地獄の底で会いましょう

マスター:一要・香織

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/30 15:00
完成日
2018/07/05 21:38

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 太陽の光が燦々と降り注ぐ草原の片隅に、砂が混じる大地があった。
 所々申し訳程度に草が生える不毛な大地だが、放牧した牛や馬、羊たちは好んで遊び場としていた。

 今日も放牧した牛が2頭、のんびりと砂地を歩き回っている。
 しかし、そのうちの1頭が走り出した途端地面が陥没したように凹み、牛は穴の中に落ちた。
 落下するように底まで滑った牛は混乱しもがき這い上がろうとするも、足場は悪くサラサラとした砂を掻くばかりだ。
 刹那――、穴の底から大きなハサミのような何かが飛び出し、牛を挟み込んだ。
 直後、辺りは赤い雫が飛び散り凄惨な光景へと変わる。
 呑み込まれるように牛は砂の中に引きずり込まれ、姿を消した。


 広い平原と広い林を治めるグランツ領、その領主屋敷で、レイナ・エルト・グランツ(kz0253)は領民からの報告書に目を通していた。
「牛たちが居なくなった……?」
「はい、村人の話では数頭戻って来ないとか」
 相槌を打ったのは、領主の私兵であるサイファー。
「迷子になっている……という事でしょうか?」
「探してはいるそうですが、今の所見つかっていません」
「そう……」
 レイナはもう一枚の報告書にも目を通す。
「こちらは、村の南の砂地にクレーターが出来ている……との事ですね」
「はい」
「この前のように隕石でも落ちたのかしら?」
 サイファーは眉を顰め応える。
「どちらもサイラス村からの報告です。2つの報告が無関係とは思えないのですが」
「……そうね」
 口元に手を当てて暫らく考え込んだレイナは、サイファーに指示を出す。
「これからそのクレーターが出来たという場所に向かいます。付いて来てください」
「承知いたしました」
 頭を下げたサイファーは、直ぐに支度を始めた。

 その後、サイラス村南の砂地には、レイナとサイファーの姿があった。
 踏みしめると砂が僅かに沈み、身体が傾く。足に力を入れゆっくりと進んで行くと、目の前に大きなクレーターのような穴があった。
「思っていたよりも大きいですね」
 サイファーの口から零れた言葉に、レイナも頷く。
「ええ、こんなに大きいと思いませんでした」
 辺りを見回してみるが、穴意外に不審なところは見当たらない。
 隕石が落ちたわけではないと理解する。
 眉を顰めながら、レイナは穴の底がどうなっているのか見ようと穴に近付いた。
 穴の縁まで歩み寄ると、その衝撃で砂が崩れ始めた。
 足は砂に取られ穴の中へと滑っていく。
「きゃぁ!」
 小さく悲鳴を上げたレイナの腕をサイファーが慌てて掴み、引き寄せる。
「大丈夫ですか?」
 コクコクと頷くレイナを見て、サイファーは小さな安堵の息を吐いた。
 レイナの足が滑った拍子に一緒に落ちた石が穴の底に到った。瞬間――――、突き破るが如く大きなハサミが飛び出し、何かを切るように開閉する。
「っひ!!」
 息を飲み悲鳴を上げたレイナの目に、大きな雑魔の姿が映った。
 レイナは恐怖でサイファーにしがみ付き、そのレイナを守るように抱きしめたサイファーは、落ち着いた声でレイナに言う。
「急いでハンターに依頼を出しましょう」
「は、はいっ」
 2人は直ぐにその場を離れ、ハンターオフィスに駆け込んだ。

