• 幻痛

【幻痛】虧け狙う兵

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/07/31 07:30
完成日
2018/08/06 23:24

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 怠惰王ビックマー・ザ・ヘカトンケイル自らの侵攻に対し、人類側は大幻獣トリシュヴァーナを巨大化させて対抗することを決めた。
 トリシュヴァーナの巨大化を行うにはチュプ神殿に向かわねばならず、ファリフとトリシュヴァーナはハンターを護衛につけて向かう。
 ぴくりと、顔を上げたファリフにハンターの一人が反応する。
 彼女は表情を変えることはないことに気づき、敵の襲来というわけではないことを理解する。
「テト」
 ファリフがそっと口を開き、響かせるのは優しい声音。
「にゃぁ」
 姿を現したテトの頬が擦りむいていた。
 どこかで木の枝に引っかけたのかもしれない。
「ファリフ。ビックマーの行進から外れた部隊がいますにゃ」
 テトが告げるその部隊の方向は言うまでもない。彼女がここに報告をしているということは、ここを向かっているのだろう。
 ハンター達にとっては、何を出迎えようとも歪虚を倒すという事は変わらない事実。
「このまま進めば、チュプ神殿手前で衝突……ってところかな」
 ファリフがテトが言いたいことを口にすると、彼女は「にゃぁ」と肯定し、目を細める。
「急いでも、逃げきれずに神殿入口でやり合うと思われますにゃ」
 神殿へ逃げ込めないのであれば、神殿が破壊されないことを優先し、食い止める方をファリフは選んだ。ハンター達はファリフの指示ならという事で了解してくれた。
「このまま進むよ。テト、調べてくれてありがとう」
 緊張した面持ちだったファリフに笑みが零れ、テトに礼を告げるが、テトの表情はファリフにつられて笑顔になることはなかった。
「けど……それだけじゃないようだね」
 一転して、ファリフが真剣な表情で声をかける。
「こちらに向かってくる歪虚の中に、アクベンスがいましたにゃ」
 テトの言葉に怒りを露にしたのはトリシュヴァーナだ。
「我が眷属を殺した者……!」
 トリシュヴァーナがそう言えば、そっとトリシュヴァーナの毛並みに触れたのはファリフ。
「大丈夫だよ。誰が相手だろうと、辺境に……ううん、この世界に住まう人達へ危害を加えようとする奴は倒すだけだから」
 静かな怒りを声に乗せたファリフはトリシュヴァーナと向き合っており、ハンター達には彼女がどんな表情をしているかわからなかった。
 ハンターへ向き直ったファリフはいつも通りの真剣な表情だ。
「皆、神殿を守るためにも、このまま神殿へ向かって歪虚を待ち構えて討つ。皆の力をまた貸してほしい!」
 ファリフの言葉にハンター達は了解してくれた。

