• 王戦

【王戦】ルクシュヴァリエ破壊命令

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
3日
締切
2019/02/05 22:00
完成日
2019/02/13 00:06

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-

オープニング

●工廠
 ドワーフ鍛冶も、人間の熟練細工師も、マシニングセンタ担当のリアルブルー人も固唾を呑んだ。
 刻霊術の詠唱が終わった。
 振動を伴わない鼓動がひとつ。
 ただマテリアルを押し込められているだけの金属が、1個の動力炉として動き出す。
「刻令術の定着を確認しました」
「出力、規定値まで4、3、2……到達しました」
 鉄の巨体からマテリアルの霧が噴き出した。
 機体のマテリアルと比べると塵に等しい僅かな量だが、質も量も凄まじく高く神々しくすら見える。
「駆動系問題なし」
「生命維持系問題なし」
「通信系問題なし。……改修に成功しました」
 安堵の息が人数分漏れる。
 再加熱された食事と飲み物が工場内の厨房から運び込まれてくる。
「職人技で兵器を作るってのは、浪漫はありますがゾッとしますよ」
 黒髪黒目のリアルブルー人が額の汗を拭う。
 機体の性能に文句はないが、リアルブルーと比べると生産方法がなんとも古臭い。
「俺は王国の財力が怖いよ」
 見た目からして帝国人の職人が肩をすくめる
 材料費も人件費も経験したことがない規模だ。
「美味い飯と楽しい仕事があるならそれで十分じゃろ」
 ドワーフが分厚い肉のハンバーガーを2つ食い尽くし、高カロリー飲料で流し込む。
 げふぅと息を吐いてから革手袋をはめ直す。
「術師の休憩中にもう1機仕上げるぞい。急げ急げ!」
 ハンター以外には使いこなせない高性能機は、全力で生産してもあまり数は作れなかった。

●尋問
 分厚い金属の扉が滑らかに開く。
 崑崙基地の地下深くにある医務室から、軍医と聖職者が厳しい顔のまま出て来た。
「結果は」
 佐官級の軍人が詰め寄る。
 軍医は答えずソファーに座り込み、聖堂教会の司教は殺気を抑えるため深呼吸を繰り返す。
「申し訳ありません。2人壊してしまいました」
 司教が深く頭を下げた。
 軍人達は一瞬目を見開き、腹腔から迫り上がる怒りを根性で耐える。
「報告書を書く気力はない。録画から情報をとってくれ」
 軍医は暗い目でそれだけ吐き捨てた。
「彼等の……人型歪虚の発言に嘘はないと考えていいのだな」
「はい。本心を口にさせました」
 司教は、政治要素が入らざるを得ない異端審問の専門家ではない。
 手段を選ばない情報収集の専門家だ。
 軍人の目が怒りで底光りする。
 その怒りの一部は司教に向いている。
 理性では筋違いと分かっているが抑えられない。
「知性と知識を保ったVOIDに忠誠を誓うとは」
「肝心のVOIDに関する情報は名前のみ。使い捨ての駒扱いか!」
 激高する軍人とは対照的に司教は落ち着いている。
 慣れているからだ。
 数え切れない回数、有為の人材を失って来たからだ。
「もう大丈夫だ」
「はい。次の尋問を始めましょう」
 軍医と司教が、別の戦場で捕らえた元人間の元へ向かった。

●輸送隊
 ルクシュヴァリエ12機全てにハンターが乗っている。
 当初の輸送計画では大型魔導トラックに1機ずつ載せる予定だったが、現地の判断で護衛のハンターを臨時パイロットにしたのだ。
 青マントを羽織った白い騎士の行軍は非常に華やかで、かなりの速度が出ているのに見物客が集まるほどだ。
「戦力が過剰じゃないか?」
「速度は出てるけどよ、大きな機械って動かすだけで壊れるだろ。大丈夫かよ」
 ユニット用の剣と盾を載せたトラックの運転席と助手席で、最近ハンター登録したばかりのリアルブルー人が小声でぼやいている。
 先頭の2機がふらついた。
 尻から地面に倒れ、騎士の見かけに似合わぬ女の子座りで停止する。
「酔い止め、おねがい」
「目が回りますぅ」
 搭乗口からハンターが這い出てくる。
 CAM操縦に慣れた中堅ハンターなのに、大規模作戦に参加した直後のように疲れ果てている。
「こちら隊長。大休止を取る。街道の脇に移動しろ」
 止まった機体が無事な機体によって運ばれ、しかし運ぶ途中でもう2機がリタイアする。
「こりゃ始末書じゃすまねぇかもな」
「何他人事みたいに言ってんだ。輸送に失敗したらどっかの戦線が崩れるかもしれねぇんだぞ。ほら薬持ってけ」
 ルクシュヴァリエ全機が足を止め、魔導トラックから炊事装置が下ろされる。
 そんな光景を、ギリースーツを来た歪虚が見つめていた。