「お願いです。すぐに来てくださいませんか!」
 息を切らしたレイナは深く頭を下げた。

リプレイ本文

「お願いです。すぐに来てくださいませんか!」

 ハンターオフィスに飛び込んだレイナ・エルト・グランツ(kz0253)は息を切らせて口を開いた。
 余りの突然な言葉に、ハンターオフィスに小さなどよめきが起きる。
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
 レイナを見つめる人垣の間から、ジャック・エルギン(ka1522)は顔を覗かせた。
「何かあったのですか?」
 同時に顔を覗かせた、カティス・フィルム(ka2486)も心配そうに眉を顰める。
「ジャックさん、カティスさん!」
 2人に駆け寄ったレイナが、呼吸を整える様に深く息を吐き出し、
「あの……、雑魔が……。怪物のような雑魔が出たのです」
 その姿を思いだし、レイナの肩が小さく震えた。
「怪物雑魔? 詳しく聞かせてもらえますか?」
 レイナの後ろから声を掛けたのはクオン・サガラ(ka0018)、そして壁に背を預け煙草を燻らせていたトリプルJ(ka6653)も歩み寄る。
「怪物ってのは、またスゲェのが出たな」
 トリプルJは揶揄うような笑みを浮かべ、白い煙を吐き出した。
「サイラスと言う村の南にある砂地に、クレーターのような大きな穴が出現したのです。先程調査に赴いたのですが、そこには砂の中に潜る雑魔が……」
 レイナの隣に佇むサイファーがその時の様子を話しだした。
「もしかして、レイナさん自ら調査に行ったの?」
 レイナの姿を見つけ駆け寄った鞍馬 真(ka5819)は、
(活動的なのは良いけど、もう少し自分を大切にした方がいいんじゃないかな)
 そう思いながら苦い笑みを浮かべる。
「あっ、はい。……何と言い表したらいいのでしょう。まさに怪物としか……。虫のような体で大きなハサミを持っていました」
「近頃、放牧した牛が戻らないという報告がありまして……。もしかしたらその雑魔の餌食になってしまったのかもしれません」
 レイナとサイファーが悲哀に満ちた表情を浮かべる。
「砂の中に潜り、不気味な虫みたいな身体……大きなハサミ……。それは、蟻地獄という生き物じゃないでしょうか?」
 パズルのピースを繋げるように答えを導いたクオンが口を開いた。
「蟻地獄……ですか? 私は見たことないのですが、伺ったお話から想像すると、……気持ち悪いですね」
 滅多に感情を表さない巳蔓(ka7122)が、珍しく不快そうに鼻に皺を寄せた。
「どうか、お願いします。御力をお貸しください」
 レイナとサイファーは深く頭を下げた。
「おう。任せとけ!」
 不敵な笑みを浮かべジャックが応え、
「レイナさん、大丈夫なのですよ」
 安心させるようにカティスがレイナの背中をポンッと叩く。
「グランツ領でのお仕事は久しぶりです」
 巳蔓も力強く頷き応えた。


