とある農村の作物活用

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2018/09/16 19:00
完成日
2018/09/23 17:08

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 辺境には農耕ができる場所が少ない。
 それは辺境が歪虚の支配地域と近いため歪虚汚染された土地も多く、雑魔の出現頻度や歪虚の襲撃が他の地域に比べて多いためである。
 そのため辺境に住む者の多くは食料を輸入に頼っている。
 しかし昨年、辺境のアルナス湖から南に流れるアルナス川の下流域の一角で農村が造られた。
 ただ、その村は少し変わった環境にある。
 近くにはリザードマンの集落があり、近くの森にはコボルドが住み、川には精霊までいる。
 これまで異種族間で問題が起こった事もあったが、それらを何とか解消して親睦し、今では比較的良好な関係を築けていた。
 人間は農耕を行い。
 コボルドは食べ物と引き換えに農耕の手伝いをし。
 先住民のリザードマンは雑魔や外敵などを駆逐し。
 精霊が全ての生命を見守っている。
 そんな暮らしが営まれていた。

 夏の強烈な日差しも徐々に和らぎ、少しずつ過ごしやすくなってきた頃。
 村の畑には作物が実りを付け始めていた。
「ちゃんと実ってくれた。よかった……本当によかった」
 村長は感慨深げに実った作物を手に取って眺めた。
 草木が深く生い茂っていた土地を一から開墾するという重労働の末に作った畑で、農耕経験者の少ない中での畑仕事を行ったのだ。
 本当に実ってくれるのかどうか分からず、村人達は不安な日々を送っていた。
 村人が毎日汗を流し、手塩にかけて育てた作物はぐんぐんと生育してくれた。
 やがて小さな実りを付けた時には村が歓喜に沸いた。
 その実りが大きくなり、収穫できるまでになってようやく村人達の不安は解消されたのである。
「わっはっはっ、たくさん収穫できたねぇ」
 村長の女房で村のまとめ役的な女性(通称、女将)は収穫物を前に頬を緩ませて高笑いを上げる。
 今の時期で収穫できた物は『きゅうり』『なす』『トマト』『トウモロコシ』『大豆』の5種だった。
 収穫物は『来年の種用』『村の食用』『コボルドの食用』『備蓄用』に分け、そこからできた余剰分が『売却用』である。
 早速買い取ってもらうため商人を呼んだ。

 後日やってきたのは、この村を作る発案を行った商人である。
「こんなに収穫できたのですか? あの草木がボウボウだった草原からたったの1年でここまで作るとは、いやはや驚きました」
 商人は村ができる前の土地の様子も知っているため素直に感嘆した。
 そして商人は査定を行い、その値を女将に告げる。
「えぇ!! こんなに高く買ってくれるのかい?」
 想像以上の価格に女将が驚く。
「辺境で新鮮な野菜は手に入りにくいですからね。それに辺境産の野菜というのも珍しいのでブランド力も高いです。この価格が妥当ですよ」
「はぁ~、そういうもんなのかい。でも商人さん、それ黙ってりゃ私らからもっと安く買えただろうに。人がいいねぇ」
「はははっ、ここは精霊様が何時も見てらっしゃいますから、悪い事はできませんよ」
 商人はここの精霊と実際に会った事もあるのだ。
 こうして売買は滞りなく行われ、商人は収穫物を荷馬車に積んで去っていった。
 
