ゲスト
(ka0000)
【神森】フォーゲット・ミー・ノット「不変の剣妃討伐」 リプレイ


作戦2:不変の剣妃討伐 リプレイ
- アリア・セリウス(ka6424)
- キヅカ・リク(ka0038)
- インスレーター(ka0038unit001)
- ユナイテル・キングスコート(ka3458)
- デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)
- シガレット=ウナギパイ(ka2884)
- ザレム・アズール(ka0878)
- シュネー・シュヴァルツ(ka0352)
- リリティア・オルベール(ka3054)
- フローラ・ソーウェル(ka3590)
- イェルバート(ka1772)
- メトロノーム・ソングライト(ka1267)
- オルクス(kz0097)
- 近衛 惣助(ka0510)
- カナタ・ハテナ(ka2130)
- 紅薔薇(ka4766)
- ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)
- ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)
- パピルサグX(ka4108unit001)
- ヴァイス(ka0364)
- グレン(ka0364unit001)
- アニス・エリダヌス(ka2491)
- シリウス(ka2491unit002)
- 七夜・真夕(ka3977)
- フィルメリア・クリスティア(ka3380)
- ソフィア =リリィホルム(ka2383)
- リューリ・ハルマ(ka0502)
- レイノ(ka0502unit001)
- 八島 陽(ka1442)
- ミリア・エインズワース(ka1287)
- ざんぎえふ(ka1287unit001)
- 花厳 刹那(ka3984)
- オウカ・レンヴォルト(ka0301)
- タングラム(kz0016)
- 紫月・海斗(ka0788)
●
――神なる森は、白く停滞した時の中にあった。
浄化術で作られた道の上を走るハンターの視界に広がるのは、痛みのない世界だ。
草木も、虫も鳥も、あらゆるものがまるで最初からそうであったかのように凍てついている。
この森に初めて入る者であっても、その景色には違和感を覚えずにはいられない。
「まるで氷の幻想の世界ね。けれど、これは死の風景。明日を喪わせる破滅の悪夢よ」
イェジドの背に跨がり、アリア・セリウス(ka6424)は呟いた。
“死”とは、ある種の美意識に通じる概念だ。
だから時にヒトはその死を切り取って飾り付けることさえある。
死は美しく、停滞は甘く、破滅は心地良い――。
森の聖域、神霊樹へと続く道に招くように、あるいは拒むかのように無数の歪虚が立ちはだかる。
「浄化術の力も長くは持たない。森の外じゃ皆が戦ってる……これは短期決戦だ! 一気にケリをつけるよ!」
キヅカ・リク(ka0038)の言葉に応じ、ハンターらは走り出す。
この戦いは時間との勝負だ。事を素早く済まさねば、オルクスを討伐しても手遅れになってしまう。
ハンターはチームを大きく4つに分割していた。
その中でも特に露払い、道を切り開く事に特化したD班のハンターらが前に出る。
「これは人類史に残る戦いのひとつに数えられる事でしょう。全力で挑みます……いざ」
抜刀し、宝剣を片手に馬を加速させるユナイテル・キングスコート(ka3458)。
道中に立ちはだかる巨躯の血の騎士へ素早く刃を打ち付ける。
マテリアルを込めた一撃は騎士の脇腹を粉砕したが、それでは撃破に至らない。
「チッ、こいつら一匹一匹がタフらしいなァ。……まあ、こっちも頭数は揃ってンだ」
神罰銃で血の騎士を攻撃するシガレット=ウナギパイ(ka2884)に続きデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)も魔導銃を放つ。
「ブッハハハ! どうやら俺様のファンと見たが、今はサインを書いている暇がないんでな。出待ちも程ほどにしろ!」
「それにしても、ホリィが森に一緒に来ていないのは残念だな」
ザレム・アズール(ka0878)はホリィ――浄化の器を護衛するつもりだった。
しかし、器はエルフハイムからはるか遠く、他の巫女隊と共に待機している。
「まあ、狙われる心配がないのはいいことか」
気持ちを切り替え、未だ友軍の到達していないずっと遠くに並ぶ血の騎士へ狙いを定めた。
彼の乗るデュミナスの4連カノン砲ならば、だいぶ先にいる敵を吹き飛ばすことも可能だ。
頭上をザレムの砲弾が吹っ飛んでいく中、バイクに跨り騎士の群れをかき分けるように進むシュネー・シュヴァルツ(ka0352)。それと並ぶようにリリティア・オルベール(ka3054)がバイクで疾走する。
「次から次へと邪魔ですね。道は狭いのですから、少しは譲ってほしいものです。まあ、譲らないというのなら――斬り捨てるだけですが」
わずかに頬をゆがませ、リリティアは蒼機剣「N=Fシグニス」を振るう。
騎乗状態で操るにはシグニスは持ってこいで、光刃の軌跡を残し血の騎士を深く斬りつけた。
「さあ、道を切り開きますよ!」
「はい……行きましょう」
シュネーも負けじと剣を振るい、バイクを走らせる。
二人の疾影士が敵の注意を引くと、背後からの仲間の攻撃も当てやすい寸法だ。
しかしそんな二人の前に無数の腕が伸びる。半透明のそれはこの森で命を落としてきた亡霊らの腕だ。
リリティアはこれをシグニスの光刃で切り裂こうとするが、どうやらシグニスでは切断できない。
それならそれでとバイクをスピンさせ、自前の抵抗力で腕を引きちぎっていく。
「この腕、回避能力が高くても躱しきるのは困難ですね」
「はい……前にも見ましたが、避けようと思って避けられるものではないようです……」
そんなシュネーの行く先に立ちはだかる亡霊をフローラ・ソーウェル(ka3590)の放つ魔法が撃ち抜く。
黒い魔法の弾丸は亡霊の腹を次々に食い破り、その姿を霧散させる。
「魔法しか通用しない相手ですが、その分打たれ弱いようですね」
「行動阻害は厄介だからね……悪いけど、撃ち落とさせてもらうよ」
イェルバート(ka1772)は魔導ガントレッドを正面に伸ばし、目を細める。
亡霊たちはみな少女の姿を取っている。それが過去に犠牲になった巫女たちであることをイェルバートは知っていた。
悲運の最期を遂げた少女たちは、かすかに笑い――あるいはすすり泣くようにしてハンターらに縋りついてくるのだ。
「……ごめんよ」
魔法陣から放たれた三つの光の矢が次々に亡霊を撃ち抜いていく。
「多くの命が失われたこと……それを嘆き悔やむのは後です。今はただ、その死を……その生を、無意味なものにしないために」
「わかってるよ。その為にも――絶対に、負けたくないんだ」
イェルバートの力強い言葉にフローラはわずかに頬を緩ませ、そして再び亡霊へとシャドウブリットを放った。
「突破口を開きます……今です」
メトロノーム・ソングライト(ka1267)が青い火炎弾を放ち、それが爆発して騎士を吹き飛ばすと、その道をこじ開ける様にシュネーとリリティアが突撃する。
●
爆炎を突き抜けた先には広い空間が広がっていた。
神樹を抱く浅く広い湖は凍り付き、今は堅い足場を残すのみだ。
マテリアルを失った木々の葉は凍りながらはらはらと舞い落ち、まるで雪のように降り積もっている。
その中心で、不変の剣妃は狩人の来訪を待ち受けていた。
顔を覆っていた両手を外すと、固まった血の仮面が露わになる。そして吸血鬼は腕を振るい、地面から亡霊と騎士を召喚した。
これらの歪虚はオルクスの分体。本体を倒さぬ限り、何度でも復活するだろう。
「B班は左翼、C班は右翼から迂回! A班はこのまま正面から突っ込むよ!」
キヅカはコクピット内で叫びながら巨大な剣妃の姿に照準を合わせる。
魔導型デュミナス、「インスレーター」のマテリアルライフルから放たれた光弾は真っ直ぐにオルクス本体を狙う。
しかし、その攻撃はオルクスの前に出現した雪の結晶のような血の盾によって防がれてしまった。
「血の障壁……そうか、血の槍の応用技……前から使ってたな」
オルクスは反撃と言わんばかりに下半身の無数の蛇頭を広げ、その口の中から太い血の槍をせり出す。
そしてそれを一気に放つと、まるで雨のように血の槍がハンターらへと降り注いだ。
攻撃を前に、盾を構えて自ら前に出たのは近衛 惣助(ka0510)だ。
愛機、魔導型ドミニオン「真改」は文字通り味方の盾となり攻撃を受け、コクピットにも衝撃が走る。
「近衛さん、大丈夫!?」
「ああ……強化したCAMなら十分耐えられる。キヅカ、どうする? 前に出るか?」
「ここが一番キツいけど、敵の攻撃がA班に集中すれば残りのチームが動ける。今は前に出よう!」
血の槍を躱し、道中に立ちはだかる血の騎士を祢々切丸で斬りつけるインスレーター。真改はガトリングガンでその前進を支援する。
「ちとまだ距離が遠いが、壁を建てる! 役立ててくれ!」
紅薔薇(ka4766)がその肩に乗る刻令ゴーレム「白」は素早く防壁を作り出し、カナタ・ハテナ(ka2130)が安全に進めるルートを作り出す。
「この距離……CAMの銃撃射程件からでも攻撃可能な血の槍とは恐れ入るのう。じゃが、カナタが無事な限りどんなダメージも回復するのじゃッ!」
紅薔薇やカナタを守りながら前進する惣助の機体は必然的にダメージを大量に受ける。
だが、カナタは安全域からフルリカバリーで一気に回復できる。これで惣助はいくら攻撃を受けても倒れる気配がなく、着々と歩みを進めていた。
遊撃気味に攻撃をかわしながら動くキヅカだったが、そこへ集まる亡霊たちが無数の腕を伸ばしてくる。
大きく跳躍するように躱すインスレーターを追尾するように伸び続ける腕。それを青い雷光を纏った矢が貫いた。
「あんまり無駄撃ちはしたくないけど……亡霊相手じゃCAMは不利みたいね、キヅカ?」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)はイェジドの「オリーヴェ」に跨がり、血の騎士が振り下ろす剣を掻い潜りながら再び矢を放つ。
雷光を纏った一撃は亡霊の肉体を吹き飛ばす。細々とした亡霊の撃破には、ユーリの方が向いている。
再び血の槍を放とうと構えるオルクス、その腕に遠距離からの銃弾が着弾し、青い血を撒き散らす。
「意識外からの攻撃ならば障壁では防げないらしいな」
ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)は後方、魔導型デュミナスの「パピルザクX」のコクピットで呟く。
既に先の攻撃で位置は認識されてしまったが、オルクスの血の槍は命中精度が低い。
だから束ねて放つのだが、これだけ離れてしまえば躱す事は十分に可能だ。
「もう戻ることはない故郷と思っていたが……やはり放ってはおけんな」
スラスターを起動し、降り注ぐ槍をくぐり抜けながら再びスナイパーライフルの引き金を引く。
今度は障壁で防がれてしまうが、これでいい。
「攻撃を続ける事に意味がある……そうだったな、キヅカ・リク」
「よし……オルクスの注意が逸れた! 今の内に距離を詰める……近衛さん!」
「ならばアクティブスラスターで……」
「待つのじゃ! 一旦退け、何か来るッ!」
カナタの叫び声に前進する足を止め、むしろ背後へと跳ぶ。
オルクスが両腕を広げると、降り注ぐ雪がゆっくりと静まっていく。