●歪虚
「気づかれたか?」
「これまで一度も目視されていません」
「予想されているということか」
 軍服の歪虚が十数秒考え込んだ後、決断を下す。
「これ以上進むと現地騎士団の活動範囲に入る。仕掛けるぞ」
「はい、イヴ様のために」
「イヴ様のために」
 かつて国民と国家に向けられていた忠誠が、1個の歪虚にのみ向けられていた。

●襲撃
 迷彩色の布を引き千切って真球の鉄塊が浮かび上がる。
 微かに汚れてもなお美しいそれから、壮麗で心惑わせる曲が流れ出す。
 強制だ。
 傲慢系統の高位歪虚が持つ特殊能力が、ただ頑丈で浮かび上がれるだけの鉄球に与えられている。
 1対1であれば中堅歪虚でも問題なく勝てる相手だ。
 しかしその数が20を超えると、20数度の抵抗に全て成功しない限り10秒ですら戦えない悪夢じみた脅威となる。
「剣は銃に持ち替えろ、急げ!」
 ルクシュヴァリエだけは健在だ。
 強度2に達した状態異常攻撃を寄せ付けず、普段と変わらぬ動きで歪虚に立ち向かう。
 だが、敵は球形スピーカーだけではなかった。
「敵襲ぅ!」
 遠くの真球に注意が向いた嫌らしいタイミングで、数日前から潜んでいた穴から歪虚CAMが飛び出した。
 30mmガトリングガンが大量の弾を吐き出す。
 搭乗者のいないルクシュヴァリエが穴だらけにされ、無色のマテリアルを断末魔の如く噴き出す。
「デュミナス? なんでっ」
 輸送隊は部隊としての戦闘能力を喪失した。
 あなたと、他数名のハンターだけで切り抜けるしか無い。

●黒竜
「古道具を守る余裕があるならとっとと歪虚狩りに向かえい!」
 聖堂戦士団を蹴り出すように増援に向かわせた後、司教は衰えた己の筋肉を見て舌打ちする。
「後10年若ければ……」
 指で表情筋をマッサージ。
 聖堂に避難した者達を安心させるためにも笑顔を浮かべる必要がある。
 だが何だろうこの違和感は。
 まるで、高位の歪虚が近くにいるような……。
 轟音が耳を麻痺させる。
 信仰対象になり得る遺物が収められた倉庫が、内側から扉だけ砕かれた。
「死ぃ」
 声より先にメイスが出た。
 筋繊維を壊しながら、正マテリアルを弾けさせながら、生涯最高の一撃を侵入者へ繰り出した。
 だが届かない。
 傷だらけの黒い体が床の上を滑るように移動。
 獣以上の身体能力で以て熟練の技が実行され、メイスの下を潜り抜けて司教の顎を揺らす。
 金の瞳が、満足そうに細められた。

●依頼
 ルクシュヴァリエの輸送を依頼する。
 歪虚の撃破は義務ではない。

リプレイ本文

 完璧な奇襲のはずだった。
 護衛戦力を常識的の範囲の上限と推測し、人間の戦力を遠方から封じた上で最大の戦力を急所へ送り込んだ。
 不運と予想外が2桁重なろうが最低限の目標は達成できる。
 優秀なリアルブルー軍人らしい判断であり、対歪虚戦の最前線を知らない判断ミスだった。