「金だ……ようやく金を手にできた」
 村人の1人が歓喜に打ち震える。
「今まで村の貯蓄は完全に0だったもんねぇ」
 少し前にスライムの雑魔に村が襲われ、リザードマンに救って貰ったお礼をした際に貯蓄を全て使い果たしていたのだ。
「もし野菜作りに失敗してたら村人全員で餓死確定だったからなぁ……」
 それ故に皆が死に物狂いで働いていた。
「さて、この金の使い道だけど」
「美味い酒!」
「美味い食いもん!」
「新しい服!」
 女将が話を切り出すと村人が次々と自分の欲求を挙げてきた。
「水車を作ろうと思う」
 しかしそれらを全て無視して女将は言った。
「……は?」
「なんで水車?」
「大豆とトウモロコシがたくさん採れただろう。だからそれを乾燥させて粉に出来れば色々と使い道ができると思うのさ」
「それで水車か」
「そうさ。人力で石臼回してたんじゃ手間と時間がかかるだろ。水車でやりゃあ時間も手間もかからない」
「なるほど……」
「その粉使って新しい料理を作ったりできるかも」
「お! 村の名物料理になるかも」
「いいじゃんそれ!」
「でもさ。金使わず俺達で作ればいいんじゃないか?」
 村人の1人が最もな疑問を言う。
「その作業は何時やるのさ? あんたら夕方まで農作業した後、更に水車作りなんて重労働したいかい? できるのかい?」
「無理っス!」
「やりたくありません!」
「っていうか、やったら翌日ろくに働けなくなること確定だ」
 村人達がうんざりした顔になる。
「だろ。せっかく金があるんだ。人を雇って作ってもらってもいいと思わないかい?」
 女将の言い分に村人全員が納得し、全会一致位で水車作りが可決された。
「その時に村の作物使った料理を作って食べて貰ったらどうかしら?」
 村人の1人が提案する。
「いいね。村の外の人の意見も聞きたいし」
「何かいいレシピがないか聞いてみたいな」
「よし、それもやろう」
 こうして村で水車作りと料理作りが行われる事となった。
「でも女将さん。川に水車作ったらリザードマン達が気を悪くしねぇかな?。川は彼らの住処だろ。勝手に荒らされたとか思われると厄介だぜ」
「確かにそうだね。じゃあちょっと聞いてくるよ」

 女将は何人か連れてリザードマンの集落を訪れた。
「おはようトカゲさん達。今日はちょっとお願いしたい事があるんだ」
 門番のリザードマンに話しかけると、ちょっと待てといったジェスチャーをされた。
 なぜなら彼らは人間の言葉が分からないからである。
 待っていると、粘土板を持ったリザードマンがやってきた。
「おはようリザさん」
『おはようございます』
 そのリザードマンは粘土板にそう書いて女将達に見せてきた。
 彼女はリザードマンの中で唯一人間の文字を習得しており、村人との通訳を行ってくれているのだ。
 ちなみにリザは本名ではなく女将が付けた愛称である。 
 女将は粘土板に事情を書いて尋ねた。
『たぶん構わないと思いますよ。でも一応長にも聞いてきますね』
 リザが集落の中に戻り、ほどなくしてまたやってきた。
『川を汚さないのであれば構わないと言われました』
「ありがとうリザさん。汚したりは決してしないよ」
 女将は嬉しそうにリザと手を取ってブンブン振る。
『それと、その水車作りに参加したいという者が何人かいるのですが、構わないでしょうか?』
「えっ! 手伝ってくれるのかい?」
『はい、最近人間に興味を持ち始めている人が増えているんですよ』
 リザが嬉しそうに文字を書き込む。
「もちろん大歓迎さ!」
『ただ、人間が妙な事をしないか監視する目的の者もいると思いますが』
 リザが表情を曇らせる。
「ははっ、それでも構わないよ。私らはやましい事なんてしないからね。バッチリ見てもらおうじゃないか」

