橋の守り手──トビウオたちの嵐

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/10/05 19:00
完成日
2018/10/13 10:00

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 王国西方、イスルダ島── とある川の河口付近に、大きな木製の橋が架けられた。
 いずれ石の橋が築かれるまでの仮の橋だが、川向うに存在する開拓村の人々は喜んだ。それまでは渡河の出来る場所まで大きく迂回しなければならなかった。割高だった物資の運送費用が下がれば、その分、購入できる物資も増えて、この辺りの開拓も大きく進捗するはずだ──そのように思っていた。
 だが、事態は彼らの思う通りにはならなかった。多くの物資が橋を通るようになったことで、雑魔が集まり始めたのだ。
 勿論、橋を架ける前に、リスクヘッジは十分検討された。当該地域は浄化が進み、雑魔の出現確率は内陸に比べて遥かに小さいはずだった。軍のパトロールも機能しており、沿岸部まで雑魔が辿り着くことは殆どないとされていたのだ。

 にもかかわらず、雑魔は現れた。

 奴らは……海からやって来た。


 イスルダ島駐留部隊、駐屯地── そこに所属するユニット部隊の一員として長期契約を結んだハンター、リーナ・アンベールは、その日、同僚のヴィルマ、パウリーネの2人と共に『ドミニオン』を駆り、初めての『橋守り』の任に向かっていた。
 前任者のCAM隊に到着を告げ、引継ぎを終え、交代する。
「噂の『トビウオ』たち──襲撃者たちはどんなもんでした?」
「いや、俺たちが橋守りをしている間は襲撃はなかったからな。退屈な任務だったぜ」
 パウリーネの質問にのんびりと答えて、前任者たちのCAMが去っていく。真新しい白木の橋の袂に、ただぽつんと3機、残されて…… 何となく拍子抜けしたヴィルマが、周囲を見渡し、呟いた。
「……。確かに、こうして見る限りは…… なんとも長閑なただの海岸沿いの風景だわな」
「気を抜かないで、ヴィルマ。いえ、そう言いたくなる気持ちは分かるけど…… いざ『トビウオ』たちがやって来れば、ここは地獄に様変わりよ」
 小隊『三人娘』のリーダーを(名目上)務めるリーナがメンバーたちに釘を刺した。
 基地のブリーフィングルームで聞かされた話を彼女らに思い起こさせる。……最初の被害者たちは、海から川へと『遡上』してきたトビウオの如き雑魔の群れに、橋を渡っている最中に襲われた。生き残った者は──馬も含めて──皆無だった。積み荷は全て食い荒らされ、その場に残されていたのは粉々に砕けた馬車の破片と、哀れな犠牲者たちが流した血と骨片と…… その跡は今も、真新しい橋の上に染みとなって残っている。
 橋を渡る直前で難を逃れた後続の商人が、震えながらこう語った。──その光景は、まさに獲物に群がり喰らうピラニア(と訳された)の群れのようだった、と。
「わかっているよ、リーナ。でも、前任者は半日の間、奴らを見なかったんだろう? もうどっか他所の餌場に行っちまったのかもしれないぜ?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ともあれ、私たちが気を抜いていい理由にはならないわ」
 言いながら、リーナは自分たちが守る橋を詳細に観察し始めた。
 真新しい木製の橋は幅8m(4sq)。馬車がすれ違える程の幅の広さの橋だった。対岸までの長さは400m程(200sq)──大きな橋だが、CAMの重量に耐えられる程の強度はない。
 川の水深は── 後の整備が面倒になることを覚悟しつつ、リーナは直接、機をざんぶと水の中へと乗り入れた。
 対岸まで行って取って返し、橋の左右を往復する。川の深さは2mから、最も深い川の中央付近でも3m程──CAMで言えば『膝上』から『大腿部』に掛けてくらいの深さだ。CAMであれば進入できるが、魔導アーマーや幻獣であればとても戦闘行動は無理だろう。そのCAMにしても、水の抵抗によって移動や回避運動には大きなペナルティが加わるはずだ……

 川から上がり、水に浸かった機体をリーナが天日干しにすること暫し…… CAMのカメラで周辺警戒に当たっていたパウリーネが、こちらに近づいて来る何かの集団に気が付いた。
 それは、馬車の車列だった。港町から、橋の先の開拓村に物資を運び売りに行く商人たちだ。
(だけど、あの数は……)
 報せを受けたリーナは急ぎ機に上ると、ハッチを閉めるのももどかしく、そちらへ向かって走った。そして、馬が怯えぬよう、離れた所でCAMを降りる。
「橋守りの軍人さんですか? ご苦労様です」
「お疲れ様です。随分と隊商の規模が大きいようですが……」
「いえ、橋を渡る馬車の車列が襲われた事は聞いてましたから。複数の商人たちで隊商を組んで、共同で護衛を雇うことにしたのです。その為に出発まで間が空いてしまいましたが……」
 商人の答えに、瞬間、リーナの心臓がドクリと跳ねた。──前任者は襲撃を受けなかった。だが、それが、『出発まで間が空いた』商人たちが──即ち、『橋を渡る者がいなかったから』だとしたら──?