●人類の例外
 壮麗な音楽が響き始めると同時に、老若男女が左右に揺れながらその場に倒れ伏す。
 しかし例外が8人いる。
 その中の1人、メンカル(ka5338)が無言でつかつかと歩み寄って往復の平手打ちを撃ち込んだ。
「落ち着いて逃げろ。CAMの方が大事だろう、今は」
「治療費を請求していいか?」
 魔導トラック運転手が目に涙を浮かべながらエンジンを再起動。
 メンカルは覚醒状態に移行しながら、口の端を微かにつり上げた。
「ハンターズソサエティーにつけておけ」
「報告書と申請書を書くのは手伝えよ色男!」
 魔導トラックが急発進。
 乗り手が代わった直後の新型機の至近で急停車。
 新品未開封の武装入りコンテナが、緊急時故の荒々しさで開けられた。
「戦場の質が変わったか」
 メンカルは一瞬だけ敵勢に目を向ける。
 広大な効果範囲の状態異常攻撃発生源は30近く。
 数年前なら1国の首都が陥落しかねない凶悪な戦力だ。
 そして、今のハンターなら8人で十分な戦力だ。
「おい、あんた」
 無事だった新型機が鹿東 悠(ka0725)のすぐ側で止まった。
「強いんだろ。俺の代わりに乗ってくれ」
 己の力不足に対する怒りと、依頼成功への執念と、VOIDに対する怒りが渾然一体となった若い声だ。
 搭乗口が内側から開く。
 幼くすら見える子供が躊躇無く宙へ身を投げた。
「男を見せたな」
 悠は易々と抱き留め地面に座らせる。
 その腕の逞しさに、男の化粧と格好をしたハンターが顔を赤くしてそっぽを向いた。
「俺、あたしは」
「あの音のせいならこれを被れば多少はマシでしょう」
 気付いた上で気付かないふりをして、悠はヘルメットを強引に被せる。
「喋る余裕があるなら援護に向かいなさい」
 コクピットに乗り込みながら耳栓の仕草を送る。
 少女ははっとしてアニメ柄のハンカチを取り出し耳に当てた。
 悠の視点が切り替わる。
 記憶にある敵と建造物の位置から視点の位置を算出。
 新型機ルクシュヴァリエのセンサーと同一であることを確認する。
 そして、10数秒走った後に倒れてしまった後輩ハンターを一瞥した。
「多少の効果はあるようですが」
 経験則に基づく抵抗成功確率を思い出す。
 数度なら初心者でも耐えられるだろうが、30度近く耐えるのは無理そうだ。
 つかうー?
 つかわないー?
「戦闘に集中しろっ。死にたいの!?」
 ウーナ(ka1439)が声を使わず怒鳴りつけると、無邪気で素直な……しかし人間とは明確に異なる知性がようやく緊張感を持った。
「ほんとシチュも何もかも胸糞悪い」
 そんな
 精霊さべつはんたいー
 新型機を包む緑の光が明滅する。
 ウーナは内心ため息を吐きながら、緊張感を保ったまま冷静に言葉を重ねる。
「歪虚に怒ってるだけ。最初から全開でいくわ。ついてきなさい」
 中小精霊がウーナを中心に寄り集まる。
 新素材の隅々まで意思とマテリアルは行き渡り、ルクシュヴァリエが1個の生命として活動を開始した。
 今はウーナでもあるルクシュヴァリエの前方には、デュミナス型の歪虚CAMが12体いる。
 微かな動きだけで見る者を惑わし、砲撃で一網打尽にされない程度に散開し、1個の部隊としてウーナ達を待ち受ける。
「やるね」
 訓練された人間と同等以上の知性と技術を感じる。
 戦術データリンクに近い物を使っていると直感が囁いている。
「けどねぇ!」
 前方正面。
 斜め前やや下方。
 正面奥と横45度の方向から、しかも時間差で30mm弾がやって来る。
 熟練パイロットであるウーナでも全ては認識しきれない。
 驚愕の練度だ。
 しかしその程度では対歪虚戦を今まで生き延びてきたウーナには届かない。
 デュミナスを大きく上回る速度を維持する。思考よりも速い操作に中小精霊が追随する。
 しんろけってい
 違う。
 へんこー
 あれはフェイント。
 らじゃ
 30mm弾の豪雨に、盾も持たずに2足走行という不安定な形の機体が突っ込む。
 その不安定にウーナの技術が加わると高速高回避に化ける。
 いくつも被弾するがその数は異様なほどに少ない。
 敵の負まてりあるふえてるー
「甘いって」
 ウーナの目の前にいるのは、元は名の知られたCAM乗りが乗る歪虚CAMだ。
 研ぎ澄まされ加速されたウーナの視界に、回転する30mm弾が見えた。
 全身の関節をわずかずつ動かす。
 頭部の左右が浅く削られ、はためく青のマントが半ばから引き千切られる。
「言ってんのよ!」
 左手に構えた銃はそのままに距離を詰め、ぬるりと生物的な動きで躱して右手の剣を突き立てる。
 感触は鈍い。
 中身のパイロットは完全に歪虚に変わってしまっていた。
「ルクシュヴァリエまで質の悪い同キャラ対決はさせないから! お前らをブチ殺して終わりにする!!」
 光の騎士の剣が墜ちたデュミナスを切り裂き内部を露出させた。
「無茶はするな」
 ウーナ機の大暴れを横目で見つつ、メンカルは魔導トラックに通信を繋ぐ。
 送っているのは音では無く文字データだ。
 運転手達は耳栓をして互いを殴るように刺激して意識を保っているので、耳が使えないだけで無く戦闘能力も皆無に近い。
「ここで無茶しないでいつすんだよっ」
 聴覚がないせいか声が非常に大きい。
 そんな彼等に対し、メンカルは徹底して冷静に文字データを送る。
「当たりもしない弾を撃つ暇があるなら新型機の残骸を爆破処理しろ。歪虚に盗られたらあれの二の舞だ」
 メンカルもウーナに言われるまで気付かなかった。
「……あっ」
「歪虚CAM、奪還ゲーム……しぃまったぁっ!?」
 運転手達は言われてもしばらく気付けず、気付いてからは口から泡を吹く慌てようで北100メートルの地点へ走り出す。
 北にも6機の歪虚CAMがいるが、仲間を見捨てることなど思いつきすらしない。
「後は機体を無事な機体を守るだけか」
 この場にある新型機は8機。
 しかしそのうち新人ハンターが乗る機体は棒立ち同然だ。
 単純に、練度が足りないのだ。
「用心が役に立ったな」
 機体を己の体と認識した上で、機体の至近にマテリアルを叩き込む。
 待機ではなく空間そのものが一時的に別の性質を持ち、東からの30mm弾を引き寄せる。
 きゃー、わー、という精霊の悲鳴兼はしゃぎ声がメンカルの心を揺らした。
「まずは1つ」
 剣を抜き一閃。
 実体の刃とマテリアルの刃が分隊1つを切り裂きうち2機を擱座させる。
「……少しだが弟の気持ちが解った。範囲攻撃、良いなこれ」
 薄く笑い、歪虚CAM5機相手の近距離戦闘を開始した。

