雪の王獣と虹の花

マスター:紡花雪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/01/20 09:00
完成日
2015/01/27 23:06

みんなの思い出

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オープニング


 雪氷の地。しばしば強い吹雪に見舞われるが、晴天時には美しく幻想的な白銀の世界を見ることができる。
 この雪氷の辺境のとある村では、乏しい生活の糧と村独自の風習のためにある植物を大切にしている。村では『虹の花』と呼ばれるその植物は、雪の下にあって彩り豊かな花を咲かせるという。その花は花弁が二色から三色に配色されており、株によって表れる色が異なるというのだ。それは主に織物の染料とされ、その鮮やかさから生花でも取引がされている。リゼリオなどの都会では、見たことがない者もいるだろう。
 『虹の花』は野生ではあるが村の者がそれなりの手入れをして、代々群生地を守ってきた。村では昔から『虹の花』で染めた織物は祝いと恵みの象徴で、人生の節目の儀式では必ず用いられるものであり、その生花も売って生計を立てるだけでなく、先祖の墓前には欠かせないものでもあるのだ。
 だが先日、その群生地が荒らされていることが発覚した。体長の大きな動物に踏み荒らされたのか、雪がところどころ虹色に染まっていたのである。村の周囲には、地中に埋まった木の実を掘り出して食べる小動物くらいしかいないが、雪原の北の氷河のあたりにはシロクマがいるのだ。 村人は戦々恐々としていたが、花の群生地は保護しなければならない。だが降雪などの事情で足が遠退いていた隙に、何度も踏み荒らされる事態が続いたのだ。
 そして三日ぶりに晴れた日、村人たちで組織した自警団が群生地を見に行き、事件は起こった。シロクマが嫌う匂いの焚いていたにもかかわらず、村人たちは襲われてしまったのだ。そのシロクマには猟銃も効かず、村人の一人が叫んだ。
「——雑魔だ!」
 五人いた自警団のうち命からがら村へ戻ったのは、たった一人だった——。



 かの村からハンターズソサエティへと依頼を持ち込んだのは、村長と被害に遭ってしまった男の娘である。村長は未曾有の事態に頭を抱え、娘は終始雑魔討伐を訴えて泣いていたという。
「事件の概要は以上です」
 オフィスの女性職員が、覚醒者たちの前に地図を差し出した。
「依頼は雑魔討伐になります。それに付随して、『虹の花』の群生地がこれ以上荒れることがないように、と村長が嘆願しています。ですので、雪原の北からやってきた雑魔が、まっすぐ南にある群生地に入る前、もしくは群生地の西側におびき出して討伐に臨む必要があります。群生地の東側には村がありますので、そちらにも近付けたくはないでしょう」
 雪原の地図を広げ、女性職員はすらすらと説明をしていく。
「討伐対象は、シロクマ型の雑魔が1体。村に逃げ帰った方の報告では、鋭い爪のある前足を振るい、時にはその巨体で突進してきて体当たりをするようです。その巨体ゆえに素早い動きに弱いようですが、嗅覚が優れているため隠れても見つかってしまいます」
 雑魔に関する書類を示した女性職員は、最後に、と付け加えた。
「現地の天候ですが、今の時季、一週間のうち三日は多かれ少なかれ雪が降っており、視界不良の恐れがあります。シロクマ型の雑魔ですから、保護色で雪に隠れてしまうことにも注意が必要でしょう。——この依頼をお受けになるようでしたら、契約書に署名をお願いいたします」
 言葉通り女性職員は、覚醒者たちの前に契約書を提示した。

