【初夢】の長耳倶楽部

マスター:石田まきば

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2019/01/04 07:30
完成日
2019/01/08 10:27

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●STAFF ROOM

「完成したのである!」
 スタッフルームの奥の扉、その向こうから響く声。
 休憩中のスタッフが皆、揃って扉の方へと視線を向けた。

 バァン!

「汝等、我の成果を褒めることを許すのである!」
 胸を張りながらも起用に差し出すヴォール。その手には薄型のゴーグル……のような何かである。やたらコードが繋がっているので「何か」としか言いようがなかった。
「それで、何をする道具なんだい?」
 コードをくるくると指で巻き取りながら尋ねるシャイネ。
「雑に扱うなんて言語道断なのである。これはVRゴーグルであるな」
「あ~流行ってるよな? でもさぁ、カラオケだぜ、ここ?」
 飽きれた声のハジャ。珈琲があれば何でもいいらしい。飯も食え。
「……VR? なにそれ」
「バーチャル・リアリティ……現実にはないものであっても、本物であるかのように五感に信じ込ませることが出来るシステム……でしたかしら?」
 首を傾げるアイリスに、丁寧に答えるフュネ。
「正解である。しかも我の開発したこのゴーグルは、装着者の脳から発せられるマテリアルを読み取ることで、望み通りの空間を作り出すことが出来るのである!」
「なん……だと……!?」
 ガタッと立ち上がるカミラ。
「ならドイツでジャーマンポテトが食べたいと念じれば行けるのだな!」
「ジャーマンポテトは汝が自分で用意するのである」
「そこはカルヴァドスっていうところじゃねーんですかね」
「タングラムさま、次の発注にはカルヴァドスをリストに入れて於きますね!」
 さり気に希望を通そうとするタングラムとフクカン。どう聞いても関係ない話題である。
「……カルヴァドスは却下です」
「ちっ」
 勿論エクゼントに阻止された。

「すみません、続きをどうぞ、ヴォール」
「う、うむ……場所と衣装といった、視覚的な情報はある程度まで再現させることが出来るのである。読み取りをゴーグルで行い、部屋と人体への写しはコードで繋がったカラオケ機と、部屋ごとにあるシーリングライトで可能になったのであるな」
「ふむ……ある程度以上、となると何が問題なのでしょうか」
 ぞれまでずっと考え込んでいたユレイテルの疑問に、確かにと首を傾げる一同。
「例えば装着者が自分以外のヒトを想像した場合であるが。『自分とは別の存在』という固定観念がある為に、そのヒトの動きや表情等を明確に再現できないのである。どんなに頑張ってもノイズが混じってまともに見れたものじゃないのであるな」
「その『自分とは別の存在』が同じ部屋に存在する場合はどうなるのですか? 例えば、カップルでVRを楽しみたい場合とか」
「パウラはいい質問をするのであるな。全員がゴーグルを使うことで、互いに互いの情報を補うので問題がなくなるのであるな。ただし、マテリアルが複数混じるのであるからして、風景の情報も混ざり合うのである」
「そこは事前に説明を行って、そういうものだと周知しすり合わせを行っておいてもらえれば……」
「ユレイテル君、面白い商売になりそうなのかい?」
「私もVRやりたいぞ!? ユレイテル、私達は遊べないのか!?」
 シャイネとカミラに挟まれたユレイテルは、気にせず企画書にペンを走らせていた。

「ところで、このゴーグルって何個あるのかしら?」
 首を傾げたオルクスに、ヴォールも首を傾げた。
「完成したばかりであるからして、この1個であるな」
「それはまずいですよ、ヴォール」
「???」
 察したエクゼントが説明をする前に、答えの方からやってきた。
「ヴォール。大至急優先すべき重要な仕事が決まりました」
 ユレイテルが企画書を見せながら、それを告げる。
「大晦日までに、25個……いえ、予備を考えて50個。このゴーグルを量産してください」
「!?!?!? ……我、徹夜明けなのであるが……」
「メンテナンスはアイリスが居るから大丈夫ですよ、さあ、よろしくお願いしますね、偉大な開発者殿?」
「!!! うむ、分ったのである。隈が消えてからが勝負であるからな!」
 あっさりと扉の向こうに戻っていくヴォールの背を見ながら、1名以外は皆同じ事を考えていた。

(((ユレイテルのスイッチを入れるのはやめておこう)))



●DIRECT MAIL

【カラオケ倶楽部「森んちゅ」初夢限定オプションのお知らせ】

 クリスマスも終わりましたね!
 あなたのところに素敵なサンタさんは現れましたか?

 本日は「森んちゅ」から初夢限定特別オプションの特別なご案内です♪

 ななな、な~~~んとぉ!
 「森んちゅ」ではVR体験が可能な新設備が登場しちゃいました!
 お客様の望む風景の中で、楽しい時間をお過ごしいただけます!

 いつものカラオケルームとは違った雰囲気の中、
 思いきり喉を震わせるも良し、
 美味しいドリンク&フードに舌鼓を打つも良し、
 ほろ酔い気分で静かな時間を楽しむことだってできちゃいます!

 そ・れ・に!
 このダイレクトメールを受け取った貴方だけの、特別出血大サービス!
 ……詳しくは『ココ』から捲ってね♪

●SECRET MASSAGE

 当店のスタッフをご指名頂いて、いっしょにVR体験をすることができるのです!
 スタッフの名前と、ご希望の役所をご注文シートにご記入いただければ、お客様のご要望に沿って誠心誠意お相手させていただきます!
 もちろん、守秘義務はばっちり! セキュリティ対策もばっちり!
 一度限りの特別な思い出を、是非一緒に作りましょう♪



●STAFF ONLY

カラオケ倶楽部「森んちゅ」メンバーリスト (※ 社外秘)

☆厨房担当
・カミラ
居酒屋風からパーティー仕様、スイーツだってお手の物。女王様と書いておかん。
・フュネ
創作料理を繰り出したら名物料理としてウケてしまった。お嬢様。

★機材担当
・ヴォール
メンテナンスだけやっていればいいのに時々ぶっ飛んだ発明品をもってくる。尊大。
・アイリス
直感的に機械の不具合をあてることが出来る。不思議系二重人格。

☆ドリンク担当
・タングラム
お酒もソフトドリンクも全てを網羅してるらしい。面倒くさがり。
・オルクス
妹の世話がメインだと公然の噂だがお酒は詳しくない。シスコン。

★ルーム担当
・シャイネ
退室後の片付けや機材の過不足チェックをしている筈が時々勝手に歌っている。フリーダム。
・エクゼント
彼が片付けた部屋は光輝いているように見える。似非ヤンキー。

☆配膳担当
・フクカン
ドリンク担当になりたいのに希望は永遠にかなわない。ちょこまか。
・パウラ
注文を受ける時の速記が密かな自慢。天然。

★会計担当
・ユレイテル
器用貧乏過ぎて総合職を押し付けられた、精神的過労枠。真面目時々ぶっ壊れ。
・ハジャ
過労で倒れられたら困るので仕方なく助っ人気分で働いている。珈琲党。

リプレイ本文

●即興発明バグだらけ!?

