• 幻想

【幻想】人生は願望だ、意味じゃない

マスター:近藤豊

シナリオ形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/04/16 22:00
完成日
2019/04/22 16:21

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 緊張が続く辺境であったが、一部ではあるがその緊張と無縁の者達がいた。
「なんだい、退屈だねぇ。
 あのオーロラって娘も最近みたいけど、どうしたのかねぇ」
 怠惰王のアジトでソファに乗ってくつろぐのはトーチカ・J・ラロッカ。
 部族会議と怠惰王が辺境の地で激突する状況にも関わらず、トーチカ一味は暢気に時間を持て余していた。
「やーねぇ、姐さん。はしたない」
「それよりあんたの調べた例の話。どうなんだい?」
 部下のモルッキーへトーチカは頼んでいた話を確認する。
 例の話とはハンターから入手した『ビックマーが青木によって殺された』という情報である。それが真実ならばビックマーに信頼を寄せるトーチカにとって大きな事件だ。「それがもうさっぱり。本当なのかしらねぇ」
「そうなのかい? こりゃハンターに一杯食わされたかねぇ」
「姐さんっ、大変でおます!」
 もう一つの部下であるセルトポが駆け込んできた。
 異様に息を切らせている事から余程慌てていると見える。
「あんたが走り込んできたから埃が立ったじゃないさ」
「それより大変でおます! さっき聞いたでおますが……あのオーロラって娘が、怠惰王だったでおます」
「な、なんだってー!?」
 衝撃を受けるトーチカとモルッキー。
 既にハンターどころか部族会議やその辺の戦士でも知っている事実を、今更聞かされて驚いている。
「そそそそ、そんな事が、ある訳ないじゃないのさ。……モルッキー、あんた震えてるのかい?」
「あ、姐さんだって煙管を持つ手が、ふ、震えているわよ」
 俄に信じられない衝撃。
 しかし、セルトポから追加の情報が語られる。
「それから姐さん、どうやら東の方でハンターが大勢戦う準備をしているでおます」
「ふぅん」
 トーチカは煙管に口を付けて、そっと吐き出した。
 青木の疑いが晴れた訳じゃない。
 仮にオーロラが怠惰王だとしてもトーチカは認めていない。それに青木のビックマー殺しには何らかの処罰を加えなければ気が済まない。
「ここはあたし達が横から乱入して叩く作戦がいいんじゃないかい?」
「さすがは姐さん。悪巧みはグンバツね。
 それならちょうどあたしが作り上げた『ビックリ歪虚メカ』が完成したばかりなの」
 トーチカの発案にモルッキーの賛成のようだ。
 ノッポモグラのモルッキーは、メカニック方面にはかなり明るい。実は辺境ドワーフの技術を盗み取る事に成功。その技術を歪虚CAMへ流用する事で今回大型のメカを三機も製造する事ができていたのだ。
「姐さん! 行くしかないでおます」
「そうだね。ここはあたし達トーチカ一味の出番だね。行くよ、あんた達!」
「えらほらさっさー!」
 トーチカに呼び掛けに二人は呼応。
 馬鹿は余計な時に瞬発力を持って行動を開始する――。


「アフンルパルの大木周辺にハンターを展開。北からの進軍の対応をお願いします」
 内部へ潜入したバタルトゥ達の退路を守る役目を負ったのは、部族会議大首長補佐のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)であった。
 怠惰王を追って部族会議とハンターが次元の狭間『アフンルパル』へ向かった状況を敵が見逃すはずがない。うまくいけばアフンルパルへ部族会議を封じ込める事ができるかもしれない。
 ヴェルナーはこの展開を予想してアフンルパル内部で結界を形成する想を守り、退路を確保する役目を担っていた。
「敵部隊、来ます!」
 部下の報告を受け北へ目を向けるヴェルナー。
 そこには近代兵器に身を包んだ多数の巨人達とハンターが交戦していた。
 『錬金の到達者』コーリアス(kz0245)が残した技術を巨人達は自らの武装強化へと繋げた。巨人用のアサルトライフルやショットガン、グレネードランチャーを装備。アーマーを身に纏って突撃する様は脅威と言って差し支えない。
「敵を木へ近付けないように。ここを墜とされれば、想の身にも危険が及びます。そうなれば怠惰王と対峙するバタルトゥさん達の身も危うくなります」
 ヴェルナーは退路の維持に奮戦していた。
 仮に大木を破壊されれば、入り口で結界を張り続ける想も負傷。それは怠惰王と戦うバタルトゥ達の身を危険に晒す事になる。
「ハンターと敵先陣が交戦を開始。侵攻を食い止めています」
「……ヴェルナー様! 西から敵影らしきものを確認!」
 別の斥候からもたらされる情報。
 それは北からの巨人部隊とは別に西の方角から一風変わった歪虚CAMが接近しているというものであった。数は少ないが、鳥のような機体や戦車のような形の機体まである。
「敵である可能性が高い以上、対応せざるを得ません。ハンターの皆さんに情報展開をお願いします」
 素早く西側の存在をハンターへ通知するヴェルナー。
 一方、早くも発見された西側の機体には――。
「モルッキー、やるじゃないのさ。見直したよ」
 飛行機型歪虚CAM『トーチカウィング』に乗り込むトーチカ・J・ラロッカは、上空からの景色を満喫していた。
「トーチカウィングは地上に向けて焼夷弾をバラ撒く優れものよ。ハンターの頭に降らせると効果的よー」
「セルトポブルもカッコイイでおます。風が頬に当たって気持ちいいでおますー」
 トーチカの真下、地上にはセルトポが乗るブルドーザー型歪虚CAM『セルトポブル』は眼前の敵を地面ごと押し出すパワーと装甲が自慢だ。
「そして、このあたくしのホバークラフト型歪虚CAM『モルッキージェット』。ホバーで地面から浮いて、360度にバルカンを発射可能な動く要塞よー」
「カッコイイでおます!」
 ヴェルナーが警戒していた西側の敵とは事情をまったく知らないトーチカ一味であった。ハンターが戦っているならビックマーを殺した青木もいるんじゃないかと適当な推理でここまでやってきたという訳だ。
「あ、姐さん。もうハンター達が戦っているでおます。相手は巨人みたいでおますが……どうします?」
 セルトポの報告。
 ここでトーチカは軽い頭を必死にフル回転させる。
 あの巨人は誰が呼んだ?
 認めていない怠惰王のオーロラか?
 いや、もしかしたらビックマーの仇である青木の仕業? ……そうか、あの巨人は青木の差し金。だったら、容赦する必要はなしっ!
「お前達、あの巨人諸共ハンター達をやっておしまいっ!」
「え。味方も攻撃するんでおますか?」
「馬鹿だね。あれは青木の味方だよ。青木を味方するなら、あたし達の敵じゃないのさ」
「あ、そうでおますね」
 頭まで筋肉のセルトポはあっさりと納得。
 その傍らでモルッキーはニヤリと怪しく微笑んだ。
「大丈夫よん。このビックリ歪虚メカには対ハンター用にドッキリな仕掛けがあるんだから。邪魔する巨人も一気にやっつけられるわ」
 自慢げなモルッキー。
 このトーチカ一味が、外部の戦線をさらに混乱へと引き込んでいく。
「さぁ、お前達! 一気に畳み掛けるよ!」
「えらほらさっさー!」

