【王国始動】花の交流会

マスター:雨龍一

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
7日
締切
2014/06/24 22:00
完成日
2014/07/04 00:05

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 謁見の間には、数十名の騎士が微動だにすることなく立ち並んでいた。
 ピンと張り詰めた空気が、足を踏み入れた者を押し潰そうとでもしているかのようだ。
「これが歴史の重みってやつかね」
 軽く茶化して薄笑いを浮かべる男――ハンターだが、その口調は精彩を欠いている。
 頭上には高い天井にシャンデリア。左右の壁には瀟洒な紋様。足元には多少古ぼけたように見える赤絨毯が敷かれており、その古臭さが逆に荘厳さを醸し出している。そして前方には直立する二人の男と――空席の椅子が二つ。
 どちらかが玉座なのだろう。
 グラズヘイム王国、王都イルダーナはその王城。千年王国の中心が、あれだ。
 椅子の左右に立つ男のうち、年を食った聖職者のような男が淡々と言った。
「王女殿下の御出座である。ハンター諸君、頭を垂れる必要はないが節度を忘れぬように」
 いくらか軽くなった空気の中、前方右手の扉から甲冑に身を包んだ女性が姿を現した。そしてその後に続く、小柄な少女。
 純白のドレスで着飾った、というよりドレスに着られている少女はゆっくりと登壇して向かって右の椅子の前に立つと、こちらに向き直って一礼した。
「皆さま、我がグラズヘイム王国へようこそ」

 落ち着いた、けれど幼さの残る声が耳をくすぐる。椅子に腰を下ろした少女、もとい王女は胸に手を当て、
「はじめまして、私はシスティーナ・グラハム(kz0020)と申します。よろしくお願いしますね。さて、今回皆さまをお呼び立てしたのは他でもありません……」
 やや目を伏せた王女が、次の瞬間、意を決したように言い放った。
「皆さまに、王国を楽しんでいただきたかったからですっ」
 …………。王女なりに精一杯らしい大音声が、虚しく絨毯に吸い込まれた。
「あれ? 言葉が通じなかったのかな……えっと、オリエンテーションですっ」
 唖然としてハンターたちが見上げるその先で、王女はふにゃっと破顔して続ける。
「皆さまの中にはリアルブルーから転移してこられた方もいるでしょう。クリムゾンウェストの人でもハンターになったばかりの方が多いと思います。そんな皆さまに王国をもっと知ってほしい。そう思ったのです」
 だんだん熱を帯びてくる王女の言葉。
 マイペースというか視野狭窄というか、この周りがついてきてない空気で平然とできるのはある意味まさしく貴族だった。
「見知らぬ地へやって来て不安な方もいると思います。歪虚と戦う、いえ目にするのも初めての方もいると思います。そんな皆さまの支えに私はなりたい! もしかしたら王国には皆さま――特にリアルブルーの方々に疑いの目を向ける人がいるかもしれない、けれどっ」
 王女が息つく間すら惜しむように、言った。
「私は、あなたを歓迎します」
 大国だからこその保守気質。それはそれで何かと面倒があるのだろう、と軽口を叩いた男はぼんやり考えた。
「改めて」
 グラズヘイム王国へようこそ。
 王女のか細く透き通った声が、ハンターたちの耳朶を打った。

**********

「王女、お顔をお上げください」
 ヴィオラとセドリックが去った後、部屋に戻ってもまだ俯いたままのシスティーナ王女へマルグリッド・オクレールは声をかけた。
「……また、やってしまったのかもしれません」
 熱いものが零れ落ちる目元にハンカチを宛てがうと、ようやくポツリと声を漏らした。
 オクレールはそんな彼女を見ると、お仕着せの服の影で拳に力を入れた。
「王女、それでしたらまだ彼らへの歓迎は終わっていませんわ」
 ほぇっと見上げてくる彼女に、そっといつもの厳しい顔を和らげ告げる。
「歓迎とは、言葉だけでは伝わりません。態度でも、示すのです」

 マルグリッド・オクレール。普段はしとやかな王女付きの女官である。
 が、一方で彼女は教育者でもある。この王女が考えたこと――それを補足してあげるのもまた、教育者の役目であった。


