【港騒】はじまりのフィナーレ

マスター:樹シロカ

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/12/17 22:00
完成日
2018/12/31 01:28

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●後始末

 極彩色の街「ヴァリオス」は同盟の事実上の首都である。
 自由都市評議会(コンシェル)や魔術師協会の本部、そして同盟軍の本部もこの都市にあった。
 その同盟軍本部のある部屋で、メリンダ・ドナーティ(kz0041)は最敬礼のまま彫像のように立つ。
「ご苦労だった、ドナーティ中尉。楽にしていい、座りたまえ」
「はいっ」
 メリンダは流れるような動作で手を下ろし、背筋をピンと伸ばして椅子に掛ける。
 その前には杖に両手を重ねて鷹揚に頷く軍服姿の老人の姿があった。
 この老人こそ、かつての同盟軍総司令官、イザイア・バッシ(kz0104)名誉大将である。
 時に厳格に、時に飄々と。自在に印象を変える彼は、一部では幾人かの影武者がいると噂されるほどだ。
 メリンダも職務上何度か顔を合わせ言葉を交わしてきたが、いまだにこの老人の本当の姿は分からないでいる。
 だが不正や傲慢とは無縁な人物であることは、誰しも疑うことはない。
 またイザイアが海軍と比較して低く評価されがちな陸軍を、何とか盛り立てようとしていることも知られていた。
 そんな状況で、先日メリンダが巻き込まれた事件には、陸軍の将校が関係していた。
 メリンダはイザイアを頼って将校を告発し、ハンター達の助けを借りて捕らえることに成功したのである。

 その件で、メリンダはイザイアの呼び出しを受けた。
「さて、貴官にも思うところはあるだろうが」
 イザイアの皺に囲まれた目がメリンダを見据える。
「本件について、以降の調査は専門の機関が担う。貴官は本来の業務に戻りたまえ」
「……はい」
 わかっていたことだ。
 陸軍の暴走は、下手をすれば名誉大将の軍での発言権まで奪いかねない。
 例え陸軍の背後に潜む「何か」を感じたとしても、それはメリンダの手の届かない場所だった。
「とはいうものの、1件だけ貴官に片付けてもらわんとならん件があってな」
 老人が笑みを浮かべる。
「マネッティ曹長以下5名について、然るべき対応をしてやらんとな」
「了解しました。謹んでお受けいたします」
 マネッティとその部下4名は、不運が重なった結果、死亡扱いとなっていた。
 今回、軍への復帰を打診されたが、全員が退役を選んだのだ。
 軍はそれを許可し、相応の退職金も支給されることとなった。
 つまり互いにそれで手打ちとする、ということだ。
「ところで、ひとつお願いがあります。彼らの安全な帰郷を保証していただきたいのです」
 メリンダは真っ直ぐ顔を上げ、はっきりとそう言った。

●懐かしの我が家

 赤毛の大男が家の扉をノックしていた。どう見ても人が生活している気配はない。
「おかしいですね。大家さんに訊いてみます」
 マネッティ曹長は不安そうな顔で、彼を見守るハンター達とメリンダのほうを振り向いた。
 名誉大将との約束で、今回の被害者であるマネッティ曹長たちが家族と会うまで、軍の責任でケアすることになっていた。
 メリンダとしては名誉大将のお墨付きを得てハンターを雇うことで、先の事件の関係者からの妨害や口封じを防ぐつもりだった。
 部下4人たちは先にそれぞれの故郷に帰っていった。
 最後まで残ったマネッティ曹長は、自分の家族が住んでいるはずのとある街に戻ってきたところだ。
『家族でジェオルジに帰って、農業でもしようと思うんです。もう軍はこりごりですし。嫁さんと子供たち、食べていけるぐらいは何とかなるでしょう』
 マネッティは嬉しそうにそう言っていたのだが……。

