荒波に漂う救いの声

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/17 07:30
完成日
2018/06/24 13:00

みんなの思い出

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オープニング

 ゴゥゴゥと風が唸りを上げていた。
 雨は視界が雨粒に覆われて霞むほどに激しく降り注いでいた。
 大嵐だ。
 季節外れの大嵐が港町を襲っていた。
 漁船は大慌てて港に舞い戻り、貨物船は出港を見合わせる。
 港の者達はこの嵐が過ぎ去るのをじっと耐えて待つしかなかった。
 だが、既に遠方まで出てしまった船はそうはいかない。
 この日は貨物船が1隻すでに出港してしまっていた。
 港に戻ってくる様子はないため、今頃は荒れ狂う波に翻弄されているだろうと容易に想像できた。
「心配だな」
「あぁ、無事に嵐を抜けられていればいいが……」
 だからと言って港にいる者達にできる事はない。
 できる事と言えば無事な航海を祈る事くらいだ。
 嵐は1日中荒れ狂った。

 翌日、嵐はおさまったものの波は未だ高く、まだ出港するのには不向きな天候だった。
 しかしそんな悪天候でも船を出そうとする者もいる。
「船長、止めましょうよ。こんな波の時に出る事ないじゃないっすか」
 その貨物船の船長を、船員が止めようとしていた。
「ばっきゃろう! この程度の波を恐れて海運業をやってられっか。海の向こうじゃ俺達の荷を待ち望んでいる人がいるんだぞ。俺達が運んでいるのは荷物じゃねぇ。荷物に込められた人の心だ。一刻も早く運ぶのが人情ってもんだろうが」
「カッコイイこと言ってますけど、悪天候だからって割増料金取ったんっすよね?」
「……」
 船長が無言で船員から視線を反らす。
「それに昨日一日荷運びがなかったから、一番乗りすれば高値で売れると思ってるんすよね?」
「……」
「結局金っすか?」
「うっせぇ! うちみたいな弱小海運屋が儲けようと思ったら多少は危険を承知で無理するしかねーだろっ! どんな天気だろうと運べる時には何でも運ぶんだよ! 分かったらとっとと出港準備しやがれ!」
 開き直った船長は船員達に出港を指示したのだった。

 出港した船長の貨物船は船員の予想通り激しい波風に晒された。
「ひでぇ時化っす! だから止めよう言ったっんすよ!」
 船員がマストを操りながら悲鳴を上げる。
「このぐらいの時化なら何度も航海してるじゃねぇか。今更びびんじゃねぇ」
「そりゃ船長が何時も俺達に無茶させてるからっすよ!」
「俺の船の乗組員ならこのぐらいの時化は乗り越えられんだろ」
「それも船長の無茶に俺達が付き合わされたから自然と鍛えられちまっただけっすよ! お陰で何度死にかけた事か……」
「人聞きの悪いこと言うな。まだ誰も死んでねぇだろうが。俺の采配が間違ってない証拠だ」
「なんでそんな自信満々なんっすか?」
「とにかくもう港は出ちまったんだ。死なねぇように全力で海を渡れ!」
「この人鬼っす……」

 船長の貨物船は何度となく高波に襲われたものの、なんとか目的の港に到着したのだった。
「ほらみろ。ちゃんと着いただろうが」
「俺らはボロボロっすけどね……」
 波風に煽られながらマストを操り続けてきた船員達は疲労困憊で甲板に寝っ転がっている。
「商いは俺がやってくっからお前らは寝てていいぞ」
「言われなくてももう動けないっすよぉ~」
 船長が港に降りると、すぐに商人がやってきた。
「お待ちしておりました、あかつき丸の船長さん」
 しかしその商人は船長の商談相手ではなかった。
「俺の船は夜明けの太陽号だ。あかつき丸じゃねぇ」
「あかつき丸ではないのですか?」
 船長は『あかつき丸』という名前に心当たりがあった。
 それは昨日、港から唯一出港した貨物船である。
「あかつき丸なら俺達より一日早く港を出てたぜ」
「そんな……あかつき丸はまだ港に到着していませんよ。何故一日遅く出た貴方達が先に……」
 商人の表情が曇る。
(こりゃあ嵐で沈んだかな?)
 商人もおそらく船長と同じ想像をしたのだろう。
「あの、ここに来るまでに船影を見たりは……」
「悪いが見てない」
 嘘をついてもどうにもならないため、船長は正直に告げた。
「そう、ですか……」
 船長は気落ちした商人と別れると、商談相手の元へ向かった。

