【初夢】キミカレ

マスター:奈華里

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2019/01/06 07:30
完成日
2019/01/15 03:32

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 時は年末、今年もよく働いた。
 休日返上の日もあった位で気付けば恋愛なんてしてる余裕がなかった。
 そんな帰り道、年末セールで立ち寄ったおもちゃ屋で見つけたのは一つのタイトル――。
 それは恋愛シュミレーションという恋愛を疑似体験できるゲームソフトだ。
「あ…このキャラ、ちょっといいかも…」
 パッケージの裏には恋愛対象となるキャラクターが描かれ、それぞれに声優が割り当てられている。
 その割り当てられた声優さんも実は自分の好みにぴったりだ。
「うーん、どうしようかなー?」
 年始は長めの休暇を取っている。年末ギリギリまで働いたのだから当然だ。
(炬燵でのんびりゲーム三昧…それもいいかも)
 聞き慣れないタイトルだったが、好みの絵柄にも背中を押されて早速レジへ。
「三百円になりまーす」
 思いの外安い値段に一瞬目をぴちくり。
 もしかすると、このゲーム…声優は豪華だが、かなり面白くないのかもしれない不安が過る。
 けれど、自分の後ろにはもう何人ものお客が並んでいるし、ここでやめるのは恥ずかしい。
「あ、はい…これで」
 そこで慌てて硬貨を取り出し支払いを済ませる。
 外に出た頃には止んでいた筈の雪がまたチラついて、どうもこの分だと積もりそうだ。
「…早く帰ろう」
 誰に言うともなく、一人で呟く。
 たった三百円のこのゲーム、果たしてこのゲームは本当に自分を楽しませてくれるのだろうか。

 翌日、家の大掃除もそこそこにものは試しと買ってきたばかりのソフトを本体にセットする。
「キュンキュンしたいあなたへ…なんて、今思えば在り来たりかも」
 どうにも値段が安かった事が頭の隅に引っかかっているらしい。
 あまり期待せずに起動したそのソフトであるが、OPはしっかりと作り込まれているし、フルボイスというのも点が高い。流れるアニメーションに歌もそこそこ好印象。さっきまでの疑いが嘘のようだ。
「ハズレじゃない。これは掘り出しものだわ」
 アップテンポの曲を聞きながら、既にコントローラーを握る手に力が籠る。
 プレーヤーとなる主人公はクリムゾンウエストと言う世界の海をまたにかける女船長らしい。
 父を海で亡くしてはいるが、天性の素質で風を読む事ができるのだという。
 そんな彼女の元にひょんなことをきっかけに集まったハンターという名の冒険者が彼女を慕い、やがては恋仲になるという王道的なストーリー。始めのうちは他愛のない会話が展開されていたが、後半はモンスターとのバトルや海賊との海上戦、お宝探しのイベントなんかも盛り沢山。少しだけするつもりがいつの間にか熱中し、気付けばお目当てのお相手との好感度もMAX手前まで来ているではないか。
「はぁ~、いよいよラストかな。っていけない! 掃除忘れてたっ!」
 続けたい気持ちはやまやまだが、このまま年越しをしては如何なものか。残っている掃除を再開する。
(そう、お楽しみは後にとっとくのよ)
 少しでも早く終わらせて…ゲームの続きを。
 一体どんな結末が待っているのか、とても楽しみだ。

