これはナスではない…トマトだ!~トマト祭

マスター:奈華里

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2018/10/03 15:00
完成日
2018/10/16 02:26

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ここはトマトを特産品とするカルド・ルビーノ村。この村では毎年トマト祭りなるものが行われる。
 その祭りはとある街の橋を挟んで月チームと太陽チームに分かれて行われるもので今年も例外ではない。
 が、今年の開催はかなり遅れていた。それはこのトマト祭りに命を懸ける程の男が全ての発端である。
「おい、聞いたか? またパーザの奴がおかしなもん作ってるらしいぜ」
 真夏の昼下がり、作業を終えた仲間達が休憩小屋に集まり話し始める。
「はぁ、またかよぉ。黒いトマトは確かに面白かったし売れ行きもそこそこだが、今度は何だ?」
 とこれはもう一人。ちなみに黒トマトというのは、トマト命な祭り好きのその男・パーザが品種改良の末作り出したトマトだ。見た目の印象がいまいちだったのだが、ハンター達のPRなども経て今はそれなりの売れ行きとなっている。
「それがさぁ、何かおかしいんだよなぁ…畑になってたのがあれに似てて」
「あれとは何だよ。勿体ぶるなよぉ」
 身振りでは全然わからない。両手の親指と人差し指を合わせて丸いものを作ってみせる。
「うーん、それがなぁ~ナスなんだよ」
「はぁ、ナスだって?」
 あのトマト一筋のパーザが別の野菜に浮気したとでも言うのだろうか。
 確かに元を辿ればトマトはナス科ではあるが、そうだとてあれ程の男が妙である。そこで直接彼に聞きに行こうとした二人であったが、その前に本人がご到着。何か興奮した様子で彼らの元を訪れる。
「はーはっはっは、諸君らは運がいい。今できたばかりのこの最高傑作を見る事が出来るのだから」
 パーザが目一杯ふんぞり返って、芝居口調に彼らに獲って来たばかりの野菜を掲げてみせる。
 だが、掲げ過ぎていて肝心のモノが二人には見えていないのだが、パーザは続ける。
「どうだ、これを……いやぁ、原点回帰とは言うものの実に時間がかかって」
「あー、いや、パーザよぉ。見えないから」
 そこで気分よく口上を垂れる彼に一人がツッコミをいれて、目にできたのは確かにトマトらしくない。なぜなら、まず色が違う。コロンとしたフォルムに違いはないのだが、トマト特有のあの真っ赤な色が抜け落ち白いのだ。正確には少しだけクリームがかって見えるが、離れてみればきっと誰もが白として判断するだろう。
「なぁ、パーザ。ついに転職か?」
 それを見たもう一人が静かに問う。
「はぁ、何を言う! 私はトマト農家をやめる気は」
「だってコレ、ナスだろう」
「はぁぁぁぁ?! 貴様の目は節穴かッ」
 もう一人から飛び出た言葉に彼が憤慨する。
「いや、だってコレどこからどう見てもナスだし…」
 ここで紫のナスが一般的な者達に補足しておく。どちらかと言えばこの地域ではナスと言えば白の方が一般的。ナスの別名が『エッグプラント』だと知ればそれも頷けることだろう。まあ、それはともかく、パーザはまた色香変えに成功らしい。
「あぁ、もういい。ならば食ってみればよかろう。これが出来立てほやほやの白トマトだッ」
 何処から取り出したのか手早く切って、二人の口に取り立て白トマトを放り込む。
「な、トマトだろう」
 その問いにこくりと頷くもどこか不思議な感覚を感じる二人がいる。
(いや、待てよ…ひょっとすると、これは使えるかもしれん)
 一方パーザはそこではたと何かを閃いて、一目散に駆け出していくのであった。

 そういう訳でパーザの白トマトの完成が今になった事とそれからパーザの新提案があった事により、今年は去年に比べてさらに遅い開催と相成る。ちなみに祭りの大きな部分は変わっていない。どちらが相手方の街をトマトで染め上げられるかというのはそのままだが、その方法は従来のものとは大きく異なる。
「折角の投石器、使わで置くべきかって事で互いに投石器を使って打ち合う事にする」
『おー』
 大胆な意見に他の実行委員から声が上がる。
「そして、打つタイミングは黒トマトで決定。それまでは見つけてきたトマトを投石器にためておくことになる。であるから、黒のタイミングが重要だな。白トマトはボーナストマトを進呈するというのはどうだろうか?」
 まさに斬新なアイデア。一人ずつでは埒が明かないというのもあるが、何よりハンターの能力の一つ占いが猛威を振るいつつあったから、ここでそれを優勢としない案を打ち出す必要があったのだ。
(ある範囲を絞れてもたまったタイミングで発見するのは難しいからな。フフッ、私は本当に天才かもしれない)
 心中でそんな事を呟きつつ、パーザが今年の祭りの概要を説明していく。
「勿論、従来通り敵陣に入るのもOKだ。当てて回り、敵を妨害するもよし。敵側のトマトを食い尽くすのもよし。敵の貯蓄を掻っ攫ってくるのも有とする。今回は制限時間内は当てられても脱落はない。思う存分投げ回りたまえ。あ、そうそう…中にはダミーを混ぜておくからな。それには気を付けてくれたまえ」
 そして最後に悪戯を添えて…ナスそっくりの白トマトという事は、つまりそう言う事である。

