幸せな悪夢に囚われて

マスター:一要・香織

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/04/22 19:00
完成日
2018/04/26 21:15

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 広い庭の隅に佇む大きな木の陰に、二つの影があった。
 暖かな日差し、甘い花の香りを纏った優しい風。
 耳を擽る、大好きな父親の低い声。
 広げた絵本を捲るのはゴツゴツと骨ばった大きな手。
 父親のアイザックの膝の上に乗り、小さな少女は物語の先を急かした。
「どんな逆境にも笑顔を忘れず、一生懸命に夢を追いかけた女の子は、迎えに来てくれた王子様と末永く暮らしましたとさ……めでたしめでたし」
 そう言って絵本を閉じると、少女は後ろを振り返り目を輝かせた。
「その子は幸せになったの?」
 大きな目を見開き見上げてくるその存在を愛おしそうに見つめ、アイザックは口を開いた。
「そうだよ、幸せになったんだ」
 そう伝えると、膝の上の少女は嬉しそうに絵本を抱きしめた。
「そうなんだ! 良かったね!」
 笑顔を見せる少女を抱きしめ、アイザックは呟く。
「そう、だからレイナもいつも笑顔を忘れちゃいけないよ」
「うん!」
 元気よく答えた少女の姿は陽炎の様に揺れ――――――消えた。

 次にぼんやりと浮かび始めたのは可愛らしい部屋の中に佇む一人の若い女。
 その女レイナは、視察に出掛けた父親のアイザックの帰りを待っていた。
 窓辺へと歩み寄ったレイナの瞳に屋敷の門に近付く馬車の姿が映ると、嬉しさが一気に込み上げた。
「帰っていらしたんだわ」
 レイナは部屋を後にしエントランスへと駆け出す。
 いつもより早く帰ってきたことを疑問に思うこともなく、その足は軽やかだった。

 しかしエントランスの正面に続く階段を下りると、何やら外が騒がしい。
 皆、視察が早く終わった事に驚いているのだろうか?
 レイナはそう思い、足を止めることなくエントランスの扉を開けた。
「お父様! お帰りなさい」
 外に飛び出すと同時にそう叫んだレイナの顔が、一瞬にして強張る――――。
 レイナの目に飛び込んできたのは、怪我をした私兵達。
 その中には幼い頃から兄妹の様に育った、サイファーの姿も……。
 腕に巻いた白い布は赤黒く染まり、顔にも大きな切り傷があった。
 馬から降りると崩れるようにその場に倒れ込む。
 そして――――、他の兵士によって馬車から降ろされたのは、青白い顔のアイザックだった……。
「お父、さま……」
 目を見開き、呆然と見つめる。
 地面に横たえられたアイザックの片腕は無く、体中の大きな斬り傷からは大量の血液が流れた跡があった……。
 レイナの心臓がドクリ……と大きく鳴る……。
 肌が粟立ち、恐怖が一気に襲い掛かった。
「お父様!」
 そう言って駆け寄ったアイザックの身体は不快なほどに冷たい。
 ピクリとも動かないその身体を激しく揺する。
「お父様、お父様!」
 恐怖で身体はカタカタと震え、声は裏返る……。
「レイナ様、申し訳……ありません」
 しゃがみ込むレイナの横に膝を着いたサイファーが、額を地面に擦りつけた。
「お守りできず申し訳ありません」
 サイファーの震える声が……アイザックの死を確かなものにした。
「っ、いやあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!」
 心臓が、心が爆発しそうな程の苦しみに襲われ、レイナは悲鳴を上げた―――――。