リプレイ本文

 トリシュヴァーナとファリフの護衛として依頼に応じたハンター達は部族なき部族のリーダーであるテトの報告に表情を硬くするしかなかった。
 報告を耳にするなり、それぞれの様子で怒りを顕わにするファリフとトリシュヴァーナにアリア・セリウス(ka6424)は静かに視線を向けていた。
 ファリフとトリシュヴァーナのアクベンスへの因果をアリアは知らない。
 だが、大切な者を奪われることで失われるものは温もりだけではないことをアリアは知っている。
 肺や心臓が締め付けられて呼吸を忘れ、重い鉛玉が肚に沈み、身体中の力が抜けるような錯覚……ひとりでもそんな思いを知らぬ方がいい。
「落ち着いてほしい」
 切り出したのはアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
 一歩前に出た彼女はトリシュヴァーナの炎のようなオーラに反射的に目を細めてしまう。
「前に出てほしくはないのが本音だ。心を乱して目の前の歪虚へ走り出して、ここで失敗してたら他が成功しても失敗となる」
 静かに告げるアルトの瞳はトリシュヴァーナへ視線を向けている。トリシュヴァーナの金の瞳がぶつかっても彼女は怯まずに真摯に見つめ返す。
「アルトの言う通りだ。お前等が倒れたら誰がビッグマーからこの地を護るんだ?」
 更にボルディア・コンフラムス(ka0796)が言葉で押す。
 今回はアクベンスだけではない、怠惰の王たるビックマー・ザ・ヘカトンケイル自ら侵攻をしているのだ。あの巨体、あの力を抑え、倒すにはトリシュヴァーナが必要だ。
「あいつらは私たちに任せてほしい」
 アルトの言葉にトリシュヴァーナの瞳が細められ、彼女を射るように見ていた。
 そして、アルトもまた、形の良い唇が少しだけ笑みの形に引かれる。
「ただで逃がすつもりもないしな」
 赤い瞳が煌めいたように見え、トリシュヴァーナはそんなアルトの気概を気に入ったのか、そっと目を閉じた。
 トリシュヴァーナが説得に応じてくれたことにハンター達は内心安堵する。
「大丈夫だよ、ボク達には皆がいる。トリシュヴァーナを守って……!」
 アクベンスへの怒りを胸の内に抑えたファリフがアリアへと向き直り、ハンター達に思いを託す。
「勿論よ☆」
 思いを受けとった夢路 まよい(ka1328)が明るく返した。彼女の後ろでトラオムもフォーマルな外套を翻しつつ、ターンをしてポーズを決める。
 少し和んだ空気になると、ファリフは目を細めてオウガ(ka2124)の方へと向く。
「後ろに下がらせてすまねぇ……」
 彼はフェンリルを奪われた辛さを目の当たりにしたハンターの一人だ。
 あの一瞬を忘れることはできない。
「ボクは……キミ達がいて、よかったと思ってる」
 悔しいわけがない。
 倒すべき相手が近くまで来ているのに、戦えない悔しさを堪えることが如何に大変かということを分からない者はこの場にはいない。
 オウガがちらりと、テトの方を向けば、テトは少し躊躇ったあと、口元を緩める。分かっているですにゃ……と云わんばかりに。
「リーダーとして命令してますにゃ。無駄死には許さにゃいと」
「そうだな……ルックスを死なすわけにいかねぇ」
 歪虚アクベンスが持ってる恨みの糸はファリフとトリシュヴァーナだけではない。
「嫌な奴だな」
 作戦を見抜いているのか、ファリフに固執しているだけなのか、アクベンスの行動にボルディアは顔を顰めたが、名前を思い出せない。
「ええと……キモストーカー野郎だな!」
 誰かが正しい名称を伝えようとしたが、タイミングが合わずにボルディアは清々しく言うが、誰もツッコミを入れなかった。
「それでいいと思いますにゃ」
 別段狙われていないが、テトとしては採用の方向だ。
 そんなやり取りを横で見つつ、八島 陽(ka1442)がくすりと笑む。
「ファリフ、トリシュを頼むよ」
「うん、わかったよ。陽さん。皆で生きて帰ろう」
 頷くファリフの言葉に陽は「そうだね」と返す。無事で帰れたら万々歳であるが、そんな確証などない。
「そうね。生きて、帰りましょ」
 生きていれば明日はある。生きる為の手立てが探れるのだ。アリアがゆっくりと瞬きをして、謳うように告げた。
「では、他の方へ足を延ばしてきますにゃ。皆さん、ご武運を」
 くるりと踵を返したテトは軽やかに駆けていった。