リプレイ本文


 トマト祭り年史――それによればここ数年パーザの所属する月チームの勝ちは少ない。
 川流れトマト祭りでは投石器を投入するも僅差で負けた。その翌年はトマトジュース追加回では一発逆転を狙うも、太陽チームも投石器を導入し負け。そしてさらに翌年はトマト不作の為、即退場という過酷ルールで挑むも残念な結果となっている。
「それも全て、あの二人の力が大きいな」
 今までの動向を綿密に検証しパーザが呟く。
 ちなみに彼が言う太陽チームの二人というのは、ここ数年参加している二人のハンターの事だった。一人は符術師の星野 ハナ(ka5852)。スキルに制限がかかっていない事に目をつけて、ボーナスの位置を占術で特定しチームのメンバーに連絡を入れる作戦で効率よく当たりを見つける強者。そしてもう一人は三年連続出場中のレジェンドハンター。エルことエルバッハ・リオン(ka2434)という美少女だ。エルフであるから見た目以上に年を有している筈だが、見た目はまだ十代であり露出の高い衣装でこちらチームの男連中を魅了し続けている。去年はこれに対抗して、こちらも二人の女神を立ててみたが結果はさっきの述べた通りだ。
「くっ、今年も来ているようだな」
 街の入り口となる場所の物影に陣取って、パーザが来訪者をチェックする。一見すればこの行為、とても怪しいものであるが地元民にはこの時期だけは当たり前の光景。何せこのトマト祭りは前日から戦いは始まっており、この日にどれだけいい戦力をかき集められるかによって勝ちが決まると言っても過言ではない。だが、初見には目につく事だろう。
「おいおい、この村本当に大丈夫なのかよ」
 一足先に村についていたジャック・エルギン(ka1522)が独り呟く。
「大丈夫ですよぅ。これは恒例行事みたいなものなので」
 だが、たまたま通りかかった友であるハナにそう言われたら、そうなのかと納得するしかない。
「で、ジャックくんはどちらででるんですか?」
 ハナが尋ねる。
「え、どっちでも構やしねぇけど、ハナは?」
「私は勿論太陽ですよぉ。だって、三連覇がかかってますから」
 にこにこと笑顔を浮かべて、早速明日の勝敗を占うつもりだろうかタロットカードを取り出す。だが、そこで太陽チームの実行委員が彼女を見つけて声をかけると、彼女は平然と彼等との打ち合わせに出て行ってしまう。そこで残されたジャックが再び、視線を男の方へ。
 すると彼は何やら変な事を始めていて…何をしているのかと思えばある少女の進路にトマトをおいて、その先には原始的なデカい籠が仕掛けられているではないか。
「おいおい、まさか…だよな」
 呆れ顔で視線を少女に移す。しかし、少女の方は点々と並べられたトマトに興味津々。
「あらら、もうトマトが落ちてるのぉ?」
 そう言ってごしごし袖でトマトを拭いて、ぱくりと齧りつく。
「あ、おい。そんな落ちているものを拾っては…」
 連れの女性が彼女をたしなめるも馬耳東風。食べられるのに、勿体ないと次々拾っていく。
 そして、ジッャクと連れの女性が見守る中、ものの見事にその原始的な罠の餌食となる。
「はーはっはっは、よくここまで来てくれた。ウェルカム、月チームへ」
 男が嬉しそうに言う。
「やーん、その声はパーザさんなのぉ? ちょっとひどいのぉ」
 そういう少女であるが、そこまで怒ってはいないらしい。拾っていた筈のトマトは既に口の中に納まり、跡形もなくなっている。
「ええーと、どういう事だこれは?」
 連れの方が二人のやり取りを見て困惑する。
「あぁ、こちら黒トマトの生産農家さんでパーザさんって言うのぉ。美味しいトマトを作ってくれているの」
 友であるレイア・アローネ(ka4082)にディーナ・フェルミ(ka5843)が説明する。
 ちなみにディーナは去年太陽チーム。パーザとは黒トマトを開発した折の知り合いで今に至る。
「成程、その人はこの祭りの関係者、という訳だな」
 ディーナと共に来ていたレイアが丁寧に会釈する。
「ディーナさんの友達とあらば、どうです。うちのチームに入りませんか?」
 ディーナ+αを狙い、彼が勧誘する。だが、彼女は何となくパーザの意図に気付いたらしい。
「すまないが、それはできない。何故ならディーナとは一度戦ってみたくてな…それで今日ここに来たんだ。ディーナがこちらに入るなら、私は必然的に向こうだ。なあ、それでいいよな?」
 友にも許可を取るべく、彼女が尋ねる。
「レイアがそうしたいならそれでいいの。そういう訳だからパーザさん、よろしくなの~」
 ディーナがそれを受け入れる。そうなるとパーザも無理強いは出来ない。不本意ながら愛想笑いを浮かべて、次の獲物を狙う。そうして、目に留まったのはジャックだった。視線が合ったと同時に、物凄い早さでこちらにやってくる。
「な、なんだよ…おっさん」
「君、見ない顔だね…ぜひ、我が月チームへ来ないかい?」
 ずずずいっと顔を近寄らせて、今年は目力でパーザが彼を勧誘する。
(まぁ、ハナが太陽だって言ってたし、敵になるのも悪くないか)
 ジャックはそう思い、その誘いを快諾。白トマトをご馳走するという彼に、傍にいたディーナも大喜びだ。
(フフフ、誰を引き入れようと最後に笑うのは私達、太陽チームの者達ですよ)
 そんな彼等のやり取りを前にこっそり太陽の女神が微笑した。


