• 落葉

【研キ】予兆【落葉】

マスター:石田まきば

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/11/22 19:00
完成日
2018/11/29 10:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●香りの行方

 エルフハイムの思想には恭順派と維新派がある。歪虚病に怯えるもののしきたりを重視し、衰退も自然の姿だとして受け入れる前者と、現状を打破するために手段を模索し続ける後者は今もエルフハイムの中に混在している。
 ただ現在優勢なのは維新派であった。長老会のトップであるユレイテル・エルフハイム(kz0085)は維新派の思想を掲げており、いくつかの事件を経たことで長老としての権力も増している。エルフハイム全体としては、維新派の思想を優先した動きが表に出ることとなっていた。

 ナデルハイムでハンター達との懇親会を終えたユレイテルは、オプストハイムに戻り、今後の展望を踏まえた方策を練っていた。
 自身だけに関する行動ならその場で決めることはできる。しかし今の立場は長老で、軽いものではない。何だかんだと年配の同胞たちへの配慮も必要で……重い腰、のはずなのだが。
(新しい情報が出たと思えば……また忙しなくなるのだろうな)
 長年の謎だったとある事件に、ついに進展が見えた。見えてしまった。
 だから彼はまた森から出ることになる。最初に伝えるべきはどこだろうと考えるまでもなく、彼の足はマーフェルスへと向いていた。

「懇親会で、特に話題にあがったのはエルフハイム産の林檎でな」
「やけに唐突だな?」
 片眉をあげて向かいに座るユレイテルを見るのは第三師団シュラーフドルンの師団長、カミラ・ゲーベル(kz0053)。事前の連絡もそこそこに訪れた彼の様子に、急ぎと感じた彼女は少しだけ嫌味に聞こえる言葉を向けた。無駄な話ではないと分かっているので、ただの冗談である。そうでもしなければ聞きにくい話の予感がしたからだ。
「エルフハイムでは……近年に限らず、昔から……少しずつ、森を壊さぬ範囲で、林檎の樹を増やしていたのだ」
 我らにとっても林檎は大事な作物なのだ。
「それだけ慎重な手順を重ね、生育にも不備はないはずだが……なぜか、結果は予想ほど芳しくなかった。それが……毎年のことだ」
「は?」
 おかしくないか、それ。
 流石に表情を隠さなかったカミラに、ユレイテルも頷く。
「だが、それを調査できる状態じゃなかったのだ……ここ最近まではな」
 一枚岩だなんて全くもって言えなかったエルフハイムである。疑問に思った同胞は確かに過去に居たのだが、必ずどこかで答えが得られぬようになっていた。
 しかし、ユレイテルの権力が強まったこと、そして今回の再調査。やっとその片鱗を掴めたということになる。
「……まあ、予想はつくが」
 で、と続きを促すカミラに、一度大きくため息をはくユレイテル。
「そうだ、横流しだ」
 そしてカミラの方へ視線を向ける。それは鋭いものではなかった。ただ、同病相憐れむとも言うべきか……同類よ、と呼びかけるかのようなもの。
「ブラットハイムを経由していた」
「急に聞きたくなくなったな、その続き」
 ブラットハイムは、エルフハイムの区画の中でも一番マーフェルスに近いのだ。そう、今二人が居るこの都市である。カミラが治めている師団都市、ともいう。
 その立地は勿論だが、第三師団シュラーフドルンの主な任務は、エルフハイムとピースホライズンの監視である。そのお膝元で、それが行われていたのである。
「その罪人達が言うには。納入先の者の名は……ヴォールだそうだ」
「……いつまでたっても量が増えないとは思っていたが」
 目を見開いてカミラは立ち上がる。
「私が好むシードルを減らしていたのはお前かぁあああ!」
 正直、叫ばなければやっていられない心境だったのだ。 

●追尾作戦

 罪人たちは皆、ブラットハイムで林檎産業に携わる者達だった。全員ではないが、かなりの数が内在していたのである。
 彼等は維新派の中でも「歪虚親和」の思想を持っていた。彼等はかつてのヴォールが研究者として名高かった頃を知っており、彼の「今の姿のまま森の外に出ることができるようになる」という言葉を信じ、彼の偉業を称え、信奉していた。だからこそヴォールが契約者となっても、下僕と呼ばれようと協力し……求められるまま、林檎を届けていた。
 そもそもブラットハイムは恭順派の中でも穏健なタイプと維新派が混在しやすい区画であった。その環境で維新派のエルフ達はエルフハイム産の品を外に売り出すことを考え、実際に行商に出るものが多かった。その行商の為の商材を育てたり、加工する者も多かった。そして彼らは第三師団の駐留するマーフェルスを間口にしていた。
 そんな「外」への関心が強いエルフ達を隠れ蓑にして、罪人達はヴォールとの連絡を取り合っていたのである。

