• 郷祭1018
  • 空蒼

【郷祭】レフト・ボーイ【空蒼】

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/11/22 07:30
完成日
2018/11/29 02:13

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●一人では何もできない
 連れと喧嘩をした。
 エドワード・ダックワース……普段エドと名乗っている少年はむすっとしながら郷祭の雑踏をずんずんと進んでいる。
 何のことはない。ハンク、ジョンと言う友人と三人で来ていたのだが、空腹と初めての場所での不安が募ってつい心にもないことを言った。それに噛み付いたジョンと大喧嘩になって、彼は単独行動になってしまったと言うわけである。
 そもそも、エドは人付き合いが得意な方ではない。距離の取り方が下手なのだ。ハンクやジョンと一緒に転移してきたのが奇跡のようなものである。

 だいたい、いつも勢いで心ないことを言ってしまって後悔する。言うんじゃなかったと思っても後の祭りで、皆咎めるような目でこちらを見る。
 俺が悪いわけじゃない。怒らせるのが悪い。そう胸中で言い訳しても、後悔と後ろめたさは正直なものだ。

 買った軽食を食べてしまうと、段々落ち着いてきた。だが、ハンクならともかく、ジョンとあまり仲が良くないエドは素直に謝ると言うことに抵抗があった。要するに意地を張っているのである。
 と、前方に人だかりが見えた。なにやら舞台でもやっているらしい。エドが出たのは舞台の斜め前方で、小学生くらいらしい子どもたちが、どうやらハンターの芝居でもしているようだ。

 少し離れたところでそれを見る。

 エドはあがり症でもある。おおよそ、注目される場面になると、指先がすっかり冷たくなって喉がカラカラになってしまう。普段横柄な口を叩いているせいで誰もそんなことは知らない。

(よくあんなことするなぁ)
 小道具の剣を振り回しながら、淀みなく台詞を言い放つ少年を見て、呆れた様な、感心したような、あるいは憧れたような気持ちになる。
 エドには絶対にできない。観衆は、舞台に立つ者を選んでいる。エドが立てばたちまちブーイングに相違ないだろう。

 別に良い。問題は、ブーイングするくせに立たせる連中であって……。

 場違いに甲高い音がした。悲鳴が上がる。はっと顔を上げると大きな猪がのっしのっしと舞台の上に上がっている。
「やだ、猪?」
「どこから来たんだ?」
「迷い込んできたのかしらね」
「これも演出? それとも偶然?」

(違う!)

 覚醒者になったエドにはわかる。あれは……歪虚だ。後から、もう少し小さいのが数頭、のしのしとやって来る。

「出たな歪虚!」
 主役の少年はやや戸惑ったようだが、どうやら歪虚が出るところまでは台本通りらしい。なんてタイミングの悪い!

 エドは駆け出した。

「おい! 待て!」
 舞台に上がる。猪はぐるりと振り返って彼を見る。
 彼を見たのは猪だけではなかった。客席からも視線が彼に突き刺さる。
 猪よりも、人間の視線の方が彼には怖かった。笑われるような気がして。
 いつもそうだ。勢いで何かして、後悔する。自分が立てばたちまちブーイング。
「父兄の飛び入り?」
「でもなんかリアルブルーっぽい人」
「最近転移者増えたからなぁ」
「もしかしていたずら?」
 ひそひそと囁かれる声が、エドの指先から温度を奪っていく。手の指も、足の指もどんどん冷たくなっていくのがわかる。

 やるんじゃなかった。舞台に一人、置き去りにされたような気持ち。視界も段々狭くなる。

 死ぬほど後悔した次の瞬間だった。

「なんと言うことでしょう!」
 教師の一人が声を張り上げていた。
「なんと言うことでしょう! 歪虚が現れてしまったのです! これは大変だ! 子どもたちだけではとてもかないません! でも大丈夫! 今日この会場にはハンターがいるから! 彼らと協力すれば、きっとこの舞台にも平和が戻ることでしょう!」

 今すぐ避難しろ言えばパニックになる。だから、あたかも舞台の一環と聞こえるように言ったのだろうが、嘘は一つも言っていない。いつパニックになるかの不安で、彼の顔は引きつっていた。エドと目が合うと、頷いて見せる。背の高い青年が、後を引き取るように声を張った。