リプレイ本文

●雪の地へ
 雪原の村に着いたハンターたちを、村人たちは大歓迎した。
「天気が崩れてきたので、心配しました」
 老齢の村長が、皺だらけの顔を更に歪めて不安を表す。よくよく見渡せば、村人たちの多くに不安と疲労が見て取れた。早々に事態を終結させなければ、彼らの憂いは晴れないだろう。
 早速ですが、と淑やかな雰囲気の女性、柳津半奈(ka3743)が村長の前に歩み出る。陽動作戦のために、シロクマ型雑魔の好みそうな血肉の提供に協力してもらいたいのだ。
「貴重な冬の蓄えを頂く事になるのは、承知しております。けれど……花畑を保護する観点において、対象の誘導は必須事項です。どうか、ご一考くださいませ」
 半奈の言葉に村長は一瞬だけ考え、すぐに一人の村人へ指示を出した。
「アザラシがあるのですよ。今朝仕入れて捌く前でしたから、鮮血も充分に取れましょう。なァに、保存の干し肉用です。多少傷物になっても平気です」
 ハンターたちは礼を述べ、雑魔討伐のための慌ただしい準備が始まる。その準備の上で、いくつか村人に確認しなければならないことがあった。まずは、虹の花の群生地周辺の様子である。土地勘のないハンターたちにもわかる目標物や目印を地図にまとめたほうが良いだろう。
「準備不足だと……やはり不安ですしね……」
 長身で黒髪が美しい女性、Luegner(ka1934)が村長に問うと、虹の花の管理班長だという壮年の夫婦が地図に詳しい地勢や植物、看板の位置を書き加えてくれた。
「群生地の被害を考えると、作戦行動は早いほうが良さそうだ」
 身なりに品の良さが見える少女、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が明るい声を響かせる。古の時代に君臨した大王の生まれ変わりを自称する彼女は、この討伐にも自信をみなぎらせていた。
「俺も、植物は好きですからね。被害は最小限に抑えたい」
 ゆったりと穏やかな口調の青年、神代 誠一(ka2086)は緩く微笑みながら窓の外に視線を遣っていた。自然風景や植物が好きな彼は、貴重な花である虹の花に強く興味を惹かれているようだ。
 誠一と同じく、白髪の少女、スノウ・ウァレンティヌス(ka3852)もまた窓の外の雪景色を眺めている。
「雪を汚すものを排除する、僕はそれだけだよ」
 彼女の名前は、『雪』を意味する。そのため、自然の中でも特に雪を気に入っている。それだけに今回の依頼にも思い入れがあるのだろう。
「花を踏み荒らすってのはな。面白くねえ」
 周辺地図を確認していたエルフの男性、ラッド(ka3924)が涼しげな口調の中にわずかな熱をこめて言った。脅威の中で花を愛でながら生きる村の姿に、自身の故郷を重ね合わせているようだった。
 窓の外では、雪が降り始めている。ハンターたちは、着々と準備を整えている。出撃のときは、もうすぐだ。


