ゲスト
(ka0000)
【羽冠】腐敗教会捜査網
マスター:馬車猪
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/08 19:00
- 完成日
- 2018/05/12 19:18
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
重厚な聖堂は白を基調にした飾り付けを施され。
鮮やかな赤絨毯が新郎新婦を柔らかく受け止める。
ステンドグラスを通して清らかな光が降り注ぎ、誓いを交わす瞬間を神秘的に彩った。
●舞台裏
「お疲れ様でした。ホールスタッフは片付けにとりかかって下さい」
「次の式は午後4時からです。気の早い方は正午頃には来られますので……」
「ケーキが届きました、例のサイズです!」
「護衛を2人つけて保冷庫へ運ばせろ。崩れたら始末書じゃ済まんぞ」
神秘は消え去りただの会場へ戻る。
慌ただしく動くスタッフ達は、皆聖職者としての位階を持っているのにただの勤め人しか見えなかった。
●非良識派
「どうですかな監査役殿」
丸々と肥えた司教がぬたりと笑う。
煙草で黄ばんだ歯が非常に目立っている。
「光に祝福された誓いの儀。夫婦も両家も関連業界も大満足の結婚事業ですぞ」
銀のスプーンでタルトを切り取る。
今朝収穫されたばかりのメロンと白いクリームが、きらきらと光ったまま司教の口に消えた。
「マテリアルの消費量は?」
「日常業務で許される範囲ですとも」
監査役と司教の表情は変わらず、応接室の空気が重くなっていく。
お付きの聖職者と護衛の聖堂戦士団がもうやだと思ったタイミングで、唐突に空気が軽くなった。
「勘弁してくださいよ司教様。異端審問に持ち込もうとする動きもあるのですよ」
二十歳にも見えない少女がじっとりとした視線を向ける。
先程までの政治家然とした気配は消え、ある意味聖堂教会らしい信仰と暴力の気配を漂わせていた。
「そんなもの極少数派だろう。儂、歪虚とは殺し合いしかしたことないもん」
年を考えろという雰囲気を平然と無視し、空の皿に銀匙を置いて葉巻を取り出す。
しばらくして紫煙が生じ、強力な最空調設備により誰もいない場所へ放出された。
「というかだな。今更儂が止めても劣化版の結婚事業が乱立するだけだぞ」
司教は数年前ハンターに囁かれてから、リアルブルーの情報を熱心に収拾し続けた。
熾烈な競争を生き残った演出にスキルや儀式を使った演出を重ねることで、豪華さと物理的な清らかさを兼ね備えた式を確立させたのだ。
伝統第一の高位貴族は利用していない。
しかし富裕な市民は積極的に利用して大量の財貨を教会にもたらしていた。
より正確に表現すると、この司教とその傘下にのみ財貨をもたらしている。
「大司教様がその言い分で納得してくれるといいですね」
カロリーたっぷりの菓子を下げさせ、ささみを要求する監査役。
若いを通り越して幼く見える助祭が厨房に走って行く。
「セドリック殿がこんな場末の教会に関わるはずが」
最近の収支を思い出す。
「関わる……かもしれん」
体中に浮かんだ汗が絹服を湿らせる。
それまでの倍以上の頻度で煙草を吸う。
大量の指輪がはまった指が神経質に高級木材の机を叩く。
「適切にごまかしてくれ。君の得意分野だろう」
体はリラックスしているように見えても、目に余裕がなくなっていた。
「地方出の小娘に中央政界相手の工作を期待されても困ります」
できる限りはやりますけどねと言うイコニアは、そろそろ小娘とはいえなくなってきていた。
●捜査網
「標的はこの2人だ」
男女2人の似顔絵が黒板に貼り付けられた。
非常によく特徴を捉えた絵だ。
どちらも頼り甲斐があり、そして己の欲に忠実な傲慢さがある。
「私腹を肥やしている可能性が極めて高い。秘密裏に捜査を進め、確実に追い込める証拠を掴んで欲しい」
聖堂教会と王都捜査機関の有志が困惑して一部が騒ぎ出す。
「司教と司祭をですか」
「爺の方はともかく、若い方は遠征に何度も参加していると聞いたぞ」
「思い出した。こいつらあの派閥の幹部じゃないか!」
聖堂教会は一枚岩ではない。
反歪虚の一点はぶれないものの、何を重視し何に寛容かが組織や個人で違い過ぎることがある。
「すまない、どんな派閥か教えてくれないか」
捜査機関の人間が尋ねると、聖堂教会の面々が苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「言いたかないが非良識派だな。貴族とも豪商とも癒着しまくってる」
「歪虚相手に手抜きをするならとっくに排除されているはずの連中だよ」
中央から派遣されてきた若手役人は憎悪に近い感情を剥き出しにした。
「評判の悪い貴族とも手を結んでいる。こいつらが邪魔で奴等を掣肘出来なかったことが何度も……」
それほど熱心ではない有志が急に気づく。
これ、政争の一環だ。
この期に及んで逃げ出すことも出来ないので、穏便にやり過ごすための手段を必死に考えるのだった。
●戦士団とのゆちゃく!
