• 虚動

【虚動】ブリちゃんと同じ釜飯の仲間たち

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/21 12:00
完成日
2014/12/29 05:06

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●カールスラーエ要塞
 辺境へ向かう準備で慌ただしく動く要塞の一角で、錬魔院から派遣されたブリジッタ・ビットマンは物凄い速さで筆を動かしていた。
「えっと、ここをこーして……ここにもこれを付けてー……」
 えへへ、と他人には見せたことのない笑顔を零して書くのは、魔導アーマー『カオルクヴァッペ』の設計図だ。
 帝都から帝国第二師団のあるカールスラーエ要塞へ向かう途中に目にしたハンターの闘いが彼女に刺激を与えたらしく、要塞到着後からずっとこんな調子で設計と改造を繰り返している。
「ねえ、ブリ助ちゃん。そろそろ出発しないとダメなんじゃないかなぁ?」
 そう零すのは、ブリジッタに傍にいるよう言われたペリドだ。
「うっさいなのー! おめーはあたしの指示でマテリアルを使えばいいのよさ!」
「使えばって……これでも覚醒するの疲れるんだからね」
 ペリドは先程から何度も覚醒してはブリジッタの望むスキルを見せている。どうやら設計の関係で必要な事らしいのだが、覚醒回数が多くて疲れて来たらしい。
「ブリ助ちゃんって絶対に友達いないよね」
 他人は気にせず自分のしたいことをする。
 天才肌の人間にはありがちなことだが、ブリジッタは特に酷い。何が酷いかと言うと、こういう所だ。
「はーあ? 友だちなんていらねーのですよー! そんなの作るくらいならカオルくんと遊んでたほーが何万倍もゆーいぎなのよっ! そもそも友だちがあたしに何をしてくれるのよ? 研究の邪魔になるだけーよ!」
 目も向けずに吐き捨てる台詞に口端が下がる。それでもペリドの傍に居続けるのは、リーゼロッテ・クリューガー(kz0037)の言葉があるからだ。
『ブリちゃんはとっても良い子ですよ。だから仲良しになってあげて下さいね♪』
 ブリジッタは自分と魔導アーマー以外の世界を好まないコミュ障だ。今まで錬金術に没頭するあまり他人と関わらなかったのが原因かもしれない。
「……先生、キラキラした目で言ってたし……ボクだって仲良くなりたいけど……」
 明らかに自分と魔導アーマーへ向ける表情の違いに凹みそうになる。と、そこに助け舟が来た。
「ブリちゃん、ペリド、入りますよ」
 部屋をノックして入って来たのはリーゼロッテだ。
 彼女は笑顔でブリジッタに歩み寄ると彼女が書く設計図に目を落とした。
「もう少しで完成と言った所でしょうか。とは言え、もう出発しますよ。先にCAMの公開実験に向かったヤンさんから連絡があって、今からだと開始後の到着になりそうと――」
「あたしいーかないっ!」
「え」
 リーゼロッテは思わず目を瞬いた。
「ブリちゃん、今なんて……」
「あたし行かないのよ。だいたいなーんであたしが行かなきゃいけないのよさ。あたしはカオルくんの改造で忙しーのよ」
「でも……ブリちゃんの当初の目的は暴走する魔導アーマーの開発者の暴走を止める事ですよね? それを条件にカオルくんと出発できたはずです。なのに放棄するんですか?」
「目的が変わるなんてよくあることなのよー。そもそもあーなバカ共の面倒を、なんで天才のあたしがしなきゃならねーのよさ。それこそオカシな話なのよ。それよりもでかパイに見て欲しい物があるのよさ!」
 ブリジッタは言うと、作成途中の設計図を掲げた。そこには一見すれば意味不明な文字と計算が並べてあるのだが、それを目にした瞬間リーゼロッテの表情が曇った。
「まさか……スペルランチャーの設計をしているのですか?」
「そうなのよー♪ このあいだ見た光るたまが、すーごくきれーだったのよ♪ あれをカオルくんに搭載したらぜったいにすごいことになるのよさ!」
 スペルランチャーとはマテリアルを燃料に発射するエネルギー弾のようなものだ。色々と複雑な構造を経ないと出来ないため、現在のクリムゾウェストでは不可能と言われている技術だ。
「まえまえから付けたいって思ってたけど、どーもピンッとくる発想がなかったのよ♪ でも覚醒者を媒体とすればもしかしたら――」
「無理ですね」
「え」
 今度はブリジッタが目を瞬く番だった。
「正確に言えば、理論的には可能だと思います。でもリスクが大き過ぎます。覚醒者を媒体にして彼等に何かあったらどうするのですか? 人命への危険性の排除、そして作り上げるだけの高度な技術、そのどれもが不足しています」
「で、でも!」
「ダメです」
 キッパリ言い放ったリーゼロッテにブリジッタも黙るしかなかった。けれど負けっぱなしでいる訳にもいかない。
 設計図を名残惜しげに見つめた後、彼女は設計図の隅に書き綴った文字を指差して言った。
「それならせめて、カオルくんの間接強化と武器を作りたいのよ! それができないなら出発しないし、じょーほなんて絶対しないのよー!」
「ブリちゃん!」
 こうしている間にもCAMの公開実験開始は迫っている。このままでは先に向かった魔導アーマーの開発者たちが心配だ。
「……わかりました。物資調達の依頼を出します。ですから必ず完成させてくださいね?」
 リーゼロッテはそう言うと、そっぽを向いたままこちらを向いてくれないブリジッタの横顔を見詰めた。

