ビューティー・アンド・ザ・ビースト5

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/03/07 15:00
完成日
2019/03/24 19:14

みんなの思い出

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オープニング

 この物語は、少しばかり時を遡る。

 オペレーション・ブラッドアウトにゾンネンシュトラール帝国軍が全面的な協力を約束する、その少し前。
 帝都バルトアンデルスにおいて、ある重要な会談が行われた。
 招かれたのは、反帝国組織ヴルツァライヒが頭領、ヒルデブラント・ウランゲル。
 彼は皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲルにより庶民議会の一員として招かれ、それに応じたのだ。
 無論、話がまとまったわけではなく、つまるところこの会談は彼が議員を引き受けるのか、受けないのかといった事柄を決める為のものである。
 その一方で、ヒルデブラントが庶民議会に参加するということは、部分的にヴルツァライヒ側の要求が達成されるということでもあり、その決断いかんによってはヴルツァライヒとの争いに終結の兆しを齎す可能性もあった。
 故にこれは様々な帝国のメディアが大きく報道し、市民らも一目その様子を見物しようと、バルトアンデルス城へと続く道に集まっていた。
「はっはっは。こりゃまるで勝利の凱旋だな!」
 馬上で高笑いするヒルデブラントだが、実際その言葉はよく状況を表していた。
 なにせ彼の前後は、伝説の絶火騎士らで固められている。
 まるで過去の英雄が隊列を組んで、故郷に帰還したかのようであった。
「おうおう、出迎えご苦労! ヒルデブラント・ウランゲル、招集に応じて参上したぞ!」
「ハアア……ったく、てめえいったいどのツラ下げてと言いたいところだが、恥知らずっぷりじゃ俺も負けちゃいねぇからな」
 思い切り苦々しく呟き、オズワルドと彼が率いる第一師団がヒルデブラントを迎え入れる。
「昔話はまた今度にしようや。こちらから同行するのは俺と、あともう一人だけだ」
 ヒルデブラントの後ろ。一人の男が馬から降り立った。
 金髪の男だ。美形といってよいだろう。柔らかな微笑みを湛えた、見知らぬ青年であった。
「こいつはお前の副官か?」
「そんなとこだ。そんじゃまあ、行ってくるとするかねぇ」
 ヒルデブラントとその男が議事堂に向かって歩き始めると、騎士の英霊たちは尽く跪き、声を揃えた。
「「「我が王よ、ご武運を」」」