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!」
 ガバッ!!
「っ!!」
 レイナ・エルト・グランツ(kz0253)は暗い部屋の中で飛び起きた。
 そこは自分の部屋の暖かなベットの上だった。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
 ドキドキと鳴る心臓は全力疾走を繰り返した後の様に苦しく、息も荒い。
 額からは汗が流れ、背筋を伝う冷たい感覚が身体を震わせる。
 それは先日の出来事。父親で前領主のアイザックが雑魔に襲われ、命を落とし戻ってきた時の光景だった。
「夢……だったの……?」
 幼少の頃の父親との幸せな時間、そしてその幸せから突き落とすような父親を失った絶望の時―――忘れられないその瞬間が悪夢となりレイナを襲った……。
 ギュッと握った手は自分の物とは思えないほどに冷たく、レイナは震える息を吐きだした。
「お父様……」
 そう呟くと、視界は滲み、ポツリ、ポツリと涙が頬を伝い落ちて行く。


 それからと言うもの、レイナはどこか上の空であった。
 悪夢にうなされ、よく眠れない日が続いていたのだ。

 ぼんやりとしたまま、レイナは書庫の整理を始めた。
 書庫にはたくさんの棚が並び、その棚の奥に鍵のついた扉が一つ隠れるように存在している。
「書庫にある鍵の付いた部屋は、危険書の保管庫になっております」
 数日前、執事のジルがそう教えてくれた。
 危険書……それはグランツ領で見つかった本物かどうか疑わしい魔導書や呪いの本。王国に提出するまでではないが、領民の手元に置いておくのもどうか……、という本を回収し保管しているのだ。
 それらの本に異常がないか時々見回るのも領主の仕事の一つ。
 鍵を開け中に入ると、ムワッとかび臭い匂いが鼻を突く……。
 顔を顰め、左右の棚に並ぶ本を見ながら一歩、一歩と進んでいくと――――、突然、グラリと視界が歪んだ。
 寝不足のせいか……急激な眩暈にレイナの足はもつれ肩が棚に激突すると、ドサドサッと数冊の本が棚から落下した。
 棚に肩を付いたまま眩暈が治まるのを待ち、小さく息を吐いたレイナは、床に落ちた本を拾い棚に戻していく。
 しかし、最後の一冊を拾おうとした時、持ち上げようとした弾みで本が開いてしまった。
「あっ!」
 そう思った瞬間、本の中から何かが飛び出しレイナに襲い掛かった。
 何か……それは目に見えない何か。空気が歪んだ陽炎の様な、居るとするなら幽霊の様な……。
 その一瞬の視界の歪みが、何かが居ると思わせた……。
「なに……?」
 そう思う間もなく、視界は霞み始め頭の奥がジンと痺れる……。
 強烈な眠気が押し寄せ、レイナはふら付く足を叱責し何とか部屋に戻った。
 ベットに倒れ込むと、深く意識が沈んでいくのがぼんやりと理解できた。
 そして、意識が底に着いた時、目の前にあったのは大好きな父親の姿。
 いつの間にか自分は小さな少女になっていて、手招く父に駆け寄ると膝の上に座り、絵本を開く―――。
 幸せな―――幸せな夢を見始めたのだ。


「レイナ様が目を覚まされないんです」
 数刻後、屋敷の者は慌てふためいていた。
「医者を呼べ!」
 呼ばれた医者にも原因は分からず、レイナは目を覚ますことなく数日が過ぎた。
「ふふっ……お父様……」
 レイナは微笑み寝言でそう呟く。
 幸せな夢でも見ているのだろうか……。
 だが、レイナは徐々に衰弱し始めたのだ。

●ハンターオフィス
「どうか、レイナ様を助けて下さい。このままではレイナ様は衰弱して死んでしまう……」
 己の力不足に怒りを覚え、震える拳を握りながらサイファーは頭を下げた。
「わかりました。至急依頼を出しておきます」
 受付の女性は真摯な顔で力強く頷いた。

