• 陶曲

【陶曲】重傷者救急搬送任務

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/03/01 15:00
完成日
2019/03/07 01:56

みんなの思い出

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オープニング

●あらすじ
 嫉妬歪虚・アウグスタに目を付けられた新人ハンター・ハンク。彼はアウグスタにつけ込まれることになった心の弱さを克服するべく、魔術師ヴィルジーリオ司祭の聖堂に身を寄せていた。園芸や聖堂運営を通して社会的な責任、自己肯定感を培うことが目的であった。自分の鉢にチューリップをもらって大事に育てていたが、その鉢をアウグスタに割られて誘い出されてしまう。しかしそれは彼の護衛も兼ねているヴィルジーリオを殺す為の罠でもあった。様子を見に来た彼は、アウグスタが連れてきたクラーレ・クラーラ(kz0225)の硝子人形から滅多刺しにされ、出血多量・意識不明の重体に陥る。

●赤の司祭が歩く夢
 全身血まみれで倒れているヴィルジーリオを発見したのは、庭の様子を見に来たサンドラだった。割れた鉢、刺された司祭、そして二人分の血が付いた足跡。サンドラは察した。恐らく、アウグスタがハンクを連れて行ったのだ。
「司祭!」
 彼女はヴィルジーリオに駆け寄った。
「しっかりしろ! 大丈夫か!」
「………す……」
「え? 何だって?」
 サンドラは司祭の口元に耳を近づけた。今度はちゃんと聞こえた。しかし、それは明らかに正気ではないうわごとで。
「まずい……見えちゃいけない人が見えている……」
 サンドラは飛び出した。白いワンピースが血まみれになっているのを見て、通行人が足を止める。
「誰か! 司祭が刺されてる! 医者の手配をしてくれ!」

(私はいつまでだって、あなたの助祭ですよ)

●ドント・ストップ・アス・ナウ
 ヴィルジーリオに医療を施すにしても、ヒーラーに任せるにしても、集中して治療できる環境に運ぶのが急務だ。オフィスに通報が入ると、すぐに搬送の手配がされた。搬送に使う魔導トラックを運転するのは符術師のヴィクター。道中の歪虚対策で、荷台には猟撃士のナンシーが乗っている。他にも、護衛のハンターが数名同行。オフィスから状況説明兼付き添いとしてC.J.(kz0273)、知人としてサンドラもトラックに同乗している。
「司祭、司祭、しっかりしてくれ。その人は今お前に会っても嬉しくないぞ」
「絶対に死ぬなよ! 僕まだ関節技マスターしてないんだからな!」
 既に意識はない。緑の瞳は閉じられている。穏やかな顔つきであった。死に顔にならないことを祈るばかりだ。応急処置である程度の止血はしたが、何しろ全身に刺し傷があるので完全には難しい。今も、サンドラのワンピースとC.J.のズボンは血で汚れ続けている。
「……チッ、杞憂で済めば良いって思ったんだけどね」
 ナンシーが舌打ちした。彼女はトランシーバーで、ヴィクターと、通信機を持参したハンターたちに通信を入れた。
「こちらスギハラ。気付いてるかもしれないけど、やかましいお客様がお見えだよ。あれは……蝙蝠?」
 彼女は双眼鏡でそれを見た。どうやら、金属製の蝙蝠らしい。バサバサとガチャガチャの中間の様な音がけたたましく鳴っている。陽光に、チカチカと翼が光った。
「血の匂いに誘われたか? 真っ昼間だって言うのにな! 食欲旺盛なことだ!」
 ヴィクターが毒づくと、トラックが加速した。しかし、蝙蝠たちは追跡の手を緩める気配がない。
「ヴィクター、駄目だ、振り切れない。あんたたち! ここで迎撃するよ! トラックは止められない! 叩き落としてやりな!」
「頼むよ、皆」
 C.J.が言った。
「トラックは止めないでくれ」

