ありし日の幸せと、ミュゲの日の願い

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~4人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2018/05/09 22:00
完成日
2018/05/14 20:42

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

『優しい方々へ

突然のお手紙を失礼いたします。
昨年までピースホライズンの花屋をしていた者です。
力至らずお店はそのまま閉店し、今は別のお店になっているそうです。

私の力不足で幸せにしてあげられなかったスズランの花がたくさんありましたが、
ハンターの方々によって、想い人に、またご友人に、また見ず知らずのたくさんの人にお渡しすることができ
たくさんの幸せを運んでくださったと聞いております。
そして寂しく去る私にも。
幸せをくださいましてありがとうございました。

私は田舎に戻り、農業を営んでいます。
昔は退屈で、貧乏くさくて、なんて冴えない仕事だろうと忌避していましたが
今はこれも悪くない、身の丈に合った生活だと感じています。

自分の作った花や作物が、
誰かの手に届いて喜んでらえることを想像できるようになる。
幸せの一端を担っている仕事なんだと自覚できるようになったからだと思います。

ひとえに、去年のミュゲの日に
捨て去ったスズランを幸せにつなげてくださった
たくさん人々がいらっしゃったからです。
ありがとうございます。
私は今、とても幸せです。

今年もミュゲの日となりました。
親しい人、たまたまであった人、誰かのためにスズランを捧げて
その人の幸せを祈る日です。

田舎に帰ってさっそく植えたスズランがいくつか花を咲かせたので
数は少なですが、お送りいたします。

去年と同じ人に行きわたることもないと思いますが、
人というものは、どこかでつながっていて、
このスズランを手にしてくれた人が幸せを伝えることで、
きっと私を幸せにしてくれた人たちにまで届くだろうと信じています。

幸せが皆さまの元に訪れますように。
よきミュゲの日を』

リプレイ本文

「ああ、去年のあのミュゲの。幸せであるなら何よりだ」
 シャーリーン・クリオール(ka0184)はスズランの束を手に取ってしばらく物思いにふけった。束と言っても、手に収まるほどしかないスズランは、数人に分けてしまえばすぐに無くなってしまう量だったが、どれも精魂込めたのであろう、瑞々しく、花弁も大きく、形は綺麗だ。
「……ほんのちょっとでも、か。憎いねぇ」
 ミュゲの日にも間に合っていないし、数もこれでは賑わいにもならない。
 だけど。
 シャーリーンはスズランを愛おしそうに見つめた呟くと、シャーリーンの二匹の愛猫オッフェンバーグとカッツが彼女の身体を上って左右の肩口から興味深そうにスズランを眺めた。
「幸せを心から喜んでいるんだね。自然体……っていうのかな」
「あたし達もそうできるようにならないとね」
 シャーリーンの言葉に、二匹の猫は可愛く鳴き返した。


