ゲスト
(ka0000)
【落葉】




……わかっていたんだ。私では、彼女を救う事はできないんだって。
終わってしまったものは、誰が何を願っても、もう終わってしまっているのだから。
だとしても……彼女と話せてよかった。決着は、誰にでも必要なんだ。
妄腕亡兵:アイゼンハンダー(kz0109)
更新情報(12月25日更新)
12月25日、グランドシナリオ「リフレインが叫んでる」のリプレイが公開!
ラズビルナムに出現した邪神翼「リヴァイアサン」、そして不滅の剣魔クリピクロウズとの決着をご確認ください。
このグランドシナリオの結果を受けた、エピローグノベルも更新しました!
引き続き、【落葉】シナリオに参加で、「絶火特別支給チケット」を確定で入手可能!
【落葉】ハントシステムと合わせて集めることで、絶火シリーズの武装を入手できます!
詳細は特別報酬ページからご確認ください!
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▼【落葉】グランドシナリオ「リフレインが叫んでる」(12/5?12/25)▼
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【落葉】ストーリーノベル「さよならコスモナウト」(12月25日公開)
●
視界いっぱいに広がる満点の星空に、クリピクロウズは命の輝きを見た。
今こうして輝いている光は、「今」の光ではない。
遠い遠いどこかで瞬いた命は、長い年月を超え、光の速さで誰かの瞳に宿るのだ。
「ああ……きれい……」
その在り方を尊いと感じた。
崩れかけた掌を伸ばしてみる。どこにも届かぬはずの指先を、確かに握る誰かがいた。
「クリピクロウズ殿」
アイゼンハンダー(kz0109)と呼ばれた歪虚だ。
「リヴァイアサンは滅びました。あなたはもう――自由です」
「そう……ですか」
身体を操っていた怨念は消え去った。それはリヴァイアサンの中に生まれた「世界」が消えたことも意味する。
長らく守ろうとしたものに裏切られ、結局守り切ることもできない。それが旅路の答えだった。
「すまない……」
「どうして……謝るの?」
「私は……アイゼンハンダーは、あなたを救えない」
冷たい指先が、クリピクロウズの掌を握る。
(ああ――そうだった)
忘れていた。一番はじめに、私(リヴァイアサン)が感じた想い。
ごめんなさい。
ごめんなさい。助けてあげられなくて、ごめんなさい――。
守ってあげたかった。救ってあげたかった。なのに自分には……力がなくて。
長い前髪に覆われた瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
その一粒一粒に、誰かの思い出や後悔が滲んでいた。
「そんな顔しないで。私は、哀しくて泣いているわけではないの」
「え……?」
「理解した。そして、納得もした。ほんのちょっぴり悔しいけれど……でも、満足しています。だって私は……頑張れるだけ、頑張れたから」
邪神翼と通じ合うクリピクロウズの身体も、塵となって消えていく。
自分はここまでだ。抜本的な命の答え、探し求めた未来には辿り着けない。
でも、それでいい。“途中で倒れてしまう者”すら許容するのなら、この末期も認めなくては筋が通らない。
だからこれまでの誰かがそうしてきたように。生きているモノに、精一杯の呪いをかけよう。
「私を忘れないと言ってくれて、ありがとう。忘れてしまったモノを、もう捨てないと言ってくれて、ありがとう」
アイゼンハンダーに抱きかかえられながら、クリピクロウズは優しく微笑む。
「――“あなた達を、信じます”」
ハンターひとりひとりの顔を見て、最期の記憶に焼き付ける。
彼らを許さない。自分を終わらせたモノを、自分たちの結論を折り砕いたモノを許さない。
だから信じるのだ。彼らがまったく新しい命の答えに辿り着けることを。
「あなたたちの存在は、他の星に比べても特別です。だから、もしかしたら……お父様にも届くかもしれない」
「お父様……?」
「ファナティックブラッド……。彼は、“悪”ではないのよ。すべての世界を……救おうとしているのだから」
