• 陶曲

【陶曲】作られたもの、捨てられたもの

マスター:KINUTA

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2018/12/06 19:00
完成日
2018/12/13 23:32

みんなの思い出

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オープニング


 とある町の、ゴミ捨て場。
 割れ、錆び、砕け、ねじ曲がり、廃れ果てたものばかりから成る小山の上に、こじゃれたなりの老人が立っている。
 老人は背後に話しかける。

「私が初めてお前を見つけたのはここだったんだよ、サイゴン」

 彼の背後にいるのはCAM――のようなもの。形は動物のサイに酷似している。
 ずんぐりがっちりした体駆。頑丈そうな鎧で身を覆っている。体も大きく強そうだ。
 しかし老人への受け答えから鑑みるに、頭の働きは鈍そうである。

『そうなのか? うーん、おらっち覚えてねえなあ、ラルヴァ様』

「まあ、そうだろう。あれからお前は何度も入れ替わってきたんだから。それにしても以前ここに来たときは、まだまだ山も小さかったんだがねえ。時の経つのは早いものだ」

 大仰にかぶりを振った老人は、さて、と再びサイゴンに話しかけた。

「お前は十分大きく強くなった。単体でもハンターと十分やり合えるだろう」

『おう! おらっち強いぞう! ぺしゃんこにしてやるぞう!』

「しかしサイゴン、お前は自分で戦う以外の力も持っている」

『ん? それは何だぞう?』

「数多の同族を呼び起こし、動かす力だ」

 サイゴンは小さな目をぱちくりさせた。太い首を右に左にする。銅鑼のような声は困惑しきっていた。

『呼びおこ……す? ええと、ええと、ラルヴァ様、それってどうしたらいいんだぁ?』

「分からないかい? モンキチの時には出来ていたはずだが」

『んーん、覚えてねえだ。すんません』

 しょんぼりする巨体の脚をラルヴァは、革手袋をはめた手でぽんぽん叩く。

「まあ、私が言うようにしてご覧。すぐ出来るようになるから。とにかく今日はその練習に集中しなさい」






 とある町。朝。ようやく差してきた日が、冷えた空気を温め始める頃合い。
 清掃人の一団は馬に塵芥車を引かせ、町外れにあるゴミ捨て場へ向かっていた。

「処分場、そろそろ新しいのを作った方がいいんじゃないか」

「前のはもう満杯以上だからな」

「夏になると匂うからなあ……上から土を被せた方がいいんじゃないか」

 などと話をしながらゴミ捨て場にのみ通じる、ゆるい上り道を行く。
 その時、複数の人影が同じ道を下って来るのを目にする。

「ん?」

 こんな時間にこんな場所をうろうろするなんて、これはてっきり不法投棄者に違いない。そう思って彼らは注意しようと声を上げ――かけて止めた。
 朝日を浴び近づいて来るのは人間ではなく人形だ。マネキンも混じっている。目玉が抜けたり髪が剥げたり首が真横に曲がったり腕がなかったり、五体満足なものは一つもない。
 その後ろからぬいぐるみの群れが来る。クマ、イヌ、ネコ、ウサギ、キリン、シマウマ、ドラゴン、などなど。どれもこれも毛は擦り切れ縫い目はほつれ綿がはみ出し哀れな有り様。
 その人形とぬいぐるみの足元でひそひそごそごそ蠢くのは、無数の大きな虫――クモ、ゲジゲジ、ムカデ、ゴキブリなど――本物の虫ではない。ゴムで出来たドッキリオモチャだ。けばけばしかった色は褪せ足は取れ、ひどいのになると胴と頭が分離している。
 それら全ての人形、ぬいぐるみ、虫には口がついていた。カミソリのように鋭い歯がびっしり生えた口が。

「ひぃいいいいい!」

 清掃人たちは大急ぎで馬の首を巡らせ、来た道を駆け戻らせる。
 弾丸のように坂を下り、転倒も辞さぬ勢いで急カーブを曲がり、町へ逃げ帰って行く。
 人形たちはなだれを打つように、それを追いかけて行く。