 慌てて踵を返し、機体へ走るリーナ。その間にも馬車の隊列は橋を渡っていく……
 その車列が橋の中程に差し掛かった時、見張りのパウリーネがアッと声を上げた。
 流れゆく川の先──海面が泡立った様に何かが跳ね回っていた。それが『トビウオ』たちの高速移動であることはすぐに予想がついた。
 戻って来たリーナはすぐに同僚たちに川の中へ飛び込むよう指示を出した。橋上の馬車の傍らに立ち、壁となって守るのだ、と──
 スラスタージャンプからの着水。そこから水面を描き分け、進む。あれほど水上を跳ね回っていた『トビウオ』たちも、襲撃を直前にして水面下に姿を隠して、迫る。
 リーナらが馬車の横に辿り着いた直後。無数の『トビウオ』たちが水中から一斉に躍りかかって来た。3機はそれを近接戦闘で迎撃し、叩き落した。続く敵の第二波には30mm突撃砲のフルオートで迎え撃ち…… 直前、敵はその『翼』──ヒレの角度を動かし、その突入角度を変化させる。
「ッ!」
 CAMの傍らを抜けようとした個体たちは、盾や腕を振るって突破を防いだ。だが、頭上を飛び越えていったものたちまでは防げなかった。
 橋の向こう側へと着水する『トビウオ』たち── リーナが「しまった!」と声を荒げる。
 橋はCAMが潜れる程には高くなかった。とは言え、水の抵抗を受ける中、ジャンプで跳び越えられる程には低くなく、そして、スラスターを噴射するには、橋と馬車が近すぎる……!
「ッ! 転回して銃撃を……ッ!?」
 指示しようとした矢先、パウリーネが第三波──下流側から跳び迫る新手の接近を叫び報せ、対応する余力が無くなる。
 その間に上流側から跳ね上がった『トビウオ』たちが車列に突入した。迎撃する直掩のハンターたち。だが、それでも被害は免れない。
「ああっ、馬車の車軸が……!」
 危険な橋の上で擱座し、絶望の声を上げる商人。
 その時だった。隊商が護衛として雇ったハンターたちのCAMが川の中に乗り入れたのは──

リプレイ本文

 三人娘隊を跳び越えた『トビウオ』たちが上流側から橋上の馬車の車列へ襲い掛かった時── ワイバーン『ボレアス』を駆り、上空で空中警戒の任に当たっていた夜桜 奏音(ka5754)はすぐに行動を開始した。
 急ぎ符を取り出しながら愛竜に拍車を掛けて降下へ移り、馬車に取りついたトビウオたちへ立て続けに符を投射。風に乗って5枚ごとに飛翔した符は橋上に『五色光符陣』を形成し、幾本もの光の柱を立ち昇らせる。
「多数が群れているというなら、同士討ちをさせてしまえば……!」
 更に奏音は橋に沿って上空をフライパスしながら、敵のみを灼く大魔術『白龍の息吹』を眼下に撃ち下ろした。橋の上の馬車の車列を舐めるように呑み込んでいく白光の奔流── 五色の光に動きと止められ、或いは息吹によって同士討ちを始めたトビウオたちを、それまで押される一方だった非覚醒者の護衛たちが反撃に移り、駆逐していく……
 その橋の上の戦場── それまで自らの身を盾に馬車を守り、重傷を負いつつも奮戦してきたシレークス(ka0752)とサクラ・エルフリード(ka2598)は、敵の駆逐を確認すると力尽きた様にその場に崩れた。
「シレークスさん、サクラさん……ッ!」
「待って、アデリシア! このまま水に入るのは危険だよ! 今、『ウォーターウォーク』を掛けるから……!」
 後続する別の車列を護衛して橋の南詰へと達していたCAM隊のアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)がモニタ越しにその光景を見て慌てて機を──戦神教の高司祭の聖衣を模したコンフェッサー『戦僧正』をそのまま川へと突入させようとして。それを僚機・魔動冒険機『アルカディア』(R7エクスシア)を操る時音 ざくろ(ka1250)が慌ててそれを引き留める中、そのシレークスとサクラの会話が無線機越しに聞こえて来る。
「……ちぃ。わたくしとしたことがヘマをしちまったものです…… サクラ、生きてやがりますか……?」
「……大丈夫です。とは言え、これ以上の戦闘は厳しそうですが……」
 二人は生きていた。アデリシアはホッと息を吐く。