 その夜は両チーム共に作戦会議が行われる。
 基本ハンターや観光客の参加は自由としているが、出席する者は多い。だが、エルはどういう訳か全体に少し顔を出したのち、一部の太陽チームの面子を集めて後はごにょごにょ。よほど秘密にしたいらしい。一方ハナの方は開示的だ。
「今年もガンガン占うので、各自移動してボーナスゲットをお願いしますねぇ」
 とウインク付きでお願いし、明日に備え持ち物チェック。そんな中、詳細確認をするのはレイアだ。
「つまりボーナスというのは向こうに行かなければならないのか?」
 自陣防御を検討していたレイアだったが得意分野で動くのならば、身体を動かし攻めるのが理想的だろう。
「では、私はボーナス狙いの探索で」
 静かに彼女が言う。しかし、ナスそっくりの白トマトとはどういうものだろうか。まだ出来たばかりで実行委員の一部しかその存在をちゃんとは見ていないというから判断できるかの不安もある。がそれは皆も同じだからフェアーなのだろう。明日が楽しみである。
(どちらにせよ、負ける気はないがな)
 戦士としての本能が彼女の気持ちを駆り立てる。
 たいした作戦はないが、一般人も混じるこの戦い――ハンターであるし、油断するつもりもない。
 が、それは月チームも同じだった。
 ハンターが少なくとも、いや少ないからこそ皆が奮起する。強い相手とて数と策で乗り切るつもりだ。
「確か君はあの占い師と話をしていたな。知り合いか?」
 パーザがふと思い出し尋ねる。
「ああ、ハナの事か?」
 それにジャックはよく覚えていたなと思いつつ返答する。
「ならば、あの占い師を任せていいか? きっと去年同様、占術からのスピード作戦でくると思うから妨害を頼みたいのだよ」
 パーザから出た聞き慣れぬ言葉にジャックが眉をしかめる。そうして、詳細を耳にして言葉を失う。
「ハァッ、自転車! んなもの、使っていいのかよ?」
 確かにルールにその点触れられていないが、常識的に考えたらなしだと思う。しかし、この祭りでは禁止していないらしい。
「そういや、バイク使ってた奴もいた気がするのぉ」
 ディーナが言う。ジャックは唖然。しかし、逆に興奮も覚える。
「そういう訳だから宜しく頼むよ」
 パーザが信頼の眼差しを彼に向ける。そこで彼は地図を借り、敵陣把握を開始する。
「さて、どうなりますか…」
 両チームの様子を見に来ていた村長が窓を見る。
 その先の闇に紛れて動く人影かある事に月チームの面々はこの時気付いてはいなかった。