 予想通り普段より高値で荷を卸す事のできた船長はホクホク顔で船に戻ろうとした。
(今日ぐらいは奴らにも贅沢させてやるかな)
 懐が暖かくなって少し気の大きくなった船長は、船員達を連れて何処に呑みに行こうか考えていた。
「あの、すみません」
「ん?」
 呼び止められたので足を止めると、先程会った商人がいた。
「お願いがあるんです。あかつき丸を捜索してきてくれませんか?」
「そんなに大事な荷を積んでたのか?」
「荷よりも大切なものが、友人の息子が船員として乗っているんです。彼の事が心配で……。もちろん謝礼はお払いします!」
 謝礼金の額を聞いた船長の目の色が変わる。
「それは……さぞや心配でしょう……。分かりました。広範囲な捜索はできませんが、港に戻るまでの航路をしっかり探してきてあげましょう」
「えぇ、それで構いません。ありがとうございます!」
「いえ、人として当然の事ですよ」

 商人が捜索用にと雇ったハンターを連れて自分の貨物船に戻った船長は、船員達に事情を告げた。
「という訳で、すぐに出港するぞ」
「俺達ゃ休みなしっすかっ!?」
「下船は?」
「港で一杯は?」
「また金のためか!」
「せんちょーおーぼー!」
「ブー! ブー!」
 船員が次々と文句を言う。
「仕方ねーだろ。もし難破してんなら一刻も早く見つけにゃならん。人命救助だよじんめーきゅーじょ。胸を張れる立派な仕事だろうが。文句を言わずさっさと出港準備しろっ!」
 船長が命令すると、船員達は渋々といった様子ながらも準備を始める。
 船長の言うとおり難破しているのなら、一刻も早く探しださなければならないのは事実だったからだ。

 出港した船長の貨物船は元の港までの航路を大きく蛇行しながら進んだ。
 海は来た時よりは少し穏やかになっていたのだが、時が経つに連れてまた荒れてきた。
 やがて雨が降り始め、風もきつくなってくる。
「くそっ! これじゃあますます見つけにくくなるぜ」
 雨はだんだんと強くなってゆき、波も高くなってきて貨物船も激しく揺さぶられ始める。
「船長、これじゃあ捜索なんて無理っすよ。もう港まで直行しましょう」
「見つけりゃ更に謝礼が貰えたんだが……仕方ねぇ」
 船長が捜索を打ち切ろうとした、その時。
「船長! 11時の方向に何かあります!」
 メインマストの物見から吉報が入る。
「本当か!」
 船長が言われた方角に目を凝らすと、荒れ狂う波間に何かの影が見えた。
「いた!」
「この天気で見つかったんすか? 奇跡っすね」
「だが……」
 しかし船長の表情は曇っていた。
 なぜなら、海面には何故か船底が見えていたからだ。
「転覆してやがる……」

