• 空蒼

【空蒼】異世界、そして二人の選択は

マスター:きりん

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/11/21 09:00
完成日
2018/11/22 16:32

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●冴子と美紅
 結局のところ、リアルブルーがどうなったのか、自分たちがどういう状況に置かれているのか、冴子と美紅は人伝で聞いて初めて理解した。
 とはいえ邪神との戦いなど一般人に過ぎなかった二人には雲の上の話で、分かったのはしばらくの間、あるいはもしかしたらこの先ずっと、リアルブルーに帰ることはできないのだということ。
 死にたくなくて、生きるため今まで必死に歩いてきた。
 けれども結局二人が歩んでいたのは事態の外側のそのまた外側で、ただがむしゃらに、目の前の状況に立ち向かっただけに過ぎない。
 ……いや、初めはただ流され戸惑うだけで、立ち向かうことすらできなかった。少なくとも冴子の方は。
 多くの人間が死んだ。
 今もなお、向こうでは邪神とともに多くの人間が凍った時の中で老いることも死ぬこともない眠りについている。
 転移した人間には、いくつかの選択肢が与えられている。
 すなわち、どこに住むか。何になるか。主にこの二つだ。
 月と地上。一般人と、強化人間、そしてハンター。
 どれを選ぶかによって、今後の扱いが変わる。
 もし一般人を選ぶのなら、扱いは今まで通り避難民と大して変わらないまま平凡な生活を送れるだろう。
 月であろうと地上であろうと、庇護されるべき存在として生きていく。
 これは、二人のうちでは冴子だけが取れる選択肢だ。
 美紅はイクシード・アプリを使用し、邪神と契約してしまっている。
 いわば、強化人間と同じ状態なのだ。
 つまり、何も選ばなければ、美紅が契約者という事実が覆ることはない。
 この場合はどこか遠い島に流刑のように送られ、ひっそりと余生を過ごすことになるだろう。
 どの道、負のマテリアルを扱い続けるほど、契約者は寿命がどんどん削られていく。
 戦い続けてきた美紅も、相応に寿命は残り少なくなっていることだろう。
 そのことは、冴子も美紅自身も知っている。
 正確には、知らされた。転移した後に。
 それから、二人はこの話題に触れていない。
 触れられなかったのだ。
 近い未来に死ぬ美紅と、これから先何十年も生き続ける冴子。
 始まりの選択が、如実に結果として現れてしまったのだから。

●二人の居場所
 しばらく、冴子と美紅はともに月で暮らしていた。
 しかし、時間が経つに従って二人の心は少しずつすれ違っていく。
 徐々に、未来を考え始めるにつれて、考えの差が浮き彫りになってしまったのだ。
 異世界でもどちらかといえば穏やかに日常を過ごしたい冴子と、残り少ない人生を閃光のように悔いなく燃やし尽くしたい美紅。
 そんな二人が元の関係に戻れるのは、あのリアルブルーでの旅の大部分で行動をともにした強化人間兵たちと一緒にいる時だけだ。
 冴子と美紅の二人と同年代、ともすれば年下かもしれない彼ら彼女らは、美紅以上に寿命をすり減らしてしまっている。
 それを知っているから、話題に出すことは避けていた。
 そんなある日のことだ。
 月で暮らす冴子と美紅の下へ強化人間兵が二人訪ねてきた。
 どちらもリアルブルーでずっと苦楽をともにしてきた強化人間兵だ。
 一人は隊長で、もう一人は彼の幼馴染らしい。
「お久しぶりです、冴子さん、美紅さん」
「こちらこそ。向こうではどうもありがとうございました」
「いえ、ここまで来れたのはお二人の努力によるものです。特に美紅さんは、僕たちと一緒に戦ってくれましたし……」
 隊長だった少年が、美紅を褒め称える。
「……別に、契約しちゃったことは覆しようがないんだから、それなら力を役立てなきゃって考えただけです」
 美紅の頬が僅かに赤い。どうやら照れているようだ。
「実は、今日はお二人にいいお話を持ってきたんですよ! いえ、私たちにも凄くいい話なんですけど!」
 もう一人の強化人間兵である少女が本題を切り出してきた。
「ええ、実はですね──」
 それは間違いなく、強化人間たちへ贈られた福音に違いなかった。

