探星を虧く星

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/02/27 15:00
完成日
2019/03/06 08:18

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 怠惰王が再び進軍を始め、現在は小康状態となっているが、いつ動き出すかわからない状態だった。
 ドワーフ工房と繋がりのあるとある部族が要塞都市へ避難する連絡がドワーフ工房に入る。
「迎えの必要ありそうかしら……」
 考え込むカペラにアルフェッカが頷く。
「護衛にハンターを雇うよ。向かうルートに歪虚が出てきたという被害証言があるんだ」
 怠惰王が動いたことにより、歪虚が活発もしくは狂暴化し、人類を襲うケースが多発しているようだ。
「心配ね……リュラさんも娘ちゃんが小さいだろうし」
 ぽつりと呟くフォニケの表情は暗く沈む。
「ハンターと迎えに行くかい?」
 あっさり言葉を返したアルフェッカに驚いたのはカペラ。
「ちょっと!?」
「どうせ、今の状況じゃ業務もロクにできないし、気分転換がてらに出ていったら?」
「ん? いいけど」
 カペラの様子に首を傾げるフォニケだが、あっさりと送り出すアルフェッカを不思議そうに見つめる。
「シェダルも連れていけばいいよ」
「そうするわ」
 こくりと頷くフォニケはシェダルに事情を伝えに工房管理官の執務室を出て行った。
 フォニケの足音が消えると、カペラはアルフェッカに噛みつく。
「どういうつもりよ! タットルの幹部が要塞都市に入っているって話でしょ!?」
「まだ足取りは掴めてない」
 深くため息をつくアルフェッカは疲れた様子だ。
 急ぎの案件はないが、今も有事であるのは間違いないので、神経をすり減らしている。
「囮みたいだって思うけど、本当に見つからないんだ……」
 憔悴の様子をみせるアルフェッカにカペラは尖らせた表情を和らげる。
「シェダルもハンターもついてるからな。テト嬢にも伝えている」
「……テトにルックス君、大丈夫かしら……」
「タットルの殲滅はルックス君の悲願だからとはいえ、仲間の命が奪われるのは辛いだろうな」
 先日の怠惰王の進軍の中、歪虚アクベンスが巨人兵に持たせていたのはタットルの拠点を見張っていた部族なき部族のメンバーである双弓だった。
 ほぼ虫の息の状態でハンター達に救出されたが、テトに託された後、メンバーはテトの下に戻ったことを理解したかのように息を引き取ったという。
 遺体を綺麗にしようとした時、遺体の背に文字が彫り込まれていた。