「……すみません、ざくろさん。初めてのCAM戦で緊張しているようです……」
「アデリシアなら大丈夫だよ。僕も付いてる」
 恋人にそう断言されて、アデリシアは仄かに頬を赤くした。
「……ざくろさんにそう言われては、なんとかしてみせるしかないですね。奇襲防衛線はある意味、私向けと言えるかもしれませんし……」

 ハンターたちのCAMが行動を開始する。
「また魚か…… ここのところ妙に縁があると思わないか? 俺たち……」
「……リーナちゃん、もしかして、何か(疫病神的なものに)憑かれてない? 生き残ったらお祓いしてもらう?」
 近衛 惣助(ka0510)が搭乗する重装甲型ドミニオン『真改』と、ウーナ(ka1439)が駆るオファニム『Re:AZ-L』(今回は深緑のロービジ塗装。武装も二丁拳銃の右をプラズマライフルに換えている)がスラスターを全力噴射。それぞれ橋の右(下流=海側)と左(上流側)に分かれ、水上を飛ぶようにしながら馬車の車列が停まった橋中央へ向け前進を開始する。
 魔導型デュミナス『Phobos』に乗ったクオン・サガラ(ka0018)はそれに追随しなかった。橋の南詰付近の川岸に立ったまま、機体を川面を跳び進む『トビウオ』たちの群れに向け……コンソールを操作してその『特徴的な武装』を起動する。
「どうやら初動でなるべく敵の数を減らせるかがカギになりそうですね。持てる全火力を以って迎撃します」
 文字通りの『全ての火力』。即ち、選り好みは一切なし── クオン機の背部に背負われていたその『特徴的な武装』──クリスマスツリーの様な外見をした、いや、見た目完全にクリスマスツリーそのもの(☆やカラーボールといった飾り付けまで施されている)の対歪虚用試作弾頭がガコンッと川面へ向けられた。それはゴゴゴ……といった鳴動と共に尻から爆炎を噴射して、☆が光り輝く先端部からゆっくりと、重量感たっぷりに加速しつつ、蒼空に白煙を曳いて飛翔する。
「……。樅の木が飛んでいってますねえ……」
「わー♪ アレを武器として使っている人、初めて見ました……!」
 それをそれぞれの角度から見上げて、それぞれの表情でアデリシアとパウリーネ。
「まあ、普通なら実戦向けの武器でもないですが、大量に密集している対象には有効ですからね……」
 自分に言い聞かせるように独り言つクオンの視界に、クリスマスツリーが川面に着弾する光景が(そのまんま)映し出され、直後、閃光と共に大爆発── 巨大なクリスマスツリー型の爆煙が空にもうもうと立ち上り、その周囲を彩る様に各種色とりどりの花火が炸裂し、火花が舞い落ちて……それをスンとした表情のハンターたち(パウリーネだけがぱちぱちと拍手)が見上げている光景は、何と言うか……筆舌に尽くし難い。
 だが、見た目はアレだがその威力は伊達ではなかった。クオンのクリスマスツリーは迫るトビウオたちの第二波後衛の群れ4つを粉々に吹き飛ばしていた。そのギャップがまたハンターたちにとって悩ましい……
「! 終わったよ、アデリシア。先に行っていて!」
 『ウォーターウォーク』を掛け終えたざくろの声に我に返り、アデリシアが機を全力で橋右側の水上をダッシュさせる。続けて自機に『ウォーターウォーク』を掛けるべく魔銃「ナシャート」をバトンの如くクルクル回すざくろ機。クオンもまた前進するべくフライトフレーム「アディード」の大型ブースターに火を入れる……
「お待たせだよ、リーナちゃん!」
 橋中央部──対岸まで100mの所まで機を進出させたウーナが、壁役を担う『三人娘』隊の前方の水面へと機を滑らせた。クリスマスツリーの爆煙が風に流され形を崩し、巻き上げられた水がミストと化して棚引いていく中、全身のスラスターを精密に制御して機体を水上にホバリングさせながら、ウーナは機に『青竜紅刃流・射の型』でプラズマライフルを構えさせてマルチロックオン。敵第二派の残党たちを次々と狙い撃ちにしていく。
 その間に、橋上のシレークスとサクラは自分たちに出来ることをやることにした。戦う事こそ出来そうにないが、このまま気絶してしまえるほど状況は易しくない。