●魔導アーマー『カオルクヴァッペ』
 基本操縦系は試作型魔導アーマーと同じ。
 少し平べったいボディに丸みを持たせて蛙のような外見を維持している他、カラーは緑と黒になっている。
 愛称は「カオルくん」で現在この1機しか存在しない。
 またこの魔導アーマーは2足歩行を可能にしているが、重心を上手く取れないため尻尾のような「第3の足」でバランスを取っている。この足は尻尾のように常に揺れており、機体が倒れないように支える棒のような役割を果たしている。
 また外見に似合った「両足ジャンプ機能」を搭載しており、垂直跳びの他、前方向にのみ飛躍する事が出来るようになっている。


 先程目にしたカオルクヴァッペの設計図。それを思い出しながら、リーゼロッテは依頼を出すべく要塞の中を歩いていた。
「どことなく、昔のナサ君に似ていますね……」
 思い出してため息が出る。
 ナサニエル・カロッサ(kz0028) は幼い頃からずば抜けた頭脳はあったが、どうにも周りと協力すると言う事が苦手だった。と言うよりも、彼の発想に付いていける研究者が居なかった、と言う方が正しいかもしれない。
 ブリジッタも正にそう。
 けれど彼女の周りには彼女を理解してくれる人たちがいるはず。現に彼女の身元引受人であるヤンは彼女の能力を高く評価している。
「このまま放っておいては、第2のナサ君を作りかねませんね。どうにかして今の状態から引っ張り出さないと……」
 そこまで呟いてハッとした。
「そうか、そうですね! ハンターのみなさんにお願いしてみましょう!」
 名案を思いついたと言わんばかりの笑顔になったリーゼロッテは、軽い足取りで歩き出すと意気揚々と依頼を出しに行った。