一切の音が空間から消え去ろうという瞬間、カナタはピュリフィケーションで周囲の汚染を浄化する。
その瞬間、世界のすべてから時の流れが消え去った。何もかもが凍てつき、無に近づいていく――。
「――ヴァイスさん、ご無事ですか?」
アニス・エリダヌス(ka2491)の声に頭を振って膝を着いていたヴァイス(ka0364)が見たのは、時間の凍りついた世界。
降り注ぐ雪の結晶の一粒一粒すら空に停止し、降り注ぐ光を反射させ輝いている。
C班、左翼攻撃部隊はアニスの浄化術で時間凍結結界を堪えていた。
しかし、周囲の景色は止まったままだ。アニスが作った浄化術の安全地帯、5×5スクエアから出れば再び凍結してしまうだろう。
幸い、この術の最中はオルクスの攻撃も停止している。問題は時間凍結も関係なく迫りくる血の騎士と亡霊たちだ。
「どうやら他の班も浄化術で凍結を乗り切ったようだけれど……これではこちらも前進できないわね」
「時間凍結が解除されるまでここで待たなきゃダメってこと?」
七夜・真夕(ka3977)の問いかけにアリア・セリウス(ka6424)は静かに頷く。
「そう長く結界は維持できないでしょう……でも、この間は血の騎士や亡霊を抑える必要がある。特に、A班は可能な限り支援しないと」
A班は特にオルクスに近い。凍結はカナタの力で免れたが、敵が群がり始めている。
「そういう事なら、ここから魔法で援護するわ!」
真夕はアデプトスタッフを掲げ、そこにマテリアルを集束させていく。
アリアはイェジドのコーディに指示し、獣機銃で攻撃。更にデュミナスの「GLACIALIS」に搭乗したフィルメリア・クリスティア(ka3380)はマテリアルライフルで攻撃を開始する。
「マテリアルライフルの射程なら、十分に狙い撃ちにできるわ」
銃撃でA班に群がる敵に攻撃すると、その一部が振り返りこちらへ向かってくる。
血の騎士に先行する亡霊が迫ると、これをヴァイスが切り払う。
ただの剣では斬れぬ敵、しかしヴァイスの刃はマテリアルの炎を纏っている。
「アニス、俺の少し後ろに下がるんだ! このチームで浄化術が使えるのはアニスだけだからな」
「はい……! これまでのように……そしてこれからも、わたしは貴方の後ろで貴方を支えます!」
十分な詠唱を経て放たれた真夕の雷撃がまとめて亡霊を薙ぎ払う。だが、それほどの強力な攻撃を受けて尚、血の騎士が狙うのはヴァイスとアリアであった。
わざわざ仲間をかばうまでもなく攻撃を受けた二人はそれぞれ抜刀し、反撃に移る。
「私達を狙っている……?」
振り下ろされる血の剣を大太刀で払い、すかさず反撃を加えるアリア。
だが、血の騎士は執念深くアリアに迫ってくる。それを頭上から薙ぎ払うように放たれたGLACIALISの剣が粉砕する。
「大丈夫?」
「ええ……しかし、何か狙われる理由があると見るべきね」
やがてオルクスは時間凍結を解除し、ハンターらも自由に行動できるようになる。
「よし、またできる限りオルクスまで距離を詰めるぞ!」
「皆さん、回復します!」
アニスがヒーリングスフィアで全員のダメージを回復すると、再びC班は走り出した。
A班は敵の迎撃が集中し苦戦している。だがその分こちらの守りは手薄だ。
それに、どうやらオルクスの注意はB班に向いているらしい。巨体の向こう側でよくは見えないが、既にオルクスとの直接戦闘が始まっているようだ。
「ならばこちらはA班と合流よりに動いた方がいいわね。彼らを援護しましょう」
左翼から進むB班は既にオルクスに肉薄できる距離まで迫っていた。
他のチームより前に出られたその理由は単純明快。この班には浄化術を使用できるハンターが何人も属していた。
時間凍結中、オルクスの迎撃が停止する間も彼らは交互に術を使い、その進路を確保。
A班とC班に周囲の歪虚が集中していた事もあり、オルクスへの直接攻撃が可能な距離にまで到達していた。
「此処にわたしがいる、か……洒落が効いてるぜ。ジエルデ……いるんだろ? 今、見つけてやるからな!」
イェジドのズィルヴィントに跨がり駆けるソフィア =リリィホルム(ka2383)。
その進路上の足元に無数の魔法陣が浮かび上がり、真下から剣のような形状の血の刃が次々にせり出してくる。
「チッ、まともに近づけねぇ……!」
「ほわぁああーー!? 地面から剣がいっぱい出てきた! どばどばーって!!」
リューリ・ハルマ(ka0502)はその様相に驚きながら、しかし前向きに状況を考察する。
「あれじゃ近づけないけど、無限に出て来るってわけじゃないね! だったら、前に出るのが一番! いくよ、レイノ!」
イェジドの「レイノ」が吼え、リューリを乗せて走り出す。
直接的な攻撃が目的ではない。ジグザグに走り、足元からせり出す血の剣をかわし、ひきつけているのだ。
そんなリューリを捉えようと伸びる亡霊の腕を、八島 陽(ka1442)は機導剣で次々に切り払っていく。
「邪魔はさせないよ!」
陽本人もまたイェジドの「ヴァッサー」に跨がり、オルクスの攻撃をかわしていく。
すると血の剣では捉えきれないと判断したのか、蛇の頭は次々に凍結ブレスを放射し始める。
ソフィアはそのブレス放射をあえて盾で受け、そして攻性防壁で蛇頭の一つを跳ね上げる事に成功する。
「チャンス! いっくよー!」
跳躍するレイノの背から更に跳び、リューリは縦に回転、ギガースアックスを動きの止まった蛇頭に叩きつける。
「やるなリューリ……こっちも続くぞ、ざんぎえふ!」
イェジドの「ザンギエフ」に跨がり、ダメージを受けて怯んだ蛇頭を祢々切丸で薙ぎ払うミリア・エインズワース(ka1287)。
ミリアの攻撃は不思議と蛇頭を鋭く切り裂いた。それはミリアの地力以上の威力だ。これで蛇の頭が一つ切断され、塵と化して消えていく。
しかしチャンスを作ったソフィアは身体が凍りつき、上手く動けずにいた。その隙を狙い噛み砕こうとする蛇を、花厳 刹那(ka3984)が振動刀で斬りつける。
「ソフィアちゃん、しっかり!」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)はドミニオン「夜天一式」で刀を振るい、蛇頭を打ち払い追撃を阻止する。
それと同じ頃、A班の攻撃がオルクスに届き始めた。オルクスは血の障壁を自身の周囲に展開し防御に入っているが、その分迎撃が弱まる。
「助かりました、刹那さん。今の内に減らせるだけ首を減らすしかありませんね」
「ええ。でも、無理はしないようにね」
「各員、時間凍結への警戒を怠らないように……俺達は一人じゃない。皆でこの戦いを終わらせよう」
刹那とオウカの言葉に頷き、ソフィアは構えた銃で蛇頭を狙う。
このB班は殆どがイェジド騎乗者で、高い回避能力と移動能力を持っている。
それが血の刃による攻撃を掻い潜りながら接近戦を維持する力となったが、特に陽とリューリは上手く攻防のバランスを担っていた。
亡霊は機導剣で切り払い、騎士はイェジドの体当たりで転倒させると陽は許さなかったし、リューリは前線でダメージを受けながらも自己回復で生存し続け、猛攻を浴び、しかしそれによって仲間に攻撃の機会を作っていた。
「傷だらけにしちゃってごめんね、レイノ……でも、一緒に頑張ろうっ!」
「右翼に敵攻撃を集中できてる! これなら他のチームが十分ポジションにつけたはずだよ! ……っと、やばいやばい! 一度下がって!」
再びオルクスが両腕を広げ、空間が軋み始める。
それが時間凍結の予兆と知り、陽は背後へ跳んで魔導符剣を大地に突き立てる。
「何度やろうと無駄だぜ? この力は……この機導術は、きっとこの時のためにあったんだからな!」
「来るぞ……機導浄化術、展開……!」
陽、ソフィア、オウカが浄化結界を広げる。その直後、再び世界のすべてが凍てつくように静止していった。
『……何故……生ニ縋ル……? 何故……歩ミ続ケル……?』
それは声ではなく、頭の中に響く言葉。
『痛ミナキ世界……死ノ恐怖スラナイ……我ハ与エル……安ラギヲ……』
巨大な女の背中を引き裂き、吹き出した血は翼を成す。
その頭上に光の輪が浮かんだ直後、ハンターそれぞれの傷口から勝手に血が吹き出した。
「む……これは、マテリアルを吸収している、のか……?」
「吸血鬼の十八番ってやつだ……備えろ!」
血を抜かれるだけではなく、傷そのものも広がってしまう。
ブラッドドレインの効果で集められたマテリアルは光の輪に吸い込まれ、更に輪を巨大化させていく。
『穢レタ血ノ狩人……ソノ全テガ罪ナラバ……我コソ祝福セリ』
光の輪は小さな球体に代わり、そして一瞬で広がっていく。
『光アレ――』
降り注ぐのは無数の光の剣。
それは何十、何百、何千と数を増し、停止した時の中でゆっくりと落ちてくる。
当然、ハンターらは時間凍結に対抗する為に、浄化術で作った安全地帯の中にしかいることできない。
剣の雨は徐々に加速し、ハンターらにまんべんなく降り注ぐ。
魔法の剣は着弾と同時に爆発し、聖域の地形は変貌していく。木々は倒れ、湖は砕け、冷たい風が吹き抜けていった。
●
「今のは効いたな……だが、まだ何とか動ける」
惣助は機体の調子を確認しながら周囲を見渡す。
紅薔薇が作る防壁と惣助のCAM、それが物理的に背後への攻撃を防いだ。
故にこのA班が最も全方位攻撃の被害が少なく済んだのだ。
「ユニットに守られねば危険じゃったな……今回復するのじゃッ」
カナタは破損したユニットにフルリカバリーを施す。
迎撃の激しさにあまり攻撃に出ることはできなかったカナタだが、A班の粘り強さは彼女なしでは成り立たない。
「他のチームの状況は……!?」
ユーリが他のハンターの様子を気にする間にも、白く冷たい煙の向こうからオルクスが姿を見せた。
「いよいよ積極的に動くってわけね……!」
「ダメだ……今の状態じゃ足並みが揃わない!」
キヅカは祢々切丸で斬りつけながら歯噛みする。先の攻撃でハンター側は大きく体勢を崩されている。
このまままともに小さな戦闘単位で攻撃を行ったところで、押し負けてしまうだろう。
蛇の頭に薙ぎ払われ、盾ごと吹き飛ばされるキヅカ機。そこへ後方からスラスターで一気に加速しつつ、ルナリリルが突っ込んでくる。
「こんな所で私は、我々は、止まって等いられないんだ!」
スラスターライフルを連射するルナリリルに攻撃が集まると、紅薔薇はゴーレムでどんどん壁を新たに作っていく。
「これで時間を稼ぐぞ。今の内に立て直すのじゃ!」
「……おい、タングラム! しっかりしろ!」
血塗れのタングラムを抱きかかえ呼びかける紫月・海斗(ka0788)。
傷は深いが、それはタングラムだけではなく海斗も同じ。防御障壁をタングラムに使った分、むしろダメージは海斗が上だ。
「へっ、さすがは義理姉様だ。慣れ親しんだこの厳しい反応、変わってないぜ」
「言ってる場合ですか……」
「いや、むしろ言ってる場合だろ。言いたい事全部ぶつけるってんならよ、最後の機会じゃねぇか」
タングラムの手を取り、立ち上がらせる。そして海斗は頬に流れる血を拭い、笑う。
「付き合うぜ」
「……そうですね。ここで伸びている場合ではありませんか」
「よっしゃあ! オラァリク、今助けに行くぞォオオオ!! あ、ちょっと待った。タングラム、この指輪をつけとけ」
「は?」
「なあにお守りみてぇなもんだ。サイズは完璧にあってるから安心しとけ! 行くぞォオオ!!」
「逆に怖いんですが……」
雄たけびを上げて走り出す海斗の賑やかさに途切れていた意識が戻ってくる。
何とか立ち上がったイェルバートだが、全身から血が滴り、体が震えるほどの寒さを感じていた。
(これは……普通の傷じゃない?)
