化物殺しを持った化物

マスター:窓林檎

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/18 19:00
完成日
2018/07/06 18:19

みんなの思い出

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オープニング

 昔、むかし、北の方の狄が大いに猛る頃、辺境の地に一人の鍛冶職人がいました。
 安価な剣槍を拵えて糊口をしのいだ彼は、偏屈で狭隘、容姿も醜悪で、金槌を持った猿といった有り様。
 口を開けば悪罵を尽くしたものですから、彼と目があっただけで不幸が訪れると噂される始末でした。
 ある時鍛冶職人は、性悪な貴族の不興を買い、こう命じられました。
 ――貴様のような猿でも、北から押し寄せる化物どもを皆殺しに出来る剣を作れれば、存在価値を認めてやろう。
 命を受けた鍛冶職人は、『それ』を遮二無二鍛え始めました。
 見る者全てが怖気を抱かずにいられない程の執念を込め、金槌を振るう日々。
 職人としての矜持か、人々から認められたいがためか、理由などなかったのか……。
 その姿は最早、人でもなく、猿でもなく――鬼でした。
 そして完成し、献上された『それ』を見た貴族は、こう言い放ちました。
 ――ひとでなしの、ばけものめ。
 貴族の表情に浮かんでいたのは、怒りでも、蔑みでもなく、畏怖でした。
 鍛冶職人はその言葉を受けると、懐から短剣を取り出し、自らの首を掻き切りました。
 彼は嘆息の他には何も言わず、表情すら変えませんでした。

 ※

 時は流れ。帝国の僻地に、一人の『化物』がいました。
『化物』は恐るべき巨躯、筋骨は鎧のように隆々であり――容貌は醜く崩れ、黒く太く体毛が猛獣のように密生し、口からはうめきばかりが漏れ……。
 さながら、人の子ならざる、ケダモノの子でした。
『化物』は当然忌み嫌われ、人から離れた山奥で一人暮らしておりました。
 山中で捉えた獲物を売りに村へと下りる度に、村の人々は『化物』が来たと噂し、罵声を浴びせ、礫を打ったのでした。
『化物』は決して人々に手出しせず、人々はそれをいいことにますます迫害を重ねたのでした。
 『化物』はそれでもなお、村に下り続けたのでした。
 ある日、『化物』はこんな噂を聞きました。
 ――その昔、爵位を剥奪された貴族の館の跡地に、化物が作った化物殺しの剣が封じられているそうだ。
 それは、僻地にのみ細々と伝わるヨタ話でした。
 曰く、醜い猿の化物が、人の世への憎悪の全てを込めて作り上げた大剣である。
 かの貴族はその大剣を用い北の方の狄を退けたが、化物の剣を使ったことで爵位を剥奪された、と。
 話を聞き、館の跡地へと駆けた『化物』が何を思ったのかは分かりません。
 ともかく、もはや誰も顧みることのない貴族の館の跡地に『化物』は足を踏み入れ……。
 地下――封印のふの字もない、至って平凡な武器庫に『それ』は呆気なくありました。
 化物殺し――かつて、性悪な小物である貴族を畏怖させたそれは、大柄な人間ほどの刀身を持つ大剣。
 しかし、剣としては大雑把の域を出ず、特別な意匠も施されておらず、巨大すぎて実用性もない。
 つまるところ――無用の長物だったのです。
 それでも『化物』は、『化物殺し』を呆気なく持ち上げ――。
 次の瞬間――『化物』の脳内を、数々の光景が駆け巡りました。

 それは、金槌を持った猿の化物の、憎悪の記憶。

 人の世から爪弾きにされ、迫害を受け、憎しみの全てを一つの大剣に込め続けた生。

 ――ああぉ、ああぁあぉおおああぁおぉあ!