もしも彼がただすべてを破壊するだけの存在だったなら、自分(リヴァイアサン)も産まれなかった。
「あなたたちなら……彼とは別の、命の……答えを……」
その言葉を最後に、クリピクロウズの身体はマテリアルに還った。
光り輝く塵は風に乗って舞い上がり、夜空と一つになって消えた。
●
「……というわけで。ラズビルナムの汚染源だった邪神翼は排除されたので、これからは通常通りの方法でラズビルナムを浄化できるそうです」
事の顛末を報告し、カッテ・ウランゲル(kz0033)は小さく息を吐く。
「大きな問題になる前に処理できてよかった、というべきでしょうか」
「フ……そうだな。流石は我が軍、そして我がハンターだ」
「ハンターや精霊や錬金術師組合やエルフハイムは陛下のものではない気がしますが、私も概ね同意です」
ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)はグラスに注がれた蒸留酒に唇を付ける。
「結局、詳しい事は分からずじまいか」
「ですが、国内の危険地域排除はこれで一気に加速しますから、地盤は固まります。残すは国是である暴食王の撃破と、邪神という驚異の殲滅ですね」
「地固めと言えば、庶民議員の選出は終えているぞ。向こうが応じるかはまた別の話だが」
引き出しから取り出した書類には、庶民議員に選抜されたエルフハイム長老のユレイテル・エルフハイム(kz0085)や、旧モンドシャッテ皇族の血を引くクリームヒルト・モンドシャッテ(kz0054)らの名が記されている。
「予想はしていましたが思い切りましたね」
「シグルドは騎士議会側なんだ。クリームヒルトが庶民議会側にいればむしろ拮抗して安心だろう」
「お考えはわかりますが……って、姉上。さすがにこれは冒険しすぎではありませんか?」
カッテのポーカーフェイスが崩れた。姉に向かって突き付けた書類には、ある男の名が記されていた。
「ヒルデブラント・ウランゲル。誰もが良く知る獅子王様だ。条件は満たしているぞ」
「彼は今やヴルツァライヒの王です。犯罪者の政治起用は……………………いや、問題ないですね…………」
「そうだ、問題ない。騎士議会のゼナイドやシグルドもそうだからな。首輪がつけばいかようにも国に仕えられるのが帝国のいいところだ」
酒を呷り、溶けた氷をグラスの中で回しながら笑う。
「あちらがそのつもりなら上等だ。表舞台に上がってきてもらおうではないか。そして合法的に私の手で叩き潰すのだ」
「……姉上、実はちょっと腹を立ててますね?」
「このヴィルヘルミナ・ウランゲルが腹を立てるわけがなかろう。皇帝とは最強の存在であるが故に、あのようなどこの馬の骨とも知れぬ輩程度に心をかき乱されたりはしない」
その「どこの馬の骨とも知れぬ野郎」から生まれた姉弟ですよ、姉上。……とは言わなかった。
「それに、奴の後ろには誰かがいる」
「確かに。獅子王の好むやり口ではありませんからね」
「そいつについても探りを入れてやる。フフフ、面白くなってきたぞ」
グラスにおかわりを注ぐ姉を見ながら、カッテは露骨に溜息をついた。
「そういえば、ラズビルナムの解体処理についてですが」
「ああ。精霊やハンターからの要望には十分応えてやってくれ。彼らはよくやってくれたからね」
「そうですね。では、そのように」
●
ラズビルナムで起きた一連の事件は、帝国各地に少なくない衝撃を与えた。
邪神の一部が埋没していたのだから当然ではあるが、そこに刻まれた敗者の歴史は帝国にとっても無視できないものである。
あまりにも巨大かつ重度の汚染であった故に、完全な浄化が完了するまではまだ時間がかかるだろうが、研究者たちが入れる程度には緩和されたこの森からは、古代文明の遺構が次々に発掘された。
「掘れども掘れども骨、骨、骨と来た。いったいどんだけこの地で亜人が死んでいるのやら……」
「邪神翼ってのが起動するより前から、ここには様々な命があったんだろう?」
調査拠点にて報告書を読み込むクリケット(kz0093)にローザリンデ(kz0269)が問う。
「ああ。あんたら精霊が邪神翼の上で暮らしてた時期もあるんじゃないか?」