「会場を抑えさせました」
「ご苦労様です」
 流石に王城内ではすぐに実現するのは無理かと、城下に位置する王国保有の施設を抑えることに成功した。
 オクレールは次に必要なものを見つつ、王女の意向をどのように実現しようかと考えを練る。
「やはり、堅苦しいのは避けたい……」
 いつも相手にしている貴族連中とは違い、この度迎える中には一般の、又は異種族の人々だ。
 そう思うと、こちらが用意する料理だけでは満足させられない可能性もある。
「ここは……ハンターをというより、リアルブルーの方々を招き入れる方に集中すべきかしら」
 王国の料理は決して悪くはない。しかし料理の種類、手法という点で向こうの世界より劣っている可能性は否定できない。
 そこで思う――ここは、交流会の場を作って両世界の橋渡しの場にしてしまえばと。

リプレイ本文

「はっはっはっは……ハムグラタンもなかなかやるじゃねぇか」
 デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は愉快そうに声を上げた。
 しかも、システィーナの名前がおいしそうなものへと変わっている。
 全身から怪しさを出しているものの、本日会場は無礼講。まぁ、ここまでいろんな意味での際物はいないのが日常だが。思わず動きそうになった警備の者たちも、寸でのところで踏みとどまった。
 ――王国は他の勢力すべてに対して優位な立ち位置を得られたと言っても過言じゃねえ。
 にまりと笑みを浮かべた彼は、今日のお目当て――シェフや音楽家を自分の臣下へと勧誘するために動き始めるのだった。


 厨房は戦争だ。
 そんな言葉を誰かが言ったであろう。いや、一度足りとでも経験したものであれば肌で覚えるのかもしれない。
 裏方を希望した者たちは、それでは招待時刻よりも早くいらしてくださいねという言葉により、朝から集合していた。
 到着したときには既にほとんどの物が出来上がっていたが、申告により用意された食材たちが彼らを待っていたのだ。
 高嶺 瀞牙(ka0250)は見事に揃えられたものを見て感嘆の声を上げる。ここ、クリムゾンウェストに来てからというものの、好きなカレーを作るということがいかに困難かということを味わってきていた。それが、だ。
 リアルブルーの食材そのものは手に入りづらい。が、嗜好家というものはどこの世界でも存在する。
 そして、それは富裕層が多い。今回は王国主催ということもあり、普段では入らない高級食材のスパイスまでも、少量ではあるが確保してくれる可能性があったのだ。だが、彼の目的はカレーを普及することだ。それには、人々の中で手に入る食材である必要があった。
「食材になじみがあれば、手を出しやすいかもしれないしねぇ」
 スパイス自体はやはり値は張るものが多い、それでも組み合わせによっては代用できる味というものもある。この度の挑戦は、現在手に入るものでの味の再現であったのだ。