 先ほどのテトの話によれば、このまま進めば神殿前に歪虚と交戦することになると言っていた。
 ファリフとトリシュヴァーナの説得も思った以上に揉めなかったので、大幅な遅れはないと考えられる。
 逸る気持ちのままで向かったとしても、体力を消耗するだけだ。
 歪虚の特定する為に見つけるホーを使用していたポールノチが陽へ場所を伝える。
「近づいてきているみたいだね」
 ポールノチの結果を陽が仲間に伝える。
「そうみたいだね……」
「どうかしたの?」
 頷いているファリフもまた、超聴覚を使って周囲に注意を払っている。その彼女の表情が優れないことに気づいたのがまよいだ。
 ファリフの顔を見上げると、彼女は心底呆れたような、嫌そうな顔をしていた。
 ポールノチは表情は崩れていないが、超聴覚を展開しているファリフは向こうの音も聞こえているのだろう。
「キモイのか?」
 首を傾げるボルディアにファリフは素直に頷いた。恐らくは、アクベンスの声でも聞こえたのだろうか。
「セクハラ、ダメ、ゼッタイっていうところかな?」
 陽が呟けば、ファリフは「その通りだよ」と答える。
 リアルブルーの事はハンターから聞きかじったファリフだが、セクハラという事がどういう意味かは教えてもらったのかもしれない。
「女の敵……というところかしら」
 ぽつりと、アリアが呟く。
「そういう人、別な歪虚でいたような」
 人差し指を立てて顎を支えるまよいが首を傾げる。今頃、どこかでモグラ歪虚の片割れがくしゃみをしているのかもしれない。
「もう少し我慢してくれ、このまま奴らの位置を把握しておいてくれ」
 なんだか申し訳なさそうにオウガが告げると、ファリフは了承してくれた。
「このまま進もう、ボクたちの方が先に神殿の前に到着できるから」
「わかった。異変があったらまた教えてくれ」
 アルトが気遣うように言えば、ファリフは再び聴覚に意識を向ける。
 それから間もなく、ハンター達は神殿の前に到着した。
 今回、ハンター達が相対する歪虚はサイクロプスとジャイアント、そしてアクベンス。
 アクベンスは置いといたとして、前述の二種は文字通り身体が大きく、動いた分だけ周囲に振動が響く。
 ハンター達が超聴覚を使えなくとも、その振動は伝わってきているほどに近づいている。
 そして、武装した歪虚が見えてくると、サイクロプスの肩に何かが乗っている歪虚が見えた。
 月光のように青みを帯びた銀の髪、兎耳付きシルクハットを被り、華奢な体つきに合う燕尾服を纏っている。整った容貌は美少年と例えるに相応しい。
「ふふふ。やはり会えましたね……ファリフ姫」
 高いところから失礼と、付け加えてアクベンスはファリフに挨拶をした。
「相変わらずだな。お前をぶん殴りたい奴はファリフ以外にもいるぜ」
 悪ふざけに反応するわけでもなく、オウガは睨みつける。
「気高き魂をもつ方は惹かれるものがあります故、致し方ありません。今は姫だけを見ておりますよ」
 恋に浮かれるかのようにアクベンスがファリフへ言葉を返すと、ボルディアが「想像以上にキモい……」と呟く。
 まよいはモグラじゃなかったという感想をもった。
この神殿を破壊するために同胞が皆様、ハンター諸氏と交戦したと聞きます。今回も彼らの威力をこの目で見たいために参りました」
 微笑むアクベンスだが、紫の瞳は冷たく、ハンターが守る神殿を壊そうとしているのが伝わる。
「前も阻止されているのに、破壊できると思ったのか?」
 静かに問うアリアの声は夏の熱気すら冷やすような声だ。しかし、彼女を纏うオーラは燃え盛る炎。
 一瞬鳥の姿を象り、全身と手に構える深紅の騎士刀を覆うと、襟足が見えるほど短かった髪が腰まで伸びていた。瞳と共にオーラと同じ色となっている。
「出来なくとも、何度でも」
 道化の歪虚が嘲笑する相手は誰なのか、アクベンスはサイクロプスより飛び降りて複数の縄ひょうをハンターへと向けた。
 刃に括りつけられた縄のような糸は鈍い灰色に光が反射しているが、その攻撃はハンターには届かなかった。
 無数の手が縄ひょうを捉え、更にアクベンスを取り囲む。
「いつまでも好きに掻い潜れると思うなよ!」
 降下するアクベンスのタイミングを見計らってオウガは魔斧「モレク」を振り下ろす。
「……ッ!」
 オウガの攻撃が速く、アクベンスは左肩から腹まで斬られてしまう。
「成長していますねぇ」
 小馬鹿にしたようなアクベンスの笑い声がオウガの癇に障った瞬間、彼の腹に異物感を感じる。
 アクベンスは鋭い自身の爪をオウガの腹に突き立てた。
「う……ぐっ……」
 痛みを堪えるオウガの声を聴くアクベンスが薄笑いを浮かべ、そのまま腹の皮膚を引き裂く。
「さぁ、早くしないと姫を攫いますよ」
「そうはさせるかぁあああ!」
 オウガの絶叫が幕切れのように戦いが始まる。