「なんだ、ありゃあ?」
 対岸に組まれた足場に月側から言葉が漏れる。投石器から少し離れた場所、それなりの高さもあるようだ。
 その櫓に似た建物を前に朝食を終えた両チームのメンバー達はそれぞれの川縁に集まり始める。
「フフ、素敵に仕上げてくれて有難う御座います」
 その中に混じってエルが櫓を前に女神の微笑み。作業していた者達にとっては癒しだ。
「エル様の為ならこんなのへっちゃらでさぁ」
「俺っちもなんてことはない。エル様にはトマト一個当てさせませんからねっ」
 彼女のファンだという若者たちが言う。続けて出ているとここまで人気が付くものなのだろうか。
「期待していますので、よろしくお願いしますね」
 エルはそれらの取り巻きに丁寧に対応して、小さくお辞儀。
 今年もいい天気。緩やかな風が実に心地よい。
 そんな朝、開始を告げる教会の鐘が鳴り響けば、わぁと動き出す参加者達。
「んーーーっ、今日は去年よりもたくさん食べるのぉ」
 身体をぐーーと伸ばしてディーナが川縁に駆け出す。
「ま、相手が美人だろうと容赦はしねーぜ!」
 橋の上ではジャックが早速頭一つ飛び出して敵陣に切り込んでいく。
(あの動きは…おそらく同業者か。油断できんな)
 レイアがその姿を捉え、少し遅れてスタートしトマト祭。いざ、開幕。


 ジャックとの直接対決を避けレイアが敵陣へと踏み込む。身軽に動く為、事前に所持しているトマトの数は少ない。だから、飛んでくるトマトをうまく避けながら進んでいくしかない。所々で壁に隠れたりしながらまずは黒トマトを探す。
(まだ占いでの連絡はないからな。適当に当たってみるしかないか)
 予測されるのはやはり見つけにくい場所だろう。
 簡単に見つかるようでは意味がない。従って路地裏や看板の裏などをくまなく探す。
 だが、とある路地に踏み込んだその時、彼女の後に異質な気配。ハッとして振り返ると、その僅か横でトマトの潰れた音がして、弾道を辿れば路地の建物の上だ。
「あの男は…パーザか!」
 繋ぎを着てゴーグルをしていたが間違いない。ディーナを誘っていたあの男だ。
「非覚醒者だと思って甘く見て貰っては困るのだよ」
 男がそう言い再びレイア目掛け、トマトを飛ばしてくる。如何やら、彼が持っているのはミニトマトらしい。そのトマトがどういう訳がものすごいスピードで飛んでくる。
「チッ、厄介だな」
 両側が建物に挟まれているから隠れる場所が少ない。かと言って、壁を悠長に登っていてはあのトマト弾の餌食だ。
(いやしかし、ここにあいつがいるという事はボーナスも近くにあるかもしれない)
 大事なものを隠しているからこそ近付かせない為の妨害。そう信じて、彼女は路地を引き返すのではなくそのまま突き進む道を選択する。そしてミニトマトの発射にはどうやらパチンコを用いられているようだ。飛んできてからのリロードに僅かな時間がかかっているし、銃のような発射音がしないから機械的なものではないと判断できる。
「クッ、遠投するには分が悪い」
 高所と低所…戦でも高所の方が有利と聞く。だが、このまま逃げ続けているのも癪だ。前に進みつつも登れる場所はないか周囲を瞬時に観察する。するとその先にダストボックスがあって、そこに飛び乗り跳躍すれば窓の手すりに捕まり上に進む事が出来るかもしれない。けれど、この場所にあるのがまた引っかかる。
(罠…なのか?)
 あからさまにも見えるそれにレイアの脳がフル稼働。もしかしたら中にボーナスという可能性もある。あるいは、そこを踏み台にすると見た罠であり、落とし穴的細工がされているか。はたまた、踏み台にしたはいいが手すりの方に仕掛けがあって…という事も考えられる。
「フフフッ、どうしたね…女戦士よ。上がってくるならば上がってきたらいいではないか」
 テンションが高くなった時の彼特有の言葉使いで彼が挑発。
 トマト弾をあえて彼女の傍に放ちながら、とてもパーザは楽しそうだ。
「く、どうするか?」
 パーザには聞こえない程の声で彼女が呟く。だが、このまま止まっていても埒が明かない。くっと奥歯を噛み締める。そして、ふと地面に視線を落として、彼女は気が付く。
(ふ、これを狙っていたか)
 自分の影の形が僅かに違う。という事は、この影の正体は?
「そこだっ!」
 入り込んで来た時は気付かなかったが、いつの間にやら建物の上、路地側にせり出す様に麻袋がセットされている。大方、パーザに気を取られている間に別の仲間がクレーンのような仕掛けを使ってせり出させたのだろう。それに気付いた彼女はその場にしゃがみ頭上にある麻袋に向けて衝撃波を繰り出す。すると麻袋が裂けて雪崩て出てくるトマトの山。間一髪のところでそれを回避するもそれに気付いたパーザが彼女を狙い、ミニトマトを連射する。
「クッ、だが…このままでは終われないッ!」
 何発か喰らってしまったが、それでも今は我慢だ。今度は躊躇することなくダストボックスに飛び乗って、当初考えていたルートでパーザのいる屋上を目指す。だが、麻袋から飛び出したトマトの中に黒トマトを見つけて、またも究極の選択を強いられる。
(もう開始からどれ位経っている? もうトマトは溜っているだろうか)
 打ち出すか否か。通信機器を使いたいが、この状況では難しい。
「ん!?」
 が、そこで思わぬ間抜けな声が出た。ダストボックスに乗った瞬間、蓋があっさりと壊れて…中にあった大量のトマトジュースに身体ごとツッコむ。
「わーはっはっはっ、ざまあみろだな、女戦士よ」
 超ご機嫌にパーザが高笑いを始める。
「フフッ、どうやら私を本気の本気にさせてしまったようだな。後悔するなよ」
 レイアがむくりとトマトジュースの海から立ち上がる。そうして、吊るされていた麻生袋の縄に飛びつき、そこから反動を利用し屋上の縁に跳び手をかける。
「な…や、やるというなら、お、相手しよう」
 パーザはそういうも身体は逃げ腰、顔面は蒼白で彼女と対峙する。が、この後の勝敗は見えている。
「喰らえ、高速トマト汁アタッーク」
 いつもはクールな彼女がその場でくるくる回転し、身体についたトマトジュースを撒き散らしつつ己が持っていたトマトをも至近距離からパーザにぶつける。
「はっ、ふっあ、なんてこった――!」
 パーザは必死に避けようとするも八割方避ける事は出来ていなかった。