リプレイ本文

「あ、あんたたちっ、なんなのよさーっ!!」
 ぷるぷると小刻みに震えるブリジッタ。そんな彼女の前に続々と集まるハンターたち。
 ブリジッタは材料集めを頼んだはずだ。にも拘らずこれはどういう了見か!
「貴女がブリちゃん? 今日はよろしくね♪」
 そう言って顔を覗き込んで来た天竜寺 詩(ka0396)を見て気付いた。
「ブリぃ!? あんの、ボインっっっ!!」
 犯人確定。拳を握り締めて更に震える彼女だったが、ここに集まるのはハンターだ。つまり一筋縄ではいかない面々ばかり。
「ふぅむ、これがカオルクヴァッペ……実に興味深いのう」
「思ったよりも線が太いのね。2足歩行って聞いていたからもっと細いのを想像してたわ」
 魔導アーマー『カオルクヴァッペ』に近付いて、右から左からと構造を確認するイーリス・クルクベウ(ka0481)と満月美華(ka0515)はカオルくんに興味津々だ。
「人型2足歩行とは少々違うようじゃな……差し詰め3足歩行、と言った所じゃろうか」
 重心は中心よりもやや後ろ。動きに合わせて尻尾が足の代わりをする構造にイーリスは「うぅむ」と唸る。
「そもそも胴となる部分が大き過ぎるわい」
 CAMと比べれば無理もない。それでもブリジッタの作ったカオルくんは他にない利点が多くある。それを意識してなのだろう。2人の言葉を耳にしたブリジッタの表情が険しくなった――その時だ。
「これが魔導アーマー……魔導アーマーの開発って初めてだから、かなりわくわくするな」
 工房と化した室内に入ったイェルバート(ka1772)は、置かれている魔導アーマーを見て興奮した声を零した。
「あ、これが足の代わりをしてるんだ……第3の足って発想、理にかなっててすごいな」
 ピクッとブリジッタの耳が動いた。そして何とも言えない表情で唇を尖らす。
「ブリちゃん、百面相してるの?」
「! うっさい、ボケぇ!」
 ガンッとペリドの頭を弾いて歩き出す。と、そこにクラウディア・ルティーニ(ka2962)が近付いて来た。
「はじめましてブリジッタさん。私はクラウディアと申します。短い期間ですがよろしくおねがいしますね」
 礼儀正しく差し出された手に、ブリジッタの足が止まる。そうして手を見詰めた後、彼女は首を横に振った。
「あ、あたしはよろしくされる覚えなんてないのよさっ!」
「そう警戒せんでも大丈夫じゃ。ここに集まった者は君の手伝いをする為に来ているのだから」
 クラウディアの手を拒んだ彼女に、最後に部屋に入って来たレーヴェ・W・マルバス(ka0276)が声を掛ける。
 そこへ他のハンターたちも集まって来た。
「君の中では既に完成形が見えておるのじゃろう? それを聞いてから我々も改造案や様々な手伝いを提示する事ができる。ブリジッタが思いつかなかった事も出てくるかもしれんしの。魔導回路は知識はあっても私は専門外じゃが、力仕事と機械的なものに関しては私は手伝おうぞ」
「そうそう。みんなで頑張ればきっと良いものが出来るよ♪」
 ね? そう笑顔を見せる詩に同調して頷くハンターたち。その全ての顔を見回した後、ブリジッタはある人物の元でその目を止めた。
「……あんたもなのよ?」
 伺うように問い掛けた先に居たのはイーリスだ。
 その声に彼女の口角が上がる。
「そのつもりで来ておる。が、お主はもう少し『人』を見た方が良いのう。大人顔負けの天才少女じゃが、人付き合いに難があり過ぎる」
「ひ、人をみてなんになるのよさ! あたしは研究さえできればそれで――」
「それがいかんのじゃ。わしら職人や技術者が品質に拘るのは、それが『人』の命や未来に繋がるからじゃ。『人』を軽んじておる者にそれができるのかのう?」
 うぐっ、とブリジッタの言葉が止まった。
 そうして何かを言い返そうとするも、結局は「勝手にするのよさ!」と叫んで背中を向けてしまった。
「あ、あれ? えっと?」
「許可が出たってことよ」
 戸惑うイェルバートに美華はにっこり笑うと、魔導アーマー『カオルクヴァッペ』に向き直った。