●ハンターになれば
 歪虚との契約は、精霊との契約で上書きできる。
 つまり、契約者になってしまっている強化人間やアプリ使用者もハンターシステムを利用してハンターになれば、解放されるというのだ。
 それが、強化人間兵たちが教えてくれた情報だった。
「地上に降りてハンターズソサエティで儀式を行えば、契約を上書きできるそうなんです。ですから、今度の定期便で一緒に地上へ行きませんか?」
 ハンターになるため、月を出ること。
 それが強化人間兵たちが冴子と美紅の下へ訪れた用件だ。
 聞けばイクシード・アプリほど手軽というわけではないが、それでもハンターになるのは難しいことではないらしい。
 少なくとも、リアルブルー人にとっては。
 詳しい理由について冴子と美紅は知りようがないものの、そういうものだと思っておけば問題はない。
「行こうよ……!」
「うん……!」
 久しぶりに、冴子と美紅はお互いの心が通い合った気がしていた。
 希望に満ちた未来が、二人の前に広がっている。
 ……はずだったのだが。

●予約が凄い
 美人なのだが何故かうさんくささを感じさせる受付嬢は、冴子と美紅の用件を聞くと、にこやかな営業スマイルのまま一言こう告げた。
「真に申し訳ございませんが、本日の予約はもう受けつけることができません。既に八十九件入っていますから」
「え?」
「は?」
 冴子と美紅は、思わず口をあんぐりと開けてしまった。
「ちなみに明日の契約はと申しますと、九十二件入っております。こちらも現状受け付けを停止しております」
「あ、明後日はどうですか?」
「百件です。無理です」
「明々後日は?」
「予約が空いているのは一週間後になります」
 受付嬢は鉄壁の笑顔で取りつく島を与えない。
 よく見れば、化粧で隠されているが受付嬢の目の下にはどぎつい隈が浮かんでいる。
 彼女は普段は支部で勤務をしているのだが、一時的にヘルプでリゼリオへ戻って来ているそうだ。
 受付嬢を増やしてなおこの有様である。
 ……現在ハンターズソサエティは未曽有の契約ブームに見舞われている。
 そしてその皺寄せが、受付や事務を担当する職員たちにもろに直撃しているらしい。
 肩を落とす二人に、受付嬢がさも今思い出したかのように手を叩く。
「ああ、そういえばお客様方のようにすぐには予約を取れない方が増えておりまして、現在そういう方を対象に現役のハンターをお招きしてハンターになる際の心構えや実演を行う講習会を開いているのですよ。参加は無料ですのでよろしければいかがですか?」
 もし、この受付嬢を知るハンターが見ていれば、即座に受付嬢にツッコミを入れただろう。
 『お前も現役のハンターだろう』と。
 受付嬢の名を、ジェーン・ドゥといった。

リプレイ本文

●講習に来たハンターたち
 天央 観智(ka0896)は、普段よりも明らかに人が増えていることに気付いた。
(地球解放の為にも、より多くのハンターが要る……ん、でしょうけれど。沢山、人がいますね……良い事、なのかな?)
 多くはリアルブルーからやってきた者たちで、彼らにその少し先達として講習を行うのが、観智の目的である。
 夢路 まよい(ka1328)はどんな方法で魔法のレクチャーをするのか考える。
(実演寄りのレクチャーをしよう。お話聞いてるだけで、なんだか難しそう、って思われてはい終わり、でも困るし。ここは、魔法は華だ、っていうことを見せてあげないと!)
 魔法は魔術師だけのものじゃない。憧れはいつか強さに繋がるはずだ。
 鳳凰院ひりょ(ka3744)が見たのは、冴子と美紅、そして強化人間たちの姿だった。
(そうか、無事にたどり着いたんだな)
 冴子や美紅たちの方から来て会話が弾む。
「ここに来たということはハンターになりに来たのか。美紅は前衛で剣を使っていたから俺と同じ闘狩人とかが相性良さそうだな。冴子は支援型の聖導士とかか?」
 依頼を受けてハンターズソサエティの一室に集まったハンターたちの中に、レイア・アローネ(ka4082)は見知った顔を見つけ話しかけた。
「ハンター志望の予約が殺到と聞いて、何か手伝いが出来ないかと思ったが……。御言じゃないか、お前も講習に来たのか? ……そうか、友人がいるのか。仕方ない、私も手伝わせて貰おう」
 レイアに話しかけられた久我・御言(ka4137)はいくつか言葉を交わし、居並ぶ講習受講者たちに声をかける。
「私の名前は久我・御言。諸君、よろしくお願いするよ。ようこそ、クリムゾンウェストへ」
 受講者たちはリアルブルーの一般人と、イクシード・アプリ使用者、強化人間たちがほとんどだ。
 依頼を見繕っていたキャリコ・ビューイ(ka5044)は、見知った顔があったので、この依頼に参加した。
 しかし冴子と美紅の様子がおかしい。
(何か前の雰囲気と違うな……。だが、百舌鳥が何とかするだろうし俺は後で話をしにいくか……)
 何か伝えられたらと思い、自分の番が来るのを待つ。
 注目されないように隠れ潜みながら、セレス・フュラー(ka6276)は考える。
(ふ……先輩であるこのあたしが、ハンターとは何かをしっかり教えてあげようじゃないのさ。あたし自身さっぱりわかってないけど)
 他が旧交を温めている間も、セレスは忍び続けるつもりだ。
 今は調度品や、背が高い観智の陰に隠れてこそこそしている。
 朗々とした声が響く。
「やぁ、諸君!まずは言わせて頂こう……『クリムゾンウェストへようこそ』! 歓迎するよ、先住民としてね!」
 部屋に入ってきた霧島 百舌鳥(ka6287)は、最初の掴みで上手く受講者たちの注目を集めた。
「安穏を求めるも、闘争に飛び込むも間違いではない。ハンター候補生諸君! 君たちは、『自由』でありたまえ!」
 全員が集まるとほぼ同時に、講習の時間になった。
 さあ、依頼の始まりだ!

