教えてほしい、さよならの言葉

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/04/15 15:00
完成日
2019/04/19 18:04

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●突然の「さよなら」

 春の陽気に眠気を誘われ、フィー・フローレ(kz0255)が自然公園の花のベッドでうつらうつらしていたところ――久しぶりに清水の精霊「葵」が東屋から姿を現した。
『フィーよ、突然じゃが妾は明日故郷に帰ることにしたぞ』
 その言葉にフィーが跳び上がらんばかりに跳ね起きる。
「エエッ!? ドウシテ? 折角コノ泉デ身体ガ治ッタノ二……」
『だからこそ、じゃ。これからは雪解け水で水流が増えるゆえ、その調整が必要となる。妾は昨年は臥せっておったが今年は下流に住む人々や生物たちが難儀しないようにせねばな』
 実は清水の精霊は洞窟周辺の水を浄化するだけでなく、彼女が水量を常に調整していたことによって冠水などの水害を事前に防いでいたのだ。
 もっとも顕現するまでは信仰が半ば絶え、洞窟の奥で引きこもっていた精霊である。
 どこまでやれるかはわからないが今年は皆の役に立ち、少しでも力を高めたいと彼女は言った。
『それに……邪神との戦いも控えておるのじゃろう? 妾は汝のような強い癒しの力はないが、雑魔程度なら駆除できる。それに万が一の場合は周囲の民をあの洞窟で保護し、水壁を造ることで人々を多少ながらも守ることはできようて。それが妾を保護してくれたこの国や人々にできるせめてもの恩返しになるじゃろう』
「……」
『まぁ、水の調整が終わったらまたこちらに遊びに来ることもできよう。その時はぜひともまた楽しい冒険譚を聞かせておくれ』
 明るく笑う清水の精霊の隣でしょんぼりと肩を落とすフィー。
 清水の精霊は美しいエルフの姿をしている。
 きっと故郷に帰ればその能力と相まってすぐに信仰を集め、力を集めるに違いない。
 だけど、自分は……身体が見た目通りコボルドと変わらぬ弱さで。
 他者を癒すことはできても守ることはできない。
 いつも後ろで祈るしかできない。
 だから今までは清水の精霊を癒し続けることで寂しさを紛らわせていた。
 ――その感情に「自分は嫌な子だ」と思う。
 常に前を見続けている清水の精霊と、自分の弱さから目を背けているフィー。
 自分はいったい何なんだろう。帝都に残る意味は? 
 清水の精霊がいなくなった時、他の誰かの役に立てるのか?
 そもそも一体自分は何をしたいのだろう、それすらもわからない。
 ただ、今まで出会ってきた人や精霊達が邪神によって傷つけられるのだけは嫌だと思う。
 でも――それに抵抗する力は自分にはない。傷を癒すことしか、できない。
 そう思うと涙がぽろぽろと流れてきた。清水の精霊が慌ててフィーを抱きしめ、慰める。
『泣くでない、泣くでない……。妾は汝を生涯の友と信じておる。必ずまた会いに来る。皆にも礼を言わねばならぬしな。だから少しだけの別れじゃ、いつもの愛らしい笑顔で見送っておくれ』
 ソウジャナイ、ソウジャナイノ!
 フィーはそう叫びたい気持ちを押し殺して泣く。清水の精霊は困ったようにフィーの頭を何度も撫で続けた。


●ツイテイクノ!

 次の日の朝方のこと。
 敬礼する軍人達に見送られながらゆっくり歩いていく清水の精霊に、聞き覚えのある荒い息が後ろから聞こえてきた。
 振り向くと――そこには大きな鞄を持ったフィーがいる。
『フィー、汝は……』
「葵、私モツイテイクノ! 葵ノ洞窟ノ近クニ私ノオ花畑ガアルデショ? 去年全然観ニ行ッテナカッタカラ確認スルノ!」
『……仕方ないのう。汝という子は。ただし、あそこまではそれなりの距離があるぞ? 途中で歪虚や雑魔と遭うかもしれぬ。最近妙に暴食の者どもは大人しいが、それ以外のものについてはわからぬ。その危険は承知か?』
「ウン! ダカラネ……」
 フィーは後ろからやってくるハンター達の手を引っ張ってきた。
 護衛としての任だけではなく、別れの時が寂しくないように。
 皆でピクニックをしたいとハンターオフィスに依頼を申請してきたのだ。
「皆ト一緒ニ美味シイオ菓子トオ茶をオ花畑デ楽シムノ! ソレナラ私、葵ト笑ッテサヨナラデキルノ。ダカラ……」
 大きな目を潤ませるフィー。清水の精霊は彼女を抱きしめ、ハンター達に深く頭を下げた。
『感謝するぞ、皆……フィーはこの通りの寂しがりやじゃ。誰かに必要とされることで安堵し、笑むことができる娘じゃ。だからこれからも……この娘の手を掴んでいておくれ』
 ハンター達が頷くと、その中のひとりがフィーの背中を擦った。
 大丈夫、お前はひとりぼっちじゃないだろうと。
「……ウン、今日ハ泣カナイノ。皆デイッパイ楽シイ事スルンダカラ」
 そう言っても真っ黒な鼻はぐじゅぐじゅで目は潤んでいる。
 でもフィーはハンカチでそれを拭うと元気よく歩き出した。
 邪神との戦いはどれほどの規模になるかわからない。
 清水の精霊とはこれが今生の別れとなるかもしれない。それでもいつか――笑顔で会えるようにと願いながら。

