秋のはちみつを探して

マスター:きりん

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2018/11/19 09:00
完成日
2018/11/20 13:31

みんなの思い出

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オープニング

●はちみつが食べたい
 その日も、トアの朝食は芋だった。
「さんしょくいもはあきたの……せっかくのあきだしべつのものがたべたいの」
 大皿に盛られている蒸かしたジャガイモをしょんぼりと見て、トアが呟く。
 あまり喜んでいる様子ではない娘を見て、母親のアンティが苦笑した。
「ならお昼はサツマイモにしましょうか」
 幸い、今は実りの季節なので、食材が豊富に手に入る。特に芋類は安価に出回っているので、貧乏な田舎の家族としては大助かりだ。
「いいね。焼き芋にしようよ」
 トアの兄で、アンティの息子であるアルムがジャガイモを手に取り、齧りながら母親の意見に賛成する。
「そういえばサトイモもあったな。夕飯は芋煮汁にしてくれ」
 頼れる一家の大黒柱、トアとアルムの父親かつアンティの夫であるディルクが、同じくジャガイモを食べながら夕飯の内容をリクエストした。
 しかし、三人に対しトアの不満が噴火した。
「そうじゃないの! いいかげんいもからはなれるの!」
 子ども特有の舌足らずな甲高い声で、精いっぱい怒りをアピールする。
 それでも幼児の激怒など大人にとっては可愛らしいものでしかなく、アンティに抱き上げられてあやされてしまう。
「わがままな子ねぇ」
「こどもあつかいしてけむにまこうとするななの!」
 じたばたじたばた。
 アンティの腕の中で身を捩って暴れるトアを、ディルクが抱き上げた。
「ははは。食べ物があるだけ恵まれてるんだぞ」
「そんなことばでごまかされないの!」
 じたばたじたばた。
 トアによる抗議のじたばたは止まない。
「こら。父さんと母さんを困らせるんじゃない」
 少し怖い顔で、兄としてアルムがトアを叱る。
「とあのわがままなのこれ!?」
 芋責めという拷問を受けている気分なトアとしては心外である。
「せめてあまいものがいいの!」
「じゃあ、はちみつでも食べるか?」
 ディルクの言葉を聞いて、ぴたりとトアは泣き止んだ。

●蜂はいるけど……
 村の店で買い物を済ませてきたアンティは、空振りに終わったことをディルクに報告する。
「あなた、やっぱり秋にはちみつなんてお店で売ってないわよ。春とか夏ならともかく」
「でも、蜂自体は飛んでるだろ。よく村でも巣を作っててそのたびに駆除で大変な思いしてるじゃないか」
 どこかできっと手に入ると楽観的なディルクに、アルムが口出しした。
「あれは蜜を作らない蜂だよ。他の蜂を襲ったりするやつ」
 トアはまだ駄々をこねている。
「はちみつたべたいの!」
 完全にスイッチが入ったらしく、はちみつを食べられるまで持久戦も辞さない構えである。
「ごめんね、トア。はちみつは手に入らないわ。代わりにお芋食べる?」
 アンティが娘の機嫌を取ろうとするが、代替案が最低であった。
「きたいさせておいてひどいの! あといもからはなれるの!」
 他の家族たちにしてみれば、芋ならば毎日食べるほどいっぱいあるのでそっちで満足してくれという思いである。
「ははは。そういえば最近村の女の子たちの会話で、『私たちって芋っぽい顔だよね』とか『芋に満ちている』とかよく聞くなぁ」
 呑気なディルクの発言にトアが突っ込みを入れた。
「どうみてもいいいみのことばじゃないの! あかぬけてないとかそういうのなの!」
「へえ、トアってばそんなことも分かるようになったんだ。ちゃんと勉強してるんだね。感心感心」
 トアの成長を兄として喜ぶアルムに、トアは憤慨した。
「どうでもいいの!」
 父も母も兄も駄目だ。これは自分で何とかするしかない。
 密かにトアは決意した。