 凛とした歌声がサイクロプスやジャイアントに届くかどうかはわからない。
 けれど、少しでも戦いを終わらすために、皆で生きるには必要な歌をアリアはこの戦い……ファリフとトリシュヴァーナに捧ぐ。
 高純度のマテリアル鉱石より作られたクリスタルブーツ「アシェンプテル」でステップを踏む度に光が煌めく。
 毅然と美しいアリアの歌とステップをエスコートするように彼女のイェジドであるコーディが傍らにつく。
 コーディは彼女の歌の合間を理解しているのか、大きく遠吠えを上げた。
 合図を受け取るようにアリアは鳥が羽ばたくかのようにコーディに飛び乗る。向かうのはサイクロプスだ。
 全速力で疾走するコーディに騎乗するアリア目がけて先を歩く巨人用太刀と巨人用盾を装備したサイクロプスが太刀を振り下ろす。
「コーディ」
 主人の意図を理解したコーディが太刀を避けるが、盾がアリアの目の前に飛び込む。盾の縁にアリアがぶつかってしまい、痛むと同時にコーディから転げ落ちる。
「……くっ」
 雪肌の額から血が流れたが、アリアは立ち上がり、コーディを呼ぶ。
 前衛であるアルトとアリアの後ろについた陽は魔法を発動させんと集中していた。
 陽の背に白龍にも似た虹色の翼が広がると、光線が歪虚達へと向かう。
 白龍の力に似たその魔法は無用の戦闘を停止させる為にある。
 光線を受けた歪虚達は一度動きを止めたが、すぐに動いたのはサイクロプス。ジャイアントの一体が近くにいた同胞に殴りかかり、同士討ちが始まってしまう。
 陽はすぐさま魔導銃を媒体にファイアスローワーをサイクロプスへ繰り出す。
 扇状に噴射された炎にサイクロプスは足を止めてしまう。
 先を進ませない為に攻撃するのだ。
 イェジドのイレーネを傍らにつけたアルトの様子は至極冷静だった。
 新しい剣と自身の技がどれだけ合わせられるのかという試みに鼓舞しているかのよう。
 それは、ファリフとトリシュヴァーナをボルディアが徹底して守ってくれるということが起因している。
 彼女を信頼しているからこそ、アルトは攻撃へ集中することが出来るのだから。
 先にイェジドに乗ったアリアが先にサイクロプスと交戦している。
 優先すべき相手は巨人用散弾砲を持ったサイクロプスであり、更にサブ的にもう一体のサイクロプスを攻撃できる立ち位置を確保するためにアリアは動いていた。
 左右の手に持った剣で先に繰り出したのは想思花・月魄。
 巨人用散弾砲を装備しているサイクロプスへ一撃をくらわせ、続いて追撃の斬撃である想思花・祓月で光を刃に宿しながら迅く、鋭くサイクロプス達を斬りつける。
 飛花・焔を発動したアルトの身体は炎のようなオーラを纏う。マテリアルを込めて、地面を強く踏みつけると、反動で爆発的な加速で一気に駆け抜けた。
 動きの鈍いサイクロプスでは術を発動している彼女に標準を狙うことはできないが、撃てば『何か』に当たるかもしれないという考えのもと、サイクロプスはトリガーを引こうとしている。
 アルトはもう、サイクロプスの懐に近いところに入っていた。決してトリガーを引くことを許さず、刻令式鞭「カラマル」を振り捌いた。
 撓る鞭が絡み取るのは巨人用散弾砲を支える腕。鞭を引っ張りつつ、跳躍したアルトは試作法術刀「華焔」をサイクロプスの腕の下側から剣を振り上げる。
 攻撃の衝撃で振り上げられた腕と共に散弾砲を撃ってしまったが、その弾道は彼らが来た方向へと向けられていた。
 着地したアルトの視線は散弾砲を支えていた腕の先がなかったのだ。
 風が死を運ぶが如くにサイクロプスの足元に血が滴り、散る花弁のように血が穢れていく。
 腕の先は斬り落とされ、後方へと飛んでいった。 
「普段はあまり言わないんだが……」
 珍しくアルトが言葉を悩んでいた。だが、その迷いはすぐに振り切れる。
「あえてこう言おう。相手が悪かったな」
 まだ動けるんだろう、もう片方の腕があるんだから……と言いたげのように。
 アルトにとって、大きい相手の方がやりやすいのだ。