「クッソがァ……なんだ、今の攻撃は……ッ! 傷が全然ふさがらねェぞ……!」
シガレットも同じく広がっていく傷に戸惑っていた。フローラとユナイテルも同じ様子で、どうやら他のハンターより傷が深い。
「これが、剣妃の……いや、エルフハイムの呪いなのか……」
何百年も前、まだハンターらが生まれるよりずっと前から続く、エルフとヒトの確執。
自分にとって都合のいい世界を手に入れる為にそれ以外の物を虐げ、破壊するヒトの持つ凶暴性……。
イェルバートは過去にもそこから生まれた怪物を知っている。だからこそ、同じことを繰り返してはならないと強く感じていた。
「憎まれても……止めなきゃいけないんだ。これから生まれてくる子供たちが、“名前を呼んでもらえる”ように……」
これ以上戦えば命に関わるかもしれない。それでも立ち上がったイェルバートの体をフローラの回復魔法が包み込む。
「これは、数多の因縁を終わらせる戦いであると同時に、あらゆる“これから”を始めるための戦いです」
ここで敗れ去れば、この物語はバッドエンドで締めくくられるだろう。
あの不変の剣妃は、これまでに蓄積された呪いを解決するために生み出されたもの。だが、止められなければ破滅を振りまく悪夢となる。
「彼女は私たちを信じて……そして託してくれた。故に、私達は負けません。この困難、見事乗り越えて見せましょう」
「そうだなァ……。ジエルデに託された想いに応えるしかねェよなァ」
シガレットもヒーリングスフィアで仲間の回復を計る。
「オルクスの攻撃はまーまー高度な技みてぇだから、そこまで頻度も高くねぇはずだ。今のうちにさっさと立て直すぞ!」
デスドクロが仲間を立ち上がらせる最中、ザレムは4連カノン砲で血の騎士を狙い撃ち、撃破していく。
「みんなが立て直すまでの間は、俺も前に出て壁になるよ!」
仲間たちがばたばたと動き出す最中、リリティアはヒーリングポーションで傷を癒しながら立ちはだかる血の騎士と向き合っていた。
多重飽和攻撃は回避困難な技だが、アクセルオーバーで更に機動性を高めたリリティアの被害は少なく、まだ余裕があったのだ。
「アレを倒すのは因縁という刃を持つ人達に任せるとして――意思無き兵と無念の霊、確かに請け負いましたよ」
振り下ろされる剣を躱し、背にしていた斬龍刀で一閃。残像を残し、リリティアは単騎で敵勢を翻弄する。
「他の皆さんの邪魔は、させませんから」
シガレットやフローラが回復で立て直しを始めた頃、B班とC班もそれぞれ再起を図っていた。
「やはり、普通の攻撃ではないわね……」
体中に突き刺さった剣の傷跡はアニスの回復を受けてもふさがりきらない。
アリア同様、ヴァイスも同じように深いダメージを受けていた。特にヴァイスはアニスを庇ったので傷が深い。
「ヴァイスさん……血が……!」
「これくらい大丈夫だ。アニスがくれたお守りもあるしな」
首から提げたお守りを握り締め、ヴァイスは巨大なオルクスを見上げる。
これがヒトへの呪いだというのなら、やはりあれは“オルクス”ではないのだろう。
彼女は歪虚ではあったが、種族への固執はなかった。後悔はあれど、呪いなど生み出す筈がない。
「……そうだな。それがお前の望まない姿だというのなら……否定するのが俺の仕事だ」
「俺たちの……ですよ?」
血染めのヴァイスの手を握り締め、アニスは微笑む。
「行きましょう。最後まで、一緒に」
「私達も走りましょう! 攻撃に遅れちゃう!」
真夕の声に続き、ヴァイスとアニスはそれぞれの相棒たるイェジドに跨る。
「傷はもういいかしら? オルクスに仕掛けるわよ! 私に続いて!」
仲間が立て直す間、まだまだ装甲に余裕のあるGLACIALISで単身敵を抑えていたフィルメリア。
歩兵の盾となり戦線を支える、CAMとして適切な運用だ。その後に続き、C班は走り出す。
一方、B班のダメージは大きい。このチームは浄化術と機動力に優れているが、回復能力や耐久能力には欠けている。
ダメージを受けても自己回復で耐えきったリューリと、アクセルオーバーで降り注ぐ攻撃をかわした刹那は比較的余裕を残しているが、それ以外のハンターは持ち直すのに時間がかかる。
「これ以上長引かせるのは此方が不利になる。オルクス本体を叩くぞ……」
「無茶言わないでください。そのダメージで向かうのは自殺行為です。まずは回復をはかりましょう」
膝を着いたオウカのCAMに語り掛ける刹那。彼女の言う通り、大打撃を受けたB班は戦闘に復帰できない。まず立て直しが必須だ。
一方、リューリは血まみれのミリアの前でおろおろしていた。
「ミリアさん、大丈夫!?」
「この傷、どうも普通じゃないね……。でも、大丈夫。ボクに構わずリューリは自分にできる事をするんだ」
「……わかった。先に行って、時間を稼ぐからっ」
頷いてイェジドに跨るリューリ。ギガースアックスを肩に乗せ、オルクスへと走り出した。
●
紅薔薇のGnomeが作る壁を押し壊しながら迫るオルクスへ、紅薔薇は次元斬を次々に繰り出す。
移動する相手に対し、着弾を紅薔薇本人にも完全には制御できないためか、逆にその弾道を読めずこの攻撃は障壁で防がれにくい。
広範囲を吹き飛ばす斬撃は、オルクスに対しても十分なダメージソース足りえる。
だが、動きの遅いGnomeは横倒しにされ、紅薔薇はその肩から落下。そこへ発射される凍結ブレスを宗助が盾を構え、障害物となって防ぐ。
「俺達だけでは抑えきれないか……!」
そこへフィルメリアのマテリアルライフルが着弾。機導砲のトレースで更に威力の増した攻撃にオルクスの視線が動く。
「待たせたわね! C班、攻撃に合流するわ!」
「よし……! まだ全体は立て直せていないけど、時間がない! 攻撃開始だ!」
キヅカの声に合わせ、ハンターたちが動き出す。
「下半身を狙って体勢を崩す! 僕に続け!」
キヅカ、ルナリリル、惣助のCAMがそれぞれ射撃で下半身の蛇を撃つと、蛇もまた血の槍やブレスでこれを迎え撃つ。
大型的と兵器が乱舞する戦域をC班のハンターたちはイェジドに跨って駆ける。
その道中に出現する血の騎士と亡霊たちを前に、真夕は魔法を詠唱する。
「ライトニングボルトで道を開くわ! 一気に駆け抜けて!」
雷の本流が亡霊を薙ぎ払い、血の騎士にもダメージを与える。そこへアリアは獣機銃を放ちながら突き進んでいく。
「あなたの背中は私が守ります! 今は……前へ!」
「ああ!」
剣に炎を纏ったヴァイスはすれ違い様に血の騎士を切り裂く。
その進路に再出現する亡霊には、アニスがシャドウブリットを放った。
「切り込むわ。隙を作るから……皆、続いて……!」
蛇頭が放つブレスをイェジドで躱しながら、アリアは大太刀を振るう。
走りながら蛇頭を次々に斬りつけ、そこへヴァイスが相棒であるグレンと共に突撃する。
薙ぎ払うように繰り出した一撃で、切断された蛇頭が空を舞う。だが、そんなヴァイスの背に別の蛇頭が襲い掛かった。
これをアニスが盾を構え、防御に入る。血の槍を光の盾で防ぎ、一歩も引かない。
「邪魔な騎士はわたしとシリウスが相手をします! ヴァイスさんはオルクスを!」
「アニス……ありがとう」
「いいえ。ここが……わたし達の新たな門出です!」
「守りが堅い……防御を突破できないか……!」
スラスターライフルを放ちながら舌打ちするルナリリル。
オルクスは攻撃に合わせ血の防御障壁を張っている。それらを完全にはがしきるには手数が足りない。
「私達も手伝うよ! とにかくあいつを攻撃すればいいんでしょ!?」
イェジドに騎乗したリューリはオルクスに肉薄し、蛇頭の攻撃を誘発しつつこちらも攻撃に乗り出す。
「へっへーん、こっちだよ! 私はまだ走れる……戦えるんだからっ!!」
「そろそろ時間凍結が来るよ! 全員備えて!」
陽の声がオウカの連結するトランシーバーから各員に伝えられたのはそんな時だ。