 酢酸というものはどの世界でもできるものかもしれない。穀物を発酵させることによって生まれるモノの一つだからだ。しかし、絶妙な配合というのは得てして難しいものであると、燈京 紫月 (ka0658)は感じていた。
「ですから、比で配合するです」
 そこから少し煮立てて……そこからできるあまやかで、だけど程よい酸味に傍にいた料理人たちは感嘆の声を上げる。
 お米と混ざり合い、風を起こして冷やすとともに艶やかな光を放つのは魅力的である。
 此処ではリアルブルーの食材そのものは難しい。が、このような感じのものと言って用意されたものは、この王国でとれる新鮮な魚介類たちだ。豆や、レンコンに似た食物も故郷の物とは違うが触感であったり、形が似たものが手に入った。それを用いるのは燈京の慣れ親しんだ思い出の味、ちらし寿司だった。
「縁起物ですし――」
 使われた食材の元となった物たちの説明をしつつ、手際よく整えていく姿は――悪いが女の子にしか見えなかった。
「交流会っていうのなら、記憶に残る物にしないと意味が無いでしょ? だったら、何かインパクトのある出来事がなきゃ。と、ジュウベエちゃんは思ったりするのです、よっと」
 そういって棒で白色の塊を押しつぶす――いや、伸ばしていくのはJyu=Bee(ka1681)だ。
 細い体をしならせるようにして、力を加えていく。先程まで、数名の人に助けてもらいながら 腰の強さを追及した生地は、今は程よい太さのうどんへと変貌を遂げていた。
 クリムゾンウェスト出身の彼女がなぜ、と手伝った高嶺は思ったものの、話を聞くとどうやら彼女の一族の中にいるうどん狂が原因らしい。やはり、食というものへの追及は人を狂わせていくものかもしれないと密かに思う。
 さすがに醤油は難しかったものの、他のものを代用して作られたのは燈京の意見によるものかもしれない。
 それによって作られた――彼女的には関西風(?)うどんは、きゅるっと喉越しの良い、そして魚の風味が生かされたものへと出来上がっていった。
「――ここはやはり」
 思わず口角が上がった高嶺にJyu=Beeはかくりと首を傾げる。
 高嶺は小さな鍋に出汁を注ぎ、そこに自分の作ったカレーを入れた。そして、軽く温めた所に茹でたうどんを投入する。――そう、カレーうどんだ。リアルブルーのある地域出身者にとっては、とてもなじみ深い食べ物であろう。
 ここで、見事に共同作業の品が誕生したのだった。
 味の出し方一つでも、工夫によって再現でき伝えることができると感じたのだった。
 賑わう厨房で、アズロ・シーブルー(ka0781)はリアルブルーの友人を思い浮かべていた。
 彼らもまた、友人と同じ境遇なのだろうかと。手元にある夏野菜を見つめながら少し考えてしまう。同盟出身のアズロは自分の故郷の味を知ってもらおうと腕を振るう。魚と夏野菜をふんだんに使った煮込み料理だ。そこにハーブを加えることによって味が引き立つ。
「これ、クリムゾンの料理ですか?」
 アズロの手元を夕影 風音(ka0275)は覗き込んだ。燈京も気になっている。手慣れた様子の包丁捌きが手際よく魚を卸している。
「ええ」
 聞けば普段から料理をしているだけではなく、同盟にも所属しているとのことだ。その言葉に夕影は熱心に語りかける。
 教えてくれる料理の話のお礼にと、夕影が用意するのは肉じゃが。
 よくある食材ではあるということは、どの国にも似たようなものが存在するというものかもしれない。
 味の決め手となる出汁と醤油――残念ながらここクリムゾンでは希少とされているものであった。
 しかし、似たようなものはやはり存在している。類似品というよりは、此処で発展したものたちであろう。
「ちょっと違いますが……」
 それでも、懐かしい味には近い。ホクホクの芋に肉をコトコトと味をしみこませた煮物に夕影は思わず頬を緩めた。
 リアルブルーにいた時の味はできない、だが……
「料理で交流ですね」
 料理というものは、気軽に交流する手段の一つとしては優れたモノであった。


 ハンター証を見せることによって通された会場は、普段であれば馬車で乗り付けるのであろう道を通り、周りの喧騒を遮るようにした木々に囲まれた場所であった。
 普段から置かれているであろう東屋を中心に、休む用のベンチや簡易の会場が出来上がっている。
 食欲がそそられる匂いを辿れば、そこには色とりどりの食材を利用した料理たちが並んでいる。
 使用人とみられる服を着た人があちこちに立っており、そして会場に来るまでの道のりにいた女性の騎士たちを思い浮かべる。
「こうやって公的に交流の場を設けてくれるのは有難い限りだね。様々な出会いは人生を豊かにしてくれるからな」
 イスカ・ティフィニア(ka2222)は壮大な景色に腕を広げる。
 王国。
 歴史を感じさせ、そこにある威厳を隠さない、そんな国が垣間見えるようである。
「王国の公園でパーティなんて、まるでおとぎ話みたい」
 先程厨房にいた時とは違い、ふわりと翻したワンピースは普段用ではなくきれいな色の余所行き用だ。夕影の髪の色と合い優しい一輪として咲いている。
 せっかくだからとおめかししてはみたものの、誘った友人は都合が悪かった。でも、特別な場所だ。このくらいは乙女心である。
 場違いに思えていたが、どうやらこのワンピースが少し背を押してくれているようだ。
 先程まで一緒に厨房で作っていた人たちを見ると、笑みが浮かんだ。今は、誰も知らないわけではない。そう思って足を彼らのほうへと向けていった。
 小川に沿って歩くアリス・ナイトレイ(ka0202)を追うように心地よい小鳥たちの声が響いていく。
 そよそよと流れる小川は、思わず触ってしまいたくなるほどきれいで、中には小さな魚が泳いでいるのが見受けられた。
「――ドロドロなのでしょうか」
 思わず漏れた感想は、此処を必要とする者たちの舞台となる王宮――澄んだ場所がないと癒されないのではないかと。
 しかし、考えすぎなのかもしれないとも思う。
「――無粋ですね」
 あの王女を取り巻く環境は、自分たちにはわからない。わかるとしたら――それは、きっとこの王国がより身近になったときであろうと。