リプレイ本文

●共通ルート【回想】
 それはある晴れた日の事だった。
 いつも通り、荷物を載せて頼まれた物資を次の港へ運んでいた時の事。見かけない船が近くを走っているのが見えて、少し不審に思ったけれど大して気にも留めなかった。しかし、この後起こった事は私と彼等との出会いに繋がる。
「やいやい、そこの船。ちょっと止まって貰おうか」
 少し離れた場所から大声を上げて、赤き上着を羽織った青年がこちらに呼びかける。
「そうだぜ、俺らの手にかかって逃げられると思うなよ」
 そう言うのは緑の鎧のもう一人だ。どちらも黒髪が特徴的で年の頃もそれ程違わないように見える。
「どうします、船長?」
 並走するようについてくるその船を見取り、私の船の乗組員が尋ねる。
「そうね…海賊にしてはお粗末だし、少し様子を見てみましょう」
 私はそう切り返してそのまま船を走らせたが、あちらはそれが気に食わなかったらしい。
「なあ、いっそぶつけて止めてしまうとか?」
 緑の――紅咬 暮刃(ka6298)が隣りの相棒、リュー・グランフェスト(ka2419)に尋ねる。
「そうだな。その方が手っ取り早いかも」
 そこで彼等は船主に声をかけて、全速力で私の船へ。
 いい風が吹いていたから速度が上がるのが早い。あっという間に側面へと近付いてくる。
「おい、何事だ?」
 とそこで異変に気付いたレイア・アローネ(ka4082)が操舵室へとやってきた。彼女とは以前仕事を共にして以来の仲で、積荷先の港に彼女も用があるとかで今回はたまたま同乗していたのだ。
「ちょっとね…もしかしたら、また嫌がらせかも」
 激突すれすれで舵を切って、私が突っ込んできた船を間一髪のところで避ける。
 だが、あっちもそれで諦める筈がない。
「逃がしはしない! いくぜ、暮刃」
「おうよ、そうこなくっちゃ」
 そう言って、さっきの二人がこちらの船に飛び移る。
「ッ、まずいわね! 総員退避よ。レイアさんは私と来てくれるかしら」
 飛び乗られた事は明らかで私が決意したのを知って、彼女がこくりと頷く。
 (私の船員達に傷なんてつけさせないんだから)
 私が甲板に出る。あの身のこなしからしてあの二人は只者ではない。
 つまりは雇われハンター…嫌がらせとは言え、ハンターまで雇うとは。
「おっ、なんだ。あっさり降参かい?」
 飄々とした様子で暮刃が言う。
「冗談でしょ。勝手に私の船に上がらないで頂戴。それに私は用件を聞きに来ただけよ」
 レイアがいる。私を守るような態勢で前に立ってくれているからとても心強い。
「おまえら何者だ? 暴れるというなら、こちらもそれ相応の対応をする事になるが」
 レイアが睨みを利かせて、彼らに言葉する。
「ハッ、悪徳業者さんは流石に用意がいいなぁ。そっちのはボディーガードって訳?」
 剣を片手にリューも言い返す。
「何よそれ、悪徳業者ってどういう…」
「しゃらくさいね。覚悟してもらうよ」
 私の言葉に聞く耳もなく、二人が同時に甲板を駆ける。
 この二人を相手にレイアは全く動じなかった。二人の動きをしっかりと見つめて、まずは先に動いた暮刃から。彼の日本刀を軽々とレイアが受けとめる。だが、その隙を狙って、今度はリューが剣を振り上げる。
「イズっ!」
 そこでレイアは私を庇う為、刀を突き返して今度はリューの前に入り薙ぎ払い。私への接近を防ごうとしてくれているらしい。何度かそんなやり取りを経て、二人が後方に下がる。
「チッ、手強いな」
「だけど、俺らならやれる筈…だよな?」
 二人が言葉を交わす。
「レイアさん、大丈夫?」
 さすがのレイアも二人の連携攻撃にはてこずっているのを見取り、私が声をかける。
「大丈夫だ。イズには指一本触れさせはせん」
 魔導剣をしかと握り直してレイアが言う。
「くそっ、もうこうなれば奥の手だぜ」
 とその時だった。二人が乗ってきた船から突如響いた轟音。
 音の先からはでっかい鉛の弾が飛んでくる。
「ちょっ、マジか!」
 リューがそれを見て目を見開く。
「ウソだろっ! ボクら諸共とか…」
 暮刃もそれには困惑を隠せない。迫ってくる砲弾にあわあわする。
「もう、何なんのよっ全くッ!」
 私が慌てて操舵室に指示を出す。そして、
「もういいわ。あんた達も死にたくないならこっちに来なさい!!」
 私は二人の刺客の手を取り船尾に走る。船尾に行けば魔導モーターがある。
 これの起動にはハンターらの力が不可欠なのだ。ぐんぐん迫る砲弾に――こうなれば一か八かだ。
 昔乗っていた父の小型船ならば咄嗟の小回りもきいたが、今乗っているのは大型船だからそうはいかない。だからこそ、彼らの力が必要で…着弾まで後数メートル。慌てて、装置に二人の手を押し当てる。
「お願いっ、かわしてっ!!」
 後は祈るのみだ。直撃さえ防げれば後は何とでもなる。
「あんにゃろ~、後でタダじゃおかねぇ」
「ハァ……やれやれ、まさかボクらが一杯くわされるとはね…」
 リューが奥歯を噛み、暮刃はようやく自分らの状況を理解した。