陽は時間凍結から次の時間凍結までの時間を測定し、そのリキャストを時計で測定していたのだ。
「今が攻め時だァ! ガンガン回復して前線に味方を送り込むぞォ!」
「はい……私たちが倒れたとしても、一人でも多く戦士を前に……」
B班の刹那が負傷者を運び、A班のカナタ、そしてD班のフローラ、シガレットらが回復を手伝ったおかげでB班もなんとか持ち直している。
強烈な攻撃を受け誰もが傷ついていた。既に倒れていてもおかしくない者も何人もいる。
それでも果敢に怪物へ挑む人々の背中を見つめ、シュネーは自らの血に染まった剣を強く握りしめる。
(沢山の人が頑張っている……ううん、これまでも頑張って来た……)
これはその先端、結末の刹那。それを見届けるためにここまで走って来たのだ。
その感情につけるべき名前はまだ知らずとも、自らの胸の声は聞こえている。
「ここが願いの、祈りの……呪いの先。ちゃんと見て、感じて……そして覚えていたいから」
前に出るハンターの為、倒れたバイクを置き去りに走る。狙いは立ちはだかる血の騎士たちだ。
「むしろ時間凍結中は守りが手薄になる! オルクスに肉薄した状態で結界を張るんだ!」
そう叫びながら走る陽。それに続くように、各方面からハンターがオルクスまでの距離を詰めていく。
予想通り、やや遅れてオルクスは時間凍結の術を再発動する。だが、それはハンターたちにとっては既に読めていた行動だ。
「「「浄化術、展開!」」」
それぞれのハンターが浄化結界でこれを無効化。そして、展開中は防御が手薄になるオルクスへと攻撃を放つ。
「今だ! 一斉砲撃……いっけぇええええ!」
キヅカは叫び、同時に自らもマテリアルライフルを放つ。
「ブッハハハ! 俺様級の時間超越者とは違って時間凍結中に自らも動きが止まるとはな! これならば俺様のブラックワールドコスモキャノンを使うまでもない!」
デスドクロは腕に纏った漆黒の炎を放つ。
「この戦いの決着は、一個人の武力じゃあなく、愛を以て成しえなくちゃならねぇ。蓄積された呪いを解くのは何時だってラヴだ! お前ら、森に見せてやれ! 誰かを想い慈しむ力の強さってヤツをな!」
「皆と一緒に未来を掴むんだ! 誰も死なずに、誰も欠けずに、行こう!」
ザレムは無数の蛇頭をマルチロックオンし、4連装カノンを放つ。
ハンターらが猛攻を仕掛ける中、メトロノームはじっとマテリアルを蓄え、ハープを奏でていた。
「師匠の……エルフハイムの背負ってきたものを、わたしは真には理解できません。けれど過去のためではなく、今を一生懸命に生きる皆のためならば戦えます」
高めたマテリアルは蒼い炎ので作られた幻獣を成し、それは翼を広げ、オルクスめがけて飛んでいく。
「古き軛を焼き払い……神の森に黎明を。灼翼(カトゥリクス)――!」
限界まで高まった炎の翼がオルクスに着弾し、大爆発を起こす。
それにいよいよこらえきれなくなったのか、大きくのけぞると同時に時間凍結結界が解除されていく。
『何故……永遠ヲ拒ム……。純白ノ虚無ニ……全テノ嘆キヲ溶カス……是コソガ理想郷……』
「わたしには元より理解できません。理解できて良いものではないのです。ヒトは誰でも明日が欲しい……それはきっと、師匠も同じですから」
『不確定ナ明日……ソレコソガ災禍ノ根源。望メバ失イ、求メハ憎悪ヲ生ム』
燃え盛る炎を振り払い、不変の剣妃は咆哮する。
『呪ワレテイル。オマエ達ハ、ソノ存在自体ガ……救済ヲ受ケ入レヨ』
「うるせぇぞ、出来損ないが! 言わせとけば勝手ぬかしやがって! お前みたいなモンがジエルデであってたまるかよ!」
ソフィアはライフルで下半身の蛇を狙いながら叫ぶ。
「歪虚ごときにくれてやるものかよ……! こんな黴くせえ森の恨み程度に負けてんじゃねえ、ジエルデ! お前も、あいつらの母親だろうが!」
「そうだぜ! 義理姉様は確かにおっかねぇ女だが、何も変わらねぇクソつまんねー世界なんざ望んじゃいなかった!」
「お前は“不変の剣妃”かもしれない。だが、“オルクス”でも“ジエルデ”でもない。俺達は……お前を認めない!」
海斗とヴァイスの言葉を待たず、オルクスは再び猛攻を開始する。
だが度重なる攻撃により蛇頭も減り、血の騎士や亡霊の復活も遅くなっている。
森の外で戦うハンターらの攻撃が、ここに来て効いてきているのだ。
降り注ぐ血の雨をかい潜り、ハンターたちは最後の攻撃に打って出る。
「微力ながら……我が正義に捧げし剣にて、あなた達の道を切り開こう」
騎乗状態に駆け寄り、蛇頭を斬りつけるユナイテル。
体力は既に限界に近い。だが、勝利まであともう少し。自分にできる事を最後までやり抜くと決めていた。
「ジエルデさんは人事を尽くしたんだ……オレ達も!」
陽はイェジドで蛇頭を潜り抜け、闇属性の弾丸を装填した拳銃で上半身を狙う。
「ジエルデ、安心しろ。必ず殺してやる……信じろ。リューリ、同時に行くぞ!」
「いくよーっ、ミリアさん!」
回復魔法で復活したミリアと共にリューリはイェジドで接近し、また一つ蛇頭を両断し無力化する。
オルクスの反撃に一人、また一人と倒れていくハンターたち。だが、勝機も見えてくる。
「預かったここに来られなかった者の想いも込めて……終わらせよう、俺達みんなで!」
惣助は正面から槍を繰り出しオルクスへと突き刺す。同時に反撃で血の刃がCAMを串刺しにしたが、惣助は離れない。
「キヅカ!」
「届けぇえええええ!!」
ハイパーブーストで跳躍したインスレーターは逆さに構えた刀を繰り出すが、オルクスはこれを腕で受け止める。
常に激しい反撃が予想されるこの状況で、CAMを乗り降りする事は困難だ。仲間の目の前に動けなくなったCAMが横たわっても邪魔になる。今はインスレーターの力を信じるべきだ。
「ここまで皆が繋げた想い……絶やしてたまるかよ! このまま抑え込む!!」
腕に刃を突き刺したまま、ハイパーブーストでオルクスの体を抑え込むインスレーター。
そこへ紅薔薇が次元斬を放ち、更に蛇の頭を吹き飛ばす。
「このまま一気に決める……!」
「よう、久しぶり……だな。今、終わらせるから、な」
ルナリリルもブレードを抜き、刀を手にしたオウカと共にオルクスへとこれを突き刺す。多数のCAMに組みつかれ、いよいよ動きも止まり出した。
「皆が作ったチャンス! 負ける訳にはいかないのよ!」
真夕は追加詠唱を込めたライトニングボルトで障壁を貫いてオルクスにダメージを与える。
「破邪、顕正! 必ず生きて帰るんだから!」
「今よ、ユーリ!」
仲間を巻き込みかねないこの状況でフィルメリアが選んだのは鍛え上げた機導砲だった。
CAMのマテリアルライフルから放たれた一撃がオルクスの腹を貫通し、そこへイェジドに跨って跳躍したユーリが剣を振り上げる。
「オルクス、大切な人達と仲間達から託された想いと祈りをこの一撃込めて……約束通り貴女を『救う』よ。もう、独りで苦しまないでいい……だから、安らかに眠って」
雷鳴を纏った一撃がオルクスの胸を引き裂き、続いてソフィアが舞い上がり、空中を回転し炎を纏った蹴りを放つ。
「不変の剣妃……呪いの連鎖の果てのカタチよ。二度目になるが……引導を、渡してやるぜッ!」
「今回ばかりはタングラムにやらせるわけにはいかねーんでなぁ!」
ジェットブーツで飛翔した海斗が聖機剣を突き刺す。そして最後にオルクスへと主を運んだグレンから跳び、ヴァイスが剣を振り上げる。
それは、アニスが接近を助けてくれた結果。彼女がいなければ深手を負ったヴァイスが最後の一撃を放つことはなかっただろう。
「――さよならだ……オルクス」
炎を纏った斬撃が不変の剣妃の頭部を切り裂く。
その炎がまるで燃え広がるように巨体を焼き、青い光が歪虚を包み込んでいく。
彼の放った一撃が特に強烈だったのは、彼が怪物を倒すべき“人間”だったから。
そして怪物もまた――その一撃を待ち望んでいたからだろうか?