気づいたときには乾パンの山を食い尽くしていた。
いつものレンガじみたパンとはあまりにも違い過ぎる。
「定期購入だとこの額になります」
とある農業法人の顧問も務める司祭が契約書を渡すと、戦士団部隊の1つを束ねる聖導士がろくに見もせずに署名した。
契約内容は真っ当で良心的価格ともいえるが、利益が農業法人とその母体に流れ込むのも事実であった。
●貴族とのゆちゃく! 1
「なんとかならないかしら。息子の邪魔ではあるけど穏便にしたいのよ」
領主夫人が深刻な顔で頼み込む。
毒や短剣が飛び交う世界ではあるが、好んでそんな手段を使う者は少数派だ。
「その子は覚醒者ではないのですよね? 一定の学力が必要があれば、私塾の医療課程なら入ることができます」
「4年制よね? それだけあれば息子の地位が万全になるわ。例の件は夫にうなずかせるから卒業までお願い」
入学金無料のはずの私塾に、一流教師を10年雇える額の入学金が支払われた。
●貴族とのゆちゃく! 2
「すまん寄親がまたやりやがった。いくらかかってもいいから俺の家まで累が及ばないようしてくれ」
「いいですけど……またですか」
「俺も出来るなら王家派になりたいわい。絶ちたくても絶てないしがらみが多すぎるんだよ!」
聖堂教会のある派閥が猛烈なロビー活動を行い、不祥事に巻き込まれかけた貴族家の社会的地位を守る。
同時期に、歪虚に対する大規模遠征が唐突に始まっていた。
●マスコミとのゆちゃく!
「へー、お貴族様はこんなことまでしてるのかー」
「綺麗な教会っ。私もこんな場所で式をあげられたらなぁ」
教会の隅に張られた壁新聞の前に人だかりが出来ている。
貴族派から資金援助を受けた教育事業や、ひたすら華やかでしかもぎりぎり庶民の手に届く式場プランの紹介だ。
内容を言葉通りに受け取る者は滅多にいない。
しかし多数の教会に張り出され、偏向の強い内容が王国全土にじわじわ広がろうとしていた。
●捜査協力依頼
聖堂教会の腐敗の証拠を集めて欲しい。
以上。
鮮やかな赤絨毯が新郎新婦を柔らかく受け止める。
ステンドグラスを通して清らかな光が降り注ぎ、誓いを交わす瞬間を神秘的に彩った。
●舞台裏
「お疲れ様でした。ホールスタッフは片付けにとりかかって下さい」
「次の式は午後4時からです。気の早い方は正午頃には来られますので……」
「ケーキが届きました、例のサイズです!」
「護衛を2人つけて保冷庫へ運ばせろ。崩れたら始末書じゃ済まんぞ」
神秘は消え去りただの会場へ戻る。
慌ただしく動くスタッフ達は、皆聖職者としての位階を持っているのにただの勤め人しか見えなかった。
●非良識派
「どうですかな監査役殿」
丸々と肥えた司教がぬたりと笑う。
煙草で黄ばんだ歯が非常に目立っている。
「光に祝福された誓いの儀。夫婦も両家も関連業界も大満足の結婚事業ですぞ」
銀のスプーンでタルトを切り取る。
今朝収穫されたばかりのメロンと白いクリームが、きらきらと光ったまま司教の口に消えた。
「マテリアルの消費量は?」
「日常業務で許される範囲ですとも」
監査役と司教の表情は変わらず、応接室の空気が重くなっていく。
お付きの聖職者と護衛の聖堂戦士団がもうやだと思ったタイミングで、唐突に空気が軽くなった。
「勘弁してくださいよ司教様。異端審問に持ち込もうとする動きもあるのですよ」
二十歳にも見えない少女がじっとりとした視線を向ける。
先程までの政治家然とした気配は消え、ある意味聖堂教会らしい信仰と暴力の気配を漂わせていた。
「そんなもの極少数派だろう。儂、歪虚とは殺し合いしかしたことないもん」
年を考えろという雰囲気を平然と無視し、空の皿に銀匙を置いて葉巻を取り出す。
しばらくして紫煙が生じ、強力な最空調設備により誰もいない場所へ放出された。
「というかだな。今更儂が止めても劣化版の結婚事業が乱立するだけだぞ」
司教は数年前ハンターに囁かれてから、リアルブルーの情報を熱心に収拾し続けた。
熾烈な競争を生き残った演出にスキルや儀式を使った演出を重ねることで、豪華さと物理的な清らかさを兼ね備えた式を確立させたのだ。
伝統第一の高位貴族は利用していない。
しかし富裕な市民は積極的に利用して大量の財貨を教会にもたらしていた。
より正確に表現すると、この司教とその傘下にのみ財貨をもたらしている。
「大司教様がその言い分で納得してくれるといいですね」
カロリーたっぷりの菓子を下げさせ、ささみを要求する監査役。
若いを通り越して幼く見える助祭が厨房に走って行く。
「セドリック殿がこんな場末の教会に関わるはずが」
最近の収支を思い出す。
「関わる……かもしれん」
体中に浮かんだ汗が絹服を湿らせる。
それまでの倍以上の頻度で煙草を吸う。
大量の指輪がはまった指が神経質に高級木材の机を叩く。
「適切にごまかしてくれ。君の得意分野だろう」
体はリラックスしているように見えても、目に余裕がなくなっていた。
「地方出の小娘に中央政界相手の工作を期待されても困ります」
できる限りはやりますけどねと言うイコニアは、そろそろ小娘とはいえなくなってきていた。
●捜査網
「標的はこの2人だ」
男女2人の似顔絵が黒板に貼り付けられた。
非常によく特徴を捉えた絵だ。
どちらも頼り甲斐があり、そして己の欲に忠実な傲慢さがある。
「私腹を肥やしている可能性が極めて高い。秘密裏に捜査を進め、確実に追い込める証拠を掴んで欲しい」
聖堂教会と王都捜査機関の有志が困惑して一部が騒ぎ出す。
「司教と司祭をですか」
「爺の方はともかく、若い方は遠征に何度も参加していると聞いたぞ」
「思い出した。こいつらあの派閥の幹部じゃないか!」
聖堂教会は一枚岩ではない。
反歪虚の一点はぶれないものの、何を重視し何に寛容かが組織や個人で違い過ぎることがある。
「すまない、どんな派閥か教えてくれないか」
捜査機関の人間が尋ねると、聖堂教会の面々が苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「言いたかないが非良識派だな。貴族とも豪商とも癒着しまくってる」
「歪虚相手に手抜きをするならとっくに排除されているはずの連中だよ」
中央から派遣されてきた若手役人は憎悪に近い感情を剥き出しにした。
「評判の悪い貴族とも手を結んでいる。こいつらが邪魔で奴等を掣肘出来なかったことが何度も……」
それほど熱心ではない有志が急に気づく。
これ、政争の一環だ。
この期に及んで逃げ出すことも出来ないので、穏便にやり過ごすための手段を必死に考えるのだった。
●戦士団とのゆちゃく!