「ふふふふふ、卒業を待つだけの今だからこそー!」
 完成した! とばかりに両腕を高らかにあげて、クレール・ディンセルフ(ka0586)はその喜びを最大限に示した!
 もうすぐこの機械工学部のキャンパスを後にするのだ。いつまでも好きな研究、ものづくりに浸ってばかりはいられない。自由な時間のタイムリミットが迫った今だからこそクレールは己の四年間の集大成をこの新しい技術に籠めたのだ!
 だってほら、就職も決まっているし。卒業に必要な諸々も全てつつがなく済ませていたし。やることが無くて暇だったとか、まだ学生気分を味わっていたいとか、そういうことではない、大丈夫だ。社会に出るのがちょっぴり怖いとか、そういうわけじゃないぞ!
(今は横に置いておかないと!)
 背後で効果音を担当してくれている、二体のロボットへと笑顔を向ける。
「さあ、待っててねー、キューさん、カマさん!」
 ぴっぴこーん♪
 ぺっぺかぷー♪
「そうだよね、楽しみだよね? 勿論私も、もっとおしゃべりが出来るようになるなら嬉しい!」
 二体に完成したばかりのパーツを取り付けていく。試作品ではあるが、何とか同じものを二つつくりだすことが出来たのだ。だって学生生活で、一番長い時を一緒に過ごした二体。この技術の完成を確かめるなら、ぜひこの二体と一緒にしたいに決まっている。
 さあ、運命の……スイッチ、オーン!(×2)

「ど、どうかな? キューさん?」
「マスター!」
 想像よりも可愛らしい声が響く、合成された機械的な響きだけれど、けれど意思が籠もっているのがわかった。なぜだろう、天使の羽だったはずの突起を含めて全てが黒く染まっているし、何度瞬きして確認してみても、羽がパタパタと動いているような?
「まさかの!? キューさん腹黒説!?」
「マスター、ひどいですよ! 私達、せっかくいつもの整備に対してお礼を伝えようと、楽しみにしていましたのに」
「主、想定外ノ毒舌」
「まさか色まで変わると思わなくて……って、その声はもしかしなくてもカマさん!? クールというより、渋い……」
 こちらはハスキーな雰囲気である。やはり機械的な響きを持っているし、もう一体と似ている筈であるのに与える印象が違いすぎる。ちなみに色は変わらなかったが、ペイントの豹が剣を咥えていた。
「我求ム、主ノ謝罪! 誠意!」
「えっ……あっ、ごめんなさい! まだ謝ってもいなかった!」
「謝罪ノ遅延、賠償! 我望ム、主ノ歌!」
「私もマスターの歌を要求します!」
 後輩達に贈ろうと準備していた曲が確かにあるのだ。二体に演奏補助を頼むつもりでも居た。練習にもなるし、いい……かな?
「じゃあ……今は二人にこの道へかける情熱を籠めて歌います! それでは聴いてください、鋼の声(トラベラー!)」

 ♪~
 レッツゴー! デンジャラース!
 失敗なんて気にしない
 進んだ分だけ前を向け!
 落とし穴なんて笑ってけ
 塞ぐも越えるも気分次第

 レッツゴー&ローックンロール!
 怖がってちゃ答えなんて見つからないだろ!

 アゲイン!

 レッツゴー! デンジャラース!
 見たい世界はどこにある
 怪我がどうした唾付けろ!
 出来た道なんか蹴っ飛ばせ
 なぞらず横切れ気儘万歳

 レッツゴー&ローックンロール!

 フォーエバー!
 ~♪

 はいこちら、廊下からお送りしております。
「他の品まで試験運用することになると思わなかったのである……」
「運用データが採れたでしょう?」
「りょ、量産予定はないのである!」
 スタッフルームへと足早に立ち去るヴォール。その背をユレイテルは微笑んで見送っていた。



●働くしかない!

「今年もバリバリ働くわよ! 乾杯っ♪」
「乾杯!」
 とりあえず、で頼んだのは互いに生ビールジョッキ。
 ツマミのヴルスト&ポテトに申し訳程度に手をつけるなんてこともなく、高瀬 未悠(ka3199)の喉がごくごくと鳴る。勢いよくジョッキの中身が消えていくのをキヅカ・リク(ka0038)は見守ることしかできない。
「っはぁ~~~♪」
「新年早々、気合十分だね?」
 食べ物入れないと悪酔いするよ、と皿を押し出しておく。素直に手を伸ばす未悠に内心少し、ほっとしてみたり。
「そりゃそうよ! だって今年は一番に新年の挨拶が出来たんだから!」
 誰にって聞かなくてもわかるというもの、未悠一推しで最愛の上司、情報部の部長のことだ。新人時代に教育の担当をしてもらってからずっと、未悠はこの恋心を温めてきている。
(わかってたけど、わかってたけど!)
 未悠と同期のリクは、その惚気話を聞かされ続けている。年始の休暇明けとはいえ最初からカッ飛ばされるとは。
(ルミナちゃんに振り回されたばかりなんだけどな)
 初詣から始まる年始の挨拶回り、営業部恒例地獄の弾丸ツアーで歩き回ったリクである。特に今年は鬼のワンマン部長ヴィルヘルミナとのコンビだったのだ。座っている今はいいが、身体はしっかり疲労を示していた。しかし表情に疲れは見えない。脳内だけとはいえ上司を愛称で呼ぶリクの肝は絶対に上司に見透かされている。
(明日筋肉痛かなあ……休みにだらけ過ぎたか)
 トレーニングを増やそうかな、なんて別の事を考えているその間も、未悠は今朝の上司の挨拶について語っている。おっと、聞き流し過ぎてもよくない!
「……でもね、一区切りつける度、ひとりひとりに労いの言葉をかけてくれて、その微笑みが素敵なのよ! ああ、この為に私働いてるって思うの……!」
「うんうん、久しぶりだから余計に効果覿面だったんだね?」
 相槌もうっておく。あまり投げやりな返答だと気が逸れたのがばれるので、注意が必要だ。
(さっさと告白すればいいのに……いや、したんだっけ?)
 アピールが分かりやす過ぎて情報部だけでなく、社内で知らない者はいない筈だ。
 未悠は女の魅力よりも仕事能力でアピールをする性質だから、周囲には微笑ましい、と言った視線を向けられている。しかしいくらビックデータやら時事やらの情報を整理し経営戦略に投影させるのが主要業務とはいえ、個人の恋愛事情が駄々洩れと言うのはいいのかそれで、情報部。
(ま、業務が厳しいって言うしね)
 休日だろうと常に目を光らせていないと、情報戦に乗り遅れるとかなんとか。未悠も休み中情報収集は怠っていないのだろう。彼女の気が抜けるのはこういう酒の席くらいだと知っている。今日だって休み明けの忙しさの反動、息抜きのためにカラオケに誘われたのだろうから。
「ちょっとリク、聞いてる?」
 おっと、未悠の事を考えていたっていうのに理不尽なタイミングだ?
(言ってもしょうがないけどね!)
 答える前に、デバイスを操作して選曲を終わらせる。
「そろそろ歌おうと思っただけだって。カラオケなんだしさ?」

 ♪~
 君の先にずっとなんて 無理なことは言わない
 少しくらいヒント くれたっていいじゃない

 どんな瞬間も 君の色探してる
 気付いた時はいつも 背中ばかり見てた
 前ばかり見ている君の 視線の先
 映っているモノに嫉妬 してばかりなんだ

 少しでも俺を 映りこませたいから
 同じ部屋にいても 遠く場所が離れていても
 俺の存在(コト)が届くように 君の想い(コト)を先回り

 君の横にずっとなんて 無茶な要求(コト)しないから
 今だけ特別なシート 座ったっていいだろう

 偶然の出来事 幸運が降ってきただけ
 浮かれてばかりの俺は 呟き拾うのも下手で
 先を急ぐ君の 言葉に秘めた奥
 「聞いたら教えてくれ」って 言いたくてたまらない

