ゲスト
(ka0000)
【陶曲】白のビショップ
マスター:三田村 薫
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/29 22:00
- 完成日
- 2019/04/05 01:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●虫のしらせ
嫉妬歪虚アウグスタは、この日なんとなく嫌な予感がして大地の裂け目に向かっていた。足になるのは三メートルはあろうかと言う大きな金属製の蜘蛛だ。
「何だろう……すごーく嫌な予感がするわ……」
何も知らない人間からしたら、ただの厄災である蜘蛛だが、アウグスタには可愛い配下だ。主の命令に従って、一生懸命走ってゆくところなど、たいへん愛らしいではないか。
先日、アウグスタはリアルブルーから来たばかりのハンターをたぶらかして手駒にしようとしていた。しかしながら結果は失敗。あろうことか、そのハンターはこの蜘蛛の上で自分に向かってファイアーボールを放ったのだ!
爆風で吹き飛んだアウグスタは、蜘蛛に後を任せて逃走。態勢を立て直して、この日出てきたと言うわけだ。
(クラーレお兄様たちはどうしているのかしら)
可愛いお洋服に身を包んだ、愉快なお兄さんであるクラーレ・クラーラ(kz0225)は、アウグスタのやりたいことをよく聞いて人形を貸してくれるが、アウグスタに何かを要求したことはない。なので、アウグスタはクラーレたちが何を考えているのかさっぱりわからないのである。
災厄の十三魔でもあるカッツォ・ヴォイ(kz0224)。彼もまた、ハンターの前に姿を現しては騒ぎを起こしているようだが……また何か考えているのだろうか。
何故だろう、得体の知れない不安感があるのは。
「うーん、こう言うのを虫の知らせって言うのかしら……」
アウグスタが独りごちたその時、彼女の上に不自然な影が掛かった。なんだろう。大きな鳥かしら?
「その知らせてくれる虫も蜘蛛なのか?」
振り返ると同時に、赤い髪の男が皮肉っぽく尋ねた。持っているものに掴まって飛んでいる。彼は目が合うや、アウグスタにファイアーボールを放り込んだ。
間一髪だった。ファイアーボールを、蜘蛛が飛び退って回避する。
「な……! あなたは……!」
先日、件のハンターを連れ出すために、クラーレから借りた人形で滅多刺しにした筈の司祭だった。死んだと思ったのに……生きていたのか!
「何で生きてるの!? あんなに刺したのに……! 穴だらけにしてやったのに! 何で生きてるのよ! おかしいでしょ絶対!」
「俺だけで驚くな。前を見ろ」
「えっ、なに? なに?」
言われて、アウグスタは思わず前方を見る。そして彼女は目を丸くした。幽霊でも見たような顔、とでも言おうか。
亜麻色の髪をした司祭が、メイスを持ってこちらを見ている。他にもハンターがその周辺に並んでいた。
あの男だってこの前死に追いやった筈なのに!
「嘘でしょ!? あの人も殺した筈なのに! もしかして幽霊?」
「おあいにく様、生きてるよ。お前は詰めが甘すぎた。俺のことも彼のことも、生死を確認しなかったな? 殺すときはそこまで見届けるもんだぜ、お嬢さん。ハンターは皆そうしている。俺もだ」
「ストップ! ストーップ!!!」
アウグスタは手綱を引いた。蜘蛛は急停車する。キキッ、などと可愛い音ではない。ここで会話していたら相手の声が聞こえないような轟音だ。おまけに数メートル滑った。
「ここから先には行かせない。あんまり集まられちゃ都合が悪いもんでな。この前の言葉、そっくり返そう」
表情が微動だにしない。だが、彼の顔が動くなら、口角を上げて嫌みに笑っていただろう。
「お前にはここで死んでもらう」
「ご冗談!」
アウグスタは吠えた。
「その程度の人数で、私を殺せるなんて思わないことね! 私を殺したいなら戦車でも持ってきなさい! 馬がいっぱいついてるやつ!」
「馬が可哀想だな」
「何ですって!?」
アウグスタは男をキッとにらみつけた。向こうにいるハンターたちも次々こちらに向かってくる。
クラーレたちも気になるが、自分より遙かに強い眷属だ。簡単にやられたりはしないだろう。彼女は戦闘態勢に入った。
●拒絶の部屋
時間は少し遡る。
大地の裂け目、ラルヴァに続く地下遺跡の入り口で、ユージィン・モア(kz0221)とジルダ・アマート(kz0006)は結界の支度をしていた。そこにヴィルジーリオは同僚として、護衛として立ち会っている。
(しかしほんとにこの男、顔が良いな)
などと思いながら見守っていると、ジルダが集まった魔術師たちに笑顔を見せた。
「さあ、始めるわよ。用意は良いわね?」
「はい、いつでも」
ユージィンが頷いた。ジルダはその返事を受けて頷くと、目を閉じて集中する。
「なっ……」
「これは……魔術刻印か!」
