精霊の森と憎しみに落ちた少年

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2018/11/21 22:00
完成日
2018/11/28 16:06

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 俺はリアルブルーから訳も分からず召喚されてきた。
 見知らぬ世界を彷徨う事になった俺は、やがて人と出会う。
 それが災厄の始まりだった。
 なぜならそいつらは山賊だったからだ。
 奴らは身代金を取るために俺を捕らえた。
 だが俺が転移者だと知ると、俺を覚醒者にして、その力を利用しようと考えた。
 しかし検査をすると俺には覚醒者としての素質がないと分かった。
 猛烈に怒った奴らは役立たずと殴り、蹴った。
 暴力は俺が気を失うまで行われ、それから俺は奴隷として扱われた。
 あらゆる雑事をさせられた。
 メシは残飯並みの物しか食わせてもらえなかった。
 単なる憂さ晴らしで殴られ、理由のない暴力は日常的に行われた。 
 拷問に近い責め苦をされ、何度目で骨が折れるか、何度目で気絶するか、そんな賭けに使われた事もあった。
 毎日が地獄だった。
 なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ?
 なんで俺はこんな世界に連れてこられたんだ?
 俺が一体何をしたっていうんだ?
 なんだよこれ?
 なんなんだよ……。
 最低だ……。
 この世界はクソったれだ。
 クソが!
 クソがっ!
 クソがっ!!

 山賊共や、俺をこんな境遇に貶めたこの世界自体を憎んだ。
 何もかもが憎かった。
 やがてリアルブルー転移者のハンターも憎むようになった。
 俺と同じ境遇のはずなのに、超越した力を奮って高額な金を稼ぎ、英雄と持て囃され、優雅に暮らしている奴ら。
 なんだよそれ?
 そいつらと俺の違いってなんだ?
 素質のあるなしの違いだけだろ。
 そいつら単なるラッキーマンなだけじゃねぇか。
 なのになんで俺はこんな地獄の生活送らなきゃいけねぇんだっ!!
 なんなんだよこの理不尽!!
 ちくしょう!
 ちくしょう!!
 ちくしょう……。

 絶望と憎しみだけが募る毎日だったが、それが終わる時が来た。
 山賊共が歪虚に襲われたのだ。
 俺はその混乱に乗じて剣を取った。
 人を殺した事なんてもちろんなかったが、今までの恨み辛みのお陰で迷いなく殺れた。
 無我夢中で殺った。
 何人殺ったかは覚えていない。
 やがて山賊共は全滅したが、歪虚はまだいた。
 甲冑を着ているらしい歪虚が俺の前に立った。
 勝てる気がしない。
 だが折角自由の身になったのに死にたくない。
 こんな悲惨な人生のまま死にたくない。
「こんなクソったれな世界で死んでたまるかーっ!!」
 俺は歪虚に挑んだが、当然敵うはずもなく返り討ちにあった。
『お前、この世界が憎いのか?』
 しかし歪虚は俺を殺さず尋ねてきた。
 今までの事を全て話してやった。
『面白い』
 歪虚は甲冑の仮面の奥で笑った。
『歪虚となれば世界を滅ぼせる力が手に入るぞ。どうだ。お前も歪虚となってみるか?』
 断れば殺されると分かっていた。
 力も欲しかった。
 だから俺は、大森健司は堕落者となった。


 俺は俺を堕落者にしたクススの命令で歪虚として働いた。
 とはいえ、人間に戻れるものなら戻りたかった。
 しかしクススがハンターに討たれて死んでも、俺の身が人間に戻る事はなかった。
 だから今も俺は歪虚の本能と自らの憎悪に従って動いている。
 今日は気になる情報を得たので森にやってきた。
 不定期にハンターが森の奥へ何かを運んでいるらしいのだ。