気づいたときには乾パンの山を食い尽くしていた。
いつものレンガじみたパンとはあまりにも違い過ぎる。
「定期購入だとこの額になります」
とある農業法人の顧問も務める司祭が契約書を渡すと、戦士団部隊の1つを束ねる聖導士がろくに見もせずに署名した。
契約内容は真っ当で良心的価格ともいえるが、利益が農業法人とその母体に流れ込むのも事実であった。
●貴族とのゆちゃく! 1
「なんとかならないかしら。息子の邪魔ではあるけど穏便にしたいのよ」
領主夫人が深刻な顔で頼み込む。
毒や短剣が飛び交う世界ではあるが、好んでそんな手段を使う者は少数派だ。
「その子は覚醒者ではないのですよね? 一定の学力が必要があれば、私塾の医療課程なら入ることができます」
「4年制よね? それだけあれば息子の地位が万全になるわ。例の件は夫にうなずかせるから卒業までお願い」
入学金無料のはずの私塾に、一流教師を10年雇える額の入学金が支払われた。
●貴族とのゆちゃく! 2
「すまん寄親がまたやりやがった。いくらかかってもいいから俺の家まで累が及ばないようしてくれ」
「いいですけど……またですか」
「俺も出来るなら王家派になりたいわい。絶ちたくても絶てないしがらみが多すぎるんだよ!」
聖堂教会のある派閥が猛烈なロビー活動を行い、不祥事に巻き込まれかけた貴族家の社会的地位を守る。
同時期に、歪虚に対する大規模遠征が唐突に始まっていた。
●マスコミとのゆちゃく!
「へー、お貴族様はこんなことまでしてるのかー」
「綺麗な教会っ。私もこんな場所で式をあげられたらなぁ」
教会の隅に張られた壁新聞の前に人だかりが出来ている。
貴族派から資金援助を受けた教育事業や、ひたすら華やかでしかもぎりぎり庶民の手に届く式場プランの紹介だ。
内容を言葉通りに受け取る者は滅多にいない。
しかし多数の教会に張り出され、偏向の強い内容が王国全土にじわじわ広がろうとしていた。
●捜査協力依頼
聖堂教会の腐敗の証拠を集めて欲しい。
以上。
リプレイ本文
●教会
フィーナ・マギ・フィルム(ka6617)をソファーが柔らかく受け止めた。
反発も絶妙で体の疲れが抜けていく。
応接の調度の全てがこれと同程度の質の品で揃えられていた。
「ずいぶん儲かっているようですね」
「エクラ様のお陰ですよ」
司教のふくよかな顔には人好きのする笑顔が浮かんでいる。
中身は子供向け漫画に登場するような腐敗聖職者なのに、気を抜くと好感を抱いてしまいそうだ。
相手の脅威を情報収集しつつフィーナは言葉での攻撃を開始した。
「結婚式事業は流行っているらしいですね。有償で広めるつもりはないのですか」
「若い方に褒められると嬉しくなりますな」
本当に感じが良い。
フィーナでも違和感を見つけられない。
もっとも、相手のこれまでの行動から思考を読むことはできる。
「教会を使うわけですからお金を上納しないと」
「単刀直入ですな」
司教の返答には、ほんのわずかではあるが不自然な間があった。
式場事業の利益を全額懐に入れている訳ではない。
しかし利益は膨大であることは事実だし、その大部分を懐に入れているのもまた事実。
「既に何らかの形でされているとは思いますが」
もししなかったら近い内取り上げられる。
遠回しにそう指摘された司教は、表情は変えないまま目に猜疑の色を浮かべる。
「私は調査員です。今後も会うことがあるかもしれませんね?」
許可を得ずに立ち上がって応接室から出る。
司教は、誰から見ても分かる程度に表情を引き攣らせていた。
「鞍替えされてしまったか」
「フィーナさんも聖堂教会の所属ではありませんからね?」
開きっぱなしの反対側のドアから、余所行き着のエステル(ka5826)が顔を出した。
「エステル臨時司祭! 同席してくれてもよかったのに」
怪しげな称号で呼びかけてくる司教に、エステルは曖昧な微笑で距離をとる。
「そんな所に立っていずに座りなさい。他の方達もどうぞ。おおい、一番ジュースを頼むよ」
アンティーク風の伝話に語りかけて丁度2分後に、芳醇な香りを漂わせるグラスが銀の盆で運ばれてきた。
「久しぶりー」
宵待 サクラ(ka5561)がソファーの上で手を振った。
配膳をしている少年少女は顔馴染みだ。
別の依頼でサクラが散々しごいたうちの2人であり、その2人は上品かつ控えめに黙礼して退室していく。
「っていうかさー、イコちゃんもだけと司教様コミュさぼりすぎてない?」
毒味のつもりで1口。
舌から脳へ美味の情報ががつんと伝わる。
「口は物を食べるだけじゃない、話すためにもあるんだよ。話し合わなきゃ理解は進まない、相手の望むことと相手の知らないことを織り交ぜて目的を達成する、これが大事」
「面倒じゃん」
司教は地位と年齢に相応しくない言葉を平然と使う。
サクラは少なくとも敵ではないと認識されているのだ。
「大司教は王女派で、金が自分の所に回らないのが気に入らないんだよね?」
「ちょっと違うな」
予想外に上品な仕草でグラスを傾ける司教。
刺激的な柑橘系の香りがサクラまで漂う。
「大司教殿は清く正しい聖職者よ。他にやれる者がいないから政界入りしただけだ」
「つまり大司教様はストレスたまってて司教様がぷちっと潰されるかもってことじゃん」
次の話に移る。
「転移してきた全ての人間の宗教行事を網羅できるほどの宗教家が転移したわけじゃない。彼らが教会に来たくなるよう、参列者に振る舞う料理も研究しているって言えばそれも美食の理由にはなる」