リプレイ本文

 領主の館にやってきたハンター達は、依頼主である私兵のサイファーに出迎えられた。
「来ていただき、ありがとうございます」
 深々と頭を下げるサイファーは、少しの安堵と悔しさを滲ませている。
「レイナさんの状態はどうなのですか?」
 顔見知りであるカティス・フィルム(ka2486)の問いに、サイファーは頭を振る。
「眠ったままです。起きる気配はありません」
 酷く沈んだ声が、エントランスに響いた。
 苦々しく歯を食い縛るサイファーの肩を優しく叩きながら、
「私達が必ず助けますから、あまり自分を責めないで……」
 鞍馬 真(ka5819)が声を掛ける。
「真さん……」
 硬く拳を握るサイファーの心情を読み取った真も、何度か依頼で関わり支えたいと思っているレイナが危険なことに、内心穏やかではなかった。
「まかせとけ! 眠りから目覚めねえ美女なんて、お伽噺だけで十分だからな」
 そう言ったジャック・エルギン(ka1522)が、サイファーの背中をバシンと叩き喝を入れる。
 その力強さに、サイファーの息が一瞬止まった。だが、その強さが、ジワジワと体に広がり安心感を与えてくれる。緊張に強張ったサイファーの表情が少し解けた。
 その様子を眺めながら、ちとせ(ka4855)は考えていた。
(永遠に幸せな夢をみていられるのなら……)
 そんな思いが過ぎり、小さく頭を振る。
(亡き人への思いをはせる事も……大切な人との出会いも、今生きているからこそで……)
 眠ったままのレイナが自分と重なり、ちとせは小さく息を吐いた。
「さて、ここで質問です。幸せな夢を見続ける彼女を、叩き起こす理由とは何でしょう?」
 凛とした声でそう言ったのは南條 真水(ka2377)だった。
「え?」
 その質問の意図を汲み取れず、サイファーは目を丸くする。
「辛い事、目を背けたいことがあったんだろう? 悪夢よりもずっと醜態で不幸に満ち溢れた現実なんて捨てて、夢見るままに眠り続けて静かに終わる。それもいいじゃないか。……なのに君はそれを邪魔する。……それはいったいどうしてだい?」
 サイファーにズイッと顔を寄せた真水は、まるで試すかのようにその瞳を覗き込みニヤリと笑った。
「ちゃあんと答えを考えて、お嬢様に聞かせてあげるんだよ」
 楽しみが出来た子供の様に上機嫌に、真水は背中を向けた。
「………」
 言葉を失ったサイファーは、只々その背中を見つめた。
「では、行こうか。どんな物語にも終焉はある。今回は我々の手で物語を終わらせてやろう」
 低く良く通るロニ・カルディス(ka0551)の声が、ハンター達を鼓舞するように響き渡った。

●接敵
 ハンター達は、ロニ、ジャック、ちとせ、そして真水、カティス、真の2班に分かれ捜索を開始した。

「領主サマが目を覚まさないなら、本はまだ近くにいる可能性が高いな……見つけたら直ぐにでも破壊してやるぜ」
 屋敷から危険書の一冊が無くなっている事を聞いたジャックはそう呟きながら、不敵に微笑み肩を回した。
「うむ、鳥の様に飛んでいるのを見たと言っていた者がいたが、何とも奇妙な光景じゃったろうな」
 塀に沿って歩くちとせは、木々の枝先まで注意深く視線を向ける。同時にロニも周囲に視線を飛ばしていた。
「しかし、木が多いな……」
 ロニが眉を顰めると、
「それがいいところなんだよ、グランツは。緑が多くて豊かな土地なんだ」
 何度かグランツを訪れているジャックは、愛着が湧きはじめたこの地を治める領主を、何としても助けたいと今一度強く思った。


「茶色の革表紙だと言っていましたね」
 確認するようにカティスが呟くと、
「そうだねー。あーあ、その本興味深いのに、倒さなきゃいけないなんてねぇ」
 残念そうに肩を落とし、真水が返事する。
「元凶は元から絶たなければいけないよ」
 響劇剣オペレッタの存在を確かめる様に柄を強く握り締めながら、真は鋭く前方に視線を投げる。
 すると、ガサガサッ―――――、葉っぱが擦れる音が静寂を破って耳に届く。
 3人は目配せすると、駆け出した。
 走りながら、真は別班へと連絡を入れる。