 森の奥へと進んでゆくと、強いマテリアルの力を帯びた大樹を見つけた
「精霊の宿る木か。ハンター共はここに来てたんだな」
「どなた?」
 不意に声を掛けられた。
 見ると、粗末な小屋に老婆がいる。
 身体に強いマテリアルを帯びている、恐らく覚醒者だ。
「お客様かしら?」
「違うぜ。それよりばあさん、もしかしてリアルブルーからの転移者だったりするか?」
「えぇ、そうよ」
 俺の中の憎悪が膨れ上がった。
「死ね、ばあさん」
 銃を抜いて老婆に向ける。
「えっ!?」
「単なるラッキーで覚醒者になったくせにぬくぬくと暮らしやがっ……」
 ふと違和感を覚えた。
 老婆は粗末な小屋に住んでいて、生活用品も必要最小限な物しか見当たらない。
 どう見てもぬくぬくと暮らしてはいない。
「ばあさん、世捨て人か何かか?」
「違うわ。森の管理人みたいなものね」
 そう答えた老婆はやや怯えてはいるが、全く動こうとしない。
「ふぅ~ん。で、逃げたり抵抗したりはしねぇのか?」
「できないのよ。私は足が動かないから」
「足が?」
「若い時に事故にあって、それ以来動かなくなったの」
「若い時? ばあさん、何時からここにいるんだ?」
「40年くらい前からよ」
「40っ!?」
 驚いた俺は老婆に興味を抱いた。
「ばあさん、あんたのこと聞かせてくれ」 
 ケイトという名の老婆は40年前にリアルブルーから森に転移してきた。
 しかし足が不自由なためそのまま森で暮らす事になった。
 言葉の通じる者が誰もいないため、最近まで自分以外の人間がいる事さえ知らなかった。
 つい最近なって人と交流を持てるようになり、そのやりとりをハンターにして貰っている。
 そんな事を老婆は語った。 
「そうか、あんたもこの世界に無理やり連れてこられた被害者なんだな」
 老婆の身の上に親近感を抱いたためか、膨れ上がっていた憎悪は萎み、殺す気は失せていた。
「自分の境遇を恨んだり、世界を憎んだりした事はないか?」
「境遇を不憫に思った事はあるわ。でも世界を憎んだ事はないわね」
「何故だ?」
「足の動かない私が生きるには様々な助けがいるの。私が生きていられるのは世界が私を生かしてくれているからよ。感謝こそすれ、憎んだりしないわ」
「……」
「健司君は世界を憎んでいるの?」
「あぁ、ぶっ壊してやりたいくらい憎いね」
 俺は自分の身の上を老婆に全て語って聞かせた。
「そんな人生を……。でも健司君、憎んでも世界は変わらないわ。今からでも」
「憎むのを止めたって変わらねぇ!!」
 俺は老婆の声を遮った。
「なぜなら俺はもう歪虚だからな」
 そして大樹の元まで行って幹に掌を押し付け、マテリアルを体内に取り込んでゆく。
 大樹は枝葉の先から急速に枯れ始める。
「健司君! 一体何を?」
「俺には世界をぶっ壊す生き方しか残ってねぇんだ」 
 俺が皮肉気に言うと、老婆は大慌てて小屋の中に這って行った。
「止めなさい健司君!」
 戻ってきた老婆の手にはリボルバーの銃が握られていた。
「いいぜ、撃てよ」
「健司君……」
「哀れな俺に鉛弾ぶちこんで止めろよっ!」
「止めてっ!」
 結局、老婆は俺を撃たなかった。
 大樹は完全に枯れ果て、周囲に満ちていたマテリアルが薄れてゆく。
「あぁ……なんて事を……」
「ばあさん、リアルブルーに帰りな。あんたの寿命が尽きるくらいまでなら世界も滅んだりしないだろ」
 枯れた大樹に悲嘆して項垂れる老婆に俺は背を向けた。
「……健司君……あなたは間違っているわ」
 俺は何も答えず、森を後にした。


