• 東幕

【東幕】窮鼠月を噛む

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/01/29 15:00
完成日
2019/02/08 18:19

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 年末年始の忙しさを乗り越え、ようやくホッと一息つける……、若く美しき商人・史郎(kz0242)はエトファリカ連邦国・天ノ都にかまえる営業所の中で久しぶりにくつろいでいた。
「ま、こんなもの束の間の休息だってのはわかってるけどさ」
 自嘲気味に呟きつつ、熱い緑茶を飲む。
 商人の仕事がひと段落すれば、次は『裏稼業』の方だ。史郎の生活はいつだってこの繰り返しだったが、近頃は少々様子が変わってきた。『裏稼業』に割かなければならない時間が増えているのだ。
「……だいたいあの人の所為だけどな」
 思い浮かべるのは、あの飄々とした浪人姿の男だ。いつも格別に難しい仕事を持ってくる。最近は、ことにそれがひどい。それに見合うだけの報酬は提示しているが、命がけの危険度から考えれば正直なところ、いくらふんだくっても足りないくらいだ。
 食えない奴だ、と思う。その点に関しては史郎も人のことを言えない自覚があるが。お互いがお互いの正体をわかった上でわかっていないふりをしている、まるで狐と狸の化かし合いのような関係性である。
 けーん、と細い鳴き声が、考え込んでいた史郎を呼んだ。
「ああ、森之助、どうした?」
 史郎が以前、森の中で助けた子狐だ。親を探し出すこともできない上、すっかり史郎に懐いてしまったので連れ帰り、共に暮らすことにしたのだった。
 けーん、と森之助がもう一度鳴いて、営業所の入口の方を示した。戸口には、いつの間にか一通の手紙が挟まれていた。
(これは……)
 素早く引き抜き、手紙を広げるとそれはまさしく『裏稼業』への仕事の依頼だった。史郎が裏稼業の仕事をしていることを知っている者はごくわずかしかいない。連絡先はもちろん商人としての「史郎」のものとは分けているから、本来、ここへこんなものが届くことはほぼないのだが。
「うーん、なりふり構わなくなってきた、ってところだなあ、あのお侍さんも……」
 噂をすれば、という表現は正しくないが、この際そんなことはどうでもいい。依頼の手紙はまさしく先ほど思い浮かべていた、浪人姿の男からだった。史郎にしかわからない暗号を使っており、本人が書いた物に間違いはない。
 ここへ依頼の手紙を持ってきたということは、なかなかに切羽詰まっていることに他ならなかった。呼び出す暇もなければ、断る隙も与えない。お前が「史郎」であることはわかっているんだぞ、という脅しにもなっている。
「ま、厄介な依頼に決まってるよな、そういうの」
 手紙を眺めて史郎は嘆息した。が、ある一文を読んで宝石のような瞳を輝かせた。
「……報酬に糸目はつけない、言い値でいい……、って本気なのか……。そりゃあ、まあ」
 正直なところ乗り気にはなれないが、と胸中でつぶやきつつ、史郎は子狐・森之助にニヤリとして見せた。
「受けないわけにはいかないよなあ」
 けーん、と森之助が鳴いた。