「わからないものだねェ……いや、そもそもあのクリピクロウズって歪虚は、最初は邪悪な存在じゃあなかったのかもしれないね」
「遺跡を見た感じ、クリピクロウズは信仰の対象だったっぽいのよさ。まあ、アレの本当の名前は“リヴァイアサン”だったみたいだけど」
ブリジッタ・ビットマン(kz0119)が差し出した写真には、巨大な塔の前に跪く人々の壁画が描かれている。
クリピクロウズというのはヒトがつけた名前だ。邪神翼の中枢体だったのなら、正しき名は「リヴァイアサン」ということになる。
「ん……? 祈っているのはエルフ族か?」
「人間が侵攻する以前、この亜人だらけの土地で一番栄えてたのはエルフなのよね。そもそも、この森自体エルフハイムとの類似性もあるから……」
「そうか。この辺一帯全部が“エルフハイム”だったのが、拓かれて別れたってことか?」
ゾンネンシュトラール帝国が出来上がる前、この地に存在した無数の亜人域。その中で特に栄えた種族はエルフだ。
「そういう意味じゃアレも“オルクス”みたいなもんだったのよ。いや?、調べると奥が深いのよね」
しきりに頷きながら、ブリジッタは続ける。
「ハンターの言ってたやつだけど、筋肉ムキムキの絶火騎士ねーちゃんが岩とか運んでくれたから、もう準備はできたのよね」
「そうかい。それじゃあ、この地の再生を祈るとしようか」
ラズビルナム地上に浮かび上がった神殿。その近く、天に聳えた邪神翼の跡地に、遺跡の残骸を再利用した石碑が作られた。
浄化の力を森全体に伝えるため、そしてこの地で朽ちていった多くの報われぬ魂を弔うための要石を置くのに、この場所が最適だったのだ。
「ぐりりん、準備はできてるのよ?!」
「こっちもいつでも大丈夫だよ!」
「ありがとうございます。ブリジッタ殿、ローザリンデ殿」
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)は胸に手を当て、一歩前へ。
精霊やエルフハイムの巫女、錬金術師組合の術師たちの中心で、グリューエリンは祈りの歌を捧げる。
これは慰霊碑だ。手段を間違えた、しかし正しい願いのために空を目指した誰かへ。
或いはこの地で消えぬ苦痛と憎悪に喘いだ、誰かたちへ。
「知ってるかデカブツ? 太陽が出ている間は、こまい星の輝きは見えないのよさ」
サウンドアンカーを起動する魔導アーマーの上で、ブリジッタとクリケットは並んで空を見上げる。
「でも、光は消えてなくなったわけじゃない。太陽に負けてしまったとしても、いつもそこにあるのよ」
「帝国という太陽に隠されてしまった、たくさんの小さな光、か」
「陽の光さえ届かない暗闇の中で、クリピちゃんが見つけた希望だったのかもね」
ひとりぼっちの旅人は、何かを救いたいと願って空を飛んだ。
それは、陽が落ちなければ見つけられないような、今にも消えそうな微かな光。
この石碑があれば、人はまた夜を思い出すだろう。
そして夜空に浮かんだ光を数えて、“美しい”と感じることさえ出来るかもしれない。
「――あばよ、うっかり邪神翼! ゆっくり休んで、いい夢見るのよさ!」
空に投げた声は、すうっと蒼さに紛れて消えた。
こうして最後の四霊剣に纏わる事件は、静かに終わりを迎えたのだった。
●
「神様。どうか、我らをお救いください」
生まれたばかりの心は、そう願われたからそう在った。
でも、それだけじゃない。
「ありがとうございます、神様」
誰かに必要とされて。感謝されて。初めて自分の輪郭を知った。
「私の方こそ、ありがとう」
それは神様の心に最初に浮かんだ言葉。
「ありがとう、救わせてくれて。ありがとう……傍に居てくれて」
宇宙(ソラ)はとても暗くて、冷たくて寂しかった。
傷ついた手と手を取り合って、その温かさと痛みを知った。
弱きヒトには自分が必要で。
自分には……弱きヒトが必要だ。
救うべきモノを持たねば、神は存在できない。
例え形が変わっても。願いが変わっても。数が変わっても、想いは変わらない。
「ありがとう……みんなのことが、大好きだよ」
狂った翼は空を見た。
満天の星は時を超え、世界を超え、いつまでも優しく夜を照らしていた。