 所変わって、ここは川縁。川からの大量のトマトを求め大勢の参加者がひしめき合い、トマトが飛び交っている。
 そんな中でも先手必死とばかりに組み上げられた櫓に登場したのは女神のエルだ。下にはビキニアーマーを着込んで、その上から着ているドレスのおかげで太陽チームのおばちゃん達からの注意は辛うじて免れた。免れてはいるのだが、やはり肌色部分は多い。強調するかのようにむき出しデザインの胸元に太ももを半分しか隠さない裾のドレス。腹部は大きく開かれ、色白の肌と端正な臍が丸見えである。それに加えて、背中で結ばれたリボンの端がひらひら揺れては、その場にいる男性参加者の目を奪う。
「さあ、皆様頑張っていきましょう」
 太陽のスポットライトを浴びながらエルは櫓の上に立ち踊る。
 人前に出る事に抵抗はなかった。落ち着いた声音にギャップのある容姿が男心を刺激するらしい。櫓の下には複数の太鼓が常備され、エルの舞をサポートするように、そして己がチームを鼓舞する為力強くも軽やかなテンポのリズムを打ち鳴らす。
「まだまだこれからです。頑張って下さいね」
 エルの銀髪が緩やかな曲線を描く。次第に激しくなるそのリズムに合わせて、彼女の舞もより激しく。
「おぉ、今年も舞い降りてら…」
「これ見る為に月チーム入ったんだよなぁ」
 対岸の参加者からそんな声が漏れる。太陽チームに入った方がより近い筈だが、近過ぎると見にくいという事もある。その点、向かいの櫓真正面に陣取れば完全に見放題だ。太陽からのトマトを受けてしまう形となるが、それさえ我慢すれば絶好の観覧場所と言える。
「成程、そういう意味だったのぉ」
 突然始まったオンステージにディーナが納得。エルは見事に月チームの手を止めさせている。
(作戦上々といった所でしょうか?)
 いつからか、持って生まれたこの美貌を利用しない手はないと思った。現に去年もそこそこの結果を出している。噴き出す汗を気にする事なく、彼女は太陽チームの為に踊り続ける。だが、暫くすると何やら様子が変わってくる。
 自分に向けられていた筈の熱い視線が薄らいでいるのに気付いて、踊る合間に対岸の川縁へと視線を向けるとそこには彼女と同じ銀髪の少女がこちらとは違った形で注目を浴びているではないか。
(なんて事…)
 ステップを続けたまま、心中で呟く。
 少女のそれはダンスというよりは曲芸だ。彼女はただひたすらにトマトを拾うだけ。が、その拾う姿が特徴的なのだ。去年同様小さな子犬がご主人様が投げてよこしたフリスビーを受け取りに走る様に、太陽チームから飛ばされてきたトマトを一心不乱に追いかけなんと口で捉え続けている。
「落とすと勿体ないのっ、もぐもぐ。だから、今年こそ全部拾い切るのー、むぐむぐ」
 あっちへ、こっちへぴょんぴょんとそれはもう縦横無尽に。その回収率が尋常ではない。
「やりますね」
 その姿をみてエルが言う。が、ディーナ自身はそこまで彼女を意識してはいない。
 ただ、大好きなトマトを食べられるだけで幸せだとでも言う様に終始笑顔。去年のドクターストップの雪辱に燃える。
「健康的でいいよなー」
「トマト農家としてはあんな笑顔で食ってくれると嬉し過ぎかも」
 太陽チームの者達からの正直な声。そして、ぶつけるというよりは彼女に贈るように軽ーい感じのトマト投擲が増えてくる。
「どうしましょう、エル様。これでは」
「負けてられませんね」
 手が止まりかけている太鼓隊の一人に彼女が言う。
(私の全身全霊を込めて…何としても勝たせてみせる)
 ドドンッと一発仕切り直しの太鼓が叩かれた。その音に川辺にいた皆が一瞬びくりと身体を揺らす。
「あれ、もうくれないのぉ?」
 止まってしまったトマトにディーナがかくりと首を傾げる。
「そこの貴方、勝負です」
 エルが目を閉じ集中する。すると、胸元にバラの紋章が浮かび、そこを起点に棘をもした紋様が六本。肢体をに絡みつくように伸びてゆく。
「す、スゲェ…」
 晒された肌に浮かんだ紋様がとても蠱惑的だ。手にしていたトマトをぽとりと取り落とす者が増えていく。チームの垣根を越えて、エルの覚醒姿に息を呑む。
(これが私の本当の姿…いえ、この姿こそ望んだ私)
 彼女が覚醒者になった目的、それは有名人になり喝采を浴びる事。喝采こそまだされていないが、誰もが自分を見ているこの状況は彼女にとって夢が現実になっていると言っても過言ではない。だからこそ、ディーナには負けられない。このステージは自分のものだ。さっき以上に太鼓隊の音が大きくなる。
「いきますっ」
 彼女が小さな体をフルに使って、再びしなやかに舞い始める。
「飛んでこないなら拾うまでなのぉ」
 ディーナはそんな彼女を前にしても我が道を行くとばかりに川流れのトマトをもしゃもしゃ。そんな中にたまたまあの白トマトが混じっていて、付近にいた者が争奪戦。その結果。