リプレイ本文

「ハンターの皆さん。アフンルパルへ突入した方々の為にも、この大樹は絶対死守をお願い致します」
 部族会議大首長補佐役のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、念を押すようにそう指示を出してきた。
 次元の狭間『アフンルパル』。
 四大精霊の一人イクタサ(kz0246)が生み出したこの場所に、怠惰王オーロラを一時的に封じ込める事に成功した。しかし、強大な負のマテリアルを垂れ流すオーロラの力を完全に封じ込める事が難しいと分かった部族会議は、古代文明の技術で製造された対ニガヨモギ用オートマタの想と共に怠惰王討伐戦を挑む事となった。
 ヴェルナーは怠惰王討伐成功を祈りながら、退路を確保すべく怠惰眷属の歪虚と戦闘を開始していた。
「Crepusculumの初陣には悪くない相手よね」
 マリィア・バルデス(ka5848)は、新たなる相棒である刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」『Crepusculum』と共に大樹の北へ布陣していた。
 立ち向かう相手は、元怠惰王ビックマーと共に押し寄せていた武装巨人。
 CAMのように近代兵器に身を固めた巨人達の猛攻を、マリィアは体を張って止めようとしていた。
「12時方向、敵を確認……本当、馬鹿正直に来るのね。あいつなら、きっと砲撃でご挨拶ってところかしら」
 Crepusculumの肩部分に搭載されたプラズマキャノン「ヴァレリフラッペ」を機体全方へ向ける。
 照準を素早く合わせ、最前面の敵を見据える。
 躊躇無く引き金を引くマリィア。
 射程を重視する引き換えに重量と命中率の悪さは噂に聞いていた。それでも敵の侵攻を挫けるならばそれでも構わない。
 迸るエネルギーが盾を持ったサイクロプスへヒット。
 だが――。
「直撃じゃない。それでも……!」
 マリィアは素早くリロードを終えて次の獲物を探し始める。
 重要な事は少しでも足を止める事。
 大樹を攻撃されれば、開いた門が閉じる恐れもある。
 入り口で結界をコントロールする想に影響があるからだ。
 仲間達が帰還する為の道、必ず守らなければ。
「バタルトゥさん、わたくしも守ります。この赤き大地の未来を」
 エステル・ソル(ka3983)は、少し離れた場所に符陣した。
 北から攻め寄る巨人達の群れが少しでも見渡せる場所を探したからだ。
 錬金杖「ヴァイザースタッフ」を左右に振った後、前へと突き出した。
 集中力を高めながら、狙った場所を見据える。
 こうしている間にも、アフンルパル内部で怠惰王を追い詰める為に戦う大首長バタルトゥ・オイマト(kz0023)。怠惰王を倒しても辺境の地から完全に歪虚が消える訳ではない。だが、辺境の未来を信じて戦うバタルトゥを前に、エステルは微力ながらも手を貸したかった。
「蒼穹の祈り……光を灯し、天を駆ける」
 エステルの頭上に現れる三つの火球。
 それが次々と巨人達の頭上へ降り注ぐ。爆散して広範囲を破棄払う蒼燐華が、巨人の侵攻を食い止める。
 しかし、それでも巨人の群れは歩みを止めない。
 アフンルパルの大樹へ向かって突き進む。
 ならば――。
「未来を信じて戦う人々を守る為、わたくしも戦いましょう」
 再びヴァイザースタッフを掲げるエステル。
 あの人の帰還を信じ、今は眼前の敵を食い止める事に集中する。
「巨人達はここで食い止めて見せる! 頑張るぞ、マッチョメン!」
 巨人達の進軍を前に、テンシ・アガート(ka0589)は、魔導アーマー量産型『マッチョメン』と共に対峙する。
 可変機銃「ポレモスSGS」を盾状態にして大樹を守る壁となる。
 進軍路を塞ぐマッチョメンに対してアサルトライフルを持ったサイクロプスが銃撃を仕掛ける。
 盾越しでもマッチョメンの腕に伝わる振動。
 それでもテンシとマッチョメンは防衛姿勢を崩さない。自分に攻撃が向いている間、大樹にも仲間にも攻撃は仕掛けられない。ここで攻撃を耐える間、仲間が必ず巨人へ攻撃してくれる。
 それを信じて、テンシはマッチョメンと共に立ち続ける。
「マッチョメン、耐えてくれよ。ここで踏ん張れば……ここで戦う仲間も、アフンルパルで戦う仲間も、きっと守れるから」
 テンシはマッチョメンを励ますように呟く。
 開かれた戦端を前に、ハンター達はそれぞれの覚悟で臨んでいた。


 話は少しばかり遡る。
 北から進軍する巨人達の群れに対し、ハンターと迎撃するヴェルナー。
 巨人も猛攻は激しく、ハンター達も最前線で戦っているのだが、ここに来て思わぬ敵が登場する。
「……西から歪虚CAM、ですか」
 歪虚CAMと表現しているが、正確には正体不明の機体が三機。大樹に向けて進んでくるという。それに対して――。
「大丈夫っす」
 神楽(ka2032)は自信ありげに言い放った。
 神楽は既に接近する機体の正体に心当たりがあった。
「愛しのハニーがやってきたっすよ」
「ハニー?」
 笑顔のまま問いかけるヴェルナー。
 神楽は胸を叩いて答える。
「ハニー。トーチカ・J・ラロッカとその一味に違いないっす」
 トーチカ一味は怠惰眷属であるが、他の歪虚と大きく異なるのは残念過ぎる頭脳である。
 様々な失敗と勘違いを繰り返してハンターと対峙してきたトーチカであるが故に一部のハンターと奇妙な関係を築いていた。
「歪虚を愛しのハニーですか」
「今まで何度も顔を合わせているっすから、うまくいけば停戦する事もできるっすよ」
 トーチカ一味が接近する理由は不明だが、ハンターと交戦する意志を持っている事は予想される。
 部族会議側としては北の巨人に意識を集中させる為にはトーチカとの交戦を避けたい。可能であれば共闘して巨人と戦えれば最高だ。巨人との戦いに役立つかは不明だが、トーチカ達が戦えば弾丸の節約ぐらいにはなるだろう。
「案ずるな。説得が失敗したならば、妾が再びお仕置きするまでじゃ」
 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、にっこりと笑顔を浮かべる。
 トーチカにお灸を据えた事のある経験を持つルージュ。説得が不調に終わるならば、やる事は一つ。今回も容赦なくトーチカを攻め立てるだけである。
「ふふ、説得が失敗しても時間を稼ぐ事で北の巨人に対応できます。説得はお任せします」
 ヴェルナーはトーチカの対応をハンター達へ一任した。
 今、重要な事は大樹を守り、戦う者達の退路を確保する事。その為には打てる手は可能な限り打っておきたい。
 そう考えながら、ヴェルナーは踵を返した。


「ここにきて敵の増援か。だが、今為すべき事は変わらない」
 ロニ・カルディス(ka0551)のR7エクスシア『清廉号』で前に出る。
 ビームキャノン「プリマーヤ」の射程まで移動。進軍する巨人の群れを迎撃する為だ。
 トランシーバーで敵の増援と思しきトーチカ一味について情報を受けている。
 思わぬ伏兵ではあるが、仲間が対応に動いているが――。
(交渉がうまく行けばいいが、万一の場合は……)
 ロニは今一度周辺の戦況を整理する。
 北から攻め寄るのが怠惰眷属である武装巨人。大樹に向かって攻勢を仕掛けており、これはロニが正面から迎撃を行っている。
 トーチカ一味は西側から現れた。現時点で仲間が説得へ赴いているが、説得が不調に終わればハンター達は二方面戦線を維持する事になる。ハンター達としてもこの状況は避けたい。
 交渉を長引かせている間に武装巨人を駆逐。もしくはトーチカと共闘もしくは停戦する事で戦力を武装巨人へ集中させるのがベストだ。
「そこまで交渉がうまく進む保証はない。どのみち、俺にはこれしかできん」
 清廉号は腰を沈めてショック体勢を取る。
 プリマーヤに流れ込むマテリアル。衝撃と共に銃口から放たれる紫色の光線。
 一直線に伸びた紫の光が、ショットガンを持って滑り込むオーガへヒットした。体を地面へ横たえるオーガだが、その体を踏み越えるように後方の巨人達が進軍を続ける。
「何体でも来い。倒しに行く手間が省ける」
 清廉号のマジックエンハンサーが展開し、魔導エンジンの出力が上昇。
 ロニは巨人の群れを前に更なる一歩を歩み出した。