クリピクロウズ

アイゼンハンダー
今こうして輝いている光は、「今」の光ではない。
遠い遠いどこかで瞬いた命は、長い年月を超え、光の速さで誰かの瞳に宿るのだ。
「ああ……きれい……」
その在り方を尊いと感じた。
崩れかけた掌を伸ばしてみる。どこにも届かぬはずの指先を、確かに握る誰かがいた。
「クリピクロウズ殿」
アイゼンハンダー(kz0109)と呼ばれた歪虚だ。
「リヴァイアサンは滅びました。あなたはもう――自由です」
「そう……ですか」
身体を操っていた怨念は消え去った。それはリヴァイアサンの中に生まれた「世界」が消えたことも意味する。
長らく守ろうとしたものに裏切られ、結局守り切ることもできない。それが旅路の答えだった。
「すまない……」
「どうして……謝るの?」
「私は……アイゼンハンダーは、あなたを救えない」
冷たい指先が、クリピクロウズの掌を握る。
(ああ――そうだった)
忘れていた。一番はじめに、私(リヴァイアサン)が感じた想い。
ごめんなさい。
ごめんなさい。助けてあげられなくて、ごめんなさい――。
守ってあげたかった。救ってあげたかった。なのに自分には……力がなくて。
長い前髪に覆われた瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
その一粒一粒に、誰かの思い出や後悔が滲んでいた。
「そんな顔しないで。私は、哀しくて泣いているわけではないの」
「え……?」
「理解した。そして、納得もした。ほんのちょっぴり悔しいけれど……でも、満足しています。だって私は……頑張れるだけ、頑張れたから」
邪神翼と通じ合うクリピクロウズの身体も、塵となって消えていく。
自分はここまでだ。抜本的な命の答え、探し求めた未来には辿り着けない。
でも、それでいい。“途中で倒れてしまう者”すら許容するのなら、この末期も認めなくては筋が通らない。
だからこれまでの誰かがそうしてきたように。生きているモノに、精一杯の呪いをかけよう。
「私を忘れないと言ってくれて、ありがとう。忘れてしまったモノを、もう捨てないと言ってくれて、ありがとう」
アイゼンハンダーに抱きかかえられながら、クリピクロウズは優しく微笑む。
「――“あなた達を、信じます”」
ハンターひとりひとりの顔を見て、最期の記憶に焼き付ける。
彼らを許さない。自分を終わらせたモノを、自分たちの結論を折り砕いたモノを許さない。
だから信じるのだ。彼らがまったく新しい命の答えに辿り着けることを。
「あなたたちの存在は、他の星に比べても特別です。だから、もしかしたら……お父様にも届くかもしれない」
「お父様……?」
「ファナティックブラッド……。彼は、“悪”ではないのよ。すべての世界を……救おうとしているのだから」
もしも彼がただすべてを破壊するだけの存在だったなら、自分(リヴァイアサン)も産まれなかった。
「あなたたちなら……彼とは別の、命の……答えを……」
その言葉を最後に、クリピクロウズの身体はマテリアルに還った。
光り輝く塵は風に乗って舞い上がり、夜空と一つになって消えた。
●