 尋ねた家から、年配の女性が顔を出した。
 次の瞬間、女性は目を見開き、マネッティの両腕を掴んできた。
「あんた、生きてたのかい!? どうしてたんだよ今まで!!」
「ちょっといろいろあって……あの、家内は……アニタはどこへ……?」
「あんたが死んだと聞かされたからね。昔あんたと出会った店に戻るって、家を出ちまったよ! もう何年も前さ」
 マネッティは赤毛を掻きむしる。
「子どもを抱えてか!? なんてことだ、探しに行かなくちゃ!」
 メリンダがハンター達の顔を見る。
 困惑と恐縮がメリンダの表情にありありと浮かんでいた。

リプレイ本文


 トルステン=L=ユピテル(ka3946)はいつも通りの表情で、淡々とメリンダに声をかける。
「ま、無事で何よりだったな。ちっとは懲りたかよ」
「ご迷惑をおかけしました」
 メリンダも表面上は、普段と変わらない。
「しょうがねえさ。今回の事件の事はメリンダも話せそうもないよな。なんだっけか守備岐阜だっけか?」
 役犬原 昶(ka0268)は守秘義務と言いたかったようだ。
「とにかくそんなんがあるんだろ。軍人って大変だよな」
「でもハンターの皆様も色々とおありでしょう」
「はっはー! ま、人に言えねえアレコレは胸にしまうしかないしな」
 そう言う昶だが、基本余りしまっていないという自覚もある。
 トルステンはふいと横を向いた。
 ――これ以上のことは言っても仕方がない。メリンダにも立場や仕事というものがある。
(けど……俺は期待してるんかな、その先の『仕事』を)
 ネスタ大佐の部下が取った行動は、明らかに大佐とは別の「何か」との繋がりを示していた。
 けれどそこから先を手繰るのは、ハンターの仕事ではない。
(そーゆーのは専門のプロがいるんだろーな。こないだのフィンツィさんとかさ)
 あの男も何を考えているのか全く分からない。
「……もし調査が進んで、色々公開していい段になったらでいい。この事件が何だったのか、教えてくれよ」
「はい、いずれその時がくれば」
 トルステンは肩をすくめるしかなかった。

 マチルダ・スカルラッティ(ka4172)が任務の内容を確認して、頷く。
「それでもメリンダさんが色々調べてくれたから、マネッティさんたちも見つかったんだし」
 マチルダ自身も完全に納得したわけではない。
 だがメリンダが身の危険に際して頼った相手の判断なのだろう。今は成り行きを見守るしかない。
「だから約束。また何かあったら、遠慮なく私たちを頼ってね、メリンダさん」
「ありがとうございます。それで、早速のお願いになるのですが」
「うん、マネッティさんも家に帰れるんだ、よかったね」
 パトリシア=K=ポラリス(ka5996)がやや思案顔で尋ねた。
「マダ誰かが皆を傷つけるカモしれないって、そう思ってるってコト?」
 道中の護衛の依頼が出た件が気になるのだ。
 メリンダが静かに頷く。
「管轄エリアでの大佐の影響は無視できません。ですがジェオルジの部隊は別組織ですし、余所者は目立ちますから」
「そか。もし危険があるナラ、パティは力になるからネ」
 それから、と笑顔を見せる。
「……もうちょっと。来年の今頃にハ、パティも20歳ダカラ。そしタラ、メリンダとお酒が飲めて、もっといろんなお話、一緒にできるカナ?」
「あら、それは楽しみですね。ぜひお願いします」
 メリンダの声から、ようやく硬さが取れたようだ。


 それからマネッティの家へ向かう。
「ここか?」
「はい、間違いありません!」
 昶が魔導トラックを停める間も惜しい様子で、マネッティは顔を輝かせて飛び出していった。
 その後を、ハンター達は少し遅れてついていく。
「コレで俺らの役目は終わり、か」
 トルステンの、いくらかの感慨を込めた言葉だったが、すぐにマネッティの様子がおかしいことに気づく。
「家に人の気配がありません。大家さんに聞いてきます!」
「あ?」
 一同は顔を見合わせた。
 それから大家とマネッティの大声の会話が聞こえてきて、メリンダは愕然とその場に立ち尽くす。
「え、待って、絶対ここにいるって……」
「メリンダさん、大丈夫だよ。まずは話をちゃんと聞いてみようよ」
 マチルダがお姉さんのようだが、おそらくメリンダの頭の中ではあらゆる仕事の都合や段取りが渦巻いて、一瞬機能停止に陥ったのだろう。
「そ、そうですね。それから近くの陸軍の部隊に連絡して……」
 ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は取り乱すマネッティを落ち着かせようと試みる。
「ほらそんなに取り乱してたら、探せるものも探せなくなっちゃいますよ。私達も手伝いますから、詳しく話を聞かせてください」
 赤毛を掻きむしる大男が、手を止めた。
 昶が肩を組み、腕を叩いて慰める。
「よし、まず話を整理しようか。まずはであったっていう店に行くのが手っ取り早いか?」
「場所とか、ちゃんと覚えていますか? ほかにも色々教えてください。私達も情報を共有したいので」
 そういうルンルンの目はキラキラ期待に輝いている。
 何年も離れ離れだった奥さんに逢いたくて取り乱す男、酒場での出会い。これはもう、ロマンスの期待しかない。