司教はうなずきながらお代わりにジュースを注文。
届く前に昼飯の注文もし始めた。
「そのためにプラン情報は季節に合わせ年4回は発行したい。置きっ放しの情報なんて誰も手に取らないからね。使う花や演出を季節で変え、その季節のエクラの祭日や聖人の話も小噺的に盛り込む。各教会にこれを貼ってもらう代わりに毎回巡礼路案内図を各教会に無償で少量配る。これで人集めしてるって言い張れるよね?」
「よい案だ。イコニア君に話を通しておこう」
サクラは無言で片方の眉をあげた。
信用はされても信頼まではされていないということかもしれない。
「事業としては悪くないと思うので、聖堂教会公認にするために他の教会にも広めては? 場所が違えば競合もなさそうです」
ソナ(ka1352)の発言を聞いて、司教は困ったように頬をかいた。
「金持ちは王都に集中しているからなぁ。この教会も王都に近いから盛況な訳だし」
口ではそう言っているが反発している様子はない。
懐から出した紙にソナの発言を書き留め、検討し数日中に報告書を出すようにと書き込みお代わりを持っていた子供に手渡した。
教会の一部派閥のみから臨時司祭呼ばわりされている少女が、深刻な顔で財務書類から顔をあげる。
「拝金主義なのではなく、女性のために! を掲げましょう」
腐敗や汚職と一般の者に思われるのは一ヵ所にお金が溜まりすぎているから。
故に安価な式場プランを製作および他教会に普及させ、新たな金の流れをつくってなんとかごまかす。
ごまかすことに失敗したら汚職と脱税とエクラの精神からの乖離やらなんやらで逮捕者多数だ。
「例えば、礼服をレンタルしての写真撮影など、式を上げれなくてもせめて綺麗なお化粧をしてドレスを着たいという女性は必ずいると思います」
結婚式に拘らず家族写真でもいい。
お客にお値段以上の満足を提供して定期的な高収入という、良識派がこの場にいたらエステルも司教の同類扱いされてしそうな提案であった。
「また、サクラさんの印刷物に……」
式場の見学などに来た女性やそのパートナーから結婚の決め手や今の嬉しさを語ってもらう記事。
結婚後の疑問や不安とかなどに対する既婚者からアドバイスを載せた記事。
どれを載せても欲望を刺激する。しかも聖堂教会が何百年もノウハウを蓄積してきた分野なので失敗する要素がない。
司教の表情が変わる。
身内の友人に対するものでも協力者に対するものでもなく、異様に高い能力を者に対する視線を向けている。
「君達だけで考えたのか?」
悪魔的ともいえる集金システムだ。
「リアルブルーからの情報は参考にしました」
エステルは何でもないことにように返事をする。
「一部を雑誌として分離させてもよいかもしれませんね」
結婚式事業が、洗練の度合いを増して人とお金を巻き込もうとしていた。
●教会の蔭
草木も眠る丑三つ時。
某司祭が監査を務める学校に忍び込んだ北谷王子 朝騎(ka5818)は、顔見知りの精霊に肩車をせがまれ不寝番に鍵を渡されていた。
「ハードな交渉でちた」
真剣な顔で額の汗をぬぐう朝騎を、カソックを着た幼女姿の精霊が真似ている。
「イコニアさんの不正が発覚、左遷され島流し、校長が学校経営失敗し潰れ、子供達が路頭に迷い」
放置すれば確実に起きる未来を聞き、地域密着型精霊が慌て出す。
「ルルしゃんお腹ぺこぺこりんになるでちゅ」
たすけてー、と非覚醒者あれば人格が吹き飛びかねない大量の情報が朝騎の頭に流し込まれた。
鍛えたハンターなら大丈夫だし朝騎は慣れているのでもっと安全だ。
イコニアの執務室を家捜しするついでに、薄手の絹の白を見つけてつまみあげる。少女趣味なレースがついた白絹製だった。
「怪しいパンツでちゅね。まさかこれで貴族に色仕掛けして金の無心をしてたりするんでちょうか? 不正の証拠は消しておきまちゅ」
「ええと」
ソナが、通報すべきか真剣に悩んでいた。
「不正の証拠もあるでちゅよ?」
ポッケに白を回収して机に向かう。
先程ヘアピンで開けた鍵付き日記帳だ。
中身は備忘録というより超どんぶり勘定の支払いと受け取りの記録。
これが公になると、余程好意的に解釈されない限りイコニアは後ろに手が回る。
「一度、良識派という方にお目にかかったのですが」
つきあいの長いこの2人と1柱も、イコニアを良識派に分類することはありえない。
「イコニアさん達のせいで、邪魔な貴族を抑えられなかったというのは、どういう」
明朝の朝ご飯前には焚き付けになる日記帳が開かれる。
そこには、付き合い上やるしかなけどしたくないというコメントと共に、貴族の不祥事もみ消しに協力したととれる動きが記載されていた。
●一般的聖堂戦士団
「全員不合格でしたぁ!」
1人が泣き出すと、むさ苦しい男達全員が泣き出した。
「服装チェックかに引っかかって……」
よく言えば清貧、率直に表現すれば貧乏臭く粗野な連中だ。
「そうですか」
結婚事業に警備として雇われるのを勧めたのはフィーナだ。
不合格はフィーナに対する意趣返しではない。
警備であっても求められる基準が非常に高いのだ。客層が高額所得者だし。
「これからどうすればいいんだ」
肩を落とす大量に、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が困惑の視線を向けた。
