• 郷祭1018

【郷祭】今日という日を楽しんで

マスター:KINUTA

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2018/11/16 22:00
完成日
2018/11/22 02:29

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●郷祭準備



 秋も深まるペリニョン村の村役場。
 魔術師協会職員のタモンと村の助役が、英霊ぴょこに、秋郷祭のプランを再確認している。

「恒例となったバシリア刑務所との提携による名産品販売を、春と同様の規模で執り行います。よろしいですか、ぴょこ様」

 村の英霊である赤いまるごとうさぎは、鷹揚に助役へ頷いた。

『よきにはからえなのじゃ』

 それから心配そうに尋ねる。

『ところでじゃの、わしのこないだ燃えてしもうた体についてなのじゃがの、いつまた新しいのが手に入りそうかの? 赤も青も悪くないが、わしはやっぱり黒が一番好きなのじゃ』

「とりあえず年内はそのお姿で辛抱くださいませ。来年度予算に購入経費を組み込みますので」

『そうかの。わかったのじゃ』

 安心したのか愁眉を開く赤うさぎ。
 次はタモンが彼女に尋ねる。

「ぴょこ様。今回も前回同様、ユニゾン島の参加は見込めそうですか?」

『うむ、見込めるぞよ』

「でしたら、そのブースをですね、村のブースの近くに置いてもらえるようお願いしていただけませんか――マゴイ様に。魔術師協会からそういう要請が来ているのです」

『別によいが、なぜじゃな?』

「あの方の持つエバーグリーン由来の技術のことなのですが……結構各方面でうわさになっているようで。空間を好きに拡張出来るなんて、そういう便利なものなら是非欲しい、取引したいと申し出ている者もいるとか」

『ふーん、そうかの。あれ、そんなに便利じゃろうか?』

「そりゃもう、便利ですとも」

 その技術があれば大きなものを小さな場所に隠せる。動物でも、植物でも、人間でも、機械でも――軍隊でも、兵器でも。
 個人の所有権が否定され至るところ監視装置だらけ。何も隠せないし、隠れられない。そんな世界であればこそあの技術は、社会の秩序と安定、繁栄の基礎となりえる。
 だがクリムゾンウェストは、そういう世界ではない。個が個として動いたり考えたりすることが禁忌とされていない。
 そのような技術が広まると、必ず悪用しようと思う輩が出るのでは――ということをタモンは言った。
 しかしぴょこがいまいち理解してそうにない顔付きだったので、易しい譬えを付け加える。

「例えば羊泥棒が100匹羊を盗んだとしましょうか。普通だったらそれだけの数隠しようがないので、逃げている途中ですぐ見つかっちゃいますよね。でもその羊泥棒が、ユニゾンの技術を使って作った、100匹の羊が余裕で入る容量を持つ鞄や袋なんかを持っていたとしたらどうなるでしょう?」

『むー……逃げられちゃうかもしれんのう』

「でしょう? ですのでこう、ユニゾンには、というかマゴイ様には今少し控えめに宣伝をお願いしたいと思いまして。そのためにペリニョン村に一役買っていただきたいと思いまして」

『ほう、そうかの。かまわんぞい。わしのう、マゴイにペリニョンの店に来てほしいのじゃ。それでもってのう、何かと話もしたいのじゃ。店が遠いとなかなかそうもいかんでな。時間になったらマゴイ、すぐ帰っていってしまうしの』

 ぴょこは助役にお願いして、鉛筆と紙を持ってきてもらった。そして、遠い島の英霊に手紙を書いた。あんまりうまくない字で。

『マゴイへ。お元気かの。秋のさとまつりの店は、ペリニョン村の店のそばに作ってほしいのじゃ。ペリニョンとユニゾン、いいきかいだから、色々てーけー出来んかの? バシリアけいむ所とうちみたいにコラボ、くめんかの。何かあったら助けあえる仲間がいるというのはいいものじゃぞ。わしとしてはぜひお進めするのじゃ。おへんじよろしく。ぴょこ、θ』