魔術師たちがどよめいた。無理もない。ジルダの肌には、葉脈のような模様が浮き上がり、そこをマテリアルが走って虹色に輝いている。人の域を超えそうな眺めだ。彼女を中心に発生した魔法陣はユージィンも範囲に収め……その瞬間、彼の魔力の強さが変わった。
「モア!?」
「これは一体……!? 会長の魔法陣が魔力を増幅しているのか?」
「この魔力ならいける! 嫉妬王を閉じ込めておくことができる! アメンスィの相方に不足はない!」
ユージィンもまた集中していた。彼の魔力が、結界内側を担当するアメンスィの魔力と呼応して、遺跡が覆われて行く。
「おお……!」
「すごい! これが『拒絶の部屋』……!」
ここに並ぶ者たちは皆、ヴィルジーリオも含めて魔術に造詣の深い者、魔術に興味のある者たちばかりだ。
だから皆、この結界が、魔術が、どれほどのものなのか、よくわかっている。喉から手が出るほど欲しい力だ。可能ならば自分だってやってみたい。ジルダにも教えて欲しいことが山ほどあった。ユージィンの魔力を増幅させるその魔術は何なのか、自分たちでも使えるものなのか……いや、恐らく後者については「No」だろう。あれはジルダでなければ使えまい。
「ヴィル」
魔術師たちが盛り上がっていると、アルトゥーロがそっと声を掛けた。
「どうした」
「アウグスタが向かってるみたいだ。出よう」
「わかった。すまない、ちょっと出る。モアと会長を頼む」
護衛の魔術師たちに離席を告げて、ヴィルジーリオは地上に戻った。
●ビスク・ガールVSゴースト・メン
そう言うことで、ヴィルジーリオとしてはここで気を逸らして、ユージィンたちの方に行かせないようにしないといけない。また刺されるかもしれないが、その時はその時だ。ある程度なら死なないことは身体で証明した。オフィスの彼に言ったら怒られそうなものだが。
マジックフライトによる飛行状態では命中に支障が出る。彼は地上に降りた。
「踏みつぶしてあげる!」
「やれるもんならやってみろ」
もちろん、ここでアウグスタを撃破できるとは思っていない。今日の目的は、あくまで嫉妬王の討伐。雑魚にかかずらっている暇はない。ひとまずはお帰り願おう。これで全力を出して、他の歪虚からユージィンたちを守り切れないという事態は避けたい。
「俺を殺せても他を殺せると思うなよ」
嫉妬歪虚アウグスタは、この日なんとなく嫌な予感がして大地の裂け目に向かっていた。足になるのは三メートルはあろうかと言う大きな金属製の蜘蛛だ。
「何だろう……すごーく嫌な予感がするわ……」
何も知らない人間からしたら、ただの厄災である蜘蛛だが、アウグスタには可愛い配下だ。主の命令に従って、一生懸命走ってゆくところなど、たいへん愛らしいではないか。
先日、アウグスタはリアルブルーから来たばかりのハンターをたぶらかして手駒にしようとしていた。しかしながら結果は失敗。あろうことか、そのハンターはこの蜘蛛の上で自分に向かってファイアーボールを放ったのだ!
爆風で吹き飛んだアウグスタは、蜘蛛に後を任せて逃走。態勢を立て直して、この日出てきたと言うわけだ。
(クラーレお兄様たちはどうしているのかしら)
可愛いお洋服に身を包んだ、愉快なお兄さんであるクラーレ・クラーラ(kz0225)は、アウグスタのやりたいことをよく聞いて人形を貸してくれるが、アウグスタに何かを要求したことはない。なので、アウグスタはクラーレたちが何を考えているのかさっぱりわからないのである。
災厄の十三魔でもあるカッツォ・ヴォイ(kz0224)。彼もまた、ハンターの前に姿を現しては騒ぎを起こしているようだが……また何か考えているのだろうか。
何故だろう、得体の知れない不安感があるのは。
「うーん、こう言うのを虫の知らせって言うのかしら……」
アウグスタが独りごちたその時、彼女の上に不自然な影が掛かった。なんだろう。大きな鳥かしら?
「その知らせてくれる虫も蜘蛛なのか?」
振り返ると同時に、赤い髪の男が皮肉っぽく尋ねた。持っているものに掴まって飛んでいる。彼は目が合うや、アウグスタにファイアーボールを放り込んだ。
間一髪だった。ファイアーボールを、蜘蛛が飛び退って回避する。
「な……! あなたは……!」
先日、件のハンターを連れ出すために、クラーレから借りた人形で滅多刺しにした筈の司祭だった。死んだと思ったのに……生きていたのか!
「何で生きてるの!? あんなに刺したのに……! 穴だらけにしてやったのに! 何で生きてるのよ! おかしいでしょ絶対!」
「俺だけで驚くな。前を見ろ」
「えっ、なに? なに?」
言われて、アウグスタは思わず前方を見る。そして彼女は目を丸くした。幽霊でも見たような顔、とでも言おうか。
亜麻色の髪をした司祭が、メイスを持ってこちらを見ている。他にもハンターがその周辺に並んでいた。
あの男だってこの前死に追いやった筈なのに!
