達の頭や腕を撃ち抜き、敵の目を惹いては仲間達と連携し、それらを倒していく。
しかしローバーも傷つき、いよいよ落下しようかという瞬間。ウナギパイと陽のスレッドが急行し、神楽をふたりがかりの腕で支えた。
「神楽くん、きみを死なせるわけにはいかない!」
「剣魔を怨念から解放するにはお前が必要なんだ。落とさねえし死なせねえ、絶対にな」
「……っ!」
神楽はふたりに深く頷くと、触手を握り直した。落下しかけたローバーはアルヴィンがフルリカバリーで治療してくれたようだ。再び浮上し、神楽の身体を支えてくれた。
一方、澪は前進してきたフリーデの雷撃と縦横無尽のタイミングを合わせ、骸骨達を斬り裂いた。本来なら次元斬を叩き込みたいが、乱戦では味方をも巻き込む刃は危険だ。
「誰も死なせない……一緒に帰る」
澪が着地した瞬間呟いた言葉にはこの地に来ることの叶わなかった親友への誓いが込められている。
(フリーデもローザリンデも皆、無事に帰る。それが最低限、あの子への約束)
そんな澪と逆側で戦うセレスは骸骨を惹きつけるべく剣魔に手裏剣を投げた。しかし今なお剣魔はそれを容易く交わす。だが、その表情には明らかな戸惑いと憂いが浮かんでいる。そして、身体から淡い光が漏れては抜けていく様も見えた。
「もしかして、怨念が抜けているの?」
セレスの声にユウがはっとし、龍騎士の勇敢さと優しさを表す二篇の歌を交互に歌いつつ剣魔のもとへ駆けた。
「不滅の剣魔クリピクロウズ。貴女の願い、貴女の想い、それは私の目指す形の一つです。……ならば何故逃げた。ファナティックブラッドの破滅という現実がありながら!」
そう、今も邪神の脅威は収まっていない。弱者救済が剣魔の存在意義であるのなら、歪虚の定義に反してでも邪神に抗うべきだ。さすれば多くの世界に真実が齎され、多くの命が救われたはずと。
『……ごめんなさい、それは私には……』
俯く剣魔に彼女は尚も強く本音をぶつける。
「その為に零れ落ちた命、助けられなかった想いは貴女にとって無価値な者なんですか!?」
ユウの問いかけにいやいやをするように首を横に振る剣魔。何らかの事情があって話せないのだろう。その哀れな姿にユウは悲しみを覚え、呟いた。
「でも……だから、そんな強者な貴女は一人なんですね。記憶を好きなように解釈し、操る。本当にある意志は貴女だけなんだから」
この戦いを終わらせ、正面から剣魔と向き合う。それこそが世界を救う鍵となると信じ、ユウは左右の鞭を振るい触手の傍にある壁を打ち鳴らす。
その時だ。『もう嫌ああああッ!!』と剣魔が叫んだ。黒曜封印術が解けたのだ。
『私を責めないで虐めないで、ただ皆を助けたかっただけなの。苦しい辛いって気持ちを消してあげたかった。それなのになんでこんなにこんなに……!』
涙をぼろぼろと零し、無数の刃を散らす剣魔。突然のことだったためにマッシュのガウスジェイルが間に合わず、フィロとゾファルが傷を深めて倒れてしまう。
そして再びぞろりと現れる骸骨達。蓬はサクラの言葉を思い出し、傷ついたフィロ達を前線から引き離そうと肩を貸した。
「私が手伝います、どうか生きてください!」
しかし辛うじて中距離まで下がったところ、巨大な骸骨の放った矢が蓬の背に刺さった。倒れた3人にサクラが咄嗟にリザレクションを発動するも、実は先の戦いで一度は戦う力を失いリザレクションでの治療を受けていた者達である。効果は――無効。サクラはせめて彼女たちが命を落とさないようにと自らの身を盾に「私は……少し固いですから……」とまっすぐに前を見据えて立ち塞がった。
「くっ、厄介な連中だ!」
早急にアルトが骸骨のほとんどを殲滅するも、振り返ってみれば……剣魔の様子が明らかにおかしい。
身体を震わせ、蹲るその姿。無意識に彼女は身構えたが――その時、床がずずんと揺れた。どうやら下方でリヴァイアサンを攻略していた部隊が勝利を収めたらしい。白亜の神殿の各部が崩れ、機能が停止していく様子が全員の目に映る。