 リゼリオ。ハンターオフィス。
 カチャは偶然出合ったオートマトンの新米ハンター、ユニと話をしていた。

「あのときのお仲間さん、全員目が覚めたんですか?」

「はい、お蔭様で。それでですね、皆で話し合ったんです。型番は違うけど、同じ倉庫にいて同じ世界に流れてきたのも何かの縁。いわば皆家族みたいなものだから、この際苗字も同じにしてみたらどうかなって」

「へえー、どんな苗字になったんです?」

「色々意見は出たんですけど、最終的に私の名前と一緒の『ユニ』ということになりました」

「え? じゃあユニさんは……正式に呼ぶとユニ・ユニってことになるわけですか?」

「はい。たくさん後輩も出来たことですし、ワタシ、ハンターとしてもっと頑張ろうと思います」

 話もたけなわなところ、受付が急に騒がしくなった。緊急依頼が入ったのだ。

「フマーレ近郊の町で、歪虚が大量に発生したそうです!」






 オートマトンの新米ハンターであるユニは、カチャたちとともに町へ入った。
 人通りはない。皆屋内に隠れているのだ。
 ゴミ捨て場から発生したとおぼしき歪虚たちは、町の大通りを中心に蠢いていた。行動原理は一見して明白だった。皆、『家の中に入ろう』としている。
 人形が、ぬいぐるみが、虫が、家屋の扉や窓に張り付き、こじ開けようとしていた。厚い木の扉がミシミシ軋む。窓ガラスが割れる。
 家の中からは脅えた叫び声。
 ハンターたちは目につくものを片端から壊して回る。
 ユニも扉を齧っているぬいぐるみに近づき、ハンマーを振るった。ハンマーが当たったぬいぐるみはぺしゃんこに潰れた。そして動かなくなった。
 数こそ多いが個々はそんなに強くないらしい。そのことに彼女は安堵する。
 その直後である。周辺にいた人形とぬいぐるみと虫がぴたりと動きを止めた。そして、一斉にユニへと向かってきた。

「何だ!?」

 歪虚の行動転換が意味するものか分からないまま、ハンターたちは、ユニのフォローに向かう。
 彼女はまだ新米だ。数にものを言わせた攻撃を受ければ、たちまちやられてしまう。







 サイゴンは、『兵隊』から自分の視覚へ送られてきたユニの姿に、不審そうな声を上げた。

『こいつは、なんだぁ?』

 彼はユニが自分と同じく『作られたもの』であるということを鋭く感じ取った。
 続けて周囲にいる人間たちが彼女を自分と同格の存在として扱い、『仲間』だと認めているということを理解した。
 人間に作られ、かつ捨てられた物から生じた歪虚であるサイゴンは、それに嫉妬した。彼女の存在が人間以上に忌ま忌ましく感じられた。彼に操られている人形やぬいぐるみ虫も、全く同じように考えただろう――もし、自己の意志を持てたとしたら。



リプレイ本文

●おもちゃの兵隊


 七窪 小鈴(ka0811)が薙刀・神楽を一閃させた。
 おもちゃたちが砕け散る。

「あぁ! どんどんどんどん湧いてくるばい。しゃーしぃー!!」

 天竜寺 舞(ka0377)はユニを背にかばう。ユナイテッド・ドライブ・ソードで、目につくおもちゃを片端から切り裂いていく。

「くそ、こいつら何でユニばっか狙うんだ?」

 マルカ・アニチキン(ka2542)は自身の魔杖・ケイオスノーシスとユニのハンマーに、マジックフライトをかけた。両者、武器とともに宙へ舞い上がる。

「わ、わ、わ、こ、これ、どうしたら」

「まず上に乗ってください、そうしたら飛行が安定しますので!」

 人形が、ぬいぐるみが、虫が、一斉に視線を上げた。ユニをどうにか捕まえてやろうと上に向かって手を伸ばす。口をぱくぱくさせ、牙を噛み合わせて。
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)は蒼機剣・N=Fフリージアでマネキンを切り倒しつつ、訝しむ。