「念のために聞くんだがよ。帳簿管理とか事務系の仕事できる奴いるか?」
20人以上いる中の2人が手をあげる。
ただしその手に力は無い。
イコニア級より酷い丼勘定といえば酷さが分かるだろう。
「雇う金は……あったらこうなっちゃいないか」
筋肉と体力を維持出来る程度には食事を出来ているが、味は最悪だし普段着はもちろん礼服もかなり草臥れている。
「組合はないのです?」
ソナたずねると、隊長が部隊を代表して説明した。
「聖堂戦士団全体を強力に支配する部署も人も無しで、皆で本部に訴えても……」
金に綺麗な分人材が集まり辛く、人材が足りないため金集めも金儲けも苦手でこの有様だった。
「状況は改善しないなら、生活の為ですし副業もやむを得ないですよね」
「他に手段はないと思うの」
ディーナ・フェルミ(ka5843)が手の平を打ち合わせて注意を引きつけた。
「既にルル農業法人と契約していると聞いたの。それなら、ルル聖導士学校とも契約してしまえばいいと思うの」
完全に傘下に入れることになるが仕方が無い。
この部隊を放置すれば自壊してしまう。
「丘精霊のルル様はエクラの使徒精霊と言っても過言ではない恰好をしていらっしゃるの。ならばその精霊さまを見たいとやってくる人達の通る道は新たな巡礼路だと思うの」
ボルディアが片方の眉を上げた。
イコニアは安全のため精霊を秘すことを望んでいる。
とはいえ好き勝手に動き回る精霊は大勢の人間に目撃されてしまっているし、一定以上の地位があって興味がある者はだいたい知っている。
近い将来護衛が必要になるのは確実だった。
「そして聖導士学校の子供達は長じれば貴方達と同じ聖堂戦士団になるの。ならば貴方達がルル聖導士学校と契約して新たな巡礼路を守り、新たな聖導士誕生のために尽力するのは聖堂戦士団として自然なことだと思うの」
「不寝番を申し出たら感謝と謝礼が支払われますよ」
ソナが捕捉してイコニアから預かってきた委任状を部隊に示した。
誰も文句を言えない名目だ。
ルル聖導士学校の背後には資金豊富な派閥があるので資金繰りにも楽になる。
「あの派閥に組み込まれるのはさすがに……」
隊長は決断できない。
某派閥の評判は自業自得で非常に悪いのだ。
ディーナも否定はせず、にこにこ笑って囁くように殺し文句を口にした。
「それに……ルル聖導士学校はご飯がおいしい事でも有名なの」
「隊長!」
「任せてください。巡礼にも生徒にも指一本触れさせません!」
盛り上がった団員を拒否すればクーデター不可避だ。
こうして、地味に聖導士学校が拡大したのであった。
「なあ」
ボルディアが至極冷静にツッコミを入れる。
「学校まで出張する余裕、あるのか?」
団員全員の顔が青くなる。
「団の仕事内容の内、民間に割り振れそうな仕事はねーか? 例えば地域のボランティア的な活動、団の武力が必須でない活動とか、いっぱいあるんじゃねーか?」
やる義務はないのに惰性で続けている業務は複数ある。
「今までやっていたものを明日からやらねぇ、っつうとクレームが来そうだが」
落ち込む男共に助けを出す。
「地域の顔役を招いて、団の仕事に集中することで訓練時間の確保ができ、結果的に治安が良くなるとでも言っておけ。焼き立てパンと新鮮野菜と分厚い肉が食いたいならな」
かつてなく士気が上がった部隊が、難しい交渉を成功させることになる。
●印刷所
インクの香りのする建物に巨乳メイドか駆け込んできた。
「感動の説得劇でちた」
詰め物の位置を直してから、お土産に持たされた箱入りクッキーを受付に渡す。
「会議はもう始まっているでちょうか」
優れた覚醒者としての能力を盛大に無駄遣いして滑るように歩く。
「やっぱ駄目か?」
「システィーナ様やでっかい所の情報出すなら、外で作った見本もらわないと無理ですわ」
使い込んだ作業着姿の社長が首を横へ振る。
「うちのセンスじゃまずいです。野暮ったい出来ちゃ文句も来るし物も売れないってもんで」
「えー、じゃあ写真集出せないでちゅか?」
撮りためた写真を見せる。
子猫に遊ばれているカソック幼女が特に人気でなんとか印刷に持っていこうとしたが、大量印刷前にイコニアに踏み込まれて阻止された。
●政治
肥やした民が差し出す税で建てられた堅牢かつ優美な屋敷。
守りを固めるのは大量の金と時間で育成された覚醒者達。
新興貴族の中で特に力が強いこの家は、新興故に社会上層とのコネが弱くトラブルから脱するのに苦労していた。
「魅力的な計画だ」
精力に溢れる瞳が苛立たしげに瞬く。
これまで縁のなかった聖堂教会良識派の紹介状を携え現れたリアルブルー人が、特に促そうともせず貴族の回答を待っている。
「聖堂戦士団の一部部隊の兵站を担当することで戦働きの代わりにする、か。私兵団の頭数が少ない私にとっては渡りに船ではあるが」
非良識派、要するにイコニアが属する派閥への献金よりは安くつく。
「良識派の承諾は得ています」
カップを置いてエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)が事実だけを口にする。
「一部を除き政治下手の彼等かね?」
「閣下にとってはその方がよいと思います」
貴族は何かを言いかけ、結局何も言わずに口を閉じた。
剣だこのある指が黒檀の机を苛立たしげに叩く。
数分が過ぎ、ひときわ大きなため息が吐かれ、貴族の口が再び開いた。