『化物』は剣を放り、頭を抱えて悶絶しました。
 我が事のように生々しく流れる、過去の出来事、真っ黒な感情。
 百年の時のような一瞬の刻の後、光景の放流はプツリと途絶え。
 それでもなお、『化物』は頭を抱えたまま、赤子のように嗚咽しました。

 ――ヒトガ、ニクイ。

『化物』は、声が響いたような気がしました。

 ――ニクシミ、ハラサデ、オクベキカ。

 声を聴くたびに浮かぶ、悪魔が抱いた憎悪の記憶。

 ――ニクシミ、ハラスベシ、

『化物』は力なく『化物殺し』を手に取り――。

 ――ワレニ、イノチヲ、ササグベシ。

 その「命」を、捧げました。

 ※

「えっ、歪虚? いや、こっちは別件で応対中……はいはい! 緊急なのは分かったから下がりなさい。邪魔だよ邪魔!」
 いやあ、すみませんね。彼は新人で、要領が悪いといいますか……。
 髪をかっちりとしたオールバックに決めた男性職員は、トボトボと去る部下の背中に投げつけるように言った。
 スーツをカジュアルに着こなす、二十代後半の男。自身の能力を鼻にかけた嫌味な職員と評される男だ。
「……あっ、でも案外いい案件かもしれません。どうです、うちの新人を立てると思って受けませんか?」
 職員はテーブルから身を乗り出しながら、白々しいまでの満面の笑みで言った。
「まあ歪虚討伐ですよ……帝国北西部の寒村地帯に、大剣を持ったゾンビ型の歪虚が現れた、と」
 その歪虚は、村で『化物』と呼ばれていた男らしく……。
「見た目なんか、むしろゴブリンとかゴボルドとか……ね?」
 そう言いながら職員は、口の片端をあげる。
 この職員は、ゴブリンやゴボルドなどに差別心を抱き、隠そうともしない。
「ズタボロの見た目に、一帯に漂う酷い臭い……生前の賤しさは、歪虚になっても出るものですねえ」
 蔑みのニヤケ面を隠しもせずに浮かべ、新人職員が持ち出した書類をペラペラめくる。
「報告が一日前、えー昨日の夕刻頃に姿を現すと……んっ? 村の中央部まで歩み、立ち尽くした?」
 男性職員は呆れたように肩を竦めた。
「……しかし、村の人間や警邏が近寄づくと剣を振るう、と。その目には生気がなく、害意がある」
 その状態から見て歪虚の可能性があると判断し、依頼が出されたそうだ。
「どちらにせよ、存在するだけ害悪な歪虚は駆除に限ります。では依頼を受けるなら、すぐ契約書を作るのでサインをお願いしますよ」

 ※

 ――チッ、『化物』なんざ早く殺してくれよ。
 ――ハンターはいつ来るのよ! 田舎だからって甘く見て!

 みんな、悪口を言っている。
 あのでかい毛むくじゃらの化物がゾンビの歪虚になったと聞いて、最初みんな怖がっていたけど、そのうち化物が、歪虚になってもウスノロだと知ったので、囲んで悪口を言っている。しかも今回は、いくら石を投げつけても立ちんぼのまんまだ。
「おいユー坊、お前あいつのキンタマ蹴って来いよ」
「ええ、やだよう。あいつ近づいたら斬るんだろ?」
「だーいじょうぶ! どうせ当たらねーよ!」
 マーカスが笑うように、近づこうとすると斬りつけて来るけど、本当に斬られた人はいない。
 それでも誰も近づこうとしないのは、あの化物が持っているのが噂の『化物殺し』じゃないかという話があるからだ。
「おい、リッケル。お前がやるか?」
「ん?」
「蹴りだよ蹴り。キンタマ蹴っ飛ばしてやれって!」
 化物のキンタマ……まあ気になるけど。
「ぼくはいいや」
「ちぇ! なんだよそれ!」
 マーカスがぷんすか怒っているけれど、それより……。
「ゾンビって、泣くのかなぁ?」
 ぼくは――ゾンビの化物が、涙を流しているのを見た気がした。

リプレイ本文

 獲物を売りに来た『化物』は、今日も石を投げつけられました。
 それでも、『化物』は悲観しませんでした。
 いつか必ず、お前が心優しい、皆と仲良くしたいことを分かってくれる人が現れるから。
 遠い昔に誰かがくれた言葉が胸に残っているから。
 そんな『化物』が、化物殺しの話を聞いてすぐ走り出した理由は――。