「嘘でしょ!? あの人も殺した筈なのに! もしかして幽霊?」
「おあいにく様、生きてるよ。お前は詰めが甘すぎた。俺のことも彼のことも、生死を確認しなかったな? 殺すときはそこまで見届けるもんだぜ、お嬢さん。ハンターは皆そうしている。俺もだ」
「ストップ! ストーップ!!!」
アウグスタは手綱を引いた。蜘蛛は急停車する。キキッ、などと可愛い音ではない。ここで会話していたら相手の声が聞こえないような轟音だ。おまけに数メートル滑った。
「ここから先には行かせない。あんまり集まられちゃ都合が悪いもんでな。この前の言葉、そっくり返そう」
表情が微動だにしない。だが、彼の顔が動くなら、口角を上げて嫌みに笑っていただろう。
「お前にはここで死んでもらう」
「ご冗談!」
アウグスタは吠えた。
「その程度の人数で、私を殺せるなんて思わないことね! 私を殺したいなら戦車でも持ってきなさい! 馬がいっぱいついてるやつ!」
「馬が可哀想だな」
「何ですって!?」
アウグスタは男をキッとにらみつけた。向こうにいるハンターたちも次々こちらに向かってくる。
クラーレたちも気になるが、自分より遙かに強い眷属だ。簡単にやられたりはしないだろう。彼女は戦闘態勢に入った。
●拒絶の部屋
時間は少し遡る。
大地の裂け目、ラルヴァに続く地下遺跡の入り口で、ユージィン・モア(kz0221)とジルダ・アマート(kz0006)は結界の支度をしていた。そこにヴィルジーリオは同僚として、護衛として立ち会っている。
(しかしほんとにこの男、顔が良いな)
などと思いながら見守っていると、ジルダが集まった魔術師たちに笑顔を見せた。
「さあ、始めるわよ。用意は良いわね?」
「はい、いつでも」
ユージィンが頷いた。ジルダはその返事を受けて頷くと、目を閉じて集中する。
「なっ……」
「これは……魔術刻印か!」
魔術師たちがどよめいた。無理もない。ジルダの肌には、葉脈のような模様が浮き上がり、そこをマテリアルが走って虹色に輝いている。人の域を超えそうな眺めだ。彼女を中心に発生した魔法陣はユージィンも範囲に収め……その瞬間、彼の魔力の強さが変わった。
「モア!?」
「これは一体……!? 会長の魔法陣が魔力を増幅しているのか?」
「この魔力ならいける! 嫉妬王を閉じ込めておくことができる! アメンスィの相方に不足はない!」
ユージィンもまた集中していた。彼の魔力が、結界内側を担当するアメンスィの魔力と呼応して、遺跡が覆われて行く。
「おお……!」
「すごい! これが『拒絶の部屋』……!」
ここに並ぶ者たちは皆、ヴィルジーリオも含めて魔術に造詣の深い者、魔術に興味のある者たちばかりだ。
だから皆、この結界が、魔術が、どれほどのものなのか、よくわかっている。喉から手が出るほど欲しい力だ。可能ならば自分だってやってみたい。ジルダにも教えて欲しいことが山ほどあった。ユージィンの魔力を増幅させるその魔術は何なのか、自分たちでも使えるものなのか……いや、恐らく後者については「No」だろう。あれはジルダでなければ使えまい。
「ヴィル」
魔術師たちが盛り上がっていると、アルトゥーロがそっと声を掛けた。
「どうした」
「アウグスタが向かってるみたいだ。出よう」
「わかった。すまない、ちょっと出る。モアと会長を頼む」
護衛の魔術師たちに離席を告げて、ヴィルジーリオは地上に戻った。
●ビスク・ガールVSゴースト・メン
そう言うことで、ヴィルジーリオとしてはここで気を逸らして、ユージィンたちの方に行かせないようにしないといけない。また刺されるかもしれないが、その時はその時だ。ある程度なら死なないことは身体で証明した。オフィスの彼に言ったら怒られそうなものだが。
マジックフライトによる飛行状態では命中に支障が出る。彼は地上に降りた。
「踏みつぶしてあげる!」
「やれるもんならやってみろ」
もちろん、ここでアウグスタを撃破できるとは思っていない。今日の目的は、あくまで嫉妬王の討伐。雑魚にかかずらっている暇はない。ひとまずはお帰り願おう。これで全力を出して、他の歪虚からユージィンたちを守り切れないという事態は避けたい。
「俺を殺せても他を殺せると思うなよ」
リプレイ本文
●気が済むまでぶちのめせ
「見事に私の顔見知りが揃いましたね……よろしくお願いします」
ヴィルジーリオは集まった面々にそう言って頭を下げた。今日の彼は法衣でもなければライダースーツでもなく、ローブ姿。今日は魔術師協会から魔術師として来ている。
ちなみに、マリィア・バルデス(ka5848)に関しては、意識がある時にちゃんと対面するのはこれが初である。
「歩夢ってんだ。よろしくな」
歩夢(ka5975)はそう言って他の魔術師たちに笑顔を見せる。フランクな彼の態度に、魔術師たちも少し安心しているようだ。
拒絶の部屋が展開され、アルトゥーロがヴィルジーリオたちを呼びに来た。地上に戻る道すがら、レオーネ・ティラトーレ(ka7249)が小声で赤毛の魔術師に声を掛ける。
「ちょっと」
「どうした」
「刺されるつもりもないがもう一度言う」
彼はそう前置きをすると、視線を合わせて告げた。
「俺が新しい友へ心配という関心がないとでも? あるに決まってる」
ヴィルジーリオは片目をつぶって見せた。
「無理するなって?」
「そんなことは言わない。表情筋以外の筋肉は勤勉で不器用な、案外可愛げがある面白い友へ、自身を滅多刺しにした奴に対して手心を加えろなんて言うかよ」
「とんでもない言われようだな」
「病院に戻らないよう全力で援護するから、君は君自身の為にアレを思い切りぶちのめせ」
「また見舞いに来てくれるなら病院行きも悪くねぇ。まあそう言ってる場合でもないな。庭もあるし」
地上に出た。確かに、遠くから轟音とも呼べる金属音がしている。歩夢が地下へ続く道を振り返った。
「念のため、ここに地縛符を張っておこうと思うんだ」
「うん、それが良いかもしれない。通すつもりはもちろんないけど、対策はして損じゃないからね」
鞍馬 真(ka5819)が頷いた。今回の主眼はユージィンたちの護衛にある。彼自身、アウグスタを深追いするつもりはないが、しばらく懲りる程度のダメージは負わせたい。
「あと、五色光符陣で何人か巻き込むかもしれないが、これは敵にしか効果ないから驚かないでくれ」
「了解したよ」
「向こうは向こうでだいぶ背負ってるみたいだし、虫愛でるお姫様の相手くらいはしてあげようじゃないの」
歩夢は気楽な調子で、けれど油断は感じさせない表情で言った。
「さて、それで、どうするの? あの進行方向に立って止める、なんて言わないわよね?」
マリィアがヴィルジーリオを見る。魔術師は頷いた。
「ええ、飛んでちょっかい掛けてきます」