●リュー【恋と友情】
「もうあれからだいぶ経つけど、今の気持ちは?」
 今日も船を走らせて、隣りにいるリューに私が尋ねる。
 私を悪徳業者だと吹き込んだ海賊、実は結構な規模を誇る海賊で…追跡は困難を極めた。
 けれど、どうしても捕まえたいというリューの願いを叶えたくて私も仕事の合間に情報収集し、ようやくその海賊達の塒を見つけた。代々やっているようだから規模も大きく、ひょっとするとかなりのお宝を抱え込んでいるのかもしれない。けれど、ハッキリ言って彼等の宝に興味はない。どんなものが出て来てもそれを手にするのは私ではないのだ。
「うーん、そうだな。あの時の礼はきっちりさせてもらうぜってところかな」
 そう言いリューが微笑む。
「おーい、景気付けに一杯どうだい?」
 とそこへ暮刃がワイン片手にやってきた。
「あら、カップは一つだけ?」
 暮刃の手にしたそれを見て私が問う。
「あぁ、うん。棚に一つしかなくてね~、きみはともかくリューは気にしないよね?」
 なみなみと注がれたカップをリューに差し出し、暮刃が尋ねる。
「ああ、もちろん。折角だから少し貰おう」
 そう言って構わずぐひぐひ。彼は本当にお酒に強い。いくら飲んでも酔わないのだという。
「もう二人共まだ子供ね。戦う前にそんな飲んでどうなっても知らないんだから」
 そう言葉するも一つのカップを共有する二人を見て、私の心がざわつく。
 けれど、これまでも見てきた事だ。何度か旅を共にして、二人の連携はとても素晴らしい。けど…。
(何考えてるの、私は大人……私が大人にならないと)
 羨ましいなんて思わない。思っちゃいけない。
 それにたかが、相棒だ。確かに二人には私の知らない絆があるけれど、だったら自分にだって…。
(私には、何があるの?)
 ふと気付かされた現実に、私は彼との距離を感じる。
「なんだ? そんなに欲しいならグラス探してきてやるぜ」
 そんな私の様子をリューはふてくされているものと勘違いしたらしい。
 船内へ降りるための階段に手をかける。
「リュー、だったらついでにアテも頼むよ」
 そんな彼に暮刃が気安く声をかける。それに振り返ることなく、わかったよと手を振り去るリュー。
「船長大丈夫ですかい?」
 そんな私に気付いて、船員の一人が声をかけてくれて…私は頷くしかできないでいると、今度は暮刃がこちらへと歩み寄ってくる。
「な、何か気になる事でも?」
 さっきの彼とは少し違う雰囲気の暮刃に些か緊張する。
「ねぇ、ぶっちゃけきみはアイツのことどう思っているんだい?」
 それはあまりにもストレート過ぎる質問だ。
「どうって、私は…」
 好きだと思う。だけど、これはどの『好き』なのだろう。親愛、それとも恋愛?
 そういう経験がないに等しい自分にはそれが判断できない。
「即答できないのか、あるいはしたくないのか…どっちでもいいけど、アイツは『ボクの相棒』だから。その辺、ちゃんとわきまえてよね」
 その言葉が胸に突き刺さる。判っていた事なのに、こうもはっきり言われるなんて。
「おーい、グラス見つかったぜ」
 そこでようやくグラスを見つけたリューが戻ってきた。
「早かったね。けど、そろそろ問題の海域らしいよ」
 暮刃が何食わぬ顔で言い、彼の元に歩いて行く。
(一体、私はどうしたら?)
「船長、そろそろですよ」
 そこで船員から声がかかって私は首を振る。
(ダメダメ、今は仕事に集中しないとッ)
 和やかに話す二人を前に、海風が私の頬を緩やかに撫でた。