 そんな罪人達への取り調べは早急に行われ、彼等が次に林檎を届ける日時や手順を聞き出すことに成功し……今、ハンター達はこの場に居た。
 視線の先には囮役とも言えるエルフと、林檎の詰まった、しかし林檎とは見えない様に偽装された大荷物。もうすぐ現れるという取引相手の、その後を尾行し潜伏先を突き止めようという作戦なのである。
 稀にだが、ヴォール当人が来ることもあるらしいとの話にハンターの一部は血の気も高く参加表明をしていたくらいだが……今回は、あくまでも尾行作戦なのだ。

●煽る声

『取引はもう終わったのであるな』
 現れた歪虚……輸送のためらしいアラクネ型歪虚の一体には、鴉型の歪虚が一羽、留まっていた。その鴉の嘴がぱかりとあいて、ヴォールの声が届けられる。
「「「ッ!!!」」」
 まだ様子を見るべきだと懸命に気配を殺すハンターの方へ、鴉型の嘴が向けられた。
『下僕達が捉われたことくらい承知なのである。だがこうして遣いをやったのは、我の機が満ちる時が近づいていることを教えてもいいと考えたからである。我の気紛れに感謝してほしいくらいであるな』
「何を!」
 ひとりが飛び出そうとするのも気に留めず、鴉型からは声が続く。どうも録音されたものであるらしい。
 歪虚達は構えこそとっているものの、攻撃の様子はない。この声が終わるまでは動かない、そういうことなのだろうか。
『この下僕達……新たなるアラクネ型は、本来であれば既に旧型である。が、餞別として汝等への検体として提供してやるのである。精々我の研究成果、その最高傑作に怯えるとよいのである!』

リプレイ本文



「貴方達は下がりなさい。林檎なんて後からでも回収出来るんだから、どうでも良いわ」
 そちらに視線も向けず、素っ気なくも聞こえるエルティア・ホープナー(ka0727)の言葉に頷いて、林檎を運んでいたエルフ達が退却していく。気配が遠のくのを感じながらヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)も視線を周囲へと走らせる。林檎には視線を向けないように意識しながら、ヴォールの言葉を伝えた鴉型を見据える。
(奪ってくれればよいのじゃが)
 そのために紛れ込ませたブローチ、その甲斐があれば外れを引かされた分もとり返せる。

 上空はティトに任せている。木々の枝ぶりで全てを見通せるわけではないが、視点が多いに越したことはない。
 弓をつがえるエアの狙いは鴉型。その目がカメラである以上、情報を持ち帰らせるわけにはいかない。
(まずは逃がさないように……)
 鏃に灯る赤が狙い通り片翼へ吸い込まれ、当たりどころが良かったのか粉砕する。ペイントの意味はなくなったが、飛び立たれることもなくなった。

 魔箒で射程ギリギリまで近寄りヴィルマが追撃の為のマテリアルを練り上げる。今なら鴉を留まらせたアラクネも巻きこめるはずだ。
 射線も十分。直線を走る雷撃を、アラクネは鴉を振り払うように身を捩り避けている。バランスを崩し、動きもままならない鴉は貫かれ、あっさりと消えた。
(他にも居ると思うのじゃ)
 視線を走らせる。今、飛び立つ影はない。



 東條 奏多(ka6425)はアラクネ達の中心を目指し駆け込む。
 プレッシャーを感じた瞬間に、転身を試みる。アラクネと自分の位置を把握するのも忘れない。
「右奥と、左だ!」
 一番遠いアラクネの傍は通っていない。けれど全てのアラクネを繋いだ線全てを想定すれば、もっと早い段階から汚染結界は存在していたはずだ。
 シャイターンを掲げマテリアルの光を呼び起こす。より早く仕留めるために。

「旧型、か……」
 森の足場はそう良いものではない。摺り足に近い足さばで拍をとり始めるオウカ・レンヴォルト(ka0301)。
 祢々切丸に刻まれた祝詞を唇にのせる。刀身を包む布を解く動作も舞の一部としながらアラクネ達の方へと身を進めていく。
 朱の鬼面から覗く金色が胸元のルーンと共に光る。鈴音の代わりに、祢々切丸が空を切り、音と呼べぬほどの圧がオウカの集中を更に高めていく。
(……となると、これは前哨戦といったところ、か)
 敵の護りを斬り拓くために、マテリアルが広がっていく。 