 ※

 ――いよっ、待ってました!
 ――早く殺してよ、あんな『化物』!
 六人のハンターが、真っ先に目の当たりにしたもの。
 不毛な寒村に広がる、憎悪と嘲笑の暴発であり。
 それを一身に受け、大剣を手に立ち尽くした『化物』でした。
「どうか、あの『化物』を始末してください」
 嘲笑と罵倒の群れから、頭を下げにきた初老の村長。
 その表情に浮かぶのは、色濃い無気力でした。

「はっ、人どもめ……お前らは、いつまでも」

 ふいに放たれた、凛とした声。
 新雪のように白く、血のように紅い、一人の少女から出た言葉。
 静かに、首を刎ねんとばかりの殺意を放つ『兎』――玉兎 小夜(ka6009)でした。
「はーい、わたしたち、ちょーっと皆にお願いがあるんだよねー!」
 灰色のポニーテールをなびかせて、ソフィア =リリィホルム(ka2383)が、諸手を振るいながら言いました。
 一旦は静まり返り、急激に膨れようとしていた空気を、彼女の華やかな声が制したのです。
 戸惑う村人たちを余所に、村長の前に歩み出る一人のハンター。
 物静かそうな――しかし、冷たく鋭い理知を瞳に宿した青年、仙堂 紫苑(ka5953)です。
 彼は、淡々と言葉を発しました。
「依頼に入る前に、数点確認させてください」

 ※

 時は遡り、ハンターズソサエティ。
「では、すぐに現場に向かってくださいな」
 契約書を回収した職員が席を立とうとしたその時。
「わふー……僕よく分からないですぅ」
 人懐っこい犬のような声――獲物を前にした獣のような笑顔。
 柔弱にさえ見える容姿に、猟犬の雰囲気を纏わせる――アルマ・A・エインズワース(ka4901)だ。
「……要はゴブリン並に醜い――」
「わふー! 亜人差別ですー?」
 アルマはおどけ、目の据わった笑顔を職員に向ける。
「シオンー――『お話』して貰っていいですー?」
 その言葉を受け、紫苑が口を開いた。
「随分とずさんな情報だ……この情報量でこの難度設定?」
 冷たく睨む紫苑だが、職員は素知らぬ顔だ。
「なにせ緊急案件な上、情報をまとめたのが新人でして」
「だから仕事は適当でいい? なら、お前は新人以下だ」
 だが、職員が表情に浮かべたのは――嘲りだった。
「ねえ、ビビってる? こんな依頼に情報とかさぁ」
「なるほど。そっちがその気なら――」
 その時――青髪の青年、キャリコ・ビューイ(ka5044)が身を乗り出し、バールの先端を職員の鼻の先に入れて掬い上げた。
「な、何をする!」
「鼻をそぎ落とされたくなければ、実際の内容や詳細な資料を寄こせ」
「あのぅ、先程の案件です、が……?」
 気まずそうに入ってきた新人職員が、目の前の光景に言葉をなくす。
「きみ、この案件の正確な情報を教えてくれ」
「あ、あの……」
 紫苑は立ち上がり、慌てふためく新人職員の胸ぐらを掴んだ。
「新人だからと許してもらえると思うなよ? 無能な後方のおかげで死ぬのはいつも前線だ」
「せ、せ、説明しますー!」
 紫苑に手を離され、新人職員はその場にへたり込む。
 真っ白い鎧で全身を包んだ少年、ジョージ・ユニクス(ka0442)が、そんな彼に寄り添った。
「悪いようにはしませんので、ご説明いただけませんか?」
「わ、分かりました……」
 優しく促したジョージに応えるように、新人職員は説明を始めた。
『化物』の境遇、村の雰囲気、そして――