「1つ質問に答えてもらう」
「はい、可能なことであればなんなりと」
「あの司祭と派閥の影響力は強い。どうやって衝突を避けるつもりだ?」
「王国は広く巡礼路も長い。そこを守護する戦士団はいくつあるのでしょう」
小さな羊皮紙を机に置く。
非良識派に組した部隊の隣接部隊へ直接の連絡先と、組した部隊の中で拒否した少人数の名前がずらりと並んでいる。
「これならいけるか。具体的な交渉は……」
「でしたら……」
このようにして、貴族派に属していた家が鞍替えを完了した。
フィーナ・マギ・フィルム(ka6617)をソファーが柔らかく受け止めた。
反発も絶妙で体の疲れが抜けていく。
応接の調度の全てがこれと同程度の質の品で揃えられていた。
「ずいぶん儲かっているようですね」
「エクラ様のお陰ですよ」
司教のふくよかな顔には人好きのする笑顔が浮かんでいる。
中身は子供向け漫画に登場するような腐敗聖職者なのに、気を抜くと好感を抱いてしまいそうだ。
相手の脅威を情報収集しつつフィーナは言葉での攻撃を開始した。
「結婚式事業は流行っているらしいですね。有償で広めるつもりはないのですか」
「若い方に褒められると嬉しくなりますな」
本当に感じが良い。
フィーナでも違和感を見つけられない。
もっとも、相手のこれまでの行動から思考を読むことはできる。
「教会を使うわけですからお金を上納しないと」
「単刀直入ですな」
司教の返答には、ほんのわずかではあるが不自然な間があった。
式場事業の利益を全額懐に入れている訳ではない。
しかし利益は膨大であることは事実だし、その大部分を懐に入れているのもまた事実。
「既に何らかの形でされているとは思いますが」
もししなかったら近い内取り上げられる。
遠回しにそう指摘された司教は、表情は変えないまま目に猜疑の色を浮かべる。
「私は調査員です。今後も会うことがあるかもしれませんね?」
許可を得ずに立ち上がって応接室から出る。
司教は、誰から見ても分かる程度に表情を引き攣らせていた。
「鞍替えされてしまったか」
「フィーナさんも聖堂教会の所属ではありませんからね?」
開きっぱなしの反対側のドアから、余所行き着のエステル(ka5826)が顔を出した。
「エステル臨時司祭! 同席してくれてもよかったのに」
怪しげな称号で呼びかけてくる司教に、エステルは曖昧な微笑で距離をとる。
「そんな所に立っていずに座りなさい。他の方達もどうぞ。おおい、一番ジュースを頼むよ」
アンティーク風の伝話に語りかけて丁度2分後に、芳醇な香りを漂わせるグラスが銀の盆で運ばれてきた。
「久しぶりー」
宵待 サクラ(ka5561)がソファーの上で手を振った。
配膳をしている少年少女は顔馴染みだ。
別の依頼でサクラが散々しごいたうちの2人であり、その2人は上品かつ控えめに黙礼して退室していく。
「っていうかさー、イコちゃんもだけと司教様コミュさぼりすぎてない?」
毒味のつもりで1口。
舌から脳へ美味の情報ががつんと伝わる。
「口は物を食べるだけじゃない、話すためにもあるんだよ。話し合わなきゃ理解は進まない、相手の望むことと相手の知らないことを織り交ぜて目的を達成する、これが大事」
「面倒じゃん」
司教は地位と年齢に相応しくない言葉を平然と使う。
サクラは少なくとも敵ではないと認識されているのだ。
「大司教は王女派で、金が自分の所に回らないのが気に入らないんだよね?」
「ちょっと違うな」
予想外に上品な仕草でグラスを傾ける司教。
刺激的な柑橘系の香りがサクラまで漂う。
「大司教殿は清く正しい聖職者よ。他にやれる者がいないから政界入りしただけだ」
「つまり大司教様はストレスたまってて司教様がぷちっと潰されるかもってことじゃん」
次の話に移る。
「転移してきた全ての人間の宗教行事を網羅できるほどの宗教家が転移したわけじゃない。彼らが教会に来たくなるよう、参列者に振る舞う料理も研究しているって言えばそれも美食の理由にはなる」
司教はうなずきながらお代わりにジュースを注文。
届く前に昼飯の注文もし始めた。
「そのためにプラン情報は季節に合わせ年4回は発行したい。置きっ放しの情報なんて誰も手に取らないからね。使う花や演出を季節で変え、その季節のエクラの祭日や聖人の話も小噺的に盛り込む。各教会にこれを貼ってもらう代わりに毎回巡礼路案内図を各教会に無償で少量配る。これで人集めしてるって言い張れるよね?」
「よい案だ。イコニア君に話を通しておこう」
サクラは無言で片方の眉をあげた。
信用はされても信頼まではされていないということかもしれない。
「事業としては悪くないと思うので、聖堂教会公認にするために他の教会にも広めては? 場所が違えば競合もなさそうです」
ソナ(ka1352)の発言を聞いて、司教は困ったように頬をかいた。
「金持ちは王都に集中しているからなぁ。この教会も王都に近いから盛況な訳だし」
口ではそう言っているが反発している様子はない。
懐から出した紙にソナの発言を書き留め、検討し数日中に報告書を出すようにと書き込みお代わりを持っていた子供に手渡した。
教会の一部派閥のみから臨時司祭呼ばわりされている少女が、深刻な顔で財務書類から顔をあげる。
「拝金主義なのではなく、女性のために! を掲げましょう」
腐敗や汚職と一般の者に思われるのは一ヵ所にお金が溜まりすぎているから。