 一言でも俺を 尋ね振り返ってくれるなら
 興味のないことだって 勿論好きなことだって
 俺の情報(コト)が届くように 君の興味(コト)を先回り

 俺の傍にいてくれって 言って君を抱きしめたい
 君の心のスポットライト 俺に向くのはいつになる?
 ~♪

(再生数が伸びるだけあるわよね)
 リクが趣味でやっている歌唱動画は勿論未悠も知っている。聞き覚えのある声だと思えば、投稿名も「キャノン」だったのだ。ちなみに常連となった未悠のコメント名は「カッツェ」である。それがバレているから、リクも十八番の一曲を歌っているのだろうと思う。
 でなきゃこんなシチュエーションでラブソングを選んだりしないだろう。未悠だって、己の恋心をこうして何度もリクに聞いてもらっているという自覚はある。
 つまり、互いに誤解するようなことにならないから、各々好きな曲を歌う。そういうことである。
(……うん、これでいいかしら)
 採点システムが稼働しているので、高得点狙いで熱唱しているのだろう。リクの気がこちらに向いていないことはチェック済の未悠。頼んでおいた裏メニューのヴルストを、はじめからあったヴルスト&ポテトの皿に載せなおすことに成功していた。折角の新年会だ、ちょっとしたイベント性を追加したかったし……メニューを見て、悪戯心が疼いたので。
(これで私が食べる可能性はかなり低くなったわ)
 デバイスに向き直る。さて、何を歌おう?
(リクは依存するタイプなのね……私だったら、どうかしら?)
 改めて歌詞を思い返す。今日、愛しの上司相手に昂った気持ちを目いっぱい籠められそうな曲は……

 ♪~
 微笑みひとつで 炎の中を抜け出してみせる
 助けてなんて弱音は 自分で必要をなくしてみせる
 危ないなんて言わないで それは私が言いたいくらい
 誰かに声をかけるなら どうか 貴方自身を大切にして!

 甘い瞳が欲しいのは 貴方を好きだから

 微笑みひとつで 薄氷の上で待っていられる
 小さな変化に気付いてくれる 貴方の気遣いを知っているから
 今はただ見ていて 私自身で先を掴んで見せたいの
 素敵な報告が出来た時に きっと 褒めてくれるでしょ?

 甘くなんて見ないで 貴方が好きだから

 微笑みひとつで 空を飛んで駆けつけるから
 私の手が少しでも助けになれるなら 遠慮なんてしないで
 細めた貴方のその瞳を 見開かせてあげるのだから
 驚いて油断して たまには 隙を作ってくれていいのよ?

 甘いだけじゃ嫌なの 貴方だから好き
 何度でも伝えたい my special
 微笑みひとつだけ 私の為にくれるなら……
 ~♪

 未悠の歌声を聞きながら、皿の上を引っ越した、二本のうち片方のヴルストをぱくりと食べるリク。
(全く。こういう所は誰の影響なんだか……俺? まさか)
 うん、普通に美味しい。
(スイーツも頼んでおいた方が良さそう)
 おかわりの酒に、追加のツマミ。そこに未悠が好きそうなものを数品、選んでおけば大丈夫だろう。

「ふぅ……」
 歌い終えた未悠が熱っぽい視線を自分のスマホへと向けている。
「彼のスマホになりたいわ。ずっと一緒にいられるし、何度だって見つめてもらえるもの。それに、たくさん触ってもらえるし……」
 身体をくねらせ惚気続ける未悠に適当な相槌を返しながら、ヴルストの皿を寄せるリク。
「ってダメよっ! 触られたりなんかしたら、幸せ過ぎて死んじゃう!!」
「お疲れ様、新しいのも頼んでおいたよ」
 火照りを冷まそうとジョッキの残りを飲み干す未悠に、運ばれて来たばかりの追加注文の品々が並んでいく。
「ありがとう!」
 しれっと勧めるリクの前で、すっきりした未悠はヴルストを、ぱくり!
「っ! ~~~!!!」
「俺だって食べたのだから、それは未悠の分だもんね?」
 勿論激辛である。涙目になった未悠はスイーツであふれるテーブルの制覇を開始するのだった。



●トライアングル?

 大樹が天を突いている。
 果ての無い遠くの空を見上げて、シルヴェイラ(ka0726)は感嘆の息をこぼした。
「……これはまた」
 らしいと言ってしまえばいいのだろうか。
 大樹はただの樹木ではなかった。こうして外から眺めるだけでもいくつもの……無数の扉が見えている。扉同士の行き来を助けるように、梯子や階段が樹皮に沿って作りつけられている。その全ては木製ではなく金属製だ。時折梯子付きの籠が動き回っているのを見るに……遠隔操作で移動さえも補助しているというのだろうか。
「突飛な思い付きをするものだ」
 胸の内で終わらせず、声に出しておく。あの二人が手を組むとこうなるのかと、目の当たりにした光景をしっかりと、自身に納得させるため。
「それにしても、外観を堪能する時間も惜しいとはね」
 我先にと、地上の出入り口へと駆け出していった二人。エルティア・ホープナー(ka0727)とヴォールの背を思い出す。
「これは、世話をする相手が増えてしまったということなのだろうか……」
 正直に言ってしまえば、幼馴染の世話以外はしたいと思わない。しかし彼女の望みを思えば、好き嫌いなど、むしろ自分の意見は関係なくなるのだろうことは予想出来ていた。
「どのみち、協力を惜しむつもりは無い」
 今はまだ始めのうちだからいいけれど。目を離せないことになるのは明白だ。

「素晴しいわ……!」
 手を合わせ喜びを表現したのはほんの数秒。エアは片っ端から本を取り出して、抱えたままその場に座り込んだ。勿論、すぐに頁を捲り始める。
「せめて椅子を使うべきだと思うのである」
 すぐ近くとも言えないが、充分に聞き取れるはずの声量を持ったヴォールの言葉はとっくの昔にシャットアウト対象である。
 ノイズが混ざらないうちに少しでも多くを読み進めようと思えばこそ、この膨大な、大樹の中全てを満たす物語はエアを魅了し続けているのだ。

「門外が得るには至高に過ぎると思うのである故に……等価、であるか」
 差し出されたのは二人の記憶。求められたのも己の記憶。
 確かに、思考の源泉は記憶、つまり歩んできた人生にあるのだろう。理にはかなっている。
 彼女が本心で求めているのはきっと、己の積み上げた研究データである可能性があるが……2人分の記憶と釣り合うのか、どうか。
(離れずに過ごす時点で1人分とも言えるのである)
 見解をそれらしい形にして、結論付ける。
「参考文献が妥当であるな」
 それ以外、つまり核心部分については流出しないよう、ロックをかけておく。
 エアの方を見ることもない。既に必要な情報は本の形でもたらされていると知っているから。
「見覚えのない本……であるか……」
 ヒトの記憶は、人生の歩みは。どんな形をしているのだろうか?

「君はどんな本を読むんだい」
 そう声をかける前から足音もさせていたのに、ヴォールは振り返りもしない。
「私の記憶も見ているのではないのかな」
 等価交換なのだろうと促せば、渋々ながら少し離れた先の本棚を示される。
 この図書館の本棚決まった場所に色つきの石が取り付けられていた。ヴォールが示した先の目印は……黒。エアが座り込んでいるのは別の棚ではあるものの黒の棚の前で、ヴォールが居るのは金と銀の棚の間だ。
 三色は、間違いなくこの場に居る3人それぞれを示していた。
「……汝は」
 移動するでもなく、ぼんやりと棚の並びを見ていたシーラに向けられた声。 
「離れていると不気味であるな」
 どういう意味だ。エアと共に居るのが当たり前と思われていることは別に構わないし歓迎すべきことではあるが。黙って訝しげな視線を向ければ、笑いを堪えているようで肩が揺れていた。
「寄り添う意味は理解不能であるが」
「研究が恋人とでも言いそうな君に理解させてやるつもりは無いな」
「クックックッ……汝等の当たり前は、面白きことよ」

