狐の面の下に隠された

マスター:秋月雅哉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/21 12:00
完成日
2014/12/23 07:52

みんなの思い出

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オープニング

●かつて戦いのあった地で
 覚醒者たちから狐の雑魔の退治完了の報告を受けた後リアルブルーでは神域を示す鳥居のことを聞いた村人たちはならば雪が深くなって山に入れなくなる前までは掃除や供え物をしないと祟るかもしれない、そう考えて九尾の狐の雑魔が現れた鳥居へと何人かが向かっていた。
「……おい、誰かいるぞ」
 クリムゾンウェストではあまりなじみのないその衣装はリアルブルーで白拍子と呼ばれる女性が身に着けるもので。腰に太刀を佩いている代わりに烏帽子は被っておらず狐の面で素顔は見えないが体つきから女性なのだと知れるばかり。
 人の気配に気づいた狐面の女性はふっと山の奥へと姿を消す。その頭頂部には狐の耳。後姿を飾るのは九本の狐の尾だった。
 その日を境に鳥居の傍で、或いは狐の雑魔たちが倒された渓流付近でその狐面の女性は目撃されることになるが毎回言葉を発することはなく、ただ逃げるように姿を消すばかりだった。

「雑魔か、それより高位の歪虚でもまた沸いたんじゃないかって村人が心配して退治の依頼を出してきたんだけどね。鳥居のこととかを、オフィスの方でもちょっと調べてて。
 どうも狐面の女性はベルセルクの覚醒者で、覚醒変化で耳と尻尾が生えて、けれどこの転移者は帝国に利用されて戦いたくないから人を脅かして退け山奥に暮らしていて、と色々込み入った事情があったみたいで。
 九尾の狐たちも元々は精霊で彼女と生活して人の出入りを監視したりするのを手伝ってたんじゃないかって予測されるんだけど……彼女が少しあの場所を離れていたうちに歪虚によって雑魔化してしまったようだね。
 村人に危害はない、と伝えても残った不安が彼女の討伐に向かったりしたら大変だし彼女を説得して里を下りるように納得させてきてくれないかな。
 人間や覚醒者、特に帝国の人には不信感を示すみたいだからもしかしたら戦闘になるかもしれないけれどできるだけ穏便にお願いするよ。
 戦闘になった場合はベルセルクのスキルを補助に、刀での近接戦を挑んでくるだろうね。
 傍らに在った狐たちを失って悲しんでいるところをどうするかが説得の鍵だと思う。後は帝国が無理やり覚醒者を利用しないってことを分かってもらうこと。
 ……ただねぇ。不信感もあるし雑魔になってたとはいえ親しい存在を殺した後での説得だから。もし説得が不可能で害をなすと君たちが判断したなら……処遇は任せるよ」
 ルカ・シュバルツエンド(kz0073)は珍しく憂い顔で言葉を締めたのだった。