 こうして水車作りにはリザードマンまで関わる事となったのだった。

リプレイ本文

 村にやってきた水車作り業者はそこにいたリザードマン達を見て戸惑いを見せた。
 事前にリザードマンとの共同作業になると聞かされてはいたが、今までリザードマンと接した事がある者はいないため、当然の反応といえた。
(リザードマンが外と関わりを持つようになったのは大きな一歩ですが、今度は外部の人間の意識が問題になってきますか……)
 業者に雇われてきた保・はじめ(ka5800)は何度も村の異種族間問題に関わっていたが、新たな懸念を抱いた。
「怖がる必要ねぇよ。前に魚が釣れる場所教えてくれたし、村が雑魔に襲われた時も助けてくれたンだぜ?」
 大伴 鈴太郎(ka6016)が作業員の緊張をほぐそうと声をかける。
「いや、そうなのかもしれないけど、あのでっかい口とか牙とかおっかねぇよ」
 しかし作業員はまだ及び腰だ。
 ディーナ・フェルミ(ka5843)は作業員の手を取ると、エクラの聖別の仕草して『サルヴェイション』を発動させた。
「ここは精霊の力添えの下、人とリザードマンとコボルドが共に手を取り合い生活しようと立ち上がった地。彼らと私達の違いは辺境の民と部族民程度の小さな小さな違いのみ。怖がらないで落ち着いてほしいの。神も貴方の行動を見ているの」
 そして作業員の手をポンポンと軽く叩く。
「そうか……うん、そうだな。何だろ、少し気持ちが楽になったよ、ありがとう」
 作用員は不思議そうな、それでいて何かスッキリしたような顔つきになっていた。
 
「水車作り手伝ってくれンだ!? そっかそっか♪ 村と仲良くしてくれてて嬉しいぜ」
 鈴太郎はリザードマンのフレンドリーな所を見せるために話しかけていた。
「ところでオレのコト覚えてっかな? 前に集落でアンタらと同じカッコした人間いたろ?」
 そう尋ねると、リザードマンは首を傾げた。
 リザードマンにとって人間の身姿の区別は難しいのである。
「あぁいいンだ。気にしないでくれ」
 鈴太郎も個々の区別はできていないので、このリザードマンがあの場にいたかも分かっていないのだ。
「ところで俺らが治療したリザードマンはその後も元気か?」
『はい。もうスッカリ元気です』
 リザが答えてくれた。
「そっか、安心したぜ」

 そうしている間に親方の作業手順の説明が終わった。
「人もリザードマンも少し離れてほしいの」
 ディーナは作業前に皆を止め、安全圏まで退がらせると自分だけ作業現場に入った。
「何する気なんだ?」
 作業員達が訝しげな顔でディーナを見る。
 ディーナはメイスを振りかぶると『フォースクラッシュ』を地面に叩き込んだ。
 激突音と共に地面が陥没。メイスのインパクトによる衝撃で陥没地点を中心に土砂が周囲に飛び散ってゆく。
「うわっ!!
 その力任せな掘削方に作業員達が驚く。
「こうやって地面を叩いて掘りやすくするの、この前も水路作りで1週間地面を叩きまくったの」
 ディーナは支流の掘削地点に沿って『フォースクラッシュ』を叩き込んでいった。
「やっぱハンターはすげぇな」
 作業員達がディーナの破壊力を目の当たりにして感嘆する。
「さぁ、この跡に沿って掘ってくださいなの」
 『フォースクラッシュ』を全て使いきったディーナはやりきった感を滲ませる笑みを作業員達に向けた。
「よーし、始めるぞ」
 親方の号令で作業が開始される。

「あんちゃんスッゲぇの持ってんな。でもそんなので掘れんのか?」
 作業員の1人が保の両腕に装着しているナックル「ディガーラント」を指差す。
「僕も使うのは初めてですが、この土竜の爪が地面を掘るのに適しているそうですよ」
 実際に使ってみると、爪で掘った土を掴む事ができるためとても作業がやりやすく、スイスイ掘り進める事ができた。

「ふんふ~ん♪」
 鈴太郎はリザードマン達が手伝いに来てくれたのが嬉しくて、陽気に『ファセット・ソング』を口ずさみながらスコップで掘り進める。
「姉ちゃんいい声してんな」
 すると作業員の1人が褒めてくれた。
「へへ、サンキュー」
 