故に安価な式場プランを製作および他教会に普及させ、新たな金の流れをつくってなんとかごまかす。
ごまかすことに失敗したら汚職と脱税とエクラの精神からの乖離やらなんやらで逮捕者多数だ。
「例えば、礼服をレンタルしての写真撮影など、式を上げれなくてもせめて綺麗なお化粧をしてドレスを着たいという女性は必ずいると思います」
結婚式に拘らず家族写真でもいい。
お客にお値段以上の満足を提供して定期的な高収入という、良識派がこの場にいたらエステルも司教の同類扱いされてしそうな提案であった。
「また、サクラさんの印刷物に……」
式場の見学などに来た女性やそのパートナーから結婚の決め手や今の嬉しさを語ってもらう記事。
結婚後の疑問や不安とかなどに対する既婚者からアドバイスを載せた記事。
どれを載せても欲望を刺激する。しかも聖堂教会が何百年もノウハウを蓄積してきた分野なので失敗する要素がない。
司教の表情が変わる。
身内の友人に対するものでも協力者に対するものでもなく、異様に高い能力を者に対する視線を向けている。
「君達だけで考えたのか?」
悪魔的ともいえる集金システムだ。
「リアルブルーからの情報は参考にしました」
エステルは何でもないことにように返事をする。
「一部を雑誌として分離させてもよいかもしれませんね」
結婚式事業が、洗練の度合いを増して人とお金を巻き込もうとしていた。
●教会の蔭
草木も眠る丑三つ時。
某司祭が監査を務める学校に忍び込んだ北谷王子 朝騎(ka5818)は、顔見知りの精霊に肩車をせがまれ不寝番に鍵を渡されていた。
「ハードな交渉でちた」
真剣な顔で額の汗をぬぐう朝騎を、カソックを着た幼女姿の精霊が真似ている。
「イコニアさんの不正が発覚、左遷され島流し、校長が学校経営失敗し潰れ、子供達が路頭に迷い」
放置すれば確実に起きる未来を聞き、地域密着型精霊が慌て出す。
「ルルしゃんお腹ぺこぺこりんになるでちゅ」
たすけてー、と非覚醒者あれば人格が吹き飛びかねない大量の情報が朝騎の頭に流し込まれた。
鍛えたハンターなら大丈夫だし朝騎は慣れているのでもっと安全だ。
イコニアの執務室を家捜しするついでに、薄手の絹の白を見つけてつまみあげる。少女趣味なレースがついた白絹製だった。
「怪しいパンツでちゅね。まさかこれで貴族に色仕掛けして金の無心をしてたりするんでちょうか? 不正の証拠は消しておきまちゅ」
「ええと」
ソナが、通報すべきか真剣に悩んでいた。
「不正の証拠もあるでちゅよ?」
ポッケに白を回収して机に向かう。
先程ヘアピンで開けた鍵付き日記帳だ。
中身は備忘録というより超どんぶり勘定の支払いと受け取りの記録。
これが公になると、余程好意的に解釈されない限りイコニアは後ろに手が回る。
「一度、良識派という方にお目にかかったのですが」
つきあいの長いこの2人と1柱も、イコニアを良識派に分類することはありえない。
「イコニアさん達のせいで、邪魔な貴族を抑えられなかったというのは、どういう」
明朝の朝ご飯前には焚き付けになる日記帳が開かれる。
そこには、付き合い上やるしかなけどしたくないというコメントと共に、貴族の不祥事もみ消しに協力したととれる動きが記載されていた。
●一般的聖堂戦士団
「全員不合格でしたぁ!」
1人が泣き出すと、むさ苦しい男達全員が泣き出した。
「服装チェックかに引っかかって……」
よく言えば清貧、率直に表現すれば貧乏臭く粗野な連中だ。
「そうですか」
結婚事業に警備として雇われるのを勧めたのはフィーナだ。
不合格はフィーナに対する意趣返しではない。
警備であっても求められる基準が非常に高いのだ。客層が高額所得者だし。
「これからどうすればいいんだ」
肩を落とす大量に、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が困惑の視線を向けた。
「念のために聞くんだがよ。帳簿管理とか事務系の仕事できる奴いるか?」
20人以上いる中の2人が手をあげる。
ただしその手に力は無い。
イコニア級より酷い丼勘定といえば酷さが分かるだろう。
「雇う金は……あったらこうなっちゃいないか」
筋肉と体力を維持出来る程度には食事を出来ているが、味は最悪だし普段着はもちろん礼服もかなり草臥れている。
「組合はないのです?」
ソナたずねると、隊長が部隊を代表して説明した。
「聖堂戦士団全体を強力に支配する部署も人も無しで、皆で本部に訴えても……」
金に綺麗な分人材が集まり辛く、人材が足りないため金集めも金儲けも苦手でこの有様だった。
「状況は改善しないなら、生活の為ですし副業もやむを得ないですよね」
「他に手段はないと思うの」
ディーナ・フェルミ(ka5843)が手の平を打ち合わせて注意を引きつけた。
「既にルル農業法人と契約していると聞いたの。それなら、ルル聖導士学校とも契約してしまえばいいと思うの」
完全に傘下に入れることになるが仕方が無い。
この部隊を放置すれば自壊してしまう。
「丘精霊のルル様はエクラの使徒精霊と言っても過言ではない恰好をしていらっしゃるの。ならばその精霊さまを見たいとやってくる人達の通る道は新たな巡礼路だと思うの」
ボルディアが片方の眉を上げた。
イコニアは安全のため精霊を秘すことを望んでいる。