「会場にお集まりのハンターさんは、舞台にお越し下さい! 客席の皆様は下がって頂きますようにお願いします!」

 その人に、彼は見覚えがあった。マシュー・アーミテイジだった。エドがアメリカの森で無茶をした時に拾いに来てくれた軍人。彼はエドに手招きをする。エドは舞台から飛び降りた。
「エドワード、よく頑張りました。あとはベテランに任せましょう。自分たちは観客避難の誘導を行ないます。君も手伝って下さい」
 あまりにも堂々とした宣言だったためだろう。観客は、それが本物の歪虚で、下手を打てば自分たちが死ぬなどとは誰も考えていないようだった。だが、いつあの猪が暴れ出すかわからない。事態に気付いている者たちの顔には緊張と焦りが浮かんでいる。

「全員一度舞台から降りるんだ!」
 教師が舞台に向かって叫ぶ。生徒たちは戸惑いながらもそれに従った。
「ヴィクター! 小学校の演劇舞台のところに雑魔出現! 会場からハンターを集めて! あたしとマシューともう一人が避難誘導をする。討伐だけじゃなくて避難手伝ってくれる人も呼んで!」
 アジア系の女性が無線に向かって手早く指示を出した。
「了解した曹長。すぐ手配する」
「ゆっくり! ゆっくり下がってください!」
 マシューが指示している。観客は戸惑っているようだがパニックにはなっていない。

 ハンターたちが駆けつける。猪は舞台の真ん中で、空に向かって高く鳴いた。
 深い蒼の空に。

リプレイ本文

●ハンター見参
「本物の雑魔登場たあサプライズが過ぎるだろ」
 ジャック・エルギン(ka1522)は舞台を目指して人込みを駆け抜けながら独りごちる。マシューの声が聞こえる範囲にいた彼は、降りて避難誘導に動いていたエドの肩をぽんと叩いた。びっくりした様に振り返るのに親指を立てる。
「しっかりした避難誘導。有能ね」
 同じように彼の傍を駆け抜けたのは、桃色のツインテールを翻したカーミン・S・フィールズ(ka1559)だ。いつもは自分の役目だが、今日はお呼ばれしている。天使のラッパと同じ前をした槍を携えて舞台に向かった。
「あのデカブツを相手にするの私になるわけねー」
「得意だろ?」
「あなたなら不足はないと思うわよ?」
 既知のジャックとマリィア・バルデス(ka5848)にこぼせば、返ってくるのはこの上ない信頼だ。マリィアもまた、エドの傍を通り過ぎ様に、
「……こういうのってどこから発生するのか本当に不思議よね。偉かったわよ、少年」
 肩を叩いた。三人のハンターから立て続けに褒めちぎられたエドは目を白黒させている。
 マリィアは大型魔導銃オイリアンテを持ち出している。すでに避難が済んで空いている、舞台と客席の間に陣取った。
「マリィアさん!」
 ジェレミアが受付に使っていた机を持って走り寄る。
「これ、銃を乗せるのに使って!」
「あら、ありがとう先生。助かるわ」
 彼女は机を銃架代わりにして、銃口を空に向ける。雑魔化した野生動物であるならそれなりに身体能力は高いだろう。リトリビューションで攻撃の精度を落とすのを狙うつもりだ。
「ジェレミア先生にナンシーさん達! って今はそれどころじゃなかったですね」
 穂積 智里(ka6819)は知人の姿に一瞬足を止めるが、慌てて舞台下の猪に向かう。
「せっかくの御祭なのに」
 ぽつりとこぼしながら同じように駆けつけたのは木綿花(ka6927)だった。彼女もまた、ナンシーの知人であり、避難誘導する彼女を見付けている。声を掛けたいが……後回しの方が良さそうだ。
「さて、余裕があれば演技の延長ってことで行きたいが、そこまで余裕があるか、だねぇ」
 アルト・ハーニー(ka0113)は得物を担ぎながら、カーミンとは別の、小さな猪を相手取った。カーミンが大型を、木綿花が下手側の舞台下のものを、ジャックと智里は舞台下上手のものを相手取る。
「大きい方は、私がもたせるわ。フォローはお願い」
 カーミンがマリィアを振り返って言うと、マリィアが親指を立てた手を挙げた。
 完璧な初動であった。猪が本物の雑魔であることを薄々察している観客も、もしかしたら本当に演技なのではないか。台本の通りなのではないかと思うほどに。
「これが、ハンター」
 エドが呟く。
「戦闘職とはこう言うものです。君も見ていけば、今後ハンターとしての活動の参考になると思いますよ」
 マシューがエドの肩を叩く。彼は、エドが腰に吊るした短剣を目に留めている。
「戦うんですよね?」
「必要ならだけど」
 エドはバツが悪そうに応じた。