「話し合いを始める前に、この会談の着地点を予め決めておこう」
 すべての師団長が集結して余りある広さの議事堂にヴィルヘルミナの声が響く。
 この場所に立つのは皇帝ヴィルヘルミナ、皇子カッテ、頭領ヒルデブラント、そしてその副官らしき男の四名のみ。
 これは予め決められていたことで、双方同じ人数だけの同席が許されている。
「私の要求はシンプルだ。まずヒルデブラント、貴様には庶民議員となってもらう」
「そしてヴルツァライヒは解体しろってか?」
「その通りだ。頭領である貴様が正しく政治参入するのであれば、ヴルツァライヒの主張は民意に問うて一つずつ遂げてゆけばよいだけのこと。この上ない好条件と考えるが?」
「確かにな。んじゃ次はこっちの条件だが……俺が望むのは封建制の復活だ。もう少し具体的には追放された貴族らの名誉と領地の復活にある」
 帝国は元々はグラズヘイム王国と同じく封建制をとっており、貴族らが領地を治めていた。
 その結果として腐敗した政治が民衆の生活を強く圧迫していたことが、先の革命戦争の発端でもある。
「あなたもご存知の通り、封建制には問題があります。今の民衆は貴族のような特権階級に再び支配されることをよしとはしません」
「だが、結局政府は国土隅々にまで目を配れず、田舎じゃ雑魔がほったらかしだったり、いつまでたってもインフラが整備されずに放置されている。帝国の民衆は帝都周辺と田舎とで圧倒的な生活の差を強いられてんだ。結局連中を守ってやるには領主が必要なんだよ」
 一理ある主張だとカッテは考える。
 この問題解決のために帝国は各地方に師団都市を置いて周辺地域を見張らせているが、それでも行き届かぬ部分があるのが現実だ。
「地方に貴族の領地を置いたとしても、今の時代なら師団都市が近くにある。定期的に師団に巡回させりゃ、不正の温床にはなりづらいだろ」
「確かにな。では、その貴族というのは誰を指すのだ? 血筋か? 生まれ素性で立場が決められることを、帝国民は良しとしないぞ」
「世襲ってのは、親から子という絞られた教育体制を作ることにより、ノウハウを余さず伝える為の仕組みでもある。速攻で国民全員に読み書きや政治、商売について教えられないから、そういう仕組みがあるんじゃねぇのか?」
 それも然り。いずれは教育に力を入れ、国民全体の意識レベルを上げていくことはヴィルヘルミナにとっての理想のひとつだ。
 しかし、それはいつだ? いつまでかかる? それまでの間、ずっと地方民はそのままなのか?
「俺ぁ将来的にはお前さんのやり方が正しいと思ってる。だが、それでは“今”苦しんでいる奴は救われねぇだろ」
「だが、目の前の誰かを救うために封建制を復活させれば、未来自体が遠のいてしまう。一度始めた封建制、1年2年では撤回できまい」
 つまりこの話は、目の前の問題解決を優先するのか、未来の問題解決を優先するのか、というものでもある。
「おう、お前はなんか意見ないのか?」
「……僕かい? うーん、そうだな……」
 ヒルデブラントの同行者は腕を組み。
「そもそも、君たちの議論は平行線だろう? 落としどころがないから、ヴルツァライヒは戦争をするんだ。つまりこの議論の解決には、ズド~ンとぶっとんだ発想が必要になる。例えば、辺境部族を侵略して労働力と土地を確保するとか……あ、もちろん冗談だけど」
「どこの馬の骨か知らんが、我が盟友に対し働く無礼はこの皇帝への侮辱と同義である。私は二度同じ話はしない。次は剣を抜く」
「それはすまない。悪気はないんだ。肝に銘じておくよ」
 ナヨナヨとした笑顔を浮かべ、男はたじろぐ。
「しかし、やはり僕たちだけでは解決しないと思うのだけど、いかがだろう?」
「そうだな。こうなると思って、中立の立場の人間を呼んである」
「ハンターだろう?」
 ヒルデブラントの問いかけにヴィルヘルミナが頷く。
 これは元々合意していたわけではないが、お互いにそうなることは分かっていた。
「議論の前提を伝えた上で、自由な発想で解決を求めようではないか」
 こうして閉ざされた議事堂にハンターが招かれることになった。
 その展開を予期していたのはヴィルヘルミナとヒルデブラントだけではなく。

 背後で微笑む金髪の男もまた――。

リプレイ本文


「そうだよ。僕が本物の――ナイトハルト・モンドシャッテだ」
 謎の男はあっさりと認める。
 だが、神楽(ka2032)は違和感を拭えずにいた。
「名のある英霊なのは間違いないと思うっすけど、俺が“見た”のはアンタじゃなかった……アンタ本当にナイトハルトっすか?」
「本当だけど、君が見たのは別人だろう。だって僕、ブラストエッジ行ってないし」
 その言葉を聞いて、シェリル・マイヤーズ(ka0509)はどこか腑に落ちた様子だった。
「あ……。もしかして……それはエウラリアの方、だった?」
「すごいな、ハンターは。そんな事までわかるのかい?」
「アレクサンダーから聞いた話と、あなた……ちょっと違うし」
「なるほど、彼か……。まあでも、その話は今回は関係ないってことでいいかな?」
 謎の男について触れはせよ、彼が何故そこにいて何のために同行したのかまでを理解する者はいなかった。
 故に、このやり取りは今回の依頼に大きな影響は及ぼさない。