 支流は3時間程で完成し、櫓作りの工程に移る。
 組み立ては業者が行うので、ハンター達は主に建材の運搬を行った。
「おい、誰か支えてくれ」
 櫓が徐々に組み上がっていく中、親方の指示に従ってハンター達は櫓の支えも行った。
 リザードマンの1人も作業員の側の柱を支えに行く。
 すると作業員は後ろから現れたリザードマンの鱗の肌や牙の並ぶ口などを突然至近距離で目にする事になった。
「うわぁぁーー!!」
 異種族に慣れていない作業員は驚愕して大きく飛び退る。
「あっ! 落ち着いてなの」
 ディーナは作業員の動揺を静めるため『ゴッドブレス』を発動させようとしたが間に合わない。
 仮に間に合ったとしても驚愕や動揺は【不浄】ではないため効果はなかっただろう。
 作業員の腕が組み立て中だった櫓の柱に当たって傾ぎ、その柱が別の柱に当たり、連鎖的に倒れ始めた。
「危ないのー!」
「危ねーっ!」
 ディーナは作業員を庇おうと飛び出し、鈴太郎は崩れる建材の前に立ち塞がり『怪力無双』を発動。
 不意に建材の崩れる音が止む。
 作業員は全員無事である。
 鈴太郎が崩れる建材を全て受け止めきったからだ。

 大事はなかったが、当事者のリザードマンは両掌を合わせてペコペコと頭を下げていた。
 妙に人間臭い仕草なのは、村人達との交流で言葉が通じない者同士は身振りでの動作が一番伝わりやすいと学んできたからである。
「親方、彼が驚いて手元を狂わせただけです。リザードマンは何もしていません」
 咄嗟に保がフォローを入れる。
「そうです。悪いのは俺です。リザードマンさん手伝いに来ただけなのに、本当にすみません」
 当事者の作業員も頭を下げる。
「うちの若いのが申し訳ない!」
 親方もリザードマン達に頭を下げた。
 その態度が功を奏したのかリザードマン達は誰も怒っておらず、櫓作りはすぐに再開された。

 櫓作りの次は支柱の埋め込み。
 打ち込み役に志願した保と鈴太郎が木槌を持って櫓の上に登る。
「ズレねぇように真っ直ぐ打ち込むとなると、あの技だな」
 鈴太郎は木槌を慎重に構えると『震撃』を発動。
 木槌が作業員達が支えている支柱に真っ直ぐ振り下ろされた。
 ゴォンと衝撃音が鳴り、先端を尖らせた支柱が勢い良く地面にめり込んだ。
「おぉ!」
「すげぇ、一撃でこんなに埋まった」
 続けて『震撃』を3発打ち込むと規定の位置まで支柱が埋まった。
 一方、保は『御霊符「影装」』を発動して影の鎧を纏っていた。
「なんだありゃ?」
「なんか変身したぞ」
(変身じゃないんですけどね)
 騒ぐ作業員に苦笑しながら木槌を振り下ろす。
 ゴォンという衝撃音と共に支柱がズブリとめり込む。
「こっちもスゲェ!」
(術が切れる前に終わらせないと)
 保は木槌を連打して一気に支柱を埋め込むと、ちょうど術の効果時間が切れて影の鎧が霧散した。
「やっぱハンターに任せると早ぇな」
「俺達じゃこうはいかねぇ」
「腕が痺れっからあんまりやりたくねーしな」
 作業員達は2人の仕事振りに満足気だった。

 次の水車作りの工程になると、ハンターにできる事はないので休憩になった。
「ちょっと料理覗いてきていいか? ずっと気になってンだよ」
 鈴太郎は皆に断りをいれると調理場へ向かった。