 羊谷 めい(ka0669)がたまたま入った喫茶店の入り口に魔導トラックを止めてシャーリーンはいた。すぐに同業者だとはわかったが、まさかスズランが渡されることは想像しておらず、スズランの花を見て困惑した声を上げた。
「ふぇ……大切な人に、渡す日、ですか」
「いないのかい?」
「ええと……」
 目だけ自分の頭の上にやって、ぼんやり浮かんだ顔に、めいはぶしゅうと赤面したことが一番の答えになった。
「喜んでくれるでしょうか? ええと私がプレゼントして……」
「ミュゲは『いつもありがとう、そしてこれからも』っていうものなのさ。自信がないなら、こいつも添えればいい」
 シャーリーンはパステルカラーの飴もついでにめいの手のひらにのせた。
「あたしの自信作。どんな人でも笑顔にしてくれる」
 アーモンドに砂糖を固めたドラジェだ。見ているだけで楽しくなれるような、幸せになれるような。
 これならもしかして気持ちを伝えられるかも。困惑ばかりのめいにもそんな気持ちがむくむくと湧いてきた。それでもまだ少し自信がない。
「ミュゲの日か。面白そうね」
 その後押しとなったのは、2人の様子を見ていた優夜(ka6215)の言葉だった。ずっと気にはなっていたが、めいとのやりとりを聞いて、彼女自身もどこか背を押されたような。自分をクールに見せようと思いつつも寂しがり屋の気持ちがあふれ出てしまったようだ。
「そう、幸せを伝える日さ。渡す相手、誰かいるかい?」
 優夜はスズランを置く台につけていた件の手紙に目を通して、シャーリーンの問いかけにしばらく目を閉じて、ゆっくり頷いた。
「恋人でなくてもいいのよね」
「もちろん。あたしが今そうしているようにね」
 誰かに勧められたわけでもない。めいだって優夜だって今顔を合わせたばかりだ。それでも彼女たちが幸せになれるのは本当に楽しみだと思えるのだから。
「じゃあ親にかしら。親と言っても……血を分けた肉親の姿は覚えていないけれど」
「そうなのですか……でもたくさんの人に愛されているのですね」
 一瞬、複雑な事情を垣間見たようなめいだったが、物思いにふける優夜に何か声をかけてあげたい気がして、言葉を選んでそっと声をかけると、彼女は存外嬉しそうな顔をして答えてくれた。
「ええ、私を拾い、孤児院まで連れてきてくれた人。それから孤児院の主、それから符術を教えてくれた師匠。みんなから力を受けて私がいるのよね」
「みんなの力があって、というのは分かります。わたしも転移して、少し心細くて、居場所がなくて……でも今こうしていられるのは誰かのおかげなんだなって思えると、すごく嬉しくなりますよね」
 どこか共通点のある優夜の姿に、めいは熱心にそう語ると、自分が持たされていたスズランに目を落とし、それをそっと優夜に捧げた。
「あら、いいの? あなたも渡す相手がいるって」
「わたしが渡す相手は一人ですから……えっと、今日、優夜さんに会えたことが嬉しいので、その親御様によろしくお願いしますって」
 一生懸命なめいの目をみて、しばらく優夜は沈黙した。
 そして噴き出すようにして笑い、そのスズランを手に取る。
「あはは、ありがとう。じゃあなんとしても渡しに行かなきゃならないわね。孤児院の母くらいなら会えるかもしれない。でも他は放浪癖があるから難しいかもしれないけど」
「それでも奇跡を起こすのが、ミュゲの日、なんだよな」
 シャーリーンはウィンク一つして、自分からも優夜に一輪スズランを渡し、そしてもう一輪を再びめいに手渡した。
「あら、そんな奇跡なら私も起こさせてあげるわ」
 シャーリーンの手からまた一輪を抜き取って、弾けるような笑顔をみせるのはエミリオ・ブラックウェル(ka3840)だ。そしてそのまま、優夜に跪いて捧げる。
「みんなの想いを込めた花はね、奇跡を起こすのよ」
「わかったわ」
 こんなに自分のことを思ってくれる人がいるのだ。それ自体が奇跡みたいなもので、幸せなことだ。
 ミュゲの日を祝う手紙の主はもう十分に奇跡を起こしてくれている。
「それじゃあ行ってくるわ」

 どこにいるかもわからない親探しに優夜が旅だったことに、めいはとても勇気づけられた。
「あの、わたしも……行ってきます」
 そうだ。黙っているだけでは気持ちは伝わらない。
「若いっていいわね」
「若人が何を言うかね。あんたも渡す相手がいるだんろ」
 いそいそと出ていくめいを並んで見送るエミリオに対して、シャーリーンは横目で見て笑った。
「ええ、そりゃいっぱいいるけどー」
 まずは大好きな従妹に一束全部プレゼントして。従弟でしょ、それから師匠と。
 と思ったが、スズランはもう残り一輪。エミリオとシャーリーンは顔を見合わせた。
「足りない分は」
「補えばいい」
 にぱっ。
 二人の笑顔が重なった。
 そしてすかさずシャーリーンは魔導トラックの運転席に乗り込みエンジンをかけると同時にエミリオは荷台に移動し、早速移動開始だ。