(おかしい……攻撃を受けてるのに、殺気の向きがユニ1人に集中したままなんて)

 ジルボ(ka1732)が彼女に目配せした。重機関銃・ラワーユリッヒNG5で、接近してくる人形をなぎ払いながら。

「どうやら嫉妬の一族らしいが、自然発生とは考え辛い規模だな……多分親玉が何処かに居る筈だ。それを突き止めないとキリないぜ。今のところ連中、ユニちゃんを執拗に狙ってる。その習性を利用できないかね? 可愛いロボ子を囮に使うのはひじょ~に心苦しいが」

 そこで空中にいるマルカから、通信が入ってきた。

『――敵は、町の北東から流れ込んできています――それ以外の場所からの流入は確認出来ません――』

 カーミンは短い逡巡の後選択をした。
 近いものには肉声で、遠いものにはパイロットインカムで、呼びかける。

「数人、ユニの護衛に! 残りは抑えと今の内に街の人の救助にまわるわ!」

 それを聞いたマルカは、急いでユニに確認をとった。

「ユニさん、囮役をする意志はありますか?」

「もちろん、お役に立てるならうれしいです!」

 ならばということでマルカはユニに、エピキノニアとラッキースターを貸す。
 パン、パン、パンと爆竹が弾けるような音。
 龍宮 アキノ(ka6831)が機導砲をぶっ放し、虫の一団を弾けさせたのだ。

「捨てられたガラクタの怨念から生まれた歪虚か。こいつは面白いねぇ、「もったいないお化け」が現実化してしまうのだから」

 舌なめずりでもしそうな調子で言った後彼女は、ユニを見上げる。

「じゃあ頼むよ。なるべく低く飛んで、連中を引き付けてくれたまえ」

「はい!」

 ディーナ・フェルミ(ka5843)はエクウスの首を北東へ向け、駆け去る。おもちゃたちの出所を突き止めるために。

「皆、町の人のことは頼んだの!」

 ルベーノ・バルバライン(ka6752)も魔導ママチャリ・銀嶺で、彼女に続いた。自分は範囲攻撃の手段をほぼ持たない。ならば元凶を叩きに行く方がいいと考えて。
 ディーナはおもちゃたちへ、セイクリッドフラッシュを連打していく。馬上からの攻撃とあって命中率は落ちたが――少なからぬ数を破壊出来た。
 一方ルベーノは道々行き会うおもちゃたちを完全に無視する。ディーナに追いつき、追い越して行く。


●誘導作戦


 おもちゃたちは1匹残らずユニを追い広場に移動して行く。

 ユニに併走飛行するマルカのブリザード。
 舞のアサルトディスタンス。
 カチャの脳天唐竹割り。
 アキノのファイアースローワー。
 攻撃を受けた個体は全壊し、ただの物体に戻る。
 だが攻撃を回避する個体も存在した。多くはないが、確かに。
 フォールシュートを放っていたジルボが、シェルバックラーを足元に叩きつける。知らぬ間に近づいてきていた虫が、踵に噛み付いたのだった。
 彼は呟く。間を空けぬよう、素早くリロードを行いながら。

「全く次から次へと、うようよ湧いて出やがるな」


●市民救助


「ああ、痛い痛い、痛いー!」

「……もう大丈夫やけん、もう少し我慢してな? ……慈悲の光よ。癒す力を……」

 小鈴は千切れかけぶらぶらしている子供の指を両手で包む。フルリカバリーをかける。
 暖かくも力強い癒しの光が子供を包む。指が繋がり元に戻っていく。火がついたような泣き声もしゃくり上げに変わる。
 彼女がそうやって治療を施している間にカーミンは、子供の親兄弟と一緒に建物一階の窓、扉を封鎖して回る。有りったけの家具、そして剥がした床板など積み上げて。おもちゃ歪虚たちは特殊な移動能力を持ち合わせていない。この対処法で侵入を遅らせることは十分可能だ。
 作業しながらカーミンは、以下の旨を仲間に伝え続ける。
 損壊家屋は一通り確認し終わった。住民たちのうちに、死者は出ていなかった。怪我人はいたが全て治療し得る範囲。屋内に潜伏している歪虚はいない。どれもこれも標的をユニに切り替えたものと推測される……。