「カリブンクルス。今はおめーが頼りでやがります。終わったら目一杯かわいがってやりやがりますから、気張りやがるですよ?」
「ほー! ほほ~~!!(やったのだわ! 一日中甘えるのだわ!!)」
 馬車の車輪を背に座り込んだシレークスからの指示に、それまで心配そうに主を覗き込んでいたポロウの『カリブンクルス』がその瞳を輝かせて両の羽をバタつかせる。一方、サクラはたれユグディラの『ヤエ』を頭にぐでんと乗せたまま、先からずっと馬車の車列が動いていない事に疑問を抱き、先頭の馬車へよろっと向かう。
「……どうしました?」
「先の乱戦で荷馬車の車軸が……!」
 パニックに陥った商人に落ち着くよう声を掛けつつ、サクラも荷車の下を覗き込む。
(これは…… 流石にこの場での修理は厳しそうですね…… シレークスさんが怪我していなければ、抱えられたかもですが。←無理)
 そこへ、スラスターを噴かして水上を進出して来た惣助機が到着した。少し離れた上流側の水面に重量感たっぷりに着水する『真改』── この間、奏音は飛竜に低空を旋回させ、馬車の車列の左右の水面に符術の罠を──『地縛符』を敷設している。
「状況は?」
 橋を背に馬車を守りつつ訊ねる惣助に、サクラは事情を説明した。
「とにかく、擱座した馬車をどうにかしないといけません。荷も積み替えるなり、荷車ごとCAMで運ぶなり、考えないと」
「……分かった。とにかく急いでくれ。時間を掛ければそれだけ不確定要素が増える」
「同感です。トビウオ以外にも何か来ないとも限らないですしね…… 多頭鮫とか竜巻飛翔鮫とか(ぇ」
 やり取りを終え、橋上の擱座馬車を脇へと退けた惣助は、無線機で『三人娘』隊のダニー・メイソンを呼び出した。橋の南詰で待機している魔導トラックのドライバーで、主にCAMの予備武装や弾薬、各種物資の運搬を担当している。
「軍曹! 話は聞いていたな? トラックをこちらに寄越してくれ。擱座した馬車の物資と人員の輸送を頼む。シレークス! 周辺索敵は一任するぞ? ウーナ、リーナ! 俺は上流側を守る。下流側は頼んだぞ!」
 矢継ぎ早に指示を出す惣助に「了解」と返して魔導トラックを出発させるダニー。シレークスもまた愛鳥に命じて最初の探信波(『見つけるホー』)を実施させる。
 翼を広げてクルクル回ったカリブンクルスがカッと目を見開いて、結果を主に伝達する。シレークスの脳裏に浮かぶ感覚的な位置情報── 上流側の敵は既に突撃の為の助泳距離を確保し、再反転を終えたところだった。下流側の敵第三波はクオンのクリスマスツリーを恐れたのか、川岸の左右二群に分かれて中央を開け、分進合撃で挟み込む様に突進して来る。
「敵が……来やがります」
 シレークスからもたらされた情報通りに水面が『泡立つ』のを上空から確認し、奏音は飛竜の翼を傾けさせて攻撃の為の旋回降下に入る。
 その戦場、下流側にアデリシアが到着した。彼女は機の『マテリアルバルーン』──自機をそっくりに模したマテリアル製のダミー──を二つ展開すると、敵から馬車を隠すように橋のすぐ傍へと配置した。
「壁役はこちらで引き受けます。三人娘隊の皆さんは行動の自由の確保を」
「さあ、いくよ、リーナちゃんたち!」
 アデリシアに礼を言い、ウーナと共に左右から跳び迫る敵へ迎撃の銃火を浴びせ始めるリーナたち。敵の先頭集団が奏音の仕掛けた地縛符に引っ掛かり、そこへウーナらが集中射撃を浴びせて微塵に撃ち砕く。
 上流側、圧し迫る一枚の壁と化して突進してきたトビウオたちもまた地縛符に引っ掛かって4群が一列になって動きが止めた。それを半ば水に浸かった惣助機がマテリアルライフルで狙い撃ち、横合いから上空へ侵入して来た奏音が息吹で以って薙ぎ払う……
「今の内に壊れた馬車の荷物を降ろしてしまいましょう。無事な馬車はCAMの護衛の下、出来るだけ早く橋を渡……」
 サクラが商人たちに出す指示を耳に流しながら、荷下ろしを手伝っていた(あ~、もう、全力でも普段の半分程度も力を出せないとは情けねぇ)シレークスが、「ホーっ!?」と一際大きく鳴いて急を告げるカリブンクルスから最新の探信情報を受け取って……その内容を把握するや、背後の戦友に警句を飛ばした。