●黒竜
「止まって欲しいのなー」
 黒の夢(ka0187)が全力で呼びかけても、聖堂を出発した聖堂戦士団が言うことを聞いてくれない。
「もしかして、耳栓?」
 大当たりである。
 男装少女の決死の通信で広域状態異常対策はできたのだが、通信という点では能力が最低限まで落ちている。
 黒の夢は彼等を動かすのは諦め、敵味方の位置情報を仲間に対して伝達した。
「うんこれ無理」
 リチェルカ・ディーオ(ka1760)はバイクを急停止させた。
 魔導バイクの後輪を滑らせ、90度以上向きを変える。
 東の空に浮かぶ真球群からは相変わらずの曲が聞こえる。
 リチェルカ自身は確実に耐えられるとはいえ、放置すれば都市の崩壊に至りかねない状況だ。
 だがそんなことより緊急の要件がある。
「デュミナスが予想より強いよー」
 メンカル機が歪虚CAM6機に立ち向かっている。
 ウーナ機が残る6機を蹂躙し、1機に止めを刺し2機を大破に追い込む。
 そして、残る3機がウーナに追撃されながらメンカル機を避け無防備なルクシュヴァリエを狙っていた。
「よっと」
 龍鉱石の矢羽根を撫でる。
 表面に刻まれた呪紋がマテリアルを吸い込み、バリスタに装填されると禍々しさすら感じられる光の矢を形成する。
 その数、実に30本。
「時間稼ぎ開始ー」
 バリスタ本体にもマテリアルを注ぎ込んでから引き金を引く。
 30本が次々飛び出し、非常に避けづらい配置と速度で歪虚CAM3機を包み込んだ。
 絶妙に傾斜した装甲に光の矢が突き立つ。
 人間が携帯可能な弓で為した破壊としてはかなり大きく、中堅以上のハンターが為した破壊としては控えめな破壊だ。
 だが当たった数は異様に多い。
「こっちに向かってきてもいいんだよ?」
 基本的に生き物は、一方的に攻撃する時ぶ攻撃力が最大になる。
 だから歪虚CAMはリチェルカを狙おうとガトリングガンを向け、しかし乗り手の命令により棒立ちルクシュヴァリエに強引に向き直させられる。
 つまり時間稼ぎは成功したということだ。
 リチェルカの足止めしたから、棒立ち3機が破壊される前に黒の夢が間に合った。
「思ったより数が多いけど、一体でも減らせたら後が楽! むん! そう思ってやろう!」
 黒の夢が小型飛行翼アーマーを停止させる。
 まだ1メートル以下の高度だったので危なげなく着地に成功。安定した足場から凶悪な破壊術を歪虚CAMに叩き付ける。
 巨大熱量を秘めた蝶が艶やかに舞う。
 特別な儀式により威力も動きも強化され、ただのファイアーボールであれば1体にしかい距離にいる歪虚CAM3体を巻き込んだ。
 光が弾けて周囲を白と黒に彩る。
 強力な範囲攻撃を歪虚CAMの巨体が満遍なく受け取り、内側に向かってひしゃげて血と油の混じった液を流し出す。
 メンカル機が棒立ち機を背に庇う。
 ガウスジェイルを用いて機体は弾痕だらけ。
 けれど闘志は燃えさかるようで、躊躇いなくガウスジェイルを用いて半壊3機も己に拘束した。
「短時間じゃ倒せないんだよねー」
 光の矢が半壊機の装甲を貫き動力炉を壊す。
 見事な戦果であるのにリチェルカの顔は暗い。
 今のが外れてもおかしくなかったことに気付いているのだ。
「あっちも結構頑丈そうだしー」
 歪虚CAMに注意を向けまま、気配だけで真球歪虚を観る。
 速度は遅く俊敏さもないひたすら頑丈そうだ。
 戦えば無傷で勝てても時間がかかる。
「ガルドさん? 倒してくれたりしないかな?」
 大聖堂から感じていた負の気配を思いだし、現実逃避気味にぼやいた。
「群れの頭に逆らうのは挑むときだけだ」
 寸前まで気配は感じなかった。
 幻ではあり得ない。
 質量共に優れた負マテリアルと獣じみたこの気配が幻であるはずがない。
 ガルドブルムは、高位歪虚の体力を練りに練った体術で速度に変え、2メートルを超える長身を音も無くここまで運んでいた。
「えっとねー」
 横に跳ぶ。
 引き金を引く。
 今度は大破機の腰に完璧に当てる。
 いくら走っても、常に真後ろに竜の気配があった。
「これあげるから、見逃してくれないかなー?」
 大きなマテリアル結晶を懐から取り出す。
 強烈な肺活量を感じさせる鼻息が、リチェルカの髪を数歩の距離から揺らした。
「いらん。この狩りはイヴの手下が勝手に」
 それまで素晴らしい練度を保っていたデュミナスが、まるで中身が入れ替わったかのようにリチェルカの後ろを指向する。
「貴様」
「御尊名を呼び捨てにするかァッ!」
 歪虚CAMが無防備な背をハンターに晒す。
 一太刀で切り捨てられながら、直前までは感じられなかった殺意と陶酔で以て黒い竜だけを狙う。
 リチェルカが全力で逃げ、振り返る。
 竜は人に化けている。
 大柄ではあるが竜の体と比べると異様な程小さく、腕など細くすらあった。
 それで必要十分なのだ。
 ただの竜として出発し、活動を始めたばかりのハンターに遮られ、その後戦いの中で己を鍛えてきた彼の回答の1つがこの体だ。
 リリティア・オルベール(ka3054)を思わせる……思わせるだけで2段ほど劣る足捌きで30mm弾を9割方躱す。
 直撃弾を浴び微かに腫れた顔に、落胆の色が滲んだ。
「勿体ねェ」
 この練度のままハンターに成りルクシュヴァリエに乗っていれば生死を賭けた戦いができただろう。
 灰の髪を苛立たしげに掻き乱し、ガルドブルムは不穏な気配を漂わせた。