やがて光は爆ぜ、その風は時の淀みすら薙ぎ払うように聖域を中心に吹き抜け、森を覆う結界を払っていった――。
●
「ジエルデどん!」
負傷者が多すぎ、そしてそれらの命を繋ぐ力を持っていたカナタは最前列の攻撃には参加できなかったが、巨体が崩れ去るその時には間に合った。
予想通り、不変の剣妃が消えた後にはジエルデの身体が横たわっていたのだ。
「まだ救えるかもしれぬ……神樹の元へ運べば……ッ」
そう言ってジエルデの手を取るカナタだが、その部分は砂のように崩れてしまう。
「森の精霊に頼んで、英霊なりなんなりで残ることはできぬのか? もう一度……器どんと会う事さえできぬのでは、切ないではないか」
「……ありがとう。でも、私はもう大丈夫です。これで、森は救われる……未来を見ることができるのですから」
紅薔薇は手から剣を零し、ジエルデの傍らに膝を着く。その頬を伝うのは涙だった。
彼女はこの森を救うにはヨハネを倒すだけではいけないと気づいていた。ある意味、正しく問題を把握している一人だった。
結局のところ、この森を根本的に変えるには、現状を強いる過去の呪いを断ち切る必要がある。それはわかっていた。
だが、紅薔薇には呪いを振り払う方法がわからなかったのだ。
「ありがとう……お主がいなければ、救えなかった。じゃが妾は、お主を犠牲にしてしまった……すまぬ」
ジエルデは崩れていく身体で力なく首を横に振る。
「あなた達ならきっと……打ち勝ってくれると信じていましたから」
「……さらばなのじゃ、ジエルデ殿……いや、剣妃。お主達の願いは必ず叶える。もうこれ以上犠牲者は出さない。全部終わったら……ホリィとアイリスと共に、あの家に帰るよ。必ず……帰るから」
涙を拭い、紅薔薇は微笑む。それに満足するように、ジエルデも笑みを返した。
「エルフハイムの長老にこんな気持ちになる日が来るとはな……いや、ある意味当然か。似たモノ同士……だもんな」
ソフィアは苦々しく視線を逸らし、しかし思い直すように笑う。
「タングラム、お前もバカ姉に言いたい事あんだろ。腹ン中のもんぶつけてやれ」
「私は……」
タングラムは頭を振り、姉の胸に手を当てる。
「私の願いは……姉さん、あなたが幸せになってくれる事だった。あなたを守りたかった……例え離れ離れになっても……私にとってたった一人の家族だったから」
「……アイリス」
「でも……私はあなたを守れなかった。だから代わりに、あの子を守るよ。姉さんの想いは……きっと忘れないから」
「大丈夫だぜ、義理姉様。妹たちのことは任せとけ。まあ色々あるけどよ。あいつらを一人にはしないさ。ご覧の通り、仲間はたくさんいるんだからよ」
海斗が笑うと、ジエルデは崩れかけた手で妹の手を握り締める。
次の瞬間その手は崩れ去り、ジエルデ・エルフハイムの体は塵となった。
何一つ残さないために歪虚を成した以上、何一つ残らない。これが正しい結末だ。
「これで、人とエルフの関係は変わる。未来の為に考える事が、また増えそうね」
コクピットの中でフィルメリアはそうつぶやいた。
だがそれは悪いことではない。明日を思うことができる、それのなんと喜ばしいものか。
エルフハイムを飲み込んだ呪いは今、一つのカタチを結び、そして塵となって消え去った。
凍てついた時が動き出す。呪いの明けた光の中、木々は穏やかに風に囁いていた――。
――神なる森は、白く停滞した時の中にあった。
浄化術で作られた道の上を走るハンターの視界に広がるのは、痛みのない世界だ。
草木も、虫も鳥も、あらゆるものがまるで最初からそうであったかのように凍てついている。
この森に初めて入る者であっても、その景色には違和感を覚えずにはいられない。
「まるで氷の幻想の世界ね。けれど、これは死の風景。明日を喪わせる破滅の悪夢よ」
イェジドの背に跨がり、アリア・セリウス(ka6424)は呟いた。
“死”とは、ある種の美意識に通じる概念だ。
だから時にヒトはその死を切り取って飾り付けることさえある。
死は美しく、停滞は甘く、破滅は心地良い――。
森の聖域、神霊樹へと続く道に招くように、あるいは拒むかのように無数の歪虚が立ちはだかる。
「浄化術の力も長くは持たない。森の外じゃ皆が戦ってる……これは短期決戦だ! 一気にケリをつけるよ!」
キヅカ・リク(ka0038)の言葉に応じ、ハンターらは走り出す。
この戦いは時間との勝負だ。事を素早く済まさねば、オルクスを討伐しても手遅れになってしまう。
ハンターはチームを大きく4つに分割していた。
その中でも特に露払い、道を切り開く事に特化したD班のハンターらが前に出る。
「これは人類史に残る戦いのひとつに数えられる事でしょう。全力で挑みます……いざ」
抜刀し、宝剣を片手に馬を加速させるユナイテル・キングスコート(ka3458)。
道中に立ちはだかる巨躯の血の騎士へ素早く刃を打ち付ける。
マテリアルを込めた一撃は騎士の脇腹を粉砕したが、それでは撃破に至らない。
「チッ、こいつら一匹一匹がタフらしいなァ。……まあ、こっちも頭数は揃ってンだ」
神罰銃で血の騎士を攻撃するシガレット=ウナギパイ(ka2884)に続きデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)も魔導銃を放つ。
「ブッハハハ! どうやら俺様のファンと見たが、今はサインを書いている暇がないんでな。出待ちも程ほどにしろ!」
「それにしても、ホリィが森に一緒に来ていないのは残念だな」
ザレム・アズール(ka0878)はホリィ――浄化の器を護衛するつもりだった。
しかし、器はエルフハイムからはるか遠く、他の巫女隊と共に待機している。
「まあ、狙われる心配がないのはいいことか」
気持ちを切り替え、未だ友軍の到達していないずっと遠くに並ぶ血の騎士へ狙いを定めた。
彼の乗るデュミナスの4連カノン砲ならば、だいぶ先にいる敵を吹き飛ばすことも可能だ。
頭上をザレムの砲弾が吹っ飛んでいく中、バイクに跨り騎士の群れをかき分けるように進むシュネー・シュヴァルツ(ka0352)。それと並ぶようにリリティア・オルベール(ka3054)がバイクで疾走する。
「次から次へと邪魔ですね。道は狭いのですから、少しは譲ってほしいものです。まあ、譲らないというのなら――斬り捨てるだけですが」
わずかに頬をゆがませ、リリティアは蒼機剣「N=Fシグニス」を振るう。
騎乗状態で操るにはシグニスは持ってこいで、光刃の軌跡を残し血の騎士を深く斬りつけた。
「さあ、道を切り開きますよ!」
「はい……行きましょう」
シュネーも負けじと剣を振るい、バイクを走らせる。
二人の疾影士が敵の注意を引くと、背後からの仲間の攻撃も当てやすい寸法だ。
しかしそんな二人の前に無数の腕が伸びる。半透明のそれはこの森で命を落としてきた亡霊らの腕だ。
リリティアはこれをシグニスの光刃で切り裂こうとするが、どうやらシグニスでは切断できない。
それならそれでとバイクをスピンさせ、自前の抵抗力で腕を引きちぎっていく。
「この腕、回避能力が高くても躱しきるのは困難ですね」
「はい……前にも見ましたが、避けようと思って避けられるものではないようです……」
そんなシュネーの行く先に立ちはだかる亡霊をフローラ・ソーウェル(ka3590)の放つ魔法が撃ち抜く。
黒い魔法の弾丸は亡霊の腹を次々に食い破り、その姿を霧散させる。
「魔法しか通用しない相手ですが、その分打たれ弱いようですね」
「行動阻害は厄介だからね……悪いけど、撃ち落とさせてもらうよ」
イェルバート(ka1772)は魔導ガントレッドを正面に伸ばし、目を細める。
亡霊たちはみな少女の姿を取っている。それが過去に犠牲になった巫女たちであることをイェルバートは知っていた。
悲運の最期を遂げた少女たちは、かすかに笑い――あるいはすすり泣くようにしてハンターらに縋りついてくるのだ。
「……ごめんよ」
魔法陣から放たれた三つの光の矢が次々に亡霊を撃ち抜いていく。
「多くの命が失われたこと……それを嘆き悔やむのは後です。今はただ、その死を……その生を、無意味なものにしないために」
「わかってるよ。その為にも――絶対に、負けたくないんだ」
イェルバートの力強い言葉にフローラはわずかに頬を緩ませ、そして再び亡霊へとシャドウブリットを放った。
「突破口を開きます……今です」
メトロノーム・ソングライト(ka1267)が青い火炎弾を放ち、それが爆発して騎士を吹き飛ばすと、その道をこじ開ける様にシュネーとリリティアが突撃する。
●
爆炎を突き抜けた先には広い空間が広がっていた。
神樹を抱く浅く広い湖は凍り付き、今は堅い足場を残すのみだ。
マテリアルを失った木々の葉は凍りながらはらはらと舞い落ち、まるで雪のように降り積もっている。
その中心で、不変の剣妃は狩人の来訪を待ち受けていた。
顔を覆っていた両手を外すと、固まった血の仮面が露わになる。そして吸血鬼は腕を振るい、地面から亡霊と騎士を召喚した。
これらの歪虚はオルクスの分体。本体を倒さぬ限り、何度でも復活するだろう。
「B班は左翼、C班は右翼から迂回! A班はこのまま正面から突っ込むよ!」
キヅカはコクピット内で叫びながら巨大な剣妃の姿に照準を合わせる。
魔導型デュミナス、「インスレーター」のマテリアルライフルから放たれた光弾は真っ直ぐにオルクス本体を狙う。
しかし、その攻撃はオルクスの前に出現した雪の結晶のような血の盾によって防がれてしまった。
「血の障壁……そうか、血の槍の応用技……前から使ってたな」
オルクスは反撃と言わんばかりに下半身の無数の蛇頭を広げ、その口の中から太い血の槍をせり出す。
そしてそれを一気に放つと、まるで雨のように血の槍がハンターらへと降り注いだ。
攻撃を前に、盾を構えて自ら前に出たのは近衛 惣助(ka0510)だ。
愛機、魔導型ドミニオン「真改」は文字通り味方の盾となり攻撃を受け、コクピットにも衝撃が走る。
「近衛さん、大丈夫!?」
「ああ……強化したCAMなら十分耐えられる。キヅカ、どうする? 前に出るか?」
「ここが一番キツいけど、敵の攻撃がA班に集中すれば残りのチームが動ける。今は前に出よう!」
血の槍を躱し、道中に立ちはだかる血の騎士を祢々切丸で斬りつけるインスレーター。真改はガトリングガンでその前進を支援する。
「ちとまだ距離が遠いが、壁を建てる! 役立ててくれ!」
紅薔薇(ka4766)がその肩に乗る刻令ゴーレム「白」は素早く防壁を作り出し、カナタ・ハテナ(ka2130)が安全に進めるルートを作り出す。
「この距離……CAMの銃撃射程件からでも攻撃可能な血の槍とは恐れ入るのう。じゃが、カナタが無事な限りどんなダメージも回復するのじゃッ!」
紅薔薇やカナタを守りながら前進する惣助の機体は必然的にダメージを大量に受ける。
だが、カナタは安全域からフルリカバリーで一気に回復できる。これで惣助はいくら攻撃を受けても倒れる気配がなく、着々と歩みを進めていた。
遊撃気味に攻撃をかわしながら動くキヅカだったが、そこへ集まる亡霊たちが無数の腕を伸ばしてくる。
大きく跳躍するように躱すインスレーターを追尾するように伸び続ける腕。それを青い雷光を纏った矢が貫いた。
「あんまり無駄撃ちはしたくないけど……亡霊相手じゃCAMは不利みたいね、キヅカ?」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)はイェジドの「オリーヴェ」に跨がり、血の騎士が振り下ろす剣を掻い潜りながら再び矢を放つ。
雷光を纏った一撃は亡霊の肉体を吹き飛ばす。細々とした亡霊の撃破には、ユーリの方が向いている。
再び血の槍を放とうと構えるオルクス、その腕に遠距離からの銃弾が着弾し、青い血を撒き散らす。
「意識外からの攻撃ならば障壁では防げないらしいな」
ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)は後方、魔導型デュミナスの「パピルザクX」のコクピットで呟く。
既に先の攻撃で位置は認識されてしまったが、オルクスの血の槍は命中精度が低い。
だから束ねて放つのだが、これだけ離れてしまえば躱す事は十分に可能だ。