「アデ!」
「ッ!?」
 敵は左右で派手に飛び跳ね迫る第三波集団を囮にしつつ、中央から第四波集団を『水中から』侵攻させていたのだ。徐々に加速して大ジャンプの為の速度を稼いだそれらは、橋の前に立ちはだかるアデリシア機の至近から飛び出した。
 アデリシアは咄嗟に機に『マテリアルネット』を引き広げさせると、突っ込んで来た魚群の一つを捉え、手にした八角棍「紫電」(その名の通りマテリアルの電光を纏っている)で滅多打ちにした。最終防衛線に残っていたリーナらも機体を盾に敵を防ぎ、『マテリアルバルーン』2体も破裂して、それに喰いついたトビウオたちと一緒に川面へ落下していく。
 それ以外のトビウオたちは、そんなアデリシアたちや橋や惣助機の頭上を跳び越え、上流側へと着水した。それを見た惣助はヤバい、と呟いた。上流側に壁役は自分1枚しかいない。
「誰か、手が空いていたらフォローに来てくれ!」
 反転して来るトビウオたちにライフルで制圧射撃を浴びせる惣助機。川を横切る様な形で飛翔してきた奏音と飛竜が最後の『白龍の息吹』で以って水面を薙ぎ払い、同士討ちで敵の手数を半減させてそれを支援する。
「手が空いてたら、って……こっちもいっぱいいっぱいだよ!」
 叫ぶウーナの照準器には、下流より跳び迫る敵の第五波集団が映っていた。Re:AZ-Lは左手にも銃剣拳銃を抜き放ち、ライフルによる精密射撃から弾数重視の弾幕射撃へと切り替えている。
「カリブンクルス! 霧でわたくしたちを包みやがるです!」
「ホ~~ッ!(姉様の為に頑張るのだわ!)」
 砲声が左右に乱舞する中、シレークスは愛鳥に『惑わすホー』──中に入った敵の感覚を惑わす結界で作業中の馬車を包み込ませた。
「まさに猫の手も借りたい事態というやつですね…… ヤエ。『旅人たちの練習曲』で皆さんの手伝いを」
 サクラもまた自分の頭の上で眠るユグディラに呼び掛けた。猫小人が面倒臭そうに片目を開ける。
「……こういう時に手伝えることがないというのは悔しいことです。なので、ヤエ…… 代わりにお願いします。後で美味しいお魚をいっぱい食べさせてあげますので……」
 主の頼みに、それまでずっと頭の上から動かなかった──先の乱戦の渦中にあってもそこから落ちることもなかった──ヤエが、渋々といった表情でのっそり地上へ降り立った。そして、オーダー通りに練習曲を弾き始め、荷下ろし作業にリズムを刻む。
 そんな彼らを背に庇い戦う惣助機は、肉薄してきた敵に対してマテリアルライフルを背部に回し、引き抜いたハンドガンを素早く構えて『凍結弾』を連射した。マテリアルの冷気に瞬間的に凍結され、動きを阻害されていくトビウオたち。だが、その傍らを次々と新手のトビウオたちが次々と跳び迫り…… 上空から降り落ちてきた制圧射撃の火線によって阻まれるのを目の当たりにした。
「脚部ブースター、カット…… Fシールド『サマージダール』展開……!」
 直後、周囲に浮遊盾を展開しながら惣助機の傍らにざんぶと着水する白地に真紅のR6改。それは大型ブースターによって空中を飛翔してきたクオンのPhobosだった。彼は『エレクトリックショック』──マテリアルの放電によって橋に肉薄していた敵を排除すると、ツインカノンを直接照準で水面に発砲。制圧射撃を開始した。
「お待たせしました。クオン・サガラ、Phobos、壁役に加わります」
 『騎兵隊』の到着に、惣助はニヤリと笑みを零した。そして、機体右手のハンドガンを左手に投げ渡すと、右手で背部にうっちゃっていたライフルを引っ張り出し、制圧射撃で動きを止めたトビウオたちに『マテリアルビーム』と『プラズマグレネード』を交互に叩き込んでいった。

「あハハハハッ、踊れ、踊れ~!」
 一方、下流側── スラスターを噴かして水上を滑る様に敵の攻撃を躱しながら、迫る第五波の中の一群の、その針路眼前にプラズマライフルを撃ち込んで動きを止めたウーナ機が、直後、そちらへ振り向けた左手の「トリニティ」の銃身展開し、「Grenade!」と味方に警報を叫びながらプラズマグレネードを叩き込む。