 カンッ、キッ、ドドッ。
 甲板が戦場と化している。相手はこちらの動きをも読んでいた様だった。
 塒近くの海域に入って早々、後方を突かれて始まった海上戦。こちらにも戦闘に際して砲台を用意していたからまずは撃ち合い。けれど、流石にあちらの方が手慣れている。私は操縦テクニックを駆使して、回避を繰り返したもののそれだけでは埒が明かない。そこで起死回生とばかりにリューと暮刃があちらの船に飛び移ったのだが、事はそれだけでは終わらない。
「ウソっ、まだあるの!」
 二人があちらの船に移ったと同時に姿を現したもう一隻がこちらに突進。流石の私もこれを回避できず、右舷に大穴。飛び乗ってくる敵をどうする事も出来ず、残っている船員達で対処するしかない。
「みんな、頑張って! そうすればきっと…ッ!?」
「みぃーつけた」
 言葉を言い終える前に敵が私を前にダガーを構える。
「な、なによ…やる気なら、受けて立つわ」
「おおーと、動くなよ。コートの下のものには触れさせねぇぜ」
 護身用の銃のその存在もばれていて抵抗虚しく捕まりマストへ。
 勿論狙いはリュー達の動きを止める事だ。
「おらっ、女神のお通りだぜ」
 私が拘束された事により船員達もやむなく武器を手放す。そして、それはあちらの船にも届いたようで。
「イズ…」
 リューが呟く。暮刃も苦虫を噛むような表情でこちらを見ている。
(ごめんね…ごめんなさい)
 足手纏いな自分が嫌になる。いっそこのまま消えてしまえればと、そう思った時だ。
「な、何ッ」
「いっけぇぇ」
 向こうの船から暮刃の声がした。それと同時にこちらの船に飛んでくるリューがいる。
「イズを放しやがれっ!」
 剣を振り被ったままでリューの怒声。その眼に気押されて、海賊は動けない。そして、甲板に辿りついたと同時に心の刃を発動すると海賊の手にしていたダガーをあっさり弾いて…。
「イズ、しゃがめっ!」
 そこからの連続攻撃に私を捉えていた海賊はあっさり気を失い、床に倒れる。
 彼が戻って来てからの快進撃はあっという間だった。すでに囮となっていた船の方は片付いていたし、こっちに来ていた敵に覚醒者はいなかった。つまりは力の差が圧倒的だったのだ。
「あ…有難う…」
 騒ぎの鎮まった甲板で私がお礼を言う。
「なんて事ないって。それに元々はこの戦い、俺らのもんだったしな」
 『俺ら』…そう、これはリューと暮刃のものだ。そして、私はただ手伝っただけ。
「お疲れだね。見事な跳びっぷりだったよ」
 暮刃も戻って来てリューを労う。その様子にまた壁を感じ、黙ってしまう私。そんな私にリューは気付いたようで、怪我でもしたのかと手を差し伸べてくれる。
(あぁ、ダメね…そんなに優しくされたら、もっと辛くなるじゃない)
 私はそこで手を出す事が出来なかった。そして、それは港に戻っても同じで…流石にあからさま過ぎたのか、心配したリューが私の部屋を訪れる。
「入っていいか?」
 扉の前で彼が言う。その言葉に私が答えられずにいると、そのままの状態で彼は話し始める。
「なんか、悩ませちまったみたいだな。ゴメン…さっき暮刃に怒られたよ」
 いつもとは少し違う声音で彼が続ける。
「だから、今の気持ちをはっきり言うぜ。俺はお前が好きだ。あの時はどうなるかと気が気でなかった」
「リュー」
 待っていた言葉に思わず声が漏れる。だけど、彼の言葉はそこで終わらない。
「だけど、暮刃も好きだ。あいつは相棒だからな。だから、これからも三人で楽しくやろうぜ。それじゃあ、ダメか?」
 彼の無慈悲な言葉が胸に突き刺さる。けれど、今まで一緒にいたから判る。彼のこの言葉に嘘はないのだ。本当にどちらも好きで手放したくないと思っているのだろう。
「……私に貴方は守れないものね。それでいいんじゃない」
 扉越しに私が呟く。
「ホントか! 良かった…」
 そのホッとした声の彼に安堵する私も正直甘いなと思う。
 けれどこれ以上、彼を困らせるのはもっと本意ではないから。今はこれでいい。
 そんな私に小さなご褒美。そっと扉を開けると真っ赤な顔の彼がぼそりと頬を掻きこう続ける。
「でもまあ…お前はやっぱり特別だけどな…」
 下を向いたまま言った彼の言葉に私はドキリとした。 【ノーマルEND/暮刃ルート解放】

「えー、ちょっとここで終わりっ! 嘘でしょ!」
 EDを眺めながらPLが新たに出現したルートの分岐点を摸索する。
 そして、思い当たったのはやはりあの場面であった。