ミュゲの日を報せましょう
誰かの幸いを祈り
願い、喜びましょう

幸いの祈りの輪が繋がり
末永く続かん事を

幸福が訪れます様に
善きミュゲの日とならん事を

 エミリオの伸びやかな歌声が響き、大量のドラジェが振りまかれ、街が沸き返る。そんな中ゆるゆると進む魔導トラックに向かって分厚い手のひらが伸びたかと思うと、エミリオの幼馴染であるラティナであった。
「なんだ誰の声かと思えば、ご機嫌じゃないか」
「やーっと来たわね」
「お前が約束の場所にいないからだろっ」
 ラティナは呆れかえって息を漏らしたが、エミリオはそんなラティナを笑って、荷台から手を差し伸べた。
「時間はいつも待ってくれないものよ」
 手を取ってラティナが荷台に身体を乗り上げるたが、エミリオは避けることもせずラティナの顔を間近にした。口を開けば吐息が相手に触れるくらいの距離。髪が触れ合うくらいの。
「ティナ、結婚おめでとう」
 エミリオは満面の笑みでそう言い、二人の間にスズランの花を咲かせた。
「恋敵の時間も長かったけれど、私にとって大事な幼馴染で弟分。従妹弟達と同じくらい、貴方の事も大好きで大切なのよ!」
 しばらくトラックの流れる風でやんわり吹くなか、エミリオとラティナはその距離で見つめ続けた。
 そして。
 ラティナもエミリオと同じように笑顔になった。
「はっは! 言ってくれるな。まさか同じことを考えているとはよ」
 ラティナは軽く跳躍して荷台に登りきると同時に、隠していたスズランをエミリオに差し出した。
 形もそっくりのスズランが触れ合って大きく上下するのと同じように、同じことを考えていた2人はたまらなく楽しくなって大笑いした。
「あっはっはは、なにそれ!!」
「馬鹿だろ、リオと同レベルだ」
 何もかもが同レベル。
 愛しく思う気持ちも、親しく思う気持ちも。
 ひとしきり笑い合って、エミリオは目尻に浮かんだ笑い涙を小指で掬い取ると、顔は真剣なものに戻った。
「……結婚おめでとう、ティナ。従妹の幸福ごと貴方を護ってあげる」
 幼馴染であり、同じ女性を好きになった間柄としての複雑な胸中がなかったと言えばそれは嘘になる。だけれども、それを吹っ切るようにしてエミリオは誓う。
 ラティナもそんなエミリオの顔を見て、静かにうなずいた。
「……誓うよ。家族も、リオの事も。護ってみせる」
 スズランを捧げられ言葉にすると不思議なもので、胸が熱くなるのを感じ、同じ気持ちが伝い合っているの自覚すると、二人ははじかれたようにしてぎゅっと抱きしめ合った。