 三年前と同じ声に苦笑が漏れる。マイペースで、他の者の都合は考えない。
(やはり変わらないな)
 声を反芻しながら、シルヴェイラ(ka0726)はRJBSにマテリアルを添わせていく。
「旧型で、最高傑作、ね」
 新型は更に先を行っていると示唆された。その上でこちらを侮る餞別ときた。
(何か積んでいるのか?)
 声を届けた鴉は消えているはずだが。こちらの情報を得るためのカメラが、他にもある可能性がある?
 撃ちこんだ一撃は頭部へと向かう。アラクネの頭部、眼にあたる部分もまたカメラレンズのようになっている。複眼も忠実に再現されていて……そのいくつかが消えていった。

 アラクネ達へと大爪を三本飛ばしながら、クレール・ディンセルフ(ka0586)は視界を広く保つように意識する。
 しかしどれだけ見回そうと、消えた鴉と同じような光の反射がみつからない。あるのはアラクネの複眼が移す鈍い光。ティトにも見て貰えるようエアに頼んではいるが、発見の声はあがらないので芳しくなさそうだ。
(なら、聴き分けてみせる!)
 五感へと、更に意識を強く籠める。アラクネの音は以前よりも鋼の声を強くしているが、聴き分けられないほどではない。それが六体。楔が入っているだろう二体と、他の四体の聞き分けは出来そうになかったが、既に奏多によって皆に周知がされているからいいだろう。
(小さい、鋼の、声……鴉と、蝙蝠と……)
 記憶と照らし合わせてみても、今この場にある音と繋がらない。それが逆に不安を煽る。

(前もって気付かれていた、ってことよね)
 取引現場に検体を寄越してきたヴォールの意図を考えるルナ・レンフィールド(ka1565)。
 一度は前に飛びだそうとした自分を抑え、呼吸を整える。冷静になれるよう、日常のリズムを呼吸で刻んだ。
 アラクネ達を見据え、言葉にする。反応があればいいと思いながら。その声量は小さいものではない。
 仲間達全員が怪しいと、そう思っている……つまり総意も同じその言葉を。
「罠があったりしないかな?」

(なぜ林檎なのか)
 弾丸の軌道を操作しながら、シャーリーン・クリオール(ka0184)は放置された林檎入りの荷物を視界に入れた。食べ物としては非常に良い付き合いをしているつもりだが、敵に関わるものとなると……少し複雑な記憶が蘇った。
 蝙蝠羽の生えた雑魔は飴になった。次に見た時は機械の尻尾で歪虚レベルまで強くなっていた。
(そういえば)
 帝国に被害届が出ていない、出所不明の林檎。エルフハイムで見つかる歪虚。少しずつ情報のパーツが繋がり、自分がヴォールの手による事件に関わっていた年数が増えた事実にため息が出そうだ。
「より、気が入るというものさね」

 以前よりも、アラクネ達の身のこなしが素早くなっていると感じるハンター達。
 楔持ちの二体は挟みやすい位置にいる奏多を結界内へと収めるために移動してくる。
「それくらい、何度でも抗ってやるさ」
 残りは次点で前に出ていたクレールへ。幸いなのは彼等が移動できる距離がハンター達とそう変わらないことだろう、全てのアラクネと接敵するまではまだ猶予がありそうだ。
 多足ゆえに複数繰り出されるうちの一撃、どうしても避けきれなかったそれをもらってしまう。
「しっかり、足も強化されてるってことか!」
 爪のように研がれた脚先に足をとられかけたが、まだ耐えられる。



 ルナの歌が広がるように、闇夜を照らす月の光が森を地上から照らしていく。前衛の助けとなるためには敵の近くに行かねばならない。二人分の想いを抱えて、大丈夫と自身に頷いて見せる。その動きさえも夜想曲のリズムのひとつにして、ステップを森に刻む。
 そのルナを守る様に、樹を壁にしながらも前へと進むのはクレールで、カリスマリスから本来の刃とは別の、光の刃を導き出す。無造作にも見える振り下ろしは必要な儀式と同じで、砕けた光の刃片は奏多の周囲へと飛んでゆく。言われた二体を繋ぐ線に沿うように、刃片の輝きが光の束を描いてから消えていく。
「助かる」
 軽い口調にプレッシャーは感じられない。つまり、汚染結界は斬れると確信が得られる。
 同時に、楔持ちが二体だけという事も視認でき、証明された。