 時を少し巻き戻そう。
 結論から言えば、ハンターの提案は概ね一致していた。
 誰もが帝国の現状をきちんと見つめた上で、教育機関の不足や封建制のメリット・デメリットを論じていた。
「封建制度については貴族に生まれ育った者として、その理を無視できません。さりとて封建制度からの脱却は民や精霊との約束事だったはずで、それを破るのは信用の失墜になりかねない」
「私も貴族階級人材の統治適性は否定しない。理由はヒルデブラントが語った通りだ」
 フェリア(ka2870)やアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は実際に貴族としての教育を施された人材だ。故にその有用性を肌で感じている。
(だからこそ……私のような出自の者が中立扱いなのはどうなのかと思わなくもないが。陛下は相変わらず信用し過ぎだな……)
 ちらとヴィルヘルミナを見やると、穏やかな笑みを浮かべている。そういう女である。
「帝国が封建制度にて栄えてきたのは事実です。そこに一定の功ありとして、名誉の回復は行っても良いのではないでしょうか」
「そうっすね。貴族と封建制度の名誉回復はヴルツァライヒとの和解に必要じゃないっすか? ついでに腐敗帝ブンドルフの名誉回復も頼むっす」
 神楽が口にした名前にヒルデブラントの表情がわずかに代わる。
 それは常に飄々とした余裕を崩さない彼には珍しいほど、悔恨に満ちた眼差しだった。
「問題は血統による支配は自浄作用が貧弱という点だ。これを制度で補強しなければ実現は難しい」
「封建制復活に対する国民の反感はどうするのですか?」
「名前を変えてしまえば良かろう? 皇帝、即ち中央政府任命の統治官職であれば、国民に与えられた役職の一つにすぎない」
 アウレールの言葉にフェリアは腕を組む。
「任命するのがあくまでも皇帝陛下であれば、世襲による権力の一極集中には当てはまらない、と」
「地方にも、小さな庶民議会みたいなのを作ったら? 例えば……リアルブルーのアメリカみたいな」
「アメリカっすか。確かにこの国が目指す方向性としてはあってるかもしれないっすね。リアルブルーの政治は、こっちの世界より圧倒的に進んでるっすから」
 シェリルの言葉に頷く神楽。どちらにせよ、単に封建制を復活させることに意味がないという点で、全員の意見は一致している。
「でも、昔ながらの封建制そのものに固執してる元貴族とかもいるっすよね? それなら、民が封建制か民主制かを選べるように10年ごとに選挙するとかどうっすか?」
「私も現状から何かを変えるまでの教育には10年はかかると見ている。組織を浄化するには丁度いい期間だと思うが、一国内に複数の統治方法があるのは悩ましいな」
「じゃあ、特別にそれを許している特区を作るのはどう? どうしても国の一員として政治に参加するのでは満足できない人は、そこでチャレンジできるようにすれば」
 キヅカ・リク(ka0038)の提案は同盟領の自由都市に近いものだ。
「内需だけでは国の発展には限界があるし、外貨を稼ぐ必要があると思う。そもそも現状のパイを食い合うより、新しい経済と居場所を作った方がいいと思う」
 そもそも新たに村や町などの経済母体を増やせないのは、統治者とその支持者がいないからだ。
 ヴルツァライヒのような組織がまるっとそれを補うのなら、余っている土地だけ与えればすぐに実行できる。
「あとは首都への幹線道路だね」
「交通網の整備は、早くできたらいい……ね。魔道列車で線路を繋ぐとか」
「魔道列車自体は技術的に可能なレベルになってるっす」