『タットルに関わるな』

 後日、部族なき部族のメンバーである花豹が戻ってきた時、双弓と共に任務に当たっていた日計の遺体も引き取っており、そのメンバーの背にも文字が掘られていた。

『これ以上関わると潰す』

 脅迫行為を知ったルックスは仲間の命が奪われたという事実に塞ぎ込んでいたという。 部族なき部族のメンバーはリーダーであるテトの意思に従うという意見だった。
 今まで、タットルは多岐に渡る辺境部族を襲撃し、強奪、人身売買を行っていた。
 テトはこれ以上の被害を防ぐため、スコール族の長であるファリフの力を借り、有志を募ってタットルの殲滅を表明。
 辺境が討伐すべき対象とし、見つけ次第戦闘となる。
 いずれ、ハンターの助力も必要となるだろう。
 できる限り捕縛という線をとりたいが、やむを得ない状態となる可能性が高い。
「テト、変わったわね」
「強くなったさ、リーダーとして気丈に振る舞っていたそうじゃないか」
「あの強くなり方をシバさんが望んでいたのかと思うと疑問に思うわ」
 願われていたとはいえ、家族のように兄と慕っていた人物を処刑し、殺したのだから。
 掟を守れなかった者を処刑し、命を奪うことは部族によっては存在する。
 死に場所を与える為にテトは処刑した。
 他にも手はあっただろう。だが、テトは自らその手で殺した。
「変わらないよりはいいさ」
「貴方は変わりたくないから、お姉さんに似てるフォニケさんに世話を焼くの? お姉さんが失踪する前まで、世話を焼いていたそうじゃない」
 語気を強めるカペラはアルフェッカと目を見合わせる。
 無機質な表情のアルフェッカはその美貌を引き立てるように美しかった。
「ハンターが参加した尋問の際、彼に姉の似顔絵渡したのは君?」
「随分怒っていたわね」
 煽るカペラの姿勢にアルフェッカは肩を落とす。
「今、仲間割れする時じゃないだろう……」
「そうね」
 頷くカペラだが、その表情は硬い。
「俺の目的は失踪した姉を探すことだ。シェダルに手を回して陰で随分探していたが、全く情報が流れてこなかった」
「シェダルさんがそんな面倒な事を?」
 無愛想で面倒を嫌う職人のシェダルがそんな事をしていたことにカペラは驚きを隠せなかった。
「フォニケちゃん、部族が滅ぼされて、何者かに監禁されていたらしいよ。移動の時に隙を見て逃げ出した先がシェダルがいた部族」
「部族ぐるみで黙って匿っていたのね」
「あいつのところの部族は流れ者の集まりで。身寄りがなさそうな者を保護、生きていくための知恵を与えるのが美徳とされている。辺境ドワーフと取引し、生きる糧と隠れ蓑をてにしている」
 下手に口を出せば部族自体が滅ぼされる。
「私達が考えていることが当たっていたら、狙われ……いえ、連れ戻される可能性が高い」
 ふぅ……とカペラは息をついた。


 要塞都市内のとある家に隠れているルックスと飯綱を訪ねてきたのはフォニケだ。
 フォニケの下宿先と近く、何かと世話を焼いていた。
「大丈夫?」
 心配そうにルックスへ声をかけるフォニケだが、彼の表情は暗い。
「誰か人の命は替えがきかない。同様にあなたの命も替えがきかないのよ」
「……わかってる」
「自分の命だけで済めば楽よね」
 微かに笑みを浮かべるフォニケにルックスはこくり、と頷く。
 それが出来ればこんなに苦しむことなどないのだ。
「あのさ、フォニケ」
「なぁに?」
 おずおず口を開く飯綱にフォニケは朗らかに微笑む。
「その腕巻き、おしゃれ?」
 フォニケの両手首には肘近くまでリストバンドのような布で覆われている。
「古傷を隠すためよ。みっともなくて」
 一瞬だけ表情が曇ったが、困ったようにフォニケは笑う。
「……温泉とか、困らない?」
「んー、一応布を巻いて見せないようにしてるわ」
「そっか、へんなこと聞いてごめん」
 素直に謝る飯綱にフォニケは「気にしないで」と笑った。
 ドアよりノックが聞こえると、「俺だ」という低い男の声が聞こえる。
 聞きなれた声にフォニケがドアを開けると、シェダルがいた。
「よくわかったわね」
「何年の付き合いだ。そろそろハンターが来るから戻るぞ」
 驚くフォニケにシェダルは呆れた表情を見せる。
「フォニケ」
 部屋を出ようとするフォニケを飯綱が引き留めた。
「あ……気を付けてね……」
 上手く言葉が出てこなく、言い淀んでしまった飯綱にフォニケは「ありがと」と笑って部屋を出た。