「ふんふん、つまりカオルくんはジャンプ機能があって、そのために間接強化が必要、と」
「なにペラペラしゃべってるのよー!」
「ぶぁっ!?」
 バシーンと凄まじい勢いで頭を叩いた書類の束にペリドが倒れる。その姿に「あはは」と乾いた笑いを零しながら魔導アーマーを見た。
「今の話を聞く感じだと、着地の衝撃を吸収しきれてないんじゃないかな? ってことはバネとショックアブソーバーってのをこういう感じで取り付けて……」
 サラサラと紙に書き出される案にクラウディアの首が傾げられた。
「ショックアブソーバーですか?」
 事前にCAMと魔導アーマーの資料を読み込んで来たのだが、やはり全部を詰め込むのは無理だった。
 聞き慣れない単語を聞き返す彼女にイーリスが答える。
「振動を少なくする装置じゃよ。確かに振動の軽減は必要じゃろうが、それを支えるフレームも心配じゃのう」
「そうねぇ……心配なのはそこだけじゃないかも知れないわよ。ほら、ここ」
 言って美華が示したのは魔導アーマーの関節部分だ。しかもそこは足ではなく腕である。
「見たところ、ブリジッタが乗せたいのは近接武器よね。しかもパイルバンカーとなるとこちらにも衝撃波凄まじいはずよ」
「確かにパイルバンカーともなると、何度も打ち付ける衝撃が凄そうですよね。それを耐えるにはそれなりの強化が必要かもしれません」
 美華の言葉に頷いたイェルバートは、興味津々に設計図を見ている。
「そう言うこと。それに、対象に攻撃する際も急加速するはずだからその負荷も考慮したほうがいいと思うの」
 次々と上がる改造案にブリジッタの口端が下がった。それを見止めたレーヴェが声を掛ける。
「そうだブリジッタ。食べられないものはあるかね?」
「たべられないもの? あんたなに言ってるのよ。カオルくんは燃料以外は食べないのよさ」
 バカじゃないの。そう零す彼女にレーヴェは笑う。
「ハハハ、食事の事じゃよ。普段は片手間かの? それともがっつり行くんじゃろうか?」
「なーに意味わからないこと言ってるのよ。ご飯なんて食べれたいときに食べれば、じゅうぶんなのよさー!」
 つまり、普段はちゃんと食べていない。という事だ。この言葉にレーヴェが詩と顔を見合わせる。
「思った通りだね。ご飯は時間を取って食べると、と~っても美味しいんだよ♪」
「決まりじゃな。今日はがっつり取ってみるかの」
「はあ? あんたたちなに言って――」
「あの、ブリジッタさん。少しよろしいでしょうか?」
 グイッと腕を引いて引き寄せたクラウディアにブリジッタの目が見開かれる。
「歩行時やジャンプ着地時に脚部にかかる負荷を減らす工夫も必要ではないでしょうか?」
 そう言って魔導アーマーの足を示す。その様子にブリジッタの眉が寄った。
「カオルくんはあたしのなのよー! あたしが改造して、あたしが強くするのよさッ! 邪魔しないでなのよー!!」
 小さな体を大きく揺らして叫ぶ彼女に、全員の動きが止まった。そのことに一瞬ハッとなるものの、言ってしまった言葉を取り消す事は出来ない。
「も、もう良いのよさ……あんたたちはあっちに行ってると良いのよっ!」
 どことなく寂しげに呟き、魔導アーマーに向き直る。その姿にイーリスが声を上げた。
「フレーム作成はわしの方で担おうかのう」
「そうね。手分けした方が早く終わるでしょうし、私は武器の方に回るわ」
 彼女の声に呼応して美華も動き出す。
「なん、で……」
「何を呆けておる。私たちは魔導アーマーを完成させるためにここにおるんじゃぞ? ほれ、必要な作業手順を教えぬか」
 設計図を示すレーヴェにブリジッタの瞳が揺れた。そして彼女と同じように指示を待つクラウディアが微笑む。
「ブリジッタさん、お口、開けてみて下さい」
「いきなりなん……っ!」
 言いかけた直後、小さな塊が彼女の口の中に放り込まれた。それに目を見開くも一瞬、彼女の目が輝き出した。
「はむ、むぐぐ……んむー! な、ななな、なんなのよ、これはぁー!」
 頬を紅潮させて身を乗り出した彼女に、クラウディアが口に放り込んだのと同じチョコを取り出した。
「甘い物は脳に良いらしいので」
 クスリ。そう笑う彼女を他所に、ブリジッタの目はチョコに釘付けた。
 その姿に内心でハラハラと様子を窺っていたイェルバートが安堵の息を吐く。
「どんなに大人顔負けでも、やっぱり女の子なんだな。って、今更だけど、男って僕だけ……?」
 本当に今更だが、ここにいる男性は彼だけだ。それが幸か不幸かはわからないが、とりあえず今のところ問題は起きていない。
「と、とりあえず、作業の順番を教えてくれるかな? それが終わったらもっと良い強化がないか皆で話し合ってみようよ」
 イェルバートは気を取り直してそう言うと、微妙に引き攣った笑みで女性陣を見回した。