「そもそも、地方と中央とで……物理的に離れすぎてるのが問題、じゃないかな?」
 シェリルの話には一理ある。気軽に足を運べないから腐敗の温床になるのだし、地方と中央に格差が生まれるのだ。
「私たちの提案を採用いただけるのであれば、当初は貴族であった者の方が有利になるでしょう。その功を認め、その上で公平な実力勝負の舞台を用意するなら面子は保てるのではないでしょうか」
 フェリアがそう語り掛けると、ヒルデブラントは笑みを浮かべる。
「ハンターを呼んで正解だったな。面白ぇ案がドンドン出てくるじゃねぇか」
「満足してもらえたのなら何よりだが……ヒルデブラント、貴方は何者かの代弁者なのか? それともこれは、貴方個人の主張なのか?」
 アウレールの問いかけにヒルデブラントが首を傾げる。
「皆の話をまとめれば、そのままではなくとも封建制を復活させることはできると思う。でも、貴族達はヒルデブラントが言う通り、地方民を救済するために尽力する保証はあるの?」
 ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は鋭くヒルデブラントの瞳を見つめる。
「これまでの話は、ヴルツァライヒの元貴族達がこの国を良くするために働いてくれるという前提の上に成立してる。でも、そうでなかった場合の対処は? まさか、そこは当人たちに任せてるなんて無責任な真似はしないわよね?」
 気がかりなのは、何故封建制の復活を推すのかだ。彼にとってそれはそこまで重要なのだろうか。
「難しい質問だな。これはヴルツァライヒの願いであると同時に、オレ個人の主張でもある。だが最も大事なのは、全ての人間が己の未来を選ぶことにある、とオレは思う」
「すべての人間が……選ぶ?」
 言葉を繰り返したユーリに頷き、ヒルデブラントは背後を顧みる。
「お前たちは優秀だ。未来をきちんと見据えている。だが、国民すべてがそうではない。ユーリは“元貴族達が”約束を守るのかと言ったが、そいつはオレに言わせれば“全国民が”なんだよ」
 そして次に男は神楽を見やる。
「オレはブンドルフを殺したかったんじゃない。立場に縛られて二進も三進も行かなくなったダチを、帝位から救ってやりたかったんだ」
 そうだ。革命戦争は、崇高な志を旗に掲げて行われた。
 実際にその願いは美しかったし、誰もが憧れたから大きな力――“正義”を得た。
「だが、その結末はお前らも知っての通り。元貴族への苛烈な弾圧……報復。“討った者”は“討たれる者”へと変わった。もうその当事者はいねぇのに、貴族の末裔は今も自分とは関係のない過去に囚われている。そんな連中が正しく動くかどうかなんて、一体どこの誰に保証できる? お前らはお前らが助けた相手がお前らを憎まないと、どうしてそう言い切れる?」
 弱者は強者に、強者は弱者に。
 立場が変われば人は変わってしまう。
「やっぱり、自分達の意思を押し通す覚悟があるのか、それを確めたかったのね?」
「それもある。まあつまり、ここでどんなに素晴らしいアイデアを出したとしても、その是非を決めるのはヴルツァライヒも含めた国民ってことだ」
「すべては信用だというのなら、失礼ながら身元がはっきりしない副官を帯同させるヒルデブラント様は、そのお考えを詳らかにしていると言えるでしょうか?」
 フェリアの視線は金髪の美男子に向けられる。
「負のマテリアルを誤魔化す歪虚というのもあり得ます。あなたのお考えは尊重しますが……」
「ああ。アウレールの質問はそういう意味もあったのか」
 金髪の男はポンと手を打ち、朗らかに笑う。
「といっても、君たちの中には僕の正体について察している子もいるんじゃないかな?」