 そしてそれを、魔術師協会に託した。島のマゴイに送ってもらえるように。



●郷祭当日。



 郷祭開催日。
 祭りに訪れたカチャは、まず縁あるペリニョン村のブースから回ってみることにした。
 そして早速、春との違いに気づいた。村のブースの右隣にバシリア刑務所のブースがあるところまでは一緒。だが今回はそれに加え左隣に、ユニゾン島のブースがある。
 ちょうど店の前にぴょに、話を聞いてみる。

「ユニゾンとも提携を始めたんですか?」

『そうなのじゃ。是非全部回ってみてほしいのじゃ』

 マゴイの店は村のブースと一繋がりに感じになっており、春より敷地が狭かった(といっても中の広さは一緒だが)。商品にリースが増えていた。後、帽子も。
 テラス席も最初から作ってあった。そこには店内にあるものと同じ商品が幾つか展示してある。張り紙つきで。

『オートマトンの方は店内の立ち入りご遠慮ください。ここから商品をお取りください。レジはペリニョン村、またはバシリア刑務所のものをご利用ください』

 カチャはへえ、と瞬きした。

「春よりも、ちょっとだけ当たりが柔らかくなりましたね。オートマトンに対して」

 そこに刑務所ブース担当のスペットがやってきて、言った。猫の額にしわを寄せて。

「そこまで妥協させるの、えらい手間やったんや……」

 テラスでは一組の少年少女が、白い椅子に腰掛け休んでいた。少女はぼんやり宙を見ている。少年は肘をついてテーブルの上に目を据えているた
 若者達がだべりながら、その側を通り過ぎて行く。

「ハンターオフィス大変らしいぞ。リアルブルーからハンター志願者がわんさと押しかけてるんで――邪神と契約しちまった連中、改めて大精霊と契約すれば、邪神との契約を消せるんだと」

「へー」

「でも契約し直しても、し直さなくても、そういう奴らは短命なんだってな。特に強化人間とかいうのは、最悪後1年で終わるとか」

「うっわー、悲惨」

 少年が席を立つ。
 少女はそれに疲れたような眼差しを向けただけで、何も言わなかった。
 席を立った少年は若者達に歩み寄り、突き飛ばした。
 彼の一回り以上はある青年が、いとも簡単に前方へ吹っ飛び、顔面から着地する。
 当然だが青年は怒った。

「な、なんだこのガキゃあ!」

 少年はつかみ掛かってきた相手をもう一度突き飛ばした。一回目より力を込めて。

「人が早死にしなきゃならないってことがそんなに面白いか!」

 物音を聞き付けたマゴイが店から出て来る。

『……店の前で乱闘騒ぎは……禁止……ワーカーが怖がる……』

 カチャは仲間たちと仲裁に向かう。少年が一般人ではないことは明らかだったから。
 彼が取り押さえられたところで、ようやく少女が動く。だるそうに立ち上がり、だるそうに言う。

「ごめんね、そいつ私と違って諦めがついてないの。この期に及んでまだ思ってるのよ、長生きしたいってさ。だから、万事ナーバスになってて」

 カチャは少年と少女をかわりばんこに見た。そして、何かに気づいたような顔で言った。

「もしかしてあなたがた……強化人間ですか?」

「そう。邪神との契約解除待ちのね。まあ、あたしは別にそれをしなくたっていいやって思ってるけど。どの道結果は一緒だし……」



リプレイ本文

●予期せぬ騒動


 バシリア刑務所ブースの前にあるのは『売り子は意外と神経質です。過剰な接触は控えてください』の看板。
 それを見やる天竜寺 詩(ka0396)にスペットは、渋面を作りながら説明した。