 ドーーンッ

 月チームから大きな音が響き渡った。それはどうやらボーナストマトによって、スプーン部に溜まったトマトが太陽チームに打ち出された音。しかもそのトマトは固形のものばかりではなくて、スプーンの余白を埋めるようにトマトジュースも追加されたらしい。
「え、ちょっ、これは流石に…」
 エルの元にトマトジュースの雨が降る。エル親衛隊が慌てて駆け上ったが間に合わず。彼女の全身をものの見事に真っ赤に染め上げる。
「さ、最悪です…」
 突然起こったその災厄にエルがよろめく。が、ずぶぬれ櫓の足場は悪くつるんと滑って…泣きっ面に蜂とはこの事だ。けれど、いい事もあった。それはというと、エルの窮地により太陽チームの保護欲が掻き立てられたらしい。
「エルちゃんに何すんだこのやろー」
「もう怒った。覚悟しとけよこの―」
 エル親衛隊の面子が反撃し始める。が結果オーライとはいかない様で、一部の月メンバーはエルの足元狙い。もう一度転ばせるのが狙いの特殊な感情の持ち主らしい。
「おい、野郎共。エル嬢を守れー」
 太陽チームが声を出す。そんな中でディーナはぽつりと。
「私当たっちゃったの~。もしかして見学?? あの、誰か教えて欲しいのぉ~」
 以前のルールでは一発退場であったからかルールを把握できていなかったディーナが一人、その場でオロオロし始めていた。