●雪の中、作戦開始
 ハンターたちは、三人ずつの二班に分かれることになった。
 虹の花の群生地の西側、雪原へとシロクマ型雑魔をおびき寄せるための囮班、そして群生地の北側で雑魔の侵入を阻む待機班だ。
 班分けは、囮班にディアドラ、誠一、スノウ。そして待機班に、Luegner、半奈、ラッドである。なお、柳津とスノウが魔導短伝話を装備しており、それで二班の連携を取ることになっている。
 群生地の管理班長の夫婦によると、群生地の北西に大きな木があり、それを起点として東と南に向かって境界となる杭が打たれているということだった。ハンターたちはそれぞれの配置に着き、雪で視界が白く煙る中、雑魔が現れるのを待った。
 しんしんと耳元で冷たい雪の音が静かに鳴っているが、そこに重い足音が混ざり始める。最初に雑魔の影を目視で確認したのは、ラッドだった。ラッドは声を潜めて同班で魔導短伝話を持つ半奈にそれを伝える。半奈から囮班のスノウへと連絡がいき、ハンターたちの緊張が更に高まった。
 重たく雪が潰れる音が、かすかに響く。囮班の役目は、群生地から離れた西側の雪原へと充分に惹きつけることだ。シロクマ型雑魔の姿は降雪に紛れてしまうが、気配は感じ取ることができる。アザラシの血肉が功を奏したのか、たしかに雑魔は囮班を目指しているようだった。
 ハンターたちの視線が交わされる。互いの意識を同調させて、最大限雑魔を引き寄せる。
 グルルル、とシロクマ型雑魔の喉が鳴った。アザラシの血肉を見つけたのだろう。雑魔が放つ禍々しい気配と、獣臭さが雪の中で混じり合う。
 ここだ、というタイミングで、誠一が指を鳴らした。はっと雑魔の意識が誠一に向く。だがそのときにはすでに踏みしめた雪をランアウトで蹴り、誠一は一気に雑魔へと迫っていた。そして彼の身体にマテリアルが潤滑され、七節棍から確実な一撃が繰り出される。それは鞭のようにしなり、雑魔の前肢を打ち払った。
 雑魔の巨体が一瞬だけよろめき、向きが変わる。それを受けたのは、ディアドラのシールド「パヴィス」だ。彼女は果敢にも真正面からシロクマ型雑魔の前肢を受け、それを打撃にすら変える。その足元はかんじきが履かれており、雪の上でも力強く揺るがない。ディアドラの視線が仲間に飛ぶ。
 待機班として雑魔を背後から狙っていたラッドが、精霊に祈りを捧げる。マテリアルが高められ、戦闘意欲、身体能力も高まっていく。そしてラッドは、サーベルを振るって背後から雑魔の胴部を薙いだ。隙をついた攻撃で、雑魔の機動力を削りとる作戦だ。雑魔の動きを抑えこめば、仲間たちも攻撃しやすくなる。
「雪の王獣……ね。そこはお前には相応しくない場所だ、失せろ」
 静かな口調のに攻撃性を潜ませ、スノウもまた闘心昂揚で己の気力、能力を高めていた。雪による視界不良も足場の悪さも気に留めず、むしろ雪に馴染むようにして、黒い刀身の妖剣「モルドゥール」を雑魔の腹部で大きく振り抜いた。クラッシュブロウ。込められた祖霊の力が、雑魔の白い巨体を大きく揺るがした。視界の端に、群生地が見える。スノウは雪と自然だけのために戦っているわけではない。この村の人々は、雪に親しみ、虹の花を慈しむ風習の中に生きている。その彼らを不安から救いたいと、強く思っているのだ。
 仲間たちの後方に位置するLuegnerは、巨大な盾「フェンスシールド」をしっかりと構え、白い視界に目を凝らす。
「私たちが踏み荒らしてしまっては……本末転倒ですし……」
 彼女は、降雪による地形の変化、群生地の目印を踏み越えないように気を配っているのだ。そして後方から狙いを定め、魔導拳銃「ペンタグラム」の引き鉄を引く。五芒星の紋様が光り、射出された弾丸はちょうど振り返った雑魔の鼻面を抉った。
 グワォォォッ、とシロクマ型の雑魔が唸りを上げる。
 畳み掛ける隙を狙い、半奈が雑魔の後背側で雪を踏みしめた。半奈よりも前で戦闘をしているラッドの邪魔にならないように、狙いを定める。
「参ります」
 強く踏み込んで、シュテルンシュピースを突き出した。槍の黒い柄が瞬く星のようにきらきらと輝き、雑魔の前肢を激しく穿つ。
 またも唸り声を轟かせて振り返った雑魔が、巨体を揺らして前肢の爪を剥き出しにする。力任せに振り回した前肢が、Luegnerを打った。がぎん、と「フェンスシールド」に雑魔の爪が擦れる。押しこまれた衝撃の重みが、Luegnerを揺らした。