「今日は精一杯エスコートさせていただくぜ、お姫様」
 シルヴェーヌ=プラン(ka1583)へと伸びた手はキー=フェイス(ka0791)のものだった。
「うむ、よきに計らうのじゃ、騎士殿よ」
 つんと反り返った様子を見て、たまには酒も女も控えるのもいいものだとキーは恭しく手を取る。
 進むべき場所はシルヴィにとって縁が遠かったもの。数々の甘味たちだ。
「これが前に話した、体重という名の犠牲を払って欲望を満たしてくれる魅惑の甘味、ケーキだ……あんま、食いすぎんなよ?」
 ニヤリと皿に盛ったケーキを差し出すと、キラキラとシルヴィの目が輝き始める。
「む、むぅ~……無念じゃが、体重超過の危険は避けねばのぅ……」
 しかし、フルーツと違って単体でもその姿形のかわいいこと。魅惑的な甘い香りも彼女を刺激する。思わず喉が鳴ってしまう。
 せっかく差し出されたのだから……と、口に運んでみると、そこには今まで体験したことのない世界が広がっていた。
 蜂蜜とはまた違う甘味、そしてさくりとした歯ごたえや、ふわりと蕩ける食感。思わず頬が緩む。
 そんな幸せそうなシルヴィを見つつ、キーもひょいと菓子をつまんだ。
「ちょいと弱いが……悪くはないな」
 シルヴィは気付いていないが、リキュール入りの焼き菓子だ。誰でも食べやすいようにと抑えられている風味が、少しだけ物足りなくは感じる。――が、まぁ……シルヴィの前では控えるかと思わず出る笑みを手で覆い隠した。

「流石に王国主催だけあって賑やかだな。エア……エア?」
 シルヴェイラ(ka0726)は傍らに先程までいた人物を探すも、その姿はなく。思わず頭を抱えたくなっていた。
 同行者であるエルティア・ホープナー(ka0727)は大の本好きである。時間が空かなくても、自ら時間を作り出し本の 世界へと旅立つのだ。
 そして、それは本日も実行されたのであろう。
「仕方ない……」
 彼女を探すこともまた、彼にとっては欠かせない日常の1コマなのだから。