「やったっす……かね?」
神楽の呟きと同時に、崩れた神殿から無数の亡霊が現れた。そのどれもが泣き叫ぶような顔で『消えたくない』『まだ殺したりない』と嘆きながら宙を舞い、剣魔に縋る。
『だ、だめ……私にはもうあなた達を助ける力はないの』
『そんなこと仰らずに。今まで私達を助けてくださったじゃありませんか!』
『我々を見捨てるのですか! ひどい、ひどい。助けて……』
亡霊達がエゴを露わにし、無力な剣魔の生命力を吸い取っていく。あまりにも無残な光景だ。
「亡霊に縋られているの? でも、今なら! 行くわよ、アブソリュートゼロッ!!」
まよいとフワが頷きあい、再び4発の魔法が発動する。すると今度は――まよいが2発、フワが1発を当て、剣魔は満足に動くことすら叶わなくなった。
だが、リリアはそれよりも亡霊たちの姿に顔を顰める。
「一方的に救いだけ求めて……最低。今はあの子よりもあいつらが赦せないっ」
彼女はセグラでエンタングルを繰り出し、亡霊を怯えさせた。
「終わりにしてやる。こんな悲劇、繰り返してたまるものか!」
炎が再び一之太刀に桜吹雪を舞わせ、終之太刀で亡霊の群れごと剣魔を斬る。次いでリューが剣に紋章を浮かべ、叫んだ。
「クリピクロウズ!! 俺は、お前みたいな弱くて強くて頑固で人の話を聞かない、優しすぎる奴を、忘れてなんかやるものか!」
剣に魔力が溢れる中で訥々と彼は剣魔に想いを告げる。
「強ければ守れた。溢さなかった。共にあれた! 後悔は数え切れない。忘れたいと考えた事なら星の数だ。けど、忘れちゃダメだ。お前は救いたいと願ったことも忘れるのか? 忘れていいのか!?」
そして剣を翳すと……それはリバース・エッジの構えだった。
「弱くていい。逃げたっていい。でも忘れちゃダメなんだ。そのままでいいなんて、お前が消してきた記憶達はホントにそんな事思ってたと言うのか! 弱くても、その中で少しでも前に進もうって人が俺は大好きだ。俺は忘れない。あった事を、想い出を。全部全部背負って足掻き続けてやる!」
全力をもって放たれるオーラ。剣魔は『それを受け入れることも……強さなのですね』と、痛みを受け入れた。胸の核が現れ、ひくひくと揺れている。
そこにレイオスがアイデアルソングを歌いながら歩み寄ってきた。これ以上、剣魔が苦しむことのないように。
「かつてのお前の救いをオレは必要としていない。だがそれがお前を救わない理由にはならないぜ。さあ、キャリコ……後はもう苦しまないように」
「わかっている。さようなら、だ」
そう告げてキャリコがコンバージェンスと解放錬成を重ねたトリガーエンドをマトリカリアから撃った時――剣魔の核が砕けた。
●
戦が、終わった。
白亜の床に横たわる剣魔にリューが真っ先に駆け寄る。彼は迷うことなく剣魔の手をとった。冷たい手にぬくもりが伝わる。
「なあ、邪神翼を切り離せないか? お前を救いたいんだ」
『ありがとう、優しい人。……でも邪神翼は私と対の存在。そのどちらかが力を失えば、もう片方も消えるのです。……私は攻撃するつもりはなかったのですが……怨念達の真意に気づいてあげられなくて……皆さん、ごめんなさい……』
「そうか……なら、最期まで見けるよ。お前が寂しくないように」
リューが剣魔を労わる一方、Gacruxが剣魔の傍で腕を組み、見下ろした。彼の瞳には強い怒りが宿っている。
「それならお前が消える前に聞かせてもらう」
『な、にを……?』
「彼の英霊がお前の出現以後の異界で事実を捻じ曲げられ、歪虚とされた。想い出が大切とは笑わせる。彼女の想いも誇りも泥に塗り替え、お前らは悪びれもしない! 貴様らが生成した異界の歪虚は実体のない虚像なのか?」
Gacruxが以前侵入した異界で起きた異常に思うことがあるのだろう。フリーデが斧を強く握りしめ、彼を守るように隣に立つ。剣魔は逡巡したのち、口を開いた。
『それは邪神によるものではありません。……おそらく、怨念かそれとも何者かによる幻想……』