 後衛となるトリシュヴァーナとファリフ……そして、神殿を守るボルディアとまよいはジャイアントと交戦していた。
 ボルディアのガウスジェイル内にいるまよいは先にマテリアルを調節してアースウォールをファリフとトリシュヴァーナの前に立てる。
 更にボルディアがガウスジェイルを展開し、マテリアルを漲らせ、感覚を空間に拡張させた。
 ボルディアより溢れんばかりに沸き立つ紅蓮のオーラをその身に纏わせる。彼女に寄り添うのは燃え盛る炎のような毛並みを持つ紅焔のイェジドであるヴァーミリオンだ。
「ヴァン!」
 主たるボルディアの声に呼応し、ヴァーミリオンはウォークライの咆哮でジャイアントに威嚇する。
 ジャイアントはものともせず、棍棒を振り上げ、ボルディアを狙う。
「来やがれ!」
 この場から一歩も動かないボルディアは獣盾「バスカヴィル」を掲げ、ジャイアントの攻撃に備える。
「いくよ!」
 気合を入れたまよいがトラオムに声をかける。
 トラオムは一鳴きして、リュート「水霊の囁き」を構えた。まよいのマテリアルに合わせ、音を奏でて調和させる調べが響く。
 フォースリングを嵌めた手を前に差し出し、まよいはマジックアローを発動させる。
 光るエネルギーの矢が五本現れるのはフォースリングの効果。更にトラオムの森の宴の狂詩曲を乗せた矢がボルディアを狙うジャイアントへと向かっていく。
 五本中、三本がボルディアを狙うジャイアントに命中し、ボルディアは盾で巨人の棍棒を押しのけた。
「うるぁァ!」
 気合と共にボルディアは魔斧「モレク」をジャイアントに叩きつけた。
 片膝を砕かれたジャイアントは更に攻撃を止めず、ボルディアを殴りつける。
 上から振り下ろしても盾で防御されることに気づいた他のジャイアントが同胞が上から殴り、防御しているところでボルディアの膝を狙い思いっきり薙ぐ。
「ぐ……っ! うぅっ!」
 痛みに耐えるボルディアはひたすら堪える。
「ボルディアさん!」
 アースウォールの向こうからファリフの絶叫が聞こえる。
「大丈夫だ! 俺が、俺達が守るからなっ!!」
 ファリフの声にボルディアが自身を鼓舞させるように叫ぶ。
 今、この場にはボルディアだけではない。
「トラオム!」
 まよいが叫ぶと、トラオムがげんきににゃ~れ!を発動させる。更にまよいもフォースリングの力を使用してマジックアローで援護射撃を行う。
 前でジャイアントの対応をしていた陽はまよい達が危険である事に気づく。
 陽も交戦で怪我をしているが、幸い、足に別状がないので、交戦しているジャイアントとは距離をとる為に走った陽は回転式魔導銃「ブレイドダンサー」の弾丸にマテリアルを込めた。
 攻撃されない距離と、射撃距離を考慮したところからトリガーを引く。
 ボルディアに直接攻撃をしているジャイアントへ撃ち込んだのは機導砲・紅鳴。命中し、ジャイアントの動きが止り、麻痺状態となった。
 麻痺状態のジャイアントをまよいが仕留め、一対二となる。
「頼んだよ……」
 次は自分のジャイアントに向かうため、ファイアスローワーを発動させ、歪虚へと向ける。

 前衛ではサイクロプス二体とアルトとアリアが戦っていた。
 先ほど腕を飛ばされたサイクロプスは再び散弾砲を撃つために片手で構える。
 アルトもまた、踏鳴で速度を上げた。
 サイクロプスは視界からアルトが消えても、構わず散弾砲を前方……ボルディア達がいる方向へと向ける。
「どうして、向けられると思ったの?」
 その問いは酷く静かであり、とても冷ややかなものだった。
 二つの月が見えるかのようなアリアの斬撃は散弾砲を構えるサイクロプスの腕を斬り落とす。
 トリガーを弾く寸前のまま、サイクロプスは斬り落とされた腕の付け根は為す術なく、懐にアルトを迎え入れるしかなかった。
 散華では胴体を斬れるか否かの可能性を探るより、尚も押すべきだと思い、更に繰り出したのはアフターバーナーの斬撃。
 縦横無尽に斬り裂く攻撃はサイクロプスの腹をかき出すようなものだ。
 胴体では上半身を支えることが出来なくなったサイクロプスは身を折るような状態で動きを止めた。
 残るサイクロプスもまた、二人の手によって倒される。
 アリアとアルトは目を合わせ、頷き、それぞれの方向へと駆けて行った。
 一方は仲間を守る為。
 一方は守る者への約束の為。