リプレイ本文

●思うのは、今も
 クリムゾンウェストの帝国領、山村から更に山を分け入った場所にひっそりとたたずんでいたリアルブルーの建築方式で建てられていた鳥居。
 そこにはかつて狐の雑魔が出現し、村人たちが迷子の探索の際に偶然遭遇、覚醒者たちに討伐を依頼したという経緯がある。
 実際の戦場となった近くの渓流や鳥居の付近、鳥居から踏み入った場所にある小さな祠。
 各所で狐面に狐の耳と九尾の尾を持つ、クリムゾンウェストではなじみの薄い白拍子の衣装を纏って腰に刀を佩いた女性が見かけられるようになったのはそれから少し経ってからのことだった。
 物思いに沈んでいる様子であり、村人に危害を加えることはなかったが村人に気づくとすぐにかき消すように姿を消してしまう。
 そんな動きが村人たちの不安を煽り、先日討伐された狐の雑魔のリーダー格が九尾であったことから何かのつながりがあるのではないか、また雑魔が沸いたのではないか、そうならば討伐をお願いしたい。
 その依頼に基づき、また同時進行でリアルブルーの建築方式で建てられた鳥居がなぜクリムゾンウェストにあるのかという調査を進めていた調査団が見つけ出したのは雑魔ではなく一人のリアルブルーから転移し、迫害を受けて山に潜んで人を遠ざけながら狐の姿を取った精霊と静かに暮らしていた一人の覚醒者の存在だった。
 女性が何かの事情があって少し山を離れている間に歪虚によって精霊たちは雑魔と化し、それを村人が発見、雑魔討伐の依頼が出たというのが事の顛末らしい。
 そして今度は狐面の女性に脅威を覚えた村人たちが彼女の討伐を依頼、事情を知り覚醒者たちが選んだ道は彼女を説得、山を降りて自身の身の安全を確保してもらうことだった。
「迫害された覚醒者、か。だけど話を聞く限り彼女自身は誰かを傷つけたりはしてないし。
 出来れば山を降りるよう上手く説得出来たらいいんだけど」
 天竜寺 舞(ka0377)が眉を寄せて小さく呟く。
 人間や覚醒者、特に帝国にかかわりを持つ存在に強く不信感を持つという女性が果たして説得に応じてくれるか。
 仮に説得に失敗しても彼女が村人の懸念通り人に害をなす存在だと確信しない限りは命を奪いはしない、自分たちも覚醒者であり狐面の女性の力になりたいと思っている。
 そう依頼を受けた八人の誰もが思っていた。
「ふぅん、狐面の女性で白拍子……えっ、狐耳に狐尻尾……それに九尾……!?
 もふもふね……きっと、凄くもふもふ……」
 ミリア・アンドレッティ(ka1467)の頭の中は女性の説得、のはずだったが大体がもふもふで埋まってしまったらしい。
 事前情報ともふもふパワーは時として一部の人間に多大な影響を与えるのが世の常だが彼女もその範疇に入るタイプの存在だったようだ。
 頭の中をもふもふに支配されかけつつペットのトラ猫を抱きかかえ柴犬を従えて女性がよく見かけられるという鳥居に仲間たちと向かう。
「……迫害、ですか。記憶をなくして彷徨っていた自信を振り返ると、私自身も彼女のようになっていたのかもしれない、と思ってしまいますね。
 ……いえ、違いますね。彼女も、安住の場所を見つけていた。
 それが、喪われたか、そうでないかの違いだけで」
 彼女の説得とこれからについて話し合えれば、と足を進めながらレイ・T・ベッドフォード(ka2398)は女性が喪った家族ともいうべき存在と、その時に彼女が受けた喪失感を思う。
「狐面の女性、できることなら私たちと一緒にきてくれることを願いたいな」
 接触をはかり、自分たちと共に、或いは村に赴いて自身が雑魔や歪虚ではなく村人に危害を与える存在でないことを理解してもらって、村に住むか、或いは自分たちと今後の行動を共にする未来を選んでくれたら、と願うアイビス・グラス(ka2477)もまた自分も一つ状況が変わっていれば件の女性と同じような境遇に陥っていたかもしれない、と複雑な表情になっている。
「狐面の女性……彼女もこの世界が嫌いなのかしら?」
 この世界ではなじみの薄い白拍子の衣装はリアルブルーの自分の故郷を思い起させる。巫女装束の柏部 狭綾(ka2697)は今も内心では好きになれない異世界の地を踏みしめながらそんなことを呟いた。
 彼女が着ている巫女装束は狭綾がクリムゾンウェストに転移した時来ていた、実家の神社のものだ。
「……鳥居か。懐かしいね」
 突然異世界へ飛ばされ、拠り所もなく生きる心細さはリアルブルー出身者の誠堂 匠(ka2876)にも多少は覚えがある。
 だから危機にあるなら、困っているなら手助けをしたい。彼はそう思ってこの依頼を受けたのだった。
「迫害ねェ……無事に話し合えるといいんだが」
 シガレット=ウナギパイ(ka2884)が懸念するのは女性が人の姿を取るものほぼすべてに対して頑なに心を閉ざしているという事前情報だった。