●防衛戦
 戦闘開始直後。
 リリティアは息をする時間も惜しんで北に向かっていた。
 目標は友軍である6機の新型機。
 うち4機が奇襲による破壊され、残る2機が必死の防戦を行っている。
 ルクシュヴァリエは強力な機体ではあるが特に頑丈ではない。
 駆け出しのハンターでは機体の性能を10分の1も引き出せず、残る2機も実力を発揮しきれない大破寸前まで追い込まれた。
 歪虚CAMは……正確には乗り手の歪虚達は油断しない。
 まずは最短の時間で効率よく戦闘能力を削り切る。
 健在なハンターが合流したとしても、新型機の捕獲はともかく破壊は可能なはずだった。
「何?」
 元軍人が違和感に気付く。
 魔導エンジンの音があり得ない方向から聞こえた。
 仰角30度から小型エンジンの音が急速に近づく。
「リアルブルーの水準はこの程度ですか」
 透明の足場をバイクのタイヤが踏み締め最後の加速。
 その戦闘能力と比較すれば羽毛の如く軽いリリティアが、バイクと共に着地して10メートル近く滑る。
 歪虚の反応は異様なほど速い。
 1機はリリティアに突進して足止めを行い、他の5機は別方面の12機以上の練度で面の攻撃を行う。
「擬似的な5連撃」
 初期型のCAMで狂気と戦っていた頃に編み出した技だ。
 実質は3連撃程度。かなりの脅威だ。
 リリティアは全ての銃口と30mm弾を観ている。
 マテリアルで高めた身体能力で、CAMに比べると非常に小さな我が身を銃弾と銃弾の隙間を通り抜けさせる。
 リリティアの意識では単に躱しているだけだが、敵にとってはコミックのヒーローあるいは最強の悪役が劣化せずに現実化したような理不尽な現実だ。
「助かりました。基本に忠実だから動きが読み易い」
 剣を抜き、軽く跳んで、素早く振るう。
 要約すればこれだけだが、その精度と速度と力を得るための努力は想像を絶する。
 デュミナスの胸部装甲が斜めに、中の歪虚と動力ごと切り裂かれた。
「私の名前は久我・御言。よろしく頼む」
 リリティアに遅れること十数秒。
 一般的なCAMよりは速く駆ける新型機の中で、久我・御言(ka4137)が挨拶していた。
 よろしく
 です
 AIが人間を真似たのではなく、次元の異なる知性が頑張って人間にあわせた印象の返事が御言に直接届く。
「良い子達だ。少し痛むだろうが頑張ってくれたまえ」
 えっ
 精霊は直接戦闘には向かないなと冷静に考えながら、御子はリリティアの横15メートル地点へ速度を緩めず突っ込んだ。
 そこにいたのは3機の歪虚。
 歪虚CAMがリリティアには絶対に勝てないと判断し、同属3機を捨て石にして駆けだしたタイミングだった。
「これが直感的操作というものか」
 自身の気力体力マテリアルをすり潰すように使って意識を加速。
 激突する。
 激突の衝撃を脚から地面に逃がすだけでなく、巧みな盾扱いと姿勢制御で倒れもせずに3機分の重量に耐え抜く。
 ひぃ
 このひとこわい
「私も巧くいきすぎて怖いね」
 歪虚CAMが転倒2機、混乱して守りを固めるのが1機。
「やはり元軍人。意識は今も軍人かね。ならばこういうのは不慣れだろう?」
 音声は外には出さず、気配だけで合図を送る。
 リリティアが片手と片足だけでバイクを飛ばして後ろへ消え、代わって御言機が6機全ての前に立ち塞がる。
 その中の1機は、血潮とオイルと一緒に全てのマテリアルを流し尽くして息絶えていた。
「新人とはいえ覚醒者。ポーション1本で1人助かるなら過去最大級の効率だね」
 後ろ向きのセンサで、重傷者にポーションに注ぎ命を救うリリティアを眺める。
 前向きのセンサで、御言機なら勝てると思い込んで猛攻を開始した5機を観察する。
「ふむ。動けないトラックや擱座機を狙うのは基本中の基本だね」
 人機一体に伴う装甲性能向上により被害は減っているが、強化されたガトリングガン5本の威力は強烈だ。
 ダメージコントロールも追いつかず、装甲に生じたひび割れから高濃度のマテリアルが噴き出す。
「降伏しろ」
「殺すつもりで言うかね」
 厳しい言葉の返事は、完全に同期した5つの銃口だった。
 通常の倍ほどの発射頻度で30mm弾が吐き出され、その8割がルクシュヴァリエに満遍なく命中。
 必要だが過剰な攻撃だと、歪虚達は愚かにも思い込んでいた。
「悪いな。子供の説得に手間取った」
「お疲れ。完璧なタイミングだ」
 ぼろぼろの機体がいる。
 少し前は一方的に攻撃されるだけだったのに、今は盾を素晴らしく巧みに操り被害を減らしている。