●講習開始
 観智の講義は、まずハンターや覚醒者、冒険者という職業の説明から始まった。
「ハンターとは、ハンターズソサエティという……一種の人材派遣組織に所属する、覚醒者からなる冒険者です。ここと、地球との大きな違いについては……やっぱり、魔法の存在……でしょうかね」
 強化人間の一人が手を上げて質問した。
「避難所で戦っている時に、応援でやってきてくださったハンターの方が使っていました。……あれが、魔法なんですか?」
「そうですね。魔法と一口にいっても色々な形態がありますが、これはマテリアルを用いて引き起こされる現象、及び、それを意図して行われる行為・技術の総称です。区分については今から資料を配るのでそれを見てください」
 分類については口頭では軽く触れるだけに留めておく。
「あと、精霊の存在……かな? まぁ、人前に姿を現さなかっただけで……地球にも、いたらしい……ですけれど」
 観智は精霊がマテリアルを多くその身に含む物体、精神の総称であり、大精霊の一部であるということを説明する。
「ハンターは基本的に、これらの精霊と契約して覚醒者になります。精霊の区分としては、自然精霊や概念聖霊、祖霊や英霊等、それから……龍など」
 覚醒者になることの利点と難点もきっちり説明しておく。後で、聞いてないとかいわれないように。
 観智の講義の後、まよいに講師が変わった。
「魔法についての講義はどうだったかな? 次は実演だよ! 場所を移動するから、ついてきてね!」
 受講者たちはまよいの指示に従って外に出る。
 目的地の空き地には、的がいくつも並べられていた。
「簡単な魔法から順に実演していくよ。まずはマジックアロー。魔術師なら誰でも覚えられるよ」
 無造作にまよいが放った一本の魔法の矢は、空を裂いて飛び的に命中する。
 これが敵であれば、まよいの魔力なら貫いて吹き飛ばして粉砕するくらいの効果になりそうだが、特に壊すことが目的ではない物相手なら平和なものである。
「魔法には属性があるものもあるよ。特に魔術師は四大属性……火、水、風、地の魔法が揃ってるからね。それじゃあ一つ例を見せようか。ウインドスラッシュっていう魔法だよ」
 放たれた風の刃が的に着弾する。
 これが明確な敵であれば真っ二つに切断していたかもしれない。
「最後に範囲魔法を見せようか。修練に時間がかかるけど……極めればここまでできるようになるんだよ!」
 詠唱を始めたまよいの可憐の唇から、もう一つ別の詠唱が漏れ出す。
 まるでまよいが二人いるかのような二重音声で、一度に二つの魔法が完成した。
 火球が的を薙ぎ払い、氷雪が吹き荒ぶ。
 今までとは規模が違うその光景は、受講者たちの度肝を抜いた。
 まよいの講義で興奮する者が続出したので、少し休憩を取ることになった。
「講義の前に皆の飲み物を買ってこよう。手伝ってくれないか?」
「ええ、構いません」
 口実を作り、ひりょは美紅を連れ出す。
 ひりょは冴子と美紅のぎこちなさに気付いていた。
(死と隣り合わせの日々から解放されて、お互いに思うところが出てきたのか……?)
 推測は立つものの、真相は聞かなければ分からない。
「……何かあったのか?」
「……実は、今後のことで喧嘩してしまって。私は戦いたいんですけど、あの子は私と二人穏やかに過ごしたいみたいで」
「……俺は他のハンターたちから出遅れてね。ハンターとして本格活動を始めた頃、一人途方にくれていたんだ。……どう思う?」
「そうですね。冴子が後から思い直したら、同じように途方に暮れているかもしれません」
 問いかけに、美紅が苦笑する。
「でも俺に声をかけてくれた人がいて、その人のおかげで俺はハンターとしてやっていこうと思えたよ。だが、結局恩返しもお礼もいうことができないまま、その人は死んだ。だからこそ、俺は今、手に届く人達の笑顔を守る為に戦い続けている」
 真剣な表情で、ひりょはじっと美紅の目を見つめた。
「ハンターになったらいつ、最期が来るかわからない。悔いは残さないで欲しい。美紅にも冴子にも、笑顔でいて欲しいからな」
 休憩後のひりょの講義の間、美紅はちらちらと冴子を見ていた。
 次の講義は、レイアの番だ。
「特別な資質など、ハンターになるのには必要ない。本当はいるのだが……まあそこはオフィスが判断するとして、今は敢えてこういわせてもらおう。問題なのはなった後に何をするか、だ」
 レイアは受講者たちを見渡す。
 ほとんどの者が希望に満ちた顔をしている。
 一人二人ほど目の前の講義よりもお互いが気になって気が散っている者もいるようだが、まあそれはレイアには関係ない。
 なった後に何をするか。
 本当に、それは重要なことだ。
「特別な人間がハンターになるのではない、ハンターになった人間が特別になるのだ」
 真に遺憾なことだが、ハンターになった後で犯罪を犯し、資格を没収される者もいる。
 中には様々な理由から歪虚と契約をしてしまう者だっているかもしれない。
 だがそれらは、本人が反省し、償い、他人の協力があればまだ引き返せる可能性があるものでしかない。
 死とは違って。
「動機なんてなんでもいい。些細な理由でも構わない。世界を救わなくてもいい。誰かと共にいたいでも、有名になりたいでも、金を儲けたいでも、特に理由がなくても構わない」