「アフンルパル……あの大樹の向こうで辺境の未来を救う為に戦ってる。
 体を、命を賭けて戦って。だったら、それに答える戦いをここでするのが今の役目」
 百鬼 一夏(ka7308)もまた死闘を繰り広げる仲間達の為、この戦場に赴いていた。
 コンフェッサー『ホットリップス』と共に巨人と対峙する光景は、正直圧倒される。だが、ここで気圧される訳にはいかない。
「守りましょう! 仲間が帰ってくる場所を!」
 一夏はまったく臆していなかった。
 むしろ、この状況を楽しんでさえいた。
 きっとアフンルパルのゲートから見知った仲間達が、笑顔で帰ってくる。その道を守るのが一夏の為すべき事だ。
「行くよ……ホットリップス!」
 自らの手足となったホットリップスが構えるPGシールド「ヴェラッシング」。
 そこに隠されたグレネード射出口を攻め寄る巨人達へと差し向けた。
 次々と打ち出されるグレネード。地面に何度かバウンドしたグレネードは、数回後に空中で炸裂。派手な爆発を起こし、目の前にいた巨人達を巻き込んでいく。
 さらにその爆炎の向こうから突撃するサイクロプスに対してホットリップスは右腕を引いて飛び込んだ。
「接近戦なら、ホットリップスが得意な距離ですから!」
 マテリアルフィストを眼前の敵へ叩き込みながら、次なるターゲットを視線で追う。
 一夏の戦いは、たった今始まったばかりだ。

「これは……少しややこしい事になっている、みたいです」
 ヴェルナーの傍らで桜憐りるか(ka3748)は冷静の戦況を分析していた。
 気がかりになるのは神楽達が向かった説得だ。ロニも警戒している通り、この説得が不調に終わるならばハンター達は早急に対応を迫られる。既にその対応に動くべく一部のハンターは状況を見守っているが、その分北からの武装巨人に注力すべき戦力を割かれている事になる。
「そうですね。ですが、説得を長引かせるだけでも大きな意味があります。説得が長引けば西からの攻撃は行われません。情報によればトーチカには知見のハンターもいるとの事。彼らが交渉すれば対巨人の戦いに集中できます」
 いつもと変わらぬ優しい笑顔で自身の考えをりるかへ説明するヴェルナー。
 ハンター達の提案を抜け目なく取り入れると同時に、それを生かした作戦を臨機応変に調整する。
 防衛作戦の指揮を執るヴェルナーを、りるかは良く知っている。
 この戦いに身を投じる意味も。
 そして、この笑顔の意味も――。
「無理は、しませんよ、ね?」
 りるかは敢えて問いかけた。
 この笑顔の向こうにあるのは部族会議を支えようという覚悟。
 それはバタルトゥに何かあれば、非情であっても『現実的な行動』を取る事を意味している。それが何かはりるかは分からない。だが、漠然とした不安だけはりるかに伝わってくる。
「大丈夫です。バタルトゥさんやハンターの皆さんもいらっしゃいます。それに……」
 ヴェルナーはそっとりるかの右腕を手に取った。
 咄嗟の事で理解できないりるか。
 そんなりるかを前にヴェルナーはそっと唇を手の甲へ押し付ける。
「りるかさんが力を振るわれるのです。それに私が応えるのは当然です」
 顔が一瞬で紅潮するりるか。
 何故、こんな時にそんな事を?
 揶揄われているのだろうか。
 そうだとしても戦いの最中にこんな――。
「か、かぐやさん……!」
 りるかはペガサス『輝夜』を呼んだ。
 空から駆け寄る輝夜の背に慌てて飛び乗ったりるかは、そのまま空を駆け上がっていく。
「輝夜さん、よろしくお願い……しますね」
 りるかは輝夜の首をそっと撫でる。
 気恥ずかしさを振り払いながら、今からりるかは巨人達と戦う仲間を後方から支援すべく戦場へ向かう。傷付く者がいればヒールを使用。時折上空からブリザートやファイアーボールで攻撃するつもりだった。
 だが、こんな顔でどうやってみんなを支援すれば良いのか。
 駆け上がる輝夜。そこから生み出される風が、りるかの頬を冷却していった。