 数日後、マテリアルの薄くなった森に【怠惰】が入ってゆくのを見たが、俺は止めはしなかった。

リプレイ本文

 ハンター達は森の奥にあるケイトの住む小屋を訪れた。
 小屋の周囲の木は葉が全て落ちていて寒々しい。
 葉は冬の到来で落ちたのではなく、マテリアルの枯渇によるものだ。
 それは負のマテリアルの影響の強い辺境では森の死を意味しているに等しい事だった。
 保・はじめ(ka5800)は安住の地でなくなった森からケイトを連れ出しに来ていた。
 しかしケイトをリアルブルーの故郷に帰せる訳ではない。
 以前、手紙で故郷に帰れぬ事をケイトに伝えた件を保はずっと気にしていた。
 だからケイトを早く故郷に帰す事が保のリアルブルー解放のモチベーションになっていた。
 なのでこんな形でケイトを森から連れ出す事になったのが残念でならない。
 小屋の中には意気消沈しているケイトの姿が見える。
「こんにちはケイトさん」
「あ、皆さん、遠い所をよく来てくださいました。今お茶を……」
 声をかけると顔を上げ、お茶の準備をしてくれようとする。
 だがその時、大勢の妖精が大慌て飛んできた。
 そして身振り手振りで必死に何か訴えてくる。
 長い付き合いのケイトはすぐに歪虚が迫っているのだと汲み取った。
「皆さん、勝手なお願いだけど、この子達のためにも歪虚を退治していただけないかしら」
 もちろん断る者はいない。
「妖精さん、敵がどっちから来てるか教えてくれますか?」
 ルカ(ka0962)が尋ねると、妖精達は北側のあちこちを指差した。
 どうやら広範囲から複数体で来ているらしい。
「索敵に出ます」
 ルカはケイトと妖精に魔導スマートフォンと魔導短伝話を渡して小屋を出た。
 更に音で敵の接近を察知するため、小屋から左右の離れた場所に通話状態にしたトランシーバーを設置しに行く。
「敵を見た所まで案内を頼みます」
「私も迎撃に出よう」
「敵がたくさいるなら私の魔法が役に立つよ」
 Gacrux(ka2726)、レイア・アローネ(ka4082)、夢路 まよい(ka1328)が妖精の案内で迎撃に向かう。
 保はケイト達の護衛のために小屋に残った。
「この板……何をどうすればいいのかしら?」
 そのケイトは渡されたスマートフォンの使い方が分からず戸惑っている。
「俺様ちゃんが教えてやるじゃんよ」
 死地好きのゾファル・G・初火(ka4407)は多勢に無勢という戦闘になりそうにないため若干やる気が削がれていた。
 なので敵が小屋まで攻め入ってきた時の迎撃役として小屋に残り、ケイトにスマートフォンの使い方のレクチャーを始める。
「あら、何か映ったわ。これ……テレビ? こんなに小さいのに、凄いわ~」

 迎撃に出たGacruxは遠方の木々の合間の暗がりで何かが動くのを捉えていた。
 装着しているマスク「スターゲイザー」の暗視機能で暗がりに目を凝らすと、木々の合間を駆ける狼の姿が見える。
「ここまででいいですよ。戦いに巻き込まれないよう離れていなさい」
 案内の妖精を退がらせると『ソウルトーチ』を発動させ、身体に炎のようなオーラを纏う。
 しかし草木が茂る森の中のためか、引き寄せられた狼は2体だけだ。
 [SA]身捧の腕輪の固有スキル『ソウルエッジ』を[EX]蒼機槍「ラナンキュラス」に付与させる。
 槍先に形成された緑光のマテリアルの刃が自身のマテリアルを変換した魔力によって更なる輝きを放つ。
 そして槍のリーチを活かし、狼に攻撃されるより先に『連断』で刺し貫いた。
 魔力に輝く刺突が狼の頭部を貫き、そのまま胴体部をも貫通して狼は完全に串刺しになった。
 その間にもう1体の狼が槍の間合いの内側に入り込んで牙を向いてきたが、すかさず『カウンターアタック』によりシールド「レヴェヨンサプレス」で殴打。
 更にそのまま盾で狼の頭部を地面に叩きつけるようにして挟み潰す。
 頭を潰されて即死した狼を見下ろすと、身体に何かを巻き付けている事に気づいた。
「これは?」
 しかし何なのか確認する前に狼の体ごと負のマテリアルの塵となって消えた。
 仕方なく次の敵を探すと、木々の合間から何かが飛来してくるのが見えた。
 咄嗟に後ろに飛び退った。
 すると飛来物はGacruxには当たらず手前に落ちたが、そこで爆発する。
 反射的に盾で身を庇う。
 爆風と熱が襲ってきたが、盾や全身甲冑「ヘパイストスが全て防いでくれた。
 すぐに体勢を整えて前を見据えるとオーガが斧を構えて迫ってきている。
 しかしGacruxはオーガの攻撃を容易く避けると『連断』でオーガの脇腹を斬り裂き、更に流れるような動作で袈裟掛けに斬り下ろす。
 刻まれた刃の切断面は共に滑らかな上に深く、オーガは大量の血しぶきを噴きながら倒れ、絶命した。

