ジューンブライドのためにできること

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/24 09:00
完成日
2014/06/29 02:36

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 6月。今年のクリムゾンウェストではハンターオフィスやギルド街が一層の賑わいをみせているが、そういった流れとは別に賑わいを見せている場所が教会であった。
 ジューンブライド。リアルブルーでは古来より6月に結婚すると生涯幸せな結婚生活ができるという言い伝えがある。添い遂げる相手を見つけたカップルは二人の関係が少しでも祝福されることを期待して、この時季に挙式するのだ。
 そんな話を聞き及び、ここクリムゾンウェストでも言い伝えにあやかり、文化を取り入れる動きがちらほらと見かけられるようになった。
 ここ、ハンターオフィスでも、あるカップルの結婚式に関する話題が上っていた。
「先輩の結婚式、もうすぐだよね。着ていく服はもう決めた?」
 問いかけられた女性ハンターが嬉しそうに昨日新調したドレスのことを口にしようとした瞬間。
「もちろん戦闘用の装備だよな?」
 同じ話の輪に交じっている男性ハンターに、その喜びを壊されたのであった。
「う~~、折角の先輩の門出だよ? 何が悲しくてそんな物々しい恰好をしなきゃならないのっ!? っていう乙女心を理解してくれない?」
「でもなあ、先輩たち狙われていること知ってんだろ? それともお前、新郎新婦にフル武装でバージンロードを歩かせるつもりか?」
 ぐうの音も出ない、といった調子で女性ハンターは口をつぐんでしまった。
 彼らの先輩というのは、ずっと以前からハンターとして活躍していた男性のことだった。歪虚の攻撃を幾度も退け、また悪しき者の計画を頓挫させてきた経験をもつ。そんな過程で女性との素敵な出会いがあり、長い時間をかけてようやく結婚するにいたったのだ。
 しかし、多くの脅威を払いのけてきたことで、歪虚や一部の亜人、さらには悪行で懐を温かくしてきた盗賊たちが相応の憎悪を募らせる結果になったことも同時に意味してきた。
 ここ最近、その戦いがひと段落つき、ようやく運命の相手と言っていた相手と結婚するに至ったのだが、そのひと段落というのは、先輩ハンターからすべてを奪い取り、破壊せんと彼に一度は討伐された盗賊が雌伏して時が至るのを待っているという情報が流れてきたのだ。
「その盗賊たち、先に見つけて潰せないのかなー」
「盗賊を見つけだしてどうにかするっていう依頼があるなら飛び回って調査できるんだけどな。さすがに片手間にやるのは色んな意味で難しいし……だいたいもう時間ないだろ。式や披露宴の準備にも人手が欲しいぐらいなんだし」
「依頼があれば、かぁ」
 …… …… !
 僅かな沈黙の後、ハンター達は一斉に顔を見合わせた。
「そうだよ、私たちが依頼しちゃえばいいんだよ」
「どうする? 盗賊退治にするか?」
「ってかさ、式や披露宴の準備も手伝ってもらおうよ。どこにいるかわかんない、しかも本当に襲ってくるかどうかもわかんない盗賊を追いかけてもらうより、一緒に式場の準備と警備を兼ねてやってもらえれば一石二鳥!」
 次々と湧き上がってくるアイデアをもとに、ハンターがハンターに出す依頼は形作られていった。男性ハンターはメモに書き留め、一通り出そろったアイデアをまとめて発表した。

「まず、目的は先輩の結婚式と披露宴が安全に執り行われること。
 若干名の盗賊が式を妨害してくる恐れがあるので、それに対応する。その時の護衛対象は新郎新婦。その他参列者のほとんどはハンターばかりだから、無理に護衛する必要はない。
 ただし流血沙汰や殺傷などで式が台無しにされることは御免こうむる。襲撃があっても追い返しや捕縛を第一に考えること。
 手の空いている時は、式や披露宴の準備を手伝ってもらう。危険が排除された後は一緒に先輩をお祝いしてもらえると嬉しい。
 料理、音楽、踊りなど、一芸に秀でている人歓迎。
 日程は準備3日、当日1日、片付け1日。
 宿泊場所、食事は完備。当日の食事は豪華」

「よっし、これで完璧だな」
「やったぁ、ドレスを着ていける~」
「何言ってるんだ、万が一の時には俺たちも応戦するんだから、武装するんだよ。ってーかお前は新婦護衛役として100%武装な」
「えぇぇぇぇ~~っ!!?」
 男性ハンターの意地悪い笑みに、女性は心の底からの不満を漏らしたのであった。