リプレイ本文

「この嵐ン中でよく生きてたなァ、確かにこりゃ奇跡だぜ!」
 荒れた海の波間で漂う転覆船にしがみつく船員達の姿に感嘆したボルディア・コンフラムス(ka0796) は魔導ライト「おでこぺっかりん☆」を額に括り付ける。
「急ぐぞ。どれだけの時間しがみついていたのか分からないが、かなり体力を消耗しているはずだ」
 ヴァイス(ka0364)はボルディアと共にボートに乗ると、二人で荒波へ漕ぎ出した。
 保・はじめ(ka5800)はクルーの1人にボートに同乗してもらった。
(そういえば、おだやかな状況でボートに乗った事ってないですね。以前の川下りほど過酷ではないと良いのですが……)
 荒波に逆らってオールを漕いでいると、過つて体験した傾斜45度の急流下りの事が脳裏をよぎる。
 夢路 まよい(ka1328)もクルーの1人と同乗してボートで救助に向かう。
「こんな嵐の日に船で航海に出るなんて、貨物船の人も転覆船の人も、無茶もいいとこだよね」
 まよいは船員達の無謀さに呆れながらも転覆船にある程度近づくと、『マジックフライト』を発動させて浮かせた[EX]錬金杖「ヴァイザースタッフ」に跨った。
「お嬢ちゃん空飛べるのか?」
「私、こう見えても魔術師なの。じゃ行ってくるね。ボートの番よろしく」
 まよいはボートに括り付けたロープの端を持って浮かぶと保とヴァイスのボートからもロープを受け取り、転覆船に向かって飛んだ。
 風の影響を受けにくいと思って低空を飛んでいると、正面から高波が襲ってきた。
「キャー!」
 大慌てで高度を上げ、辛くも波を避ける。
「低空飛行の方が危ないかも……」
 少し高度を上げた程度なら雨風の強さは変わらなかったので、波をかぶらない程度の高さで飛んだ。

 やがて転覆船の船員達も空を飛んでくるまよいに気付いた。
「なんだあれ?」
「……人、か?」
「バカ、人が嵐の中空飛べる訳ないだろ」
 船員たちが厚い雲と雨風で暗く烟る景色に目を凝らす。
 見えてきたのは薄暗がりにぼんやりと浮かぶ、髑髏。
「死神だぁーーー!!」
「ギャーーーーー!!」
 まよいの被る仮面「花髑髏」は近くで見れば色とりどりの花に飾られた華やかな髑髏なのだが、薄暗い嵐の中ではそこまで分からない。
 髑髏面が嵐の中を浮遊してくる光景は完全にホラーで、船員達は驚き慄いた。
「ちくしょー! 遂にお迎えが来やがった……」
「おれ、ブッディストなんだよ。だから連れて行くならコイツを先に」
「待てよ! 宗派なんて関係あるか! お前が先に行け!」
「嫌だぁー! 俺はまだ死にたくねー!」
 その様子を見聞きしたまよいも慌てた。
「わわっ! なんかパニックになっちゃってるっ!」
 急いで髑髏面を外して叫ぶ。
「私死神じゃないから! 人間だからー! コレただの仮面だから!」
「え?」
「人間?」
 少し落ちつきを取り戻した船員達の前にまよいが舞い降りる。
「紛らわしい姿で来てすみません。あの……助けに来ました」
 まよいが苦笑いをしながらちょっと気まずげに言う。
「女の子?」
「いや、杖に跨ってきたぞ」
「魔女か!?」
「魔女なら魔法ですぐ助けてくれるぞ!」
「うおぉー! やったぁー!」
 さっきまでのお通夜ムードから一転して歓喜に湧いた。
(魔女じゃなくて魔術師なんだけど……。まぁ安心してくれてるならいっか)
「魔女さん!」
 不意に船員の1人が真剣な面持ちでまよいの肩を掴んできた。
「船内にまだ仲間が残ってるんだ。助けてやってくれ!」
「え?」
「船が転覆して逃げてる時に助けてくれって声がしたんだ。俺は探したんだけど真っ暗で見つけられなかった。声はすぐに止んで、もう探しようもなくて、置いてきちまった……。余計なこと頼んでるってのは分かってる。まだ生きてるかどうかも分からねぇ。でも探してきてくんねぇか?」
 船員が必死の懇願してくる。
「逃げ遅れた人は1人だけなの?」
「分からねぇ。だが酷い転覆だったから2~3人はいてもおかしくねぇ」
 まよいはその事をトランシーバーで仲間達に伝えた。
「俺が探しに行ってやるよ。せっかくの奇跡を無駄にさせるわけにゃあ、いかねぇっての!」
 ボルディアが真っ先に快諾する。
「俺も行こう。この様子だとこの船は長く持たないかもしれない。2人で手分けして探した方がいいだろう」
 ヴァイスは転覆船の喫水が徐々に下がってきている事に気づき、自分も捜索に加わる事にした。
「誰か俺達のボートの番をして待ってて貰えないか?」
「頼めますか?」
 ヴァイスの頼みを受けて、保が同乗しているクルーに頼む。
「いいぜ」
 快く引き受けたクルーがヴァイスのボートに乗り移る。
「入口は……海の中にしかねぇよな。じゃあ潜って行くしかねぇか」
 ボートをクルーに預けたボルディアとヴァイスは海に飛び込んだ。