リプレイ本文

●酷い怪我
「こりゃ酷い怪我だねぇ。こいつは一刻を争う事態だ。もたついているとこの男の命はないよ」
 龍宮 アキノ(ka6831)は担架に乗せられたヴィルジーリオを見て目を細めた。それからC.J.たちを振り返って、にやりと笑って見せる。
「こう見えて、あたしも曲がりなりにも医者だ。人命の一つや二つぐらい救ってやるよ。護衛だね? 任せな」
「ヴィルジーリオさん……絶対間に合わせるから」
 イリアス(ka0789)はきゅっと唇を噛みしめると、トラックの荷台に運び込まれる司祭を見て呟く。赤い弓を握りしめていた。
「絶対に、邪魔はさせないから……」
「皆、よろしくね! 僕とサンドラは荷台にいるから」
 C.J.がサンドラと一緒に荷台に乗り込む。
「荷台には一応あたしもつくし、運転席も符術師が乗る。でも、あたしも彼もそこまで練度高くないんだ。頼りにしてるよ」
 ライフルを抱えたナンシーがハンターたちに告げた。
「ええ、任せてくれて構わないわ」
 マリィア・バルデス(ka5848)が頷く。アキノが自分のスマートフォンを掲げて、
「ナンシー、伝話は持ってるかい?」
「短伝話持ってきた」
「医療器具がないから難しいけど、できる処置があったら伝えるよ。ま、先を急ぐのが最善の手段だけどね」
「医者と話ができるってだけで安心するからね。悪いけど、二人が不安そうだったら連絡させてもらう」
「良いよ」
「お前ら、準備は良いか?」
 運転席からヴィクターが声を掛けた。
「出発するぞ」

●蠍の心臓
 魔導トラックは飛ばした。それに、イリアスのエクウスが並んで走る。
「今日の子はいつもよりちょっと早いんだからね」
 真剣な眼差しで、彼女は馬を走らせた。その時、後方から金属音が聞こえる。アウグスタの蜘蛛とは違うようだ。振り返る。それは空を飛んでいた。蜘蛛ではない。
「気付いてるかもしれないけど、やかましいお客様がお見えだよ。あれは……蝙蝠?」
 荷台から顔を出したナンシーがトランシーバーに向かって声を張るのが聞こえた。
「血の匂いに誘われたか? 真っ昼間だって言うのにな! 食欲旺盛なことだ!」
 運転席からヴィクターの怒声が聞こえた。トラックが加速する。しかし、蝙蝠を撒くことはできない。
「ヴィクター、駄目だ、振り切れない。あんたたち! ここで迎撃するよ! トラックは止められない! 叩き落としてやりな!」
「ええ!」
 イリアスは弓にエルヴィン・アローを番えた。魔法によって強度を上げた矢だ。腰に下げていた魔導拳銃が青白く光る。強化術式・紫電の発動体に使った為である。
「止めさせないわ」
 イリアスは馬を少し先に走らせると、そのままカルブ・ル・アクラブで毒矢を空に放った。リトリビューションだ。これで懲罰を受けてもらう。狙った内の半分を落とし、また半分には懲罰が掛かった。
「嘘だろ?」
 ナンシーが目を丸くしている。
「イリアス、そんなバリバリ戦う子には見えなかった。すごいな」
 サンドラも、怪我人の手を握りながら、ナンシーの肩越しに見える戦いの光景に驚いているようだった。イリアスは強い瞳で蝙蝠たちを見据えている。
「全力のこんな時じゃないと使わないんだから!」
 どうやら、イリアスはかなり必死らしい。何があってもトラックを止めずに司祭を搬送すると言う固い意思が、初対面のナンシーにも伝わった。
「……マカロニウェスタンは得意じゃないのよね」
 マリィアは呟くと、バイクでジャックナイフターンを決めた。そのまま、こちらに向かってくる群れにアルコルでフォールシュートを見舞う。三体を落とした。彼女はディスターブをはめ直すと、再びバイクを発進させてトラックを追い掛ける。
「エッちゃん、あの雑魔の術射程に入ったらその位置キープで追いかけて下さいよぅ。私は術に集中してるのでぇ」
 星野 ハナ(ka5852)は馬を撫でながら蝙蝠との距離を測った。手綱を引いて、距離を詰める。まだ疲れる距離ではない。ハナが手綱を握ったままでいると、エクウスはそのまま速度を保った。五色光符陣を放つ。アルミの翼に反射して、その一帯が雷撃を受けたように光った。ナンシーの牽制射撃が飛ぶ。
「いいよ! 効いてる! どんどんやって!」
 ナンシーが荷台から声を張り上げた。
「ふははは、雑菌が次々湧いて出る」
 アキノが笑った。
「ついでにお前たちもあたしのモルモットにしてやるよ」
 デルタレイを放った。さっきイリアスからリトリビューションで懲罰を受けた内の三体。呆気なく光線に貫かれて撃ち落とされる。
 蝙蝠たちは、攻撃してきた存在に対して反撃を行なった。超音波を飛ばして、相手の位置を探っているらしい。内三体がマリィアに、二体がイリアス、一体がアキノに向かった。
「甘いわ」
 自分に向かって突っ込んで来た蝙蝠の内一体を、ディスターブで弾き飛ばす。ギッ! と鋭い悲鳴が上がった。残りの二体は超音波の効果も虚しく空振りする。
「これくらいじゃ当たらないんだからね!」
 イリアスも一体は回避した。もう一体は勝手に彼女を素通りしていく。
「ははは、そんな小細工で当たると思ったのかい?」
 アキノに向かって行った一体も、やはり外した。ナンシーが妨害射撃で援護したが、
「妨害するまでもなかったなぁ」
 当の射手は荷台で肩を竦めた。大分数が減ったことによって、少し気楽になったのだ。
「もう少しよ」
 クイックリロードでフル装填したマリィアが、リトリビューションを降らせた。一体を残して全てが撃ち落とされる。
「そこぉ!」
 最後の一体は、ハナの火焔符が撃ち落とした。これで全部だ。さほど時間を掛けず、蝙蝠は殲滅されたことになる。
「良かった……」
 ナンシーは呟くと、ヴィクターに無線で通信を入れた。
「ヴィクター、終わったよ」
「ああ、サイドミラーから見えたよ」
「歪虚は倒したけど、これで司祭が治るわけじゃないわ。引き続き安全かつ迅速な運転をお願いよ」
 マリィアもインカムを通してヴィクターに呼びかけた。
「了解した。そちらも引き続き護衛を頼む」
「ええ、了解したわ」

