• 虚動

【虚動】最終防衛線は海に敷け!

マスター:旅硝子

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/01/09 19:00
完成日
2015/01/17 06:18

みんなの思い出

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オープニング

 第四師団の拠点都市、ベルトルード。
 国営の商港と大きめの漁港、そして関係者以外立ち入り禁止の軍港。3つの港を持つ街は、新師団長就任の噂で持ち切りだ。
 新しい師団長は海戦の天才らしい、という希望に溢れた声もあれば、海賊出身の新師団長は圧政を敷くだろうという悲観的な声もある。
 けれど、新師団長を直接見たという者は、まだいない――。

 実は第四師団に師団長が着任したのは、革命以来のことである。
 元々帝国においては、海軍の存在は軽視されがちであった。しかしこの夏、海より来たる歪虚が同盟に襲来したことにより、『人類の盾たる帝国は、海においても盾であるべきだ』と海軍の増強がようやく話題に上ることになった。
 その目玉の1つが、師団長の就任であったはずだ。
 しかし――師団長代理の任をようやく解かれた副師団長リーリヤ・ローレライは、己の執務室にてこめかみを押さえてため息をついた。
 30代半ばの女性である。ずり落ちた眼鏡をゆっくりと上げ、ほつれた髪を耳にかけ、手に取った書類は皇帝からの命令書。今日の朝、届いたばかりのものだ。

『新たに任命された第四師団長ユーディト・グナイゼナウに命ずる。歪虚に奪われたCAMの1体がベルトルード北海岸に向かい逃走中、海軍を以て最終防衛線を敷くと共に、不測の事態に備えよ』

 師団長代理を長らく務めてはいたが、リーリヤは海戦には明るくない。だからこそ、海戦のベテランだという師団長の就任は、喜ばしいことである。そして、海軍の必要性をようやく認められたかのような、今回の命令も。
 だが――。
 黙ってリーリヤはクローゼットを開ける。防音性に優れて、収納スペースも多い。
 息を大きく吸って。
「なんでこの第四師団の新たな師団長が、よりによってあんなおばあちゃんなのよ……!」
 彼女の叫びは、クローゼットに吸い込まれていった。

 一方『あんなおばあちゃん』が、何をしていたかというと。
「ほら根性見せなさいあなた達。はい、次来なさい」
「……とりゃぁー!」
 一気に距離を詰めて振り下ろされるシャムシールを模した木刀を、軽くトライデントが弾く。一撃、二撃、そして三撃目で木刀を三又になった穂先の間で挟み、ひょいと捻りあげて放り出す。
「なるほど。あなた、名前は?」
「はぁっ、はいっ、クロードです!」
「クロードね、覚えておくわ。はい、次いらっしゃい」
 次々に師団員と手合わせし、トライデントで相手の武器を捌き、素手でも飛びかかってくる者は石突で抑え込む。
 新たな師団長に一撃でも与えた者には、金一封。そう言われて金目当てで、あるいは突然出てきた老女を少し痛い目に合わせてやろうという思惑で訓練場に集まった兵士達の目が、徐々に畏怖に染まっていく。これだけの手合わせを重ねておいて、この老女――ユーディトは、微笑みの表情を崩していないのだ。
「これで全員ですよ、師団長」
「あらまぁ、えっと……何人だったかしら?」
「事務方ではない純戦闘員を集めましたから、198名ですね」
「あらあら、あたし頑張ったわねぇ」
 頬に手を当ててにこにこ笑うユーディトに、青年がお疲れ様です、とタオルと飲み物を差し出す。
「ありがとね。さて、このくらいでへばってる子はいないわね? 行きますよ」
 汗を拭い、喉を潤し、さっさと訓練場を出ようとするユーディト。
「しっ、師団長……どこへ?」
 思わず声をかけた兵士に、ユーディトがにっこり振り向く。
「今度は操船を見せてもらうのよ。はい、行きますよ」
 そしてすたすたと歩き出すおばあちゃん。唖然と見送りそうになる兵士達に、青年がユーディトによく似た笑顔で微笑む。
「さ、行こうか。師団長は待つのはあまり好きじゃないし、実力を見るってことはそれによっては処遇も考えるってことだよ」
 そう声をかけて歩き出した青年――もう1人の副師団長エムデン・グナイゼナウを、慌てて兵士達が追って行った。