 その頃、レイアも狼を発見していた。
「ここから先には行かせない!」
 すぐさま『ソウルエッジ』を発動させ、自身のマテリアルの魔力を帯びた魔導剣「カオスウィース」を構えて狼を見据える。
 そして間合いに捉えた瞬間『刺突一閃』を発動。
力強い踏み込みと共に突き出された魔導剣の刃が空気をも切り裂くように走り、進路上にいた狼を縦に両断した。
 身体の中心を綺麗に分かたれた狼の身体は左右に分かれて倒れ、そのまま塵と化す。
 だが1体倒している間に他の狼達が駆け抜けてゆく。
 しかしそこにまよいが立ちはだかる。
「森の中で視界が悪いから捉えづらいけど……」
 まよいは『ダブルキャスト』を発動させつつ狼達の動きを目で追う。
「今だ!」
 そして3体の狼を同時に捉えた瞬間、[SA]フォースリングを介した『マジックアロー』を撃ち放つ。
 6本のマジックアローはまるで猟犬が獲物を追うかの如く狼に殺到し、光の矢を身体に突き立てた。
 まといの高い魔力の込められた矢は1発当たっただけでも狼の身体は弾け飛んだが、更に死体蹴りの如く2本目が刺さり、原型を留めぬ程バラバラになる。
 避けられた狼はおらず、血肉の花火が3つ咲いた。
 しかし狼達を倒した直後のまといに向けて何かが放物線を描いて飛来してきた。
「危ない!」
 飛来物が何かは分からなかったが危険と判断したレイアは『ガウスジェイル』を発動。
 すると、まといに向かっていた飛来物の進路が空間がねじ曲がったかのようにレイアの方へと向きを変える。
 レイアは飛来物を魔導剣の幅広い刀身で受けると同時に『鎧受け』を発動。
 コンッと刀身に軽い衝突音が鳴った直後、轟音と共に衝撃と熱が襲ってくる。
「くっ!」
 だが上手く爆熱を防げたのか身体に痛みはない。
「爆弾! どこから?」
 まといが爆弾の飛んできた方に目を向けるとオーガが見えた。
 すぐに[SA]マギサークレットの固有スキル『集中』で精神を集中してマテリアルを高め、オーガに狙いを定めて『アブソリュートゼロ』を発動させた。
 まといから生まれた地の魔力と水の魔力の奔流がオーガに襲いかかる。
 まず水の魔力弾から喰らったオーガは高魔力の重圧で身体がグシャリと潰れた。
 潰れた身体が衝撃で吹っ飛ぶ間もなく地の魔力弾も着弾。潰れた身体が高魔力の奔流で更に破砕される。
 オーガは原型を留める事なくバラバラに砕け散った。

 ルカは2個のトランシーバーを設置し終えて小屋へ戻っている最中、不意に魔導パイロットインカムから草を掻き分けるような音が響いてきた。
 設置したトランシーバーが早速音を拾ったのだ。
 トランシーバーを置いたのは迎撃に出たメンバーのいる位置とは違う方角である。
「別働隊がいます。気をつけて下さい」
 ルカはすぐにインカムで警告を発した。
「位置は……」
 トランシーバーを置いた位置は分かるが、音はどちらのトランシーバーから鳴ったものかは分からない。
 なので両方の方角を告げ、どちらかから来ると警告した。