●あっちでもこっちでも
「さぁさぁ、ご覧じろ、とでも言うのかねぇ」
 アルトはソウルトーチを発動させた。大型には効かなかったが、目の前の小型には十分すぎるほど効いた様だ。生気はないが、貪欲そうな瞳がぎょろりとこちらを見る。オーラの埴輪を侍らせた彼は大仰に肩を竦めた。
「どうせ惹きつけるなら好みの女性か埴輪がよかったんだがねぇ?」
 客席から控えめに笑いが上がる。
「あの猪、雌という可能性は……いや、雌でも嬉しくないわけだが」
 更に笑いが起きた。つかみは上々だ。
「後ろの可愛いね」
「オバケみたい」
「表情に味があって良い」
 埴輪のオーラも好評だ。
「こっから先は通行止めだ」
「コイツの攻撃が届かないとこでやってね♪」
 ジャックは守りの構えで猪の前に立ちはだかった。カーミンも同じ構えを取る。彼女が構えた途端、マテリアルが猪の周辺で可視化する。茨の様だ。
 次の瞬間、リトリビューションの雨が降り注いだ。マリィアが空に向かって撃った四発の弾が、封印の光を伴って返ってきたのだ。猪たちは皆その雨に撃たれる。懲罰の光だ。苦痛の鳴き声が上がった。迫力はばっちりだ。
「この場での狼藉、この木綿花のみならず、天も許しておりません!」
 木綿花が口上の様に声を張る。超重錬成でカオスウィースを巨大化させる。その様子に観客がどよめいた。
「えい、やあ!」
 見た目こそ儚げな木綿花だが、元龍騎士であり、覚醒時に現れる幻想も相まって、その姿はまさしく、荒ぶる龍。芝居らしい掛け声と共に、紅の刀身を振るう。斬られた猪はひっくり返った。賞賛の拍手と口笛が上がった。
「かっこいー!」
「歪虚は闇へと帰るもの。光の降る場所に、居場所はないと心得なさいませ!」
 拍子木が鳴りそうな、堂々たる宣言。歓声が上がった。
 カーミンはその間に仕込みを済ませていた。オレアンダー、毒草として知られる夾竹桃の名を冠したスキルでマテリアルを変質させ、槍を毒刃として背中に突き刺す。手応えを感じた。
 その様子を横目で見ながら、友人の下準備が整ったことを察したジャックは自分も行動に出た。
「今日はお互いお呼びじゃねえんだ。早々に退場してもらうぜ!」
 強く踏み込み、自分の生命力を糧に威力を増した一撃を叩き込んだ。

 アニマ・リベラ。自由な魂は、持ち主の生命力を受けて赤く輝く!

 その迫力は、覚醒していないものでもわかるのだろう、木綿花に負けず劣らずの歓声と拍手、口笛が飛ぶ。
「演出上手いな~!」
 それがトドメになった。すでにリトリビューションで弱っていた上に、足取りがおぼつかなくなっていた猪は、ジャックの一撃を避けきれずにどうと倒れる。それが塵になってさらさらと崩れていくのを見て、観客たちが一瞬静まり返った。
「……やっぱり、本物?」
 智里はパニックになる前に、間髪入れずにデルタレイを撃ち放った。アルトが引きつけているものと、カーミンが押さえている大型だ。光線がまっすぐに飛んでいく様は、観客に動揺を一瞬だけ忘れさせる。
「まあまあ、こんだけ離れてりゃ大丈夫だからさ!」
 ナンシーが無責任なことを言っているのを聞いて、ハンターたちは苦笑した。
「ほ、ほんとかよ……」
 エドが小声で呟いた。

●猪の反撃
「埴輪の加護がある此の俺を、そう簡単に倒せると思わない事だな!」
 狙って使ったとは言え、ソウルトーチで求愛の如きのしかかり攻撃を受けたアルトは、腕で辛うじてそれをしのぐ。軽傷だ。
「……あー、いや、だからって本気で来てくれないでもいいけどねぇ? 埴輪も怒ってるじゃないかねぇ?」
 彼は、自分のオーラの埴輪が、気分によって表情が変わるものだと信じている。しかし、仮に変わっていたとしても、埴輪初心者の観客たちにはその機微がわからない。
「怒ってる……?」
「怒って……る……? ように見える……?」
「残念だねぇ。後で埴輪の魅力についてたっぷり講義でもしようかねぇ。せっかくの舞台だし」