リプレイ本文

●再会と別れの日

 帝国の街道の多くは森に囲まれており、早朝には小鳥の声がよく響く。
 フィー・フローレ(kz0255)がマリィア・バルデス(ka5848)に手を引かれて歩くさなか、突然後方から蹄の音が迫ってきた。何事かと振り返ってみれば。
「香墨! 来ると思ってた。良かった」
「やっぱり澪も。嬉しい」
 周囲を警戒していた澪(ka6002)が親友こと濡羽 香墨(ka6760)との再会に声を弾ませる。香墨は下馬すると息を整え、清水の精霊・葵に向き合った。
「いきなりだったから。急いできた。さよならは。言いたくないけど。私が。いない間に。葵まで帰っちゃうなんて。……寂しくなる」
『すまぬ、香墨。しかし妾は水の調整と戦に備えねば』
「わかってる。私は。それは。葵にしか。できないことだから」
 葵が帰郷するのは人と自然を守るために必要な事と香墨は知っている。だからこそ、辛い。
「深く気を病む必要はないでしょう。グラウンド・ゼロとその周辺なら危険ですが、歪虚王らも今のところ討伐できていますし」
 どことなく重い空気の中、Gacrux(ka2726)が淡々と告げた。
 もっとも今までの戦による犠牲の大きさを彼は知っている。強化人間、東方の武人、帝国やリアルブルーの軍人達……。
 だが彼は敢えて落ち着いた物腰で精霊達に提案する。
「フィー、葵。よかったら記念にアクセサリーを作ってみませんか」
「『アクセサリー?』」
「作るのは簡単ですよ。綺麗な小石をワイヤーで括ったり好みのビーズを麻紐に通すだけ。ブレスレットでもストラップでもお望みのままに」
『ワァ、凄イノ! アクセサリーッテ手作リデキルノネ! ン? ソレトモGacruxガアクセサリー屋サン?』
 喜ぶフィーに彼は笑って首を横に振った。
「俺は簡単な作業ができるだけです。でも互いに交わすことでお守り代わりになるでしょう? 形に残せば寂しさが多少でも紛れる。何も無いよりはね」
 鞍馬 真(ka5819)が深く頷いた。
「私も手伝うよ。形に残せるものは残しておきたいからね。長く離れることになっても、絆の証としていつでも思い出せるように」
「ウン!」
 フィーの無邪気さに真が心の奥で呟く。
(私みたいに、忘れてしまわないように)
 そう。彼には転移前の記憶が存在しない。彼が己を顧みず他者のために戦い続けるのは自分の価値がわからないからだ。
 そんな彼の哀しげな瞳をみとめたのか、葵が穏やかな声音で語り掛ける。
『汝、過去とは現在の積み重ねじゃ。辛いものを抱えておるようじゃが、佳き日を重ねれば心休まる日も来よう。今日が汝に幸多き日になるよう妾は願うぞ』
「葵さん、ありがとう」
 そうだ、全力で生きれば。例えそれが一時的に己を傷つけたとしても自分の価値に、そして生きる理由になるかもしれない。
(別れは避けられない。だったらせめて「今」を全力で楽しもう)