●緊急処置
「連絡していたハンターオフィスのジョルダンです! 怪我人が到着しました!」
 C.J.がそう言って身分証を見せると、受付はすぐに看護師と医師に連絡を取った。
「これは……酷い……」
 駆けつけた医療スタッフは皆、司祭の怪我に顔を強ばらせた。何しろ、数十の硝子人形から刺されているのである。最低でも傷は人形の数だけ。その上、一度で攻撃の手を止めた訳ではない。
「覚醒者です。全身を恐らく小型の刃物で刺されているようです。毒はないだろう、と言うのが応急処置者の見立てです」
「なら望みはあるかもしれません。準備して!」
「はい!」
「ご家族は?」
「まだ連絡取ってないんです。彼女が祖母代わりです」
 C.J.がサンドラを指す。
「祖母?」
 受付職員は目を丸くした。サンドラは頷くと、
「私は百歳近いんだ」
「あ、ああ、エルフの方ですね。なるほど」
 アキノは準備を手伝った。元軍医である彼女は手際が良い。看護師たちは、ごく自然に混ざるこのハンターはなんなのだろう……と思いながらもありがたいので特に止めることはしなかった。

●人事を尽くして天命を待つ
 C.J.とサンドラは、並んでぐったりと座っていた。覚醒者だから大丈夫、と思う一方で、命を落とすハンターがいないわけではない。ナンシーとヴィクターも、その隣で気遣わしげにしている。
「CJ、ヴィルジーリオ司祭の様子はどうかしら」
 マリィアがやって来た。C.J.は疲れ切った顔で彼女を見上げる。
「今処置中だよ……」
「リザレクションが使える聖導士が居ればすぐ完治しそうに気がするけど……手配は難しいのかしら」
「それでもどうにもならないことだってある」
 C.J.が重たい声で返すと、マリィアはそれ以上言わなかった。
「大丈夫かしら……」
 イリアスは、道中での勇ましさが鳴りを潜めて、不安そうにしていた。アキノはそのまま処置を手伝っているようだ。もとより、凄惨な医療現場に嬉々として出向くきらいがあるらしい。だが今回はその肝の据わったところがありがたかった。
「そういえば、ハナはどうしたよ」
 ヴィクターが、一人見当たらない同行ハンターを探してきょろきょろと辺りを見回す。
「はーい、呼びましたかぁ?」
 そこへ、ひょっこりとハナが顔を出した。彼女は売店で色々買い込んで来たらしく、菓子類やジュースを抱えている。付添たちに配って回った。
「ここまで来れたんだからもう大丈夫ですよぅ。一息ついて待ちましょぉ。目が覚めたらみんなの笑顔で迎えないとぉ」
「そうだね」
 ナンシーも頷く。
「うん、そうだ。彼女の言うとおりだよ。あたしたちが辛気臭い顔してたって、誰の得にもなりゃしないさ」
「まあ、そうだな。心配なのはわかるが、ヴィルジーリオが起きた時に、お前が心労でぶっ倒れたりしたら、あいつの立つ瀬がないぜ?」
「そうだぞ、C.J.。私だって不安だけどとりあえずジュースを飲んで機嫌を直している」
 サンドラはハナからもらった飲み物を一気に飲み干した。
「ハンターとか軍人とか百歳間近の胆力と比べないでくれる!?」