「確かに妙だとは思っていたのだ。何故、絶火の騎士までヴルツァライヒに付き従うのか……」
 アウレールはよく知っている。ヒルデブラントはいわばこの国の歴史を破壊した人物だ。
 歴史に守護され、そして歴史を守護する存在である英霊が彼に従う理由などないはず。
「やっぱり、本物の王様はそっちだったんすね」
「ちょっと待った。それって……じゃあつまり、今の状況は英霊による政治介入ってことだよね?」
 眉を顰め、キヅカが呟く。
 今のヴルツァライヒの屋台骨は、実はヒルデブラントではなく英霊たちだ。
 どれだけ優れた圧倒的カリスマの持ち主であったとしても、我を通すには武力が要る。
 ヒルデブラントというカリスマは、絶火の騎士という兵器がなければ保持できない。
「確かに今、この国には過去類を見ない様々な種族が共存してる。でも、これからの時代は今を生きる人間が作っていくべきだ。英霊が“未来”に干渉するなんて……ルミナちゃんはそれでいいの?」
「精霊の意見を聞く事は必要だ。故に、庶民議会には精霊の声も反映させる。だが、それが過去からの侵略だというのなら話は別だ」
 ヴィルヘルミナは腰に提げた剣を抜き、英霊の王に突き付ける。
「貴様の目的は何だ? 何のためにヴルツァライヒに加担している?」
「僕と君たちの目的は概ね一致しているよ。僕はこの国の国民に是非を問いたいだけなんだ。考えて欲しいんだよ、ちゃんと自分の頭でね。そのためには対立構造が必要なんだ」
 ゼロからひとつの答えを産み出す事は難しい。だが、二者択一なら?
「君たちは今回の話をちゃんと進めてくれればそれでいい。ヴルツァライヒにも正しく話を伝えよう。その上で納得しない国民やヴルツァライヒがいるとして、君たちはそういう連中をどうする?」
「根気よく話し合えば……というのは、きれいごとなのでしょうね」
 苦々しくフェリアが呟く。この場に「話し合い」できれいに何もかもが収まるなど、甘い考えの者は一人もいない。
 だからこれまで彼らは闘ってきたのだ。どうしても分かり合えないものと。
「前にも言ったが、オレは出来るだけ多くの人間が納得して終われる方法を選ぶ。そのためにはもう一度、戦う事も必要になるだろう」
「どうやら政治で丸く収まる話じゃないみたいっすね……」
 神楽は以前、彼の目的を聞いている。
 考えてみればそこから彼の行いは矛盾していない。一番まとまらない部分は、何かの犠牲で帳尻を合わせるつもりなのだ。
「どうして……。人の中には必ず溝が生まれる……でも、それを少しでも埋めるために……話し合ってるんでしょ?」
「そうだな。だが、どうしても埋まらない部分を埋めるのは、残念だがきっとこいつなんだ」
 シェリルの悲しげない問いかけに、ヒルデブラントはシャイターンの鞘を鳴らす。
「だが、おかげで話は随分ましになった。今回の案は双方持ち帰り、よく組織の中で吟味するとしよう。少なくとも結論が出るまでは、全面戦争にはならねぇだろうさ」
「それと、安心して欲しい。僕は所詮、伝説のほとんどを偽物に奪われた絞りカスだ。放っておいても僕はそう長くかからずに消える。アウレールたちが僕の存在を上書きしてくれたおかげでね」
 あえて名指したのだろう。ナイトハルトはアウレールと向き合う。
「君たちはリヴァイアサンとその内に眠るものも見たはずだ。過去とは決別した。だからこれから先の未来を生きる人の正しさを見せてくれ。僕はせめてそれを見届けてから、殺されたいんだ」
 話すべきことはもうないと言わんばかりにナイトハルトは一礼し踵を返す。
「ヒルデブラント……刀鬼はまだあなた達と行動を共にしているの?」
「あいつとツィカーデは俺たちより先に答えに至ったらしい。暴食王と一緒にいるだろうから、次に会う時は真面目な敵同士だろうぜ」
「そう……。じゃあ、もうヴルツァライヒに歪虚はいないのね」
「ある意味クリーンな組織になってよかったな。はっはっは」
 豪快に笑いながらヒルデブラントも議事堂を後にする。
 閉ざされた扉の音が反響する中、残されたハンターらは各々未来に想いを馳せた。
「出来る事なら穏やかに終わってほしかったけど……やっぱり無理そうね」
「しかし、話し合いで解決できる分量は増やせたはずです。流血をゼロにすることは出来なくても……意味はきっとあります」
 ユーリのぼやきにフェリアが少し疲れた様子で返す。
「わからない……とーさまもナイトハルトも……」
 歩み寄ろうとしているのは感じる。だがその上で彼らは“心の距離をゼロにできない”ことを確信している。
 100人いれば、10人くらいは絶対に分かり合えない。そういう前提で流血を是としている。
 カッテはシェリルの肩を優しく叩く。その手に自らの手を重ね、少女は目を閉じた。
「どうもまだひと悶着ありそうだね」
「ああ。だが、いつもと何も変わらん。やれるだけの手を尽くすだけだ」
 堂々と返すヴィルヘルミナの姿にキヅカは頷く。
「あれから随分と僕も変わったんだ。いや、変われたのかよくわからないけど……それでも、この生き方を教えてくれたのはルミナちゃんだから。ありがとう」
「そうか。こういうのは順番なのだ。私が誰かからそれを学んだように、今度は君が君らしく生きることで、世界を変えていく。前に立つ者として、より一層気を引き締めなさい」
「なんだか先生みたいな物言いだね」
 いや、実際の所そうなのかもしれない。自分にとって、彼女は……。



 それから暫しの時を置き、ハンターらの相談を元に、新たな政策を盛り込んだヴルツァライヒと合意書が交わされた。
 これによりヴルツァライヒとの小競り合いは大幅に減少。ヒルデブラントの協力もあり、組織の解体が進んでいった。
 帝国は中央政府に多くの優秀な人材を取り入れることに成功。彼らは首輪付きではあったが、これからの処遇によっては地方救済の立役者になるかもしれない。
 尤も、その具体的な実施がいつなのかは決まっていない。邪神との闘いが目前に迫ったからだ。
 オペレーション・ブラッドアウトのために派遣される部隊には、元ヴルツァライヒの囚人兵も含まれる。強制ではなく、彼らが望んだことだ。
 だがその中にヒルデブラント・ウランゲルと、絶火の騎士の姿はなく……。
 ヴルツァライヒの解体をよしとしない者たちは、今も当てのない逃避行を続けている。

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MVP一覧

  • 大悪党
    神楽ka2032

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】議事堂控室
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2019/03/06 23:52:56
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/03/05 23:10:30