「こいつが勝手に立てよったんや」

 こいつというのはレジ係のマルカ・アニチキン(ka2542)。猫頭のスペットに合わせてか、コボルドマスクを被っている。

「スペットさんには看板売り子に専念していただこうと思いまして。今回のお店のコンセプトは一見さんの為に、話題性のあるスペットさん推し!ですから」

 店のあちこちには彼女の手によるイラスト入りのオススメPOPが、所狭しと花盛り。
 そこに騒ぎ声。
 ユニオンブース前で揉め事が発生したらしい。カチャとリナリス・リーカノア(ka5126)、それにぴょこが見知らぬ少年を押さえに入っている。その前には顔中擦りむき鼻血を出している青年。
 詩は早足でそちらへ向かう。サルヴェイションの歌を歌いながら。


●初めまして


『強化人間』

 ざわめきに交じり飛び込んできたその単語は、レイア・アローネ(ka4082)の足を止めさせた。
 少なからぬンターたちと同様彼女もまた、暴走した強化人間の鎮圧作戦に関わったことがある。その時救いの手及ばず潰えて行った彼らの姿を記憶している。
 人垣をかきわけ、騒動の中心に近づいた。暴れた少年は詩により落ち着きを取り戻していたが、突き飛ばされた方の青年は腹の虫が収まらず、文句を言い続けている。

「こんな邪神の契約者野放しにすんじゃねえよ、一般人危ねえじゃねえかよ」

 彼の顔に詩がヒールをかけた。

「……あなたも、もう行った方がいいよ。この人にとっては本当に笑いごとじゃないことなんだから」

 青年は仲間と一緒に離れて行った。
 だがある程度距離が空いたところで足を止めた。大声で捨て台詞を吐く。

「お前らの寿命が縮んだのはお前ら自身のせいだろ! 全部自己責任じゃねえか!」

「この……」

 拳を握り締め走りだそうとする少年の前に、レイアが立ち塞がる。

「もうこれ以上は止めておけ。お前は言われたことに対して十分仇を返している」

 詩は再びサルヴェイションをかけ少年を落ち着けさせた。
 そこへ穂積 智里(ka6819)と百鬼 一夏(ka7308)が近づいてくる。

「私もお話にまぜて貰って良いですか? 私は機導師の穂積智里と言います、お二人のお名前を伺っても?」

「私は一夏です! お2人の名前は何ですか?」

 彼女らもまたレイア同様彼らについて、見過ごせないものを感じたのである。
 少女が言った。諦観のこもった声色で。

「私はアスカ、そいつはジグ」

 詩は改めて強化人間たちを見やった。両者14、5歳といった所か。本当ならこの先、長い長い人生が待ち受けているはずの年頃だ。
 彼らの寿命をどうしてあげることも出来ない。でもせめて彼らがその人生を、誇らしく思えるようにしてあげたい、と詩は思った。そのために何をしたらいいかを考えた。

「二人ともリアルブルー出身なら本物のコボルド見た事ないでしょ? ねえ、マゴイ、コボルドたちにここでユニオンの歌、歌ってもらっていいかな?」

『……歌うことは今回の仕事内容に……含まれていない……』

「仕事じゃなくて、勤務時間中の心身リフレッシュ行動ってことならいいんじゃない? ブースの宣伝になるし、興味を持った人が市民になるかもしれないよ?」

 マゴイはちょっと考え、店内に向け遠吠えした。細く、柔らかく。
 コボルドたちがぞろぞろ出てくる。

「うたう」「うわーう」「ううう」

 やる気十分。詩は三味線を弾き、彼らに言う。

「じゃあ、私が伴奏つけるね。皆で歌おう。いちにいさん、はいっ」

 コボルドたちが列を作り合唱する。
 ぴりぴりしていた場の空気が幾分和んだのを察し、智里が申し出る。

「よろしければ、皆でお話いたしませんか? お茶とお菓子は私が受け持ちますので――マゴイさんも、同席お願いできますか? 異世界の人間にユニオンの存在をアピールし市民獲得するチャンスかもしれませんよ?」