 そのウーナ機を最終防衛線から支援する三人娘隊の各機に、まるでヒルの様に喰らいつくトビウオたち。それを、彼女たちの支援に専念することにしたアデリシアが電撃杖でこそぎ落としていく。
「限界そうならいつでも下がってください。すぐに代わりますので」
 機体の破損個所にマテリアルを注ぎ込んで魔導的機能を修復しつつ、アデリシアが荒い息を整えながらリーナたちにそう告げる。そこへ新たに肉薄し、上流側へ跳び抜けんと飛び出して来るトビウオたち── 今の彼女たちにはそれを迎え撃てる程の余裕はない。そこへ──
「積荷も商人さん達も、雑魔の好きにはさせない……! ざくろと、この魔動冒険機『アルカディア』がいる限り!!」 
 水上を南から駆け抜けて来たざくろのR7が、「とぅ!」と水面を蹴って跳躍。太陽を背にキラリと陽光を反射させつつ、左手に掴んだフライトシールドで空中に立ち塞がる。
「アルカディア、出力最大── 輝け、光の翼!」
 そのざくろの叫びに呼応するように、機体背部に展開したエンハンサーから噴き出す膨大なマテリアル。まるで巨大な翼の様に左右に広がった光の壁──『ブラストハイロゥ』に激突し、跳躍を阻まれたトビウオたちがバラバラと水面に落ちていく。
「壁役は僕が務める! だから、アデリシア、サクラ、今の内に……!」
 水面近くまで舞い降りて来たざくろ機が馬車と後衛部隊を光の翼で覆った。その安全な光のヴェールの後ろで前衛に対する支援に集中する三人娘隊。ようやく息を吐くことの出来たアデリシアがざくろに礼を言い、周囲の仲間の回復を終えて『プロテクション』の加護へと移る。
 そうこうしている間にダニーの魔導トラックが先頭の馬車の所に到着した。サクラとシレークスは商人たちと手分けをして急ぎ、荷をその荷台へ乗せていく……
 やがて、全ての荷をトラックに乗せ換え終えると、最後にシレークスとサクラの二人が荷台に上り、ようやく輸送隊は対岸への移動を再開した。後続する馬車の速度に合わせて先頭を行く魔導トラック。それに合わせて惣助機やクオン機が敵に正対したままざぶざぶと水を掻き分け、進む。
「カウントダウン、タイミング合わせ。奴らを一網打尽にするぞ!」
 機械とは思えぬ素早い動きでライフルを装填させながら、惣助。既にざくろの光の翼によって上流の敵は分断された。今、残っている連中を全滅させれば、戦力を下流側へ集中できる。
 惣助のカウントに合わせてクオン機が腰溜めにツインカノンの砲口を定め、奏音の飛竜が戦場上空へと侵入する。更に光の翼による壁役を継続しながらクルリと後ろ──上流側へと向き直ったざくろ機が、浮遊しつつ斜め下方を睥睨する。
「切り裂け三眼のアルカディアビーム……続いて焼き尽くせ、ブレスト拡散ヒートレイ!」
 魔動冒険機の操縦席、肩に機械化怪鳥「Lo+」を乗せたざくろが叫ぶと同時に、機体頭部のサードアイから放たれた三条の光線がそれぞれ三つの群れを切り裂いた。その上を波を蹴立てて飛び過ぎていったクオン機のカノン砲弾が、奥で反転中だったトビウオたちを直撃し、巨大な水柱を噴き上げる。直後、惣助機が真上に放った『フォールシュート』が光を曳きつつ放物線を描いて下方へと向きを変え、奏音の『レイン・オブ・ライト』──光の槍の豪雨と共に、水面と跳ねるトビウオたちを上から撃ち貫き、討ち滅ぼす。崩れ落ちる水柱、霞と化して棚引く水煙──それを切り裂く様にざくろ機の胸部武装板から扇状に放たれた無数の赤熱光線帯が最後に橋へ肉薄してきた敵を討つ。
 戦場に静寂が訪れた時── 上流側の水面を跳ねるトビウオたちの姿は無くなっていた。シレークスが愛鳥に最後の『見つけるホー』を使わせ、その駆逐を確認する。
 沸き上がった歓声は数秒。すぐに惣助とクオンは橋を壊さぬよう一旦距離を取った後、スラスターを噴かせて機を下流側へと跳び越えさせた。上空から下流側へ向かう奏音。その下ではざくろ機が再び下流側へと機体を向け直し── 倍増するハンターたちの火力に、しかし、怯まずに繰り返されたトビウオたちの猛攻は、だが、唐突に終わりを告げた。
 それまでの執拗な攻撃が嘘の様に、まるで潮が引く様に後退していくトビウオの群れ。だが、完全に退いたというわけではないらしく、こちらから距離を取りつつもなぜか川の両岸、二手に分かれた所で固まって動かない。