 空は抜ける様な青だ。
 日差しはチリチリと肌を焦がす。
 サイラス村、南の砂地まで来たハンター達は目の前の光景に目を細めた。
「このクソ暑い日に砂地なんかに陣取りやがって……」
 ジャックは顔を顰めてぼやく。
「蟻地獄が村の方に移動して大惨事になる前に、ここで何とか食い止めたいですね」
 クオンはペリヴァロンを掲げ、辺りの様子を窺い始めた。
「……なるほど。この辺りの土地は砂状の大地なのですね」
 カティスは地質を調べ、僅かに草が生えている場所の地盤の強度を確認する。
 巳蔓は目視で陥没しそうな場所が無いかを確認し、そして地面に手を着け振動や音が無いかを警戒する。
 クレーターの方を見つめていた真が、
「穴の斜面に赤黒い物がついているね……。もしかしたら、牛達の……」
 そう眉を顰め言葉を止めた。
「それじゃあ、さっさと出て来てもらおうぜ!」
 トリプルJの掛け声に、ハンター達はそれぞれの武器を握り締めた。
 近場にあった大きな石を振り上げると、トリプルJの筋肉がギュッと圧縮し鋭く石を飛ばす。
 穴の底にドスンッと落ちた石は、振動で斜面の砂を崩した。
 その振動が地中を這うように伝い―――、そしてザバッと――、まるで海面から飛び出すイルカのように蟻地獄が姿を現した。
「お出ましだな!」
 そう言ってジャックはあらかじめ用意していたロープ付の豪快矢を、蟻地獄目掛けて放つ。風を切って飛んだ矢は、蟻地獄の身体に突き刺さった。
 驚いた蟻地獄は砂の中に潜ろうと身体を捩るが、突き刺さった矢に結ばれたロープをジャックが強く引き阻止する。
「どこにも行かせねえぜ」
 トリプルJがファントムハンドで、蟻地獄の移動を阻害する。
「みなさん、離れて! 氷の柱にその身を貫かれ――凍えよ!」
 クオンがマテリアルチャージャーで魔法威力を引き上げたアイシクルコフィンを放ち、氷塊が砕けると同時に、真が取り出した札を空に投げた。それは蝶を模る光となり蟻地獄を目掛けて飛び、弾ける。
 蟻地獄は悲鳴の代わりに身体をギチギチと唸らせ、鋭いハサミを砂に叩き付け礫を放った。
 砂が舞い上がり石の影をくらませる。
「危ねえ!」
 カティスに向かって飛んだ石を、ジャックが振り払った。
「あ……ありがとう、なのです」
 カティスが呟くと、ジャックは唇の端を持ち上げ応えた。
「頭を出してくれるなら、口も開けて撃たせてくれると嬉しいです」
 淡々とした声で呟いた巳蔓は、穴に落ちない程度に接近し高加速射撃で蟻地獄を打ち抜いていく。
 もがくように、蟻地獄が手なのか足なのか分からないそれで砂を掻くと、周りの砂が勢いよく崩れていき、穴の縁に立って居たクオンの足が斜面を滑る。
「っ!!」
 クオンがハッと息を飲むと、
「おっと! 危ない」
 身体が傾く寸前に真がクオンの腕を掴み、引き上げた。
 繋がったロープを切ろうと身体を捻る蟻地獄の動きに合わせ、ジャックも縁の周りを移動する。
 トリプルJが再びファントムハンドで蟻地獄の移動を阻害すると、
「重力攻撃行くのです!」
 カティスの凛とした声が響いた。
「紫なる重き光りにその身を押し潰されるのです――グラビティフォール!」
 辺りに紫の光が立ち上り、目に見えない重力が蟻地獄を押し潰す。同時に周りの砂も崩れ始めた。
「はわわわ! ちょっと失敗ですー」
 眉を下げ慌てるカティスに、
「いや、そうでもないみたいだよ」
 フォローするように真が呟く。
 なるほど、半分砂に埋まってしまった蟻地獄だが、その動きは鈍い。
「先が見えましたね」
 僅かに口元を引き上げた巳蔓がストラフォルンを構え直し、目を細め引き金を引く。
 ハサミを開閉させ威嚇する蟻地獄の口に着弾し、その部分が弾け飛んだ。
「これで、終わりです」
 そう言ったクオンがアルケミックウィップを掲げファイアスローワーを放とうとした瞬間、ベリヴァロンが反応を示しクオンの足元の砂が凹み始めた。
「なっ!」
 目を見開いたクオンは直ぐに飛び退く。
「もう1匹、潜んでんぞ! 走らず! 静かに仲間に寄れ!」
 ジャックの鋭い声が飛んだ。
「おいマジかよ。まさか巨大ウスバカゲロウが、レイナの領地で大発生してるとか言わねえだろうな……」
「そんな不気味な事こと、想像したくないね」
 2匹目の出現に一瞬呆然としたトリプルJの呟きに、真は苦笑いしながら言葉を返した。
 真は味方全体が修祓陣に入る場所に移動し素早く陣を展開する。
 大地から美しい光が立ち上り、新たに現れた蟻地獄の害意を減衰させた。
「まずは、こちらから片付けてしまいましょう」
 クオンはウィップを握り直し、ファイアスローワーを放った。
 扇状の火炎が噴射され蟻地獄を焼き尽す――――。雑魔は塵になり舞い上がる砂ぼこりに交って―――消えた。
 1匹目の蟻地獄が塵となった、刹那―――新たに出現した蟻地獄が砂の中に姿を消す。
「砂の中に潜ってしまいました……」
 巳蔓は蟻地獄が潜った穴の底を見つめている。
「また、誘き出さなきゃなんねえな」
 やれやれ……と言いたげに、トリプルJは息を吐いた。
「うん。いちいち砂の中に潜られるのは厄介だね」
 同調するように真も呟いた。
「なら速攻で片付けてやろうぜ。こっちも暑くて持久戦はキツイしな」
 ジャックが呟くと、
「ええ、わたしも同感です」
 クオンが頷く。
「用意は、出来ています……」
 巳蔓は準備万端と、ストラフォルンを掲げた。