 黒装束に身を包み、闇に溶ける。「月白」であるときの仕事は、この姿がほとんどだ。色も音もなく風のように走る。身を隠す技において、月白の右に出る者はいなかった。
「……まあ、自惚れるつもりはないんだけど、さ……」
 月白は誰にも聞こえない声で呟いた。そう、身を隠している者を追うのは至難の業だ。では、それを楽にするにはどうしたらいいのか。
「多勢で待ち伏せ、だよな、そりゃ。俺でもそうするね」
 今度は、聞こえるくらいの声量で呟く。月白は今、周囲をぐるりと取り囲まれていた。
「ずいぶん余裕そうだな」
 取り囲んでいるうちの誰かが言った。当然だが、ひとりとして顔は見えない。
「余裕? そうでもないさ」
 月白は笑った。本音だった。いかに月白が優れた忍でも、こう人数が多くては骨が折れる。おそらく、どうにか逃げるだけで精一杯だろう。
「まあ、何が目的かは訊かないけど」
 訊かずともわかる。月白の、仕事の妨害だ。
「その目的、果たさせるわけにはいかないんでね。おさらばさせていただくよ!」
 月白は大きく跳躍した。
「逃がすかっ」
 取り囲んでいた者たちが追うように飛び上がるが、月白の素早さに敵うわけもなく、月白はあっという間に手近な屋根へと跳び上がった。が。
「っ!?」
 屋根を駆け抜けようとした月白の足に、縄が巻きついた。ぐん、と引かれ、月白は大きく体勢を崩す。
「っ、にゃろうっ!」
 なんとか屋根から引きずりおろされる前にぶら下がり、縄を苦無で切る。ついでに、縄を投げたらしい者とその周りの数名を焙烙玉で撃退した。
 そこからなんとか、体勢を整えなおして逃げ切った月白だが。
「くそ……、あれはただの縄じゃなかったってわけか……」
 トゲの仕込まれた縄だったらしく、巻き付けられた足には血がにじんでいた。日常生活に支障はなさそうだが、充分な仕事はできない。とっさにぶら下がるために伸ばした腕も、少し筋肉を痛めていた。
「ったく……、面倒なことになった」
 ぼやきながら月白は、深夜の空に冴え冴えと輝く三日月を見上げた。



「皆さんには、俺の調査の協力をしてもらいます」
 黒装束で、月白は集まったハンターたちに告げた。
 怪我をした状態で、ひとりでの調査は続行不可能だ。雇い主である「着流しの侍」に許可を取り、月白はハンターに協力を仰ぐことにしたのだ。
「とはいえ……、こうやって顔も正体も隠した相手の協力はできないでしょう」
 そう言うと、月白は顔をすっぽり覆っていた布を取り払った。
 そこには、世にも美しい少年の顔が……、史郎の顔があった。彼にとっても、差し迫った仕事になったことは、これで明白となった。

リプレイ本文

 黒い面隠しの下から現れた、美しい少年のかんばせ……、その見覚えのある顔に、ハンターの数名が目を見開いた。最もわかりやすく驚きを表現したのはレイア・アローネ(ka4082)である。
「史郎? お前……!」
 レイアは驚愕の表情を見せてから、ゆっくりと息を吐くと、納得したように頷いた。
「……なるほどな、それでこの間も妙な罠にかかっていた訳か。だが別に明かさなくても良かったのではないか? 信頼の証を見せてくれるというのは悪い気はしないが……」
「商売は信用第一ですからね。あなた方に一流の仕事をしていただこうというのに、こちらがみっともない真似はできません」
 史郎(kz0242)が、先ほどまでの「月白」の口調をがらりと変え、人好きのする営業スマイルで言った。笑顔ではあったが、そのセリフは大人顔負けの、仕事に対する厳しい考え方がはっきり見えていた。
百鬼 一夏(ka7308)はレイアとは対照的に顔色を変えず、にこにこと史郎に挨拶した。
「史郎さんこんにちは! あの狐はお元気ですか? 今度ぜひもふもふさせてくださいね!」
 史郎が返事を返すよりも早く、狐の森之助が一夏にするりと寄って行った。わあ、と歓声を上げ、一夏は森之助をなでる。
 驚いていたレイアとも顔色を変えなかった一夏とも違う反応をしたのは星野 ハナ(ka5852)だった。
「史郎さんがフリーのシノビだったなんてそんなぁ……一粒で二度美味しいじゃないですかぁ! ……じゃなくてぇ、それじゃあんまり目立つことしちゃ駄目ですよねぇ。ご、合コンのお願いは諦めますぅ……」
 ハナは顔を輝かせたかと思うとすぐ沈み込んでしまった。いずれにしても、ユニークな反応のハンターたちに、史郎は苦笑した。それは、呆れているためではなく、安堵したためだった。