 近付いてくる、耳に馴染む音を捉えて、顔をあげる。
「シーラ、貴方も読むのではなかったの?」
 気が逸りすぎてしまっていたが、いつも隣に在るはずの気配がなかなか揃わないということが、物足りなくなってはいたのだ。
 だから自分にかけられたわけではない声であっても、近付いてきたその足音も、逃さず捉えるようになっている。流石に会話内容までは聞き取れなかったけれど。
 視線は手元の物語……ヴォールが過去に集めた機導術の文献を追っていたが、シーラが何かを話すたびにぴくりと耳を震わせていたのだ。
「ねえ、読書に集中したいんだって、言っていたじゃない……?」
 まだその手に一冊も抱えていないことに疑問を覚え、首を傾げる。
「どれだけ広いのか確かめていただけさ」
 空いた棚が見つからないとぼやく幼馴染に、彼と何を話していたのか、尋ねるべきかどうか迷う。
 自分以外の誰かと、親し気に――エアにはそう見えた――話す様子が珍しいと感じたからだ。ヴォールが笑っていたなんてことに、エアは気づいていない。
「なんだい、エア?」
 ほんの微かに傾いだ様子にも気付かれる。
「彼の紡いだ……そうね、浄化術についての物語の場所は聞けたかしら?」
 人生の物語をと思ったが、すんでのところで別の言葉を唇にのせた。
「残念。レファレンスは断られてしまったよ」
「図書館員の席で落ち着いていられそうにないものね」
 互いにくすりと笑いあう。
「君が読みたい物を手伝ってもいいんだが」
「ここに根を張れとでも言うの?」
 終わる気がしないものを手伝う、なんて……いつも通りね?
「それなら君の世話をするまでさ」
 いつも通りだろう? 互いに、また同じような表情をしているはずだ。
「最初の一冊くらいは自分で選ぶよ……ああ、丁度いい」
 視界に映りこんだタイトルに惹かれ、シーラが本を抜き出す。そのままエアの隣に座りこんだ。
 途端、エアの視線は本へと戻っていく。

(相変わらず没頭するのが早いな)
 いつも通りの様子に頷き、シーラが開くのはレシピ本もどき。ヴォールの食事履歴のようなもの。
 日記調で、林檎をそのままだとか、焼いただとか。料理とも呼べない繰り返しが続く。次第に飽きが混じったのか、『生』『煮』と1文字で終わる事もある。
「……?」
 単調で、紙面の無駄遣いに苦笑を零していれば、突然の白紙。
『使い所を間違ってはならない知恵の実は、まるいからこそどこにでも転がってゆける』
 意味を考えて見つめていれば、ゆっくりと浮かび上がる文字。
『傍に在り続ける当たり前の為に、努々視線を逸らすべきではない』
 続いて二文目。
『我は林檎が好きではない、効率が良かっただけである』
 ここで何の言い訳だ!? そもそもこれはなんだ、今あの男が考えていた事か?
 ヴォールを探せば、まさに出て行こうとしているところで。
「説明くらいしていけ!」
「我は開発者であるからして、汝等が飽きるまでは維持できるのである」
 必要なものは読んだ、多忙であるからと言い捨て出ていく。
「あら、なら好きなだけ読めるのね……謎かけでもあったの?」
 声に見下ろせば、エアが先ほどのページを覗き込んでいる。そこには最後の一文だけが残っていた。
「食べ物なんて気にしない性質だと思っていたわ」
 もっともらしい感想に頷けば。シーラ、と彼にだけわかる信頼の籠もった声が続く。
「終わったらアップルパイが食べたいわ。勿論貴方の珈琲と一緒にね」



●真なる空想

(うん……悪くない……)
 爽やかさを演出する小鳥の囀りに、閉じていた目を開ける。
 葉の色を透かし、隙間から陽射しが差しこんでくる。春色が溢れるここは、過ごしやすさを最重要視しているようで。樹の根元に座り込んでいたレイア・アローネ(ka4082)はゆっくりとその身体を伸ばした。
「……いつもは乗せてもらっているが」
 愛しき相棒のワイバーン、その飛ぶ様子を思い出しながら両手を広げた。
 レイアの想いに添うように、その足が地上を離れていく。
 ふわり、ふわり。時にすぅと滑るように。時に風に乗るように。
「ああ……そうか。私だけなら羽ばたかなくていいのだな」
 手で示さずとも、思うだけで望む方角に飛んでいける。それをしっかりと確かめてから、ぼんやりと、雲の上を転がるようにその場に留まる。
「凄いな、こんなことまでできるのか……」
 知らずほぅと感嘆の吐息を零して。いつだったか、友人に聞いた歌のメロディが浮かぶ。
「空を自由に飛べるなら……ん?」
 歌いだしにどこか違和感があって、少し首を傾げる。
「いや……こうだったか……?」
 今度はしっかりと声を整えて。音階も慎重に。

 ♪~
 夢を追いかけて 空に飛びだそう
 小さなころ探した 雲を掴むために
 ふわふわするかな どんな味がするだろう
 寝転がったら どんな夢が見れるかな?

 素敵なアイディア ポケットに詰め込んで
 友達と一緒に 夢の向こうに出かけよう

 月を追いかけて 空へ駆けだそう
 子供の時見上げた 星を掴みたくて
 きらきらはじけて 熱かったりするのかな
 望遠鏡覗いて どんな星が光るかな?

 素敵なアイディア ポケットで運んで
 空の向こうへ 月の裏側を見に行こう

 素敵なアイディア ポケットから飛び出して
 大人になっても 忘れない思い出を
 ~♪

「……♪」
 歌いながら風景を思い浮かべれば、その通りに周囲も変わっていく。
 小さなころの自分と、友人が小さい頃はこんなだったろうと思い浮かべた姿。
 二人分の影が、レイアが歌う通りに冒険に出かけていく。
「アニメって言うんだったか?」
 リアルブルーの知識を聞き齧った程度なので、あまり自信はないけれど。
「いいな、この夢見装置」
 予定があわなかった友人と共に楽しめなかったのは残念だが。次は是非一緒に楽しめたらいいな……

 こちら同室内、隅の方の黒子視点でお送りいたします。
(そろそろ着地してもらわないと不味いのである)
 いくらVRゴーグルとは言っても浮遊感は楽しめない。急遽飛行可能フレームを取りつけたユニットを手配し、レンタルで搭乗してもらった上でVR体験となったわけだが……そろそろ、滞空可能な時間がなくなりそうなのだ!
(浮いている高さは低いとはいえ、クッションだけでは心もとないのである……))
 ここに来て黒子担当ヴォール、強制的に外部から着地を促すシステムを組み始めたぁ!
 間に合うのか!
 レイアも、ユニットも、そしてルーム内の設備も無傷で済ませることが出来るのか!
「……大丈夫じゃない?」
 廊下から室内を覗き込んだアイリスが呟いているので、きっと大丈夫だ!



●ブラックをグレイに変える技

 賄の女神シャーリーン・クリオール(ka0184)が送る、年末年始の強行営業群を乗り切るためのエネルギーメニュー!

【主菜「ウフ・アン・ムーレット」】
 赤ワインのフルーティな香りの中に、暴力的なまでに美味しさを主張するガーリックとベーコン。それらを先導してまとめ上げるのはチキンブイヨンの間違いない旨味。
 それらを煮詰めたソースの如く濃厚なスープだけでも美味しい。
 しかし女神はスタッフが休憩室に来るタイミングをはかった上で、取り分けた1人分に卵を割り入れてくれるのだ。
 そう、ポーチドエッグである!
 出来上がったばかりの一皿、その中で眠っている半熟卵を割る瞬間、赤いチキンスープが親子でマリアージュするのである!