 ※

「――その『化物』は、確かに歪虚ですか?」
「え?」
 ――『化物』がゾンビ型歪虚というのは不確定情報なこと。
 紫苑からの質問に、村長は戸惑いました。
「早い話、歪虚が『化物』を操っている可能性もあるのです」
 ――それがどうした! こいつが斬りつけたのは事実だ!
「ごめんねー! 実際に現場で情報を把握して、状況判断する必要があるんだよね!」
 野次を飛ばす村人たちに、ソフィア が笑顔を振りまきます。
「それでわたしたち、これから歪虚との殺し合うんだよね!」
 ソフィアは特に『殺し合う』を強調しました。
「お願いだから、みんな避難しててくれないかな?」
 深く頭を下げたソフィアを――村人は嘲笑しました。
 ――殺し合い? 人もロクに斬れないウスノロとかぁ?
 ソフィアは、毒々しい舌打ちを零しました。
「嘲笑うのは自由ですが」
 言葉の温度を下げ、紫苑が村長に言います。
「これから起こることは、決して見世物ではありません」
 最後通告です。
 紫苑が、村長に重く告げました。
「安全保証のため、戦闘終了まで外出禁止の徹底を」
 その一言で、村人たちが暴発しました。
 ――てめーら! 何様のつもりだ!
 ――こいつが死ぬのを見ないで、なにが安心よ!
 飛んでくる罵声、投げつけられる石礫。

 ――おあぉおおぁあ!

 そして――『化物』の咆哮。
『化物』が、大剣『化物殺し』の柄頭に頭を打ち付け泣き始めたのです。
 それを見て、下品に、下劣に、不毛に、嘲笑う村人たちに――

「うるさい! 黙れ人間ども!」

 ――怒声を上げたのは、『兎』でした。
「そんなにお望みなら、ド派手に切り捨ててやるが……間違えて人も切り捨てるかもしれないぞ!」
 剣を抜き放ち、純度の高い『化け物』の殺気を放つ玉兎。
 それに続くように――数発の銃声とともに、地面を穿いた弾丸の雨。
『化物』と村人の周辺を狙った攻撃の後、キャリコは石ころを見るような目で言い放ちました。
「そんなに観たければそこで観戦してるのは良いが……流れ弾に当たって死んでも俺は知らんぞ?」
 それが、決定打となりました。
 ――逃げろぉ! 殺されるぅ! 斬り殺されるぅ!
 村人たちは、我先に逃げ出したのでした。

「……斬らないよ」
 だってあいつは、子どもすらも斬らないじゃないか。
 悲しそうに呟いた玉兎の肩を、ソフィアが優しく叩きました。
「ありがとね――きみが一番、我慢してくれてたよね?」
「……別に」
 玉兎は気恥ずかしそうに俯きました。

「……アルマ、随分大人しかったじゃないか」
「わふ? もふもふいじめるような醜い村なんて、別に」
 ジョージの問いかけに、アルマはどうでもよさそうに言いました。
「まっ、もふもふに免じてどっかんはしないですー」
 ジョージは、アルマの眼の虚無的な光に思わず背筋を凍らせました。
 一番恐ろしいのは、本当に『どっかん』しかねない、『魔王』を目指す彼……。
「そんなことより僕、確信しちゃいました!」
 あの子、絶対生きてます。
 心の底から嬉しそうに笑うアルマ。
 その二面性こそ『友』の本質だと、ジョージは知っていました。