●開戦
「俺を殺せても他を殺せると思うなよ」
着地したヴィルジーリオが更に煽る。アウグスタは彼の言う「他」の面々をぐるりと見回した。知った顔もある。まず、レオン(ka5108)。まずい。あの人めちゃくちゃ狙いを逸らしてくる人じゃない。多分今回も同じ手を使ってくる筈。絶対あの赤毛の人をかばうんだから。
それから、イリアス(ka0789)。なんだかちょっぴり顔が険しい。せっかく可愛いのに、そんな怖い顔しなくても。
「どうしてあんな事を、なんて聞かないわ……きっとアウグスタさんからしたら、当然のことのはずだもの……仕方ないわよね」
「そうよ。仕方ないのよ」
イリアスの言葉に気を良くしたアウグスタは胸を張る。
「うん、この前、歌が嫌いになっちゃいそうって聞いたから、今日は歌は使わないつもりよ……」
うんうん。話のわかるお姉さんだ。
「けど、私もちょっとだけ、怒ってるからやれるだけの事はしに来たわ」
「……何で怒ってるの?」
「知人を刺されたら、普通は怒るもんだぜ、お嬢さん」
知らない、金髪のかっこいいお兄さんが真面目な顔つきで言う。
「友を滅多刺しにされて、笑っていると思うな」
「あら司祭さま、お友達ができたの?」
「お前と違って真っ当に人間関係を築けるもんでな。羨ましいか?」
「ええ、そうね。私は失敗したもの。妬ましいわ」
アウグスタは目を細めた。そして……。
「また会ったわね。真くん? そう呼ばれてたっけ」
アウグスタにとっては不倶戴天の天敵と呼んでも差し支えないハンターの一人だ。彼女の眉間の皺が深くなった。ハンサムなんだけどこの人と相性がものすごく悪いのはわかっている。容赦なく歌ってくるし、二本の剣を振り回して避けにくいったらありゃしないし。その他にも挙げたらキリがない。
「さてと、開戦となる訳だが覚悟はいいかい?」
初めて会う黒髪のお兄さんが言った。ちょっとワイルドな感じのイケメンである。その彼が、一歩踏み出したのが合図になった。真の歌う、星影の唄が響き渡る。アウグスタが短く叫んだ。
「魔術師が前衛に立って敵を煽るのは止めた方が良いんじゃないかしらね」
そう言って、ヴィルジーリオの前に出た茶髪のお姉さん。クール系の美人だが、手にかなりゴツい銃器を持っている。彼女はアウグスタを見上げると、目を細めた。
「そろそろ貴女も表舞台から消えても良いかもしれないわね、アウグスタ」
「ふんだ!」
アウグスタは手綱を引いた。その前に、真が立ち塞がる。
「きみの相手は私だ。余所見されたら寂しいじゃないか」
「良いわ! あなたの相手してあげる! 両手両脚をもいで、歌うしか能がないようにしてあげるから! ああ、でも手がなければその音が出る剣も使えないわね!」
アウグスタは吠えるように真に言い放つ。
「私は歌ってるときのあなたが一番嫌いよ!」
「そうかい」
歪虚に嫌われる歌と言うのは、ハンターとしての役目を果たせる歌である。真は苦笑した。
●激突
歩夢は一歩踏み出す際に禹歩を用いている。先手を取りやすくする魔法だ。居並ぶ小型蜘蛛を見て、
「数が多いね、減らしとこうか!」
そのまま彼は、五色光符陣を展開して蜘蛛を焼き払った。
イリアスが、マリィアが、天に向かって弓を、ライフルを撃ち放つ。イリアスのリトリビューションは強化術式・紫電を乗せたもので、回避が比較的難しいものになっている。小型のかなりの数が減らされた。
「きゃっ!」
アウグスタが蜘蛛の上で身を伏せた。降り注いだ光は大蜘蛛の動きを鈍らせる。アウグスタは猟撃士二人を睨んだ。
「もう! またこう言うことする……!」
「退場する気はなさそうね。だったら引きずり下ろすまでよ」
マリィアは装填しながら言い放った。
その間に、レオンがガウスジェイルを自分に掛ける。ヴィルジーリオがそれを見て、
「多分俺はもう狙われない。他の人を頼みたい」
ハンターたちは皆、彼女が殺し損ねた司祭二人に的が集中するのではないかと危惧していたが、その心配はなさそうだ。面識があり交戦したことがある他のハンターたちの方に強い感情があるのだろう。レオンはヴィルジーリオをかばうつもりだったが、彼が的にならないなら話は別だ。
「わかった。でも気をつけて」
「もちろんだ。ああ、そうだ」
ヴィルジーリオはストーンアーマーをレオンに纏わせた。回避が少々落ちる状態にはなるが、そもそもガウスジェイルで肩代わりするなら回避に意味はない。最初から受けるとわかっているレオンには有用だろう。
「さて、スケルツォはなしだ」
レオーネが慣れた手つきで光撃弾を装填する。小型蜘蛛の集団に向けてフォールシュートの弾幕を張った。着弾と同時にレーザー光が放出される。ブリキの蜘蛛に反射して、その一帯が明るく光った。
その、弾丸と矢の嵐の中を、真はアウグスタに向かって走った。アウグスタははっとして前を見る。彼が迫っているのを見て、ぎりりと奥歯を噛みしめた。
「アウグスタ──!」
真は二刀流で斬りかかった。すでに小蜘蛛は仲間の攻撃でかなりの数が減らされている。彼の接近を阻むものはない。
「う……うああああああああああッ!!!」
回避できない。逆上したアウグスタは手綱を引いた。蜘蛛が脚を上げて、真からの斬撃を受け止める。それでもしのぎきれない勢いは確実にダメージを与えたようだ。上がっていない脚の連結部分を器用に蹴って、真は着地する。レオンが駆けつけた。
「うわあああああ!!」
アウグスタの蜘蛛が真に向かって突進する。真はそれを軽く回避した。革靴が砂を踏む。慣性で後ろに滑りながら、真は体勢を立て直した。
「君はまだこんな事をしてるのか。アウグスタ」
レオンが静かに告げると、アウグスタは肩で息をしながらレオンを見下ろした。レオンとしても、今裂け目の中で行なわれている戦場に友人がいるから、そこへの横槍を入れさせるわけにはいかないのだ。
「ほら皆に呆れられてるぞ。考えないのは悩みがなさそうで結構だな」
魔術師がはやし立てる。イリアスが少し慌てた様子で、
「あっ、折角助かったんだからふたりとも無理しないでね! また頑張らせるつもり!?」
それを聞いて、ヴィルジーリオは気まずそうに目を逸らした。
●泥濘に落ちる
アウグスタは、逆上はしているがそれと同時に警戒もしているらしい。殺した筈の二人が生きているのもそうだが、真とレオンは何回も戦っている都合、威力と防御力は思い知っている。
「君が行くべき所へ行けるよう祈ろう」
アルトゥーロがメイスを掲げた。プルガトリオが、残った蜘蛛を始末に掛かる。
「おっと」
その範囲から漏れたものを、歩夢が日月護身剣で切り伏せた。アウグスタはそちらを見る。
手薄だ。
一人でも殴らないと気がすまない。良いわ。あの司祭さまとお兄さん、どちらかだけでも潰してあげる!