「これは至高の半熟卵、いえ、単塾玉子様ですわ!」
「てめーその赤ワイン早く寄越しやがれですよ」
「このお料理にも使ってる調理用ですのに、どうして貴女に必要ですの?」
「カクテル用のが足りなくなってんです、なんで同じ銘柄ばっか入れたユレイテル!」
 フュネとタングラムの言い合いをBGMにしながらも、新たな一皿を仕込み始めるシャーリーン。
「理にかなってはいるな、それだけ単価が下がるわけさね」
 料理に使った赤ワインが、共に飲むのに最も適している、そう助言した覚えもある。そもそも賄料理なので、業務中に飲む者などいない筈だ。
「使いすぎたつもりはないのだが……それだけ客入りが多いのか?」
「えっシャーリーンさん、自覚無かったんですか……?」
 ハーブティと、出来上がったばかりの一皿を受け取った鞍馬 真(ka5819)が目を見開く。
 配膳時にお客様からよく聞かれるのだ。外に漏れて来ている匂いの料理名は何か。あの料理が食べたいがどれを注文すればよいかとか。基本的にデバイスで注文を受けることで効率化が行われているのだが、届けるのは人力だ。むしろそのタイミングくらいでしかスタッフに接する機会がないというのもあり、真だけでなく、配膳を担当しているスタッフは少なからずそういう経験がある。
 なので賄を食べた後、各員己の匂いチェックは敏感になっている。
(賄なのでお客様には出していませんとか、普通の店じゃ言わないよね)
 なんで彼女、賄い限定採用なんだろう?

【主食「ファムシデュール」】
 ジャガイモの千切りを玉子と生クリームでつないだ生地の中には、刻んだベーコンや野菜がたっぷり。野菜の量を気持ち多めにしてあるおかげか、この一品だけでも必要な栄養はとれると思われる。
 具材は全てしっかり刻まれているので食べやすく、何より全て纏まって一つになっているから急いでいるときにぴったり!
 多すぎないガーリックの香りが食欲を誘うので忙しい時でも、差し出さればパパッと食べられるという美点は非常に重宝がられるのだ!
 なお作り置彼て冷めてしまっても、トースターで軽く焼けば香ばしさが戻ってくる。表面がさらにカリッとするので、軽い食感を楽しみたい場合は敢えて時間をずらして食べることをお勧めする。

 試食を頼まれたアイリスがそのまま食べ尽す勢いでむさぼったため、彼女はしばらく空き部屋(機材不調に寄るもの)に隔離され、第一陣を食べ逃したカミラに執拗に事情聴取を受けさせられた。
「ひどい……美味しいのが悪いのに」
「だからって私達の分まで喰いきろうとするのはどうなのか!」
「美味しいは正義。私は悪くない」
「充分食べただろう!?」
 コンコンッ
「カミラ殿? 第二陣が焼き上がったから呼びに来たのだけれど」
「何!? ありがとう女神! 今すぐ向かう!」
「……私は?」
「この部屋の機材メンテナンスをしながら反省!」
 客がいないのをいいことに廊下を爆走するカミラを見送ってからシャーリーンがちいさなバスケットをテーブルに置いた。
「差し入れだけど、見つからないようにな?」
「……♪」

「あ、お疲れ様です!」
 カリッとさせるか、それとも出来立てのふんわりを楽しむか。備え付けのトースターを半ば睨むようにしながら思案する真の隣にフクカンである。
「休憩ってことは、少しはけたんですね」
「はい! だから規定通り休憩とってくださいね?」
「はは、言われちゃったな……」
 年末年始の出勤は臨時ボーナスが出る……と言うのが理由ではなく、単純に働くのが楽しいからと、真は可能な限りフルなシフトで働いている。勿論細かいところに厳しいエクゼントだとかが目を光らせているので、連続勤務日数最高記録をたたき出すとか、そんなことにはなっていない。
「でも、ここの賄美味しいし……むしろ働いてる方が健康的なくらいなんだよね」
「あぁー……わかります……」
「むしろここの仮眠室に住みたいくらい……」
「そんなこと言っている方からは、宿代をとりましょうか?」
「「!?」」
 ユレイテルの一声にビクッと震える二人だった。
 
【スイーツ「クラフティと山盛りナヴェット」】
 カスタードプリンを思わせるクリームの中に隠れているのはチェリー。タルト台から手作りという手の込みようは甘味好きの心をつかんで離さない。食べやすいようにスクエア型で作り、スティック状に切り分けられたクラフティはちょっと小腹がすいた時に摘めるのがポイントだ。時間に余裕がある場合は、女神に頼むと温めてくれた上にバニラアイスをトッピングしてもらえる。
 ナヴェットは日持ちするからと、この日々の為に空き時間を使って焼き溜めていた女神とっておきのビスケットである。オレンジの花を思わせる甘いにおいが漂う度にスタッフが試食を申し出たが、誰も相伴にあずかれなかった。つまり今日が解禁日!

「私は今日、この為に生きていた……!」
 拝みながらもデザートプレート(バニラアイスと、特製フルーツソース添え)を受け取る真に、くすりとシャーリーンが笑う。
「大袈裟だな」
「いやいつも思いますけど、待ってる間って拷問なんですよ!?」
 スタッフは客向けの通常メニューを社員割引きで購入できる。しかし女神が勤務するようになってからは皆賄に転向した。値段が一律なのもあるが、決め手は勿論味、そして毎回何が出るかわからないという楽しみもスタッフの士気向上に一躍かっていた。
 女神の休日に出勤することになったスタッフは皆肩を落とす所までが定型パターンだ。量産のおかんことカミラが作る賄いは、通常メニューと違って何故か大味なのだ。美味しいけど、女神の味を知ったあとだと物足りない。
「通常メニューは外れない、それも間違いではないんです……!」
 ちなみに真は立派な女神の信奉者なので、あえての敬語である。
「でも賄い食べるようになってから、つまみ食いへの欲求が浄化されたかのようにきれいさっぱりなくなったんですよ、すごい事じゃないですか!」
「褒められるのはありがたいが、その欲は抑えような」

 配膳前に、そっと室内を覗き込む真。これはオプションの利用是非に関わらず常に気をつけていることだ。
(……むしろ手伝った方が良さそう? 確か、ここのお客様は……っと)
 浮いたままのユニットの周囲でうろうろしているヴォールを確認。更に配膳メニューのチェック時に確認した注文書の内容を思い出す。
 ヴォールが黒子に徹しているようなので、携帯していた簡易黒子フード(顔を覆うヴェール)も装着!
「ぁー……あーあー……あー♪ こんなものかな?」
 少しばかり発声練習。いきなり裏声を出して喉を壊してもいけないので。
(いざ!)
 大きな音が出ないように気をつけながらドアをくぐる。息を大きく吸ってー、はい!
「レイアー、いつまで飛び続けてるの? そろそろご飯よ、遊んでないでそろそろ降りていらっしゃーい!」
 自ら降りてこさせればいいじゃない作戦、発動!