リプレイ本文

 要塞都市内にあるハンターオフィスでフォニケとシェダルが旅支度を終えてハンターを待っていた。
「わーい、お肉の精霊のフォニケさん~♪」
「宜しくね」
 ハンター達へ穏やかに笑うフォニケはディーナ・フェルミ(ka5843)との再会を喜ぶ。
「今回はきっと、お肉に困らないね」
「食事中以外なら、いつでも狩れるし、シェダルがいるから美味しく捌けるわ!」
 親指を立ててシェダルの方へ向ける。
 朗らかなやり取りを見ては、顔に出さずに戸惑った思いを抱えるのは木綿花(ka6927)。
「先日はお花の飾りをお借りしまして、ありがとうございました」
 礼を言う木綿花にフォニケは「また機会があったら付けてね」と返す。
「これから迎えに来る部族にリュラさんっていう職人さんがいてね、その人の紡ぐ糸や織る布はとても滑らかなの」
「そのリュラさんという方の布は今回持ってきているんですか?」
 二ノ宮 アザミ(ka6443)が言葉を差し込むとフォニケは肯定する。
「娘ちゃんが生まれて、休んでいてね。今回が産後初めての品なの」
 産休があるのか……と鞍馬 真(ka5819)が感想を抱く。
「確か、人気があると伺っています。今はタットルという賊がこの辺りにいると聞いてますが」
 木綿花が言えば、フォニケは頷く。
「エーノス族……ルックス君の部族を強襲した賊よね。かなり過剰な手を使うし、以前にウチと取引がある鉱山を狙ってた連中とも繋がりがあるって聞いたわ」
 なんとかしたいわよね……と言ってフォニケはため息をつく。
 動揺している様子もなく、既知を心配しているだけだった。
「フォニケ、受付が呼んでたぜ」
 遅れて入ってきたオウガ(ka2124)の呼びかけにフォニケは礼を言って個室を出ていく。
「……フォニケ様はあの似顔絵の件を存じているのですか?」
 木綿花の問いかけにシェダルは黙ろうとしたが、琥珀の瞳に逃げることが叶わず、シェダルは「アルフェッカに口止めされている。アケルナルの似顔絵も見せていない」と返した。
「下手に刺激したくないんだ。例え、フォニケがタットルに捕らえられてたとしても、逃げ出して二十年は経つ。何か知っていても、フォニケが覚えていることに縋ってても進展はないと判断した」
 一度口を閉じたシェダルは深呼吸をした。
「俺達はフォニケはタットルから抜け出してきたと踏んでいる。確証はないが、あるとすれば、あいつの腕だ。部族なき部族の飯綱が言っていた愛人の腕に彫られた刺青がアイツにもされていると思っている」
「見てないのですの?」
 エステル・ソル(ka3983)の問いにシェダルは首を横に振る。
「保護した時にはその部分が傷だらけだ。今は傷も塞がっているが、傷跡を嫌がって常に布で覆っている」
「傷だらけ……? 誰かにやられたのでしょうか……」
 表情を曇らせる木綿花。
「フォニケは腕のことを尋ねるだけで相当怯えていた。身体中に痣もあったしな。傷が癒える度、フォニケに笑顔が綻ぶ度に忘れた方がいいと思うのは選択肢の一つだと俺は思っている」
 何もわからないまま、傷口を広げても解決できるかわからない。
「今回の件、何も知らないフォニケを囮にするような事をした事について俺達は弁解しない。フォニケだけは守ってくれ」
 シェダルの願いに口を開いたのは真だ。
「それが依頼だからね」
 彼が応えた言葉はハンターとして当然の事。

 フォニケが戻ってきてから、出発した。
 今日は晴れており、林の合間から光が差し込む。影は冷えるが、日光に当たると温かい。
 マッピングをして歪虚の様子を探っていた。
 基本的に女性陣がそれとなくフォニケを守るように歩いている。
「あれ、フォニケさんが持ってる袋はなんなのですか?」
 ディーナの問いにフォニケは「干し肉とお酒」と返す。
「待ち合わせの場所は辺境ドワーフの部族で、差し入れを渡すと何かと便宜を図ってくれるの」
 勿論、シェダルも同じ袋を持っている。
「持ちつ持たれつ……というところですね」
 アザミが頷くと、「その通り」とフォニケが返す。