リプレイ本文

 依頼を受託し現場となる教会に集まった一同は、軽く挨拶をすまし終えたところだった。
「盗賊に身を落としながら人様の幸せ奪おうだなんてとんだ阿呆共だよ、全く」
「結婚式を狙いに来るとか、ベタすぎて今どきマンガでもねぇよな」
 イスカ・ティフィニア(ka2222)と須藤 要(ka0167)のぼやきにシャーリーン・クリオール(ka0184)も頷いた。
「よく有りそうなネタではあるな。だが振ってくる火の粉は払わないとな」
「ああ、身内を亡くす不幸は何より痛ぇ。守ってやらねえとな」
「当然です、素敵な結婚式、ぜったいに邪魔はさせないんだから!」
 ダナン=オーガット(ka0214)の言葉に夕影 風音(ka0275)も語気を強めて頷いた。
「ええと、まず周辺の地図を作成しましょう。それから穴やトラップとかの配置を決めて、警備計画を立てていきましょう」
「ああ、わかった」
 マリエル(ka0116)の言葉にシャーリーンは頷き、改めて周りの風景を見回した。
 町からは割と離れた小高い丘に建てられた教会は見晴らしがよい。だが、雑木や茂みはあちこちらあるし、近くには荷車や樽など生活に必要な道具も置かれている。盗賊が数人程度隠れながら近づこうとするにはいくらでも手法はあるようにみえる。
 これは注意して、チェックにあたった方がいいな。シャーリーンはそう感じた。
「地図の完成はどのくらいになりそう? むやみやたらに掘るわけにもいけないだろうから、掘る場所の計画を立てないと」
 早速スコップを準備したリサ・カーライル(ka2045)の問いかけにシェール・L・アヴァロン(ka1386)は、あら、と首を傾げた。
「困ったわ。先に教会の中をお花で飾ろうと思っていたのだけど……」
「花は当日直前ではダメなの?」
「堂内を香りで満たすのにそれなりに時間がかかるの」
 教会までの道のりで買っておいたカサブランカの花籠を持ってシェールは途方にくれた。予定では今日中に参列席に花を飾っておき、教会の堂内に足を踏み入れた途端にゆるやかに香る花の香りに、参列者も新郎新婦も笑顔がほころぶ、そのようにしたかったのだが。
「あ、じゃ、私がやってもいい?」
 アンネマリー(ka0519)がはいっ、元気よく手を上げると、シェールは、助かるわ。と微笑んで花籠をアンネマリーに手渡した。
「それじゃ、掘る場所を決めるまで先に鳴子でも作っとくかな。つか、鳴子の経路もある程度考えとかないといけないよな……」
「私も手伝おう。穴を掘るつもりだったからな」
 どこの雑木にひっかけようか、などと要が髪を軽く掻きながら自らの仕事の段取りを考えているところに、イレーヌ(ka1372)が声をかけた。ああ、よろしく……と声をかけようとした要は改めてイレーヌの幼い姿に口ごもった。リアルブルーでの記憶をもとにすると、彼女の外見は小学校中学年かおまけして高学年クラスといったところ。ドワーフという種族だから当てはまらない部分もあるのだろうが。やや頼るのに気が引ける。
「私の背が低いのが気になるか? まあ背がいるようなところは無理かもしれないが、要より力仕事は向いていると思うぞ。細かい作業も嫌いじゃない」
 それに背が低いのはお互い様だ。と思わなくもなかったが、彼のためにあえて口にはしなかった。
「それならよ、披露宴の料理に使う食材運びを手伝ってくれ。20人分ともなると結構な量でよ。依頼主が下の村で手配してくれてはいるみたいなんだが……」
 ここまで持ってあがるのはかなりダルい仕事だ。そんなものを積極的にやろうという気力はダナンにはない。
「ええと、それじゃシャーリーンさんは外の作業が終わってからお料理の手伝いですね。その頃には運び込み終わっているでしょうから。鳴子の作業は須藤さんだけじゃ手が足りませんよね。……リサさんお願いできますか?」
 リサの了解を受け取り、マリエルはまとめる。
「じゃ、地図作成がシェールさんとシャーリーンさん、トラップ作成は須藤さんとリサさん、荷物運びがイレーヌさんとダナンさん、教会内の掃除が夕影さんとアンネマリーさん、それから私とイスカさんで依頼人さんと名簿のチェック。これでお願いしますねっ」
 それを合図に皆それぞれの担当を果たすべく動き始めたのであった。
 が、すぐに大騒動になるのであった。