 神妙に話を聞く受講者たちを見ながら、レイアは話を締め括る。
「やれば理想も目的も後からできるさ。だから先達として一つだけ忠告だ。無茶はしないでくれ」
 受講者たちは神妙な表情だった。
 続いて次の講義が始まった。
「さて。忘れてはいけないのは、ここにいる者が全て人であることだね。リアルブルーよりもバラエティに富んだ違いがある。まずはそれぞれの立場や特徴から話していこうか」
 まず御言が説明するのは、クリムゾンウエストに住む者たちの人種の違いだ。
「リアルブルーの人間としては奇異に映ることもあるだろう。だが、ここはそういう世界だ。自分たち以外をも受け入れる懐の広くカオスな、ね」
 御言がぐるりと受講者たちを見渡す。
「その上で私はいおう。その全てが人なのだと。敬意を払い、尊重する事を忘れてはならない。違いを理解した上でそう受け止めるのが肝要だよ」
 受講者の誰もが真剣に御言の話に耳を傾けていた。
「私たちは特別ではない。孤独に一人で何もかもしなくてはいけないわけではない。何もできないと勘違いする必要はない。側にいるだけで救いなのだよ」
 一人一人、御言は受講者たちを確認していく。
「ハンターでもルームシェアしている人間は多い。同郷の人間が側にいるのは、何よりも支えになるものだよ。実体験としてのアドバイスだ。仲良くしたまえ」
 受け持ち時間の終了を告げるブザーが響く。
「相談にはいつでも応じてあげよう。だがデートの誘いは遠慮しておく。私には大事な恋人もいるのでね?」
 最後に茶目っ気たっぷりにウインクし、御言は講義を終えた。
 次に講義を行うのはキャリコだ。
 黒板に、基本的なこの世界の地理や国家制度などを書いていく。
「まず、ハンターに必要な基礎知識を教えよう。特に、クリムゾンウエストにはリアルブルーにいなかった種類のVOIDもいる。こちらではVOIDではなく歪虚と呼ばれている。覚えておくといい」
 続いてキャリコは歪虚の種類を書き出していった。
 受講者たちが板書をノートに写したことを確認し、説明を始める。
「ハンターの死亡原因のうち、歪虚との戦いは多くの割合を占める。君たちもハンターになるのなら、いつかは誰かの死に遭遇することがあるかもしれない」
 講義の終わり際に、キャリコは遠い目で一つ付け加える。
「ああ……諸君らには一つ大事なことを言い忘れていた。……何か想いがあるのなら早めに相手に伝えておくことだ。……死んでからでは遅いからな? 俺は、想いを伝えられずに死んだ人間を多く見てきた……」
 セレスの番が来た。
 姿を現す前に、グラヴィティブーツの補助を受け、マテリアルを体に巡らせて重力から逃れる。
 その後自身をマテリアルのオーラですっぽりと覆い隠し、空中に極薄のマテリアルによる足場を作り、天井目掛けて駆け上がる。そのまま天井に張りついて、ぶら下がる形で話し始めた。
「ほらほら注目。ズボンだからぱんつは見えないよ、残念だったね男子諸君」
 受講者たちにしてみれば、セレスは突然天井に現れたようにしか見えない。
 ついでに強化人間部隊隊長の隼人に視線を合わせ、魔法で魅了を試みる。
「あたしが今日薄着で来てるからって、見惚れちゃだめだぞー?」
 結果幼馴染の海羽がむくれるのを他所に、セレスは講義を始めた。
「ハンターになる前に、明確な心構えなんていらないよ。育った環境も志望動機も人それぞれ、正解なんてありゃしないさ。あたしなんて姉妹がやってるからなんとなく、あたしのお姉様はダイエットのついでだよ?」
 固唾を飲んで、受講者たちはセレスの話を聞いた。
「ただ、多くの場合、依頼ってのは、依頼人が困ってて、何とかお金を捻出して出してるものだから、受けた仕事はちゃんとやり遂げてほしいなっていうのと。あとは……討伐依頼とかなら、命のやり取りであるのは忘れないこと、かな」
 依頼を受ける際の心構えを説き、講義が終わった。
 冴子の迷いを見抜いた百舌鳥は、彼女を連れ出した。
 百舌鳥としては、覚醒者として契約する側に心を傾けたいと思う。
「おススメは機導師か猟撃士だよ。どちらも君の銃を術の媒体あるいは武器として、そのまま使えるだろう! ぜひ君もこちら側に……」
 そこまで口にして、百舌鳥は視線を逸らした。
「……ごめん。止しておくよ」
「……どうしてですか?」
 急に声のトーンが下がった百舌鳥を、冴子は不思議に思って尋ねた。
「きっと寂しいのさ。自分でもよく解っていないけれど、君らと一緒なら戦場を、あの修羅場を悪くないと思った。『友達や仲間が一緒なら、戦場すら楽しめる』……先日話した理不尽の受け売りだけれど、これはそういう事なんだろうね」
 雰囲気に流されかけた冴子は思い留まる。
「……ちょっと待ってください。結局その人は敵なんですか? 味方なんですか?」
「ん? 『彼』は敵ではないよ? ボクらの小隊長殿さ! いやぁ、ボクも若かった! そこまで昔の話でもないけれど!」
「……ええー」
 唖然とする冴子に、百舌鳥は悪戯に成功した顔でニヤリと笑った。
「友達は大切に、さ。美紅君、君がいないと別の意味で暴走しそうじゃないかい? ……やっぱり、聖導士をおススメするよ」
 それから始まった百舌鳥の講義は、この言葉が印象的だった。
「心のままに生きるといい! 勿論、やりすぎは禁物だけれど!」