とはいえ好き勝手に動き回る精霊は大勢の人間に目撃されてしまっているし、一定以上の地位があって興味がある者はだいたい知っている。
近い将来護衛が必要になるのは確実だった。
「そして聖導士学校の子供達は長じれば貴方達と同じ聖堂戦士団になるの。ならば貴方達がルル聖導士学校と契約して新たな巡礼路を守り、新たな聖導士誕生のために尽力するのは聖堂戦士団として自然なことだと思うの」
「不寝番を申し出たら感謝と謝礼が支払われますよ」
ソナが捕捉してイコニアから預かってきた委任状を部隊に示した。
誰も文句を言えない名目だ。
ルル聖導士学校の背後には資金豊富な派閥があるので資金繰りにも楽になる。
「あの派閥に組み込まれるのはさすがに……」
隊長は決断できない。
某派閥の評判は自業自得で非常に悪いのだ。
ディーナも否定はせず、にこにこ笑って囁くように殺し文句を口にした。
「それに……ルル聖導士学校はご飯がおいしい事でも有名なの」
「隊長!」
「任せてください。巡礼にも生徒にも指一本触れさせません!」
盛り上がった団員を拒否すればクーデター不可避だ。
こうして、地味に聖導士学校が拡大したのであった。
「なあ」
ボルディアが至極冷静にツッコミを入れる。
「学校まで出張する余裕、あるのか?」
団員全員の顔が青くなる。
「団の仕事内容の内、民間に割り振れそうな仕事はねーか? 例えば地域のボランティア的な活動、団の武力が必須でない活動とか、いっぱいあるんじゃねーか?」
やる義務はないのに惰性で続けている業務は複数ある。
「今までやっていたものを明日からやらねぇ、っつうとクレームが来そうだが」
落ち込む男共に助けを出す。
「地域の顔役を招いて、団の仕事に集中することで訓練時間の確保ができ、結果的に治安が良くなるとでも言っておけ。焼き立てパンと新鮮野菜と分厚い肉が食いたいならな」
かつてなく士気が上がった部隊が、難しい交渉を成功させることになる。
●印刷所
インクの香りのする建物に巨乳メイドか駆け込んできた。
「感動の説得劇でちた」
詰め物の位置を直してから、お土産に持たされた箱入りクッキーを受付に渡す。
「会議はもう始まっているでちょうか」
優れた覚醒者としての能力を盛大に無駄遣いして滑るように歩く。
「やっぱ駄目か?」
「システィーナ様やでっかい所の情報出すなら、外で作った見本もらわないと無理ですわ」
使い込んだ作業着姿の社長が首を横へ振る。
「うちのセンスじゃまずいです。野暮ったい出来ちゃ文句も来るし物も売れないってもんで」
「えー、じゃあ写真集出せないでちゅか?」
撮りためた写真を見せる。
子猫に遊ばれているカソック幼女が特に人気でなんとか印刷に持っていこうとしたが、大量印刷前にイコニアに踏み込まれて阻止された。
●政治
肥やした民が差し出す税で建てられた堅牢かつ優美な屋敷。
守りを固めるのは大量の金と時間で育成された覚醒者達。
新興貴族の中で特に力が強いこの家は、新興故に社会上層とのコネが弱くトラブルから脱するのに苦労していた。
「魅力的な計画だ」
精力に溢れる瞳が苛立たしげに瞬く。
これまで縁のなかった聖堂教会良識派の紹介状を携え現れたリアルブルー人が、特に促そうともせず貴族の回答を待っている。
「聖堂戦士団の一部部隊の兵站を担当することで戦働きの代わりにする、か。私兵団の頭数が少ない私にとっては渡りに船ではあるが」
非良識派、要するにイコニアが属する派閥への献金よりは安くつく。
「良識派の承諾は得ています」
カップを置いてエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)が事実だけを口にする。
「一部を除き政治下手の彼等かね?」
「閣下にとってはその方がよいと思います」
貴族は何かを言いかけ、結局何も言わずに口を閉じた。
剣だこのある指が黒檀の机を苛立たしげに叩く。
数分が過ぎ、ひときわ大きなため息が吐かれ、貴族の口が再び開いた。
「1つ質問に答えてもらう」
「はい、可能なことであればなんなりと」
「あの司祭と派閥の影響力は強い。どうやって衝突を避けるつもりだ?」
「王国は広く巡礼路も長い。そこを守護する戦士団はいくつあるのでしょう」
小さな羊皮紙を机に置く。
非良識派に組した部隊の隣接部隊へ直接の連絡先と、組した部隊の中で拒否した少人数の名前がずらりと並んでいる。
「これならいけるか。具体的な交渉は……」
「でしたら……」
このようにして、貴族派に属していた家が鞍替えを完了した。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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聖堂教会過激派のふはい! ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/05/08 14:18:19 |
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質問卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/05/04 23:03:53 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/04 00:23:10 |