 一方、木綿花は胴部に手痛い刺突の一撃を受けていた。
「……っ!」
 攻性防壁で弾き飛ばす。牙と防壁の電撃が衝突する様は、やはり見た目の迫力は満点で、観客たちのほとんどが木綿花の怪我に気付かなかった。気付いたのは仲間のハンターたちと、元々戦闘職であったナンシーたちだけだ。ナンシーはかつて自分の窮地を救いに来てくれた木綿花のピンチに銃を抜く。
「ナンシーさん、木綿花さんは任せてください」
 智里が手を挙げてナンシーを止めた。
「そっち、任せるわ!」
 大型猪からの刺突をかわしたカーミンが、密会に向かうがごとく姿を消した。舞台を見ていたエドが仰天してひっくり返る。
「何あれ!?」
「疾影士のスキルよ」
 手早くリロードしながらマリィアが答える。弾倉がしっかりセットされたことを確認してから、彼女は再び空に向かって四発を景気良く撃った。再び、光の雨。銃架代わりの机が軋んだ。
「ソドムとゴモラの炎上ってこんな感じ?」
「どうかしら? だったら、帰り道振り返らない方が良いわ」
「塩の柱にされるって? ところで、俺も疾影士なんだけど、いつかあれを使えるようになる?」
「そうね。詳しいことは後で本人に聞きなさい。教えてくれると思うわよ」
 光の雨の中を、智里は木綿花のもとまで走った。木綿花は脇腹を押さえて呼吸を整えている。
「木綿花さん大丈夫ですか」
「智里様。ええ、大丈夫です」
 攻性防壁による麻痺で動きが鈍っていた猪は、リトリビューションを避けきれずに消滅している。智里は木綿花にヒールを施した。
「ないよりはマシだと思います」
「ありがとうございます」
「カーミン! アルト!」
 ジャックが舞台に駆け上がりながら衝撃波を放った。大型は紙一重で回避する。
「デカブツの割にすばしっこいわねー」
 アルトは射線を空けた。彼に気を取られ、なおかつリトリビューションの行動阻害を受けていた小型は、衝撃波の直撃を受けて消し飛んだ。
「あとはこいつだけって訳さねぇ?」
 アルトは振り返る。大型猪は、自分が見えない敵に移動を阻まれていることにかんしゃくでも起こしているのだろうか、噴き出す鼻息が荒い。アルトは武器を振り上げて、そのまま叩きつけた。マリィアがそれに合わせて支援射撃を撃ち込む。もとより、カーミンから受けた毒によって、少しずつだが体力は削られていくのだ。
「舞台の下には行かせないわ? 立ってるだけ。そしてそれだけで削られる。何もできないって言うのはこういうのを言うのよね?」
「ええ、仰るとおりだと思います、カーミン様」
 ジェットブーツで駆けつけた木綿花が、超重錬成で巨大化した刀身を叩きつけた。怒り狂った猪は、自分を抑えている見えない敵に向かってむちゃくちゃに牙を振り回すが、そんな攻撃に命中を許すカーミンではない。もとより見えていないのだ。

 次の瞬間、猪の足が舞台を踏み抜いた。空いた穴に、足がはまり込む。

「かかれ!」
 ジャックの合図で、ハンターたちは一斉に攻撃を加えた。
「チャンスね」
 まずはマリィアがリトリビューションで更に身動きを難しくさせる。
「ここでケリつけてやるよ!」
 ジャック本人は再びブラッドバーストの一撃を。
「これも埴輪の加護、さねぇ!」
 アルトは埴輪を背中にしたまま武器を振り下ろす。
「ここから下には行かせません」
 智里は舞台端からデルタレイを撃ち込んだ。同時にマリィアの支援射撃も飛ぶ。
「これにて仕舞いといたしましょう」
 木綿花は巨大化させたカオスウィースでその巨体を両断する勢いで叩きつけた。龍が飛び立って行く。
「悪役はここで退場なさい?」
 カーミンが不意に姿を現した。観客たちが仰天する。姿を隠していた彼女の一撃は、雑魔にはまさに不意打ち。背中に刺さったダチュラがトドメになった。どう、と猪が倒れる。
「や、やったぁ!」
 ジェレミアが叫んだ。雑魔はそのまま、さらさらと塵になって崩れて消えた。
「ふ、この舞台上の俺を見て埴輪に惚れる奴が出てくれれば最高だが」
 アルトは客席を見た。しかし、観客はそこから遠いところにいる。
「……まあ見えたんなら少しでも……?」