 一方、ケイトはスマートフォンからいきなり声が聞こてきたため慌てていた。
「キャ! 声がしたわ。ど、ど、どうすればいいの?」
「落ち着くじゃん。スマホは電話にも使えるってさっき教えたじゃん」
 ゾファルが代わりに操作して、ルカからの警告を聞く。
「オーケーオーケー。俺様ちゃんに迎撃の用意ありジャン。さっきからなんか爆発してるし、面白くなってきたジャン」
 危険度が上がったと感じたのかやる気を盛り返したゾファルが敵の襲来に備える。
「2方面どちらから来るか……」
 保はゾファルとは逆側を警戒する。
 やがて、ゾファルの目が遠方の木々の合間にオーガの姿を捉えた。
「いたじゃーん♪」
 喜々として迎撃に出るゾファル。
 保も後を追おうとする。
「私達も助力を」
「いえ、ケイトさんは自衛のためにだけ戦って下さい。ここは僕達がやります」
 ケイトも妖精達と共に戦いに赴こうとしたが、保はそれを止めた。

 オーガ達を率いている指揮官オーガは突進してくるゾファルに気づき、ボウガンを射出した。
 ゾファルは聖盾剣「アレクサンダー」で受けたが、矢に付けられていた筒状の爆弾が爆発。
 続けて指揮官オーガと共にいた2体のオーガも手投げ爆弾を投げ、ゾファルは更なる爆炎に包まれる。
「ぬははははっ!」
 しかしゾファルは煤と煙をたなびかせながら無傷で爆炎を突き抜けてきた。
「この程度の爆薬じゃ俺様ちゃんは止められないジャーン!」
 オーガは怯んだが、指揮官オーガの命令で1体が迎撃に向かってくる。
 ゾファルは『二刀流』を発動させるとオーガが斧を振り下ろすより先に拳の間合いに入り込み、機甲拳鎚「無窮なるミザル」で顔面を殴打。オーガの顔がグシャリと潰れる。
 更に聖盾剣の刃で胸を刺し貫く。
 心臓を貫かれたオーガは絶命したが、その間にもう1体のオーガがゾファルの背後に回り込み、指揮官オーガも爆薬矢で狙う。
 しかし指揮官オーガが矢を放つより先に、突如出現した無数の闇の刃がボウガンを持つ右腕を刺し貫く。
 駆けつけてきたルカが『プルガトリオ』で攻撃したのだ。
「間に合いましたね」
 一方、ゾファルの背後に回ったオーガの周りには5枚の符が飛び、『五色光符陣』の結界に囲われていた。
 ケイトを守れつつゾファルも支援できる位置にいた保にはオーガは格好の的だったのだ。
 結界の内で光が収束し、眩い閃光がオーガの身体と目を焼いた。
 全身が焼け焦げたオーガが目を押さえながら苦しげに悶える。
 その隙を逃さずゾファルは振り向きざまに機甲拳鎚でオーガの顔にフックを叩き込む。
 オーガの首が本来曲がるはずのない角度まで曲がり、そのまま仰向けに倒れて動かなくなった。
 指揮官オーガはボウガンを左手に持ち替え、ルカに爆弾矢を放つ。
 聖盾「コギト」で受け止めたルカは爆炎に包まれたが、盾と全身甲冑「ヘパイストス」が煤けた程度で無傷だ。
 ルカは再び『プルガトリオ』を発動し、今度は左腕を串刺しにした。
 両腕を使えなくなった指揮官オーガは逃げようとしたが、両腕が空間に縫い止められたかのように動けない。
 指揮官オーガはそのまま保の『五色光符陣』の結界で囲い込まれ、閃光によって焼き滅ぼされた。