●秋のはちみつ、『甘露蜜』
 それから家族で街に出かける機会があったので、トアはハンターズソサエティに寄ってもらった。
「はちみつたべたいの!」
「は、はちみつですか?」
 たまたま受付嬢として応対をしたジェーン・ドゥが目を丸くする。
「すみません、娘のわがままでして。別に依頼をしたいとかそういうのじゃないので」
「こら、お姉さんを困らせないの!」
「はちみつ……」
「諦めろよ。無理なものは無理なんだ」
「はちみつなら、秋に取れるものもございますが」
 ディルク、アンティ、アルムの誰もが、『アンタなんてことを言ってくれたんだ』みたいな顔で愕然とジェーンを見た。
 ジェーンはにっこりと営業スマイルを浮かべている。とてもうさんくさい。
「あるの!?」
 くいついたトアに、ジェーンの笑みがさらににこやかになる。
 背中と尻に黒い尻尾と尾が生えた幻影が見えそうだ。何なら頭に黒い触角を追加してもいい。
「ええ。甘露蜜というんです。樹液を採取して作られるはちみつなんですよ。市場にはあまり出回りませんが、ハンターの皆様の手を借りればほぼ確実に手に入ると思いますよ。依頼、如何ですか?」
 ジェーンの誘導にトアの表情が輝いた。
「いらいするの!」
 完全勝利という言葉を背中にしょったジェーンが、天を仰ぐディルクを見る。
「娘さんはこうおっしゃっていますが、どうなさいますか?」
「……お願いします」
 断った時の面倒くささを考えると、ディルクはこう答えるしかなかった。

リプレイ本文

●集合
 トアに甘露蜜を届けようと思う夢路 まよい(ka1328)は、樹液が出ている木を探して蜜蜂を見つけ、遠くから見失わないようにこっそり後をつけるつもりだ。
(もう、ジェーンもしたたかというか商売上手というか……栗のとき私も遠慮したトアのたきつけをするなんてね。でも、甘露蜜は私も興味あるな。他の蜂蜜とどう味が違うんだろう?)
 レイア・アローネ(ka4082)は、季節柄のせいか最近食べ物依頼が多い気がしていた。
(……なんか私はどこかのグルメ時代のハンターにでもなっているのだろうか。ある意味今までの食材の中では一番やる気は出るかな。主に渡す相手的に)
 ジェーンのドヤ顔が目に浮かぶようである。暗に彼女の分も催促されていたような気がしてならない。
 依頼を受けたエメラルド・シルフィユ(ka4678)は、手続きを終えて記憶が混乱するのを感じた。
(……っ、……あの受付嬢はひ、久しぶり……だよな?)
 夢での出来事が脳裏を過ぎるものの、忘れることにする。
(蜂蜜採取か。意外と大変そうだな。教会勤めなので子供のお願いを聞くのは初めてではないが……まあ、これも経験だな)
(あらあら、おませさんな子ね。ツッコミスキル高いし、将来が楽しみだわ)
 トアに対して若干ずれた感心をしているのは、神紅=アルザード(ka6134)だ。
 依頼の具体的な方法について考える。
(ともあれ皆で蜂蜜探し。まずは樹液を出してる木を見つける方が先かしら。そういえば、小さな頃家族でカブトムシ獲りに行ったりもしたわねえ)
 見送りを受けて、集まったハンターたちは出発する。
 さあ、依頼の始まりだ!