 少し拓けた空間に大きな木がどっしりと佇んでいる。
 その揺れる枝の陰から姿を現したのは、鳥の様に羽ばたく本。
 バサリバサリと羽ばたく姿は鳥と言うより、カクカクとぎこちなく傀儡の様だ。
 その姿を目にした真が前に飛び出ると、それを察知した本は大きくページを広げ、分身するかのようにページを散らばせた。紙1枚1枚をナイフの様な形に変えて、曲芸よろしく宙を飛ぶ。
 踏み込んだ真はソウルエッジで強化したオペレッタを振り上げた。
 ヒラヒラと不規則な動きで飛び交うナイフのひとつを破り斬ると、本はまた1枚ページを増やす……。
 その後ろで展開される攻撃を見据えながら、カティスは集中で高めた魔力でファイアアローを唱える。
 ナイフに突き刺さると一気に燃え上がり、灰さえ残さずパッと消えた。
 視界の隅で、ページがまたヒラリと落ちる。
「キリがないのです……」
 カティスが呟き眉を顰めた、その時―――、
「我が言葉にて生み出されし火球よ―――焼き払うのじゃ!」
 ちとせが唱えたファイアーボールが飛び交うページのひとつに当たり、次の瞬間、爆発。炎を纏った熱風は周りのナイフを道ずれにし灰に変えた。
 逆回りで捜索をしていた班が合流し挟み込む形で対峙すると、バサバサと素早く羽ばたく本からは、先程の倍ページが落ちる。
「ジャック、援護する!」
 ロニは駆け付ける間にお守りを使い、スティグマータで効果を引き上げたアンチボディをジャックに掛けた。
 身体を包むオーラ状の障壁を感じながら、ジャックはアニマ・リベラを掲げ飛び込んだ。
 ジャックの存在を察知したナイフたちは、標的をジャックに定めクルリと翻り刃先を向ける。
 飛んで来るナイフの一瞬の間合いを見極め、ジャックは横一閃に薙ぎ払った。
 疾風の如く走った刃は、幾つのもナイフを紙片に変えた。しかし、その攻撃から逃れたナイフがジャックの頬を、腕を掠めて赤い雫を生み出す。
「あの領主サマにゃデカい夢があるんだ。解放してもらうぜ!」
 自分が受けた傷などものともせず、ジャックは吠えた。
「同感だね」
 その叫びに口元を引き上げた真が踏み込み、縦横無尽に刃を翻しページを切り刻む。すぐに迅雷の構えで攻撃してくるナイフに反撃した。
 しかし、切り刻んだページの分だけ、やはり本から紙が抜け落ちてくる。
「刃の飛ばし合いならば、こちらも負けるつもりはない。――――暗黒で鍛えられし無数の刃よ、我が敵を貫け!」
 澄んだロニの声に呼応した漆黒の刃がページに突き刺さり地面へと縫い付ける。
 直度、宙を漂う残りのナイフが扇状の火炎に呑まれた。
「これ、本当は首狩りとか枝切り用なんだけどなぁ」
 そうボヤキながら真水が放ったアイルクロノによって、ページは灰へと変わる。
 本の周りには数枚のナイフが漂うだけとなった。
 直接本を攻撃できそうな状況に、内心焦っている真は迷わず飛び掛かる。
 本がその剣から逃れる様にヒラリと舞うと、開いたページを刃が掠めた。
 切り取られたページは直ぐ様ナイフに変わり、間近にいる真に襲い掛かる。
「くっ……」
 直前にロニがホーリーヴェールを唱えたが、いくつもの攻撃にその防壁は一瞬にして青い光の破片と変わった。
 真は腕に突き刺さったナイフを振り払うと、飛び退き一度距離をとる。
「ナイフの方は、任せるのじゃ」
 ちとせは再びファイアーボールを唱え、本の周りのナイフを焼き払っていく。
 間髪入れず、
「重力攻撃、いくのです! ――紫なる重き光りよ、押し潰すのです!」
 カティスの凛とした声が響いた。
 見えない巨人にでも踏みつぶされるように地面に叩き付けられたナイフは、耐えられずにビリビリと破れ紙片となる。
 ナイフが無くなっていくにつれ、本は焦った様にバサバサと羽ばたくが、本から抜け落ちるページは明らかに少なくなっている。
 眼鏡の奥の瞳を僅かに細め真水がクライアを唱えると、前面に展開された魔方陣に時計の針の様な光の弓矢が浮かび上がり、それは三叉に分かれ鋭く飛んだ。
 その隙にロニは真にアンチボディを掛け、ジャックは仲間を攻撃から守るため、ガウスジェイルで剣を構える。
 本は危険を感じたのだろうか……。
 更に数枚抜け落ちたページは直ぐ様ナイフに変わると、本の周りを螺旋状に飛び交い始めた。
「本もだいぶ弱くなっているのですよ」
「ああ、物語のクライマックスだな」
 カティスの呟きにロニが笑んだ。
 真水が再びアイルクロノを唱えようとすると、それを阻止するようにナイフが真水目掛けて飛んだ。
 ジャックはベクトルを強制的に捻じ曲げ攻撃を引き寄せる。
「っ!」
 ナイフはジャックの足に突き刺さった。
 一瞬の出来事に眉を顰めた真水は止めることなく扇状の火炎を放ち、螺旋状に飛び交うナイフを焼き払った。
 本の周りがーーぽっかりと空いた。
 その隙を見逃さず、真は踏み込んだ。
 本がその軌道から逃れられないよう、ジャックは剛力矢の高加速射撃で本を射った。
 表紙と裏表紙を貫いて刺さった矢が、本の羽ばたきを一瞬封じる。
「これで、終わりだーーー!」
 刹那、地面を擦り上げた真の剣が摩擦熱で発火し、炎を纏った剣が本を両断した。
 包み込まれるように炎に呑まれた本は、一瞬にして燃え上がりパラパラと灰だけを残して消えた。
 途端、残っていたページのナイフも塵に変わり消える。
「これでひと段落か……あとは同じ様な本が無いことを願おう」
 遠くを見据えロニが口を開くと、吹き抜けた風が戦闘の痕跡を攫って行った。