「もう戻ることはない故郷と思っていたが……やはり放ってはおけんな」
スラスターを起動し、降り注ぐ槍をくぐり抜けながら再びスナイパーライフルの引き金を引く。
今度は障壁で防がれてしまうが、これでいい。
「攻撃を続ける事に意味がある……そうだったな、キヅカ・リク」
「よし……オルクスの注意が逸れた! 今の内に距離を詰める……近衛さん!」
「ならばアクティブスラスターで……」
「待つのじゃ! 一旦退け、何か来るッ!」
カナタの叫び声に前進する足を止め、むしろ背後へと跳ぶ。
オルクスが両腕を広げると、降り注ぐ雪がゆっくりと静まっていく。
一切の音が空間から消え去ろうという瞬間、カナタはピュリフィケーションで周囲の汚染を浄化する。
その瞬間、世界のすべてから時の流れが消え去った。何もかもが凍てつき、無に近づいていく――。
「――ヴァイスさん、ご無事ですか?」
アニス・エリダヌス(ka2491)の声に頭を振って膝を着いていたヴァイス(ka0364)が見たのは、時間の凍りついた世界。
降り注ぐ雪の結晶の一粒一粒すら空に停止し、降り注ぐ光を反射させ輝いている。
C班、左翼攻撃部隊はアニスの浄化術で時間凍結結界を堪えていた。
しかし、周囲の景色は止まったままだ。アニスが作った浄化術の安全地帯、5×5スクエアから出れば再び凍結してしまうだろう。
幸い、この術の最中はオルクスの攻撃も停止している。問題は時間凍結も関係なく迫りくる血の騎士と亡霊たちだ。
「どうやら他の班も浄化術で凍結を乗り切ったようだけれど……これではこちらも前進できないわね」
「時間凍結が解除されるまでここで待たなきゃダメってこと?」
七夜・真夕(ka3977)の問いかけにアリア・セリウス(ka6424)は静かに頷く。
「そう長く結界は維持できないでしょう……でも、この間は血の騎士や亡霊を抑える必要がある。特に、A班は可能な限り支援しないと」
A班は特にオルクスに近い。凍結はカナタの力で免れたが、敵が群がり始めている。
「そういう事なら、ここから魔法で援護するわ!」
真夕はアデプトスタッフを掲げ、そこにマテリアルを集束させていく。
アリアはイェジドのコーディに指示し、獣機銃で攻撃。更にデュミナスの「GLACIALIS」に搭乗したフィルメリア・クリスティア(ka3380)はマテリアルライフルで攻撃を開始する。
「マテリアルライフルの射程なら、十分に狙い撃ちにできるわ」
銃撃でA班に群がる敵に攻撃すると、その一部が振り返りこちらへ向かってくる。
血の騎士に先行する亡霊が迫ると、これをヴァイスが切り払う。
ただの剣では斬れぬ敵、しかしヴァイスの刃はマテリアルの炎を纏っている。
「アニス、俺の少し後ろに下がるんだ! このチームで浄化術が使えるのはアニスだけだからな」
「はい……! これまでのように……そしてこれからも、わたしは貴方の後ろで貴方を支えます!」
十分な詠唱を経て放たれた真夕の雷撃がまとめて亡霊を薙ぎ払う。だが、それほどの強力な攻撃を受けて尚、血の騎士が狙うのはヴァイスとアリアであった。
わざわざ仲間をかばうまでもなく攻撃を受けた二人はそれぞれ抜刀し、反撃に移る。
「私達を狙っている……?」
振り下ろされる血の剣を大太刀で払い、すかさず反撃を加えるアリア。
だが、血の騎士は執念深くアリアに迫ってくる。それを頭上から薙ぎ払うように放たれたGLACIALISの剣が粉砕する。
「大丈夫?」
「ええ……しかし、何か狙われる理由があると見るべきね」
やがてオルクスは時間凍結を解除し、ハンターらも自由に行動できるようになる。
「よし、またできる限りオルクスまで距離を詰めるぞ!」
「皆さん、回復します!」
アニスがヒーリングスフィアで全員のダメージを回復すると、再びC班は走り出した。
A班は敵の迎撃が集中し苦戦している。だがその分こちらの守りは手薄だ。
それに、どうやらオルクスの注意はB班に向いているらしい。巨体の向こう側でよくは見えないが、既にオルクスとの直接戦闘が始まっているようだ。
「ならばこちらはA班と合流よりに動いた方がいいわね。彼らを援護しましょう」
左翼から進むB班は既にオルクスに肉薄できる距離まで迫っていた。
他のチームより前に出られたその理由は単純明快。この班には浄化術を使用できるハンターが何人も属していた。
時間凍結中、オルクスの迎撃が停止する間も彼らは交互に術を使い、その進路を確保。
A班とC班に周囲の歪虚が集中していた事もあり、オルクスへの直接攻撃が可能な距離にまで到達していた。
「此処にわたしがいる、か……洒落が効いてるぜ。ジエルデ……いるんだろ? 今、見つけてやるからな!」
イェジドのズィルヴィントに跨がり駆けるソフィア =リリィホルム(ka2383)。
その進路上の足元に無数の魔法陣が浮かび上がり、真下から剣のような形状の血の刃が次々にせり出してくる。
「チッ、まともに近づけねぇ……!」
「ほわぁああーー!? 地面から剣がいっぱい出てきた! どばどばーって!!」
リューリ・ハルマ(ka0502)はその様相に驚きながら、しかし前向きに状況を考察する。
「あれじゃ近づけないけど、無限に出て来るってわけじゃないね! だったら、前に出るのが一番! いくよ、レイノ!」
イェジドの「レイノ」が吼え、リューリを乗せて走り出す。
直接的な攻撃が目的ではない。ジグザグに走り、足元からせり出す血の剣をかわし、ひきつけているのだ。
そんなリューリを捉えようと伸びる亡霊の腕を、八島 陽(ka1442)は機導剣で次々に切り払っていく。
「邪魔はさせないよ!」
陽本人もまたイェジドの「ヴァッサー」に跨がり、オルクスの攻撃をかわしていく。
すると血の剣では捉えきれないと判断したのか、蛇の頭は次々に凍結ブレスを放射し始める。
ソフィアはそのブレス放射をあえて盾で受け、そして攻性防壁で蛇頭の一つを跳ね上げる事に成功する。
「チャンス! いっくよー!」
跳躍するレイノの背から更に跳び、リューリは縦に回転、ギガースアックスを動きの止まった蛇頭に叩きつける。
「やるなリューリ……こっちも続くぞ、ざんぎえふ!」
イェジドの「ザンギエフ」に跨がり、ダメージを受けて怯んだ蛇頭を祢々切丸で薙ぎ払うミリア・エインズワース(ka1287)。
ミリアの攻撃は不思議と蛇頭を鋭く切り裂いた。それはミリアの地力以上の威力だ。これで蛇の頭が一つ切断され、塵と化して消えていく。
しかしチャンスを作ったソフィアは身体が凍りつき、上手く動けずにいた。その隙を狙い噛み砕こうとする蛇を、花厳 刹那(ka3984)が振動刀で斬りつける。
「ソフィアちゃん、しっかり!」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)はドミニオン「夜天一式」で刀を振るい、蛇頭を打ち払い追撃を阻止する。
それと同じ頃、A班の攻撃がオルクスに届き始めた。オルクスは血の障壁を自身の周囲に展開し防御に入っているが、その分迎撃が弱まる。
「助かりました、刹那さん。今の内に減らせるだけ首を減らすしかありませんね」
「ええ。でも、無理はしないようにね」
「各員、時間凍結への警戒を怠らないように……俺達は一人じゃない。皆でこの戦いを終わらせよう」
刹那とオウカの言葉に頷き、ソフィアは構えた銃で蛇頭を狙う。
このB班は殆どがイェジド騎乗者で、高い回避能力と移動能力を持っている。
それが血の刃による攻撃を掻い潜りながら接近戦を維持する力となったが、特に陽とリューリは上手く攻防のバランスを担っていた。
亡霊は機導剣で切り払い、騎士はイェジドの体当たりで転倒させると陽は許さなかったし、リューリは前線でダメージを受けながらも自己回復で生存し続け、猛攻を浴び、しかしそれによって仲間に攻撃の機会を作っていた。
「傷だらけにしちゃってごめんね、レイノ……でも、一緒に頑張ろうっ!」
「右翼に敵攻撃を集中できてる! これなら他のチームが十分ポジションにつけたはずだよ! ……っと、やばいやばい! 一度下がって!」
再びオルクスが両腕を広げ、空間が軋み始める。
それが時間凍結の予兆と知り、陽は背後へ跳んで魔導符剣を大地に突き立てる。
「何度やろうと無駄だぜ? この力は……この機導術は、きっとこの時のためにあったんだからな!」
「来るぞ……機導浄化術、展開……!」
陽、ソフィア、オウカが浄化結界を広げる。その直後、再び世界のすべてが凍てつくように静止していった。
『……何故……生ニ縋ル……? 何故……歩ミ続ケル……?』
それは声ではなく、頭の中に響く言葉。
『痛ミナキ世界……死ノ恐怖スラナイ……我ハ与エル……安ラギヲ……』
巨大な女の背中を引き裂き、吹き出した血は翼を成す。
その頭上に光の輪が浮かんだ直後、ハンターそれぞれの傷口から勝手に血が吹き出した。
「む……これは、マテリアルを吸収している、のか……?」
「吸血鬼の十八番ってやつだ……備えろ!」
血を抜かれるだけではなく、傷そのものも広がってしまう。
ブラッドドレインの効果で集められたマテリアルは光の輪に吸い込まれ、更に輪を巨大化させていく。
『穢レタ血ノ狩人……ソノ全テガ罪ナラバ……我コソ祝福セリ』
光の輪は小さな球体に代わり、そして一瞬で広がっていく。
『光アレ――』
降り注ぐのは無数の光の剣。
それは何十、何百、何千と数を増し、停止した時の中でゆっくりと落ちてくる。
当然、ハンターらは時間凍結に対抗する為に、浄化術で作った安全地帯の中にしかいることできない。
剣の雨は徐々に加速し、ハンターらにまんべんなく降り注ぐ。
魔法の剣は着弾と同時に爆発し、聖域の地形は変貌していく。木々は倒れ、湖は砕け、冷たい風が吹き抜けていった。
●
「今のは効いたな……だが、まだ何とか動ける」
惣助は機体の調子を確認しながら周囲を見渡す。
紅薔薇が作る防壁と惣助のCAM、それが物理的に背後への攻撃を防いだ。
故にこのA班が最も全方位攻撃の被害が少なく済んだのだ。
「ユニットに守られねば危険じゃったな……今回復するのじゃッ」
カナタは破損したユニットにフルリカバリーを施す。
迎撃の激しさにあまり攻撃に出ることはできなかったカナタだが、A班の粘り強さは彼女なしでは成り立たない。
「他のチームの状況は……!?」
ユーリが他のハンターの様子を気にする間にも、白く冷たい煙の向こうからオルクスが姿を見せた。
「いよいよ積極的に動くってわけね……!」
「ダメだ……今の状態じゃ足並みが揃わない!」
キヅカは祢々切丸で斬りつけながら歯噛みする。先の攻撃でハンター側は大きく体勢を崩されている。
このまままともに小さな戦闘単位で攻撃を行ったところで、押し負けてしまうだろう。
蛇の頭に薙ぎ払われ、盾ごと吹き飛ばされるキヅカ機。そこへ後方からスラスターで一気に加速しつつ、ルナリリルが突っ込んでくる。
「こんな所で私は、我々は、止まって等いられないんだ!」
スラスターライフルを連射するルナリリルに攻撃が集まると、紅薔薇はゴーレムでどんどん壁を新たに作っていく。
「これで時間を稼ぐぞ。今の内に立て直すのじゃ!」
「……おい、タングラム! しっかりしろ!」
血塗れのタングラムを抱きかかえ呼びかける紫月・海斗(ka0788)。
傷は深いが、それはタングラムだけではなく海斗も同じ。防御障壁をタングラムに使った分、むしろダメージは海斗が上だ。
「へっ、さすがは義理姉様だ。慣れ親しんだこの厳しい反応、変わってないぜ」
「言ってる場合ですか……」
「いや、むしろ言ってる場合だろ。言いたい事全部ぶつけるってんならよ、最後の機会じゃねぇか」
タングラムの手を取り、立ち上がらせる。そして海斗は頬に流れる血を拭い、笑う。
「付き合うぜ」
「……そうですね。ここで伸びている場合ではありませんか」
「よっしゃあ! オラァリク、今助けに行くぞォオオオ!! あ、ちょっと待った。タングラム、この指輪をつけとけ」
「は?」
「なあにお守りみてぇなもんだ。サイズは完璧にあってるから安心しとけ! 行くぞォオオ!!」
「逆に怖いんですが……」
雄たけびを上げて走り出す海斗の賑やかさに途切れていた意識が戻ってくる。
何とか立ち上がったイェルバートだが、全身から血が滴り、体が震えるほどの寒さを感じていた。
(これは……普通の傷じゃない?)