 ――翌日。
「リーリヤちゃん、ちょっといいかしら?」
「何でしょうか、師団長」
 固い声と共に顔を上げたリーリヤに、ユーディトは走り書きで名前と役職が書かれた紙を差し出す。
「私あまり手続きはわからないのだけれど、人事ってとりあえずリーリヤちゃんに頼めばいいの?」
「人事……? ……え、え!?」
 呆然と紙を受け取り、目を通すリーリヤ。そこには上等兵と一等兵への昇進者の名が書かれ、理由がざっと明記してある。
「これで上等兵が5人になるわ。全員、少なくとも今ある5隻の高速小型艦の艦長を務められるでしょう。一等兵は輸送艦の操船と、先陣を切って指揮ができそうな者を集めてあるわ」
 今回の海戦に向けての臨時的なものではあるけれど、と微笑むユーディトよりずっと長く第四師団を見てきたリーリヤにとっても、納得のいく人事であった。
(……このおばあさん……いえ、師団長……悪くは、ない?)
 眼鏡を上げてじっと名前をチェックして、リーリヤは少し考えてから頷く。
「わかりました、手配しておきましょう」
「ありがとうねぇ。……あ、それからハンターの皆さんにも協力をお願いしようかと思ってねぇ」
「ハンターの?」
「ええ。歪虚との戦闘については、彼らの方がプロだものね」
 自分では浮かびもしなかった考えに、けれどリーリヤは胸の中で頷く。
 まだ、この師団長を信じているとは言えない。けれど、彼女の中で、わくわくと何かが動き始めていた。

 5隻の高速小型艦が、ベルトルード北湾に向けて出港したのは、その数日後。第二師団と魔導アーマーによるCAMの迎撃と合わせて、最終防衛線を敷いた形だ。
 その中でも最も高性能の艦には、ハンター達も同行している。
「……ところで、『きゃむ』とかいう随分大きなものを、海まで持ってきてどうするつもりだったのかしら?」
 ふとそう口にしたユーディトに、兵士の一人が「持って逃げるんじゃないですか?」と首を傾げる。
「どうやって?」
 ぱちりと瞬きするユーディト。ふと、ハンター達の脳裏によぎる記憶――こういう輸送を得意とする歪虚の存在。
 そして次の瞬間、双眼鏡を覗いていた兵士が声を上げた。
「師団長! 上空に歪虚と思われる影を発見!」
 す、とユーディトが顔を上げる。その向こうには、リンドヴルム型と呼ばれた機械と腐肉の融合体――量産型剣機。
「なるほど。飛べば運べるわねぇ……」
 そう言って肩を竦めたユーディトは、通信機に向かい声を上げる。
「第一艦以外は距離を取り射撃準備! 第一艦は敵の接触を待ち、近接戦を行う!」
 そして振り向いたユーディトは、ハンター達に微笑んだ。
「うちの兵士達は、歪虚との戦いは不慣れだわ。いい手があったら、どんどん教えて頂戴ね」
 す、と上げたトライデント。量産型剣機のぬめりと光る鉤爪が、小型艦へと迫る中。
 海底から、誰も気づかぬうちに、ゆらぁりと巨大な影が。
 徐々に、徐々に近づきつつあった――。