●これからも物語は続いていく
 屋敷に戻ったハンター達は、サイファーに討伐完了の報告をした。
 言葉を詰まらせる程に安堵したサイファーは、直ぐにレイナの元に駆け付けた。
「レイナ様、レイナ様!」
 大きな枕に頭を沈めるレイナを揺すると目蓋は震え、ゆっくりと瞳が開かれる。
「っ……レイナ様」
 レイナの手をぎゅっと握ったサイファーの声が、――――震えた。
「……サイファー……。どうしたのですか?」
 少し掠れた声でレイナが呟くと、サイファーは頭を振って、いいえ……と応えた。
 ハンター達もその姿に胸を撫で下ろす。
「おはよう、お嬢さん。悪い夢は見れたかい?」
 グルグル眼鏡をクイッと上げながら、真水が口を開いた。
「え……?」
 レイナはその時初めて、ハンターの姿に気付く。
 サイファーに支えられ身を起こしたレイナは、少し怠そうだ
「みなさん、……どうされたのですか?」
 ハンターが屋敷に居る事に驚き戸惑った。
 何か依頼をしていただろうか……と不安そうに視線を彷徨わせる。
「目が覚めて良かったな。良い夢を見てたなら悪かったけどよ」
「えっ……と……」
 何が起こっているのか分からずレイナは困惑して眉を下げた。
 すると真がレイナに一歩近づき、目線の高さにしゃがみ込むとこれまでの事情を説明し始めた。