「……ん? 誰か来たみたいだね」
 上空を飛行するトーチカウィングからでも人影は視認できる。
 気怠そうにソファーから身を起こすトーチカの目に飛び込んできたのは――。
「久しいのう? トーチカ。此度も随分と愉快な玩具を出して来よったのう」
 地上からトーチカウィングを見上げるルージュ。
 扇をパチリと流しながら余裕の笑みをトーチカへ向けている。
「ちょ! あれはあたしのゴーレムちゃんを……」
 某幻獣王並と噂されるトーチカの頭脳をフル回転させ、記憶から引き出したのはロックワンで辺境地底を這い回ってきた時にクレイゴーレムを撃破したルージュであった。
 このままでは殺される。『殺される』と書いて『やられる』と読ませる展開になる。
「モルッキー、セルトポ! 敵じゃないのさ! なんで攻撃しないんだい?」
「いやー。それが……ハンターが新たなる情報を持ってきたのよ」
 モルッキージェットに乗るモルッキーから上がってくる報告。
 既にモルッキーとセルトポはハンターと何らかの接触を行っているようだ。
「なんだい? ハンターの情報ってのは」
「あ。まだ話を信じてないっすか、ハニー?」
 モルッキージェットの前に立っていた神楽がトーチカウイングに向けて大きく手を振ってみせる。
 その姿を見た途端、トーチカは何となく事情を察した。
 トーチカ一味は歪虚であるが、何故かハンターと奇妙な関係を構築していた。
 敵であれど、敵らしからぬ関係。それは一説には馬鹿故に成り立つ関係ではないかと囁かれていた。
「ああ。アンタかい。で、その情報って聞かせてもらおうじゃないのさ。騙そうたって無理だからね」
「ま。今回は証人がいるっすよ」
 そう促されて前へ歩み出たのは雨を告げる鳥(ka6258)。
 古代文明を調査する傍ら、辺境に終末をもたらさんとする歪虚ブラッドリーと接点の多いハンターである。
「ん? そいつが情報の持ち主かい?」
「私は証言する。貴方がが警戒していた怠惰王を貶めた人物を」
「だから、そいつが青木なんだろう?」
 トーチカの問いかけに対して雨を告げる鳥は頭を振った。
 トーチカがそう問いかけるのも無理はない。今までハンターからビックマーを殺したのは青木だと言われていたのだ。最初は敵であるハンターの話を信じないという態度であったが、自分達で調べるうち、確かにビックマーは青木によってトドメを刺された事は判明していた。
 だからこそ、ビックリ歪虚メカなる歪虚CAMに乗って青木もハンターも倒すと称してこの戦場までやってきたのだ。
「どういう事だい? 青木がビックマー様を殺したと言ったのはあんた達じゃないのさ」
「私は指摘する。それは事実の一面である事を。
 青木燕太郎はハンターを使ってビックマーを弱らせ、その力を吸収せしめたに過ぎない」
「じゃあ、やっぱり青木がビックマー様を殺したんじゃないのさ」
「その展開を最初から仕組んだ者がいたとすれば?」
「……!」
 雨を告げる鳥の話が事実となれば、青木もまた利用された駒に過ぎない。
 つまり実行犯は青木だが、計画その物を立案した存在が別にいる事になる。
「だ、誰なんだい? それは」
 トーチカは恐る恐る聞いて見た。
 特に証拠がある訳ではないが、既に今までの流れからトーチカ達はハンター達の話に引き込まれている。馬鹿は馬鹿であるが故に何処までも純粋だったりする。
「私は告げる。その者の名はブラッドリー。この地に『楽園』を到来させようとしている歪虚だ」
「ブラッドリー……」
 怠惰眷属ではないが辺境を含む周辺地域に姿を見せている歪虚の名前だ。
 このブラッドリーが青木に力を貸してビックマーを殺させた。敬愛するビックマー殺害を企んだ存在をトーチカに教える事は交渉に対する第一段階だ。これが成功すれば停戦もしくは共闘へと話を投げかけるのだが――。
 トーチカの次の言葉でハンター達は大きく思惑を覆される事になる。
「誰だい? それは」
 トーチカから漏れ出た言葉。
 予想外の言葉に周囲のハンター達は思わず脱力する。
「まさか、知らなかった?」
 上空で様子を見守っていた鞍馬 真(ka5819)はワイバーン『カートゥル』の背中で呟いた。
 鞍馬自身、説得そのものが上手く行けば僥倖、程度に考えていた。
 トーチカ一味の発想は斜め上を行く事が多い為、停戦は期待できない。だからこそ上空で戦闘開始を待っていたのだが、まさか事前情報も入手していないとは夢にも思わなかった。
「だって、アジトにそんな奴を見た記憶がないのさ。そうじゃないかい、セルトポ」
「えーと……昨日の晩ご飯は覚えていても、そんな奴は知らないでおます」
 セルトポブルの操縦席で胸を張るセルトポ。
 考えてみればビックマーが死亡した事すらつい最近まで知らなかったようなトーチカ一味だ。おまけにアジトではオーロラの正体に気付かない上、ただ無駄飯食っているような連中なのだから、辺境の裏で暗躍するブラッドリーの存在に気付かないのも無理はなかった。
「私は提案する。共通の敵である青木燕太郎、及びブラッドリーの撃破までの停戦と共闘。貴方達にとっては敵討ちとなり、切り札となり得る存在だ。勿論、要求も私達の代表に伝え、可能な限り叶えよう。如何か?」
 雨を告げる鳥は無理矢理提案を続けた。
 重要な事は、交渉に時間をかけさせる事。
 このまま時間をかければ北からの進軍を仲間達が迎撃してくれる。仮に交渉が不調となっても鞍馬を始め、既にトーチカ一味を周辺にハンター達を布陣させる時間を稼ぐ事はできた。
 巧妙な調略を雨を告げる鳥達は仕掛けたのだが、その事すらトーチカ一味は気付きもしない。
(どーするんだい? その『ブラとリー』とかいうコンビがビックマー様を殺したって言われても、そいつを知らないんじゃ敵討ちもしようがないじゃないのさ)
(あれ? 姐さん、そんな名前でおましたっけ? なんかもっと助っ人外国人選手みたいな名前だったような……。それより、ここはハンターと手を組むのも良いと思うでおます)
(お馬鹿! ハンターがビックマー様を追い込んだんじゃないのさ。奴がいなければビックマー様が青木なんかに遅れを取るもんかい)
(でもセルトポの案も悪くないわよ。ハンターを利用すれば青木だって、そのコンビだって簡単にやっつけられるわよん)
(……! さすがだよ、モルッキー! それも悪くないねぇ)
 トーチカ一味は三人で必死に密談を続けている。
 しかし、残念ながら三人の密談は歪虚CAMに乗っているが故に周囲にも丸聞こえだ。
「あー。これ、どうするっすかね」
「聞いていない事にしてやるのが優しさだな」
 神楽の言葉に鞍馬が小声で助言した。
 しかし、そんなトーチカに容赦ない者も――。
「どうするのじゃ? 妾はどちらでも構わぬぞよ。参らぬならこちらから行こうかの?」
 ルージュは敢えて好戦的な態度を取った。
 揺れ動くトーチカを焦らせる事で結論を惑わせる事も狙っていた。
「ちょ、ちょっとお待ちよ。今いいとこなんだから」
 ハンター達の術中にハマるトーチカ一味。
 それは既に悲壮感を漂わせていた。


 トーチカ一味を取り巻くハンター達だが、ただ様子を見守っていた訳ではない。
「またも歪虚が仲間割れを始めたか。この私を差し置いて勝手にゲームを進める事は……」
 イェジド『神威』の背に乗り大樹の西側で巨人と交戦する不動 シオン(ka5395)は、トーチカ一味の行動に警戒していた。
 戦場こそ楽園。死闘の中にこそ安息があると考えるシオンにとって、今回の交渉は様々な意味を持ち合わせていた。
 喰うか喰われるか。死に物狂いの激闘。
 それだけならシオンは北の武装巨人の一団へ突撃すれば済む話だ。
 だが、シオンがこの西側近くで戦闘している理由がある。北の武装巨人に意識を集中する。
 しかし、北で戦闘している裏で後方に不安要素があれば、どうなる?
 それはもう乱戦。
 混沌が支配する地獄。命ある限り戦わずにはいられないレオンにとって、それはまさに望む展開であった。
「まだか。まだ来ないか……」
 時折意識を後方に向けながらも、必死に大樹へ進軍する巨人相手にレオンは単身突撃する。
 神威のウォークライで相手を威圧した後、レオンの剛刀「大輪一文字」による一撃。
 アーマーに阻まれ致命傷は逃したものの、レオンは振り返る事無く別のサイクロプスへ神威を走らせる。
 ――至近距離からのクラッシュバイト。
 飛び上がり、サイクロプスの喉笛へ食らい付く神威。
 喉仏が嫌な音を立て、神威の歯に骨を砕いた感触が伝わる。
 そこへシオンが放つ大輪一文字による突き。
 一つだけしかないサイクロプスの眼球を貫き、絶命させる。
 一体を確実に倒した。だが、シオンの『至福の瞬間』は終わらない。既に周辺には武装巨人達がシオンを取り囲むように布陣する。それは仲間を殺された恨みでもなければ、戦いを好んで集まったのでもない。
 血に狂う相手を前に巨人達は警戒したのかもしれない。
「どうした? 殺すつもりで来なければ……私の首は狩り取れんぞ?」
 挑発的なシオンの一言。
 それを理解したのかは分からないが、周辺の巨人達がシオンに襲い掛かる。

「久しぶりの機会がCAM越しですか。残念極まりない事です」
 激戦地と考えた場所に符陣したハンス・ラインフェルト(ka6750)は、シオン同様北西にR7エクスシアの中でため息をついた。
 久しぶりに戦働きができると考えていたのだが、今回は自らが手にした刀ではない。R7エクスシアが手にする斬艦刀「雲山」が得物。
 これでは巨人の体を切り裂いた際に味わえる感触も、香りも、空気も楽しめない。
 たとえ巨人を倒して勝利の美酒を口にできても、それはR7エクスシアの中ではすべてを味わえない。やはり肉体の一部となった刀で相手の体を斬る喜びは、R7エクシシアでは楽しめない。
 その事が、ハンスにとって残念で仕方なかった。
「ええ。本当に……残念です」
 そう言い掛けた矢先、アサルトライフルを手にサイクロプスが接近する。
 飛来する銃弾。それに臆する様子もないハンスは、雲山を片手に眼前のサイクロプスへ意識を集中させる。銃弾が肩口を掠めてもその意識が削がれる事は無い。
 詰まる間合い。ハンスの攻撃範囲を意識しないサイクロプスは躊躇無く踏み越える。
 ――それが、死線とは知らずに。
「……!」
 ハンスは右足を踏み込んだ。
 同時に体を反転させ、雲山に遠心力を乗せる。
 強烈な一撃が間合いに入ったサイクロプスへと振り下ろされる。
 雲山がサイクロプスの体へ侵入する。肉を切裂き、生命を終わらせる瞬間。
 その感覚が振動となってハンスの体にも伝わる。
 それは、自らが手にした刀とは異なる別の歓喜でもあった。
「あ……あ、ああ! ああ、コレです! この感覚。これは私が求める物に似て……いや、まだです。まだ、足りない!」
 ハンスは、今一度あの感覚を味わう為に次の獲物を探し始める。
 今し方倒したサイクロプスを踏みつけ、最高の感覚を与えてくれる存在を追い求める。
 東方での戦いでは理性を飛ばす事はなかった。
 ハンスの本能は心の奥底に沈められていた。
 しかし、この辺境の地で再び人を斬る感覚を解き放とうとしていた。
「次は、次はどこです!? はははは、あっははは」
 打ち震える心。
 それは、塞がれていた本能の解放。
 鬱屈された心が外気に触れて暴走を始める。
「もっと、もっとだ! 死んで下さい、私の剣が研ぎ澄まされるように! もっと、もっと!」
 乾いた心にもたらされる潤い。
 ハンスは新たなる感覚を味わうべく、戦場を縦横無尽に走り始める。