 箒から降りながら、符術と魔法の二択で思案するヴィルマ。
(早々に倒すべきじゃろう)
 汚染結界がない今が好機なのは事実。ならばと鋭利な冷気をひとつに纏めあげる。詠唱しながら狙うのは、仲間の皆から攻撃を集めやすい方の楔持ち。
「凍てつかせ噴舞せよ、霧裂け氷乱の嵐!」

 シーラがすぐ傍のエアにマテリアルを向ければ、オゴダイが輝きを放つ。放たれた矢はアラクネの頭部を突き抜け補強されたパーツを砕き散らす。
「今なら弱まっているから」
「制御機構があるかもしれない場所だ、そのまま潰したい!」
 エアの言葉に弾を込めながらシャーリーンが続く。
「任せろ!」
 回り込んだ奏多がシャイターンを振りかぶる。部位を狙いやすいそれは確かに頭に向けて……
「「「!?」」」
 避けられた。
 動きに鈍りはあるのだが。多足ゆえに、凍り付いていない足を最大限利用した跳躍で躱してみせたのだ。本来の回避能力も高いという証拠でもある。

 思兼神から放たれた光とヴォロンテAC47から撃ちだされた弾丸がアラクネ達を狙い撃つその隙に、囲まれないよう移動するハンター達。
 凍結で鈍っている楔持ちと、クレールから離れる様子の無い個体が揃ってクレールへと足先を振るう。全てが集結してしまえば囲まれ、ひとりずつ潰す作戦なのだろう。しかし互いに補助を行う都合で散開に踏み切るにはまだ早い。だから少しでもはやく、敵数を削らなければならない。



 聖導士が居ない分、ハンター達の回復手段は少ない。再びシャイターンを掲げた奏多がクレールの傷を癒すが足りていない。しかも二回目、これで打ち止めだ。
 次の一手を見極めるためにも、皆の動きを確認しなければならない。
「結界が発動してるぞ!」
 見通しを優先して移動する途中で感じるプレッシャー。すぐに突っ切り位置取りを終えるものの、眉間に皺が走る。
「私が」
「シーラ」
 白虹の発動を提案しようとしたシーラの声をエアが遮る。
「私ね。カメラと録音機能付きの鴉なんて面白そう、そう思ったのよ」
 すぐに消してしまったけど。言いながら、マトリカリアへと構え直している。
「タダで情報を与えるつもりは無いわ?」
 アラクネにも録音機能があるかもしれないと、その目が言っている。
「俺なら、抵抗し続けられる!」
 奏多の声が森に響き、再び解除を考えていたクレールも武器を構え直す。包囲される前に、楔持ちを一体倒す方が効率はいいはずだ。
「そうだったな」
 風を纏わせてRJBSを構え直すシーラ。今の最善は敵を鈍らせること。……今は凍結も解除されているのだ。より早い段階で邪魔出来るに越したことはない。

 先に言ってしまえば、はじめから敵の回避能力に影響を与える攻撃でない限り、ハンター達の攻撃は避けられ続けた。
 どれだけ威力が高くとも、当たらなければ意味がない。
 幸い前衛として壁となる三名は皆、硬い。複数回攻撃が当たり前のアラクネ達は、それだけ奇跡の一撃を繰り出す可能性が高い。特に集中攻撃を受けやすい位置のクレールがその大半を受け止めることになっていた。
 ヴィルマの氷霧で動きを阻害し、シャーリーンのハウンドバレットが接敵を妨害する。エアの牽制射撃と同時に奏多が天誅殺を繰り出した結果、楔持ちの一体が倒れた。
「これで立ち位置を気にする必要が減るか」
「誰かとどめを頼むのじゃ」
 奏多にアラクネから離れるよう声をかけるヴィルマに、ルナがライトニングの為のマテリアルを練りあげる。
「……消えていきます!」
 片目を閉じる必要もなく、倒れたアラクネが消えていく。これまでに破壊し分離した細かなパーツ達と同じように。
「簡単に逃がすつもりはなかったけど……それでも、罠と害の気配しかしないわ」
 自爆が無かったのは幸いだが、エアの呟きがやけに響く。
「まだ5体! 次に行きましょう!」
 クレールの声が響いて、もう一袋の楔持ちへと皆の意識が向き直る。
 別に油断していたわけではないし、隙も見せていない。ただ予想が外れたことを喜べないまま、不完全燃焼な状態を戦いへの糧に変える。
 ライトニングの光が貫こうとするも避けられる。だが避けた先でオウカやクレールが刃を構えて待っているし、シーラの麻痺を伴う弾丸も、その上で向かうだろう位置を狙って撃ちだされた。