「こ、これでよし……よし……」
 めいはお店のショーウィンドーに映る自分の姿を何度も確認して、不安になる自分にそう言い聞かせた。
 お気に入りの大きなリボンの代わりに大人びた花のバレッタをつけて髪を少しアレンジして。服も緑をベースにして様々な花で飾られたドレスにして上から白いコート。雛菊の指輪を通して、雫型の青い宝石をワンポイントに。お化粧ちょっとだけしてみた。
 自分ではないような気がしながらも、まだどこか足りないような。でもこれ以上はどうしようもない。
 だから、できる。だから言える。とめいは何度も心配になる自分に言い聞かせるしかなかった。
「わぁ」
 そのウィンドーにキヅカ・リク(ka0038)の姿が映り込んで、感嘆のため息を漏らすものだから、めいの自己暗示はたちまちに吹っ飛ぶしかなかった。
「あの……っ、えと」
「すっごい、綺麗だよ」
 その言葉になんだか色々隠したくなって、あたふたとはしてみたけれどもどうしようもなくなって、めいは真っ赤になってキヅカと向き合った。正面から向き合うと自然と波立っていた心は静まっていく。
「あの、キヅカさん。これ……差し上げます」
 シャーリーンからもらったスズランを、丁寧にラッピングしたものを差し出してめいは言葉を続けた。
「キヅカさんに幸せが訪れますように……っていう日なんです。ミュゲの日と言って」
 しどろもどろになりながらも、言葉を紡ぐごとに自分の照れたり逃げたりしたい気持ちに負けちゃダメだという気持ちが強くなって、まっすぐに向ける気がした。そうすると笑顔も自然と浮かんできた。
「いつだって、無理しないで、自然な心のままに笑っていてほしいって、思っています。わたしがキヅカさんを幸せにする、なんて言えたらいいのですけれど……『誰か』を幸せにできるほど、まだわたしは強くなれていないから。それでも幸せを願いたいから、このスズランを受け取ってほしいんです」
 しばらくスズランを見つめていたキヅカは、その言葉を聞き終わって、太陽のような笑顔でそのスズランを受け取った。
「自分の幸せなんて考えた事なかったから、ハッとしちゃったよ」
 照れたような、何かを懐かしむような、目を細めてそんな顔をして、キヅカは貰ったスズランに目を落とした。
「ですよね。いつも依頼に、他の人の為に一生懸命で。でも、誰かの事を思うのが素敵だなって思います。だから、私も」
「めいちゃんも人の為に頑張ってるじゃない。小隊に迎えたのもそうだよ。技能もそうだし、その優しい人間性も。みんなを優しく包んでくれるようなめいちゃんの力ってすごく大切だと思う」
 その言葉にドキリとして、めいは目を白黒とさせた中で、彼はまたしんみりとした顔をした。
「僕が幸せになっていいのかわからない」
「そんなことないです! キヅカさんはいつだって」
 弾けるようにして否定するめいの鼻先に柔らかい何かが当たった。
 言葉と飛び込んでしまいそうな顔を少し引っ込めて、それをまじまじと見つめるとキヅカから差し出されたスズランだった。無精でラッピングの一つもされていないけれど、他にはないほどたくさんの花がついていて、とても念入りにその一輪を選んだことはすぐ窺えた。
「だからこれからも。明日が幸せでありますように。みんなで幸せになりますように」
 そのために戦うから。
 それが『あの二人』と僕が目指すところ。
「わたしも頑張ります。自分のできることを精いっぱい」
 スズランを交換しながらめいは気づいた。
 わたしにもできる事があって、それを教えてくれる、目指すものを見せてくれてる。居場所を作ってくれるのはキヅカさんだったということ。ここにいていいんだって思わせてくれること。
 だからこそ、居場所は……ちょっと気になる。
「あの、いつかキヅカさんじゃなくて……リクさんって呼べたりしたら……いいな」
 自分の居場所がもう少し、彼に近くなればいいなと思って。
「呼び名なんて、なんでもいいよ」
「あっさり!」
 自分のこの葛藤を少し慮ってほしかったものだが、そこまで求めても仕方ない事だ。めいは息を整え直して微笑んだ。
「……リクさん♪」
「ひゅーひゅー」
 思い切った一言は、正面にいるキヅカより真後ろをゆっくり走る魔導トラックからの野次の方が反応が大きかった。
 振り返ればシャーリーンが、エミリオが、ラティナが手を振っている。
「幸せを伝えるのは成功したようだね」
「お前たちがいなけりゃ完全成功だったよ!!!」
 シャーリーンの言葉かけに完全にガッデムしながら答えるキヅカだが、それもどこか嬉しそうだった。
「これから幸せの手伝いしに行くんだけど、一緒に来てくれない? こういうのは数が大切なのよ」
「特に幸せそうな奴は『持ってる』だろうしな。幸せの使者がこんなけ集まれば奇跡だって起こせるぜ」
 エミリオがめいを、それからラティナがキヅカを荷台へと引き上げた。
 みんな揃ってスズランの花を胸に挿し、赤らかにした顔は幸せに浮いている。
「で、幸せの手伝いってなんですか?」
「みんなで優夜の師匠を探しそうってね。乗り掛かった舟をわざわざ手を振って見送ることもないじゃない。太陽みたいな笑顔の符術士らしいんだけど、ちょうどそんな顔見たっていう情報があったのよ」
 エミリオの言葉にめいとキヅカは顔を合わせて頷いた。
「よっし、いっちょやるかぁ」
「じゃあ情報収集ですかね」
 ところがシャーリーンは2人にひらひらと手を振るばかり。
「そんなの必要ないよ。幸せは歩けば自然と寄ってくるってね。ミュゲの日限定のパレードで人目を寄せるんだ。歌って踊って、お菓子もばらまいてねっ」
 なんと酔狂な人探しだろうか。相手が寄ってくるのを待つだなんて。
「ふふふ、世の中そんなもんよ。ほーら言ってたら、優夜ちゃんはっけーん」
「よっしゃー、シャーリーン捕まえるぞ」
「はっしーん」
 もはやよく分からないお騒がせ一団となりながら突っ込んでいくものだから、普段はクールな、そして人探しに夢中になっていた優夜にとっては驚き以外の何物でもない。
「もう何よ……」

 みんなどこかで繋がっている。
 つながりがまたどこかで響き合う。
 ミュゲの日は人の縁が響き合う日。

依頼結果

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MVP一覧

  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオールka0184

重体一覧

参加者一覧

  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオール(ka0184
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • Sanctuary
    羊谷 めい(ka0669
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • 愛しき陽の守護星
    エミリオ・ブラックウェル(ka3840
    エルフ|19才|男性|機導師
  • 即疾隊仮隊士
    優夜(ka6215
    人間(紅)|21才|女性|符術師

サポート一覧

  • 鬼塚 陸(ka0038)
  • ラティナ・スランザール(ka3839)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/05/08 23:56:05
アイコン 相談卓
羊谷 めい(ka0669
人間(リアルブルー)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/05/09 14:40:21