 狂える二人のハンター。そこへさらに――。
「ヒャッハー、俺様ちゃんに死地を見せてみろじゃん」
 ゾファル・G・初火(ka4407)は、刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」『ルッ君』で赤き大地に立っていた。
 かの二人が死地を引き込んだのだろうか。
 それはゾファルにも分からない。だが、ゾファルにとってはそこが死地になりさえすればどうでも良い。重要な事は、自分が死地に身をおけるかどうかだ。
「いいね、いいねぇ! シンクロ率がやばたにえんだ」
 バトルジャンキーを自認するゾファルが搭乗するルッ君の視界には、大地を埋め尽くす勢いの武装巨人。それの大半がソファルを認識して攻め込んでくる。
 周囲の大半は敵だらけ。この状況を『死地』と呼ばずに何と呼ぶか――。
「ビビってる暇はねぇぞ……何もかもをぶっ壊すぞ! 持ってかれるんぞ! 加減なんか何もねぇぞ!」
 誰が聞いている分からない呟きがゾファルの口から漏れる。
 間合い? 効率的な攻撃?
 関係ない。ただ素直に向かうだけだ。
 本能だけが知る一番の死地がある場所へ。
「すっこんでろっ!」
 近づく巨人に向けてバズーカ「ロウシュヴァウスト」を数発打ち込むゾファル。
 命中しようがしまいが関係ない。牽制しながら間合いを詰められればそれでいい。砲弾が地面抉り、土煙を巻き上げる。一瞬の振動。その隙にゾファルは一気に巨人へ肉薄する。巨人の息遣いが聞こえんばかりの距離だ。
「こっからが本番じゃん」
 万象の器とソウルエッジで強化されたルッ君は、不退の駆で突撃。
 巨人達を吹き飛ばしながら単身巨人の群れへと飛び込む。
 向けられる殺意。空気は殺伐とした物へと一変する。
 自ら窮地へ飛び込む胆力は絶大だが、その状況がゾファルをますます興奮させる。
「命のやり取り、上等!」
 斬艦刀「天翼」を振るった瞬間、巨人達の攻撃がルッ君へ一斉に行われる。
 ゾファルにとっての最上――戦場の中、一人で生を謳歌していた。


 その頃、トーチカ達は未だ相談の真っ最中だった。
 馬鹿故の豪胆さで突き進むかと思われたが、ここに来て事態を飲み込み始めたようだ。
(整理するわよぉ。あたし達は思った以上に劣勢。このままじゃ、青木やそのコンビを倒せないかもしれないわね)
(モルッキー。あんたの頭脳で何とかできないのかい?)
(そうでおます。まずいご飯は嫌でおます)
(だからハンターを利用すれば……)
(でも、そのルパン何とかって所でハンターが青木を仕留められない時はどうするんだい?)
「ハニー、大事な事だから悩むのは分かるけど、なるべく早めに決めてくれないっすか?」
 神楽の言葉も無理はない。
 未だかつて歪虚相手にここまでのんびりとした時間が流れた事はなかった。
「今、大事な事を話してるんだから邪魔するんじゃないよ」
「分かったっす。ハニーの悩む顔を見ていたいっすから、ここで待つっす」
「……!」
 時折放り込まれる神楽の言葉に押し黙るトーチカ。
 そこへフィロ(ka6966)がさらに更なる駄目押しを叩き込む。
「青木様は怠惰王の直衛を自任しておられるようですので、私達とは相容れません。青木様がビックマー様を倒して吸収したのは、何人ものハンターが見ています。私達ともトーチカ様とも、青木様は相容れる存在では無いと思うのですが……」
 フィロの言葉にトーチカ一味は素直に耳を傾ける。
 おそらく青木がビックマーを倒したのは確信しているのだろう。反面、そこまで追い詰めたハンターと手を組む事も躊躇している。
 所詮は歪虚と人間。信頼関係はそこに無い。
 あるのは明確な利害関係。そこをフィロは改めて突いてきたのだ。
(頃合いでしょうか)
 悩むトーチカを前に、ユメリア(ka7010)は行動を起こす。
 ここまで悩んだのであればもう一押しが必要になる。つまり、それは言葉ではなく『行動』であっても良いはずだ。
 ユメリアは敢えてトーチカ達から離れて巨人達の群れにその身を晒す。
 幸いにも武装巨人達が手にしていたのはアサルトライフル――中距離用の射撃武器だ。
 その射線に身を晒す事。それは巨人の攻撃対象になるのと同義であった。
 早々にユメリアの姿を捕捉した巨人はアサルトライフルの銃口を向ける。
 その先にトーチカ一味の機体がある事を忘れて。
 放たれる弾丸。ユメリアは身を低くして回避する。
 そして、その弾丸の行く先は――。
「ひぁぁぁ!」
「どうしたんだい、セルトポ?」
「あの巨人が撃ってきたでおます!」
 セルトポが指差す先には武装巨人の姿。
 そこへユメリアが叫ぶ。
「心の迷い、その弾丸にて打ち砕かれました。為すべき事を為すべきです。闇黒の魔人を倒す為に」
 闇黒の魔人――青木燕太郎を指し示す事でトーチカに特定の認識を抱かせる。
「やっぱりあいつらは青木の手下だよ! 二人とも、あいつらに思い知らせてやるんだよ」
「ハンターはどうするでおますか?」
「そいつらは後! 今は青木を倒してやるんだから。行くよ、あんた達!」
「えらほらっさー!」
 都合良く巨人を敵と認識したトーチカ一味は、まっすぐ巨人達の群れへ攻撃を開始する。
 思わぬ闖入者は、まさかの援軍と変わってしまった。
「まさか、本当に同士討ちをさせられるとは……」
 上空を伺っていた鞍馬は、その光景に奇妙な感覚を覚えていた。
 だが、安心はできない。いつこの関係が崩壊するのか分からないのだから。


 このトーチカ一味の行動が、戦局を大きく覆す事となった。
 その理由は武装巨人を迎撃するハンター達の戦況にあった。
「しまったっ! マッチョメン、敵を止めるんだ」
 テンシが慌てて機体を反転させる。
 しかし、武装巨人はマッチョメンを無視して大樹へと突き進む。
 ハンター達は現れる巨人を次々と撃破していった。だが、防衛対象である大樹を護衛する者が少なく、前線を通過されると後方の防衛ラインは手薄になる状況が発生していた。
「紅蓮、炸裂弾だ」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の刻令ゴーレム「Volcanius」『紅蓮』から放たれた砲弾は接近するオーガの胸部に直撃。巨大な体躯が地面へと転がる。
 アルトは紅蓮を大樹付近に配置して護衛させると同時に、射程距離限界まで巨人達を砲撃していた。そしてアルト自身も攻め寄る巨人達を前に獅子奮迅の活躍を見せる。
「散れ」
 アルトは猛スピードで巨人の間をすり抜ける。
 次の瞬間、巨人達の体に刻みつけられる斬撃。複数の巨人達が行動不能、もしくは撃破されていった。アルトは数少ない大樹の直接防衛を担うハンターだが、多数の巨人が何度も襲来する状況に危惧を抱いていた。
「味方の救援は?」
「すいません。各個撃破をされている方が多く、呼び戻すのに時間がかかっています」
 怒鳴るように振り返るアルトにヴェルナーは申し訳なさそうに答える。
 部族会議の戦士達が体を張って押さえているものの、アルトのように短時間で何体も倒せるような力量はない。
「……そうか。紅蓮、前方に向けて連続砲撃」
 アルトは紅蓮へ連続の砲撃を指示する。
 命中しなくてもいい。一瞬だけ巨人の足を止めさせる事ができれば、アルトが巨人を切り刻める。ほんの一瞬だけ時間を稼げれば――。
(巨人ども。ここに赴いた事を後悔させてやる)
 アルトは再び迫る巨人の群れに向かって走り始めた。