「クッソがァ……なんだ、今の攻撃は……ッ! 傷が全然ふさがらねェぞ……!」
シガレットも同じく広がっていく傷に戸惑っていた。フローラとユナイテルも同じ様子で、どうやら他のハンターより傷が深い。
「これが、剣妃の……いや、エルフハイムの呪いなのか……」
何百年も前、まだハンターらが生まれるよりずっと前から続く、エルフとヒトの確執。
自分にとって都合のいい世界を手に入れる為にそれ以外の物を虐げ、破壊するヒトの持つ凶暴性……。
イェルバートは過去にもそこから生まれた怪物を知っている。だからこそ、同じことを繰り返してはならないと強く感じていた。
「憎まれても……止めなきゃいけないんだ。これから生まれてくる子供たちが、“名前を呼んでもらえる”ように……」
これ以上戦えば命に関わるかもしれない。それでも立ち上がったイェルバートの体をフローラの回復魔法が包み込む。
「これは、数多の因縁を終わらせる戦いであると同時に、あらゆる“これから”を始めるための戦いです」
ここで敗れ去れば、この物語はバッドエンドで締めくくられるだろう。
あの不変の剣妃は、これまでに蓄積された呪いを解決するために生み出されたもの。だが、止められなければ破滅を振りまく悪夢となる。
「彼女は私たちを信じて……そして託してくれた。故に、私達は負けません。この困難、見事乗り越えて見せましょう」
「そうだなァ……。ジエルデに託された想いに応えるしかねェよなァ」
シガレットもヒーリングスフィアで仲間の回復を計る。
「オルクスの攻撃はまーまー高度な技みてぇだから、そこまで頻度も高くねぇはずだ。今のうちにさっさと立て直すぞ!」
デスドクロが仲間を立ち上がらせる最中、ザレムは4連カノン砲で血の騎士を狙い撃ち、撃破していく。
「みんなが立て直すまでの間は、俺も前に出て壁になるよ!」
仲間たちがばたばたと動き出す最中、リリティアはヒーリングポーションで傷を癒しながら立ちはだかる血の騎士と向き合っていた。
多重飽和攻撃は回避困難な技だが、アクセルオーバーで更に機動性を高めたリリティアの被害は少なく、まだ余裕があったのだ。
「アレを倒すのは因縁という刃を持つ人達に任せるとして――意思無き兵と無念の霊、確かに請け負いましたよ」
振り下ろされる剣を躱し、背にしていた斬龍刀で一閃。残像を残し、リリティアは単騎で敵勢を翻弄する。
「他の皆さんの邪魔は、させませんから」
シガレットやフローラが回復で立て直しを始めた頃、B班とC班もそれぞれ再起を図っていた。
「やはり、普通の攻撃ではないわね……」
体中に突き刺さった剣の傷跡はアニスの回復を受けてもふさがりきらない。
アリア同様、ヴァイスも同じように深いダメージを受けていた。特にヴァイスはアニスを庇ったので傷が深い。
「ヴァイスさん……血が……!」
「これくらい大丈夫だ。アニスがくれたお守りもあるしな」
首から提げたお守りを握り締め、ヴァイスは巨大なオルクスを見上げる。
これがヒトへの呪いだというのなら、やはりあれは“オルクス”ではないのだろう。
彼女は歪虚ではあったが、種族への固執はなかった。後悔はあれど、呪いなど生み出す筈がない。
「……そうだな。それがお前の望まない姿だというのなら……否定するのが俺の仕事だ」
「俺たちの……ですよ?」
血染めのヴァイスの手を握り締め、アニスは微笑む。
「行きましょう。最後まで、一緒に」
「私達も走りましょう! 攻撃に遅れちゃう!」
真夕の声に続き、ヴァイスとアニスはそれぞれの相棒たるイェジドに跨る。
「傷はもういいかしら? オルクスに仕掛けるわよ! 私に続いて!」
仲間が立て直す間、まだまだ装甲に余裕のあるGLACIALISで単身敵を抑えていたフィルメリア。
歩兵の盾となり戦線を支える、CAMとして適切な運用だ。その後に続き、C班は走り出す。
一方、B班のダメージは大きい。このチームは浄化術と機動力に優れているが、回復能力や耐久能力には欠けている。
ダメージを受けても自己回復で耐えきったリューリと、アクセルオーバーで降り注ぐ攻撃をかわした刹那は比較的余裕を残しているが、それ以外のハンターは持ち直すのに時間がかかる。
「これ以上長引かせるのは此方が不利になる。オルクス本体を叩くぞ……」
「無茶言わないでください。そのダメージで向かうのは自殺行為です。まずは回復をはかりましょう」
膝を着いたオウカのCAMに語り掛ける刹那。彼女の言う通り、大打撃を受けたB班は戦闘に復帰できない。まず立て直しが必須だ。
一方、リューリは血まみれのミリアの前でおろおろしていた。
「ミリアさん、大丈夫!?」
「この傷、どうも普通じゃないね……。でも、大丈夫。ボクに構わずリューリは自分にできる事をするんだ」
「……わかった。先に行って、時間を稼ぐからっ」
頷いてイェジドに跨るリューリ。ギガースアックスを肩に乗せ、オルクスへと走り出した。
●
紅薔薇のGnomeが作る壁を押し壊しながら迫るオルクスへ、紅薔薇は次元斬を次々に繰り出す。
移動する相手に対し、着弾を紅薔薇本人にも完全には制御できないためか、逆にその弾道を読めずこの攻撃は障壁で防がれにくい。
広範囲を吹き飛ばす斬撃は、オルクスに対しても十分なダメージソース足りえる。
だが、動きの遅いGnomeは横倒しにされ、紅薔薇はその肩から落下。そこへ発射される凍結ブレスを宗助が盾を構え、障害物となって防ぐ。
「俺達だけでは抑えきれないか……!」
そこへフィルメリアのマテリアルライフルが着弾。機導砲のトレースで更に威力の増した攻撃にオルクスの視線が動く。
「待たせたわね! C班、攻撃に合流するわ!」
「よし……! まだ全体は立て直せていないけど、時間がない! 攻撃開始だ!」
キヅカの声に合わせ、ハンターたちが動き出す。
「下半身を狙って体勢を崩す! 僕に続け!」
キヅカ、ルナリリル、惣助のCAMがそれぞれ射撃で下半身の蛇を撃つと、蛇もまた血の槍やブレスでこれを迎え撃つ。
大型的と兵器が乱舞する戦域をC班のハンターたちはイェジドに跨って駆ける。
その道中に出現する血の騎士と亡霊たちを前に、真夕は魔法を詠唱する。
「ライトニングボルトで道を開くわ! 一気に駆け抜けて!」
雷の本流が亡霊を薙ぎ払い、血の騎士にもダメージを与える。そこへアリアは獣機銃を放ちながら突き進んでいく。
「あなたの背中は私が守ります! 今は……前へ!」
「ああ!」
剣に炎を纏ったヴァイスはすれ違い様に血の騎士を切り裂く。
その進路に再出現する亡霊には、アニスがシャドウブリットを放った。
「切り込むわ。隙を作るから……皆、続いて……!」
蛇頭が放つブレスをイェジドで躱しながら、アリアは大太刀を振るう。
走りながら蛇頭を次々に斬りつけ、そこへヴァイスが相棒であるグレンと共に突撃する。
薙ぎ払うように繰り出した一撃で、切断された蛇頭が空を舞う。だが、そんなヴァイスの背に別の蛇頭が襲い掛かった。
これをアニスが盾を構え、防御に入る。血の槍を光の盾で防ぎ、一歩も引かない。
「邪魔な騎士はわたしとシリウスが相手をします! ヴァイスさんはオルクスを!」
「アニス……ありがとう」
「いいえ。ここが……わたし達の新たな門出です!」
「守りが堅い……防御を突破できないか……!」
スラスターライフルを放ちながら舌打ちするルナリリル。
オルクスは攻撃に合わせ血の防御障壁を張っている。それらを完全にはがしきるには手数が足りない。
「私達も手伝うよ! とにかくあいつを攻撃すればいいんでしょ!?」
イェジドに騎乗したリューリはオルクスに肉薄し、蛇頭の攻撃を誘発しつつこちらも攻撃に乗り出す。
「へっへーん、こっちだよ! 私はまだ走れる……戦えるんだからっ!!」
「そろそろ時間凍結が来るよ! 全員備えて!」
陽の声がオウカの連結するトランシーバーから各員に伝えられたのはそんな時だ。
陽は時間凍結から次の時間凍結までの時間を測定し、そのリキャストを時計で測定していたのだ。
「今が攻め時だァ! ガンガン回復して前線に味方を送り込むぞォ!」
「はい……私たちが倒れたとしても、一人でも多く戦士を前に……」
B班の刹那が負傷者を運び、A班のカナタ、そしてD班のフローラ、シガレットらが回復を手伝ったおかげでB班もなんとか持ち直している。
強烈な攻撃を受け誰もが傷ついていた。既に倒れていてもおかしくない者も何人もいる。
それでも果敢に怪物へ挑む人々の背中を見つめ、シュネーは自らの血に染まった剣を強く握りしめる。
(沢山の人が頑張っている……ううん、これまでも頑張って来た……)
これはその先端、結末の刹那。それを見届けるためにここまで走って来たのだ。
その感情につけるべき名前はまだ知らずとも、自らの胸の声は聞こえている。
「ここが願いの、祈りの……呪いの先。ちゃんと見て、感じて……そして覚えていたいから」
前に出るハンターの為、倒れたバイクを置き去りに走る。狙いは立ちはだかる血の騎士たちだ。
「むしろ時間凍結中は守りが手薄になる! オルクスに肉薄した状態で結界を張るんだ!」
そう叫びながら走る陽。それに続くように、各方面からハンターがオルクスまでの距離を詰めていく。
予想通り、やや遅れてオルクスは時間凍結の術を再発動する。だが、それはハンターたちにとっては既に読めていた行動だ。
「「「浄化術、展開!」」」
それぞれのハンターが浄化結界でこれを無効化。そして、展開中は防御が手薄になるオルクスへと攻撃を放つ。
「今だ! 一斉砲撃……いっけぇええええ!」
キヅカは叫び、同時に自らもマテリアルライフルを放つ。
「ブッハハハ! 俺様級の時間超越者とは違って時間凍結中に自らも動きが止まるとはな! これならば俺様のブラックワールドコスモキャノンを使うまでもない!」