 夕影が教会内の掃除をしている時であった。小さなアンネマリーは床の掃除などを中心とならざるをえず、従って夕影はといえば天井などの掃除となっていた。
「こういう所に怪しい人が隠れていないかもチェックしておかないとね」
 盗賊がどんな敵かわかっていないが、もし射撃能力があるなら物陰から狙ってくる。それも高いところから狙う可能性は高い。
 掃除しながらどういうところが狙いやすいか、それを中心に夕影は見ていたのだ。
「特にこういう……」
 入り口の真上に上ったその時。
 視線が真正面からぶつかり合った。
 夕影はほとんど反射的に腰にさしていたロッドを抜き取り、そのままの動作で視線の主を叩いた。
「きゃーっ!」
 燭台の明かりも障害物にはばまれほとんど届かないその隙間にいた何かがくぐもった呻きを上げて崩れ落ちるのと同じくらいにようやく夕影は悲鳴を上げた。
 アンネマリーが異変に気が付いて慌てて他の皆を呼びに走り、間もなく外に出ていたメンバーも何事かと教会内に集まってくる。
「盗賊か。まさかもう先に潜入していたとは……」
 その風体からして自分たちが相対するべき相手であることに気付いて、イスカはうなった。夕影によって手痛いダメージを受けた盗賊は武装解除され、すでに彼女の手によって縛り上げられていた。だが、復讐に燃える瞳はまだ失っていないようであった。
「仲間はほかに何人いるの!?」
「まだ10人以上いるさ。それぞれに襲撃計画は立てている。ハンターどもがいくら警戒しても必ず式は台無しさ」
「たとえば、食材の中に異物を混ぜたりとかかな? 陰湿だねぇ」
 地図作成のポイントを押さえ終わり、料理の手伝いの仕事を始めていたシャーリーンは盗賊ににこやかに話すと、盗賊は目を見張った。
「チェックはぬかりねぇってことさ。こりゃ、めんどくせェことになりそうだな」
 計画の一端が頓挫したことでもまだ諦めた様子を見せない盗賊を納屋に叩き込んだ後、ダナンは紫煙をふかせて呟いた。
「まあ、元からそのつもりでやってるんだ。依頼者から参列者の特徴はつかんでるから大丈夫さ。予定外の参列は丁重にお断りするよ」
 イスカは依頼主のハンターに書き出してもらった参列者のリストをひらひらとさせた。盗賊を一人として通さない。式は必ず無事に執行させてみせる。そんな意気が感じられた。
 もちろん、皆もその気持ちは同じだ。
 一同は気持ちを新たにして、式の準備に取り掛かるのであった。