「私が……悪霊に?」
 事情を聴きレイナは驚いた。
「ああ、危険書の中に悪霊が宿っていたんだ。君が最後に居たのは書庫だっただろう?」
 ロニの落ち着いた声が、レイナの記憶を呼び起こす。
「……はい」
 小さく頷いたレイナに、
「それで……どんな夢を見ていたんだい?」
 試す様な口調で真水が尋ねると、レイナは小さく息を飲んだ。
「幸せな、楽しい夢……だったと思います……」
 どんな夢だったか、はっきりとは覚えていない。
 だが、幸せで、胸の奥がキュッとする感覚だった。
 しかし……、レイナの瞳にはジワリと涙が滲み、目を伏せると耐え切れなくなった涙が頬を伝った。
 その夢が、もう二度と手に入らないものだと知っているから……。
 それが酷く悲しく、寂しかった。
 流れる涙が、失った父親に対するものだとハンター達は察した。
「……今はまだ辛い時だろうけど、夢が幸せだと思ったのなら、その夢と思い出を、今を生きる糧にすれば良いと思う。幸せだった事も、辛かった事も、いつか大切な思い出に変わるから」
 思い出せる記憶の無い真は少し羨ましそうにレイナを見つめ目を細めた。
「とにかく……無事で、なによりじゃよ」
 そう言ってちとせはおずおずとクッキーを差しだした。
「甘い物には心を落ち着かせる効果があると聞く。あとで食べるとよい」
 過去に囚われるのではなく、過去を想いながらも前を向けるよう――夢へと歩めるよう……自分にも言い聞かせるように、ちとせはレイナの幸せを願った。
「ありがとう、ございます」
 受け取ったクッキーの優しい重さが、レイナの胸を温かくする。
「厨房でおかゆを作っておきますね。少し落ち着いたら、食べて欲しいのです」
 カティスが微笑みそう言うと、レイナは嬉しそうに口元を綻ばせた。
「カティスさん、いつも……ありがとうございます。皆さんも、本当に、助けて下さってありがとうございます」
 ハンター達の優しさに、またひとつレイナの頬に涙が零れた。
「まあ今回は、アンタを心の底から案じている王子サマに、頭を下げられたからな」
 そう言ったジャックはニヤリと唇を引き上げ、チラリとサイファーを見た。
「なっ……、いや、……あの……」
 サイファーは動転して狼狽え、言葉にならない言葉を放つ。
 しかし―――――、
「え?」
 レイナは何を言われたのか理解していない様で首を傾げた。
 その様子を見ていた真水が、クッと笑いを堪えると、それを合図にしたように、ハンター達はクスクスと笑い始めた。
 状況についていけず、瞬きするレイナは隣に佇むサイファーを見上げるが、
「っ!!」
 サイファーはビックリした様に肩を揺らし、真っ赤になった顔を背けた。
「?」
 レイナが再び首を傾げると、更に笑いが広がり、その温かな雰囲気に釣られレイナもクスリと微笑んだ。

 レイナの無事な姿に安心し屋敷を出たハンター達は帰路に就いた。
 その途中、
「しかし、サイファーも難儀だな」
 ロニが呟くと、
「レイナは近年稀にみる鈍さじゃ」
 可笑しそうにちとせが笑った。
「そうそう、最初に尋ねた質問、サイファーは何て答えたと思う? 自分がレイナの側に居たいから助けたいって、言ったんだよ」
 真水は悪戯が成功したような大きな笑みを浮かべる。
「その辺も含めて、私達は見守ってあげればいいんじゃないか」
 穏やかな笑みを浮かべ真が言うと、
「そうだな。領主サマは色々と大変だからな」
 ジャックが応えた。
 屋敷の方を振り返り、カティスはポツリと呟いた。
「また来ます、なのですよ」
 早く元気になりますように……そう祈りを込めてカティスは微笑んだ。

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重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • ティーマイスター
    カティス・フィルム(ka2486
    人間(紅)|12才|女性|魔術師
  • 夢と眠りに背きし一歩を
    ちとせ(ka4855
    人間(紅)|12才|女性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

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アイコン 相談卓
ちとせ(ka4855
人間(クリムゾンウェスト)|12才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/04/22 11:08:56
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/04/18 23:10:25