 占いには集中力を要するし、数あるボーナスの位置を特定するのには時間もかかる。そういう訳で開始早々から部屋に籠り、まずはボーナス位置の特定作業を急いでいたハナであるが、川縁の報告を受けて、いよいよ彼女が動き出す。
「さーてと、ここから挽回ですよぉ」
 ポケットには大量の陰陽符を潜ませて、それはいざという時の為だ。
(フフッ、次回からは禁止されるでしょうが今回はやったもの勝ちですからねぇ)
 一体何を考えているのか。ハナはルールの抜け穴を見つけるのが実にうまい。だから、今回も勿論ママチャリ持参。太陽チームのメンバーの一部にはトランシーバーを持たせ、占い結果で出た予測先に向かって貰っているからいずれボーナストマトを大量に見つけるだろう。そうなれば、逆転は可能。昼を過ぎた辺りであるから時間はまだ十分ある。
「おうおう、遅番だなぁオイ」
 聞き覚えのある声にハナが入り口の方を振り返る。そこには見知ったジャックの姿。
「探したぜ。ま、外に警備っぽいのがいたから見つけた後は楽勝だったが」
 くくくっと口元を吊り上げて悪戯を企む少年の様に笑う。
「ジャックくんは月…という事ですか。いいでしょう、私を止めてみますか?」
 それに倣うようにハナも余裕を込めた笑みを見せる。
 そこでジャックが動いた。部屋に今あるのは占いで使われた地図と備品だろう椅子の数々。隅に寄せられているからそれ程邪魔という事はない。ジャックが立っている入り口の他に出入りする場所はないから、外の奴らが気付いて入ってこない限りは一対一と言える。そうなれば能力差は言うまでもない。レベルだけ見れば大差があるように見せるが、この狭い部屋での接近戦となれば圧倒的に自分が上。小手調べにここに来るまでに拾ってきたトマトを彼女に向けて投げつける。流石にストレートに投げればかわされるが、それでいい。避ける方向に新たなトマトを投げれば彼女のヒットする筈だ。が、ハナとて今までの経験がある。トマト祭りではなく、実戦の経験。その経験で身についた勘が避ける方向に警鐘を鳴らす。
(そう簡単には食らいませんよぉ)
 ジャックのそれをハナはしゃがんで避けた。普通ならば左右どちらかに逃げるだろうこの場面で、一番動きの多い下への回避。これはジャックにとっても予想外だ。
「ま、そうこなくっちゃな」
 けれど、そのくらいでは彼も動じない。一つ先が読まれたのなら、さらに先を打つまでだ。
「そっちがその気ならこっちもいくですよぉ」
 そこでハナは早速秘密兵器を投入した。しゃがんだままの体勢で密かに符を取り出して、早々と力を込めて作り上げるのは彼女を守る騎士ならぬ式神の存在。
「うわわっと」
 接近し至近距離からぶつけようと考えていたジャックが後退る。
「あいつを足止めするですよぉ」
 ハナの指示と共に式神が動き出す。
「あ、ちょコラ」
 ジャックが式神と対峙しつつ、出口の方へ走るハナに待ったをかける。
「そう言われて待つ人などいな…ってうっ」
 そう言いその場を離れようとしたハナだったが、入り口の引き戸に挟まれていたトマトをもろに食らい不機嫌顔。原始的なトラップだが案外こういう場では有効なのようだ。
「だから言ったのに。ってかこれ反則だろッ」
 式神と組みあったままのジャックが言う。だが、昨日の言い分でいけばこれもOKという事になってしまう。
「ったく、大人しく寝てろって」
 やり合うのが面倒になったジャックが組んでいた手を離し、式神を蹴り飛ばす。
 術者が離れるか、あるいは有効なダメージを一定加える事で消滅するものだから、無理に相手せずともハナを追いかけた方がいい。駆け出して行った彼女を追って、ジャックが通りに出る。出るとそこはもうまさに戦場だ。飛び交うトマトに一喜一憂する参加者達の姿――戦っている筈なのに、皆の表情は明るいのは童心に返り全てを忘れて馬鹿やっている証拠だ。これがこの祭りのいい所なのだろう。
「くぅぅ、ジャックくん…やりますねぇ」
 少し進んだ先でハナがママチャリごと倒れ呟く。
 事前情報で自転車を使うと聞いていたからちょっとばかしチェーンに細工していた彼である。
「こうなったら決着を着けないといけないのかもしれませんねぇ」
 ボーナス探しに行きたい彼女であるが、足を失くした今そこは仲間達に任せて彼との戦いを選択する。
 それにいいようにやられたままでは寝覚めも悪い。彼女が不敵な笑みを見せ、指には数枚の符を広げてみせる。それに対抗して、彼が持ち出したのは勿論トマトだ。両手に握り構える。それはまさにどこぞの決闘を思わせるような駆け引き…飛び交うトマトが何故だかそこには飛来しない。二人だけのゾーンに支配され、どちらかが動き始めるのを待つ。かさりと符が動いた。が、それは風が震わせたに過ぎない。が、その時ジャックには敵が迫っている。
「チッ、圏外ではなかったか」
 さっき退けた式神が彼にとびかかる。それを横っ飛びで避けたものの、次に視界に捉えたのは真っ赤なトマト。さっきまで持っていた筈の符がハナの手には無く、代わりに転がっていたトマトをこちらに飛ばしてくる姿が見える。
「えいえいえいえいえいーっ」
 それはバッティングマシーンの弾発射の如く、次から次へと。流石に全てを避けきるのは無理だろう。それでも着地と同時に手をついて、上へと跳び捻りなが飛び来るトマトの被弾を最小限に留める。が、まだ式神は生きて…いや、違う。新手の式神が彼を襲って、跳んだ先で彼を受け止めるように手を挙げて、がっしりと捕まえられるという何だか滑稽な光景。いや、別にこれはダジャレではなく、ジャックは式神にお姫様抱っこされたのちぎゅううっと硬く抱きしめられる。
「はぁ、もう羨まし過ぎますよぉ~」
 ハナが冗談交じりにそんな事を言う。
「という事で邪魔者は失礼するのですぅ」
 ハナが一目散に駆け出す。それを奇妙な気分で見送った彼であるが、状況を悟ると赤面せざる負えない。
「ちょっ…くそ、放せって」
 恥ずかしさの余りジャックが暴れる。が暫くすると、術者不在の為力を失くしてその後、彼女を追いかけようかと思った彼であるが、屋根の上の白トマトを発見しそれを踏み止まる。