●今を生きる者として
 ヴィルジーリオは、ひとまずは一命を取り留めた。まだ意識は戻らないようだが、その内戻るでしょう、と言うのが医師たちの……病院の医師とアキノの見立てだ。
「いやあ、お疲れさん。皆頑張った甲斐があったよ。覚醒者で良かったね」
 アキノはさっぱりとした顔で同行者たちを労った。C.J.はがっくりとヴィクターにもたれかかる。
「よ、良かった……」
「おう、よく頑張ったな」
 ヴィクターは苦笑しながらその肩を叩いた。
「安心した。司祭が起きたらびっくりするくらい世話を焼いてやろう」
「サンドラさん切り替え早いですねぇ」
「良かった……ヴィルジーリオさん」
 イリアスも、胸の前で手を組んで安堵の表情を見せる。C.J.は改めて、イリアスが道中で全力を見せたことを実感する。
「皆ありがとね……僕はあいつの何なんだって言われたら、まあ、友達だと僕は思ってるけど……死なれたら本当に悲しいからさ」
「当然よ」
 マリィアが微笑む。
「あなたたちも頑張ったわ」
「うん……」
「そういえば、C.J.さん知ってたら教えて欲しいんですけどぉ、ヴィルジーリオさんもアルトゥーロさんと同じ村の出身ですぅ?」
 ハナが首を傾げた。C.J.は少し考えてから、
「いや、違うんじゃないかな。僕はあの二人とよく話すけど、そう言う話は一回も聞いたことないし、関係についても同期で友人としか言わないから。出身地は別じゃないかなぁ」
「どうしたんだ、ハナ。アルトゥーロと司祭はびっくりするほど仲良しだけど、知り合ったのは大人になってからだと言っていた」
「そうですかぁ」
 ふむふむと、納得したようにハナは引き下がる。
「ま、案外大人になってからの方が親しい友達に出会えたりするよな。もっと早く出会いたかったとも思うが、前に会ってたら多分関係は違ってた、みたいなやつな」
 ヴィクターが肩を竦める。
「しかし、お前さん、何だってまた司祭の出身地なんか気にしてんだ?」
「アウグスタだろ」
 C.J.が眉を上げる。
「彼女がこの前襲ったアルトゥーロ、同郷なんだよ」
「誰と?」
「アウグスタ」
「え?」
「歪虚にはたまにあるんだ。前は人間だったってことがね。アルトゥーロを襲ったのは多分偶然。同じ偶然があるかもしれないってハナは思ったわけだ」
「まあ、そんなところですねぇ。偶然か狙ったのかはわかりませんけどぉ」
「アウグスタさん……」
 イリアスはそれだけ呟いてから、黙った。彼女はずっと、アウグスタと戦うことについて悩んでいた。だが、今回はそのアウグスタが、ヴィルジーリオを刺した。
「僕だってやりきれないよ」
 C.J.は首を横に振った。
「会ったことはないけど……見た目だけなら普通の女の子なのに。本当に普通の女の子だったんだ、彼女は。ほんと、前身が人間だった歪虚って、すごくやりきれない気分にさせられる」
 彼は目を閉じた。今にも寝そうに見えたが、すぐに目を開ける。
「でも、今生きているのは僕たちの方だ。不当に人生を奪われた生前のアウグスタは可哀想だけど、だからと言って僕たちが彼女に命を捧げる理由はない。僕はオフィス職員として、エクラ教徒として……今生きている人間として主張する」
 それから、ハンターたちを見回して、微笑んだ。
「今日はありがとう。彼が目を覚ましたら、君たちが来てくれたって伝えておくね」

依頼結果

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  • 金糸篇読了
    イリアスka0789

重体一覧

参加者一覧

  • 金糸篇読了
    イリアス(ka0789
    エルフ|19才|女性|猟撃士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 好奇心の化物
    龍宮 アキノ(ka6831
    人間(蒼)|26才|女性|機導師

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/26 19:59:50
アイコン 司祭が聖導士でない不思議
星野 ハナ(ka5852
人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2019/02/26 20:04:34