 戦闘の後、ケイトは別れを惜しむように小屋を見ていた。
 40年暮らした様々な思い出が去来し、思わず涙が零れそうになったその時、脳に言葉の意味だけが流れ込んでくるような感覚を覚えた。
『人間よ、森のため手を貸して欲しい』
「えっ?」
「これは!」
 それはハンター達にも聞こえた。
「精霊さん!」
 ケイトにはすぐにそれが森の精霊の念話だと分かった。
「精霊?」
「生きてたの?」
「どこにいるじゃん?」
 皆で探すと、枯れた大樹の根本で小さな新芽が見つかった。
「精霊さん、生きてたのね」
『我は力の大半を失った。しかし、それを戻す……術が……』
 しかしすぐに念話が弱くなってきた。
『また……後……に……」
 そこで念話は途絶えた。
「……皆さん聞いて。精霊さんは力を戻す術があり、手を貸して欲しいと言っていたわ。だったら私は精霊さんと妖精さん達のためにも森に残るわ。今までは私が助けれられていたから今度は私が助けあげたいの」
 ケイトが決然とした表情で告げてくる。
「分かったケイト、貴女の気持ちは汲み取った」
 レイアは微笑みながらケイトの決意を称えた。
「どうやら持参したシードルは別れの酒ではなく精霊復活の祝い酒にできそうですね」
 保は妖精への最後の土産として持ってきていたシードル「エルフハイム」を開ける。
 そしてケイトには寒い時期の薬代わりを兼ねて選んだハーブティー「リスペルン」を贈った。
「こんなちっちゃくて大丈夫なんかねー?」
 ゾファルが屈み込んで精霊の木の新芽を指でつつく。
「わっ! つついちゃダメですよ」
 ルカが慌ててゾファルを止め、気休めでも森の精霊ために自身のマテリアルを注ぎ込もうと思った。
 しかしハンターは定められた【スキル】を介する事でしかマテリアルを扱えない。
 なので代わりに『リザレクション』を施した。


 やがて別れの時となったが、ケイトが一つの事を願い出てくる。
「皆さん、できればで構いません。でもどうか健司君の事を救ってあげて欲しいの」
 それを聞いたまよいが首を傾げた。
「歪虚はどうなったら救われた、って言えるんだろう? 歪虚になった以上、人を憎む気持ちを消し去る方法は、倒しちゃう他にないかもしれないけど……そうなっても構わない、のかな?」
「倒すって殺すという事? どうしてそんな恐ろしい事を言うの。そんな事を願ってはいません」
 ケイトが信じられないといった驚愕の面持ちでまよいを見る。
「特定の歪虚に対して、ある種の感情を抱く気持ちは分かります」
 Gacruxがケイトを宥めるように告げる。
「しかし彼の事を、俺は知らない。通りすがりのハンターの手によって歪虚が斬り捨てられる事もあるでしょう。だからこそ尋ねます。貴女が思う、彼の救いとは何か。貴女は彼をどのように扱って欲しいのか」
「それは……」
「貴女が彼に抱いた感情は、貴女しか知らない。貴女の意思を教えて下さい」
「私が抱いた想いは至極単純なものよ。彼は無理やりこの世界に召喚され、私よりも更に過酷な生を強いられ、人を憎む者になるしかなかった被害者です。そんな彼が歪虚だからという理由だけで殺されてしまうのは余りにも哀れで悲しすぎるわ。だから救われて欲しい。そう願っただけなのです。ですが私自身にも彼を救う術が分からないのに頼るだなんて、身勝手でしたね。ごめんなさい……」
 ケイトは傷心した様子でハンター達に頭を下げた。
「顔を上げて下さいケイトさん。僕にも救う術は分かりませんが、出来る限りの事はしてみます」
 保が懸命にケイトを慰める。
 保自身も本来なら健司の事は後腐れがないように殺して終わりするのがよいと思っていたが、ケイトの頼みであるなら本当に出来る限りの事はするつもりでいた。
 そして負のマテリアルの温床となる後ろ向きな感情を少しでも払拭するため、今の保がケイトにできる事はこれで精一杯だった。

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重体一覧

参加者一覧


  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/11/19 21:53:03
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/21 10:12:33
アイコン 相談卓
保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2018/11/21 19:10:46