「……。何か嫌な予感がします……」
 それを空から確認した奏音はべくカードバインダーに手を伸ばした。一枚引いたその絵柄で吉凶を占う簡易占術──ワイバーンの背でも可能な即決の一発勝負。マテリアルを込め、祈りを捧げて…… 引いた結果は、『凶』だった。
「まだです。まだ何かがここに『現れる』かもしれません……!」
 奏音の警句にハンターたちは警戒を継続し……最初に『それ』に気付いたのは、楔の如く隊列の先頭に立ったウーナだった。
 まず最初に見えたのは背鰭── その下を、何か巨大なモノが海から侵入し……川の水を大きく押し分けながら、こちらへ向かって迫って来た。
 やがてそれは徐々に加速し……パタパタと羽を動かしながらざっぱ~ん! とその半身を水面から出してざんぶざんぶと突進し始めた。
「リーナちゃん、ちょっとなにあのイルカ!?」
「あれはイルカじゃない……シャチよ!」
「シャチ……?」
 そう、それはトビウオの様なヒレを生やした大型雑魔『トビシャチ』だった。その大きさはCAMをも超えるサイズ4。その大きさと重さ故にトビシャチなのに宙は跳べない。
「あんなのに突っ込まれたら……」
「ああ。折角の橋を壊されちまう」
 ウーナと惣助はそのデカブツを迎撃する為、スラスターを噴かして再び水上を下流へ前進する。トビウオたちはまるで戦車に随伴する歩兵のようにトビシャチの後ろについて来る。恐らく、トビシャチが橋を壊した後でおこぼれに預かるつもりなのだろう。馬車の車列は未だ橋の途上にある。
「……あのデカいのが『凶』の正体というわけですか」
「来いよウィリー! 遊んでやる!」
 奏音と惣助が迎撃を開始した。敵の鼻先目掛けて投げ放たれる五色の符。放たれるマテリアルビームの奔流── そんな二人を最終防衛線に残ったクオンが射程を延伸させたツインカノンの砲撃で援護し。ウーナもまたフライトシステムを起動しつつ初手から『覚醒』を使用し、自身と機体の認識と境界が曖昧に溶けていく一体感の中、全てのスラスターのベクトルを計算ではなく感覚的に把握し、自身の身体を動かすようなアクロバティックな動きでシャチ側面へと回り込むと持てる最大の火力をデカブツへと叩き込む。
 だが……
「堅い……!」
「止まらねえ……!」
 彼らが行った足止め策の、そのほぼ全てをトビシャチは突破した。前進組の激しい攻撃を受けながら、デカブツが最終防衛線へと迫る。
「リーナさんたちは私たちの後ろを支えてください。アレはハンターたちで止めます……!」
 自機にプロテクションを使用し、棍でガードを固めつつ、アデリシア機が前に出る。ざくろ機もまた水面に降り立ち、効果の切れかけたブラストハイロゥを自ら解除し、新たに起動の準備に入る。
「鼻先を!」
「わかった!」
 アデリシアの指示に、ざくろは横ではなく縦にブラストハイロゥを展開した。ゴォン! という重い音(←演出)と共に鼻先に突きつけられた光の翼が、つっかえ棒の様な形でトビシャチを暫し押し留め……
「効果が、切れるよ……!」
 ハイロゥが消えると同時に弾ける様にこちらへ圧し迫る巨体の壁。その突進がぶち当たったのは……正面にいたざくろ機と、クオン機だった。受け止めた2機の両腕や両脚部がみしり、或いはばきりと破壊的な音を立て。直後、両機が同時に展開した『攻勢防壁』が2枚掛かりでトビシャチの巨体を押し戻す。
「まだ渡り切りませんか?! そんなに長くはもちませんよ!?」
 押し退けられ、また針路を変えて水上をビチビチと突進を始めるトビシャチ。「させませんよ……ッ!」と飛び出したクオン機が電撃を纏いながら、敵が再加速する前に押さえに掛かる。
「機剣「イフテラーム」 、チャージアーップ! ……超重剣、真っ向唐竹割!」
 戻って来た前進組、そして、三人娘隊が全火力を集中する中、超重練成で巨大化した剣を勇者パースで構えたざくろ機がそれを縦一文字に振り下ろし。シャチの腹が川底に擦れて速度が落ちるも、だが、その一撃をまともに喰らって尚、シャチは止まらない。
「ああっ!? 必殺技が破られた!?(←修行フラグ)」