(指揮官が誰だか知らないけど、やることがどうも素人臭いわね)

 腹のうちで思いながら彼女は、家の住人に念を押す。

「いいですか、私たちが安全が確認出来たと言いに来るまで、外には絶対に出ないでください」

 そして小鈴と一緒に、仲間が戦っている広場へと向かう。全速力で。



●VSサイゴン


 ゴミ捨て場へ誰より早くたどり着いたルベーノは、電動ママチャリ・銀嶺のスピードを加速させる。体高7メートルはあろうかというサイゴンへ、一直線に突っ込んで行く。

「これが格闘士のバンザイアタックだ、受けとれいっ!」

 飛び降りざまの勢いを乗せ電チャリで相手をぶん殴るというアクロバテックな攻撃。
 結果チャリが全壊した。チャリはチャリであって武器ではないのである。
 サイゴンが野太い声で笑った。

『ふははははは、今の攻撃はなんだべ! このサイゴンには蚊が刺したほどにも感じられねえど!』

 と言うなりサイゴンは立ち上がり拳を繰り出してきた。完全な物理攻撃である。
 魔法攻撃を想定した風来縷々が意味をなさないことを直感的に悟ったルベーノは、すんでの所で金剛不壊を発動する。
 サイゴンの拳が命中した。岩山のごとき衝撃がルベーノを襲う。骨が、肉が、砕かれる。しかし彼が戦闘不能に陥ることはない。少なくとも、スキルが発動出来る間だけは。
 あらん限りの気合を入れてサイゴンへ、受けたダメージを返済しにかかる。

「そのデカい図体は飾りか、雑魔を生む以外の能もないか。嫉妬王もこの程度の部下しかおらんとは底が浅いな、ハハハハハ」

 白虎神拳を繰り出す。九麻乱麻を乗せて。
 サイゴンの右目に拳が命中した。
 急所を打たれたサイゴンは、怒りに吠え狂う。
 彼の中で優先すべき攻撃対象が、ユニからルベーノに切り替わった。

『ブオオオオオオオ! よくもぉ、やっただなぁあ!』



●市街戦終結



「てーなコンチクショウ!」

 ジルボは腕に噛み付いてきたテディベアを盾で殴り飛ばし、銃撃を続ける。
 カチャが戦闘の合間を見計らい、彼にヒールをかける。軽く息を弾ませながら。
 彼女の腹部には血が染みていた。

「意外とやりますね、連中」

「予想よりはね。これが数の力って奴か」

 と返す舞の足もまた、赤く染まっている。
 マルカはユニが降下する前に、マジックフライトをかけ直す。
 彼女今回使える同スキルの回数はこれで終了した。よって自分だけ地上に降りる。
 その途端虫に首筋へ飛びつかれ、噛み付かれた。

「――!」

 血が一気にほとばしり出る。立っていられず膝をつく。そこへアキノが駆け寄りヒールをかけた。それからデルタレイを炸裂させ、虫を消し炭にする。
 住民への対処を終えたカーミンと小鈴が合流してきた。
 おもちゃたちの移動力に相違があると気づいたカーミンは、現場に着くなり仲間たちに呼びかける。

「護衛、一度大きく前線下げて!」

 それに応じて護衛班が後退する。
 おもちゃたちが追う。人形、ぬいぐるみ、虫の順で。
 カーミンは横合いから入り、中盤にいるぬいぐるみたちを叩いた。小鈴はそのフォローに回る。
 集団の中間地点に穴が空く格好となる。
 残ったおもちゃたちは二手に分かれた。前後からカーミンたちを挟み撃ちにしようとする小集団と、ユニを目指す大集団とに。