 盾だけではなく、本体の装甲まで実に見事に使って大破寸前の機体を耐え抜かせる。
 なお、元のパイロットである少年は、トラックの荷台で口にポーションを突っ込まれ目を回していた。
「俺が乗り込む前に撃ったのは良い判断だったぞ。貴様が人間なら一晩飲み明かしたいところだ」
 ルベーノ・バルバライン(ka6752)の体があるコクピットは血の臭いに満ちている。
 応急手当で巻かれた包帯に、鮮やかな赤が急速に広がっていく。
 とまって
 さがって
「赤子のように騒ぐな。予定通りだ」
 ルベーノは理知的だ。
 暴走にしか見えない前のめり過ぎる戦い方も、全て理知的に判断し選択したものだ。
「まあ見ていろ」
 敵の攻撃は衰えない。
 通常の倍の頻度の射撃は2倍の脅威ではない。
 狙われた側は回避が困難になり、ダメージの期待値は1桁上がることすらある。
 あぶない
 にげて
 4度目の被弾で腰部分装甲が脱落。
 上半身への7度目の被弾でフレーム部分に亀裂が走る。
 目を瞑ったままのルベーノ本体が、目に見えて生気を失っていく。
「全て」
 ルベーノ機が薙ぎ払いの構えをとる。
 いつの間にか数歩前進していて、歪虚CAM4機が剣の間合にある。
 歪虚は即座に距離を取ろうとして、自らが呪縛されルベーノし攻撃できないことにようやく気付いた。
 ルクシュヴァリエの装甲が光を帯びる。
 緑の燐光が血の如く流れだし、しかし尽きることがない。
「予定通りだ」
 機体全ての力を剣先に載せて、剣術の教本に載せるには荒荒しすぎる動きで横へ一閃した。
「イヴ……様」
 デュミナス型の奥から祈りに似た声が消えた直後、動力炉に詰め込まれていた負のマテリアルが限界を超え暴発した。
 歪虚CAMが2機爆発し、1機が大破する。
 他1機が爆発に巻き込まれ中破して、戦闘能力を保った歪虚CAMはこの場に3機。
 大破を通り越しスクラップ寸前のルベーノ機を仕留めるには十分すぎた。
 ありがとう
 いっしょにいこう
 清らかな気配がルベーノを包む。
 そこに感謝と諦めを感じ取り、ルベーノは思わず苦笑した。
「予定通りと言っただろう」
 ルベーノ機より活きが良く動きも鋭いルクシュヴァリエが、ルベーノのガウスジェイルにより集められた歪虚に真横から仕掛ける。
「誇りたまえ。私が手加減できないほど貴様達は強い」
 御言機が剣を手に踏み出す。
 技術的には簡単な動作だがとにかく速い。
 CAM並の巨体と重さが巨大なリーチと威力に繋がり、手前の歪虚CAMのその真後ろの歪虚CAMを纏めて砕いてたたき伏せる。
 負の気配が濃くなった。
「む」
 ルベーノの意識が一瞬だけ途絶える。
 血液が足りなくなったせいであり、即座にガウスジェイルを再展開する力は残っていない。
「せめて1機は」
 ガトリングガンが南を向いて、既に大破した新型機に狙いをつけた。
 爆発。
 そして衝撃。
 30ミリ弾は元新型機の現残骸に当たり虚しく火花を散らした。
「出遅れた分は仕事をさせて貰う」
 新手が登場していた。
 他の2機と比べると無傷も同然のルクシュヴァリエが、盾と剣を戦闘に押し込むような形で歪虚CAMにぶつかっていく。
 熟練兵の技術で蹴りや膝が繰り出されても、悠は盾を積極的にぶつけて迎撃する。
「本当に爆破してよかったんですかっ!?」
 魔導トラックからの通信だ。
「するしかない。……伏兵の可能性はありましたが、とんだ大物が潜んでいたのでね」
 盾の縁を刃の無い剣の様に使ってデュミナス型を殴り、剣で歪虚の盾と撃ち合い徐々に押し込む。
 そうしている間も、悠は後方の歪虚から目を逸らすことができなかった。
「久しいね」
 御言は一人事を呟いたつもりだった。
 空気を振るわせる音にはなっていないはずなのに、30ミリの豪雨の中遊んでいる大男と目が合った。
「根性に武力が追いついたみてェだな」
「貴様は相変わらずだ」
 機体内蔵スキルを使うふりをしてマテリアルを剣に叩き込む。
 一瞬だけ巨大化した刃を巧みに操り、ガウスジェイルが再起動する前に逃げだそうとしたデュミナスを打ち付ける。
「ふむ、私もかなり人間離れしてきたね」
 お互い音は届いていないしテレパシーでやり取りしているわけでもない。
 目で相手の声を正確に推測しているのだ。
「む」
 御言がイヴという人物名を認識した。
 ガルドブルムの発言を音として認識した歪虚達が、異様なほど激高している。
「やはり一枚岩ではないようだね?」
 これならまだ打つ手はあるはずだ。
 悠と連携し、御言は歪虚CAMとその乗り手の排除に集中した。