リプレイ本文

 北国の冬の海は、鈍色をしている。荒い波は白く泡立ち、轟と響くは海鳴りの音。
 その揺れる甲板に平然と、ユーディト・グナイゼナウ(kz0084)は揺らぎもせずに立つ。
「あのばあちゃんが師団長……ルミナちゃんの見立てなんだから、きっとあの人も化け物なんだろうなぁ」
 僕知ってる、と小さく呟いたのは、キヅカ・リク(ka0038)。帝国軍にある十の師団、長を務めるのはこれまでいずれも劣らぬつわものであり、さらには個性派揃いである。
「なーなーユーディトのばーちゃん。後でレベッカも一緒にリアルブルーの海賊映画でも見ようぜ。帝国にもDVD再生できる機械くらいあんだろ?」
「あらまぁ、ラザラスちゃん。リアルブルーには海賊が活躍する作品があるの?」
 きらきら瞳を輝かせるラザラス・フォースター(ka0108)に、その個性派の1人ユーディトが楽しげに微笑む。
「でも第四師団は貧乏だから、リアルブルーの機械には手が出なくてねぇ」
「じゃあ許可が取れたら俺の部屋でもいいからさ!」
 ――軍に入るしかなかった人生を悔いているわけではないけれど。
 幼い頃憧れた、自由な海賊。それを体現するようなユーディトを見ているのは楽しくて興奮を隠せない。
「さて、剣機ですが……量産型は初見ですね」
 その様子を眺めていた米本 剛(ka0320)が、ふっと顔を上げた。
「歪虚の輸送機、といった感じに今は運用されてるのでしょうか? ……輸送機にしては物騒すぎますか」
「ま、デカいトカゲ相手に防衛戦、それもまた悪くないな」
 清柳寺 月羽(ka3121)がにかりと笑い、水中銃の照準を合わせる。皆がのんびりと会話しているように見えて、戦いの準備は整いつつあった。
 ユーディトがふと真面目な顔で見つめた、少し先を駆ける高速小型艦でも。

 ばーちゃん、あたしに一隻任せてもらえないかな。
 レベッカ・アマデーオ(ka1963)がそう言ったのは、作戦の打ち合わせ中だった。
「あら、レベッカちゃんに? ……理由を、聞きましょうか」
 真剣な瞳を向けたユーディトに、レベッカの隣にいた白主・アイノネ(ka2628)が口を開く。
「異変が起きたとき、緊急対応としてフリーで動ける別戦力が欲しいためです」
「空以外に来るとしたら海じゃない? なら、あたしとばーちゃんは分散した方が気づきも早いってね」
 さらに続いたレベッカの言葉に、少しユーディトは考える。確かにCAMも含めて敵増援の発生は、対応できる艦が多くない中最大の懸念であった。
 ハンターであり、そして同じ海賊の出身であり、また2日間言葉を交わしたレベッカを、そして彼女と同じ船に乗ると言うアイノネを、信頼すると決めて。
「わかったわ。一番足の速い艦をそちらに回しましょう。どうか、よろしく頼むわね」
「ありがとう。あと、沿岸にも警戒のための戦力を配置しておいて。海底を来られたら、多分あたしやばーちゃんでも気づけない」
 さらに提案したレベッカに、ユーディトは頷いて。
「離れていても、戦う目的もいる場所も一緒。海の上ですからね。よろしく頼むわ」
 そう言って、表情をふわりと緩めて微笑んだのだった。

 通信子機を手にレベッカは、船の帆先に陣取っていた。風の流れ、雲の流れは、その時の海がいかなるべきかを教えてくれる。
 それと違う動きがあれば、異常事態ということだ。
「攻撃は出来ますが、海に関しては私は素人なので……空と海、敵増援がないか索敵をお願いします」
 目を合わせ、丁寧に頼んで頭を下げたアイノネに、軍服を着崩し頭にバンダナを巻いた男が、双眼鏡を手にびしりと親指を立てる。
 次の瞬間、上げた声は剣機接近の報。
 索敵・警戒メインの役割に恥じず、旗艦の見張り手が発見を告げたよりも、幾分早いタイミングであった。