●無粋な乱入者

 花畑への道半ば。森に挟まれた道で死体が群れを成して一行に襲い掛かった。とはいえこちらはベテラン揃い。
 澪の「先手必勝」の声と同時に全員のマテリアルが充実する中、真が剣を抜き精神を統一する。そして続けざまに蒼い炎を剣に宿らせた。
「楽しい時間の邪魔とは無粋だね」
 そう呟いた直後、真は迫る敵陣を鋭い剣戟で一瞬にして破砕した。骨片が降る中で静寂を湛える彼は恐ろしくも美しい。
 一方、マリィアは直感視で弓使いの死体達を視界に収めた。
「フィー、私が護るから心配しないで。……それにしても馬鹿ね。一網打尽を狙っているのかもしれないけれど」
 弓使い達は木陰や茂みに身を潜め、弓を構える。それより先にマリィアが魔導銃を天へ全弾発射するや、6体の弓使いが光の雨で消失した。
 一方、Gacruxは「さて、仕事といきましょうか」と呟き、能無し剣士の第二陣を蒼機槍と盾の二刀流で突き倒した。締めのアスラトゥーリによるオーラで奥に潜んでいた弓使いごとまとめて倒せば残りは4体。
 そこでようやく背を向ける死体達へエステル・クレティエ(ka3783)が宝術師の力を解放する。
「私の新たな力、お見せします! ストーンサークル……発動、宝術:ネプチューン!!」
 無数の宝玉が魔方陣を描く。そこから人魚族の女王が現れ、激流で死体を全て粉砕した。
「フィーさま、葵さま、こんな形でも精霊さんの力を借りられるようになりました。誰かの力になる形も、慕う、慕われる形もそれぞれです」
 エステルが優しく笑み精霊達に語り掛ける。精霊と人間は助け合える盟友なのだと。


●花咲く丘で

「……懐かしい。フィーも葵も。澪も。はじめのころ。いっしょに通った道」
 真が敵に囲まれた際に受けた小さな傷。その治療を終えた香墨は周囲を見回し、僅かに微笑んだ。
 2年前と風景は変わらないが、今の香墨は顔を隠さない。フィーも人を恐れなくなった。皆、確実に成長している。
「思えば遠くまで来たし。あの頃と比べ大きく成長した。でもそれはみんながいてくれたから」
 香墨がはにかむと、澪が頷く。
「全部全部忘れられない。辛かったことでさえ大切な思い出。この思い出が私達を結びつけてくれているから」
 一方で過去を思い出したのか切なそうなフィーの手をマリィアが握った。
「ねえ、フィー。花は人の心を癒してくれる。色で、匂いで、そして同じ季節にまた咲いてくれることで。ああ1年経った、今年も花の季節が来たって人の心を明るくしてくれるわ」
「……デモ私、皆ミタイニ強クナイ」
「いいえ、フィーさまが癒しの力で助けてくださることも、その愛らしい姿で花のように笑ってくださることも、とても大事な事なんですよ」
 マリィアがエステルの言葉に深く頷く。
「人はね、身体だけじゃなくて心を病んでも死ぬの。花はそこに居るだけで人を癒せる。フィーは殊更純粋な癒しを皆に与えてくれてる。貴女の力は貴女自身には当たり前すぎてわからないんだろうけど……それはとってもすごくて、とっても素敵なことなのよ?」
「ソウナノ? ソウダッタライイナ。私、皆ノ役ニ立チタイ。皆ノコト大好キダカラ」
 その間に真は丘の花に掛からないようレジャーシートを広げ、小さな板をテーブルと作業台代わりに並べた。
「皆が座れるようにシートを敷いたよ。さぁ、お菓子もあるから遠慮なく食べて!」
 作業台の上にはGacruxが持参した手芸用品、テーブルには真が用意したプリンをはじめとした菓子が並べられている。
 そこはフィーの生まれた花畑の傍で、野花の香りが漂う。フィーの顔に生気が戻った。
「真、オ花ヲ守ッテクレテアリガト! ソレト此処ノオ花ガ元気ナラ、葵ノ泉モ大丈夫ネ。アノ泉ノ水デオ花ガ育ツンダモノ」
『そうじゃな。後は防災と、周辺の住民と交流して万が一に備えるだけだの』
 そう言いながらGacruxに習った通り、道中で拾った石を使い要領よく紐を編む葵。その反面、フィーは太い指が災いし、石を組むのがやっとだ。
「ああ、フィーは細い紐の扱いは苦手でしたか。手伝いましょう」
 Gacruxの手を借り、フィーは水に近い色の石でブレスレットを完成させる。
「頑張りましたね」と彼に頭を撫でられた瞬間フィーは「ウ、ウン!」と顔をぼんっと赤らめ、葵とブレスレットを交換した。