●講義が終わって
 終了後、キャリコが冴子と美紅に話しかけた。
「久しぶりだな。悩みは解決したか?」
 二人の手は、互いの絆を示すかのように固く握られている。
「まぁ、百舌鳥がお節介を掛けて解決したみたいだな……まぁ、俺から一言いえるのは、何か有る前に自分の想いは相手に伝えておけよ。そうすれば、後悔はなくなるからな」
 美紅と顔を見合わせ、冴子が語る。
「……安全な場所で美紅の戦死を聞いて後悔するくらいなら、危険でも傍にいたい。だから私、ハンターになります」
 照れを滲ませる澄まし顔で、美紅が付け加える。
「何日後になるか分かりませんけど」
 同時にそこへ強化人間兵たちが割り込んできた。
「私と隼人はラブラブカップルになるのよ!」
「お前は何を言ってるんだ!」
 ラブコメを繰り広げる隼人と海羽を、他の強化人間兵たちが囃し立てる。
 講義は彼らの心の中で確かな実を結んだらしい。
 こうして、今回の依頼は終わった。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言(ka4137
    人間(蒼)|21才|男性|機導師
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 風と踊る娘
    通りすがりのSさん(ka6276
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • 怪異の芯を掴みし者
    霧島 百舌鳥(ka6287
    鬼|23才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/11/20 11:11:17
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/20 07:30:22