 まよいは持ってきたロープを結んで固定できそうな所がないか探していた。
 しかし船底は水の流れを阻害しないよう滑らかな作りになっており、固定できそうな箇所はない。
(じゃあ船底に2ヵ所穴を開けて、そこを通すように結びつけて……)
 そこまで考えた時、手持ちの武器が錬金杖だけしかない事に気づいた。
(……どうやって穴を開けよう?)
 試しに錬金杖で突いてみたが、杖の方が折れそうな気がした。
 使えそうなスキルは『マジックアロー』くらいだが、スキルは威力の微調整ができないので、まよいが撃てば船底に大穴が空いて沈没を加速させるだろう。
「ごめん。ロープを固定できる所がないの。どうしよう?」 
 トランシーバーで相談する。
「仕方ありません。浮き輪で代用しましょう。一旦戻ってきて下さい」
 すると保が機転を利かせて代案を出してくれた。
 保は持参した浮き輪にロープに繋ぎ、それをまよいに持って行ってもらう。
 船員には浮き輪に捕まってもらい、ボート側からロープをたぐって引き寄せるのだ。

 一方、ボルディアとヴァイスは無事に海中から船内に入り込んでいた。
 上層は2人の頭だけが海面に出ている程に浸水していた。
「かなり浸水が進んでいるな……」
「それに空気もよどんでやがる。こりゃホントに長くは持たないね」
 ヴァイスは出入り口の目印にするため、ハンディLEDライトを入り口の柱の間に挟んで固定し、点灯させた。
 自身の光源は『シャイン』で魔導機式術用護身短剣「銀」を輝かせて確保する。
 ボルディアはまず匂いで捜せないかと『超嗅覚』を発動させてみた。
 すると強烈な磯の匂いが鼻をつく。
「磯臭っせぇー! 予想はしてたが、海の匂いがキツすぎて人の匂いなんて分かりゃしねぇな」
 次に音で探そうと『超聴覚』を発動させ、大きく息を吸う。
「おーーーーーーーーーーーい!! 助けに来たぞーーーーー!! 何か音出して返事しろーーーーー!!!」
 力の限り叫んだ後、静かに耳を澄ます。
 やがて、ほんの微かにだが何かを叩く音と「助けて」という声を捉えた。
「聞こえた! ここより上の階だ」
「なら上は任せた。俺はこの階を探してくる」
 ボルディアは上の階へ、ヴァイスは泳いで奥へ向かった。
「おい! 誰かいないか? いたら返事をしろ!」
 ヴァイスは声を掛けながら船室を見ていったが誰もいない。
 船長室では航海日誌などの書類が浮いているだけだった。
 食堂には炊事場から流れてきたらしい食材や樽などがプカプカと浮いている。
 炊事場を入ると、水面に人が浮いていた。
「おい! 大丈夫か?」
 声を掛けたが返事はなく、見ると頭から血を流している。
 すぐに『アンチボディ』で治し、再び声を掛けて頬を張った。
「しっかりしろ! 目を覚ませ!」
「ぅ……ぁ……あんたは?」
 すると船員は目を開けた。
「救助に来たハンターだ。落ち着いて聞いてくれ。船が転覆して沈みかけている」
「ぇ……そう……なのか?」
「すぐに脱出しなければならない。行けるか?」
「あぁ……大丈夫だ」
「よし、こっちだ」
 船員はまだ意識がハッキリしてなかったが、ヴァイスの先導に従ってくれた。