「歩夢!」
レオンが警戒を促した。ガウスジェイルで受けるには遠すぎる。歩夢は片目をつぶって見せた。
「当たるかな?」
リトリビューションが効いている。どんぶり勘定の狙いも災いしただろう。アウグスタの蜘蛛は歩夢に向かって飛びかかって……。
地縛符に着地した。
「あらっ?」
「馬鹿め。もっと頭の良い理由で掛かると思ったけどな」
そこに、ヴィルジーリオがファイアーボールを撃ち込んだ。爆発が起こる。
「ぎーっ!」
爆風の中で、一本一本脚を引き抜きながら、どうにか結界から逃れようとする。
「懲りないね、本当に」
レオンが走り込んだ。そのまま刺突一閃で刺し貫く。マリィアの支援射撃が飛来した。
同時に、真も二刀流で斬りかかった。走らなければソウルエッジが使えた。だが、釘付けにできるならまだチャンスはある。
そこに、猟撃士たちがリトリビューションとフォールシュートで援護した。雷撃弾が電撃を発する。
「ぐぬぬ」
アウグスタ本人に手持ちの武器はない。今までも使ったことはなかった。彼女ができる反撃と言えば、大蜘蛛の動く脚で蹴りを入れるくらいだ。しかしそれもリトリビューションのせいで動きが鈍い。歩夢に向ければレオンが引き受けてしのぎきってしまう。マリィアの妨害射撃も邪魔だった。
仲間が的に集まったのを見て、ヴィルジーリオはマジックアローに切り替えた。アルトゥーロも、フォースクラッシュで加勢する。歩夢が五枚の札で結界を張り、その中で光を放った。
「戦車並の火力があれば、きみを殺せるのかな?」
剣にマテリアルを纏わせながら真が尋ねる。アウグスタはふん、と鼻で笑い、
「それでやっとスタートラインよ!」
「とてもそうには見えないわね」
クイックリロードで装填を終えたマリィアがリトリビューションを放った。
「今日は、ちょっと怒ってるんだから……!」
イリアスも、赤い大弓をぎりりと引き絞って、空に放つ。
「ま、そう言うことだ。大人しく怒られてくれ」
レオーネもクイックリロードだ。次の特殊弾は爆裂弾である。炎が炸裂した。
「このぉ!」
「危ない! 下がって!」
アルトゥーロが鋭く叫ぶ。蜘蛛の攻撃を、レオンがガウスジェイルで引き受けた。激突と呼んで差し支えない音が轟いた。アルトゥーロがすかさずヒールを掛ける。
「えい! やったー! 抜けた!」
アウグスタの蜘蛛は、ようやく地縛符から抜け出した。ところどころ煤けたりへこんだり傷が付いている蜘蛛は、仁王立ちのようにハンターたちに向き直る。
「おっと」
歩夢が五色光符陣を張る。アウグスタは眩しさで身を竦めた。
「そこだ!」
レオンと真が打ちかかった。後ろで、銃器を使う二人が高速でリロードする金属音が響く。イリアスの弓がしなり、矢が空を切って鋭い音を立てた。それに続いて、二丁のライフルから連続で銃声が轟く。一拍置いて、矢と弾丸が襲った。
「ずるいずるいずるーい! 数の暴力じゃないのー!」
「どの口で言うんだお前。六百の蜘蛛で孤児院囲んだだろ」
ヴィルジーリオが眉を上げた。アウグスタは深く息を吸い込むと、
「うるさーい! 今日のところはこれくらいにしてやるんだからー! 次は多分強くなって来るんだからー!!!」
「多分て」
「アウグスタ、君は」
アルトゥーロが言い募ろうとするのを、きっと睨みつける。
「あなたがどこの誰だか知らないけど、私はあなたなんか知らないっ! どーせエクラのおみちびきでどうのこうのとか言うんでしょ! 余計なお世話!」
確かに、二十代後半のアルトゥーロを知っている筈もない。どこまで生前の記憶があるかは謎だが、彼女が知っているとしたら七歳の彼だろう。
「覚えてなさいよー!」
それだけ喚くと、彼女は蜘蛛を全速力で走らせてその場から逃走した。
●無事を祈る
「ところで、ヴィルジーリオ」
アウグスタが戻って来なさそうなのを見て、全員が息を吐く。束の間の休息の最中、マリィアがヴィルジーリオに声を掛けた。
「なんですか?」
「貴方はアウグスタが憎いのかしら」
「あー……そうですね、エクラ教司祭でもありますし、歪虚ですからそりゃ憎いです。ですが、あなたのご質問の意図は別にありますね。私を刺したことに対してでしょう。それならどちらかと言うと、私も怒ってる、と言うことになります。アルトゥーロを襲ったことに対しても」
彼はイリアスをちらりと見た。エルフの女性は少し考え込んでいる風で、ヴィルジーリオの視線に気付かなかったようだ。恐らく、アウグスタとの決着について悩んでいるのだろう。
「そう」
「ご納得頂けましたか? とは言え、私もこれが正直なところです」
「いえ、興味本位だから良いのよ」
マリィアは首を横に振る。レオーネが肩を竦めた。
「気は済んだか?」
「ええ」
魔術師はこっくりと頷いた。
「私個人の気は済みました。ですが、エクラ教司祭として、ハンターとしてはまだ終わってませんね」