「ところで、史郎君、怪我は大丈夫?」
 調査の作戦を立てる前に、ジュード・エアハート(ka0410)が史郎の足を気遣った。
「ああ、ありがとうございます。大丈夫ですよ。商人の仕事だけをしている分には、何の問題もないんですがね」
 史郎は穏やかな笑顔でジュードの気遣いに礼を述べた。
「ひとまず、組み分けをさせていただきましょう。俺と一緒に来てくれるのが……、ジュード兄さんと一夏さん、ですね? ユリアンさんには、別の方面をお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか」
 ひときわ落ち着いた様子でその場の流れを見守っていたユリアン(ka1664)が、その言葉を受けてしっかりと頷いた。
「引き受けるよ。俺はちょっと足をのばして武家寄りに調査しようかな」
「では、私もそちらを手伝おう」
 レイアがユリアンに申し出、頷きあう。小首をかしげて考えながら、史郎に向かって小さく挙手したのはハナだ。
「情報を調べに行くのにあれですけどぉ、ちょっと史郎さんに情報貰っても良いですぅ?」
「俺にわかることであれば」
「情報が漏れるのはぁ、情報に伴う動きで有利になりたいからですぅ。少なくとも流す方と得る方は同陣営じゃないですしぃ、情報を得て有利に立ち回りたいのか偽情報で躍らせるのかで双方の力関係入手経路が変わりますしぃ」
 甘ったるく聞こえるいつも通りの口調でハナが語るのは情報戦の基本だ。実によくわかっている、と史郎は内心で舌を巻いた。
「漏れたと思われる先が、公家の上層中層下層のどのあたりに位置するのか、そこが符術の得意な家なのかくらいは教えて貰えませんかぁ?」
「それがわかってれば、正直、あなた方に依頼はしてないですよ。俺ひとりで充分だ。怪我しているとしても、ね」
 史郎は笑ってハナにゆるく首を振って見せた。笑ってはいたが、心の中まではわからない微笑みだった。
「ですが、もちろんまったく手掛かりがないわけじゃない。俺が目をつけているのは……」
 史郎は話しながら、一枚の紙を卓に広げた。紙の上に描かれている模様は一見して何であるのか判別できなかったが、それはどうやら暗号化された地図のようだった。簡単にその見方を説明してから、史郎は白い指で数か所を指し示す。
「ここと、ここと、このあたり、かな」
 暗号化されているとはいえ地図を渡すことはできない。ハンターたちは自分の頭にそれを叩きこむと、しっかりと頷き合った。
「頼みますよ、皆さん」



 聞き込みに行くために着替えをしたい、というジュードと一夏を待ちつつ、史郎も準備を整えた。いつもよりも上等な着物を身に着け、公家屋敷の中で使用人をしていてもおかしくないような立ち姿にしたのである。
「あっ、史郎君カッコいい!」
「本当だ! 雰囲気が全然違いますね!!」
 声をかけられ、史郎が振り向くとそこには……、町娘がふたり。
「……ジュード兄さん、変装とは言いましたが、何も女装しなくてもいいんですよ?」
「え? ダメ?」
 思わず苦笑した史郎に、ジュードが小首を傾げて尋ねた。
「ダメじゃありません、よくお似合いですから、そのまま行きましょう」
 史郎は苦笑を柔らかな微笑みに変えてそう言った。似合いすぎて目立ってしまうかもしれないという心配はあったが、そこはなんとかするのがプロの仕事だろう。
 三人は連れ立って外へ出た。目的のエリアへ向かいつつ、道中で聞き込みの方針について相談しておくことにする。
「今回私は史郎さんの足となります。駒として上手に使ってください」
 一夏が意気込むと、史郎は明るく笑った。
「頼もしいですね」
「史郎さんの頭脳に私の身体能力を合わせれば百人力でしょう!」
「そうかもしれませんね。とはいえ、一夏さんの身体能力を使わなくてもよいという調査がそもそも理想ではありますがね」
 史郎はそう言って、公家屋敷の中の人間ではなくそこへ出入りしている業者などから話を聞くつもりであることを説明した。
「業者ならばあちこちの家に出入りしていますからね、ひとつひとつ家を調べるよりも効率的だ」
「なるほどねー! それに、手足となっている者は怪しまれないよう、普段は今の俺達みたいな出入りの業者や普通の使用人を装っている可能性が高いよね」
「その通りです。さすが、ジュード兄さん」
 史郎が笑顔で頷く。それにしても、と史郎は胸中で呟く。史郎の裏の姿を知ったあともジュードと一夏のふたりの態度の変わらなさには舌を巻くばかりだ。さすがの史郎も少し驚いた。もしかしたら以前から、何か感づかれていたのかもしれないとは、思うけれど。
(俺もまだまだ、彼らを見習って精進する余地がありそうだ)
史郎はわずかに微笑んでからスッと表情を引き締めた。
「では、連携しつつも手分けして、調査にあたろうか」
 その顔は商人「史郎」のものではなく、忍「月白」のものだった。