 いくら語りかけても心が開かれなければ思いは、心は、言葉は届かない。
「新しい、お仲間を、迎えに行きましょう」
 自分たちにできる全てで女性に向き合って、せめて未来は明るいものになるように。
 ミオレスカ(ka3496)はリアルブルーの食べ物である筑前煮と稲荷ずし、保温効果のある容器に温かいみそ汁を作って持ってきていた。
 山の中、人との接触も持たず、季節は冬。きっと空腹だろうからという彼女の思いやりの心は届くだろうか。
 鳥居の前にたたずむ華奢な影が覚醒者たちの視界に入ったのはそれぞれがそれぞれの思いを改めて形にした直後。
 緋色の袴が雪の積もった地面の白さに映え、狐の耳と九本の尾、髪の上で結ばれた面を顔の上に固定させるための朱色の紐が今回の接触目標だと知らせてくれる。
 狐の面越しに女性が八人を視界に入れ、すっと距離を置こうとするのを八つの声がそれぞれの口調で引き止めた。
 ミリアが柴犬のリードを外して女性のもとへ向かわせる。
「ご挨拶、できるわよね?」
 困惑が一瞬女性の足を止めた。八人はその隙に自分たちもまた覚醒者であること、彼女の家族が雑魔となった時討伐したのは自分たちであること、今は彼女自身の命が危ぶまれていることをできるだけゆっくりと説明する。
「語る言葉を私は持たない。去れ」
 怜悧な言葉を投げかけ、踵を返そうとする女性の足元にミリアの柴犬がじゃれかかった。
 もともと狐の精霊と共に過ごしていたこともあり動物を無碍に出来るほどには心が凍てついていなかったのだろう。
 柴犬をミリアのもとへ返し、自身は姿を隠そうと女性が手間取っている間に武器を足元に置いたあと鳥居へと近づく八人。
「貴方は日本からきたの? あたしもだよ。あたしは白拍子じゃないけど、舞は習ったんだ」
 舞が実家で習った日本舞踊を舞うのに合わせて狭綾が横笛を奏でる。
「もしかして貴方が未だに里の人を遠ざけるのは、この辺りにまだ歪虚の影響があるから? そうだとしたらあたしたちで退治するし、祓いの舞も一緒に舞うよ。だからお願い、それが済んだら山を降りて。このままだと貴方が傷つけられちゃう」
 舞が言葉を紡ぐと狐面の女性はもう一度足を止めた。
「この地に無用な血が流れることを私は好まない。たとえ貴方たちが私の家族を討った仇であっても……貴方たちを討っても私の家族は帰ってこない。
 私を討つ相手がいるなら討ちにくればいい。もう、生に執着する理由もない……去れ」
 凛とした声が紡ぐのはただひたすらに静かな拒絶。強い理性によって平坦を保った声が微かに滲ませるのは深い悲しみ。
「もふもふ、好きかしら。……じゃなくて。アニマルセラピーでもどう? 蹴り飛ばしてまで私たちの前から強硬的に姿を消さなかったから、嫌いじゃないんじゃないかなって思ってるんだけど」
 まだ足元でじゃれかかっている柴犬を見た後よかったらこの子にも触ってあげて、と虎猫を差し出すミリア。
 ちなみに視線は女性のもふもふでふわふわしていそうでふかふかの尻尾と耳に釘付け。
「戦いに来たのではないから貴方が懸念している血は流れません。……急に歪虚が襲撃してきたり貴方が気を変えて攻撃してくるのであれば別ですが」
 ソサイエティについて彼女がどれほど知っているか不明だったためハンターについても含め補足説明を行ったレイが最後にそう言葉を締めくくる。
「私たちと、リアルブルーから来たのなら話し合えると思うの。私も自分の世界に帰りたいと考えているから」
 アイビスが自分が地球から来たという自らの身分を示すために持っている情報が集約されたカードを見せながら話しかける。
「この世界に対して愛着はない。かといって元の世界に今更戻ったところでどうにかなるものでもない。私は人と関わることを拒絶する。
 私を殺める気がないのならば、歪虚に襲われる前に、去れ」
「この世界が転移者に優しくない部分を持っていることも、身をもって知っているわ。だから『この世界はあなたの思っているようなところじゃない』なんて私には言えない。いわない。だけど、この世界への不満の聞き手にはなれると思う。
 吐き出せば、少しは楽になるわ」
「楽になろうと思う気持ちはない。……貴方たちが去るまで何度でも言おう。去れ。それが私の望みだ」
「此処は歪虚に襲われる可能性があります。帝国に不信を持つならせめてリゼリオに移住されてはどうでしょう?
 中立地帯なので帝国の干渉はありませんし同胞である転移者が多い場所です。
 覚醒者慣れした市民から迫害されることもないと思います。
 ……貴方に非はない。ですが、貴方の身が危険なことも事実なんです」
 匠が生に執着する理由はこれから見つかるかもしれないから、と告げる。
「去れ、とは言われてもな。説得に来た以上そうそう簡単にはいそうですか帰りますってわけにもいかないわけで。
 名前を教えてもらえないかな」