 待ち合わせの場所が近い所でオウガの超聴覚が異変に気付く。
「獣の足音がこっちに来ている」
 オウガが告げると、アザミが「人の気配は?」と返す。
「人の音は聞こえない」
 それから程なく歪虚が姿を現す。この辺りに生息する獣にしては身体は大きく、殺気に満ちている。
 木々の合間からその姿が見えてきた。狒々が長い手と跳躍で木を伝い、ハンター達を取り囲む。
 地を伝う振動で複数の熊が走ってきていることが伝わってくる。
 先手を切ったのはディーナだ。
 星神器を掲げ、魔法で作り上げられた無数の刃を狒々へと向ける。刃が狒々の身体へ食い込み、その衝撃で地に落ちた。
 狒々は動くことはなかったが、周囲の狒々は木を揺すったり奇声を上げて威嚇を続けている。その中の一体がフォニケ目掛けて石を投げてきた。
 離れていた木綿花はジェットブーツで隙間を抜けて素早く盾で防いだ。
「フォニケ様っ!」
「ちょっと入らせてね」
 他の狒々にも石を持っいたようで、続けざまに投げていく事に気づいたフォニケが木綿花の盾に入り込む。
 木綿花もデルタレイで狒々を光で貫き、反撃を試みる。
 投石は意外と飛距離があった。エステルの方にも石が飛んできた。
「範囲魔法は?」
 盾を持ったシェダルがエステルの壁となり、石を防いだ。
「任せください」
 そう告げたエステルが発動させたのはブリザード。
 一瞬の冷気の嵐が狒々を襲った。周辺の大気に冷気の名残が太陽の光に煌めく。狒々の身体は冷気で四肢が凍っては身動きが取れなくなっていた。
 地に降りているものは歩くことも儘ならず、木に登っているものは落下していた。だが、まだ木にしがみ付いている歪虚もいる。
 その前に現れたのは魔斧「モレク」を振りかぶったオウガ。
 気合と共にオウガが斧を木へフルスイングをする。一撃で木の半分以上が削れ、上の重さで木が倒れていった。
「さっすが!」
 ぱぁっと顔を明るくするフォニケの表情を横目にオウガの表情はいつも元気なオウガには似つかわしいと思えない苦い表情だ。
 自分の警戒が無駄であるように祈りながら。

 熊型歪虚と対峙しているのはアザミと真。
 アザミが試作雷撃刀「ダークMASAMUNE」を一度鞘に仕舞い、駆け出して熊の腕をすり抜けるように高速で雷撃刀を抜き放ち、胸へ斬りつけた。
 風属性を持つ雷撃刀は攻撃の瞬間に刃より電流を流し、深く斬りつける。
 間合いを取ろうとアザミが右足を一歩後ろにずらすと、熊の腕が大きく振りかぶり、アザミの方へ鋭い爪が上段より襲い掛かった。
「うっ!」
 受け流しで抑えきれず、レザーアーマーで衝撃は緩和したが、爪はアザミの腕に食い込んでおり、血が滲んでいる。
 別の熊型歪虚と戦っている真は呼吸を整えている。
 この大勢の歪虚との戦いに部族の者達がいなかったことに妙に安心していた。
 大きく踏み込んだ真は血色の刃を持つバスタードソードを熊へ突き出し、目から切っ先を差し込み、熊の頭を貫く。
 刃を引き出すと、熊は倒れて動かなくなった。
 部族同様に守るべき護衛対象は仲間が守っている。前衛として思い切り剣を振るい、敵を屠るだけなのだから。
 アザミの方へ真が視線を向けると、間合いをとる事に成功したアザミは雷撃刀を構えて歪虚へ果敢に立ち向かっている。
 熊の爪を受け流しで躱し、居合で先ほど斬りつけた場所へ更に深く刃を当て、倒し切った。

 歪虚を倒したハンター達は歪虚が動かなくなったことを確認し、地下へと降りる。
 地下ドワーフの集落には今回護衛する部族が待機していた。ここの道は馬車一台分の道があり、馬も入っていた。
 ハンター達は休憩を取ってから要塞都市へと戻ることにした。
 その間に部族は支度を始める。
 お茶が終わると、リュラ達も支度を終え、ハンター達は動き出した。