 ボルディアは鳴り続いている殴打音を追って、最下層まで上がった
「おーい! どこだ!」
 声を掛けると「ここだ」という声が聞こえた。
 声の方に向かうと、荷物や大小様々な石の下敷きになっている男がいた。
「助けに来てくれたのか……ありがてぇ。もうダメかと思ってたよ」
 男は衰弱しているのか弱々しく笑った。 
「待ってろ。すぐ助けてやる」
 ボルディアは荷物や石をどけ、男を引きづりだした。
「ぐわぁっ!」
 その際、男が悲鳴を上げる。
 見ると男の足は潰れて酷い有様だった。
「悪い! 大丈夫か?」
「気にすんな……命があっただけ儲けもんだ」
 そう言うが、男の顔は苦痛で歪んでいる。
「来てくれヴァイス。怪我人がいる」
 トランシーバーでヴァイスと連絡をとった。
『分かった。すぐ行く』
 ヴァイスが来るまでの間、ボルディアは男の足に応急処置を施しながら話を聞いた。
「ところで船が転覆した時に助けを求めてたのってあんたか?」
「いや、俺じゃないな。俺は船が転覆した時には荷物とバラストの下敷きになって気絶してたぜ」
(こいつじゃないのか……)
 応急処置を終えると男の足の出血だけは止まった。
「後でちゃんと治してやるから今はこれで我慢してくれ」
「ありがとよ。楽になったぜ」
 男の顔から苦痛が消える。
 というより妙にニヤけている。
(ん?)
 男の目線を追って視線を下げる。
 ボルディアの着ているシャツが濡れて張り付き、ボディラインがクッキリと浮かび上がっていた。
「おいおい、こんな時になに見てんだよ」
「いや! 男なら見るだろ普通」
 呆れるボルディアに男は堂々と言い放った。
「俺は腹筋がバキバキに割れてるぜ」
「俺はそんなの気にしねぇ」
 男は親指を立てた。
「そんな元気があるなら大丈夫だな。肩貸すから行くぞ」
 ボルディアは男に肩を貸して支えると、ヴァイスのLEDライトを頼りに出入り口に向かって歩き出す。
 途中でヴァイスに出会ったので『アンチボディ』を施してもらった。
「治った!? 兄さんすげぇな。ありがとよ」
「お安い御用だ。それより他に残された船員に心当たりはあるか?」
「いや、俺はずっと下敷きになってたからな……」
「そうか」
 足の治った男には自力で歩いて貰い、2人は救助者を連れて一旦転覆船を出た。

 海上では船底にいた船員を全員救助し、保とまよいのボートに4人ずつ乗せ終えていた。
 保は貨物船に戻る前にカードを2枚抜いて『禹歩』を発動させる。
「何やってんだ鬼の兄さん?」
 船員が不思議そうな顔で尋ねてくる。
「安全に戻れるおまじないみたいなものです」
 保は『禹歩』でなんとなく危険そうだと思えた航路を避けつつ波を越え、船員を無事に運び終える。
「ハンターさん、何人助けられた?」
 戻ってきた保に貨物船の艦長が聞いてくる。
「船内で助けた2人と合わせて10人です」
「そうか。こっちで助けた船長に船員の数を聞いて、助けた人数を数えたんだけどよ。お前らが助けた人数あわしてもまだ2人足りねぇ」
「まだ船内に2人いるかもしれないんですね」
「波に流さてる可能性もあるが、どうする? あの船はじきに沈むだろう。これだけ助けたんだ。ここで捜索を打ち切ったって誰にも文句は言われねぇぜ」
 保はその事をトランシーバーで仲間達に伝えた。
「後2人か。分かった」
「迎えのボートを用意しておいてくれ」
 どうするか相談するまでもなく、ヴォルディアとヴァイスは再び海に潜って行った。
「仕方ありませんね。僕も行ってきます」
「無理すんじゃねぇぞ。俺らも海上の捜索を続けとくが、見つからなくても船が沈む前に戻ってこい」
 保は船長に見送られてボートで転覆船まで引き返し、海に潜っていった。