●歌声よどこまでも

 穏やかな風と優しい光が二人を包んでいる。
 というのに!
 ケイ(ka4032)とシャイネはやたら大きい切り株の上でフルスロットルモードだった!
「さあ行くわよシャイネ!」
「ふふ、望むところだよ♪」
 どこからともなく聞こえてくる、懐かしき(?)あの歌!
「「エルフハイムストーリー!!」」

 ♪~
 いつまでも空を眺めていたい
 木々の隙間から見えるあの澄んだ青をどこまでも
 いつか空を仰げなくなるその日まで
 終わりのない願いをずっと先まで続けていく
 森の恵みと共に歩いて
 見守る空を遥か遠くに
 エルフハイムよ永遠に

 いつまでも森を守っていきたい
 共に生きる命と助け合い育みあってどこまでも
 いつか訪れるかもしれない終わりまで
 希望を捨てずに祈りながら静かに歩んでいく
 森の恵みを壊さぬように
 見守る神を拝み繋いで
 エルフハイムよ永遠に

 護り続けるだけで同じまま居られるなら一番だけど
 本当は気付いてる終わりの足跡がすぐそこに迫ってる

 いつまでも祈り続けていきたい
 世界で暮らす全てに手を伸ばせるかわからなくても
 いつか見つかるかもしれない希望の在処まで
 エルフハイムよ永遠に
 ~♪

「じゃあこれは! まだまだついて来れるわよね!?」
 喉に良いっていうミルクも蜂蜜もたくさん頼んでおいたのよ?
 そうケイが言えば、にっこりと微笑み返すシャイネ。
「僕をなんだと思っているのかな、吟遊詩人なんだよ?」
 伊達に喉を鍛えてはいないよ、なんて。
「それでこそ貴方を読んだ甲斐があったというもの!」
 どこまでも限界まで歌い続けるしかないわね!
「さあ次のナンバーはこれよ!」
 先ほどまでの穏やかなものから一転、重低音の中に軽い音が飛びかう、なんだか捉えどころのないイントロが流れ出す。
「知っているに決まっているじゃないか♪」
 2人のマテリアルが一致したようで、どこか不安定になっていた森林が一気にその様相を変えた。
 機導術により発展し続ける街並み、遠くに臨む城の上にはあのシルエット!
「「ルミナ陛下に愛をこめて♪」」

 ♪~
 炎が照り返す 至高の紅色がなびく髪を彩って
 貴女の政道に全てを懸けます
 ヴィルヘルミナ陛下 おみ足でちょっと踏んでください☆
 それだけで国の民は貴女の魅力に跪きます!

 空色が焼けていく 紅の輝きが瞳の中閃いて
 貴女の鼓動に全てを注ぎます
 ヴィルヘルミナ陛下 目線こっちにお願いします☆
 それだけで国の民は貴女に見惚れ棒立ちです!

 命の華が咲いていく 翻るマントは純粋な紅を保って
 貴女の覇道の足掛かりとなります
 ヴィルヘルミナ陛下 試しに鞭もって構えてください☆
 それだけで国の民は貴女の覇気に震えます!

 どうしてそんなお願いするかって 決まっているじゃないですか
 貴女をこの世界で一番愛しているからです
 ヴィルヘルミナ陛下 貴女が生まれたこの時代に生きているだけで幸せ☆
 それだけでこの私は貴女の為に生きていけます!
 ~♪

「この歌大丈夫? 犯罪者予備軍じゃないかしらこの作者」
「僕に言われても困るなあ♪」
 揃って腰に手を当ててコップの中身を飲み干す二人。結構なハイペースで、歌と踊りを繰り広げている筈なのだが。
「まあいいわ、次に行きましょ、次」
「じゃあこれなんかどうだい」
「いいわねー、夜はまだ始まったばかりよ!」
 眠らない夜はまだまだ、終わらない……?



●神託隊の新年カラオケ大会☆

 \パーン!/\パパーン!/
「新年はカラオケをスルものだと言うらしいのでネ!」
 どこからともなく繰り出されたクラッカーと共にアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が笑顔を振りまく。ここは大人数も収容可能なパーティールームで、歌う人のためのステージなんてものも完備されている。
「注文の品よぉ?」
 早速とばかりにドリンクが運ばれてくる。オルクスがドアを開けるからか、タングラムの方にグラスが多めだ。
「ミントジュレップ誰ですか」
「あっ俺でーす!」
 手を挙げたジュード・エアハート(ka0410)に倣う様に、皆それぞれが手を挙げ希望の品を受け取っていく。
「いい香り―♪ そうそう、フォーチュンスイートポテト頼んじゃうね! 新年におみくじってのも定番らしいよ!」
「わかったわぁ、人数はぁ……」
 オルクスが人数確認をする横にスススと近寄るアルヴィン。
「ご一緒出来たりはしないのカナ?」
「あらナンパなのぉ?」
 妖艶に笑い返すオルクスの耳をぐいっと引っ張るタングラム。とても痛そう!
「私はサボれる口実になるんでいいですけどね」
「痛い痛いぃ~、お姉ちゃんカクテル出せないわよぉ?」
「……ま、そんなわけなんで長居は無理かと」
 意味ありげに見上げてくるタングラムに、アルヴィンもにっこり。
「運んでくるヒト、時々変わってもらえたら嬉しいナ☆」
 ハジャ君とか、アイリス嬢とかネ?

「今更だけど、今回の参加者で未成年は……いないな、よし!」
 藤堂研司(ka0569)の声に皆の視線が集まる。
「ここの乾杯は……」
 もう一度メンバーを見なおす研司。リアルブルー出身者は今研司だけだ。
「カラオケの流儀は俺に聞けってことだな! よし、それじゃあ僭越ながら俺が合図をかけさせてもらう!」
 皆盃を掲げて! 
「神託隊の新たな発展を目指して!」
「「「乾杯!!!」」」

「……こういう場は得意じゃあないんだがね」
 シートに身を預けながら生ビールを傾けるエアルドフリス(ka1856)の隣で、ユリアン(ka1664)がほっと息を漏らす。
「師匠が仲間で良かった」
 食べ物他に何を頼みます? とメニューページを開いたデバイスをみせてくるので、薬局に居る時と同じように世話をするのが身についているらしい。
「ああ、食事が旨いらしいんだったか」
 ちなみに弟子のオススメはと尋ねれば、まさかのハニートースト(一斤)、トッピング全部のせである。切り目を入れたバタートーストの上から生ホイップとカスタードのクリームで二重奏。更に季節のフルーツ(今は苺を筆頭にベリー系だ)をちりばめ、厳選されたハニーソースできらきらと光らせる。食感のアクセントにクルミやスライスアーモンド、更にはバニラアイスも別添でついてくる……説明を見るだけで口の中が甘い。
「こういう、人数多い時じゃないと完食できないし」
「……まあ、大丈夫か」
 男5人、スタッフが顔を出して来れば押し付けたってかまわないだろうなんて逃げ道も想定しておくことにする。

「みんな何歌うー?」
 もう一方のデバイスは三人が選曲用として囲んでいる。
「俺はねー……」
「ジュードさん、ここは隊長に一番手を頼むんですよ! さあ、アルヴィンさん!」
「ソウなんだ? でも僕が知ってる歌はあるのカナー?」
「リッチー、歌詞検索とかもあるみたいだよ!」
 どんな歌か言ってくれれば調べるよ!

 ♪~
 穏やかな日常に霞がかかって
 目を開ければ全て夢の中
 覚えてないのに切なくなるのは
 記憶じゃないどこかにしまわれた風景
 人の営みを示す灯りが
 もう一度僕を夢に誘ってくれる

 微睡む耳の奥で微かに鳴り響くメロディ
 優しく温めてくれる温もりに手を伸ばしたい
 疲れて眠くて布団の中に逆戻り

 街の皆全員が知っている
 懐かしいメロディが胸を叩く
 夕方になれば必ず聞こえてくる
 うんざりするほど穏やかな日常が今日も終わる
 うっかり転んでしまっても
 誰かが手を差し伸べる当たり前の日々

 優しさが溢れる街を月明かりが照らして
 心の隙間も少しずつ照らして満たしてくれる
 あの懐かしいメロディのように
 ~♪

 子守歌に似た曲調に、のびやかに広がるアルヴィンのテノールが重なっていく。
 故郷を想う歌詞だからか、研司はリアルブルーに居た頃の曲をぼんやりと思い出す。
(んん~、しかし今居るのはクリムゾンウェスト! 郷に入っては郷に従え!)
 デバイスを漁ってみれば、親戚連中で集まると必ず歌われるその曲が見つかる。
(酒もいい感じにはいってきたし!)
 正にほろ酔いの今、似合いの曲である。それを選んですぐ、マイクを握りしめ立ち上がる。聞き手はビールジョッキを持ったままなので、マイクは必然的に逆の手だ。
「盛り上げ担当藤堂研司! 通の楽しみ方レッスンその2、替え歌いっきまーす!」
 著作権的対策で曲調から違うが気にしないでほしい!
 ちなみにその1は乾杯のことである!