 ユリアンとレイアは、武家屋敷の方まで足を伸ばそうとしていた。
(情報は将軍、帝それぞれから漏れ出てる。歪虚は幕府と朝廷を決定的に仲違いさせる為に本物の秘宝を奪おうとした。それを望むのは歪虚だけだろうか?)
 ユリアンはこれまで自分が関わってきた案件を思い出しながら思案していた。
 レイアは主に周囲の警戒など、ユリアンのサポートをするつもりでいたため、移動中も注意深く気配を探っていた。
「……ユリアン、あの屋敷はもしかして、さっき史郎が示していたもののひとつではないか?」
 ふと気が付いてレイアが視線を送ると、ユリアンもさりげないふうをよそおってそちらへ顔を向けた。
「……本当だ。まだ誰も調べていないようだし、ちょうどいいから立ち寄ろうか」
「そうだな」
 ふたりは周囲の人通りに気を遣いながらゆっくり屋敷に近付いて行った。真昼間だというのに、その屋敷には人の出入りがなく、おそろしくひっそりしている。それだけでもなんだか妙であると感じられ、史郎の読みは早くも当たったのではないかと思われるほどだった。
「この分なら、夜を待たずに忍び込めるかもしれないな……、やってみようと思うんだけど」
「わかった。見張りは任せてもらっていい」
 ユリアンの提案をレイアはすぐさま承諾した。一番人目につかない裏通りに面した壁からユリアンが中へ忍び込む間、誰も近付けさせぬよう警戒し、忍び込んでしまってからは屋敷の中と外、どちらの気配にも気を配った。
 ほどなくして、ざっと中を調べ終わったユリアンが戻ってきた。レイアの顔を見ると、ゆるく首を横に振る。
「どうやらハズレみたいだ。屋敷には年老いた夫婦しか暮らしていないようだったよ。隠居のための住居ということじゃないかな」
「なるほど、ひっそりしているわけか」
「隠れ蓑にできそうな部屋もなかったし、大きな蔵があるわけでもない。関係ないと考えてよさそうだね」
「そうか。では、次へ行くとしよう」
 華麗な連携プレーでいくつかの武家屋敷・公家屋敷を調べたレイアとユリアンだったが、そのどれもが実に楽々と忍び込めるものばかりで、いささか肩すかしを食った。
「見張りなどいらないくらいだな……、役に立っていなくてすまない」
 レイアが困惑しつつ言うと、ユリアンはきっぱりと首を横に振った。
「立派な見張りがいるとわかっているからこそ、こちらも行動ができる。役に立ってないなんてとんでもないことだよ」
「そうか。……それにしても、少々楽にいきすぎてはいないか。ユリアンの手際がいいということももちろんあるわけだが」
「そうだね……、でも、楽に忍び込めてはいるけれど、目ぼしい情報は手に入れられていないからね」
「ふむ……」
 レイアは中の様子をひとつも知らないため、情報の取捨選択に関する判断はユリアンに任せるしかない。しかし、見張りをしているが故に思いつくこともあった。
「……情報がないからこそ、楽に忍び込めているのでは……?」
「!」
 ユリアンはその言葉にハッとして顔を上げた。
「そうだ、確かにそうだ……、守るべき物がそもそもなければ、警備をきつくする必要はないんだから。つまり」
「警備のきつい屋敷を探せばいい、ということだな」
 ユリアンとレイアは顔を見合わせた。