「人の手による庭もまた綺麗なものだね」
 故郷の森と比べながら、ルシオ・セレステ(ka0673)は園内を見ていた。自然の未完成の美しさと違い、計算され完成された美しさ。違いは多少あれど、美しいものは美しいと認める。普段はお目にかかれないところと聞き、王女の好意に笑みを浮かべた。目的は――普段味わえない宮廷料理人たちの料理であることも、忘れてはならない。
 馬車で乗り付けたのは二人だった。一人は年配の男性だ。杖を突き降りてくる姿は、堂々としたものである。その後ろから、控えめに降りてきたのは一見女性かと思うほどの姿だが、来ている服装からどうやら男性のようである。
「お招き頂き有難う御座います。グリーヴ家四子、シメオン・E・グリーヴと申します」
 シメオン・E・グリーヴ(ka1285)の丁寧な挨拶は、幼少から躾られてきたものだということがわかるものだ。
「ご機嫌麗しゅう御座います。グリーヴ家が当主、ジョージです。本日はお招きいただき有難う御座います」
 この交流会の主催代理である騎士にジョージ・J・グリーヴ(ka1594)はグリーヴ家として挨拶をしていた。王女によって開かれたものの、さすがに今日は出席は無く、手配をしたオクレールも顔は出したものの、部下に対しての指示のみで彼らには遭遇することは叶わなかったという。
 ジョージは目を細めた。企画された交流会の采配を見て感じる。
「かなり御成長なされましたな」
 その言葉に、代理を任された騎士は礼をとった。
「御機嫌ようイルミナルと申しますわ、本日は御日柄もよく素敵な会になりそうですわね」
 楚々とした仕草で、イルミナル(ka0649)はグリーヴ達に近づいていた。
「これはこれはご丁寧に――」
 笑顔でシメオンが礼を返す。
「私は転移者の一人なのですが、この世界はとても綺麗で素敵ですわね、お嬢様もとても気に入られて――」
 続く言葉に興味を示したジョージの態度を見て、シメオンは静かにエスコートをしつつ会場中心へと向かうのであった。

 見つめるものは、彼にとって誘惑そのものだった。
「なんて美しいんでしょう……君は」
 その言葉と情熱的な眼差しに見つめられたなら、気分を害する女性は少ないと思う。――もし自分が対象であったのならだが。
 しかし、残念なことに向けられたのはこの庭園の最大の脇役ともいえる花達であり、その残念な主はアズロであった。
 行き届いた手入れ、そして鮮やかに咲き誇る花たちの姿に彼はうっとりとした視線と言葉を送り続けている。
「まぁ、あなたもこの魅力がお分かりになるのねっ」
 コロコロと鈴が転がるような声をかけられ、隣の人物を見る。ロジー・ビィ(ka0296)とセレナ・デュヴァル(ka0206)だった。彼女たちもまた、この庭に広がる花達について語り合っていたようだ。
「この手入れの仕方が――」「此処の花壇……やはり綺麗……ですね」
 紫の花に少し手を触れながら、セレナが眩しそうに見つめる。
「セレナは素敵な花を見付けましたわね」
「それは――」
 普通の人たちにとっては謎の会話も、生き生きと返ってくる。話題はいつしか自分の庭の手入れの仕方にどう生かせるか。ここにきて、園芸の友を得たようであった。

「エア……」
 見つけた彼女に声をかける。しかし、顔を上げない時点でまだ本の世界の住人のままなのであろう。
 横に腰かけると、ようやく視線を向けてきた。が、すぐにまた視線は本へと落される。
「確かに胸元をフォローできないドレスだが……気にしなくても平気だろ?」
「あら、折角綺麗なドレスを着て来てあげたのに最初の一言がソレだなんて、相変わらず良い度胸ね、シーラ?」
 少しだけ口角を上げると、伸びてくる手を避けるようにシーラは立ち上がる。
 機嫌を損ねたエアがなお声を上げるも、余計に頬を緩める。
 そして彼女が立ち上がったところ――二人の追いかけっこが始まったのだった。


 会場について早々、ミウ・ミャスカ(ka0421)は陽だまりの虜と化していた。
 そんな彼女を「ミウさん!これ、程よい甘さでとっても美味しいですよ!」と、エテ(ka1888)は運んできた料理を手に揺り起こす。
 ご飯を持ちつつ、噴水で休憩しようとうろうろしている所で発見したのだ。
「ん……、一緒にご飯食べる?」
 まだ眠そうに目を擦りつつ、エテを見上げるとふにゃりと笑う。
 そんな中、軽やかな音楽が静かになる。そして――
「わぁ……」
 エテは簡易的に作られたステージの方へと目を向ける。
 メトロノーム・ソングライト(ka1267)が緩やかにお辞儀をした。
 小さな口から紡がられるのは『愛を囁く小鳥たち』彼女の故郷の唄だ。
 無伴奏の中で厳かに響き渡る。
 目立つのは避けていた上泉 澪(ka0518)ではあるが、思わず声のする方を見た。次の瞬間、メトロノームの青い髪が透き通っていく。
「――綺麗」
 柔らかな声に、優しい緑がほんのりと気持ちを温めてくれる。
 そっと髪に隠した頬を撫でるが、その手つきは穏やかで優しかった。