 包囲網を切り崩すように、アラクネ達のすぐ横を駆け抜けながらシャイターンを振り抜く。二撃までという制限は厳しいものがあるが、ほぼすべてに確実な手応えがかえってきている。アラクネ同士互いに近いからこそ避けきれないのか、ただ連続攻撃されてしまえばすぐに鈍るほどの素早さだったのか。
 それまでにダメージを蓄積していた楔持ちが消える。文字通り、跡形もなく。
(残さないなんてケチな野郎だ)
 悪態を心中で済ませた奏多が、次の敵影へ接近する。

 奏多とヴィルマ主体でアラクネ掃討が進む中、もう少しで三体目が倒れそうなその時、アラクネそのものに強く注目していたのは二人。ルナとシーラである。
 先の二体には楔が入っていた。けれど残りの四体の体内は、本当に空なのか。それは倒した時に初めてわかることの筈で。
 クレールのカリスマリスが振り下ろされる。それは扉を壊すような位置。
「! 声が……さっきと同じ、鴉!」
 動きを止めたアラクネは倒せている筈で。けれど、消えていない!
「まずは私が」
 扉の罅を広げるようにシーラが撃ちこめば、耐えきれなくなったのか消えていく扉。そして飛びだしてくる鴉!
「間にあえ!」
 シャーリーンが降らせる弾丸の雨の中鴉が真直ぐに突き進む。進行方向に居たルナは風を感じてすぐに相対する。両腕を覆うディスターブを構えた。
「逃がしません……!」
 ライトニングを使ったばかりの上、魔法ではないからスキルも使えない。自爆もなかった。せめて、少しでもこの場に留められないだろうか?
 嘴がルナの身体を貫こうとするのを真正面から受ける。痛みはあるが、友人のおかげか予想よりは軽い。避けて逃がすよりはいい。
 シュルルッ
(……紐?)
 尾羽の付け根あたりへと、細長い何かが巻き取られていくような音。
「もう少し、耐えていてくれ!」
 次にトドメをさすからと叫ぶオウカ。
「いえ、充分だったみたいです」
 アラクネと違い、脆い身体。鴉も、そして器になっていたアラクネも消えていた。



 残った三体の中からも、鴉は飛びだしてきていた。二度目以降は全員で警戒していた為、撃ちもらすことも、ダメージを受けることもなかった。
「随分と久しぶりだが、変わらんな、あやつ」
 蜘蛛だけでなく鴉もバージョンアップしていたのだろうとシャーリーンは思う。戦闘能力ではない、別の……情報収集の部分で。
「戦闘中、ずっとアラクネの目を通してみていた、そう考えて良さそうなのじゃ」
 あやつの事だから、また勝手に名付けておるのじゃろうと言いながら、悔しさを隠しきれないヴィルマ。テシスを仕込んだ林檎はその場に残されていた。
「つまり、内部の鴉はアラクネと繋がっていた? ……ルナの見た紐がコードだったのかもしれないな」
 かつて蝙蝠が残骸と繋がっていたものと同じものではないだろうか?
「繋いだ途端に実体を取り戻し、消えずに持ち帰られた……」
 記憶を探り、照らし合わせようとするシャーリーン。
「それは、動かなくなったアラクネがすぐに消えなかったことと同じかもしれない」
 鴉が離れた後にアラクネが消えたのだと思いだすシーラ。
「残骸を残すという技術そのものが、ヴォール特有なのかもしれないね」
「ヴォールの持つ知識はとても興味深いわ……羨ましいと思える程に。けれどその為に同胞を裏切るなんて嫌よ」
 物語を集めることもできないと、エアがぼやいている。
 残骸は全て消えた。物的な手掛かりは何も残されていない。強いて言えば、旧型と呼ばれたアラクネの能力という情報のみ。それこそ失っても困らないという扱いをされていた、六体。
「機が満ちる……その時を待つしかないのでしょうか」
 ルナの呟きが、森の喧騒へと染みこんでいった。

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MVP一覧

  • 物語の終章も、隣に
    エルティア・ホープナーka0727
  • 背負う全てを未来へ
    東條 奏多ka6425

重体一覧

参加者一覧

  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオール(ka0184
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラ(ka0726
    エルフ|21才|男性|機導師
  • 物語の終章も、隣に
    エルティア・ホープナー(ka0727
    エルフ|21才|女性|闘狩人
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 背負う全てを未来へ
    東條 奏多(ka6425
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン アラクネ殲滅
シルヴェイラ(ka0726
エルフ|21才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/11/21 22:15:17
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/19 20:04:57