●甘露蜜を見つけよう
(特にハンターが必要という作業でもないが、いや、だからこそ何でも屋的な我々の出番か。虫のついてる木を探せばいいわけだな。あまり気持ち悪い虫がついてなければいいのだが……)
 雑魔や獣に一応の警戒は払いつつ、レイアは樹液の出る木を探す。
 エメラルドは回復や治療目的で、各種法術を準備してこの場にやってきている。
(蜜蜂相手とはいえ、一応いつでも使えるようにしておこう……。フルリカバリー、キュア、ピュリフィケーション。少し……いや、過剰に準備し過ぎか……? 物々しいが……。まあ万一という事もあるからな)
 蜜蜂が襲ってきたら、エメラルドは防御しながらまよいの睡眠魔法を待つつもりだ。
 念のため攻撃手段も準備しているものの、エメラルドとしては使わないで済むことが望ましい。
 神紅は一つ一つ木を確認し、樹液を出している気がないか探す。
(ええと、カブトムシじゃないんだから普通の木に蜜塗るのは禁止よね。手間がかかるし、今のところ雑魔の気配もないし、皆で手分けして探した方が早いかしら)
 当たり前だが、いきなり見つかったりはしない。
「見つけたら伝話かトランシーバーで連絡するわ。地道に行くわよ」
 味方に声をかけ、神紅は仲間たちから別れる。
 分散することに、特に異論は出なかった。
 蜜蜂程度ならば、もし襲われてもハンターならどうにでもなるからだ。
 いくつか樹液が垂れている木を全員次々に見つけていくが、今のところヒットはない。
 虫はついているのだが、蜜蜂がいないのだ。
 しかし、粘り強く探した甲斐あって、ほぼ同時に蜜蜂がついた木を見つけた。
(で、後は蜂の追跡か)
 一応撒かれないように、レイアは脚にマテリアルを集中させて通常よりすばやく移動できるようにしておく。
 しばらくすると必要な樹液を採取し終えたらしく、蜜蜂たちが飛び立った。
 気配を抑えて木の陰に潜み、遠くの物が少しだけよく見える視力を利用して、まよいは蜜蜂の後をつける。
 あまり近付き過ぎると気付かれてしまうので、注意して進んだ。
 神紅の通信機に連絡があった。
 蜜蜂を見つけたらしい。
 しかし、同時に神紅も樹液を、正確には樹液を吸う昆虫から集めていた蜜蜂を見つけていた。
 後をつけたところ、同じ巣だったようで合流に成功する。
 無事に巣を突き止めたので、次の行動を考える。
 ただの蜜蜂なら倒すのは簡単だが、暴れて木を傷つけるのもどうかと思うので、レイアはまよいが大人しくさせられるのならそちらを頼るつもりだ。
 巣の表面では、物凄い数の蜜蜂が出たり入ったりを繰り返している。
(……まとめて焼き払うのが一番簡単だけど、かわいそうかなぁ。生かしておいた方がまた蜜を作ってくれるかもしれないし)
 錬金杖からスタッフに武器を持ち替えたまよいは、睡眠魔法を詠唱する。
「果てなき夢路に迷え……ドリームメイズ!」
 描き出された神秘的な迷路の幻影が巣を包み込んだ。
 巣の表面にいた蜜蜂たちが幻影に包み込まれ、ぼとぼとと巣の下の地面に落ちていく。
 死んだわけではなく、深い眠りに誘われ意識を失ったのだ。
 しかし巣の中から新たに蜜蜂たちが出てきた。
「……ああ、巣の中までは届かなかったかぁ」
 それでもある程度の数は減らせたので、後は巣を煙で燻すことにした。
 火種になるものを手早く拾い集め、小さな火球を生み出して着火する。
 後は風向きに気を付けて、煙を巣の中に送ればいい。
 そのためには誰かが時間を稼ぐ必要がある。
 ここでエメラルドの慎重さが功を奏し、まよいの睡眠魔法で眠らなかった蜜蜂たちを煙で燻して失神させるまで、時間を稼ぐことができた。
 多少刺されてしまった者もいるが、毒も傷も、エメラルドの法術で何とでもなる。
 エメラルドを中心に浄化魔法が発動し、祈りの力がマテリアルを活性化させ、味方の傷を癒していく。
 まあ、放置してもハンターなら死にはしないし勝手に毒に耐えるだろうが、念のためである。
 採取した巣を、レイアたちは養蜂家に持ち込み、甘露蜜に精製してもらいに行く。
 養蜂家は快く精製に応じてくれ、出来上がった甘露蜜を瓶に詰めてくれた。
 大きいものと、小さいものが一本ずつ。
 小さい瓶は、大きい瓶に入りきらなかった甘露蜜のあまりらしい。
 甘露蜜は普通の蜂蜜に比べ、やや褐色がかっていた。

●みんなでご賞味!
 無事巣を採取し養蜂家に精製してもらえた甘露蜜を、レイア、まよい、エメラルド、神紅の四人でトアに渡した。
「せっかくだからみんなで食べようかしら? それとも家族の団欒は邪魔しない方がよさそう?」
「ああ、それは気にせずに」
「ぜひ、ハンターの皆さんもどうぞ」
「一緒に食べましょう」
 ディルク、アンティ、アルムが答える。
 既にトアが甘露蜜の瓶を開けようとしていた。
「さ、皆で食べよう。お父さんたちが頼んで取ってきた蜂蜜だ」
 レイアの言葉にトアだけでなく、アルムも歓声を上げて甘露蜜の瓶に群がる。
「おいしいの! どうやってとってきたの?」
「それは……秘密よ」
 教えて真似したら危ないので、そこは笑顔で答えないでおく神紅だった。
「こんな仕事で良かったらいつでも頼んでくれ。……お父さんと相談してな……」
 頬や口の周りをベタベタにしながら蜂蜜を舐めるトアを見ながら、エメラルドは家庭の財布を気遣う。
 そしてハンターたちもお楽しみの味見である。
「あ、美味しい」
 普通の蜂蜜に比べミネラル分が多いので少し癖はあるものの、高級品らしくとても甘い蜂蜜で、まよいは笑顔を浮かべる。
 歓声を上げるトアに微笑みを浮かべつつ、もう一つ小さな甘露蜜の瓶を手で弄び、レイアと神紅は顔を見合わせる。
「ジェーンさんはどうかしら?」
「そうだな……どうせだから、ジェーンにも渡してくるか……」
 二人は受付嬢たちが働く受付カウンターへ向かった。
 こうして、依頼は無事終了した。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 悲劇のビキニアーマー
    エメラルド・シルフィユ(ka4678
    人間(紅)|22才|女性|聖導士
  • 背後にお姉さん
    神紅=アルザード(ka6134
    人間(紅)|17才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
レイア・アローネ(ka4082
人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/11/19 08:24:06
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/19 08:20:35