 拍手が聞こえる。歌い終わったメトロノームはゆっくりと礼をした。
 噴水に腰を掛けていたルシオは歌声に惜しみない感嘆をしめしていた。手元にある用意されたお菓子も進むというものである。
「凄い……全然眠くならなかった」
 蕩けるような笑みをメトロノームにミウは向ける。
 表情が乏しいメトロノームでも、この言葉は彼女にとって最上級であろうことは想像がついたようで――彼女の周りが優しい風を取り囲む。
「ふふ、メトロノームさん、照れてます?」
 そんな二人の和やかな交流を、エテは嬉しそうに見つめていた。

「花より団子、とは言いませんが美味しい食事に目がいくのは誰しもかとー」
 誰に言い訳をしているのやら、ついつい手が止まらない櫻井 悠貴(ka0872)は様々な料理を食べつつ、料理コーナーに陣取っていた。
「どうかな、俺と一つお話でも?」
 食べ物だけではない、イスカ・ティフィニアのように会話を楽しむものも混ざっていた。
 周辺では調理した人も、ただただ食べるものも声を掛け合っているのだ。
 エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)も話は難しいものの、表情と身振り手振りで美味しさ示していた。
「食わなきゃどうなのっ!」と、腹を空かせてくることだけに飽き足らず、思わず大食まで発動させてしまうあたり、彼ほど楽しみにしていた者はいないのであろう。サンカ・アルフヴァーク(ka0720)である。
「うまァ! となるとコレはこう食えば……またうまァ!」
 一仕事の後の一服というには多すぎる誘惑に、彼の手は口に運ぶことをやめようとはしない。
「あの珍妙な香りとアグレッシヴな盛付けは何ですの?!」
 高鳴る胸を抑えつつ、ロジーはセレナの腕をつかんだ。
 そこにあったのは、高嶺が用意したカレー……的な煮込みとJyu=Beeのうどんである。
「見まして? セレナ! 早速味わって研究ですわっ!!」
「……不思議な匂いですね」
 何と表現したらよいのかわからないが、その匂いは一種の刺激を呼び起こしお腹を刺激するようである。
 ルシオも一口と貰ったが、あまりの刺激に先程まで食べていた菓子の甘さが飛んでしまった。
「これはカレーと言ってご飯にかけて食べる料理なのだよ」
 ご飯だけでなくうどんにも合うが――と、よそいながら高嶺は笑顔を見せる。まだまだ、普及するには手に入るスパイスでは難しいが、それでも探究すればより近づくだろうとも考える。
「嫌いじゃないね……好きな人には病み付きになるだろうね」
 お礼をしつつも、ついついフルーツのコーナーに足を延ばすのは慣れない者にとっては仕方のないことだろう。
「コレも美味しいです。なんという料理でしょうか……」
 続いて手にしたのはちらし寿司だ。他にも肉じゃがなど、どちらかというとリアルブルーでも東側の料理が多かった。
 東方に興味を多く惹かれていたシメオンは、より詳しく料理を楽しみながら訊ねていく。
 色鮮やかなそれに、ロジーの創作意欲がわいてくる。
「そしてモノにした暁にはドーンっと豪勢にロジー特製リアルブルー料理をっ!!」
 楽しみにしていますね、と。彼女の料理の危険性を知らない者たちは同意してしまう。
 今後、彼女の料理での被害者が王国――いや、ハンターたちに広まることが予想されるのであった。
 しかしサンカにとって未知の料理に対する行動は、賛美に等しい好奇心で満ち溢れている。
 だから――どんな危険な料理でも彼なら賛美するのかもしれない。
「まぁ、不思議な衣装ですのね」
 全身黒づくめのデスドクロをみたロジーはコロコロと笑みを浮かべる。
「俺様に声をかけるとは、中々お目が高いようだなぁ」
 デスドクロは喉奥で笑う。
「その衣装は、どこの国のですの?」
 奇怪な黒い衣装を身にまとった姿は、鎧の類に見えるものの、どうも今まで渡り歩いてきたクリムゾンウェスト内では拝見したことがない。隣で食いつくように眺めていたセレナも首を傾げている。
「これは超世界パーフェクトブラックでの神聖なるものだ。この暗黒皇帝・デスドクロ様以外は何人たりとも身に着けることなどできんわ」
 高らかに笑い声を上げる姿に、パフォーマンスの一種だと思ったのだろう、他の者たちも朗らかな笑みを見せる。
「デスさんは楽しい人ですね……」
「なぁに、この俺様が気にいったやつは我が配下へと雇ってやろう」
 大きな声が辺りへと響き渡るのだった。