 大家さんが見かねて招いてくれた部屋で、マネッティは尋ねられるままに語る。
「何年も前の話? だったらその店にももういない可能性が高いんじゃないか」
 昶が気の毒そうに言うと、ヴァージル・チェンバレン(ka1989)も思案顔で低く呟いた。
「そもそも家を離れて4年か……。死んだって聞かされてちゃあ、もう次の旦那を見つけていてもおかしくないな」
 マネッティが頭を抱えて悶絶。メリンダがフォローに入る。
「戦死扱いですから、見舞金が出たはずです。数年暮らせるぐらいは!」
「あんたの実家と折り合いが悪かったんだろ? あの子も頑固だしね、揉めて自棄を起こしたんじゃない?」
 と、これは一家を知る大家の言。
「あり得る……アニタなら……」
 マネッティが顔を覆って呻く。
「えっ? アニタ!?」
 パトリシアが椅子から飛びあがった。
 だがトルステンが唇に指をあてて、暫く落ち着けと合図を送ってくるので、そわそわしながら座り直した。
(そういえばアニタの姓もマネッティだったカモ!?)
 ルンルンが膝を乗り出して畳みかける。
「アニタさんとは酒場で知り合ったんですね! どんな人ですか? 気風のいい美人とかそんな感じ?」
「はい、美人です」
 この男、即答しやがった。
「近くの駐屯地の連中が集まる酒場で働いていて。通い詰めて口説き落として……」
 マチルダが労わるように声をかけた。
「お子さんもいるのかな。幾つぐらいで何人? その辺りも教えてもらえるかな」
 奥さんの容貌、子供の人数や年齢、そして名前。大家さんのツッコミが適宜入りつつ、家族構成は判明。
「それでもこの広い世界で、干し草の山の中から針を探すような話だけどな」
 ヴァージルがメモを指で叩く。事実を述べているだけなのだが、そのたびにマネッティは身を捩る。

 そこでパトリシアが我慢できず口を開きかけた。
「アニタにレベッカ、ビアンカ、エリオって……!!」
 いずれもよく知っている名前だ。だが即座にトルステンが口を覆って黙らせる。
「どことなくたいちょさんに似ているよーな? って、嬉しいお話でもダメ?」
「どれもよくある名前だ。もし間違ってたら、ショックだろーが」
 トルステンとしては、そんな偶然がにわかにあるとは信じがたい。
 マチルダが酒場の場所を確認する。
「ここからそんなに遠くないんだね。じゃあ今から行ってみようか」
「すぐ出発ですよ! 人探しもニンジャにお任せなんだからっ! 大船に乗っちゃっててください」
 ルンルンはマネッティを立ち上がらせ、元気づけるように両腕を叩く。
「よし。じゃあまずは大トラックに乗ってくれ。めっつらごーってやつだな!」
 昶はさっそく表に飛び出していった。


 トラックに乗り込もうとするメリンダを、パトリシアとトルステンが呼び止める。
「あのネ、パティとステンは先に、アニタとエリオとほいで……」
「マネッティの身内っぽい心当たりがあるんだ。ケド、ぬか喜びさせんのも酷だろ。ちょっと確認してくる」
「本当ですか! では何かわかったら最寄りの部隊を通じて連絡してくださいね」
 個人が持っている通信手段の範囲は限られるため、手続きが面倒でも、陸軍などの連絡網を使ったほうが早いのだ。