言いながら、大地の裂け目を見やる。
ひとまず、アウグスタと蜘蛛たちがユージィンたちのところになだれ込むのは防いだ。
「ひとまずはお疲れ様でした。だが、下の戦いは終わっていません。アウグスタ以外にも来るかもしれない……警戒に戻りましょう」
あと、自分たちにできることは、祈ることだけ。
自由都市同盟に平和が戻ることを。
かけがえのない友たちが、無事に戻って来ることを。
「見事に私の顔見知りが揃いましたね……よろしくお願いします」
ヴィルジーリオは集まった面々にそう言って頭を下げた。今日の彼は法衣でもなければライダースーツでもなく、ローブ姿。今日は魔術師協会から魔術師として来ている。
ちなみに、マリィア・バルデス(ka5848)に関しては、意識がある時にちゃんと対面するのはこれが初である。
「歩夢ってんだ。よろしくな」
歩夢(ka5975)はそう言って他の魔術師たちに笑顔を見せる。フランクな彼の態度に、魔術師たちも少し安心しているようだ。
拒絶の部屋が展開され、アルトゥーロがヴィルジーリオたちを呼びに来た。地上に戻る道すがら、レオーネ・ティラトーレ(ka7249)が小声で赤毛の魔術師に声を掛ける。
「ちょっと」
「どうした」
「刺されるつもりもないがもう一度言う」
彼はそう前置きをすると、視線を合わせて告げた。
「俺が新しい友へ心配という関心がないとでも? あるに決まってる」
ヴィルジーリオは片目をつぶって見せた。
「無理するなって?」
「そんなことは言わない。表情筋以外の筋肉は勤勉で不器用な、案外可愛げがある面白い友へ、自身を滅多刺しにした奴に対して手心を加えろなんて言うかよ」
「とんでもない言われようだな」
「病院に戻らないよう全力で援護するから、君は君自身の為にアレを思い切りぶちのめせ」
「また見舞いに来てくれるなら病院行きも悪くねぇ。まあそう言ってる場合でもないな。庭もあるし」
地上に出た。確かに、遠くから轟音とも呼べる金属音がしている。歩夢が地下へ続く道を振り返った。
「念のため、ここに地縛符を張っておこうと思うんだ」
「うん、それが良いかもしれない。通すつもりはもちろんないけど、対策はして損じゃないからね」
鞍馬 真(ka5819)が頷いた。今回の主眼はユージィンたちの護衛にある。彼自身、アウグスタを深追いするつもりはないが、しばらく懲りる程度のダメージは負わせたい。
「あと、五色光符陣で何人か巻き込むかもしれないが、これは敵にしか効果ないから驚かないでくれ」
「了解したよ」
「向こうは向こうでだいぶ背負ってるみたいだし、虫愛でるお姫様の相手くらいはしてあげようじゃないの」
歩夢は気楽な調子で、けれど油断は感じさせない表情で言った。
「さて、それで、どうするの? あの進行方向に立って止める、なんて言わないわよね?」
マリィアがヴィルジーリオを見る。魔術師は頷いた。
「ええ、飛んでちょっかい掛けてきます」
●開戦
「俺を殺せても他を殺せると思うなよ」
着地したヴィルジーリオが更に煽る。アウグスタは彼の言う「他」の面々をぐるりと見回した。知った顔もある。まず、レオン(ka5108)。まずい。あの人めちゃくちゃ狙いを逸らしてくる人じゃない。多分今回も同じ手を使ってくる筈。絶対あの赤毛の人をかばうんだから。
それから、イリアス(ka0789)。なんだかちょっぴり顔が険しい。せっかく可愛いのに、そんな怖い顔しなくても。
「どうしてあんな事を、なんて聞かないわ……きっとアウグスタさんからしたら、当然のことのはずだもの……仕方ないわよね」
「そうよ。仕方ないのよ」
イリアスの言葉に気を良くしたアウグスタは胸を張る。
「うん、この前、歌が嫌いになっちゃいそうって聞いたから、今日は歌は使わないつもりよ……」
うんうん。話のわかるお姉さんだ。
「けど、私もちょっとだけ、怒ってるからやれるだけの事はしに来たわ」
「……何で怒ってるの?」
「知人を刺されたら、普通は怒るもんだぜ、お嬢さん」
知らない、金髪のかっこいいお兄さんが真面目な顔つきで言う。
「友を滅多刺しにされて、笑っていると思うな」
「あら司祭さま、お友達ができたの?」
「お前と違って真っ当に人間関係を築けるもんでな。羨ましいか?」
「ええ、そうね。私は失敗したもの。妬ましいわ」
アウグスタは目を細めた。そして……。
「また会ったわね。真くん? そう呼ばれてたっけ」
アウグスタにとっては不倶戴天の天敵と呼んでも差し支えないハンターの一人だ。彼女の眉間の皺が深くなった。ハンサムなんだけどこの人と相性がものすごく悪いのはわかっている。容赦なく歌ってくるし、二本の剣を振り回して避けにくいったらありゃしないし。その他にも挙げたらキリがない。
「さてと、開戦となる訳だが覚悟はいいかい?」