●宣戦
「随分小さくなったじゃないのガルドブルム!」
 銀の巨体が飛ぶように駆ける。
 蒼く輝く円状幾何学紋様が機体前方数メートルに生じ、そこを通過した銃弾が加速とマテリアルを得て人型の破壊を目指す。
「お前はでかくなったなァ桃色の!」
 ガルドブルムは初めて構えをとった。
 この場のハンターから見れば洗練が足りず、けれど駆け出しハンターから見れば雲の上の身のこなしで砲弾1つを躱す。
 鋭い呼気の代わりに緑のオーラが機体から吹き出る。
 ウーナは直前の銃撃をフェイントにして、非常に認識し辛い角度と速度で人型の胴部を狙う。
「あン?」
 灰色の眉が跳ね上がる。
 歪虚人間の生き残りが怯える濃度の憤怒が噴き上がる。
「未完成品かッ!」
「個人向けに調整する前に襲って来たのはあんたらだ!」
 勘に従い半歩斜め前へ。
 ウーナには残像しか捉えられない拳が2回……いや3回突き出され、うち1回が脚部装甲に跡を残した。
「あれが、そうか」
 最後の歪虚CAMを背後から刺し貫き、メンカルが戦闘に直接関係ない言葉を口に出す。
 黒の夢からの視線を感じた。
「あぁ、いや。竜だと聞いていたもんで……な」
 一瞬目をやりすぐにガルドブルムの方向へ向ける。
 今の彼女には近づきたくない。
 個人の根幹に関わる嫉妬は、巻き込まれると悲惨な目に遭いかねない。
「お前がガルドブルムか。……初めまして。機会があればメンカルと呼んでくれ」
 律儀に一礼すると楽しげな目礼が返ってくる。
 すると黒の夢の気配も一段禍々しくなった。
「CAMが好きなのか、お前」
「好きだとも」
 戦うことで心と体が温まってきた。
 ウーナの技と戦意が心地よい。
 気合いを入れなければ、不完全な機体ごと食らいたくなってしまう。
「深く知れば知るほど底が消えなくなる。この世界に持ち込んだことに感謝しているとも!」
 口角が吊り上がる。
 歯と口元の人化が解けかけ、鋭く伸びた竜牙が陽光を反射する。
「そうか」
 メンカルは歪虚に対する殺意と平行して、頑張れよと目で語った。
 爆発。
 そして轟音。
 ガルドブルムが本性を現したときでも脅威になり得る爆発が、小型飛行翼アーマーで飛行中の黒の夢を動かすのに使われた。
 意表を突かれた。
 強者である黒の夢に竜の本能が反応。
 無意識のブレスを鋭く吐き出す。
 通常時より1桁弱いとはいえ、飛行中で不安定なエルフになら確実に当たって最低でも重体にする威力があった。
 だが、非常識な加速が必殺の炎を置いてけぼりにする。
 代わりに骨まで痛むが黒の夢は気にしない。
 ガルドブルムの上方2メートルを通過する瞬間、竜にだけ届く音量で自身の真名を囁いた。
 魂ごと頭蓋が地面で砕かれるより一瞬速く、メンカル機が器用に黒の夢を受け止めた。
 メンカル機が勢いよく地面を滑る。
 ガルドブルムが竜の姿に戻っていく。
 ウーナは消耗が激しく追い打ちの余裕はなく、万全の状態で到着したリリティアは何故か攻撃しない。
「番になった気か?」
 黒竜はブレスの代わりに、失望の言葉を黒の夢に投げつけた。
「本当に『そう』なれるかはともかく──」
 黒の夢が上体を起こす。
 体調は最悪で息をするのも辛い。
「ダーリンに伝えられた以上、何の蟠りも無くなったわ」
 けれど覇気は今のガルドブルムを上回る。
 竜の目がはっと見開かれ、好意と評するには少々暴力的すぎる色に染まる。
「何が相手でも、汝であっても全力で死闘しなくちゃ、ね」
「次までに体を直して来い」
 男の態度は対等な存在に対するそれだった。
「どうします? 戦いの空気ではありませんが」
 竜の目がリリティアに向けられた。
 技で竜に勝り、力で竜に劣り、得物で竜に勝る相手だ。
 それでも支配下のマテリアル量が隔絶している。このまま戦えば竜の勝利は確実だ。
 だがそれでは竜が望む戦いにはならない。
 死力を振り絞るなら超高空からのブレス連打になってしまい、時の果てまで生き延びても二度と出会えぬ格の戦士をただ殺すだけになってしまう。
 それが彼の抱えた矛盾であり、それこそが彼をここまで高めた原動力だった。
「貴方と本気でやり合うなら、余計な意図の介在しない時がいいです」
 リリティアは平然と希望を述べた。
「お前ほどの戦士が幼児の如き言葉を……」
 最初は言葉の表層のみを理解。
「む」
 次の相手の意図を理解し考えを巡らせ。
「ハ」
 歯を剥き出し、今にも涎を流しそうな顔で笑みを浮かべる。
 大地を蹴る。
 強固な石畳を数メートル陥没させ、自身は上空100メートルに達して初めて翼を開く。
「少し待て。2月もかからん」
 新たな軍勢が現れる、数週間前の出来事だった。