 トルステンとパトリシアが目指すのは、リアルブルー移民が暮らすバチャーレ村だ。
 そこにはアニタという女性と、その子供たちも暮らしている。子供たちは以前、「父ちゃんに逢いたい」と言っていた。
「たいちょさんに会えたら、みんなびっくりするネ! レベッカとビアンカは、たいちょさんを取り合っちゃうカモ。ふふふ♪」
 馬を駆るパティは嬉しくてたまらない。その瞬間の皆の顔が思い浮かぶようだ。
「アニタたちがほかの村とか、行ってないといいんだが」
 トルステンは魔導バイクすら遅く感じていた。
 村に到着した二人を、村の代表であるサイモンが出迎えた。
「サイモン、今日ハびっくりニュースのお届けヨ♪ アニタたちは元気?」
「ええ、さっき家の前で会いましたよ。どうかしましたか?」
「ちょっと話が長くなるんで、一緒に来てくれ」
 トルステンが経緯をかいつまんで説明すると、サイモンも驚いたようだ。
 そしてこの話を聞いたアニタは、当然ながらもっと驚いた。
「え? あの人が、ニーノが生きてる……?」
 特徴から、どうやら当人で間違いないようだ。
「あー、じゃあこっちからも動いたほうが早いな。領主サマのところ、ちょうど真ん中ぐらいじゃねーの」
「あの、サイモン! これ!」
 パトリシアが勢いよく財布を取り出す。
「ごちそう! 用意しててほしいノネ!」
 サイモンは笑って、それを謝辞する。
「村の住人のお祝い事ですから。お気持ちだけありがたくいただいておきます」
 それからサイモンの魔導トラックにアニタ達を乗せて、パトリシアとトルステンが先導して領主の館へ向かう。
(村の住人、か)
 トルステンの口元に微かな笑みが浮かんだ。
(マネッティも一緒にバチャーレ村に移住してくれたら……うん、悪くねぇ、すごくいいなそれは)


 一方、マネッティと同行した班は、目的の酒場が数年前に店を閉めたことを知る。
「アニタはどこへ……」
「店がなくなってて困ったらしくてね。旅人から荷物を失敬したりしてたみたいだけど、ジェオルジのどこかの村に引っ越してったって話だ」
 マネッティは青くなったり赤くなったりしていたが、ハンター達のお陰でどうにか取り乱さずにいた。
「もう少し他の人にも聞いてみるのです。聞き込みはニンジャの得意技ですよ!」
 ルンルンとマチルダは、メリンダの案内で昔マネッティが配属されていた陸軍の拠点へ向かう。
 そこへ連絡が届いた。
「アニタさんが見つかった? ジェオルジ領主の館で合流したい?」
 ニンジャ力を発揮するチャンスがなかったルンルンはちょっとだけしょんぼり。
 だがすぐにぱっと顔を明るくする。
「でもよく考えたら、これってすごい事ですよね……きっと運命の出会いだったんです」

 当然、マネッティも驚いた。
 だがここまでに激しい感情のアップダウンを繰り返してきたため、若干疑い深くなっている。
「あの、本当に私の家族なんでしょうか……」
「一先ずは手掛かりができたんだ。良かったじゃないか」
 ヴァージルがそう言いながら、あたりを見回す。
(そう言えばここには立ち寄ったことがあるな)
 そう、実はこの男、今回のメンバーの中で唯一、酒場で旅人をひっかけていた頃のアニタに出会っているのだ。
 だが数多く受けた依頼のうちのひとつ、現地に来るまで忘れていたとしても当然だろう。
(成程、あの美人か。酒場の娘と言われれば納得だな)
 ふと笑みを浮かべたがすぐに納め、真面目な顔でマネッティに詰め寄った。
「いいか、お前さんにも事情があったとはいえ、かなりの苦労をかけたのは間違いない。女手ひとつで子供を養うのは大変だ」
「え? あ、はい」
「つまりだ。生きていたと聞いて、喜びより怒りがわくかもしれない。許してもらえるかもわからない。その辺の覚悟はできているか?」
 ルンルンがマネッティの腕を引っ張る。
「大丈夫ですよ。こんなにも苦労して、偶然がいっぱい重なった、運命の相手です。奥さんも喜んでくれますよ!」
「いや、今は女というより母という生き物だ。それに女というのは案外現金な生き物だぞ」
「だったら、奥さんやお子さんに何かお土産買って行ってあげてもいいかも……喜ぶと思いますよ」
 ルンルンとヴァージルの間で目を白黒させていたマネッティだが、とりあえず頷く。
「そうだな、ご機嫌を取るに越したことはない。まずは子供たちの気持ちを掴め。子供を制すれば勝ち目はある」
 勝つって何に。
 マネッティはそう思ったが、ひとまず近くの店に飛び込む。