「いや、方向性はそれで……!」
 鋭角的な高機動でシャチの真横へ達したウーナ機が、その針路をずらすべく側面から速度と質量の全てを以って敵に体当たりを敢行した。
 川底は両岸に近いほど浅くなっていた。即ち、馬車が岸に近づく程に、それを目指すトビシャチの巨体は動き辛くなる。このシャチもトビウオたちも陸では活動できない。だからこそ橋しか襲えなかった。
 岸へ追い込む様に攻撃を加えるハンターたち。腰巾着のトビウオたちも再び戦いに加わり、その場で血で血を洗う様な乱戦が繰り広げられ…… それはシレークスとサクラから馬車が渡り切ったと報告を受けるまで続いた。
 獲物を逃がしたシャチたちは戦う理由を失った。目に見える程しょんぼりして見せたトビシャチは……ハンターたちの追撃を受けながら海へと去っていった……

 馬車の荷台のシレークスへ瞳を輝かせて寄って来たカリブンクルス。シレークスはニヤリと笑うとその全身を撫で回した。
「よぉしよしよしよし…… よーくやってくれやがりましたねぇ、良い子なのですよ♪」
「ホホホ~~~♪(あぁ~幸せなのだわ~! 最高なのだわ~~!)」
 その光景を微笑ましく見守っていたサクラを。抱き抱えられたヤエがじ~~~~~と見上げていた。
「えと、おさかなは帰ってからあげますから……」

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 8
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラka0018
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろka1250
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナka1439

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    フォボス
    Phobos(ka0018unit001
    ユニット|CAM
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シンカイ
    真改(ka0510unit002
    ユニット|CAM
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    バトルビショップコンフェッサー
    戦僧正コンフェッサー(ka0746unit001
    ユニット|CAM
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カリブンクルス
    カリブンクルス(ka0752unit004
    ユニット|幻獣
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    マジカルボウケンキアルカディア
    魔動冒険機『アルカディア』(ka1250unit002
    ユニット|CAM
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ラジエル
    Re:AZ-L(ka1439unit003
    ユニット|CAM
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ヤエ
    ヤエ(ka2598unit004
    ユニット|幻獣
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ボレアス
    ボレアス(ka5754unit002
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/02 00:56:11
アイコン 相談です・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/10/04 19:26:19