「あら、2正面作戦? 誰がやってもうまくいかないのよ、それ」

 うそぶくカーミンは全ての攻撃を避け切った。しかし小鈴は頭を噛まれた。
 前衛班が前線を再び押し戻す――そのとき、突然人形たちに変化が起きた。統率が一切なくなって、パターン化された攻撃を個々が繰り返すのみとなる。
 機を逃さずハンターたちは一気に畳み掛けた。マルカがファイアエンチャントで強化した武器を用いて。
 新たなおもちゃの増援は――来ない。


●VSサイゴン


 ゴミ捨て場についたディーナが見たのは、ルベーノがサイゴンの足に拳を叩き込む姿だった。

「所詮ゴミから作られたお前もゴミと言うことか、この見かけ倒しめ、ハハハハハ」

 台詞だけ聞いていれば余裕たっぷりだが、実情はそんなものでなさそうだった。周囲を大量のおもちゃたちに取り巻かれており、それからも攻撃されている。全身血みどろだ。
 ディーナは、エクウスの首を叩き励ます。

「駆け抜けていいのそのまま走り去っていいの私は飛び蹴りするから……お願いエクウス頑張るの」

 命令通りエクウスは駆けた。
 ディーナはサイゴンに突っ込み、飛び蹴りをくらわす。そのまま着地しプルガトリオを発動する。
 おもちゃたちは総じて動きを止められた。
 しかしサイゴンは違った。抵抗力が高いのか、プルガトリオの効きが悪い。体中を軋ませながらも、無理矢理動く。

『ふんぬううううう! こ・ん・な・も・のぉおおおおらっちにはきかねえだぞぉおおおおおお!』

 巨大な拳がディーナを襲う。
 至近距離にいた彼女は回避が遅れた。とてつもなく重たい一撃が足を打ち砕く。
 彼女はそのまま場から動けなくなった。自己の傷を回復するスキルを持っていなかったので。
 ルベーノがサイゴンの前に出、注意を引く。

「貴様の相手はこの俺だ!」

 幾度となくダメージを受け、幾度となくお返しする。
 まだ意識を保っているディーナは伏せたまま、残りのプルガトリオを連発する。
 動きを止められたおもちゃの兵隊たちが、銃撃を受け次々に弾け飛んだ。
 ジルボがゴミ捨て場に到着したのだ。
 彼はおもちゃを狙撃することに全力を注ぐ。余裕があれば親玉をとも思っていたが、そこまで手が回りそうにない。
 続けて小鈴がゴミ捨て場に到着した。その後カチャ、マルカ、カーミン、ユニ、舞。最後にアキノ。
 ルベーノがサイゴンの腹に拳を食い込ませる。
 鎧の装甲が幾らか凹んだ。
 プルガトリオを打ち尽くしたディーナは力を振り絞り、サイゴンの足に狙いを定めた。そしてセイクリッドフラッシュを放った。
 足の鎧の表面に薄くひびが入る。
 それを見てディーナは笑った。
 直後サイゴンが真上から拳を落としてきた。ここでディーナの意識はいったん途切れる。
 小鈴、カチャ、アキノ、そしてユニがディーナの元へ向かう。目下一番危険な状態にあるのは、彼女だと思われたので。
 舞はサイゴンの気を引くため立体攻撃を駆使し、巨体に駆け登った。
 彼女は見た。サイゴンのひび割れた右の瞳の中で巻ネジが回っているのを。それはかつて知った歪虚が体につけていたものと、全く同じものだった。

「あんた、もしかしてラルヴァの手下?」

 直感的にそこ目がけ、刃を振り下ろす。しかし外れた。刃は目ではなく額に当たり跳ね返される。
 大きな腕で彼女をなぎ払い地に叩きつけたサイゴンは、続けてルベーノに殴り掛かった。金剛不壊のスキルを使い切ってしまったルベーノは、もう攻撃に持ちこたえることが出来なかった。胴から下を砕かれ動けなくなる。
 カーミンがナイフ・デフテロレプトをサイゴンの後頭部に叩きつける。
 サイゴンは振り向き、腕を振り回した。彼女はそれを華麗に回避した。