●暮刃【選択の時】
 海賊と戦闘になったリュールート。
 いつも暮刃は一緒にいるから分かれるとしたらこの辺だ。
 案の定、マストにイズが連れ出されてくる場面に差し掛かると、さっきまでなかった描写が現れる。
「よしよし、ここね」
 PLがコントローラーを握り直す。場面はそう、リューの呟きから。
 隠されていたルートだからか、イズに加えて暮刃視点も追加されている。

「イズ…」
 リューの呟き――だが、その呟きは今の僕には聞こえない。
(くそ…あっちを離れるんじゃあなかった)
 そう思った僕はハッとした。
(離れるんじゃなかった…だって? ボクはリューの相棒だ…さっきイズにも言っただろうが)
 咄嗟に出た言葉に訳が判らず奥歯を噛む。
「おい、暮刃頼む」
 そこでリューの声がして、視線を上げればどうやらリューはあちらに飛ばして欲しいらしい。
 言葉を介さなくてもアイコンタクトでそれが判る。
「よし、やるよ」
 そこで今は雑念を無理くり捨てて、僕は手を組み踏み台を作る。そして駆けてきた相棒とタイミングを合わせ、イズの待つ船へと飛び移れるよう補助をする。
「いっけぇぇ」
 思わず叫んでいた。いつもの僕らしからぬ行動であるが、今は一心にイズの無事を願う。
(リュー、頼むからな。アイツに何かあったらボクは…って、また何を考えた?)
 過った気持ちに今度は苛立ちを覚える。
「こっちは一人だ。緩むな、やっちまえー!」
 海賊達が僕を囲む。しかし、囲んだ所で僕の敵ではなかった。

「あ…有難う…」
 騒ぎの鎮まった甲板でイズがリューにお礼を言う。
「なんて事ないって。それに元々はこの戦い、俺らのもんだったしな」
 リューが僕を見て言う。けれど、僕は頷く事しか出来なくて…やはりらしくないと思う。
 そんな僕を静かに見つめるイズがいて、一体何を思っているのか。会った時から勝気で男勝りで、何かと大胆に動く癖にああいうピンチになると途端に弱々しく見える。そのおかげでこちらの調子は狂いっぱなしだ。
「えと…暮刃も助けてくれて有難うね」
 傍に来てイズが言う。
「ハハッ、いつもの威勢が形無しだね」
 そういうのが精一杯。言うつもりではなかった言葉が紡がれて、困り顔のイズだけがこの場に残る。
「ちょっ…暮刃、それはないだろう」
 リューがそう言うが、僕は弁解する余裕もない。イズは俯いたままそのまま部屋へと戻ってしまって、僕は一体何をしているのか。あの時から自問自答は続いている。
「なあ、暮刃。なんかイズのやつ、変じゃないか?」
 リューがそんな彼女の様子を見て僕に尋ねる。
「さ、さぁ…気になるなら追いかけてみたらどうだ? リューはアイツの事好きなんだろう?」
 自分が行くよりはきっと喜ぶだろうと思い、僕がそう提案する。
「えっ、おまえ気付いてたのか! けどだったら、おまえも…」
「それは駄目だね。だって、ほら…そう、ボクは用事を思い出したから」
 本当は用事なんてない。だけど、今はどうしても一緒にいたくない。なぜこんな気持ちが芽生えたのか。しかし、芽生えたからにはどうにかしなければ。今日はどうも眠れそうにない。暫くはイズの船員と酒を飲み交わして、夜が更けた頃リューがイズの部屋へと向かったのが目に入り、こっそり後を追いかけてしまう自分がいる。
(はぁー…ボクはいつからこんな女々しくなったんだ)
 廊下の角に隠れて、こっそり聞き耳を立てる。すると驚く程のストレートな言葉が耳に入ってくる。
「俺はお前が好きだ。あの時はどうなるかと気が気でなかった」
 リューの言葉が胸に痛い。
(ああ、やっぱりそうなんだ…だったら、ボクはきみの良き相棒でいなければ)
 その後もぼそぼそ話しているようだったが、もう聞く必要なんてない。
 僕はそっとその場を後にして、ふらふらと港に向かう。
「困ったな…何で、涙なんて出てくるんだよ…」
 さっきの言葉が耳から離れない。相棒として彼に恋人ができるのは喜ぶべき事だ。なのに、どうして涙が出てしまうのか。その理由を僕は知っている。ついさっき知ってしまったのだ。
「…あぁもう、アイツを裏切りたくないのに…なのに…ボクは」
 もう見過ごす事は出来ない。僕は目の前の船を見つめて、強く拳を握る。