 ヴォルディアとヴァイスが転覆船に戻ってくると上層は既に水没し、中層も膝の高さまで沈んでいた。
「沈没が速まっているな。余り猶予がないぞ」
「この階はもう捜せねぇな。俺はもう1回上を探してくるから、ヴァイスは2階を頼む」
 2人で手分けし、大声で呼びかけながら探し始める。
 やがて保も転覆船に到着した。
 魔導スマートフォンの懐中電灯機能で明かりを灯すと、トランシーバーで2人と連絡を取る。
「手伝いに来ました。どこがまだ未探索ですか?」
「中層の船尾側を頼む」
 中層船尾へ行くと、そこは船倉だった。
 水かさは既に腰まで達していて、荷物が幾つも水面を漂い、大きな荷物は船室の隅にかたまっていた。
「誰かいませんかー!」
 スマートフォンの少し頼りないライトで照らして声を掛けながら荷物の陰などを探る。
 すると荷物と荷物の間から手の先が出ているのが見えた。
「いた!」
 荷持をどけようと手をかける。
 重かったが水の浮力のおかげでどける事ができ、血塗れの男を見つけた。
「大丈夫ですか?」
 返事はない。
 容態を診ると呼吸が浅く脈も弱い。
「船部船倉で重傷者発見!」
 トランシーバーで連絡しつつ『再生の祈り』で治療を施す。
 目立った傷は塞がったが意識は戻らず、脈も弱いままだ。
 駆けつけてきたヴァイスが『アンチボディ』を施すが症状は変わらない。
「血を流しすぎているな。ここじゃもう手の施しようがない」
 そうしている間にも水位は上がり、中層も水没しかけている。
「こいつを連れて先に脱出してくれ。俺はギリギリまで探してみる」
 ヴァイスが保に重傷者を任せた、その時。
『海上で1人見つけたよ。そっちはどう?』
 予め保が仲間達に配布しておいた『口伝符』で通じて、輸送船に残っていたまよいからの朗報が頭に響く。
 『口伝符』なら距離も場所も天候も関係なく声を届ける事ができるのだ。
「こちらも1人発見しました」
 保も『口伝符』で応じた。
『全員救助完了か? やったなおい!』
 トランシーバーからはヴォルディアの歓声が響く。
「こんな場所に長居は無用だ。行こう」
 ヴァイスは重傷者を担くと、保と共に出口に向かった。

 3人が重傷者を連れて脱出し、ボートで貨物船に戻った時には転覆船は沈没していた。
「結構ギリギリでしたね」
「無理すんなって言ったのに無理しやがって。でもよくやってくれた。ありがとな」
 船長が安堵した顔で労ってくれる。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
 救助された船員達も次々に感謝を述べてくる。
「ありがとな魔女っ子」
 まよいは頭をぐりぐりと撫でられた。
(最初は死神で、次は魔女で、最後は魔女っ子扱い?)
「しっかし。これだけの事故で全員が助かるなんてホント奇跡だよなぁ」
「姐さんにも感謝してます!」
 ヴォルディアに感謝してくる者達の顔は妙にニヤけている。
 その視線はもちろん……。
「お前らもかよっ!」

 嵐による海難事故では乗組員全員が死亡というケースも珍しくはない。
 しかし今回は奇跡的に死者は0であった。
 運がよかった事もあるが、4人のハンターの活躍による功績なのは間違いない。

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重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師

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夢路 まよい(ka1328
人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/06/15 22:46:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/15 23:04:41
アイコン 相談卓
保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2018/06/16 22:17:32