 ハナは単独で調査を展開していた。目立たないという意味では、これが一番いい。
「スメラギ様なら素で情報抜かれ放題でしょうけどぉ、紫草様なら今後の混乱減少のために選んで流すでしょうしぃ、それ以外なら保身絡みでしょうねぇ」
 自説を口の中で呟きつつ、史郎からもらった情報をもとに、その家の近くの茶屋や宿屋の調査にあたる。式を使うこともあれば、直接買い物をしたりして、その家の評判はどうかなどを確認した。
「保身もスメラギさんのオイタを止めさせ安泰狙うか、スメラギさん亡き後の安泰狙うかで危険度違いますからぁ。それだけスメラギさんのしたい事は爆弾なんですよねぇ……」
 調査に立ち寄った茶屋で、ハナは茶と団子を注文した。もちろん、くつろぐためではない。こうした店で何も食べず、ただ話を聞いて立ち去るのでは不自然にすぎようというものである。
「うーん、このお団子美味しいですぅ」
 茶屋の女将に愛想を振りまいておいて、立ち去ったのを見送ってから団子を頬張りつつ占いをする。
「んー、ちょっと見過ごせない結果が、出てきましたぁ」



 人の口に戸は立てられぬ、とはよく言ったものだ、と史郎は思った。これまでも調査の依頼はいくつもこなしてきて、そのたびに感じてきたことだが。人は基本的に、喋りたがっている。
「ほう、つまり、最近はその家にあまり近寄っていない、ということなのだな」
 育ちの良い青年に見えるような立ち振る舞いと言葉遣いで、史郎は米問屋の主人から話を聞いた。化粧で多少の変装はしているものの、大きく顔を変えているわけではない。それでも史郎を知っているはずの人間でさえ素通りしていく。これが、真の変装というわけだった。
(あれ、ホントどうやるんだろ。すごいよね……)
 米問屋から少し離れたところで花売りの少女に話しかけつつ、ジュードは史郎の変装技術・聞き込み術に舌を巻いていた。
「そっかあ、変なこともあるものだね。面白い話を聞かせてくれてありがとう」
 ジュードは、花売りの少女に菓子をやり、動き出した史郎の後を追った。すっかり町娘気分で店をぶらぶらしていた一夏もそれに続く。もちろん、本当にぶらぶらしていたわけではない。史郎とジュードの周囲を、油断なく警戒していたのである。
 誰から見てもバラバラの行動をしていた三人だが、実は華麗に連携していたのである。
「……これで、三人目だな」
 史郎が、小声で言う。ジュードが、小声で返した。
「四人目だよ。さっきの花売りの子からも同じ話が聞けた」
 同じ話、とは。
 とある公家屋敷に、容易に近付けなくなったという内容だった。急に警備が増え、出入りする者を警戒するばかりでなく、特定の者だけが頻々と行き来するようになったという。特定の者……、それは。
「楽師、だってな」
「うん。あまりいい噂はないみたいだったよ。怪しい占い師と繋がりがある、とか」
 一夏も同じ話を聞いていた。これで、間違いはなさそうだ。
「たぶん、その屋敷の中へはとても入りこめないだろうが……、それでも行くだけ行ってみるか」
 史郎の言葉に頷いて、ジュードと一夏が続いた。その屋敷の近くまで行くと。
「ジュード、一夏。と、史郎」
 レイアが、目を丸くして現れた。ユリアンも一緒だ。
「あれっ、ふたりもここに?」
「ああ。警備の多い屋敷、という観点で探していたら、ここへ辿り着いた」
「なるほどね」
 と、さらに。
「あれぇ? 皆さんお揃いですねえ」
 ハナも姿を現す。はからずも、全員が合流してしまったのだ。
「占いでぇ、ここだ、って出たんですよぉ」
 ハナが、屋敷を指差す。全員の視線が、そちらへ向かった。
「……間違いは、なさそうだ。全員の調査が一致した。きわめて好ましい結果だ」
 史郎……、いや、月白が、眼光鋭く見据えたその公家屋敷は。

「足柄家」。

 真昼の月が、その屋敷の上に白く、出ていた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 5
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 乙女の護り
    レイア・アローネka4082

重体一覧

参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏(ka7308
    鬼|17才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ジュード・エアハート(ka0410
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2019/01/29 00:20:15
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/26 22:16:52
アイコン 質問卓
ユリアン・クレティエ(ka1664
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/01/28 20:20:37