「チェックメイト。さあこの手をどう受けるの、嫉妬の魔物?」

 と煽る。
 そうしている間にカチャ、小鈴、アキノがありったけ回復魔法を注ぎ、ディーナ、ルベーノ、舞を回復させる。
 ユニはそれらを庇うようにサイゴンと相対し、ハンマーを構える。
 彼女を見下ろすサイゴンの顔は、妬みと憎しみに歪んでいた。

『お前、人間に守ってもらってるからっていい気になるでねえぞ。そのうち飽きられて、捨てられるだからな。おらっちたちみたいによ。人間は人間以外のことなんて、なんとも思ってねえだからな』

 サイゴンの体が真ん中からバックリ割れ、巨大なトラックへと変じた。
 トラックは大量の黒い煙を吐き出し、それを煙幕として逃げていく。ジルボの銃撃も届かないほど遠くへ、あっという間に。
 アキノはニヤニヤしながらその逃走を見送った。

「君の秘密をどうしてもこの手で暴かなきゃいけないんだ。今度会う時は君は解剖室送りだ。精々楽しみに待っているがいいさ」

 サイゴンが去ると同時にまだ壊されていなかったおもちゃたちが倒れた。司令塔が干渉を打ち切ってしまえば、ガラクタはただのガラクタに戻るしかないのである。
 とりあえず、危機は去った……ようだ。
 カーミンは何よりもまず先に、ユニをねぎらう。

「無理を言ったわね。後は任せて、先に休んで」

 カーミンにユニは、はい、と答え、聞いた。心配そうに。

「あのー、オートマトンも飽きられたら捨てられるんでしょうか」

 どうもサイゴンから言われたことを気にしているらしい。
 ジルボは気さくな笑顔を浮かべ、彼女の背を、ぱんと叩く。

「嫉妬の言うことなんざマジにとることねえよ」

 マルカが続ける。

「そもそも、あなたたちはあの歪虚と同じものじゃありません。人間なんですから」

「そう、ですか」

 一応納得したらしいユニは、ほっとした顔になる。
 舞はおもちゃの残骸を見回し、言った。

「こちらには人形供養みたいのは無いのかな?」

 カチャが尋ねる。

「人形供養って何ですか?」

「もう使わなくなった人形とかぬいぐるみとかの……まあ言ってみれば葬式、かな? 供養塔を作ったりするんだ。それはそれとして、逃げてったあのデカブツ、前にラルヴァがスペットから奪っていった玩具にすんごく似てたんだよなあ……」

「え、そうなんですか?」

「うん。だからブルーチャーに聞けば、なんか弱点とか分かるかもしれない。あいつが設計したんだし」

 ディーナは足元に落ちていたぼろ人形を抱き上げる。

「ラルヴァってなんでゴミから歪虚を作るのかな……意趣返し? 自分もゴミ製だったりするのかなあ」

 アキノは焦げたぬいぐるみの頭を割き、口笛を吹く。

「それはなかなかに興味深い仮説だね」

 ルベーノは憮然とした面持ちで、ため息をついた。

「嫉妬王も困らせてくれる……」





 ハンターたちにはこれから、町の後片付けが待っている。



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    人間(蒼)|12才|女性|聖導士
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • ライフ・ゴーズ・オン
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    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
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    人間(紅)|20才|女性|魔術師
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    人間(紅)|18才|女性|聖導士
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    人間(紅)|26才|男性|格闘士
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    人間(蒼)|26才|女性|機導師

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マルカ・アニチキン(ka2542
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2018/12/04 16:06:00
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/12/06 09:09:10
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天竜寺 舞(ka0377
人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/12/06 17:37:04