●雪と花を護る戦い、それは
 頭に血がのぼった様子の雑魔は、怒りに任せて後肢で雪を掻いた。方向転換し、白の巨体が揺れる。雑魔は、誠一を目掛けて突進していた。だが、真っ白な視界の中でも意識して視野を広く持って戦場の把握に努めていた誠一は、静かに眼鏡のブリッジを押し上げて舞う雪のごとくひらりと雑魔の体当たりを躱してしまう。
「残念、俺はここですよ」
 くすりと笑みを漏らし、誠一は洗練された動きで返しの一撃を放つ。回避の隙を与えないノーモーションの素早さで、七節棍が遠心力に唸る。そして、雑魔の後肢を打った。白い雑魔が支えを失い、雪の中に沈む。低く唸る声がわずかに響いた。
 雪の中に消えてしまいそうになったシロクマ型雑魔に、ディアドラがアザラシの血肉を投げつける。白い体毛が赤黒い血に汚れ、雪の中でも判別がつきやすくなる。そして彼女はかんじきの足で強く踏み込み、持ち替えたデファンスレイピアで真正面から渾身の一撃を振り下ろした。雪に溶けこむ白色のレイピアが、噛みつくように雑魔の腹部を抉る。
 雑魔は激しい咆哮を上げて、その場の雪を跳ね上げるように暴れ回る。視界が白く濁り、このままでは仲間の誰が傷付いてもおかしくない。ラッドは仲間に勝機を与えるべく、闘心みなぎる身体で動物霊の力を借りて高速で地を駆ける。白銀の視界に赤黒い染みを見定め、持ち替えたダーツを投げた。ダーツは雑魔の前肢に突き刺さる。
「こっちだ!」
 雑魔の喉が低く鳴り響き、意識がラッドに向けられる。
 スノウは、ラッドと雑魔の動きを見逃さなかった。凍てつく白銀世界の中で視線が交錯する。スノウは妖剣「モルドゥール」の柄を握り直した。体内にマテリアルの昂りを感じながらクラッシュブロウで雑魔の背中へと振り抜き、同時に叫んだ。
「Luegnerさん!」
 シロクマ型の雑魔は雪の上を転がり起き上がろうとする。だがLuegnerは、スノウの合図により雑魔よりも早く動いていた。射程を利用して仲間を支援するように、雑魔魔の腹に向けて魔導拳銃「ペンタグラム」を撃ち放つ。ちょうど、半奈の斜め後方からの射撃だ。
 グウォォッ、と悲鳴を上げた雑魔は身を捩り、雪が舞い上がる。もう体当たりを仕掛ける体力は残っていないだろう。
 半奈は、Luegnerによって開かれた雑魔の後背の槍の隙を狙う。射程ぎりぎりの位置まで踏み込んで駆けた。本来ならば味方の支援のために後肢を狙うところだが、雑魔はすでに動き回るだけの体力を失っている。
「隙あり……!」
 シュテルンシュピースにマテリアルを込め、激しい打撃を雑魔の腹に迷いなく叩き込んだ。
 一際高く大きく雑魔が叫びを上げる。白の体毛の巨体は徐々に黒く滲み、白雪に黒煙が溶けこむようにして消えていった。 


●雪の下に、虹が架かる
「この辺りです。優しく、雪を除けるんですよ」
 雪が止んで晴れ間が見え、ハンターたちは虹の花の群生地へ案内されていた。雑魔が踏み倒したのか、群生地を囲う杭が数本倒れている。群生地の管理班長の婦人は、足元の雪を優しく指先で掻くようにして雪の塊を持ち上げた。
 ハンターたちは、はっと息を呑む。白銀の雪の光を反射するように、花弁に雫を乗せた色彩がきらきらと輝いた。可憐で、優雅な花。雪に護られているその姿は、まるで深窓の令嬢のようだ。
「虹の花……とても、雅な花ですね」
 半奈は、その村にとって大切なものを取り戻した達成感を声に乗せて呟いた。
 依頼を受けた当初から虹の花に強く興味を惹かれていた誠一も穏やかに目を細め、かすかに漂う花の香りを楽しみ、寒さをも忘れる思いで見入っている。
「やっぱり、花は踏んじゃいけねえよ」
 婦人が雪のヴェールを持ち上げるたびに現れる虹の花に、ラッドも呟きを漏らした。村人を襲う脅威が去ったことで、郷愁を誘われたのかもしれない。
 ディアドラもまた、村人たちの安心を取り戻したことに満足しているようだった。
「人々の信頼を得る事も、大王たるボクの責務であるからな」
 持ち前の素直さと寛容さを見せるディアドラは、婦人とともに虹の花を摘んで篭の中に収めていた。
 Luegnerは虹の花を眺めながら、雑魔の犠牲となった四人を悼んでいるようだった。
 太陽が一段と高く昇り、雪の輝きが虹の花を照らす。スノウは、雑魔を倒し、虹の花と雪を護ったことを心のままに喜んでいた。
 ハンターたちが村を出る別れ際、自警団の父を亡くした村娘が歩み出て言った。
「ありがとうございました。……良かったら、春にまた、来てください。皆さんのために、わたし、虹の花で染め織物作りますから」
 父を喪った悲しみを眦に滲ませた娘の笑顔は、虹の花に等しく、美しかった――。

依頼結果

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MVP一覧

  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一ka2086

  • 柳津半奈ka3743

重体一覧

参加者一覧

  • 大王の鉄槌
    ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271
    人間(紅)|12才|女性|闘狩人
  • 私の話を聞きなさい
    Luegner(ka1934
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士

  • 柳津半奈(ka3743
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • 雪を護る者
    スノウ・ウァレンティヌス(ka3852
    人間(紅)|12才|女性|霊闘士

  • ラッド(ka3924
    エルフ|22才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/14 20:28:47
アイコン 相談卓
神代 誠一(ka2086
人間(リアルブルー)|32才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/01/20 01:16:24