 工房内に香る食欲をそそる匂い。
 それを胸いっぱいに吸いながら、イェルバートは取り分けられた鍋の中身に箸を伸ばした。
「改造を掛けて、実際に動かして問題を見つけて、また直して……その繰り返しだって、爺ちゃんが言ってた」
 そう言いながら口に運ぶ料理は、詩やレーヴェが用意した物だ。
 詩は主に鍋を。レーヴェは主に釜飯を担当している。何故料理なのか。その理由はリーゼロッテが依頼を出す際に書いていた『同じ釜飯を食べる仲間作戦!』が原因だったりする。
「どうじゃ? 美味しいじゃろう!」
 胸を張るレーヴェに、鮭と銀杏を入れて作られた釜飯を口に運ぶブリジッタの目が動く。
 昆布の出汁が効いた釜飯は、ハッキリ言って美味しい。そもそも鮭の身をほぐして、しかも銀杏は鬼皮を割って煮、渋皮を剥いたものを入れるという手の凝りよう。これで美味しく無いはずがない。
「素直に美味しいと言えば良いじゃろう」
 呆れるイーリスを他所に、ブリジッタは黙々と食を進めている。そんな彼女に美華が身を乗り出してきた。
「ブリジッタは他に武器を考えてないの?」
 問い掛ける彼女の視線の先には、魔導アーマーに装着されたドリルと、パイルバンカーがある。
「私は『超電磁砲』とか『遠距離砲撃型の機体』なんかがおすすめかな。あ、超電磁砲は磁力と電力の力で弾を超高速で撃ちだす武装なの。ただ、電力を発生させるバッテリーパックを搭載させないといけないのがネックなのよね……」
 ほう、と息を吐く彼女に、クラウディアが首を傾げる。
「耳慣れない言葉がたくさん……リアルブルーではそういった技術が充実しているんですね」
 リアルブルーの技術に興味があるクラウディアは、少しでも多くの知識を得ようと疑問に思ったことは直ぐに聞く様にしていた。先程もブリジッタに魔導アーマーの設計図を見せてもらい、思ったことは口にしていた。
「あ、ブリちゃん。お代わりどうですか?」
 ふと、ブリジッタの器が空になっている事に気付いた詩が手を伸ばす。それに素直に器を差出すと、彼女は鍋のある一カ所で視線を止めた。
「あ、このお餅気に入ったの?」
 大根おろしを大量に乗せた、いわゆる白雪鍋。そのサイドに忍ばせて置いた百合根と揚げたお餅だったが、どうやらブリジッタはこのお餅が気に入ったらしい。
「はい、どうぞ♪」
 ふふ、と笑いながら差し出される器に「どもなの」と言葉が返ってくる。それを見止めながら、イーリスが問い掛けた。
「超電磁砲とは違うが、帝国内にも魔導式ミサイルランチャーといった装備はあるようじゃが、組み込む気はないのかのう?」
「あ、それに近い質問を僕も良いかな? ほら、カオルクヴァッペの動きは両足で飛ぶような形を想定してるって言ってたけど、あの武器はどうなのかな? 大型で硬い敵を想定している? それならイーリスさんが言ってた武器もありかもって思うけど」
「魔導式ミサイルランチャーは予定してないのよー……それよりもスペルランチャー……」
 イェルバートに答えかけ、もごっ、とご飯で隠した言葉に美華とイーリスが顔を見合わせる。
「何か思う所があるようじゃな」
「いまは良いのよさ……それより、あんたに聞きたいのよ」
「え、私?」
 思わぬ鉾先に美華が目を瞬く。
「リアルブルーにはCAM以外に、どんなものがあるのよさ?」
 本当は搭載する武器の話をしたい。けれどリーゼロッテから言われた言葉が頭を過って口を噤んだ。その代りにと、半分でも興味のある事を問い掛ける。
 もしかしたら、何かヒントがあるかも、と。
「リアルブルーの世界には戦車っていう兵器があってそれにはコンベアーを採用しているの」
「コンベアー?」
 目を瞬くブリジッタに美華が紙に簡単な図を記してゆく。