 突然の告白に一睡もできなかった。けれど、気持ちはもう決まっている。
「どうしよう…ちゃんと聞いてもらえるかしら?」
 私が食堂に向かおうと階段を下りる。その途中で声がかかって、振り返ればそこには暮刃がいる。
「なあ、後で少し話せるかな…」
 何処か真剣な眼で私に言う。
(やっぱり怒ってるのね…昨日の事)
 私はそう思うも丁度いい機会だとそれに承諾した。場所は宿の裏にある井戸の傍を指定する。
「じゃあ、その時間に」
 自分の鼓動がうるさい程に脈打つのを感じる。
 が暮刃の方は普段通りに見えて、逆にそれが不安にさせる。
(はぁ、いつも以上に覚悟していかないとね)
 私が壁時計を見上げる。問題の時間まではまだだいぶありそうだ。けれど、時間はやがて過ぎる。
 井戸の前…ここがどこぞの噴水の前ならば、願いを込めてコインを投げていただろう。
「早かったな。そんなにさっさと済ませたかったってこと?」
 素っ気なく彼が言う。
「そんな事ない。私はただ…」
「いいよ、別に。おめでとう…ボクはきみ達を祝福する。相棒も適当に解散すればそれで満足かい?」
 いつもと違う口調に私は困惑した。祝福、解散? 一体何の事を言っているのだろう。
「ちょっちょっと、待って! 暮刃は一体何を?」
「全部言わせるつもり? きみって意外と非情な人だったんだね。知らなかったよ…昨日きみはリューに告られたんだろう。そして、承諾した。だから、ボクにリューの相棒をやめろって」
「違うわ」
「え…」
 私の言葉に彼が目を丸くする。
「違うの…確かに私はリューからの告白を受けたわよ。けど、私は断ったの…三人で一緒になんていうもんだから、私は無理だって。それに、私が好きなのは貴方だもの」
「えっ…ええっーーーーーー!!」
 私の発言に彼が驚き、漫画のようなあからさまな後ずさりをする。
「そ、そんな…馬鹿な事って…」
「あるよ。だって、私は知ってるよ。貴方が仲間思いで頑張り屋さんなところ……暮刃は私の事、嫌いかもしれないけど、それでもちゃんと伝えておきたくて…声かけられたのをいい事にゴメンね。迷惑だったよね」
 言いたい事が言えたからか、私の緊張は自然ととけていた。困り顔の彼を前に小さく苦笑する。
「で、暮刃の用件は? 何か用事だったんでしょ」
「あ、えっと…その…あぁ、もう何でこうなんだろうね、ボクは」
 些かパニックを起こして、彼は深呼吸を繰り返す。
 それを待って、紡がれた言葉に今度は私が動揺する番だ。
「ゴメン、取り乱して…オマエが勇気を出したんだ。今度はボクが勇気を出さないと…」
 ぴしっと背筋を伸ばして、改まった様子で私の前に彼が立つ。
「オマエが好きだ…リューよりも。これからも一緒にいたい…!」
 彼から紡がれた言葉に嬉し涙が込み上げてくる。ずっと嫌われていると思っていた相手に、撃沈するだろうと思っていた相手からの告白に、今までの思いがわぁぁとせり上がってくる。
「本当に、夢じゃないよねっ」
 ぎゅっと彼を抱きしめて、私が言う。
「馬鹿っ、夢だったらこっちが困るよ」
 慣れない抱擁に彼が呟く。
「聞いちまったぜ、相棒! 良かったじゃないか」
 とそこへリューや船員達がやってきて…どうやら私達の様子がおかしかったのを知って皆つけてきていたらしい。
「ちょっと、みんな趣味悪いわよ!」
 私が顔を出した仲間達を叱咤する。
「って事はこれからは暮刃さんも船長ってことか。宜しく頼みますよ、暮刃船長」
「よっ、暮刃の旦那。姐さん女房ですが、まあ大切にしてやって下さいよぉ~」
 船員達の言葉に私達は顔を赤くした。 【ハッピーEND/禁断ルート解放】