 一方、ボルディア・コンフラムス(ka0796)もキリの無い相手を前に焦りを感じ始めていた。
「くそったれっ!」
 刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」『炎神』が機鎌「グガルアンナ」を手に大きく回転。複数の巨人を巻き込みながら吹き飛ばしていく。
 ボルディアは前線を回避して大樹へ向かう巨人達を相手にしていたが、後方から現れる巨人達を少ない手勢で押さえ込まなければならなかった。
「次から次へと現れやがって……いい加減にしねぇか!」
 ボルディアの口から怒声が漏れる。
 歴戦のハンターであるボルディアからすれば武装巨人であっても数体なら脅威にはならない。だが、立て続けに現れる巨人達を相手にし続ければ、気を抜けない展開になってくる。
「行かせるかってんだ!」
 万象の器で射程を引き延ばし、暴炎による大回転。
 通過を試みる巨人を一気に吹き飛ばしていく。炎神は逃さず巨人を撃破するが、こうしている間にも後続の巨人が到着する。各個撃破事態はうまくいっているのは良いのだが、ポイントを選んで迎撃しているハンターが少ない事が大樹へ向かう巨人を多く生み出している。
「何とかしなけりゃ……ん?」
 ボルディアの視界に飛び込んできたのは、奇っ怪なCAMらしき機体が三機。
 西から雪崩れ込んでくる様子であった。
「いくわよ~ん! ポチッとな」
 地上を走るモルッキージェットから放たれる360度バルカン砲。周辺に容赦なく放たれるバルカン砲は敵味方関係なく降り注ぐ。そう――『敵味方関係なく』だ。
「モルッキー、こっちにも弾丸が飛んでくるでおます」
 後方から進むセルトポブルに乗るセルトポが大声で叫んだ。
「大丈夫よー。そのセルトポブルはちょっとやっそっとじゃ壊れないから」
「そうでおますか! なら安心でおます」
 安心するセルトポだが、ボルディアの目には操縦席が無防備になっているのが良く分かる。
「はー、アホには勝てねぇなぁ……」
 さっきまでの緊張は何だったのか。
 そう言いたくもなるが、おかげで巨人達は大きく混乱する事となった。


「あ、そ~れ!」
 ソファに横たわるトーチカは、足で適当に操作。
 その操作のせいでトーチカウィングは計画性もなくバラバラと焼夷弾が落とされていく。
 真下にいた巨人達にとっては突然の攻撃に慌てふためいているが、少し離れた場所から様子を窺っていたエンバディ(ka7328)にとっては良い迷惑だ。巨人達の弱点を突こうとオーガにファイアボールを放っていたのだが、上空から何の配慮も無く焼夷弾が落とされているのだ。怪しい動きをする機体である為注意をしていたのだが、はた迷惑も良い所だ。
「愛してるっすよ、ハニー。あ、今の姿も好きっすけど、素顔も俺は好きっすよ?」
 トーチカが焼夷弾を落下させている様子を見ながら、神楽は何故かうっとりした様子でみている。
 戦場でそのような目をしていられるのか。エンバディにとっては理解不能である。
「辺境の三馬鹿は噂通りだったけど、それ以外の情報も龍園に持ち帰って……役に立つかなぁ」
 エンバディは情報を龍園へ報告するつもりなのだが、今眼前で起こっている状況を龍園で報告しても神官達が信用してくれるとは思えなかった。
「働いておるか。それは良き哉」
 トーチカの様子をワイバーン『天禄』の上から見守るルージュ。
 あのトーチカが相手だ。急に何をしでかすか分からない。もし、そのような事になればルージュは容赦なくお仕置きするつもりで監視しているのだ。
 今の所なんの変化も見られないが、決して油断はできない。
「あー、何か猛獣と猛獣遣いを見ている気分だ。ますます信じて貰えるか……」
 愚痴りたくなるエンバディ。
 ため息一つ突き、焼夷弾の雨から逃れたサイクロプスへブリザードを放つ。
 今の所はトーチカの焼夷弾から逃れた巨人へ攻撃を仕掛ける事でエンバディも十分に対応できそうだ。
「本当、良くも悪くもはた迷惑な歪虚だなぁ」
 飛び去るトーチカウィングを見上げながら、エンバディはそう呟いた。


 エンバディの愚痴も十分無理からぬが、このトーチカ一味の介入はハンター側に好機を与えた。
 元々連携しさえすれば個々の戦力は大きい。巨人達の陣形をトーチカ一味が突撃する事で破壊。そこへハンター達が雪崩れ込めば、戦場は混乱に見舞われる。
 それはハンター達が勢いづくには十分過ぎる展開であった。
「ルクシュヴァリエなら降りなくてもフルリカバリーが使えるの、スキル数半減は痛いけど仲間が誰も重体以上にならないように頑張るの、むふん!」
 鼻息荒いディーナ・フェルミ(ka5843)もその一人だ。
 クロイツハンマーを握り、正面から巨人と接近戦。フォースクラッシュで殴り合いを敢行、派手な衝撃音が周囲に響き渡っている。
 傷付く者がいればディーナは周辺の仲間もまとめてフルリカバリーすれば良い。幸いにも周辺の巨人は他のハンターやトーチカ一味と対応で忙しい。遠慮無く殴り合いを『楽しむ事』ができる。
「それっ!」
 ルクシュヴァリエの強烈なフォースクラッシュが巨人の胸にクリーンヒット。
 何発も殴られて力尽きるサイクロプス。爆音や怒号の中、ディーナは一人興奮を隠しきれなかった。
「……大分すっきりしたかな」
 ハンター達が盛り返したおかげだろう。周辺の巨人は確実に数を減らし始めていた。
 トーチカ一味の介入は良い方向に働いた。
 だが、本当にこれで良かったのか。
 所詮はトーチカ達も歪虚。このまま戦力として使っても良いのか――。
 ディーナが一抹の不安を抱いている裏で、別の行動を起こす者達がいた。
「足りない。この程度で終わりなはずがない……更なる混沌が必要……。」
 ディーナの前をシオンが神威に乗って走って行く。
 シオンが向かう先にはセルトポが乗るセルトポブル。
(ま、まさか……)
 嫌な予感が過るディーナ。
 しかし、それを止めても良いのか。
 その考えがディーナの手を止めさせた。
 そして――。
「狂え、混沌の風に」
 セルトポブルの前面に振り下ろされる剛刀「大輪一文字」。
 爆発的な一撃が機体を激しく揺らす。
 暢気に巨人を相手にしていたセルトポも突然の攻撃に大慌てだ。
「ぬわぉ!? あ、姐さん! ハンターが攻撃してきたでおますっ!」
「やっぱり裏切ったかい。あんた達、あいつらもそろそろ倒すとするよ!」
 トーチカの号令に二匹のモグラは元気よく答えた。
「えらほらさっさー!」