 ※

「……ん、破邪顕正かけといたから」
 これで大人しくなるならいいけどね。
 玉兎は淡く発光する短剣を収め、『化物』から距離を取りました。
「わふー。こっちももうすぐ準備が終わりますので……」
「いや、もっと手っ取り早く終わらせられるぞ」
 アルマが、自身にアンチボディとマテリアルアーマーをかけていた最中――キャリコが前に出ました。
「ねえー? あの大剣は壊さないで欲しいなー」
 ソフィアは両手を合わせた仕草でお願いしました。
 鍛冶師でもあるソフィアからすれば、この『化物殺し』は残したいところですが……。
「悪いが俺は、破壊するつもりでいる」
 その答えに膨れっ面で錬金杖を構えたソフィアを余所に。
 キャリコはバールのようなものを構え、『化物』を見据えました。
「化物を倒すのは、いつだって人間だ」
 では、その化物は何処からくるのだろうな? 
 キャリコは、一気に『化物』へと突っ込みました。
 ――うあぅあ!
『化物』が薙ぎ払った化物殺しを、キャリコはバールで受けました。
「俺は、人が生み出しているのだと思う。その内に潜ます醜い化物によって」
 だからお前が『化物』なら、それを生み出したのは……。
 キャリコは『化物』と数合ほど打ち合うと、立体的な回避を駆使して前方方向へ逃れました。
 次の瞬間、『化物』を襲ったのは桜吹雪の幻影でした。
「俺も剣の回収に一票だ……ソフィア」
「はーい」
 ソフィアのエレクトリックショックに合わせ、桜幕符を展開する紫苑。
 放たれた雷撃は、化物殺しに命中しました。
 ――ああぅあ!
「……ジョージ君」
「ああ、俺はいつでもいいぞ」
 準備を終えたアルマが、苦悶の表情の『化物』を見据えながら、ジョージに呼びかけました。
「では、『手筈通り』に行きます」
「何かあったら俺が守るからな」
「大丈夫です――でも信頼してますよ、ジョージ君」
 わふー!
 アルマは、飼い主の下に駆ける犬のように『化物』に向かって走りました。
「えっ、無防備!?」
「大丈夫だ。アルマのことだから、どうせ……」
 面食らったソフィアに、やれやれとため息をつきながら札を構える紫苑。
 ――ああがぁ!
「アルマ!」
「大丈夫です!」
 射程に入り、化物殺しが襲う。
 ――背負う名は悪。
 ――力を以て我儘を貫け。
 次の瞬間、表れたのは、雷撃と藍色の鎖。そしてガラスのように霧散する光。
「シオン、ありがとです」
 振り返らずとも分かる『参謀の計らい』にアルマは微笑みます。
 愚者の藍鎖を発動しつつ、化物殺しを敢えて受け――『化物』を抱きしめたのです。
「もふもふー……優しく温かい血が通ってます」
 アルマは『化物』をぎゅっとしながら、その背中を優しく撫でました。
「誰も傷つけないように、耐えてくれてたですね――優しいお兄さん」
 そしてアルマの背に表れる――機械仕掛けの神人形。
 巨大な翼を持つ純白の機械の集合体は、砕け散る歯車を模した幻光で照らし、浄化しました。
 しかし――。

 ――ああぉあ!

 嗚咽の伴った咆哮。
 愚者の藍鎖は弾かれ、アルマは思わず態勢を崩しました。
「アルマ!」
 間髪をいれず襲った化物殺しを、ジョージがガウスジェイルで引きつけ、全身全霊で受け止めました。
「僕は大丈夫――それより、この子生きてます!」
「やはり、あの剣が元凶か」
「そうだね!」
 吐き捨てながら、化物殺しに銃撃を行うキャリコと、雷撃を放つソフィア。
 玉兎とアルマが破邪と浄化を行い、キャリコも先程の打ち合いでソードブレイカーを放ってこの状況。
 そして『化物』は生きている――つまり、化物殺しが歪虚。
「やぁ、化け物仲間」
 その時、飛び出したのは『兎』でした。
 大上段から襲った化物殺しを避けると、玉兎は腕と身体を掴み、足を払って投げ飛ばしました。
「おい、剣を奪うなり壊すなり早くしろ!」
 流れるように『化物』の関節を極めた玉兎を受けて、キャリコがマトリカリアを構えました。
「まずは――歪虚を滅ぼさせて貰う」
 最後に残った一発に、マテリアルが収束された弾丸――キャリコはそれを撃ち放ちました。
 弾丸は、まるでそれそのものが意志を持ったかのように、正確無比に化物殺しを砕きました。