「え、私? ただの一般人ですよ、本当に。まさか異世界に飛ばされるなんて思いませんでしたがねぇ……」
 腹も脹れてこれば、話も弾む。つい故郷の話題が上がり、櫻井はここへ来た時の状況を答える。
「私はサルヴァトーレ・ロッソと一緒でしたね……」
 遠くを見るように語るのは高嶺だ。その言葉に、ジョージは興奮を示す。
「私の想像も及ばない技術革新があったのだろうな……サルヴァトーレ・ロッソなる戦艦、非常に興味深い」
 話を聞けば、彼もまたリアルブルー出身。40年も前の転移者だ。
 孫も迎え、今は隠居の身であると語る。
「なるほど、俺が聞いた話とは幾らか相違があるみたいだね」
 ふむりと、頷くイスカはさらに様々なことを訪ねていった。自分が今まで得てきた知識が偏っていた事に気が付いたのだ。
「お爺様も懐かしいのですね――」
 そんな中、シメオンは昔話をする祖父を少しだけ、複雑な気持ちで見つめていたのだった。


 噴水のある一角に、ちょっとした東屋があった。丁度料理が楽しめる空間と、花壇、噴水と一度に全部を見渡せるが少し距離があるためにひと気はそれほどない。だが、エヴァにとっては最高の場所である。
――ここなら。
 持ってきた画材一式を広げると、イーゼルを組み立てキャンパスを乗せる。荒削りの鉛筆で焦点を合わせると、言葉で表せれない彼女の中の感情が色として溢れ出てきたのだった。



「悪かった、悪かったよ。謝るから休戦しよう」
 降参を告げるシルヴェイラにエルティアはようやく満足そうな顔を見せた。
 本の虫とは思えない体力に、ため息をこぼしながら座り込み見つめる。
 腰を下ろしたエアもまた、シーラを見つめるも、すぐに視線を逸らした。思わず苦笑してしまう。
 人工的ではあるが自然の中、そして喧騒と離れた世界であり動物や精霊たちも集まってくるようだ。
 ふと、横から心地よい音色が響き渡ってくる。聞きなれている音――エアのフルートだ。
 自然と顔の力が抜けてくる。
「こういうのも悪くない、よな」
「シーラの為じゃ無いわ。小鳥達と、精霊達の為なんだから」
 つんと顔を背けるも、思わず口元は緩んでしまう。そして再びフルートを奏でた。素直になれない、そんな気持ちを音に乗せながら。

「……女性が俺を放っておいてくれなくてな?」
 ちょっと視線を外した隙に、キーは手が塞がっている女性を手伝いながら声をかけていた。
 じっと、シルヴィが見つめていると、戻ってきた時に頭をかく。
「やはりそちはぶれんのぅ……」
 肩を竦めつつ、思わず苦い笑いがこぼれた。最後の最後で、と思う。
 でも、
――それだから、そちなのだがの。
 お姫様だったシルヴィは、最後まで騎士ではなかったキーを優しく見るのだった。