カッテ・ウランゲル

ヴィルヘルミナ・ウランゲル

ユレイテル・エルフハイム

クリームヒルト・モンドシャッテ
事の顛末を報告し、カッテ・ウランゲル(kz0033)は小さく息を吐く。
「大きな問題になる前に処理できてよかった、というべきでしょうか」
「フ……そうだな。流石は我が軍、そして我がハンターだ」
「ハンターや精霊や錬金術師組合やエルフハイムは陛下のものではない気がしますが、私も概ね同意です」
ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)はグラスに注がれた蒸留酒に唇を付ける。
「結局、詳しい事は分からずじまいか」
「ですが、国内の危険地域排除はこれで一気に加速しますから、地盤は固まります。残すは国是である暴食王の撃破と、邪神という驚異の殲滅ですね」
「地固めと言えば、庶民議員の選出は終えているぞ。向こうが応じるかはまた別の話だが」
引き出しから取り出した書類には、庶民議員に選抜されたエルフハイム長老のユレイテル・エルフハイム(kz0085)や、旧モンドシャッテ皇族の血を引くクリームヒルト・モンドシャッテ(kz0054)らの名が記されている。
「予想はしていましたが思い切りましたね」
「シグルドは騎士議会側なんだ。クリームヒルトが庶民議会側にいればむしろ拮抗して安心だろう」
「お考えはわかりますが……って、姉上。さすがにこれは冒険しすぎではありませんか?」
カッテのポーカーフェイスが崩れた。姉に向かって突き付けた書類には、ある男の名が記されていた。
「ヒルデブラント・ウランゲル。誰もが良く知る獅子王様だ。条件は満たしているぞ」
「彼は今やヴルツァライヒの王です。犯罪者の政治起用は……………………いや、問題ないですね…………」
「そうだ、問題ない。騎士議会のゼナイドやシグルドもそうだからな。首輪がつけばいかようにも国に仕えられるのが帝国のいいところだ」
酒を呷り、溶けた氷をグラスの中で回しながら笑う。
「あちらがそのつもりなら上等だ。表舞台に上がってきてもらおうではないか。そして合法的に私の手で叩き潰すのだ」
「……姉上、実はちょっと腹を立ててますね?」
「このヴィルヘルミナ・ウランゲルが腹を立てるわけがなかろう。皇帝とは最強の存在であるが故に、あのようなどこの馬の骨とも知れぬ輩程度に心をかき乱されたりはしない」
その「どこの馬の骨とも知れぬ野郎」から生まれた姉弟ですよ、姉上。……とは言わなかった。
「それに、奴の後ろには誰かがいる」
「確かに。獅子王の好むやり口ではありませんからね」
「そいつについても探りを入れてやる。フフフ、面白くなってきたぞ」
グラスにおかわりを注ぐ姉を見ながら、カッテは露骨に溜息をついた。
「そういえば、ラズビルナムの解体処理についてですが」
「ああ。精霊やハンターからの要望には十分応えてやってくれ。彼らはよくやってくれたからね」
「そうですね。では、そのように」
●