 突如勃発したトーチカ一味との交戦。
 しかし、トーチカ一味には衝撃でもハンター達の間では既に準備が整っていた。
「……なんつーか、強い奴程自由だよな。歪虚って奴はよ」
 呆れてため息を漏らすトリプルJ(ka6653)。
 相棒のイェジドの首をそっと擦りながら、目標と定めたセルトポブルへ走り寄る。
「こっちに来るでおます!」
 セルトポはセルトポブルを無理矢理発進させる。
 地面を抉りながら突き進むブル。行く手を阻むように立つイェジドはウォークライで足止めを図る。
 だが、ブルが止まる気配はない。
「わっはっは。ブルの装甲とパワーの前には犬の遠吠えも意味ないでおます」
 確かにイェジドのウォークライで止まる気配はない。言う通り装甲もそれなりに厚いのだろう。
「へぇ、なるほどなぁ。装甲も厚いのか」
 その状況でもトリプルJは臆する事もない。
 ブルの突進をスティールステップで回避させたトリプルJは、そのままブルの側面へと回り込む。
 そして古代大剣「ウェンペ」をブルの操縦席へと差し向ける。
「じゃあ、その丸出しの操縦席も装甲は厚いのか試してみるか?」
「……え?」
 実はブルの装甲は厚いのだが、肝心の操縦席はセルトポが丸出しとなっていた。
 走ると風に当たって気持ちいいという理由で操縦席の装甲はすべて取り外されていたのだ。
「あ。戻すの忘れてたでおます」
「じゃあ、一発ぶっ叩いてみるか」
「あ、ちょっとタンマでおます」
 もう遅い。セルトポはトリプルJから強烈な一撃をお見舞いする事になった。

 その頃、モルッキージェットは――。
「こうなってしまった以上、お相手する他ありません」
 フィロのコンフェッサーがモルッキーの傍へ接近する。
 それに対してモルッキーは360度バルカン砲で遠慮無く迎撃を開始。
「悪いけど、近付けさせないわよ。はい、ポチッと」
 自称天才のモルッキーが生み出したホバー型歪虚CAMから放たれる弾丸の雨。
 それに対してフィロはマテリアルバルーンを使って目眩ましを試みる。
「弾丸が、想定以上です……?」
 バルーンで目眩ましをしても圧倒的な弾丸の嵐を前に回避を取る事が困難……とフィロ自身は考えたのだが。
 実際にはバルーンを使わなくてもあっさり弾丸は明後日の方向へ飛び去っていく。
「これは……」
「あれ? おかしいわね。ちゃんと弾丸は発射されているのに」
「へへん。分かったぞ。そのバルカン砲、照準を調整してないだろ?」
 イェジドに乗ってジェットに近づくネフィリア・レインフォード(ka0444)。
 実はネフィリアの指摘通り、バルカン砲の照準はまったく調整されていなかった。この為、狙いを付けてもバルカン砲は予想外の方向へ飛んで行ってしまうのだ。
「あらやだ。忘れてた」
「それならば安心です」
 ネフィリアへ続くようにフィロもコンフェッサーをジェットへ接近させる。
 他の攻撃手段を探してみるが、あったとしても間に合わない。
「モグラッキー……あれ? モルルッキー?
 さっきまで一緒に遊んでくれたけど、今度は戦って貰うよ」
「停戦終了、とても残念ですが……戦われるなら仕方ありません」
 フィロとネフィリアはそれぞれ別方向からジェットへ接近。
 コンフェッサーのマテリアルフィストが叩き込まれる一方、イェジドの背に乗ったままでネフィリアは霊斧槍「ピュールロコス」の一撃を繰り出した。
 激しく揺れるジェット。
「まずいわね……って、姐さん!?」
 モルッキーが頭上のトーチカジェットへ向ける。
 実は多数のハンターがトーチカジェットへ攻撃を仕掛けており、トーチカ一味で一番ピンチだった。
「やっぱりこうなったか。だが、その方が分かりやすくて良い」
 カートゥルに乗ったままで鞍馬は魔導剣「カオスウィース」を蒼炎華で強化する。
 トーチカ一味は行動の先読みが難しい。急に攻撃を仕掛けて来る可能性もあるからこそ、相応に準備しておいた方が良い。鞍馬は巨人を対処する裏でトーチカへ注意を払い続けていた。
「今のうちに叩く」
 カートゥルを旋回させ、トーチカジェットへ接近。
 間合いに入った瞬間、強烈な突きをトーチカジェットへ叩き込む。
 更に別方向からは天禄に乗ったルージュがトーチカジェットに向けて飛来していた。
「裏切った訳ではないようじゃが……敵対するならば妾も遠慮はせぬ。
 二度と忘れぬようしっかりと仕置きをしておかねばのう」
 トーチカが目視できるように敢えて操縦席を狙って接近するルージュ。
 一直線に伸びた雷撃がトーチカジェットに突き刺さる。
「ビビビビビっ! ちょっとヤバいんじゃないの!?」
 激しく揺れる機体。
 さらに地上からも攻撃が加えられている。
「……いける」
 フライングスレッドに迷彩布をかけ、地上からトーチカを見張っていたルカ(ka0962)。
 鞍馬とルージュの攻撃で高度が下がっている事を確認した上で、蒼機弓「サクラ」を番える。トーチカジェットは爆撃がメインである為か高速移動をしていない。これならば弓で狙う打つのも難しくない。
 弦を引いて矢を番える。
「……!」
 ルカはダブルシューティングで複数の矢を放つ。
 矢は放物線を描きながらトーチカジェットの片翼に連続ヒット。これにより機体はさらに激しく揺れる。
「何か攻撃する手段はないのかい? せめて空の奴を撃ち落とすとか」
「……あ。焼夷弾ばっかりで対空兵器を忘れてたわ」
 モルッキーから思わぬ言葉。どうやらトーチカジェットには空からの攻撃に対抗する手段がないようだ。
「なら……遠慮無しに」
 ルカは再び矢を番える。焼夷弾さえ注意すれば地上からでも問題ない。
 むしろ、鞍馬やルージュからすれば叩き放題だ。
 この状況にトーチカは仲間へ助けを求め始める。
「ちょ、ちょっと! モルッキー、何か手立てはないのかい?」
「このままじゃまずいわ。セルトポ、あれをやるわよ!」
「分かったでおます!」
 三機は急に動き始める。
 おそらく何かしら隠し持った能力があるのだろう。が、一部のハンターは既に何をやるかは予想がついていた。
「合体は……させない」
 ルカは再び矢を番える。
 機能の異なる三機の機体が奇妙な動きを始めたとなれば、相場は合体と決まっている。ルカは合体を阻止する為に機体同士の間に矢を打ち込もうとしていた。
 ――しかし。
「トーチカ……合体なの? ふわぁー」
 合体という言葉で近くにいたディーナが目を輝かせ始める。
 歪虚CAMが合体する光景。それに機体の眼差しを向けている。ここで合体を阻害すれば悪い事をしているような気がしてくる。
「…………」
 ルカは敢えて合体を見守る事にした。
 どうせ合体してもトーチカ一味だ。きっとロクな結末は待っていない。
 こうしている間にも三機は変形。次々とパーツ同士が連結していく。
 そしてそこに現れたのは巨大な熊型の歪虚CAMが完成していた。
「驚いたかしら。これが『メカビックマー様』よ~ん」
 ビックマーと評するには少々サイズが寂しいが、外見は確かにビックマーのような熊に見える。
 少々強引な合体をした為か、胴体部分が以上に大きくなっているのが印象的だ。
「わっ、モルルッキーが本当に合体したよ!」
「やっぱりこれも龍園に報告、かなぁ。しなきゃダメだよなぁ」
 驚嘆するネフィリア。
 その傍らでは龍園への報告内容をどうするべきかエンバディは悩んでいる。
 そんな二人を前にトーチカは余裕を見せる。
「凄いじゃないか、モルッキー! さすがだねぇ」
「でも……なんで、自転車を漕いでいるでおますか?」
 外にいるハンター達からは見えないが、メカビックマーの操縦席ではトーチカ一味が必死で自転車を漕ぎ続けている。
 その理由は――。
「これこそ、敵から入手した情報を転用した新型エンジンよん。漕げば漕ぐだけメカビックマー様にエネルギーを共有できるの」
 実はモルッキーが入手してきた新技術とは辺境ドワーフのQSエンジンであった。
 QSエンジンは内部に幻獣キューソが中で歯車を回す事でマテリアルを発生させる仕組みであった。それをメカビックマーに転用したモルッキーだが、QSの代わりに自分達が自転車を漕がなければならない事を失念していた。
「……ちょっと……自転車が、キツいね」
 既にトーチカも息切れし始めている。
 どう見ても長期戦が無理と判断したモルッキーは早々に切り札を出す。
「いくわよ。本日の目玉~! あ、ポチッとな」
 ハンドルにあるボタンを押したモルッキー。
 メカビックマーの胴体が上へ伸び、腹部から現れたのは巨大な球体。
 ご丁寧に導火線に火まで付いている所をみれば、爆弾である事は間違いなさそうだ。
「あー。あれは確かに爆弾だ。って事は、やっぱり……」
 カートゥルの背に乗って上空から見守る鞍馬にも、爆弾はちゃんと見えている。
 そしてこの手の古典的な爆弾でどうなるか。それは鞍馬にも察しが付いてしまう。
「うむ。やっとルクシュヴァリエを自機として仕えるのだ。楽しまねば勿体かなろう、ハッハッハ」
 刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」に騎乗したルベーノ・バルバライン(ka6752)は、メカビックマーの背後に回り込んでいた。変形した上、自転車を漕ぎ続けている馬鹿三人はまったく気付いていなかったという訳だ。
 そして反対側には――。
「ルクちゃんとお出かけ楽しいですぅ。ここで敵をバシっとぶっ倒しますよぅ」
 同じく刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」『ルクちゃん』に乗る星野 ハナ(ka5852)が姿を見せた。先程まで武装巨人と交戦。五色光符陣で敵を撃退し続けていたのだが、奇妙な物体を発見してこちらへ駆け寄ってきていた。
「ふぅん。こんな大きい奴をぶっ倒せるのは気持ちよさそうだねぇ、ルクちゃん」
 巨人を徹底的に倒すのも良いが、こんな大きな熊を横倒しにするのもちょっと面白そうだ。
 最近、深紅ちゃん――大精霊クリムゾンウェストから救世を期待すると言われていたのに、ハナは期待に応えられていないと考えていた。
 歪虚を殲滅して、浄化して、人類領域を広げる。
 それは、正しい事だ。
 依頼人を助け、依頼人を幸せにする。
 それも、正しい事だ。
 だが、世界を救う事は本当にそういう事なのか。
 それを考えるハナは、ますますストレスを高めていく。そのストレスを解消したいハナにとって、目の前のメカビックマーは最適な相手だ。
「お誂え向きにバランスが崩れているじゃないか。足元に強い衝撃を与えれば、盛大に倒れるんじゃないか?」
 ルベーノもルクシュヴァリエの慣らし運転を兼ねて戦闘に突入。
 武装巨人を相手にスペクルムで空中戦を仕掛け、白虎神拳で巨人に繰り出す攻撃の感触を確かめる。
 悪くない機体だと考えていた所で、メカビックマーを発見。
 大きな目標に強烈な一撃を加えればどうなるか、試したいと考えていたところだ。見れば胴体部分が上へ伸びている事を考えれば、足元を叩く事でバランスを崩すはずだ。
「あ、まずいわ。何とか足元の敵を排除するのよぉ」
「そんな装備ないで、おます」
 慌てるモルッキーとセルトポだったが、既に自転車を漕ぎすぎて息も上がっている。
 自転車を漕がなければメカビックマーにエネルギーが供給されず、逃げる事もできない。つまり、今メカビックマーは巨大なサンドバックと化していた。
「そらよ!」
 ルベーノの白虎神拳が左足の膝部分にヒット。
 同時にハナも五色光符陣を使って右足を攻撃する。
「行っちゃえっ!」
 炸裂する二人の攻撃。
 大きな振動が加わり、メカビックマーは前方に向けて倒れ込む。
 それは腹部の爆弾をメカビックマーの体で覆い被さる形になる。
 そして――。
「ちょ、これって……!」
 トーチカの声。
 次の瞬間、巨大な爆発が発生。メカビックマーの体は爆散した。
「なんだ。自分で勝手に爆発しおったか。仕置きする暇も与えず自爆をするとは……変わった芸を覚えたものじゃな」
「毎回、考えている事が分からない……。何がしたかったんだ」
 ルージュと鞍馬は、目の前の惨状に呆れかえるだけであった。
 ほとんど勝手に窮地に陥り、最終的に自爆同然で自慢の歪虚CAMが吹き飛んだ。真面目にトーチカ一味に対処しようとしていたハンター達は肩透かしを食らった気分だ。
 だが、一人だけ――。
「ハニー! 無事っすか!」
 神楽が吹き飛んだパーツをはね除けながら走りよる。
 爆発に巻き込まれてトーチカが死亡したのか。それを心配する神楽。
「……あれ」
 神楽の肩をルカが叩く。
 ルカが指差す方向を見れば、遠くにボロボロの三人乗り自転車を漕ぐトーチカ一味の姿があった。
「よくもやったね! 次は覚えてな!」
 トーチカの遠吠え。
 外見はボロボロだが、どうやら命に別状は無さそうだ。
 その様子をみていたトリプルJは改めて思う。
「本当に自由だよな。……いや、自由なのはあいつらだけか」