●劇の再開
 一旦休憩、と言うことにした。マシューとジェレミアがその人の良さそうな容姿を最大限利用してそう言うことにした。どのみち脅威は排除されているのだから問題ない。
「おーい、そこの板取ってくれ」
 ジャックは持参していた日曜大工の道具で舞台の修繕を手伝った。急ごしらえだが、子どもの体重なら問題あるまい。念のため、できるだけ避けてもらうことにする。
「はいよ」
 ナンシーが適当な木材を見繕って運んで来る。ジャックは顔を上げてから目を丸くした。そして笑う。
「どっかで見た面々だなと思ったら。ナンシー、マシュー、再会できて嬉しいぜ」
「あたしも」
「よ」
 ヴィクターが手を挙げた。彼は転移前にジャックに助けてもらったことがある。ジャックは額の汗を拭って手を止める。
「それにヴィクター……悪かったな。希望の声はお預けになっちまった」
「何言ってんだ。ここから巻き返すのが様式美だぜ」
「そうだな」
 頷いて、ジャックはエドの方を見た。手持ち無沙汰にしている彼は、ジャックと目が合って驚いた様に見える。
「あとエドワードだったか。俺より先に飛び出すとは、やるじゃねえか」
「あ、いや、俺は……」
「えらーい! とってもえらーい!」
 そこに飛んできたカーミンが、エドの頭をわしゃわしゃと撫でて褒めちぎる。
「ふぁっ!?」
「後輩が頼もしいから、先輩嬉しいわ」
「エッ、あの、俺だけじゃ何にも……」
「何言ってるのよー! 確かに一人ではできないこともあるわね。でも、ちゃんと避難誘導できたでしょ? 何もできないって言うのは、あのデカブツみたいのを言うわけ」
 立ったまま、舞台からも降りられず、毒を受けた上で袋叩きにあった個体である。
「避難誘導もお疲れ様」
 マリィアもエドを労って、ジェレミアに歩み寄り、ぱちりとウィンクを飛ばした。
「先生の歪虚対応もばっちりだったわね。百点満点の出来だったと思うわ。ついでに花丸も差し上げようかしら」
「やったね。教師なんてなかなか花丸をもらえないから。ありがとう。マリィアさんたちが来てくれて安心したよ」
「避難時に転んだり怪我をした方がいらっしゃったら言って下さい。私達で回復します」
 智里と木綿花が観客に呼びかけたが、幸いにも怪我人はいなかった。パニックになる前に収まったし、ハンターたちの配慮が完璧だったからだ。
「埴輪ってなぁに?」
「埴輪って言うのはねぇ……」
 アルトは子どもたちに埴輪の良さを売り込んでいる。一通り観客たちの怪我を見て回った智里と木綿花が、ナンシーに駆け寄った。
「ナンシーさんたちもいらしてたんですね」
「うん。お祭があるって言うから」
「お待たせしました! 間もなく劇を再開します!」
 ジェレミアが声を張り上げる。観客たちは、元の位置まで戻っていた。
「ナンシーさん達も一緒に最後まで観て行きませんか?」
「是非。せっかくですもの」
 智里と木綿花の誘いに、ナンシーとヴィクターは顔を見合わせた。ヴィクターはマシューに声を掛ける。
「おい、マット。予定大丈夫か?」
「自分は何もありませんので。お供します」
「決まりだな」
 劇が始まるまでの間、智里はナンシーたちに自分のサブクラスについて説明した。自分の取ったサブクラスの話、本職を重ね取りしたときの実感など。
「サブは条件さえ満たせばいくつでも取れますから、可能ならマシューさんもヴィクターさんも取っておくと便利じゃないかと思います」
 劇が再開された。ジャックの直した所だけが少し色の違う舞台は、その後不足なくその役割を果たした。

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  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズka1559
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848

重体一覧

参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/11/22 07:32:05
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/20 08:01:24