 既に見張り担当には、念のためにとラザラスがトランシーバーを渡してあった。
 他の船にも連絡は送られ、戦闘準備を整えている。――彼らが待ち受けるのは、剣機だけではない。
 もしCAMがここまで来てしまえば、相手取らねばならぬのだ。
「此処までCAMが来るっていう事は、もう後がないっていうこと、か。兎に角、どうにかしないと」
 徐々に近づく影に向けて、リクがアサルトライフルを構える。少し前で構えた月羽の水中銃と共に、射程の長い銃だ。
 最初に響いたのは、2発の銃声。月羽が先に、リクが続いて、剣機が射程に入った瞬間に引き金を引いたのだ。
 大きな翼を狙った一撃は、どちらも命中する。しかし、目立った傷がついたようにはまだ見えない。
 すっ、と旗艦の砲術長を任された女性が手を挙げ――振り下ろす!
「てー!」
 その声と同時に、魔導銃が火を噴いた。他の艦からも僅かに遅れて、銃声が、そして勢いで僅かに揺れた艦が水面を揺るがす。
 命中率は高くはない。しかし5隻に4挺ずつ合わせて20の射撃は、数打てば当たると考えれば悪くない。
「八百万の神よ、悪しき闇を穿つ光を与えたまえ!」
 聖印を宝石に刻んだ指輪が輝き、剛の手に生まれた光が吸い込まれるように剣機の胸へと向かい――爆ぜる。
 初めて、剣機の口が苦しげに開いた。
「光属性は効くようですね」
 そう言って剛が大太刀を抜くと同時に放たれたのは、アルケミストデバイスに素早く指を滑らせたラザラスの機導砲。翼を射抜いた光に、怒りを抱いたかのようにばさりと翼が空気を叩いて。
 両脇の下にあるガトリング砲が、照準を旗艦に合わせ――!
「射撃手もうええ! 他のもんもなるべく下がりゃっ!」
 きっと視線を険しくしたユーディトが荒くなった口調で叫んで舟板を蹴り、最前線の剛と並ぶ位置に着く。ほぼ同時に、ガトリング砲が乱射される!
 旗艦のハンター達を、そしてユーディトを巻き込んだ弾丸の嵐は、さらに甲板へと食い込み、艦の装甲を削る。
「船にゃ防性強化が効かないのが残念だぜ……!」
 主に能動的な防御能力を強化する防性強化は、無生物には効果を発しない。
 最前線の剛、月羽、ユーディトには順にかけておいたが、持続時間から考えると使い続けるのは難しい――が。
「戦いは得意じゃねえが、オレにはオレの戦場があんだよ!」
 まだ喫水線より下に被害はないが、それでももしもの事態を防ぐため、船の内壁に抉れた弾痕に補強材を詰めていくラザラス。その手つきは、若さに見合わずいっぱしのCAM整備員として働いていたのを物語る正確さだ。
 一方、分乗していたレベッカとアイノネも、剣機との戦いに突入していた。
「こちら攻撃に移ります、索敵をお願いします!」
 そう声を掛けたアイノネは、白に銀弦の眩しいグリントボウをすっと構えて。
「囚われたラマツ、ポクナシルへ案内いたしましょう」
 ラマツは魂。ポクナシルは下方の国と呼ばれる場所――あの世。
 解き放たれた矢が、煌きを宿して量産型剣機の翼へと迫る。さらにレベッカが身の丈よりもはるかに大きな弓を横ざまに引けば、轟音と共に光を纏った矢が翼を射抜く。
 ぎろりとそちらの艦へと視線をやった剣機は、けれど強敵の多い方を優先しようと思ったのだろう。
 索敵を兼ねるレベッカやアイノネには、その方がありがたい――!
 剣機の近づく気配に、リクがアサルトライフルを起点にマテリアルを集めそれを仲間達へと放つ。攻性強化、エネルギーにより攻撃力を高める技術。
 一気に羽ばたいた剣機が、最前列の3人と艦の壁面を巻き込むように尾を曲げ強く振るう!
「ふっ!」
 一気に息を吐いた月羽が、日本刀とナイフをクロスさせ横からの衝撃に備え息を吸う。
「ぐっ……!」
 衝撃は重いが、耐え切れぬほどではなかった。リクがその瞬間に張った障壁のためでもあるし、月羽自身の堅守の構えのためでもある。
 受け止めきれず流れた尾を、ユーディトのトライデントが叩き落とした。曲がった尾を足場にすると、ダン、と跳び上がり翼の根元を狙う。
(しかし、この腕前と判断の柔軟さ……『実は皇帝陛下の世話役兼師匠であった』と言われてもおかしくない気がしますな。全くもってこのような方もまだまだいらっしゃるとは、世の中広く面白いものですね)
 そうユーディトの様子に、感心の笑みを浮かべてから。
「接近すれば活路あり、と思ったのならば……愚策ですね!」
 剛が言い放ち、最後に大きく曲げて船体を掠めかけた尾を、がしりとその身で受け止める。聖者の指輪を起点に光を呼び、その力を仲間の武器へと宿して。
 打ち合わせていた通り、片翼に攻撃が集中する。月羽の強打がガトリング砲を欠けさせて威力を削ぎ、光を纏った武器が次々に翼を貫き、或いは切り離していく。
 レベッカとアイノネが同時に放った光の矢が、大きな穴を翼に空けた瞬間。
 その身体は、大きな飛沫を上げて海に落ちた。