 2匹目が出現した穴に、再び石を投げ込んだ。
 ――――――――、しかし蟻地獄はハンター達の行動を窺っているのか姿を現さない。
「この誘い方では、ダメみたいですね」
 巳蔓が首をひねると、
「見えねえのは向こうも同じ……なら、試してみるか」
 ジャックはヴィリーニュを握ると、少し離れた地面を勢いよく叩いた。
 直後、ザザザッと地面が陥没し、巨大なクレーターが出来上がる。そして、蟻地獄が地面から顔を出した。
「成功だね、ジャック!」
 笑みを見せた真がジャックの肩をポンッと叩き駆け出す。
 同時に動いたトリプルJがファントムハンドで蟻地獄を拘束した。
 クオンが魔法威力を上げたアイシクルコフィンを唱え、蟻地獄の身体を凍り付かせ、真が取り出した札を宙へ投げると、その札は翻り瞬く稲妻と化した。
 動けずにいる蟻地獄目掛け、稲光が落ちる。
 焼け焦げ燻る煙を上げながら、蟻地獄は激昂した様にハサミを振り回し始めた。
 穴の底に落ちた石や太い木の枝を打ち付けるように飛ばすと、その一つがクオンを掠める。
「ったく、大人しくしてろよな!」
 眉を顰めたジャックがロープ付の矢を引き絞り放つ。貫徹の矢は雑魔の頭に深く突き刺さり、逃走の阻止を図った。
 蟻地獄が暴れるようにもがけば、周りの砂が崩れ、クレーターは段々と広がっていく。
 その影響か、巳蔓の足元が急に崩れ始め巳蔓の身体が斜面を滑り始める。
「巳蔓さん!」
 カティスが悲鳴のような声を上げ、マジックフライトを付与したゲニウスロッドを巳蔓に投げ渡した。
「助かります」
 巳蔓がそれを手にすると、身体がフワリと浮き滑る斜面から脱出。そのまま蟻地獄の上まで飛び、巳蔓は真下の蟻地獄目掛け引き金を引く。
 でっぷりと膨らんだ身体に弾丸が当たると、不気味な色の体液が飛び散り、震えるようにビクビクと身体を痙攣させた。
「決着をつけようぜ!」
 ニヤリと不敵な笑みを浮かべたトリプルJは天駆けるもので飛び上がり、蟻地獄目掛けて降下する。
 鈍い動きの蟻地獄にワイルドラッシュの連撃を浴びせた。
「これで終わりだーーー!」
 血管が浮き出る程に強く握り締めたインシネレーションが、蟻地獄の身体を抉る。
 刹那、弾けるように蟻地獄は塵と変わり、―――――穴の底の砂と同化した。

「ハァ――。終わったな」
 ジャックは額に浮いた汗を拭った。
「無事に倒せてよかったのです」
 カティスはホッとした様に息を吐いた。
「話に聞いていた通り、気持ちの悪い生物でした」
 巳蔓は少し視線を逸らし、嫌悪を滲ませる。
「小さければ何とも思わない生物なのに、大きいとこんなにも不気味なんだね」
 真も少し困ったような表情を浮かべ呟いた。
「それにしても、これだけ巨大で凶暴なウスバカゲロウがいると言うのも……。あまり長くない寿命からしてそう遠くない距離を飛んできたんですよね……何か、嫌な予感がしますが……」
 冷静に分析をしたクオンが静かに口を開いた。
「だよな! いや、元々蟻サイズが歪虚になったからってこんなに巨大化するとは思えないよな。巨大ウスバカゲロウが居てそれが歪虚化したって方が納得できる。……で、実際にナマでそんな巨大昆虫に巣食われたらレイナの領地が被害甚大になっちまうからなあ……。報告終わったらちょっと周囲の確認に行ってくるぜ」
 トリプルJは咥え煙草で大きく頷き応えた。
「しっかし、レイナも相変わらず災難だな」
 いつも困ったような顔をしているレイナを思いだし、ジャックは小さく笑った。
「ですが、いつも頑張っているのです」
 カティスが優しい笑みで返すと、
「そうだね。でも大丈夫。そのために私達ハンターが居るんだから」
 真も優しい笑みを溢した。
「私も、そう思います」
 淡々と言葉を紡ぐ巳蔓だが、その表情は優しい。
 困ったり不安そうな顔をするレイナも、ハンター達の助けで笑えている。
 その事実を知る―――この場に居るハンター達は、報告した時のホッとしたような顔をするレイナを想像し、小さな笑みを浮かべたのだった。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ティーマイスター
    カティス・フィルム(ka2486
    人間(紅)|12才|女性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 淡緑の瞳
    巳蔓(ka7122
    人間(蒼)|15才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/06/30 14:43:09
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/29 19:07:21