 ボルディアとまよいはジャイアントとの攻防を繰り広げていた。
 攻撃もしているが、相手はジャイアントであり、その体力は無尽蔵にも思えてしまう。
 盾で攻撃を凌いでいるが、盾より伝わる振動でそれなりの疲労が溜まってくる。
「膝……そうね。相手の姿勢を崩すにはいい狙いね」
 冷ややかな声が響くと、ジャイアントの体勢が揺れ、ボルディアの上から崩れてきた。駆けつけたアリアがジャイアントの膝を二刀で斬り砕く。
 ジャイアントの姿勢をボルディアから離すようにまよいは仲間の助太刀の合間に集中でマテリアルを感じ、両手を掲げて威力を高めたマジックアローを放つ。
 五本の矢が頭半分が吹き飛ばした。
「今よ!」
 まよいの声にボルディアは盾を離した。アクベンスを抜かせばこの一体が最後。
 気合と共にジャイアントに斧を撃ち込んだ。

 陽は対峙していたジャイアントを倒した後、周囲の状況を確認してオウガの援護へ走った。
 対アクベンスを請け負っていたオウガはかなりの怪我をしているが、アクベンスへのダメージも負わせ、ファリフ達に近づかせまいとしている。
 アクベンスは素早い動きでオウガを翻弄しようとするが、彼は無駄な動きをせずにファントムハンドで動きを阻害していた。
 最初の方で腹を裂かれたが、リジェネレーションで回復を試みているが、更にアクベンスの攻撃が続き、回復が追い付いていない。
 いくら善戦しているとはいえ、これ以上は危険だと陽は判断した。
「オウガ! 伏せろ!」
 叫んだ陽が魔導銃を構え、声が届いたオウガは咄嗟に身を伏せた。オウガの反応と同時に陽は弾丸にマテリアルを込めて射出する。
 アクベンスは陽に気づいており、身を捩り交わそうとしたが、うさ耳帽子に貫通し、落としてしまう。
「お気に入りだったんですけどねぇ」
 じり……と、後退りするアクベンスの死角を突くように間合いを詰めてきたのはアルトだ。
 彼女は約束をしたのだ。
 ただでは済ませない……と。
 目が眩みそうな燃えさかる炎のオーラを輝かせたアルトが散華を発動させ、すれ違いざまにアクベンスへと斬りつける。
 アクベンスはオウガより受けた傷と同じ場所に斬撃を受けており、肩から胸までぱっくりと割れていた。
 攻撃を繰り出したアルトはアクベンスを睨みつけ、がくりと膝を落とした。彼女の太ももにはアクベンスの武器が刺されている。
 アクベンスは刃を括りつけている糸を引っ張って刃を手元に戻し、後退りをした。
「あら、まるで喜劇の間男のようね」
 姫に相応しくないと指摘するアリアにアクベンスは笑う。
「私は姫と共にあろうとしたフェンリルを吸収した者ですよ? 私もまた姫を見守る者です。いずれ逢いに参ります。しばしの別れです。気高きファリフ姫」
 不敵に笑うアクベンスは後方へと跳躍し、ハンター達へまだ隠し持っていた複数の縄ひょうを投げつけた。
 射撃に警戒したが、威嚇程度であり、誰も被害はない。
 深追いは危険であり、今回の依頼は護衛なのだ。

 かくして、アクベンスは逃したが、トリシュヴァーナとファリフを守りきり、巨人兵を倒すことが出来た。
「ラメトクの封印解いておいて良かった」
 ほっとした様子の陽だが、彼の表情は浮いたものではない。
「これから始まるのね」
 まよいが呟くと、皆は疲労もあり、沈黙で肯定した。

 辺境の地で怠惰の王との戦いが始まる。

依頼結果

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MVP一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

重体一覧

参加者一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    ヴァーミリオン(ka0796unit001
    ユニット|幻獣
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    トラオム
    トラオム(ka1328unit001
    ユニット|幻獣
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽(ka1442
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ポールノチ
    ポールノチ(ka1442unit013
    ユニット|幻獣
  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イレーネ(ka3109unit001
    ユニット|幻獣
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    コーディ
    コーディ(ka6424unit001
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
夢路 まよい(ka1328
人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/07/30 23:24:24
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/07/25 18:23:11