 けれどその衝撃とは違う海のうねりを、レベッカは敏感に感じ取っていた。
「水中! 何か、来る!」
 通信子機に向かって叫ぶ。こうすれば、己の艦も含めた全艦艇に急を知らせる報が届く。
 けれど、その間にも海のうねりは一気に巨大化し――レベッカの口元が僅かに引きつる。
 まだその姿は見えない。なのにこれだけの波を起こすのは明らかに、超巨大なる相手にしか為せぬこと。
 連絡を受け、アイノネがグリントボウを足元に落とす。サヴァーと銘された盾、白露の名を持つ刀を構え、接近戦へと備える。
 そして、旗艦にいるハンター達にも。
「何だ……この揺れは?」
 月羽が首を傾げながらも、まずは水面でじたばたと最後の抵抗を試みる剣機に止めを刺してやろうと、首筋を狙い強打を叩き込む。爪の二連撃は、出来うる限り二振りの刃で防いで。
 受け切れぬ爪に肩を裂かれ頬に飛ぶ血すら、ぎらりとした雰囲気と相まって月羽を鬼神の如く美しく彩る。
 リクがアサルトライフルの引き金を引く。その瞬間、確かな手ごたえを感じた。
 ぐしゃり、と剣機の顔の半分が潰れ、金属がこすれ合うような悲鳴が上がる。剣機の身体が、水中で大きく暴れる。
 船底へと駆け下りたラザラスは、振り回された爪で突き破られた船壁に素早く対処していた。毛布を押し付け、さらにその上から板を当てていく。
「角材切ってくれ!」
「これでいいか!」
「おう!」
 船内に支柱を立て、そこから当て板に向けて梁を作る。海賊達も作業に手馴れているらしく、ラザラスの指示に打てば響くように応える。
 そして、剛の伸ばした手に光が集まり、沈みつつももがく剣機に向けてトライデントを突き出したユーディトが月羽に叫ぶ。
「それ、こいつを足場にせぇや!」
 無言で頷いた月羽が、船のへりを支点にしたトライデントに飛び乗り、先端に向けて滑りながら刀を上段に構えて。
 輝。斬。
 断末魔の悲鳴を上げて、量産型剣機は力を失い海の底へと沈んで行く――だが、それと比例して何かが、近付いてくる。
「足止めたら沈められるよ! 相手はデカブツだ、あたしたちに任せて操船に集中!」
 通信機を通じてレベッカの声が響く。それと同時に、レベッカとアイノネの乗った艦が最前線へと躍り出た。
 水面に目を向けていたユーディトが、さらに通信機へと叫ぶ。
「三番から五番、転進! 距離を取れ、攻撃よりも沈められんことさ考えい!」
 海のうねりが大きくなる。巨大になる。膨大になる――!
 最初に姿を現したのは、巨大な砲台。さらに旗艦と索敵艦に、今まで最大の衝撃が走る。
「魚雷……!?」
 船底での作業中に現れたそれに、ラザラスが目を剥いた。リアルブルーのものとは材質が全く違うが、何かの骨をベースに金属で補強したそれは、間違いなく魚雷と言うほかない形状をしていた。
 その間に水面では砲台が回り、狙いを索敵艦へと定め――!
「伏せてええええええええ!!」
 レベッカとアイノネの声が唱和する。アイノネとレベッカが、咄嗟に前に飛び出す。次の瞬間、凄まじい衝撃が2人と、そして船体を襲う。
「規模の大きい浸水が発生!」
 船底から届いた報告と、大きく傾いた船体にレベッカが眉を寄せる。
「……反対側の船室に注水! とにかく、バランスを保って!」
 そう決意して指示を出したレベッカに軽く頷き、アイノネはボロボロになった船のへりに足をかけて。
「役目を譲ってもらった分、無様はできません」
 刀と盾を持ったまま、海へと身を躍らせる。艦の上からでは――この艦を、守り切れぬと。
 その頃旗艦からも、剛と月羽が水中へと飛び込んでいた。指揮を執るため残ったユーディトが、頼むな、と声をかける。
 ほぼ同時に水中に潜った3人は――思わず、目を見開いた。水中でなければ、叫んでいたかも知れぬ。
 そこにいたのは――