「まさかの逆告白! って…禁断ルート? なんだ、これ」
 文末に出た新たなルートにPLが首を傾げる。
 そして、暫し考え思い当たったのはあの女剣士だ。
「もしかして、もしかする?」

●レイア【茨の果てに】
 その道に入る為には始めからプレイし直す羽目となった。
 というのも好感度を上げるタイミングがかなり少なく、逆に周りのキャラの好感度はある程度をキープしておかないと入れないからだ。つかず離れずの距離を保ちつつ、レイアの好感度を上げられるタイミングでは確実に上げていかなければ進めない。
『久しぶりだな、イズ…その後変わりはないか』
 このセリフが出るまでには途方もない既読スキップを繰り返したものだ。

「あら、レイアさんもお変わりなく?」
 とある街のハンターオフィスを訪れた私が返事する。
「で、何かまた仕事か? 危険なら私も同行するが」
 そうさらり言う彼女の言葉に甘えたくなる。
 だけど、彼女の本業はハンターだ。毎回彼女を頼ってばかりはいられない。
「大した事じゃないのよ。こないだの海賊の残党がね、今回の積荷を狙ってるかもしれないってだけで」
「それはいけない。とても危険じゃないか!」
 私の手を掴んでレイアが言う。
 そうして、私の依頼を探す為オフィスの窓口へと向かおうとまでしてくれる。
「あ…待って。依頼はまだなの」
 それを引き留めて、とりあえず事情を話す事に。
「ふむ…成程な。まだ噂で確証はないという事か」
 港の知り合いが小耳に挟んだだけの話だ。それに問題の海賊はだいぶ前にほぼ捕まっているからそれ程の数が残っているとは考えにくい。
「ね、だからレイアさんは自分の仕事を頑張って」
 不安がないかと言えば嘘になるが、それでもこんな事で動じているようではここではやっていけない。
「そうか……しかし、いいか。何かあったら私を呼べ。おまえの辛そうな顔はみたくないのだ」
 真っ直ぐな視線で彼女が言う。余りにも真っ直ぐ過ぎて、私の悪戯心に火が灯る。
「ふふ、何それ。だったら、もういっそ私の船の船員になってみる?」
 それはただの軽口の筈だった。しかし、その言葉をレイアは真に受けたらしい。
「なっ……馬鹿言うな。私が船員になどなったら、お前に近付けなくなってしまうでは…」
「フフ、冗談よ。だって、あなたは生粋の戦士さんですもんね」
 いつもと違う挙動が気になるも、私がくすくすと笑みを零しながら言う。
「なっ! 冗談だと!? 私は本気で」
「本気で、何かしら?」
 ぺろりと舌を出して、彼女といるとついつい子供じみた事をしたくなる。
(駄目ね。男ばかりの中で生きてきたからか、同性にはつい気を許しちゃう。けど、さっきのはどういう事かしら…近付けなくなるって一体?)
 むすりとそっぽを向いてしまったレイアを見つめて、私はまだ彼女の気持ちにも自分の気持ちにも気付いてはいなかった。しかし、時が進むにつれ歪虚の動きはさらに活発化し、私とレイアの間に距離が生まれ始めて…暫く振りに届いたのはこんな手紙だ。
『イズ、元気だろうか?
 これから私は歪虚の王の元へ最後の地、死の海へと向かう事になる。
 私を頼れと言ったが、この戦いはとても厳しいものになるだろう。
 がこれも私の宿命(さだめ)だ。大精霊と交わした盟約を今果たさねばならない。
 おまえの為、そして平和な世界の為、私は行く。
 だがもし生きて帰れたらその時は…もう一度会ってくれ。伝えたい事があるのだ』
「私の為? 何よ、わざわざこんな手紙寄越さないでよ…」
 文面に目を通し、便箋を持つ手に力が籠る。
(こんなのまるで遺言じゃない…)
 それ程までに今度の戦いは厳しいものなのだろうか。
 彼女の力を持ってしても…嫌な悪寒が背中を駆ける。
(もう嫌よ…この海で、また大切な人を失うなんて)
 そう思った時、私は考えるより先に駆け出していた。