 その頃ミア(ka7035)は村の女衆と共に料理を作っていた。
「限られてる食材の中でやりくりをする……未来の主婦であるミアの腕の見せ所ニャス!」
 貧富な村で使える食材が限られている事が逆にミアのやる気を奮い立たせた。
「それで何を作るんですか?」
「私達普段は焼いたり茹でたりするくらいの簡単な物しか作らないんで、今日は楽しみにしていたんです」
 女衆は期待に目を輝かせている。
「にゅふふ、まずは川魚のフリッターを作るニャス」
「ふりったー?」
 聞き慣れない単語に女衆が首を傾げる。
「油で揚げて作る料理の一種ニャスよ」
 まず魚の腸を取り除いて綺麗に洗い、酒をふり、塩とハーブを擦り込ませる。
「衣には小麦粉を使うのが一般的ニャスが、今日は大豆の粉を溶いたものを使うニャスネ」
 水溶き大豆粉に川魚に浸し、熱した油に投入。
 パチパチと音を立てて川魚がカラリと揚がる。
「大豆粉でも綺麗に揚がったニャスね。さあ食べてみるニャス」
 早速試食。
「サクサクの熱々で美味しい!」
「ハーブで魚の臭みも気にならないよ」
「作るのもそんなに手間じゃないのがいいわ」
 女衆の評判は上々であった。

「次はトルティーヤチップスニャス」
「とるてぃーや?」
「リアルブルーのとうもろこし粉の料理ニャス」
 ボウルにとうもろこし粉と塩を入れ、少しずつ水を入れながら混ぜて見せた。
「耳朶くらいの柔らかさになったら、一枚分の分量を取って団子状に丸めた後のし棒で伸ばすニャス」
 女衆も見習って作る。
「それをフライパンで焼き上げるニャス」
 焦げないように数分焼くと生地から水分が抜けてゆく。
「よっしゃ、すぐに乾燥したニャスネ。バリーンと割ってチップスにするニャスー」
「ずいぶん簡単にできるのね」
「オヤツに食べるものいいかも」
 皆でパリパリと食べ始める。
「胡瓜、茄子、トマトをお塩とハーブの味付けで煮込んだラタトゥイユ風のソースも作るニャス。それ付けるともっと美味しいニャスよ」
「分かったわ」
 女衆はすぐに材料を切り始め、鍋の用意も始めた。

 炊事場では別の鍋で女衆の1人が擦り潰した大豆を煮ながら一生懸命に掻き回していた。
 保が提案した豆乳を作っているのだ。
「豆乳の様子はどうニャス?」
「豆を潰すのが大変だったし、焦げないように混ぜるのも大変よ」
「でもその甲斐あって上手くできてるニャス。そろそろいい感じニャスよ」
 鍋を火から上げ、中身を目の細かい布で濾し取りながら別の鍋に移した。
 すると乳白色の液体が鍋に満ちてゆく。
「これが豆乳ニャス」
「へぇ~確かに牛乳みたいな色ね」
 皆で試飲。
「牛乳に似てるけどやっぱり違うわね」
「でも美味しいわ」
「うん、ちょっと甘みもあるし」
「甘みがあるなら上手く出来た証拠ニャス」
 女衆には概ね好評だった。
「ねぇ、搾った後の物はどうするの?」
 濾し取った後の布の中には大豆の搾りかすが残っていた。
「あ~……そこまでは考えてなかったニャス」
「元は大豆だし食べられるわよね」
「とりあえず塩を振ってみましょうか」
 塩で食べてみる。
「あ、これでも十分美味しい」
「じゃあ今日のところは塩味で食べましょう」
 鈴太郎が来たのはそんな時だった。
「おーい、ミア。ムチャクチャうまそうな匂いさせてンな。なンかつまみ食いさせてくれ」
「堂々とつまみ食い宣言ニャスか……じゃあこれ食べるニャス」
「サンキュー……って、おからじゃねーか」
「メインディッシュは後のお楽しみニャス」
「まぁコレはコレで美味いけどよぉ」
 鈴太郎は不満そうにしながらも美味しく頂いた。

 水車の組み立ても終わり、滑車で引き上げる段階になった。
「よし、上げてくれ」
 親方の合図でロープに繋いだ水車を作業員とハンターで引き上げる。
 十分引き上げたら滑車ごと支柱の真上まで水平移動させる。
「ストップ。そのまま慎重に降ろしてくれ」
 実は上げるより下げる方が力加減が難しい。
 力を抜きすぎると水車の重みで一気に落ちる可能性があるからだ。
 徐々に下がってゆく水車が4本の支柱の間に上手く収まる。
 作業員が水車の軸を支柱に固定すると、水車の全貌がほぼ完成した。