●交流タイム


 ユニオンブースのテラス。茶と菓子を並べたテーブル。ハンターと強化人間と英霊が席に着いている。



 強化人間になった経緯を智里から聞かれたジグとアスカは、交互に答えた。

「俺は志願だ。VOIDに襲われて親も、兄弟も死んで。どうにかしてあいつらを倒したいってずっと思ってて……だから強化人間になったんだ」

「私も志願。強化人間になれば今より少しはましな環境に行けると思ったから、そうしたの」

 それを受け智里は、両者をハグする。

「大変、だったんですね。ジグさんも、アスカさんも。よく頑張りましたね」

 彼らは自分が救えなかった強化人間ではない。重ねて見られても迷惑なだけだろう。そう思っていてなおレイアは、こう呼びかけずにいられなかった。

「ここで会ったのも何かの縁だ。私達と祭を楽しまないか?」

 アスカは面倒くさそうに返す。

「悪いけど私は遠慮しとく……」

 一夏は菓子の食べかすを一杯つけた口から、意図的に無神経な言葉を吐く。自分が何を言っても安っぽい慰めにしか聞こえないと思ったので。

「んー……勿体なくないですか? 残りの時間なんて関係なく、今日は今日だけです! 諦めるのも、悩むのも横に置いといて! 今日はお祭りなんだから楽しまないとです! 楽しまないと今日が勿体ない! でしょ?」

 ジグがテーブルを叩き、まくし立てる。

「勝手なこと言うな! お前らはいいよ、この先何十回も祭りを見られる見込みがあるんだから! だけど俺たちは下手したら来年には――」

 智里は姿勢を正し、彼に向き直った。

「確かに現時点での軍の見解はそうかもしれませんけど、私はそんなことないと思います。暴走したらもう正気に戻らないと言われていたのに、数ヵ月で暴走を命じる波長を遮断する技術ができました。願い行動するなら、現況はどんどん変わるんです……例えばムーンリーフ財団にはコールドスリープの技術があると聞きます。似たものはユニゾンにもあるでしょうし、邪神を倒せば恩寵もあるかもしれません。未来は絶対定まってません。2人ともまずハンターになって、一緒に未来を探しませんか」

 便乗する形でリナリスも、希望的観測を口にする。

「現実を受け入れるっていうのは、諦めることじゃない。最善を行く道を探すスタートラインに立つっていうことだよ? ゆくゆく解決法が見つかることだってあると思うな」

 ジグの瞳から怒りが引いた。
 すがるような言葉が喉から絞り出される。

「俺達が死ぬ前に、解決法が見つかると思うか?」

 智里は一瞬言葉に詰まった後、努めて平静に答えた。

「……いついかなるときでも、可能性はゼロではありません」

 それらのやり取りをアスカは、懐疑的な顔で聞いている。
 リナリスが清酒の瓶を取り出す。陳列されているティーカップに注いで2人に渡す。

「一秒だって無駄に出来ないね! 下を向いていても上を向いていても時間は過ぎるし。生は楽しまないと損だよ♪」


●お祭りを楽しもう


『ペリニョン村恒例、ふわもこ拳闘大会、はじまりなのじゃー。とその前に、わしにおニューの黒い体持ってきてくれたリナリスへ勲章授与なのじゃ。わしが厚紙と金紙で作ったお手製勲章受け取るがよいぞよ』

「ありがとーぴょこ様。お返しにうさちゃんダンス奉納しちゃうよ♪ 頑張ろうねカチャ」

「ええやりますよ、やりますとも。祭だししょうがないですよね」

 バニースーツ風にアレンジしたワンピース水着で、バニーダンスを披露するリナリスとカチャ。
 色気のある前座はおおいに受けた。観衆は舞台に口笛と拍手を投げ込む。
 観客席の後方で智里がジグに、この世界での身の処し方をレクチャーしている。