 そして、私は今――。
「馬鹿がッ! っていうかその姿は何だッ!!」
 レイアが思わぬ場所で私を見つけて困惑した。
 なぜなら私は今、海軍の船に乗船し、しかも軍服まで着ているのだ。
「風がピリピリしてる…もうすぐなのね」
 肌で感じる嫌な気配に私が言う。が、レイアはまだ今の状況を呑み込めていないらしい。
「ま、まさか忍び込んだのではないだろうな! そんな事したらおまえ…」
「ちゃんと許可は得ているわ。というか向こうからお願いされたんだけどね」
「は、はぁ? まさかだろう」
 さらに混乱した様にレイアが間抜けな顔をする。数か月ぶりのその顔に私は思わず笑ってしまう。
 けれど、それは本当の事だ。私の航海術とテクニックに目を付けた海軍から要請があった。初めは確かに吃驚したし、行くつもりはなかったがどうしてかここに来てしまった自分がいる。
「レイアさん…いえ、レイア。あなたあんな手紙出してどういうつもりよ?」
 そうして、私はあの手紙の真意をズバリ問う。
「そ、それはだな…その」
「私は嫌よ。もう大切な人を失うのは…だから、私はここに来たの」
 少し前までは気付かなかったが、今なら判る。それをはっきりと言葉する。
「いーい、レイア。あなた私に言ったわよね。私の辛そうな顔は見たくないって…私もそうよ。だから」
「わかった。皆まで言うな」
 言いかけた私の唇に指をあてて、その先の言葉を遮る彼女。彼女の指は戦いで少し荒れてはいるが、それがまた彼女らしい。今日はいつもの魔導剣に加えて、見惚れる位に美しい純白の刀が下げられている。
「それは?」
「ああ、これか。これは星神器『天羽羽斬』と言って神殺しの理を秘めた武具だ」
「神殺し…」
 物騒な言葉だが、それでも私はそれを持ち戦う彼女を見てみたいとも思う。
「敵襲敵襲ー! ハンターも含め総員、所定位置へ」
 船内放送が木霊する。
「さあ、やるわよ」
 震えそうになった手を隠して私が言う。そんな私に彼女は気付いたのだろう。隠した手を引き戻して、そっとその甲に口付ける。それは騎士の挨拶にも似て…。
「イズ……強がるな。怖いなら怖がっていい。ただ、私の命はお前と共にある…何かあれば私を呼べ。いいな」
 その言葉が何より心強かった。私は操舵室へ向かい、レイアは甲板へ。場所は違えで心は一つだ。
『あの人は絶対に殺させないっ!』
 その後の事は正直、あまり覚えていない。
 窓に飛び来る雑魔も船内に飛び込んでくる歪虚も…多くの者が傷つき、けれどそれで世界は守られた。
 激しい攻撃にぼろぼろになりながらもなんとか船が港に帰る。その時には、眩しい位の朝焼けがハンターの、そして人々の勝利を祝福して…。
「……終わったのね」
 一気に気が抜けて、私はふらふらと外へ歩み出る。
 するとそこにはレイアがいて、彼女は傷だらけだった。けれど、それでもしかと立っている。
「レイア?」
 力なく私が言葉する。
「イズ…イズなんだな!」
 始めは私と気付いていなかったようだが、声でやっと私を認識してくれたらしい。
 互いに駆け寄り、しっかりと抱きしめる。
「あぁ、良かった…よかったよぉ~」
 糸が切れたように私の目から涙が溢れる。
「すまない。けど、もう大丈夫だ…大丈夫だぞ」
 レイアはそう言い、そのまま落ち着くまで傍にいてくれた。
 かくて、世界は平和になった。
 が、平和というのは長くは続かないもので…一つの邪が消えようとも新たな邪が姿を現す。
 だが彼女はこの戦いの後、表舞台に姿を見せなくなる。なぜなら、
「ふん、神器所有者失格だと言いたければ言えばいい。私は世界より、おまえが大事だ。という訳で片時ももう離れんからな。補佐役も私に任せてくれていいぞ」
 恥ずかしげもなく、レイアが言い放つ。
 けど、私もこれはこれで嫌な気がしないのは、どうも私も彼女に惚れてしまっているらしい。
 これからの船旅は今まで以上に楽しいものになるだろう。
 それは勿論、彼女が傍にいてくれるから…大好きな海で父さんも見守っててね。 【ハッピーEND?】

依頼結果

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参加者一覧

  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 憂う友の道標
    紅咬 暮刃(ka6298
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 企画室
レイア・アローネ(ka4082
人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/01/05 23:12:26
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/05 19:42:01