 ♪~
 クリムゾンウェスト酒呑み音頭!
 「全国歩いた成果を肴に聞いてけ! そぃや!」

 一番手~王国!
 作物が美味くて酒が進むぞ(農業万歳!)
 \SAKE/呑むぞ \SAKE/呑めや 溺れるほど呑め!
 腹持ちが大事なら王国のパンを喰え!
 チーズとろり 贅沢にいくか \SAKE/が美味いぞ!

 二番手~帝国!
 ジャガイモで酒が進むぞ(芋の酒もある!)
 \SAKE/呑むぞ \SAKE/呑めや 溺れるほど呑め!
 芋ばかりで他が霞むけど気にするな!
 酒が進みゃ なんでもいいか \SAKE/が美味いぞ!

 三番手~同盟!
 なんでも揃うから酒が進むぞ(商人すげぇ!)
 \SAKE/呑むぞ \SAKE/呑めや 溺れるほど呑め!
 海鮮を喰いたければ港に急げ絶対だ!
 浜焼きで 人が寄ってくる \SAKE/が美味いぞ!

 四番手~辺境!
 もふもふまみれで酒が進むぞ(ジビエじゃない!)
 \SAKE/呑むぞ \SAKE/呑めや 溺れるほど呑め!
 酒呑みの王がツマミ勧めてくるくらい!
 盃交わしゃ 皆仲間だぜ \SAKE/が美味いぞ!
 ~♪

 歌う合間にジョッキを干すのは正義、追加注文を飛ばすのも正義!
 まさしく宴会を賑やかすのにふさわしい歌声に盛り上がってまいりました!
「流石ダネ藤堂氏! 歌詞にあわせて飲むと美味しくナルよ!」
「そうでしょうそうでしょう! あ、これも頼んじゃいましょう!」
「えっ、まだ俺が頼んだ奴も来てないけど大丈夫?」
「……ユリアン、諦めろ」
 師弟コンビの困惑の視線を気にする者は居ない、なぜなら歌う楽しさに目覚めた三人は止まらないからだ。
 そんな中研司からマイクを受け取ったのはジュード。
「次俺ねー! ふふー、今日の為にしっかり調べてきたんだよ!」
 何って、リアルブルー式アイドルの様式美のことである!

 アイドルとは!
 ・可愛くあるべし!
 ・笑顔をもたらすべし!
 ・チラリズムであるべし! 

 ……という個人的調査結果に則ってジュードはVRゴーグルを皆に付けていく。
「流石に本物の衣装を用意は出来なかったけど、これなら簡単!」
 最後に自分も装着して、拘りを詰め込んだ衣装をイメージ。
 途端にジュードの格好が切り替わる。プリーツの折り目正しいミニスカート。絶対領域の相方は純白のオーバーニーソックスだ!

 ♪~
 大好きって伝えたいから ハートの付箋準備したのに
 いざってタイミング掴めないんだ ねえ今までどうやって話しかけてた?

 可愛い子はいっぱいいるよね
 自分だけじゃないって知っているけど
 この気持ち誰にも負けてないんだよ!
 どうしたらこの紙面(ハート)に詰め込めるかな

 だから!

 大好きって伝えたいのに ハートの付箋が使えないんだ
 いつものメモをハートに変えるだけ なのにその小さな勇気が出ないよ

 怖がってるだけじゃダメだけど
 嫌われちゃったら寂しいよ
 好きって気持ち押し付けじゃないかな?
 いつだって不安がいっしょなんだ

 でも!

 大好きって伝えたいんだ ハートの付箋いっぱい届けよう
 いつだって貴方への恋心溢れてる 本当はもっともっともっとたくさん!
 どんな形なら受け止めてくれる?
 気持ちだけじゃなくて全部 差し出しちゃうから!
 ~♪

 歌い終わっても、ゴーグルを外さない限りジュードの衣装はそのままだ。踊りながら跳ねるツインテールは目を惹くし……正確に言えば太腿が、とにかくエアルドフリスの視線を釘漬けにしていた。
(けしからん……!)
 最初にスカートがめくれ上がった時は思わず立ち上がりかけた。すぐにこれはVRで再現された映像だと思い直しはしたけれど。
(短すぎるなんて言える訳がないじゃあないか、それじゃあ面倒な奴みたいだろう……!)
 ちなみにそれがしっかり見えたのはエアルドフリスだけである。心配する想いがマテリアルに混ざって彼の視界に反映されたのだ。なおこういったプライバシーレベルの情報は個人の感情マテリアルを元にして、シャットアウトも可能になっています。開発担当が有能だからだぞ!

「やるなあ、ユリアンさん! そのマラカス裁き、今の俺のパートナーに最高だ!」
「そうかな? 皆の合いの手になれればって思っただけなんだけど」
「いやいや筋がいいよ! ジャグリングも一緒にやってみないか!」
 実践が一番と、ジュードの曲に合わせてバックダンサーよろしくマラカス隊が盛り上がる。研司が主導だが、身のこなしの軽やかさを生かしてユリアンもしっかりついていっている。
「わー☆ 三人とも上手ー♪」
 タンバリンを振ってるだけのアルヴィンが、珍しく可愛いらしい規模に収まっていた。

 歌の最後の一言と一緒に隣へと飛びこんできたジュードの腰を軽く抱き寄せれば、甘えた声が耳元を擽ってくる。
「エアさんエアさん、後でデュエット歌おうよー♪」
「んんッ! 俺は隅で食ってられりゃあいい」
「えー……でも、気に入ったでしょ?」
 そっと囁かれれば頷いてしまう。
「そりゃあ似合ってるに決まってる、だがそれはそれ、これはこれでだな」
「何々ー、ルールー歌うノ?」
「よっししょー! 待ってました!」
「アールーヴィーンー!! ……ってちょっと待てユリアン!?」
「エアルドフリスさん、この曲とかどうですか!」
「それはまあ、一応歌えるが」
 ちょっと待て、と決定ボタンをタップしようとした研司の手を間一髪で止めるエアルドフリス。大分ペースが乱されてきている。
「俺、エアさんの歌聞きたいな♪」
 ペンライト振って盛り上げるよ? と笑顔のジュードが迫っていた。
「……いや、むしろ大人しく座っててくれ」
 はい、陥落!

 ♪~
 首を振って視線を逸らしても
 気付けば君の姿を追っているんだ
 考え事を止めた時はいつも
 俺の目が映す世界の中心に君がいる

 目を閉じて世界に籠もっても
 息を潜め君の声を探しているんだ
 誰かの名を呼ぶ君の声だけで
 俺の胸が締め付けられて痛くなる

 耳を塞いで気配を殺しても
 温もり求めて立ち止まってはいられない
 君を示す仄かな甘い香りが
 今の俺には落ち着く居場所の証で

 恋でも愛でも構わない
 示す言葉はただの記号でしかないから
 覚えていてほしいのはたった一つだけ
 「俺が欲しいのは君なんだ」

 記憶を失くして君がわからなくても
 すぐに君の事を想う俺になるから
 君を示すもの全てもう一度
 俺に刻み付けて隣に居てほしい

 生まれ変わって俺じゃなくなっても
 君の魂を求めて旅に出よう
 姿かたちが変わっても必ず
 唯一の君を必ず探し出してみせる
 ~♪

 気だるげな様子から一転、色気と情熱を増した上に先ほどまで目いっぱい刺激された煩悩がマテリアルに多分に混ざった結果、恐ろしいほどの色気ダダ洩れ薬師が爆誕しました。
 そう、この時、室内の誰もがVRゴーグルを装着したままだったのである。恋人しか見えていない状態のエアルドフリスは、色々な情報をシャットアウトしなかったのだ。
 ガチャッ
「ハニートーストお待ちー」
「注文の品、全部揃えてきたわよ」
「ドリンクの追加はすぐに持ってこれるから、今聞けるよ……おや、お取込み中だったかな?」
「「「……」」」
 幸いにも曲は終わったところだったので、皆がそっとVRゴーグルを外した。
「愛があれば大丈夫じゃないカナ?」
 不思議そうに首を傾げているアルヴィンを除いて。
「マジかー。ほれアイリス撤収すんぞ」
「え、ハニートースト……お裾分け……」
 さっさと皿を置いて、教育に悪いとアイリスを引っ張り出ていくハジャ。問題発言をかましたシャイネは堂々と微笑みを湛えて待っている。