初めて会う黒髪のお兄さんが言った。ちょっとワイルドな感じのイケメンである。その彼が、一歩踏み出したのが合図になった。真の歌う、星影の唄が響き渡る。アウグスタが短く叫んだ。
「魔術師が前衛に立って敵を煽るのは止めた方が良いんじゃないかしらね」
そう言って、ヴィルジーリオの前に出た茶髪のお姉さん。クール系の美人だが、手にかなりゴツい銃器を持っている。彼女はアウグスタを見上げると、目を細めた。
「そろそろ貴女も表舞台から消えても良いかもしれないわね、アウグスタ」
「ふんだ!」
アウグスタは手綱を引いた。その前に、真が立ち塞がる。
「きみの相手は私だ。余所見されたら寂しいじゃないか」
「良いわ! あなたの相手してあげる! 両手両脚をもいで、歌うしか能がないようにしてあげるから! ああ、でも手がなければその音が出る剣も使えないわね!」
アウグスタは吠えるように真に言い放つ。
「私は歌ってるときのあなたが一番嫌いよ!」
「そうかい」
歪虚に嫌われる歌と言うのは、ハンターとしての役目を果たせる歌である。真は苦笑した。
●激突
歩夢は一歩踏み出す際に禹歩を用いている。先手を取りやすくする魔法だ。居並ぶ小型蜘蛛を見て、
「数が多いね、減らしとこうか!」
そのまま彼は、五色光符陣を展開して蜘蛛を焼き払った。
イリアスが、マリィアが、天に向かって弓を、ライフルを撃ち放つ。イリアスのリトリビューションは強化術式・紫電を乗せたもので、回避が比較的難しいものになっている。小型のかなりの数が減らされた。
「きゃっ!」
アウグスタが蜘蛛の上で身を伏せた。降り注いだ光は大蜘蛛の動きを鈍らせる。アウグスタは猟撃士二人を睨んだ。
「もう! またこう言うことする……!」
「退場する気はなさそうね。だったら引きずり下ろすまでよ」
マリィアは装填しながら言い放った。
その間に、レオンがガウスジェイルを自分に掛ける。ヴィルジーリオがそれを見て、
「多分俺はもう狙われない。他の人を頼みたい」
ハンターたちは皆、彼女が殺し損ねた司祭二人に的が集中するのではないかと危惧していたが、その心配はなさそうだ。面識があり交戦したことがある他のハンターたちの方に強い感情があるのだろう。レオンはヴィルジーリオをかばうつもりだったが、彼が的にならないなら話は別だ。
「わかった。でも気をつけて」
「もちろんだ。ああ、そうだ」
ヴィルジーリオはストーンアーマーをレオンに纏わせた。回避が少々落ちる状態にはなるが、そもそもガウスジェイルで肩代わりするなら回避に意味はない。最初から受けるとわかっているレオンには有用だろう。
「さて、スケルツォはなしだ」
レオーネが慣れた手つきで光撃弾を装填する。小型蜘蛛の集団に向けてフォールシュートの弾幕を張った。着弾と同時にレーザー光が放出される。ブリキの蜘蛛に反射して、その一帯が明るく光った。
その、弾丸と矢の嵐の中を、真はアウグスタに向かって走った。アウグスタははっとして前を見る。彼が迫っているのを見て、ぎりりと奥歯を噛みしめた。
「アウグスタ──!」
真は二刀流で斬りかかった。すでに小蜘蛛は仲間の攻撃でかなりの数が減らされている。彼の接近を阻むものはない。
「う……うああああああああああッ!!!」
回避できない。逆上したアウグスタは手綱を引いた。蜘蛛が脚を上げて、真からの斬撃を受け止める。それでもしのぎきれない勢いは確実にダメージを与えたようだ。上がっていない脚の連結部分を器用に蹴って、真は着地する。レオンが駆けつけた。
「うわあああああ!!」
アウグスタの蜘蛛が真に向かって突進する。真はそれを軽く回避した。革靴が砂を踏む。慣性で後ろに滑りながら、真は体勢を立て直した。
「君はまだこんな事をしてるのか。アウグスタ」
レオンが静かに告げると、アウグスタは肩で息をしながらレオンを見下ろした。レオンとしても、今裂け目の中で行なわれている戦場に友人がいるから、そこへの横槍を入れさせるわけにはいかないのだ。
「ほら皆に呆れられてるぞ。考えないのは悩みがなさそうで結構だな」
魔術師がはやし立てる。イリアスが少し慌てた様子で、
「あっ、折角助かったんだからふたりとも無理しないでね! また頑張らせるつもり!?」
それを聞いて、ヴィルジーリオは気まずそうに目を逸らした。
●泥濘に落ちる
アウグスタは、逆上はしているがそれと同時に警戒もしているらしい。殺した筈の二人が生きているのもそうだが、真とレオンは何回も戦っている都合、威力と防御力は思い知っている。
「君が行くべき所へ行けるよう祈ろう」
アルトゥーロがメイスを掲げた。プルガトリオが、残った蜘蛛を始末に掛かる。
「おっと」
その範囲から漏れたものを、歩夢が日月護身剣で切り伏せた。アウグスタはそちらを見る。
手薄だ。
一人でも殴らないと気がすまない。良いわ。あの司祭さまとお兄さん、どちらかだけでも潰してあげる!