デスドクロは腕に纏った漆黒の炎を放つ。
「この戦いの決着は、一個人の武力じゃあなく、愛を以て成しえなくちゃならねぇ。蓄積された呪いを解くのは何時だってラヴだ! お前ら、森に見せてやれ! 誰かを想い慈しむ力の強さってヤツをな!」
「皆と一緒に未来を掴むんだ! 誰も死なずに、誰も欠けずに、行こう!」
ザレムは無数の蛇頭をマルチロックオンし、4連装カノンを放つ。
ハンターらが猛攻を仕掛ける中、メトロノームはじっとマテリアルを蓄え、ハープを奏でていた。
「師匠の……エルフハイムの背負ってきたものを、わたしは真には理解できません。けれど過去のためではなく、今を一生懸命に生きる皆のためならば戦えます」
高めたマテリアルは蒼い炎ので作られた幻獣を成し、それは翼を広げ、オルクスめがけて飛んでいく。
「古き軛を焼き払い……神の森に黎明を。灼翼(カトゥリクス)――!」
限界まで高まった炎の翼がオルクスに着弾し、大爆発を起こす。
それにいよいよこらえきれなくなったのか、大きくのけぞると同時に時間凍結結界が解除されていく。
『何故……永遠ヲ拒ム……。純白ノ虚無ニ……全テノ嘆キヲ溶カス……是コソガ理想郷……』
「わたしには元より理解できません。理解できて良いものではないのです。ヒトは誰でも明日が欲しい……それはきっと、師匠も同じですから」
『不確定ナ明日……ソレコソガ災禍ノ根源。望メバ失イ、求メハ憎悪ヲ生ム』
燃え盛る炎を振り払い、不変の剣妃は咆哮する。
『呪ワレテイル。オマエ達ハ、ソノ存在自体ガ……救済ヲ受ケ入レヨ』
「うるせぇぞ、出来損ないが! 言わせとけば勝手ぬかしやがって! お前みたいなモンがジエルデであってたまるかよ!」
ソフィアはライフルで下半身の蛇を狙いながら叫ぶ。
「歪虚ごときにくれてやるものかよ……! こんな黴くせえ森の恨み程度に負けてんじゃねえ、ジエルデ! お前も、あいつらの母親だろうが!」
「そうだぜ! 義理姉様は確かにおっかねぇ女だが、何も変わらねぇクソつまんねー世界なんざ望んじゃいなかった!」
「お前は“不変の剣妃”かもしれない。だが、“オルクス”でも“ジエルデ”でもない。俺達は……お前を認めない!」
海斗とヴァイスの言葉を待たず、オルクスは再び猛攻を開始する。
だが度重なる攻撃により蛇頭も減り、血の騎士や亡霊の復活も遅くなっている。
森の外で戦うハンターらの攻撃が、ここに来て効いてきているのだ。
降り注ぐ血の雨をかい潜り、ハンターたちは最後の攻撃に打って出る。
「微力ながら……我が正義に捧げし剣にて、あなた達の道を切り開こう」
騎乗状態に駆け寄り、蛇頭を斬りつけるユナイテル。
体力は既に限界に近い。だが、勝利まであともう少し。自分にできる事を最後までやり抜くと決めていた。
「ジエルデさんは人事を尽くしたんだ……オレ達も!」
陽はイェジドで蛇頭を潜り抜け、闇属性の弾丸を装填した拳銃で上半身を狙う。
「ジエルデ、安心しろ。必ず殺してやる……信じろ。リューリ、同時に行くぞ!」
「いくよーっ、ミリアさん!」
回復魔法で復活したミリアと共にリューリはイェジドで接近し、また一つ蛇頭を両断し無力化する。
オルクスの反撃に一人、また一人と倒れていくハンターたち。だが、勝機も見えてくる。
「預かったここに来られなかった者の想いも込めて……終わらせよう、俺達みんなで!」
惣助は正面から槍を繰り出しオルクスへと突き刺す。同時に反撃で血の刃がCAMを串刺しにしたが、惣助は離れない。
「キヅカ!」
「届けぇえええええ!!」
ハイパーブーストで跳躍したインスレーターは逆さに構えた刀を繰り出すが、オルクスはこれを腕で受け止める。
常に激しい反撃が予想されるこの状況で、CAMを乗り降りする事は困難だ。仲間の目の前に動けなくなったCAMが横たわっても邪魔になる。今はインスレーターの力を信じるべきだ。
「ここまで皆が繋げた想い……絶やしてたまるかよ! このまま抑え込む!!」
腕に刃を突き刺したまま、ハイパーブーストでオルクスの体を抑え込むインスレーター。
そこへ紅薔薇が次元斬を放ち、更に蛇の頭を吹き飛ばす。
「このまま一気に決める……!」
「よう、久しぶり……だな。今、終わらせるから、な」
ルナリリルもブレードを抜き、刀を手にしたオウカと共にオルクスへとこれを突き刺す。多数のCAMに組みつかれ、いよいよ動きも止まり出した。
「皆が作ったチャンス! 負ける訳にはいかないのよ!」
真夕は追加詠唱を込めたライトニングボルトで障壁を貫いてオルクスにダメージを与える。
「破邪、顕正! 必ず生きて帰るんだから!」
「今よ、ユーリ!」
仲間を巻き込みかねないこの状況でフィルメリアが選んだのは鍛え上げた機導砲だった。
CAMのマテリアルライフルから放たれた一撃がオルクスの腹を貫通し、そこへイェジドに跨って跳躍したユーリが剣を振り上げる。
「オルクス、大切な人達と仲間達から託された想いと祈りをこの一撃込めて……約束通り貴女を『救う』よ。もう、独りで苦しまないでいい……だから、安らかに眠って」
雷鳴を纏った一撃がオルクスの胸を引き裂き、続いてソフィアが舞い上がり、空中を回転し炎を纏った蹴りを放つ。
「不変の剣妃……呪いの連鎖の果てのカタチよ。二度目になるが……引導を、渡してやるぜッ!」
「今回ばかりはタングラムにやらせるわけにはいかねーんでなぁ!」
ジェットブーツで飛翔した海斗が聖機剣を突き刺す。そして最後にオルクスへと主を運んだグレンから跳び、ヴァイスが剣を振り上げる。
それは、アニスが接近を助けてくれた結果。彼女がいなければ深手を負ったヴァイスが最後の一撃を放つことはなかっただろう。
「――さよならだ……オルクス」
炎を纏った斬撃が不変の剣妃の頭部を切り裂く。
その炎がまるで燃え広がるように巨体を焼き、青い光が歪虚を包み込んでいく。
彼の放った一撃が特に強烈だったのは、彼が怪物を倒すべき“人間”だったから。
そして怪物もまた――その一撃を待ち望んでいたからだろうか?
やがて光は爆ぜ、その風は時の淀みすら薙ぎ払うように聖域を中心に吹き抜け、森を覆う結界を払っていった――。
●
「ジエルデどん!」
負傷者が多すぎ、そしてそれらの命を繋ぐ力を持っていたカナタは最前列の攻撃には参加できなかったが、巨体が崩れ去るその時には間に合った。
予想通り、不変の剣妃が消えた後にはジエルデの身体が横たわっていたのだ。
「まだ救えるかもしれぬ……神樹の元へ運べば……ッ」
そう言ってジエルデの手を取るカナタだが、その部分は砂のように崩れてしまう。
「森の精霊に頼んで、英霊なりなんなりで残ることはできぬのか? もう一度……器どんと会う事さえできぬのでは、切ないではないか」
「……ありがとう。でも、私はもう大丈夫です。これで、森は救われる……未来を見ることができるのですから」
紅薔薇は手から剣を零し、ジエルデの傍らに膝を着く。その頬を伝うのは涙だった。
彼女はこの森を救うにはヨハネを倒すだけではいけないと気づいていた。ある意味、正しく問題を把握している一人だった。
結局のところ、この森を根本的に変えるには、現状を強いる過去の呪いを断ち切る必要がある。それはわかっていた。
だが、紅薔薇には呪いを振り払う方法がわからなかったのだ。
「ありがとう……お主がいなければ、救えなかった。じゃが妾は、お主を犠牲にしてしまった……すまぬ」
ジエルデは崩れていく身体で力なく首を横に振る。
「あなた達ならきっと……打ち勝ってくれると信じていましたから」
「……さらばなのじゃ、ジエルデ殿……いや、剣妃。お主達の願いは必ず叶える。もうこれ以上犠牲者は出さない。全部終わったら……ホリィとアイリスと共に、あの家に帰るよ。必ず……帰るから」
涙を拭い、紅薔薇は微笑む。それに満足するように、ジエルデも笑みを返した。
「エルフハイムの長老にこんな気持ちになる日が来るとはな……いや、ある意味当然か。似たモノ同士……だもんな」
ソフィアは苦々しく視線を逸らし、しかし思い直すように笑う。
「タングラム、お前もバカ姉に言いたい事あんだろ。腹ン中のもんぶつけてやれ」
「私は……」
タングラムは頭を振り、姉の胸に手を当てる。
「私の願いは……姉さん、あなたが幸せになってくれる事だった。あなたを守りたかった……例え離れ離れになっても……私にとってたった一人の家族だったから」
「……アイリス」
「でも……私はあなたを守れなかった。だから代わりに、あの子を守るよ。姉さんの想いは……きっと忘れないから」
「大丈夫だぜ、義理姉様。妹たちのことは任せとけ。まあ色々あるけどよ。あいつらを一人にはしないさ。ご覧の通り、仲間はたくさんいるんだからよ」
海斗が笑うと、ジエルデは崩れかけた手で妹の手を握り締める。
次の瞬間その手は崩れ去り、ジエルデ・エルフハイムの体は塵となった。
何一つ残さないために歪虚を成した以上、何一つ残らない。これが正しい結末だ。
「これで、人とエルフの関係は変わる。未来の為に考える事が、また増えそうね」
コクピットの中でフィルメリアはそうつぶやいた。
だがそれは悪いことではない。明日を思うことができる、それのなんと喜ばしいものか。
エルフハイムを飲み込んだ呪いは今、一つのカタチを結び、そして塵となって消え去った。
凍てついた時が動き出す。呪いの明けた光の中、木々は穏やかに風に囁いていた――。
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神宮寺飛鳥 | 31人 |
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