「助かったよー」
 リチェルカがへたり込む。
 それを笑える者はいない。
 歪虚の気まぐれ1つで、ルクシュヴァリエは奪われこの場の命全てが竜の腹に消えていた。
 感情を露わにして精神の平衡を保つのは、リチェルカの健全さの表れだ。
「あー、回復途中で来ちゃ駄目だよー」
 懐かしい気配を感じた気がして無意識に手を振る。
 リチェルカ縁の精霊だけでなく、多くの精霊が近くあるいは遠くからこの場を観ている気がする。
「助力を単純に喜べないくらい物騒なんだよね」
 新型機ルクシュヴァリエは、精霊を食らい魔剣と化しかねない機体でもあった。
 音楽が消えていく。
 黒の夢が攻撃術を使う度に、聖堂教会増援が手も足も出なかった球形歪虚が浮力を失い墜落していく。
「治療しますっ」
「いやしかしあれほどの術が使えるのだから健康なのでは?」
 治療担当の聖導士達が別の意味で混乱していた。
 上機嫌にはしゃいでいた黒の夢は、攻撃術を使い尽くすと同時に限界を迎えぱたりと倒れた。
「命拾いしましたね」
 残る真球歪虚を処理するのは悠のルクシュヴァリエである。
 広範囲状態異常攻撃は、非覚醒者とほとんどの覚醒者にとっての悪夢だ。
 ルクシュヴァリエは相当強力でない限り状態異常を受け付けない。
 つまり一方的に銃で撃って穴だらけにする作業を延々続けることが可能だ。
「面倒だけど片付けないとー」
 リチェルカが立ち上がり作業に加わる。
 作業なのだ。
 リチェルカにはこの程度の状態異常攻撃は効かない。
 聖堂戦士団部隊が機能を停止しているのを横目で長めながら、バリスタに矢を装填して発射するのを繰り返す。
 真球歪虚が10まで減ると聖堂戦士団が復活し、残り5体になると街の生気が微かに蘇る。
「来ましたか」
 悠機のセンサーが、高速で向かって来る大型魔導トラックの姿を捉えた。
 無事なルクシュヴァリエを安全まで場所ぶため、悠が呼んだ輸送隊だ。
 護衛の兵士が振り切られる。白衣の人間やドワーフがトラックから飛び降り無残な残骸に取り付く。
 響く歓声。
 鳴り響く拍手。
 涎を垂らさんばかりの……ガルドブルムじみた欲まみれの顔で、ルクシュヴァリエの破損状態を執拗に記録していく。
「よう、王国では散々な評価らしいな」
 空のポーションを手に、三角巾で片手を吊ったルベーノが代表者に語りかけた。
「今忙しい」
 この愛想のない老人がリチャード・クラフトマン。
 放送禁止用語で表現されることもある変わり者だ。
 彼はルベーノに目も向けない。
「確かに」
 高位のハンターが実戦で使った直後の機体は情報の宝庫だ。
 歪んだパーツ1つから複数の戦訓を得られる。
 どんな工夫がどの性能を高めるか、推測ではなく証拠付きで分かるのだ。
「用意周到だな?」
 機体開発の際に面識を得た顔が十数人もいる。
 調査に使われる機械は非常に高価で、前線には持ち込まれないはずの代物だ。
 音楽が止まる。
 ルクシュヴァリエが銃を下ろす。
 歪虚の部分だけを打ち抜かれた最後の真球が、街道の脇に激突して重々しい音をたてる。
「しかし……敵の方が上手なのか王国の防諜がザルなのやら……」
 悠は独り言の形で博士を問い詰める。
 さすがに気まずくなり、何度か咳払いをしてリチャードが振り返った。
「予測していただけだ。情報を流したりはせんよ」
 得られた情報は、ロールアウト直前の機体にぎりぎりで反映された。

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  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
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    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
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黒の夢(ka0187
エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/02/03 22:50:46
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/03 21:52:45