 一度は歪虚を退けたとはいえ、油断はできない。
 今回、彼らの前に現れるのは歪虚だけではないのだ。
 少数とはいえ、一部族が一緒であるというのはとても賑やかなものだった。
 特に歪虚と遭遇することなく、 切り立った崖の上にそびえ立つ大きな城壁に護られている都市。要塞都市ノアーラ・クンタウの姿が微かに見えてくる。

 先行組であるエステルのトランシーバーから微かに聞こえる弾む声は子供達のものだろう。
 後少しで避難先に着くが、それは要塞都市からこちらへ向かってくる足音にオウガは止まってしまう。
「足音がする」
 その声に感情が窺えない。
 ただの旅人だろうか。
 一人の足音しか聞こえない。
 まるで、散歩でもしているかのような軽い足取り。
 彼らにも見えるほどの影がその安堵を闇色に塗りつぶしていく。

 オウガもエステルもその旅人の顔は初めて見るが、似ている。
 人相書きに。
「よぉ、アイツはどこだ?」
 よく響く艶のある低い声。目深に被った帽子を上にずらすと、切れ長の目が見えた。
 長身の男の年齢は四十代くらい。
「アイツって誰だよ」
 ゆっくりとモレクを構えるオウガに男は「名前、付けなかったんだよな」となくしたぬいぐるみを思い出すような様子で嘯く。
「貴方が存じてない方をこちらが応えることはできないですの」
 フォースリングを嵌めた指をエステルは男に付きつける。
「今はドワーフ工房「ド・ウェルク」技師、フォニケだったか」
 無精ひげの口が三日月のようににやりと笑えば、二人のハンターはアケルナルであることと判断した。
 次の瞬間、トランシーバーから報告が入った。
 歪虚が追ってきていると。

 護衛組は背後からくる少数の歪虚に警戒していた。
 しかし、先行組からアケルナルと接触中と連絡があった。
 ざわめき不安がる部族たちに声をかけたのはディーナ。
「大丈夫です。先行組は戦いに慣れ、撒くことも可能です。今は落ち着いて迂回しましょう」
 しっかりとした口調で部族たちに告げる。
「ディーナさんの言う通りです。避難先の要塞都市はもう少し、もどかしいですが、今しばらく辛抱してください」
 更にアザミが声をかけると、少しずつ部族に落ち着きが戻った。
「だいじょぶ……?」
「大丈夫です。さぁ、馬車の中で大人しくしてくださいね」
 木綿花が子供に声をかけると、残ったハンター達とフォニケ達は迂回して進んでいく。
「この迂回ルートなら、壁にぶち当たる。ドワーフ工房の連中が壁塞ぎにその辺いるから警護を頼め」
 マップで指示をしつつ、シェダルがアザミに告げる。
「シェダルさんは?」
「俺はフォニケにつく」
 どうやら、フォニケは歪虚討伐に意欲を燃やしている。先ほどの討伐も積極的に倒していたのはアザミも知っている。
「先にいくね」
 真が言えば、シェダルが頷く。