「歩夢!」
レオンが警戒を促した。ガウスジェイルで受けるには遠すぎる。歩夢は片目をつぶって見せた。
「当たるかな?」
リトリビューションが効いている。どんぶり勘定の狙いも災いしただろう。アウグスタの蜘蛛は歩夢に向かって飛びかかって……。
地縛符に着地した。
「あらっ?」
「馬鹿め。もっと頭の良い理由で掛かると思ったけどな」
そこに、ヴィルジーリオがファイアーボールを撃ち込んだ。爆発が起こる。
「ぎーっ!」
爆風の中で、一本一本脚を引き抜きながら、どうにか結界から逃れようとする。
「懲りないね、本当に」
レオンが走り込んだ。そのまま刺突一閃で刺し貫く。マリィアの支援射撃が飛来した。
同時に、真も二刀流で斬りかかった。走らなければソウルエッジが使えた。だが、釘付けにできるならまだチャンスはある。
そこに、猟撃士たちがリトリビューションとフォールシュートで援護した。雷撃弾が電撃を発する。
「ぐぬぬ」
アウグスタ本人に手持ちの武器はない。今までも使ったことはなかった。彼女ができる反撃と言えば、大蜘蛛の動く脚で蹴りを入れるくらいだ。しかしそれもリトリビューションのせいで動きが鈍い。歩夢に向ければレオンが引き受けてしのぎきってしまう。マリィアの妨害射撃も邪魔だった。
仲間が的に集まったのを見て、ヴィルジーリオはマジックアローに切り替えた。アルトゥーロも、フォースクラッシュで加勢する。歩夢が五枚の札で結界を張り、その中で光を放った。
「戦車並の火力があれば、きみを殺せるのかな?」
剣にマテリアルを纏わせながら真が尋ねる。アウグスタはふん、と鼻で笑い、
「それでやっとスタートラインよ!」
「とてもそうには見えないわね」
クイックリロードで装填を終えたマリィアがリトリビューションを放った。
「今日は、ちょっと怒ってるんだから……!」
イリアスも、赤い大弓をぎりりと引き絞って、空に放つ。
「ま、そう言うことだ。大人しく怒られてくれ」
レオーネもクイックリロードだ。次の特殊弾は爆裂弾である。炎が炸裂した。
「このぉ!」
「危ない! 下がって!」
アルトゥーロが鋭く叫ぶ。蜘蛛の攻撃を、レオンがガウスジェイルで引き受けた。激突と呼んで差し支えない音が轟いた。アルトゥーロがすかさずヒールを掛ける。
「えい! やったー! 抜けた!」
アウグスタの蜘蛛は、ようやく地縛符から抜け出した。ところどころ煤けたりへこんだり傷が付いている蜘蛛は、仁王立ちのようにハンターたちに向き直る。
「おっと」
歩夢が五色光符陣を張る。アウグスタは眩しさで身を竦めた。
「そこだ!」
レオンと真が打ちかかった。後ろで、銃器を使う二人が高速でリロードする金属音が響く。イリアスの弓がしなり、矢が空を切って鋭い音を立てた。それに続いて、二丁のライフルから連続で銃声が轟く。一拍置いて、矢と弾丸が襲った。
「ずるいずるいずるーい! 数の暴力じゃないのー!」
「どの口で言うんだお前。六百の蜘蛛で孤児院囲んだだろ」
ヴィルジーリオが眉を上げた。アウグスタは深く息を吸い込むと、
「うるさーい! 今日のところはこれくらいにしてやるんだからー! 次は多分強くなって来るんだからー!!!」
「多分て」
「アウグスタ、君は」
アルトゥーロが言い募ろうとするのを、きっと睨みつける。
「あなたがどこの誰だか知らないけど、私はあなたなんか知らないっ! どーせエクラのおみちびきでどうのこうのとか言うんでしょ! 余計なお世話!」
確かに、二十代後半のアルトゥーロを知っている筈もない。どこまで生前の記憶があるかは謎だが、彼女が知っているとしたら七歳の彼だろう。
「覚えてなさいよー!」
それだけ喚くと、彼女は蜘蛛を全速力で走らせてその場から逃走した。
●無事を祈る
「ところで、ヴィルジーリオ」
アウグスタが戻って来なさそうなのを見て、全員が息を吐く。束の間の休息の最中、マリィアがヴィルジーリオに声を掛けた。
「なんですか?」
「貴方はアウグスタが憎いのかしら」
「あー……そうですね、エクラ教司祭でもありますし、歪虚ですからそりゃ憎いです。ですが、あなたのご質問の意図は別にありますね。私を刺したことに対してでしょう。それならどちらかと言うと、私も怒ってる、と言うことになります。アルトゥーロを襲ったことに対しても」
彼はイリアスをちらりと見た。エルフの女性は少し考え込んでいる風で、ヴィルジーリオの視線に気付かなかったようだ。恐らく、アウグスタとの決着について悩んでいるのだろう。
「そう」
「ご納得頂けましたか? とは言え、私もこれが正直なところです」
「いえ、興味本位だから良いのよ」
マリィアは首を横に振る。レオーネが肩を竦めた。
「気は済んだか?」
「ええ」
魔術師はこっくりと頷いた。
「私個人の気は済みました。ですが、エクラ教司祭として、ハンターとしてはまだ終わってませんね」
言いながら、大地の裂け目を見やる。
ひとまず、アウグスタと蜘蛛たちがユージィンたちのところになだれ込むのは防いだ。
「ひとまずはお疲れ様でした。だが、下の戦いは終わっていません。アウグスタ以外にも来るかもしれない……警戒に戻りましょう」
あと、自分たちにできることは、祈ることだけ。
自由都市同盟に平和が戻ることを。
かけがえのない友たちが、無事に戻って来ることを。
依頼結果
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/03/28 00:21:49 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/24 21:20:48 |