 トラックがジェオルジ領主の館に着くと、眼鏡の男が飛び出してくる。
「マネッティさんですね? 私はバチャーレ村のサイモン・小川と申します。こちらへ」
 助けを求めるように視線を彷徨わせるマネッティ。ヴァージルはその背中を押した。
「言い訳はするなよ」
 マネッティがハンター達に半ば引きずられるように居間に入っていくと、アニタが悲鳴のような声を上げた。
「ニーノ!」
「アニタ……!」
 マネッティがよろめきながら近づく。アニタは目を潤ませながらその場に立ち尽くしていた。
「よかった、無事だった……」
 マネッティがぎこちなく、小さな花束を差し出そうとしたその時、アニタの右腕が翻った。
 一同が思わず身をすくめる。
 ――ぱしーん!
 マネッティの頬から響く鋭い音。
「今まで何やってたのさ、バカ!!」
 だがアニタの言葉はそこで途切れ、後は子供のように泣くばかり。
 マネッティは片手でアニタを抱き締め、少し離れた場所で立ち尽くす子供たちにもう片方の手を伸ばす。
「今までごめん。それと母ちゃんをありがとうな、エリオ。すっかりお姉ちゃんになったな、レベッカ。ビアンカは父ちゃんのこと覚えてるか?」

 ハンター達は、子供3人と妻を抱き締める大男の姿を見守る。
「色々あったけどほんとに良かった……」
 ルンルンは微笑みながら思わず呟く。
「だな。結果としては一応大団子ってやつだ!」
 大団円と言いたかったらしい昶も、少しは胸のつかえがとれたようだ。
 綺麗ごとだけではなかった一連の事件だったが、この一家にとっては必要なことだった。
 助けられた人たちがいる。ならばハンター達の戦いは、無駄ではなかったと胸を張って言えるだろう。
「良かったヨーほんとに良かったヨー」
 泣きじゃくるパトリシアに、トルステンがハンカチを貸してやる。
「鼻水拭いてもいいからよ」
「うぐ。みんなが無事で。みんなみんな、繋がってるのネ」
 マチルダがほっと息をついた。
「村の人たちもいい人みたい? 元気で新しい生活を頑張ってほしいな」
 そこでふと、今回の件に関わった人物のことを思い出す。
「そうだ、ヴァネッサさんにも教えてあげなくちゃ」
「ああ、最後のケアまで済ませたからな。何かご褒美がもらえるかもしれん」
 ヴァージルが楽しそうに笑った。

 世界の全てが美しいわけではない。けれど、世界には美しいものが確かにある。
 例えば、子供たちが「お礼に」とくれた石に込めた想いのように。
 だから今は祈ろう。
 新しい門出に幸あれと――。

<了>

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MVP一覧

  • Q.E.D.
    トルステン=L=ユピテルka3946

重体一覧

参加者一覧

  • 師を思う、故に我あり
    役犬原 昶(ka0268
    人間(蒼)|27才|男性|霊闘士
  • 俯瞰視の狩人
    ヴァージル・チェンバレン(ka1989
    人間(紅)|45才|男性|闘狩人
  • Q.E.D.
    トルステン=L=ユピテル(ka3946
    人間(蒼)|18才|男性|聖導士
  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティ(ka4172
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 大家さん家の前で…ご相談
マチルダ・スカルラッティ(ka4172
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/12/17 20:37:19
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/12/17 18:21:04