 シガレットが尋ねるが女性からの返事はない。
「憎しみにとらわれるのもいけないが……全部諦めちまうのもよくない。身を滅ぼすだけで何も生み出さないからな。
 月並みなセリフだがあんたが死ぬことをあんたの家族の狐たちが望んでいると思うか? そんな不幸は望んでいないハズだと俺は思うんだが」
 初めて、目に見えるほど大きく彼女の心が揺れた。
「…………。……死者は、何も語らない」
 ミオレスカが食事の入った容器を差し出しながら先日温泉に招待してもらって楽しく過ごした事や真実の敵である歪虚を狐たちの仇として討つこともできる、と話しかける。
「煮物も、稲荷ずしも、リアルブルー出身の方に教えてもらいました。とても美味しいです、是非、もっとリアルブルーについて教えてください。
 狐さんでは、失礼ですし、お名前、どうか教えて頂けませんか?」
「……強情な人たちだ」
 根負けしたように狐面の女性が肩をすくめる。
「此処には確かに歪虚が出る。一人で何ができるというわけでもない。だが私を不審に思う村人が増えれば此処へ来るものは減るだろう。
 下手に踏み入られて歪虚や、歪虚に雑魔化された私の家族のような存在に人が傷つけられることを私は好まない」
 だから此処にいる。歪虚にせめて一矢報いることができればそれで私は満足だ。
 そう告げる女性に自分たちも歪虚を敵としている、同じ存在を敵としている以上犠牲が出るのを放置できない、そう力説する覚醒者たち。
「……自分の年を忘れるほど人との接触を断っている間に随分覚醒者に対する扱いも変わったのだな。貴方たちの言葉は温かい」
「……頑張って、作ったんです。本場の味を知る人の感想を、聞かせて頂けないでしょうか。お腹、空いているでしょうし、食事をしながら、『未来』の話を、しませんか」
 全員分、用意していますから。そう言ってシートを広げてその場にいた面子を食事に誘うミオレスカ。
「……本場の味、と言われてもな。故郷の料理どころか料理らしい料理はもうどれだけ口にしていないか……」
 強情で、物好きな人たちだ。そう言いながらいまだに名を明かさない女性は食事のために狐の面を外す。
 当たり前と言えば当たり前だが化粧っ気のない素顔は二十代半ばか後半ほどで、化粧をせずとも十分に美しい造作だった。
「……お名前、聞かせて頂けますか?」
「……小夜子。自分でも忘れかけていたが」
「有難う、ございます。どうか、召し上がってください」
「……心遣いに感謝する。頂こう」
 食事をしながら更に説得を重ねた結果、小夜子は家族を雑魔化させた歪虚の情報が得られるなら、と山を降りることに同意した。
「……復讐は何も生まないとしても。歪虚を討つことは今後生まれる悲劇の種を摘む結果にはなるからな」
 それからの生き方は、住む場所を含めて自分でも見て回って決める。
 ようやく前を見る言葉を発した小夜子に覚醒者たちは嬉しそうに顔を見合わせる。
「一緒に山を降りてくれるって決めてくれて、生きるって決めてくれて、とても嬉しいよ。
 貴方の立場はもしかすると私が陥っていたものかもしれないから。
 これからよろしく、小夜子」
 アイビスが朗らかな笑顔で握手を求めるとミリアが耐えかねたようにおずおずと挙手して発言の許可を求めた。
「ところで、もふっても……いいかしら」
「……は? ……構わないが……手入れの道具もないし期待しているほど手触りがいいかどうかは……」
「もふもふを愛する人にとっては一目見れば手触りの良し悪しはわかるの。貴方の尻尾と耳は特上級に手触りがいいと、私は見た!」
 もふりモード全開になって熱弁するミリアに目を白黒させつつもふられる小夜子を微笑ましげに眺めた後、彼女の希望とレイの提案が一致して雑魔化した狐たちの墓参りをした後。
 一人増えた一行は山を降りたのだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • もふもふを愛しもふる者
    ミリア・アンドレッティ(ka1467
    人間(蒼)|12才|女性|魔術師
  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォード(ka2398
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 対触手モニター『谷』
    柏部 狭綾(ka2697
    人間(蒼)|17才|女性|猟撃士
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/16 11:12:33
アイコン 依頼相談卓
シガレット=ウナギパイ(ka2884
人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/12/21 10:54:01