「ここは王も帝王も貴族も居る世界です。無礼打ちとか、普通にありうるんですよ? 怒っても、まず話し合いから始めましょう?」

「要は、リアルブルーの中世社会ってことなのか?」

「単純に同じものとは言い切れないのですが……大体そう思って行動すればよいかと」

 一方一夏は、何事にも気が進んでいない様子のアスカを引っ張って出店巡り。

「私も郷祭は初めてなので楽しみにしてたんですよー!」

 2人に同行しているレイアはアスカに尋ねる。

「強化人間になれば今より少しはましな環境に行けると思った、とさっき言ったな?」

「ええ」

「以前はどういう環境にいたんだ? 親はいなかったのか?」

 アスカの口元に暗い半笑いが浮かんだ。

「親はいたけどね。いなくなってくれればいいのにって百万回は思わせてくれた親が。幸いもう死んだけど」

 そこで一夏が大声を上げる。

「あ! あれ美味しそうじゃありません?」

 彼女が指さしたのは、『東方まんじゅう』と書かれた出店。店頭に並んだ蒸籠から湯気が立ちのぼっている。

「おじさん、餡まんじゅうと豚まんじゅう3個ずつくださーい」

「あいよ」

 ほかほかの紙包みを持って戻り、豚まんをアスカに渡そうとする。
 しかしアスカは受け取ろうとはしなかった。

「いい。いらない。別に何も食べたくないし」

 一夏は豚まんを2つに割り、その片方をアスカの口に押し込んだ。
 そして力説。

「美味しいものは幸せ! でしょう?」

 アスカは口に入れられたものを咀嚼し飲み込み、意外そうに言った。

「コンビニのと、あまり味変わらないんだ」

 そこにリナリスとが顔を出した。余興のバニーダンスが終わったようだ。

「ねえ、アスカもジグとふわもこ拳闘大会に出てみない? あたしもこれからカチャと参加するの。体動かすの気持ちいいしネガい感情も吹っ飛ぶよ♪」

 ほどなくしてペリニョンブース特設会場では、ジグの入った青うさぎがアスカの入った赤うさぎから、猛烈なラッシュを受けることとなった。

「アスカ、おま、余興じゃなかったのかよこれ!」

「だから加減してるでしょ」

 その後でカチャの入った赤うさぎが、リナリスの入った赤うさぎから、猛烈なくすぐり攻撃を受ける。

「そこあははははははやめっぶはははは息が、息出来っ、うひゃははははは」

 マルカはそれら全ての様子を抜かりなく撮影する。
 合間に、お客とお話。自店のみならずユニゾンの売り込みも行う。

「ええ、あの店はコボルドが店員をしていますが、別に怪しい店ではないですよ。品は良心価格、丈夫で長持ち、ペリニョン村と魔術師協会も認める良品揃いです。ええ、花も売ってます。色は白のみですけど、皆病気と害虫に強く、栽培が容易なものばかりで」

 そのユニゾンブースでは、詩がマゴイと話し込んでいた。

「2人とも人間だから問題ないよね? 最終的には、勿論2人の気持ち次第だけど」

『……もちろん……ソルジャー候補が来てくれるのなら……とてもありがたい……』


●おいでよユニゾン


 イベント終わって昼休み。
 ジグ、アスカ、そしてハンターたちは、再びユニゾンブースのテラスに集まり昼食をとっていた。
 そこで詩がジグたちに、次の話を持ち出した。

「それでね、提案なんだけど彼らの島、ユニゾン島のソルジャーになる気はないかな。簡単に言えば島の治安を守る仕事だけど、今島には護り手が誰もいないんだよ。きっとコボルド達も人魚も人間市民も二人に感謝してずっと忘れないと思う。陳腐な事しか言えないけど、人は肉体が消えても誰かが覚えていてくれる限り決して死なないと私は思う。二人にとってそれは、きっと意味のあることだと思うんだ」