クリケット

ローザリンデ

ブリジッタ・ビットマン
邪神の一部が埋没していたのだから当然ではあるが、そこに刻まれた敗者の歴史は帝国にとっても無視できないものである。
あまりにも巨大かつ重度の汚染であった故に、完全な浄化が完了するまではまだ時間がかかるだろうが、研究者たちが入れる程度には緩和されたこの森からは、古代文明の遺構が次々に発掘された。
「掘れども掘れども骨、骨、骨と来た。いったいどんだけこの地で亜人が死んでいるのやら……」
「邪神翼ってのが起動するより前から、ここには様々な命があったんだろう?」
調査拠点にて報告書を読み込むクリケット(kz0093)にローザリンデ(kz0269)が問う。
「ああ。あんたら精霊が邪神翼の上で暮らしてた時期もあるんじゃないか?」
「わからないものだねェ……いや、そもそもあのクリピクロウズって歪虚は、最初は邪悪な存在じゃあなかったのかもしれないね」
「遺跡を見た感じ、クリピクロウズは信仰の対象だったっぽいのよさ。まあ、アレの本当の名前は“リヴァイアサン”だったみたいだけど」
ブリジッタ・ビットマン(kz0119)が差し出した写真には、巨大な塔の前に跪く人々の壁画が描かれている。
クリピクロウズというのはヒトがつけた名前だ。邪神翼の中枢体だったのなら、正しき名は「リヴァイアサン」ということになる。
「ん……? 祈っているのはエルフ族か?」
「人間が侵攻する以前、この亜人だらけの土地で一番栄えてたのはエルフなのよね。そもそも、この森自体エルフハイムとの類似性もあるから……」
「そうか。この辺一帯全部が“エルフハイム”だったのが、拓かれて別れたってことか?」
ゾンネンシュトラール帝国が出来上がる前、この地に存在した無数の亜人域。その中で特に栄えた種族はエルフだ。
「そういう意味じゃアレも“オルクス”みたいなもんだったのよ。いや?、調べると奥が深いのよね」
しきりに頷きながら、ブリジッタは続ける。
「ハンターの言ってたやつだけど、筋肉ムキムキの絶火騎士ねーちゃんが岩とか運んでくれたから、もう準備はできたのよね」
「そうかい。それじゃあ、この地の再生を祈るとしようか」
ラズビルナム地上に浮かび上がった神殿。その近く、天に聳えた邪神翼の跡地に、遺跡の残骸を再利用した石碑が作られた。
浄化の力を森全体に伝えるため、そしてこの地で朽ちていった多くの報われぬ魂を弔うための要石を置くのに、この場所が最適だったのだ。
「ぐりりん、準備はできてるのよ?!」

グリューエリン・ヴァルファー
「ありがとうございます。ブリジッタ殿、ローザリンデ殿」
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)は胸に手を当て、一歩前へ。
精霊やエルフハイムの巫女、錬金術師組合の術師たちの中心で、グリューエリンは祈りの歌を捧げる。
これは慰霊碑だ。手段を間違えた、しかし正しい願いのために空を目指した誰かへ。
或いはこの地で消えぬ苦痛と憎悪に喘いだ、誰かたちへ。
「知ってるかデカブツ? 太陽が出ている間は、こまい星の輝きは見えないのよさ」
サウンドアンカーを起動する魔導アーマーの上で、ブリジッタとクリケットは並んで空を見上げる。
「でも、光は消えてなくなったわけじゃない。太陽に負けてしまったとしても、いつもそこにあるのよ」
「帝国という太陽に隠されてしまった、たくさんの小さな光、か」
「陽の光さえ届かない暗闇の中で、クリピちゃんが見つけた希望だったのかもね」
ひとりぼっちの旅人は、何かを救いたいと願って空を飛んだ。
それは、陽が落ちなければ見つけられないような、今にも消えそうな微かな光。
この石碑があれば、人はまた夜を思い出すだろう。
そして夜空に浮かんだ光を数えて、“美しい”と感じることさえ出来るかもしれない。
「――あばよ、うっかり邪神翼! ゆっくり休んで、いい夢見るのよさ!」
空に投げた声は、すうっと蒼さに紛れて消えた。
こうして最後の四霊剣に纏わる事件は、静かに終わりを迎えたのだった。
●
「神様。どうか、我らをお救いください」
生まれたばかりの心は、そう願われたからそう在った。
でも、それだけじゃない。
「ありがとうございます、神様」
誰かに必要とされて。感謝されて。初めて自分の輪郭を知った。
「私の方こそ、ありがとう」
それは神様の心に最初に浮かんだ言葉。
「ありがとう、救わせてくれて。ありがとう……傍に居てくれて」
宇宙(ソラ)はとても暗くて、冷たくて寂しかった。
傷ついた手と手を取り合って、その温かさと痛みを知った。
弱きヒトには自分が必要で。
自分には……弱きヒトが必要だ。
救うべきモノを持たねば、神は存在できない。
例え形が変わっても。願いが変わっても。数が変わっても、想いは変わらない。
「ありがとう……みんなのことが、大好きだよ」
狂った翼は空を見た。
満天の星は時を超え、世界を超え、いつまでも優しく夜を照らしていた。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)