 身の丈二百m、幅数十mを超えようかという、腐敗しつつある鯨の身体に鎧の如く白骨を纏った『何か』の姿だった。

 急速に浮上した『それ』が、身体を大きく暴れさせる。水が蠢き、ヒレであろう部分が3人を一気に薙ぐ。傷の痛み、そこに海水の染みる痛みに加えて、もう一つの――毒であると、気付くのはすぐであった。
 急ぎ剛が癒しを呼び、月羽がマテリアルを活性化させて傷を塞ぐ。咄嗟に堅守を使ったアイノネも、傷は深い。
 それでも、いくらも耐え切れそうになかった。
 だが。
 もう一撃砲撃と魚雷を放ったかと思えば、再び巨体に見合わぬ速度で海底へと去っていく『何か』。
 一瞬唖然とした3人は、バランスを崩した2隻の艦の姿を確かめ、慌てて水面へと戻って行った。
 ――それは、陸上で歪虚化したCAMが撃破されたすぐ後のことであった。

「ものづくりに賭けてきた職人の技なめんなよ!」
 もう1発の魚雷を受けてボロボロの旗艦を、ラザラスは何とか支え切っていた。
 知る限り全ての手段を講じ、沈没を防ぐ。
 だが――ほぼ囮となって砲撃と魚雷を受け続けた索敵艦の方は、限界だった。
「全員、飛び込んで! 余裕のある艦は救助お願い!」
 レベッカの通信を受け、ユーディトが「三番艦から五番艦、救助に当たれぃ!」と命ずる。
 レベッカとアイノネが身を以って守ったため、死者はいないが衝撃で重傷を負った者はいる。船の上に残してはおけぬと駆け回り、浮具を取り付けて甲板へと引き上げる。
 やがて三番艦と四番艦が傷少なく海に飛び込んだ兵士を救い上げ、五番艦が接舷して重傷者を移す。
 ボロボロになったレベッカとアイノネが最後に飛び移った瞬間。
 役割を立派に果たした艦は、急速に沈んで行った。

「……ごめん、ばーちゃん」
 預かっていた艦を沈めてしまった、と俯くレベッカの頭に、ぽんと手が置かれる。
「乗っていた全員の命を助けてくれたのは、あなた方なのよ。胸を張って頂戴な」
 ありがとう、と全員に深く頭を下げてから、ユーディトは呟く。
「それにしても、あれは一体……」
 ハンター達の頭には、1つの単語が浮かんでいた。
 今戦ったばかりにして、以前総力で戦った相手。

 その名は――『剣機』。

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MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオka1963

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユーディトの孫ポジション
    ラザラス・フォースター(ka0108
    人間(蒼)|12才|男性|機導師
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオ(ka1963
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 鎮魂歌を奏でる兎
    白主・アイノネ(ka2628
    人間(蒼)|16才|男性|闘狩人
  • 蒼より来たる鬼神の娘
    清柳寺 月羽(ka3121
    人間(蒼)|19才|女性|闘狩人

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/04 21:11:24
アイコン 相談卓
米本 剛(ka0320
人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/01/09 19:00:13