 この案についてはマルカもレイアもリナリスも智里も一夏も――カチャもまあまあ――賛成であった。ユニゾンに新しい居場所を得ることが、彼らにとって益になると思えたからだ。
 とりあえずマゴイは、新市民獲得なるかもという期待に落ち着かない様子。

『……ユニゾンは目下市民募集中……あなたたちは確かにソルジャーの素質が十分あると思われる……六時間労働週休二日……衣食住完備……年二カ月の長期休暇制度もあるので……是非ユニオン市民に……詳しいことはこれを……』

 ジグとアスカはマゴイから渡された市民勧誘のためのパンフレットを読んだ。
 ややもしてジグが智里に顔を向ける。

「……この世界の社会構造はほぼ中世じゃなかったのか? これ、中世どころか現代も超えてるぞ」

「何というか、場所によって体制に差がありますから……そもそも厳密に言えばユニオンは、この世界の文明ではないというか……」

 隣り合うブースからスペットが様子を見に来た。
 カチャから皆で何をしているかの説明を受け、呆れた声を出す。

「お前ら、素人にいきなり無茶ぶりしたんなや。エバーグリーンでもマイナーやってんねんぞ、うちの国」

 しかしそこでアスカが言った。パンフレットを読みながら。

「私、ソルジャーになってもいいけど?」

 スペットが口を挟む。

「おいおいおい、マジかお前」

「うん、マジ。市民は家族の存在を必要としないという点がものすごく理想的。私には」

 マゴイはうれしそうだった。

『……ユニオン理念の理解者が……増えた……とてもすばらしい……』

 ジグはやや戸惑っている様子。

「待てよアスカ、これ、軍の許可もなく勝手に決めていいことなのか?」

「強化人間でなくなれば私たち、軍の監視対象から外れるでしょ――市民になる手続きはどうしたらいいの?」

 マゴイはいそいそ奥へ行き、記入欄が一杯ある書類を持ってくる。

『……とりあえず……この申し込み書に必要事項を記入……』

 話の進み具合があまり早いので、ちょっと心配になってきたらしい。スペットが割り込みこう提案する。

「事前にユニゾン見学したらどや? それから決めても遅ないで。市民になるかどうか」

 それを受けジグが、マゴイに聞き確かめる。

「見学出来るのか?」

『……もちろん……いつでも……』

「……なあアスカ、そういうことなら見学してからの方がいいんじゃないか? 俺も見るだけは見てみたいし」

 ある意味生きる意欲が出てきたらしい2人に、詩が微笑む。

「なら、もっとコボルドとお近づきになろう! あの子たちね、ボール遊び好きなんだ」


●さよなら、またね


 夕日が丘を照らす時間になった。
 マルカは帰還するジグたちに、撮り溜めた祭の写真を渡す。

「今日の記念にどうぞ」

 リナリスも彼らに記念写真を渡す。住所メモと一緒に。

「これがカチャとあたしん家の住所。よかったら遊びに来て♪ 歓迎する♪ ここでは出来なかったような」

「リナリスさん、駄目ですって!」

「あはは、やだな、そんな意味じゃないよ。公序良俗に反しない普通の歓迎♪」

 じゃらけるリナリスにジグは、息を吐いて言った。

「それまで生きてたらな」

 そしてアスカと一緒に、郷祭会場を後にして行く。
 コボルドたちが長鳴きし、別れを告げた。
 アスカは振り向き、軽く彼らに手を振った。一瞬だけ、ちらっと、優しい眼差しを見せて。

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  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩ka0396
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里ka6819

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参加者一覧

  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキン(ka2542
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • また、あなたと
    リナリス・リーカノア(ka5126
    人間(紅)|14才|女性|魔術師
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏(ka7308
    鬼|17才|女性|格闘士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/16 09:04:42
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 詩(ka0396
人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/11/16 18:53:24
アイコン 質問卓だよ
天竜寺 詩(ka0396
人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/11/11 22:08:36