 ※

 ――ヒトガ、ニクイ。

 金槌を持った猿の化物の憎悪が、『化物』の脳内を流れた一瞬の刻の後。
『化物』は赤子のように涙を流していました。
 怖かったから――ではなく、悲しかったから。

 ※

「あーあ、結局壊しちゃったね」
「鍛え上げた方も報われないだろうな」
「どっちにせよ、歪虚ならやむを得んだろう」
 不服そうなソフィアと紫苑に、涼しい顔で応えるキャリコ。
 話し声に反応した『化物』が目を覚ましました。
「わふー! もふもふさん起きましたー!」
「あ、おい!」
 ジョージの静止を余所に、アルマは『化物』に抱きつきました。
 しかしアルマのモフモフを余所に、『化物』は全く別のものを見ていました。
「あれ? どうしたのです?」
『化物』の歪んだ表情を見て、首を傾げるアルマ。
「あ、おい!」
 ジョージが引き止める前に、『化物』は這うように向かいました。
「ジョージ君、大丈夫です」
 何かあったら僕が……。
『化物』は、破壊された化物殺しを呆然と見つめました。
 やがて柄を拾い、ギュッと抱きしめると――

 ――あああああ!

 まるで大切な家族が死んだような、号泣をしたのでした。

 ※

 自分と同じように『化物』扱いされたもの同士として
 皆と一緒に生きられなかったもの同士として。

 ――ワレニ、イノチヲ、ササグベシ。

 だから、『化物』は命を捧げたのでした。
 今度こそ、一緒に生きるために。
『化物』同士手を取って――皆を守り、共に生きるために。 

 ※

「お兄さんも剣の人も、きっと誰かに認めてほしかったです?」
 だから守ろうとして、剣を取ったです?
 アルマは、咽び泣く『化物』を後ろからそっと抱きしめました。
「貴方はこの村の誰より素敵な人です。僕が保証します」
 アルマはそれだけ言うと目を閉じ、『化物』の頭を撫でました。
「……人に、守る価値なんてないよ」
 そんな二人の様子を見て、ポツリと呟く玉兎。
「分かるんだよ――私も、かつて名もない化け物だったから……」
 玉兎の淡い呟きは、寒村の空気の中に溶けて消えました。

 ※

「ふん、これで満足ですか?」
「お兄さんやれば出来る子なのですー!」
 でも亜人差別だけはやめてくださいね?
 男性職員は無言でオフィスの奥に引っ込みました。
「シオン、交渉ありがとなのですー」
「あの村には置いておけないしな」
「いや、俺からしたら何してるんって感じだけどな」
 まさかそのまま連れて帰るとは……。
 ジョージは呆れたようなため息を付きました。
 あの後、一同はそのままハンターズソサエティに引き返し、先程の男性職員に掛け合ったのでした。
 職務怠慢や亜人差別発言を報告されたくなければ、金はアルマの報酬から出すから、『化物』の職の斡旋をしろ、と。
「……もっと揉めると思ったがな」
「新人君も、『仕事は優秀なんですよ……』って言ってたからね!」
 憮然とするキャリコに、ソフィアはあくまで爛漫と答えました。
「果ては同じ……か」
 ポツリと、アルマの満足そうな横顔を見つながら呟くジョージ。
 心優しい『化物』を愛する『友』――村人たちを『どっかん』しても構わないと思う『魔王』。
「それでもまあ、進むべき道は進んでいくさ」

 ※

 帝国の、とある牧場。
 そこで羊の群れを誘導する、大きな男性。
 かつて『化物』と呼ばれた男は、今日も穏やかな一日を過ごしていました。
 主人も、家族も、村の人たちも、皆親切で。

 ――達者でな、『人間』。

 ふと、声を聞いたような気がして、彼は振り返りました。
 それは、どこか『兎』を思わせるような……。
 彼は、声の聞こえた方向に手を振りました。

 ――あうあー!

「……何言ってるか分からないよ、バカ」
『兎』は少しだけ寂しそうに微笑んだのでした。

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MVP一覧

  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイka5044

重体一覧

参加者一覧

  • カコとミライの狭間
    ジョージ・ユニクス(ka0442
    人間(紅)|13才|男性|闘狩人
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 大局を見据える者
    仙堂 紫苑(ka5953
    人間(紅)|23才|男性|機導師
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜(ka6009
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/15 01:19:07
アイコン 作戦相談卓
玉兎 小夜(ka6009
人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2018/06/17 01:12:48