 パシャッ♪
「うん、出来立てが一番美味しいからね」
 一早く我に返ったユリアンが魔導カメラのシャッターをきった。スイーツ画像は妹にも自慢できるし、場をしのげるし一石二鳥だ。
「シャイネさんも食べていく?」
 まだ固まっている師匠からそっと視線を逸らしたユリアンは、まだ室内で待機している友人を誘って食べることにする。……うん、美味しい。
「落ち着いて食べる甘いものってなんだか沁みる気がする……」
「お疲れ様、でいいのかな。それって忘年会で言う言葉だったっけ?」
「んんー……あ、そうか。今年もまたよろしくお願いしますって、言い忘れてた」
「ふふ♪ こちらこそ、よろしくね?」
 二人がマイペースな空気を振りまきはじめて、少しずつ室内の空気がいつも通りに戻ってきていた。
「ジュワッてなるのが面白いネ☆ 藤堂氏、これも作ったりできるのカナ?」
「勿論! しかもこれは食パンから拘りたい!」
「エアさーん、戻ってこないとー……」
「ッ!?」
 こそ、とジュードに耳打ちされた内容は何だったのだろうか。

「ユーリ君はうたわないのカナ?」
「盛り上げるのは任せて!」
「マラカス隊相棒のバックは任された!」
 デバイスを渡されて、逃げられないみたいだなと内心で覚悟を決めるユリアン。
「あー……前に妹に仕込まれた曲なら……振り付きで……」
 飲みかけだったモッキンバードの残りをくいと煽る。
「シャイネさん、これのおかわり頼めるかな」
「ふふ、了解だよ♪」

 ♪~
 ごめんね気付かないフリばかりで
 おぼつかないキモチ 視線合わせては逸らし
 重ねた視線に気付いたら 囚われそうで
 締め付ける心が 君を求めてる
 怖がりな僕が 手を伸ばしていいのかな

 いつも背を押してくれる 君が紡ぐ音に もっと頼っていいかい?

 「ごめんね」なんて言わない方がいいよね
 つい出てしまうこの癖を 減らそうかな

 もう少し待っていてくれないかな
 抱えきれないキモチ 今までだって潜めてきたから
 扉開くための切欠が みつけられないんだ
 溢れ出す心で 君を求めたいけど
 勇気がない僕は 手を伸ばしきれない

 僕の翼を誘ってくれる 君の声と共に 飛んでみたいと思ってる

 「待っていて」を叶えてくれる君に甘えてる
 君を甘えさせる僕に なりたいと思ってる

 君の謳う月を目指し 風を切って
 向かい風の中 唇に乗せる 君が好きだよ……
 ~♪

 最後の言葉、視線を向ける先に迷ったユリアンは出入り口である扉へと顔を向ける。
(……あ)
 歌うことに意識を向けすぎて。むしろ彼女の事を思い出してしまったせいですっかりと忘れていた。熱が籠もったままの視線の先には二杯目のカクテルグラスを持つシャイネが立っている。
(うっわぁ……いや、ここは他の女性陣とかじゃないだけセーフ? セーフかな?)
 誤解されたこともあったな、なんて過去の記憶が何故か走馬灯のように蘇る。
「お待たせ♪」
 差し出されたカクテルを勢いよく飲み干す。ついつい熱唱してしまっていた喉を滑り落ちるミントの香りに癒された……と、思う。

「フフーフ、僕ももう一曲いっちゃおうカナー☆」
 新たにマイクを握るアルヴィンは、デバイスで選曲をしていない。それを気にすることもなくアカペラでメロディを紡ぎ出していく。

 ♪~
 今日の空にはニコニコおひさま
 穏やかな風が運ぶ花弁(ハナビラ)
 ステキが待ってる 扉をくぐって
 でかけよう 今日はゼッタイ いい日ダヨ!
 おっさんぽ~ 散歩で健康っ三歩じゃないヨ☆

 雨雲シクシク静かに泣いてる
 蛙がよろこび慰めてるよ
 カーテン開けて 眺めていようか
 のんびりと お茶を片手に ひとやすみ☆
 おっさんぽ~ 散歩で健康っ三歩じゃだめダヨ☆
 ~♪

 最初の一曲と違い、調子っ外れのそれは、確かに同じアルヴィンの口から発せられている。
「アルヴィンさん、その歌は……?」
 信じられないと言った表情で尋ねる研司は、マラカスの手も止まっていた。
「さっき作ったばかりのお散歩の歌ダヨ☆」
 4番まであるんダヨ、もう少し聞いててネー♪

 ♪~
 ヒラヒラ重なる鮮やか葉っぱ
 コートの前をかきあわせて
 茶色の中にも 命が詰まってる
 みつけだそう 愛の形がたくさん あるはずダヨ!
 おっさんぽ~ 散歩で健康っ三歩の向こうマデ☆

 白い妖精チラチラ降って
 真っ白吐息揃ってダンス
 世界がみんな 白く染まるんだ
 めいっぱい 絵具抱えて 塗ったらいいカナ?
 おっさんぽ~ 散歩で健康っ三歩で終わらナイ☆
 ~♪

 いつもならハリセンを閃かせに来るはずのエアルドフリスが、その時何をしていたかと言うと。
「ねえ……エアさん、俺のお願い、聞いてくれるよね?」
「……」
「……エアさん?」
 膝の上に座ったジュードに、目いっぱいおねだりをされていたので動けなかった。
 むしろ、アルヴィンの歌に気付いていなかった。
「ね……俺、頼んだよね? だからさ、しよ?」
「……くっ」
「俺もこのままじゃ、終われないよ……ねっ?」
 そしてデバイスから、新たな一曲が導き出された。
 〆のデュエット曲である!

 ♪~
 ◆重ならない筈だった それは過去の話
 ◇今は信じてる 歩いた先の明るさを
 確かめながら二人の道を作っていこう best each other

 違う道を歩いていたから
 互いに知らないことばかり
 ひとつずつ 言葉にして
 わからない場所を失くしていこう
 こんなに知りたくてたまらない
 黙るより声をあげて尋ねあって

 ◆重ならない筈なのに 過去の話にされた
 ◇今は確信してる 隣で歩くことの楽しさを
 確かめながら二人の道を作っていこう best each other

 似ていないから惹かれあった
 違うから足りないものを求めた
 ひとつずつ 見つけ出して
 互いの隙間を埋めていこう
 こんなに触れたくてたまらない
 抑えるより許しあって確かめて

 ◇重ならない筈だったなんてもう言わせない
 ◆今は信じてると応えた 隣で歩く温かさを知ったから
 確かめながら二人の道を作っていこう best each other
 ~♪

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  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオール(ka0184
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラ(ka0726
    エルフ|21才|男性|機導師
  • 物語の終章も、隣に
    エルティア・ホープナー(ka0727
    エルフ|21才|女性|闘狩人
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

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