「ロジーさんは何が印象に残りましたか……?」
 音楽が聞こえてくる中、ベンチに掛けたセレナは尋ねる。知らないことがたくさんだった、興味深い体験だ。会話は尽きない。
「一か所に留まるのも偶には良いモノですわね」
「こうして、王国に留まる事……正解だったかも知れないですね……。長くいる事に、
なりそうな予感がします……」
「あたしも何だか楽しくなりそうな予感がしますわ」
 そっと、涼やかな風が二人を包み込む。刺激的な体験が心地よい疲れを促していた。
「……少し、眠くなってきました……」
 繋がった手に力を少しだけ加えると、そっと返ってくる。
――気持ちの良い場所(王国)……気持ちの良い天気(空気)……少し、休みましょう……です……。


 エヴァはそっと一枚の絵を警備の騎士へと差し出した。
『王女様に届けてもらえないかな』
 そこに描かれていたのは、先程からエヴァが描いていた交流会の景色。鮮やかな色使いとともに、溢れてくるのは楽しい笑顔。
 添えられた紙に書かれていた言葉に、騎士は目元を和らげた。
「――王女はきっと気に入られるでしょう」
 大事に受け取られた一枚に、今日の思い出を全部載せて。Jyu=Beeからのうどんは、麺と汁を分けて届けられたのだった。
「やっぱり、可愛い子は笑顔が一番なんだから」
 Jyu=Beeは届けられたうどんを、システィーナが嬉しそうに笑みを零すのを想像したのだった。



「っハ!?」
 みんなが帰り始めたころ、一人ようやく目を覚ました子がいた。
 エテだ。
 隣では丸まっているミウがいる。
 そっと口元を拭きつつ、再びミウを揺すると、とろんとした顔を向けてくる。
「ミウさん! 時間ですよ!」
 伸ばされた手を取れば、暖かい体温が伝わってくる。そっと握ると、強くなって返ってきた。
 
――今度はここでゆっくり寝たいな……

 そっと呟いた言葉に、こくりと頷いて二人は会場を後にしたのだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師

  • アリス・ナイトレイ(ka0202
    人間(蒼)|12才|女性|魔術師

  • セレナ・デュヴァル(ka0206
    人間(紅)|16才|女性|魔術師

  • 高嶺 瀞牙(ka0250
    人間(蒼)|21才|男性|闘狩人
  • 心強き癒し手
    夕影 風音(ka0275
    人間(蒼)|20才|女性|聖導士
  • もふもふ もふもふ!
    ロジー・ビィ(ka0296
    エルフ|25才|女性|闘狩人

  • ミウ・ミャスカ(ka0421
    人間(紅)|13才|女性|霊闘士

  • 上泉 澪(ka0518
    人間(紅)|19才|女性|霊闘士

  • イルミナル(ka0649
    人間(蒼)|28才|女性|疾影士
  • シークレット・サービス
    燈京 紫月(ka0658
    人間(蒼)|15才|男性|猟撃士
  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • 大樹の樹皮
    サンカ・アルフヴァーク(ka0720
    エルフ|18才|男性|闘狩人
  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラ(ka0726
    エルフ|21才|男性|機導師
  • 物語の終章も、隣に
    エルティア・ホープナー(ka0727
    エルフ|21才|女性|闘狩人
  • 植物conductor
    アズロ・シーブルー(ka0781
    エルフ|25才|男性|疾影士

  • キー=フェイス(ka0791
    人間(蒼)|25才|男性|霊闘士
  • 炎からの生還者
    櫻井 悠貴(ka0872
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 護るべきを識る者
    シメオン・E・グリーヴ(ka1285
    人間(紅)|15才|男性|聖導士
  • クリスティアの友達
    シルヴェーヌ=プラン(ka1583
    人間(紅)|15才|女性|魔術師
  • affectueux紳士
    ジョージ・J・グリーヴ(ka1594
    人間(蒼)|70才|男性|霊闘士
  • Beeの一族
    Jyu=Bee(ka1681
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 萌え滾る絵心
    エテ(ka1888
    エルフ|11才|女性|魔術師
  • 命の重さを語る者
    イスカ・ティフィニア(ka2222
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キー=フェイス(ka0791
人間(リアルブルー)|25才|男性|霊闘士(ベルセルク)
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
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