 当日。天候にも恵まれ、すがすがしい風が教会に吹き付けてくる。
 昼前には参列者が続々と集まり、教会前はその規模ではなかなか見られないようなにぎやかさに包まれていた。
「こんにちは、ようこそ」
 イレーヌは心配していた衣装を確保することができ、ドレスで参列者を迎えることができた。同様にアンネマリーもその愛くるしい笑顔で参列者に挨拶をし、ダナンが作ったウェルカムドリンクを配って回っている。
「素敵……。これが結婚式なのね」
 記憶を失っているマリエルにとっては、この華々しい空気は全く初めての体験のように心を揺り動かされた。賑やかな場所は記憶を失った後もいくつも経験してきたが、それらともまた違う雰囲気に息をのむのであった。そんな中、一部の人だかりから拍手が沸き起こった。
「お、主役の登場か」
 要がちらりと目を向けると、新郎新婦の姿が見えた。花婿はハンターとは聞いていたが、その風貌は思ったより穏やかで優男のようにみえる。花嫁はどこかの貴族令嬢らしく歩く姿にも華があるようにみえた。
「幸せそう、です……」
「マリエル、見とれるのもいいけど、動き出すみたいだ」
 うっとりするマリエルの背中に伝話を手にした要が声をかける。要はすぐさま無線で中にいる仲間に注意を喚起する合図を送る。
「はい、わかってます。あの笑顔を守らないといけませんよね」
 マリエルはフルートを手にすると歓迎の音色を響かせる。その第一声は長く高い音色。それがフッと止まる。
 合図だ。賑やかな空気の中をかいくぐるようメンバーたちは動き出した。
「もうすぐ式が始まるよ。参列者は中へ。中で受付するからね」
 リサは手早く参列者を教会の中に案内し、さっと扉を閉める。参列者に余計なものを見せる必要はない。
「いっぱい来ますね、AとDと……」
 鐘楼台でシェールは大慌てで敵の来る方向を書きしるし、教会前にいる仲間たちに知らせようとしていた。しかし、上から見るとよくわかる。不審者は言葉通りに四方八方から近づいてくるのだ。その数と方向を知るだけでも一苦労だ。
 なんとか、数をまとめ、毛布にそれを書き込むと、ロッドにくくりつけて旗代わりにし、振り示した。
「仕方ねぇ、ドンパチやるしかないか」
 連絡を受けて教会の裏手から飛び出たダナンは、そこから物騒なモノを持った男たちの姿がいくつも見えるとそう呟いた。盗賊たちは要に見られていることに気付くと、こそこそと歩くのをやめ、一気に走り出した。電撃戦のつもりらしい。繁みを飛び越え詰め寄って来ようとする。
 が。
「ぬぉあっ!?」
 盗賊は情けない悲鳴と共にあっさりとその姿を消した。その横から走っていた次の盗賊も同じ運命を辿る。
「おー、効果抜群だな」
 穴にはまった盗賊を縛り上げる間にも、もう一人、ダナンを迂回して式場に向かう。だが、シャーリーンが設置しておいた障害物に阻まれ、迂回したところには既にロッドを構えたマリエルがいた。
「天罰です!」
 すくうように足を強打された盗賊はもんどりうって倒れた。
 そこで盗賊たちもようやく教会の周囲はトラップだらけということに気付き、警備にあたる場所、つまりはメンバーのいる場所が突破口だと考えたようだ。人気の少ない場所をふらりと歩く要の元に数人が押し寄せてくる。
「あー、掘だけじゃないんだぜ?」
 草むらに密かに作っておいたスネアトラップに見事に引っかかり、派手に転がる盗賊。それを乗り越えてやってきた盗賊には、着地際を狙って素早く要が足払いをかける。もう一人襲い掛かってきた相手の腕を引きつかみ、勢いを利用してそのまま組み伏せると裏ポケットにしまっておいたナイフを首元に突き付け抵抗を収めた。
「くそ、覚醒者だ。一般人を狙え」
 シャーリーンのおいた障害物を時間をかけて乗り越えた盗賊がそう叫んだ。
「あんまり騒ぐんじゃねェよ。式の迷惑になるだろうが」
 ダナンはすかさず指揮を飛ばした盗賊の前に躍り出て、マテリアルによって作り出した光の刃を眼前に突き出した。それでも反抗的な目つきを返してくる盗賊にぼそりとダナンは呟いた。
「やる気があるのは結構だがな。攻性強化してる。腕の一本や二本、さっくり落とされても文句言うなよ?」
「ぐ……」
 さすがに戦意を失う盗賊の腕と足を手早くロープでまとめ掘の中でうめく者たちの方に押しやった。
「後は中か……」

 中はその間に受付が済まされ、外の騒ぎなど何もないかのように進行していっているが、水面下での戦いはこちらでも苛烈であった。
「ええと、それではこちらの方へ……」
 リサはにこやかにほほ笑んで、参列者を裏口に近い場所にいるイスカのいる方へと案内した。
「いや、俺は」
「どうぞ、あちらへ……」
 有無を言わせない笑顔に、自分が招かれざる客であること見抜かれていることに気付かされたようだ。参列者に扮した盗賊は小さく舌打ちして武器をちらつかせる。それに呼応するように、最後尾の、これもまた参列者のように見せかけていた盗賊が躍りかかる。
「やらせるかっ」
 参列者の誘導を務めていたイレーヌが即座に覚醒し、一気に成長した体躯から一撃を見舞い、その凶行を封じ込める。
 それと同時に素早くリサはマジックアローを放つ態勢をとる。そのわずかな時間を隙ととってみたのか、一気に攻撃に転じた。が、盗賊の頭ががくんと揺れるとそのまま崩れ落ちる。
「アホか。後ろにいるのわかってるだろうに」
 崩れ落ちた盗賊の後ろに立っていたイスカは手刀に使った手を軽く振って、そう言った。
 しかし極めて速やかにかつ静かに対処したのだが、間もなく式が始まる頃合い。参列者の間に静寂の帳が落ちている状態では、十分大きな音となってしまった。依頼者を含む何人かの参列者が緊張の面持ちがこちらに視線を向けている。
「えーと……」
 思わずどのように話をすり替えようか顔を見合わせるリサとイスカの間に夕影の声が響いた。
「コホン。本日、婚儀を迎えますお二人は多くの艱難辛苦を乗り越えてまいりました。そう、悪をばさっとなぎ倒し、踏み越えてこられたのです。さあっ、その新郎が今ご入場ですっ」
 タイミングよく真白い衣装に身を包んだ新郎は、崩れ落ちた盗賊を指してにこやかにほほ笑み、リサに囁いた。
「今のアナウンスによると、僕はこれを踏み越えていったらいいのかな?」
「……普通に行ってくれ」
 思わず、口癖のアホかぁぁぁっ! という言葉を口走りそうになったが、そこはさすがに我慢した。