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 35
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 大悪党
    神楽ka2032
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥ka6258
  • 重なる道に輝きを
    ユメリアka7010

重体一覧

参加者一覧

  • 爆炎を超えし者
    ネフィリア・レインフォード(ka0444
    エルフ|14才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イェジド(ka0444unit001
    ユニット|幻獣
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    セイレンゴウ
    清廉号(ka0551unit003
    ユニット|CAM
  • 遥かなる未来
    テンシ・アガート(ka0589
    人間(蒼)|18才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    マッチョメン
    マッチョメン(ka0589unit001
    ユニット|魔導アーマー
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    エンジン
    炎神(ka0796unit009
    ユニット|CAM

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    グレン
    紅蓮(ka3109unit004
    ユニット|ゴーレム
  • ヴェルナーの懐刀
    桜憐りるか(ka3748
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    カグヤ
    輝夜(ka3748unit004
    ユニット|幻獣
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    テンロク
    天禄(ka4009unit003
    ユニット|幻獣
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ルックン
    ルッ君(ka4407unit008
    ユニット|CAM
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カムイ
    神威(ka5395unit001
    ユニット|幻獣

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カートゥル
    カートゥル(ka5819unit005
    ユニット|幻獣
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka5843unit007
    ユニット|CAM
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    クレプスクルム
    Crepusculum(ka5848unit008
    ユニット|CAM
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ルクチャン
    ルクちゃん(ka5852unit008
    ユニット|CAM
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥(ka6258
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ルジェ
    ルジェ(ka6258unit001
    ユニット|幻獣
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イェジド(ka6653unit002
    ユニット|幻獣
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka6750unit005
    ユニット|CAM
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka6752unit007
    ユニット|CAM
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    コンフェッサー
    コンフェッサー(ka6966unit004
    ユニット|CAM
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏(ka7308
    鬼|17才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    ホットリップス
    ホットリップス(ka7308unit002
    ユニット|CAM
  • 舌鋒のドラグーン
    エンバディ(ka7328
    ドラグーン|31才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】三つ巴の戦いに勝て!
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2019/04/16 21:14:34
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/15 12:40:54