「遠距離砲撃型にはより安定をはかるためにコンベアーを使用したほうがいいと思うの」
 確かに2足歩行のままでいるよりは、コンベアーを使った機体の方が安定性は増すだろう。とは言え、そうなると機動力に難が出てくる。
「戦車……機動力はイマイチそうだけど、安定性はたしかにありそうなのよ……もしコンベアーと足のりょーほう持った魔導アーマーがあったら……」
 チラリと見た魔導アーマーは2足……いや、厳密には3足歩行だ。そこにコンベアーを付けるのは無理だが、他の機体にならもしかすると。
 そこまで考えた所で、牛乳の入ったカップが差し出された。
「釜飯も鍋も、リアルブルー由来の料理だっけ?」
 ブリジッタに飲み物を勧め、自らもカップを口に運ぶイェルバートは料理を作ったレーヴェと詩を見た。
「そうなのかな? あ、でも美味しかったでしょ?」
 ニッコリ笑ってブリジッタの顔を覗き込んだ詩に彼女の頭が小さく頷く。それを見て笑みを深めると、彼女は空になった鍋を見て言った。
「あのね、美味しさの秘訣は全部の具材を一緒に煮込む事なんだよ。鶏肉は鶏肉だけで美味しくなったんじゃないし、出汁昆布、油をさっぱりさせてくれる大根おろし、サイドの具もメインの鶏肉を引き立ててくれる。支えてくれる物があって初めて主役は輝くんだよ」
「料理のことなんて聞いてもよくわからないのよ……」
「要は仲間と一緒に食べれば美味いし、一緒に頑張れば相応の結果が付いてくるという事じゃな」
 詩の言葉を捕捉するようにレーヴェが言うと、ブリジッタは改めてここに集まった面々を見た。
 そしてイーリスで目を留めると、初めに彼女が言った言葉が頭を過った。
『お主はもう少し『人』を見た方が良いのう』
 今も人を見るという言葉の意味は分からない。それでも人と話をする事で生まれる両案がある事はわかった。
「意味がわからないのよ……でも……あんたたち、最後の仕上げに入るから手伝うのよさ!」
 ブリジッタはそう言うと、カップの中身を飲み干して立ち上がった。

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  • 豪傑!ちみドワーフ姐さん
    レーヴェ・W・マルバスka0276

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  • 豪傑!ちみドワーフ姐さん
    レーヴェ・W・マルバス(ka0276
    ドワーフ|13才|女性|猟撃士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • ユレイテルの愛妻
    イーリス・エルフハイム(ka0481
    エルフ|24才|女性|機導師
  • 《潜在》する紅蓮の炎
    半月藍花(ka0515
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • →Alchemist
    イェルバート(ka1772
    人間(紅)|15才|男性|機導師

  • クラウディア・ルティーニ(ka2962
    人間(紅)|18才|女性|機導師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/19 06:16:14
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 詩(ka0396
人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/12/21 08:41:56