「あんなものを、ヒトが望んだと言うのか……」
受け入れがたい、しかし薄々は感づいていた事実。
異界は邪神側ではなく、そこに取り込まれた人々の歪んだ心に依存しているのだと。
「そうか。ならばもうひとつ。負のマテリアルに侵された魂は消滅後、どこへ向かう。貴様が邪神の末端なら答えろ!!」
『……それはわかりません……主人格以外の私は幾度も殺されましたが、その行く末までは……ごめんなさい』
そう。剣魔は生者が魂の行く先を宗教や伝承の物語でしか知らないように、死したことのない彼女もその行方を知らないのだ。素直に謝る剣魔にGacruxは怒気を抜かれたのか、息を深く吐くと立ち上がり、背を向けた。
「そうか、それならもうお前に用はない。俺は英霊にしろ心ある歪虚にしろ、その遺志や誇りが穢されない世界を望む。お前と怨念が消えることで、捏造の危険性が減るのならそれで良い」
『……ごめんなさい』
尋問が終わったのを見計らうと、神楽は頭を掻きながら剣魔の傍で座り込んだ。
「えーと。今までの話はともかくとして。お前は寄り添った彼等から影響を受けたっす。俺らは彼等から影響を受けたお前から影響を受けたっす。お前に影響を受けた俺らは誰かに影響を与え、その誰かもまた違う誰かに影響を与えるっす」
『影響……』
「命が続く限りこうやってお前が寄り添った彼らは世界に影響を与え続けるっす。彼らは既に世界の一部っす。だから忘れられても消えることはないっす」
『でも……』
「それでも忘れられることが悲しいなら、俺達が彼らの想いを記録し後世に伝えるっす。これで世界が続く限り彼らが忘れられる事もないから安心するっす」
そこに紫苑が歩み出て、告げる。
「安心しろ。俺が帝国の建国と繁栄のために多大な犠牲が払われたと真実の記録を石碑で残すよう提案する。事実の周知が大事なんだ。歴史は『勝者の日記』であっては意味がない」
その後方で佇むキャリコが頷いた。
「ああ。石碑は良い案だ。各地の大通りなど誰もが通る場所に慰霊を兼ねて設置すれば何十年、手入れ次第では百年以上ゆうに伝えられるだろう。それに職人が打ち直すことで永遠にその歴史が広まり……伝わっていく」
彼等の言葉に何度も頷いた炎は、剣魔の両手を己が手で包み込むと強く誓った。
「だがまずはあらゆる脅威から世界を守らないとな。俺は君に約束する! 弱者の悲しみを生まない世界を作ると!」
『ありがとう、やさしい人たち……これで怨念達も本当の意味で救われる。私の役目も……これで終わる……』
そこにフィロが骨格の一部をむき出しにした痛々しい姿で歩み寄った。オートマトンならではの重い身体を、応急処置に携わるウナギパイが支えている。
「大丈夫か、なんだったら俺が代わりに伝えても……」
「いいえ、私が伝えます……ご厚意に感謝いたします」
深い傷を負ったままのフィロは剣魔の傍で膝を折ると、ぎこちなく手を伸ばした。
「今度は、共に人を守りましょう……お休みなさい、クリピクロウズ様」
フィロが剣魔の頬を伝う涙を拭う。すると剣魔の顔が微笑んだように見えて――そのまま意識を失った。身体に異常がないことから、すぐに消失するわけではないようだ。
レイオスが剣魔の額をそっと撫でた。
「悪いな……こんな救済しか用意できなくて……」
――その声が響くや、優しすぎた歪虚に縋った怨念達が光となって消えていく。
その姿を見送りながらアルヴィンが歌う。朴訥な優しき愛の歌を。その声は相変わらず朗らかで、心の痛みを取り去るようだ。
アーサーが呟いた。「救済はお前自身の願いだったんだな。歪虚のくせにとんでもなく不器用で優しい女神様」と。
ダイアモンドダストに似た魂の煌きをいつまでもハンター達は見守っていた。
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ことね桃 | 25人 |
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