 式はつつがなく終わり、一同は教会の外に出て披露宴を楽しんでいた。マリエルがフルートの演奏を披露し、イレーヌはそれに合わせて歌を唄う。もっとも先ほどの覚醒でせっかくのドレスが一部大変なことになってしまい、表に出られずバックグラウンドでの歌唱になってしまった。
 ダナン、シャーリーン、リサが作った料理が並ぶ。もちろん依頼主が手配した料理人が中心ではあるが、綺麗に切り揃えられた食材は慌ただしい中でも丁寧さがうかがえると、人々から称賛された。
 披露宴での参列者の様子を見る限り、盗賊退治も式の進行もおおむね良好であったという感触を得ることができ、皆それぞれ旨をなでおろした。
「改めて結婚、おめでとうございます。これは私たちからのお祝いです」
 シェールは、新郎新婦の姿を描いたポートレートを差し出した。新郎新婦はそれを見て驚きと喜びを交互に見せた後、新婦が深々とお辞儀をして受け取った。
「ありがとう。依頼主の子が無理を言ってしまったのに。ここまでしていただいて……」
「まあいいってことさ。初めての依頼、無事に達成できて良かった」
 要は少し不器用な感じで笑みを作った。初めての依頼で握った手の平に浮いた汗がまだひかないのを感じていた。
「盗賊が襲来するのは予測していたけど、僕たちや他のみんなに気にさせないように対処は本当に見事だったよ」
「ちょっとだけサプライズになってしまったけどな」
「夕影なんて、最初は格闘技の中継みたいなセリフを考えてたみたいだから、あれで済んでよかった」
「あ、それは言わないで……?」
 そんな談笑がしばし続いた後、新郎の元に出立の馬車からの合図が届いた。
「そろそろ行かないと……」
「改めて、おめでとう。これからも二人の良い時間を紡いでいけますように」
 リサの言葉に、新郎は深々とお辞儀をした。
「ありがとう。これからは君たちの時代だ。君たちそれぞれの物語が紡がれ、新たに導かれる記憶が多くの人々に宿るよう僕も遠くから祈っているよ」
 そして馬車は駈け出して行った。
 マリエルはその軌跡を眺めて、新郎の言葉を頭の中で反芻していた。
「新たに導かれる、記憶……」
 振り返ることのできる記憶が、マリエルの中に1つ刻まれたということが、たまらなく不思議な感覚を想起させた。

 クリムゾンウェストの世界で自分という大きな書物に記憶が刻まれていく。
 皆はその一歩を踏み出したのだ。

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重体一覧

参加者一覧

  • 聖癒の奏者
    マリエル(ka0116
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士

  • 須藤 要(ka0167
    人間(蒼)|13才|男性|疾影士
  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオール(ka0184
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士

  • ダナン=オーガット(ka0214
    人間(紅)|33才|男性|機導師
  • 心強き癒し手
    夕影 風音(ka0275
    人間(蒼)|20才|女性|聖導士
  • 探究せし雪の姫
    アンネマリー・リースロッド(ka0519
    エルフ|13才|女性|聖導士
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • 不動の癒し手
    シェール・L・アヴァロン(ka1386
    人間(紅)|23才|女性|聖導士

  • リサ・カーライル(ka2045
    エルフ|30才|女性|魔術師
  • 命の重さを語る者
    イスカ・ティフィニア(ka2222
    人間(紅)|20才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/21 20:19:15
アイコン 【相談卓】幸せを守る為
イスカ・ティフィニア(ka2222
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/06/24 02:02:20