 先行組は二対一で戦っていた。
「小鳥さんお願いします」
 短く星鳥に願うエステルより五羽の小鳥がアケルナルへと飛んでいく。
 アケルナルは長剣で戦っており、腕に嵌められた。盾で二羽防御し、三羽が命中したが、それでも立っていた。
 攻撃を受けた隙を狙ってオウガが斧をアケルナルへ振り下ろすと、彼は外套を犠牲にしつつも躱し、身を屈んですぐに間合いを取る。
「……て、てめ……」
 がくりと膝をつけるオウガがアケルナルを睨みつけた。
 小柄だが、しっかりした体躯を持つオウガの横腹に一本の短剣が刺されている。
「オウガさん……!」
 息をのむエステルだが、今はアケルナルからフォニケを引き離すのが先決だ。このまま引き留めなくてはならない。
 アケルナルの視線がエステル達から離れると、隙が見つからず、エステルが彼に警戒しつつ振り向くと、そこには凛然とこちらに向かってくる木綿花が歩いていた。
「またお会いしましたね」
「お嬢さんか」
 笑うアケルナルに木綿花は口を開く。
「フォニケ様をどうなさるのですか? その目的は」
 知らないからこそ、真っ向から尋ねる。その姿勢にアケルナルはさも当然に返した。
「逃げたから取り返す。あいつだけは俺のものだ」
 その言葉に違和感を感じたのはオウガだ。
「なんで……首領の愛人じゃねぇのかよ」
 斧に凭れるようにオウガがアケルナルに尋ねる。
「密売人は帝国貴族の令嬢の似顔絵を見て、首領の愛人に似ていると言ってました」
「あんなの、暇つぶしだ。結婚が嫌だから逃げるのを手伝った。フォニケが成長したらこんなんだろうなってな」
 その後、盗賊団に連れて行って首領に渡したかは定かではないが。
「なんていう……」
 エステルが怒りを込めて呟く。
 遠くをきょろきょろ見ていたアケルナルは一気に駆け出した。走ったではない。
「ジェット・ブーツ!?」
「あいつ、機導師か!」
 ジェット・ブーツで一直線に向かうのは荷車……ではなく、雑魚歪虚を倒し、迂回しようとするフォニケだ。
 歪虚を倒したフォニケは先行組の心配をしていた。長引いてないか、もう一人向かった方がいいのではと……だが、ジェットブーツでこちらで向かってくる影があった。
 帽子を取ったその男を見た瞬間、フォニケは脳の動きが、時が止まったかのように硬直してしまう。
「フォニケさん!?」
「フォニケ!」
 ディーナやシェダルが声をかけても彼女は動かなく少しずつ引き攣ったような呼吸をし始める。
 絶対的な恐怖に襲われているのだ。
「覚えているか」
 満足そうに笑うアケルナルにフォニケは動けなくなった。
 二十年以上前に解放されたはずの恐怖が再び彼女を襲っているのだから。
「探したぜ」
 シェダルとディーナがフォニケを守るように立つと、アケルナルは徐に剣を振り上げた。
 星鳥を振り払うと、上段から木綿花の日本刀が振り下ろされる。
 盾で刃を躱すアケルナルは彼らから離れた。
「お前を迎えに来る。お前が何の憂いもなく、戻ると選ぶようにな」
「そんな必要ありません」
 ディーナがセイクリッドフラッシュを発動させると、アケルナルを貫くが、彼は不敵に笑うばかり。

「必要ですよ。愉しいことですから」

 少年のような笑い声。
 オウガの脳裏に記憶が蘇る。
 大幻獣フェンリルは誰にとって大事な存在だったのか。
 それを奪うことを悦びとした奴がいた。

「シェダルを護れーーー!!」
 姿を現したのはアケルナルと繋がりがあるアクベンスだ。
 部族をドワーフ工房のメンバーに引き渡し、迎えに来たアザミがシェダルの肩を掴み、後ろへ引っ張り、真が守りの構えでアクベンスを迎え撃つ。
 真の一撃を縄ひょうで受け、蹴り飛ばし、シェダルが迎え撃つ剣とディーナのセイクリッドフラッシュ受け、腕を飛ばされてももう片方の腕でシェダルの胸から腹にかけて縄ひょうが滑ると、血が噴き出した。
「シェダルーーー!!」
 絶叫するフォニケはアザミとエステルに守られ、後退していく。
「じゃぁな、次は派手に迎えに来る」
 そう宣言してアケルナルはアクベンスに抱えられて消えていった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士

  • 二ノ宮 アザミ(ka6443
    人間(蒼)|23才|女性|舞刀士
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 【相談】護衛の打ち合わせ
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/02/26 21:10:01
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/23 22:39:45