 その頃、ハナも月陣地内で白トマトらしきものを見つけるも困っていた。
 占った先に確かに白はあった。しかしだ。パーザも意地悪な事を考える。どういう事かと言えば、白が二つ置いてあったからだ。予測するに一つは正解の白トマトだろう。だがもう一つは白ナスだとするとうっかりすればボーナスどころかペナルティだ。
「んー、どっちでしょうか?」
 くんくんと鼻を利かせてみる。そこへレイアも丁度通りかかったから二人掛りで目利きタイム。
「私はこっちだと思うぞ」
 コロンとしたフォルムの方を指差し、レイアが言う。
「でも、それらし過ぎませんか? 私だったら綺麗なのをダミーで設置してまのびしたこっちを本物にしますよぉ」
 そう言うのはハナだ。幸いここは広場から死角になっているから襲撃を受ける事はない。
 が、じっくりと考えられる分時間も消費してしまうのが難点だ。
「どうする? これも占ってみるか?」
 ハナが自信があるというなら、それでも構わないとレイアが提案する。
 ちなみに白トマトは発見し、持ち帰らないと意味がない。ダミーの場合は見つけ触れた時点で黒トマトの様に何かしらの反応があると聞いている。
「そうですねぇ。その方が確実ですが、その時間のロスは痛いかと…」
 太陽はもう既に傾き始めているから戦いは終盤戦。ここでのダミーはかなり痛い。けれど、そうこうしているうちに見えたのは月チームのジャックが駆ける姿。手には白トマトが見えたから二人が焦る。匂いでは判らなかった。とすると、出来る事と言えば?
「よし、この際食べてみるのはどうだ」
 触れなければいいの理屈からすると、齧るというのは果たしてセーフなのだろうか。
 レイアが右のに顔を近付ける。その時だった。
「おおっと、ここであったが何とやら! 食らいやがれっ!」
 ジャックも二人には気付いていたらしい。戻ってきたのか、普通のトマトを思い切り振り被り二人に投げつける。その突然さに二人はその場ですっ転んで、倒れた拍子に二つの白いのに手が接触。ブッブーーーと盛大なハズレ音が木霊して、月チームには大量のトマトが補充され、太陽チームの投石器の打ち出しは十分間無効になるそうだ。
 という事は、つまりこの白いのは二つともダミーだったらしい。
「はーはっはっは。私の頭脳の勝利だ」
 パーザが二階にある白トマトを指差し笑う。
「凄いの凄いの~。天からトマトがいっぱいなのぉ~」
 ディーナは相変わらずの調子で川辺で一人大食いトマト祭り中だ。
 そして、エルは演舞を続けるも更に飛び来た大量トマトを避けられない。
「努力が足りませんでしたかね…」
 傘を差しながらエルが呟く。今年のトマト祭りはどうやら月チームの勝ちのようだった。

依頼結果

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参加者一覧

  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン トマト祭参加者控室
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/10/03 14:27:11
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/09/30 23:28:10