 後は支流に水を流すだけだが、支流を川に貫通させる際には大量の水が一気に流れ込み、作業員が流される危険性があった。
『それでしたら水に流されても平気な私達に任せて貰えないでしょうか?』
 その説明を聞いたリザードマン達が申し出てくる。
「いや、それは……」
 しかしリザードマンが上手くできる確証がないため親方は難色を示した。
「任せても大丈夫なのか?」
 判断に迷った親方はハンター達に尋ねる。
「折角の申し出なので僕は任せてあげたいです」
「この川の事を一番わかってンのはリザードマンだし、任せてもいいンじゃねぇか」
「ふむ……」
 保と鈴太郎の言葉に親方が考え込む。
「リザードマンだから流されていい、は絶対違うの! 彼らだってぶつかれば痛いの。危険な仕事なら私がやるの」
 しかしディーナは反対し、命綱のロープを持って現場に行こうとした。
「待て!」
 親方が止める。
 しかもその声には怒気が篭っていた。
「何故自分なら危険な仕事でもやれると思う? 例えハンターだろうと君は素人だ。リザードマンになら村との友好という意味があるが、君にはプロの自分達を差し置いて任せる理由はない。我々に任せてもらう」
 有無を言わせぬ迫力で場を仕切り、親方は作業を始めた。
 やがて作業員達の手で支流は川と繋がり、水の流れを受けて水車はゆっくりと大きく回りだしたのだった。

「おー! しっかり回ってるよ。凄くいい出来だ、みんなありがとう。お礼と言っちゃ何だけど、村の作物で作った料理を用意してあるんだ。食べとくれ」
 完成した水車に感激した女将は業者とハンターとリザードマンを食事に誘った。
 もちろん断る者はいない。
「女将さん、これを。祝酒です」
 保は持参してきた酒類を女将に渡した。
「えっ! いいのかい? いやぁ、アンタには世話になってばっかりだね。ホントありがとう」
 女将が両手で保の手を握って感謝を示す。
「それ、俺達も飲んでいいんだよな?」
 耳ざとく聞いていた作業員が尋ねてくる。
「もちろんです」
 飲める者には保の酒が振る舞われ、女将が音頭を取る。
「それでは、水車の完成と村の実りを祝って」
「かんぱーい!」
 乾杯が終わると皆が早速料理に手を伸ばす。
「うまっ! さっきはお預け喰らったけど、ミアの料理超うめぇ!」
「ホント美味しいの」
 鈴太郎とディーナが舌鼓を打つ。
「ありがとニャス。はじめちゃんは豆乳どうニャスか?」
「これと比べたら以前僕が飲んだのは大豆汁ですね。段違いの美味しさです」
 皆が美味しそうに食べているのに満足しつつも、ミアはリザードマン達の反応が気になっていた。
 彼らが手を伸ばしたのは川魚のフリッター。
「どうニャスか?」
『こんな食感は初めてですが、美味しいですよ』
「よかったニャス~」
 リザにそう言って貰えてミアは安堵する。
 しかし中にはハーブの味が合わない者もいた。
「それなら川魚の塩焼きとかどうニャスか。こう、むしゃあぁっ!っと食べるんニャス」
 塩焼きを実演で食べてみせると、彼らも美味しそうに食べてくれた。
(原始的な料理がいいんニャスなぁ)
「お、美味そう。俺にも焼き魚くれよ」
 作業員も焼き魚を食べに来る。
 美味しい料理と酒のお陰か、業者もリザードマンと楽しげに過ごしてくれた。
(小さな歩幅でも、少しずつ寄り添っていけば、いつか手は繋げるニャス)
 ミアはそんな感慨を覚えたのだった。

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参加者一覧

  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/09/12 18:54:54
アイコン 質問卓
大伴 鈴太郎(ka6016
人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2018/09/13 00:32:34
アイコン 相談卓
大伴 鈴太郎(ka6016
人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2018/09/16 18:13:04