●こころ、やわらいで

 フィーと葵がブレスレットを作っている間、澪達はテーブルに次々と料理を並べていった。まずはフィー持参のもの。それに。
(御弁当、いつもより多めに作った。皆の分も。……香墨の分も)
 澪は彩りよい和食を詰めた大きな重箱に、人数分の小皿と箸を添える。マリィアは手慣れた様子でホットサンドの支度を始めた。
 エステルは魚のハーブフリッターやサラダを並べた後、フィーに声をかける。
「フィーさまのミルク、分けていただけませんか? 紅茶とマシュマロを合わせてマシュマロミルクティーができないかなと」
「紅茶トミルクトマシュマロ!? 美味シソウナノ。オ願イスルノ!」
 そうして、皆が食卓につく。美食に舌鼓を打ち、色んなことを話して。
 だがGacruxは早々に食事を切り上げると魔導カメラで撮影を開始した。皆の幸せそうな顔、美味しい料理、その一瞬一瞬を逃さないように。
(インスタバエは相変わらず奥深い。楽しい雰囲気や料理の魅力を一枚の写真に落とし込むのは随分と骨の折れる業です)
 だがそんな思いに反し、彼は渾身の出来の写真を手にすると僅かに口角を吊り上げる。
 澪も道中で購入した画材を広げ、友人達の絵を描き始める。
 食事を終えたエステルはフルートで柔らかな音色を奏で始めた。
(風に吹かれてお花を眺めて食事して……戦いが嘘みたい。そういう時間があるから諦められないでいられるんじゃないかなって)
「ン? エステルノ笛、久シブリナノ」
「ええ。私は曲を思い出にします。フィーさまが歌ったり、葵さまが水滴の音で奏でられそうな。そんな曲を」
 即興のメロディにエステルはふと思い浮かんだフレーズを重ねる。
「思い出の花雫、いつまでも こころに染みて笑顔を吹かすよ……♪」
『ほう、花雫とな? 汝はフィーと妾を記憶してくれるのか』
「ええ。精霊の皆さまにはたくさんの思い出をいただきましたから」
『そうか。それならこれを汝に渡そう。記憶の断片になれば幸いじゃ』
 エステルに小さなペンダントが渡される。
「葵さま……これは」
『気にするな、ただの気まぐれじゃ』
 そう言って葵は屈託なく微笑んだ。
 その時、エステルの歌に心を揺さぶられたのだろう。香墨が訥々と語り出す。
「2年前の秋にフィーを助けて。フィーの願いで葵を迎えに行って。一緒に公園を造ってお茶会して。友達になれて嬉しかった。葵が傷ついた時、本気で怒ったけど。助かった時、本当に嬉しくて……」
 香墨が涙を堪えて笑みを浮かべる。その背を澪が抱きしめた。
 澪の膝の上のスケッチブックが落ちる。皆の笑顔と談笑する姿が緑の上にぱっと広がった。
「葵に、フィーに、そして香墨に。思い出をくれた皆に。私は口下手だから……上手く伝えられないけれど、でもこれだけは確か。絶対忘れない。何時でも一緒……ありがとう」
 そうして澪は絵を友人達に渡していく。その全てに幸せを願う言葉が書き込まれている。フィーは思わず涙を零した。
 そこに紙巻煙草を咥え周辺を散策していたGacruxが、煙草を始末すると深く息を吐き腰を下ろした。
「会おうと思えば会えるし、対立しているわけでもない。何も悲しいことは無いではありませんか。伝書鳩やパルムで手紙をやり取りするのは?」
 そう言ってハンカチを差し出すGacrux。真が静かに口を開いた。
「がっくん、私はフィーさん達が泣くことを止めはしない。今は伝えたい事がいつ伝えられなくなるかわからない時勢だからね。相手を困らせても、後から後悔するよりは、今伝える方が良いと思うんだ」
 真が転移を機に記憶を失ったように、ある日突然大切なものを喪う可能性はある。Gacruxはかつて愛した歪虚を思い出し、苦い表情を浮かべた。
「……そうですね。後悔しないように、か」
 その時、マリィアが敢えて明るく皆に声をかける。その腕には野花が沢山抱かれていた。
「ねえ、今日は思い出づくりが目的でしょ? だったらフィーの花で花冠を作って葵にあげたらとても喜ぶと思うわ。作り方は私が教えてあげる。皆も一緒にどう?」
 これらの花々はフィーの花畑を深く傷めないよう、花畑の外側で摘んできたもの。フィーは大喜びでマリィアや友人と協力して冠を完成させ、葵の頭に被せた。
 そこにマリィアが花の指輪をフィーと葵の指に嵌める。
「これは私からふたりに。お揃いになるよう編んだの」
『マリィア、汝は優しいの。感謝するぞ』
「可愛イ! ズットズット大切ニスルノ!」
 それから仲間同士で花冠を交換したり花で髪や服を飾る様をマリィアは密かに魔導スマートフォンで撮影した。思い出が消えないように。


●そして日常へ

 陽が暮れ始めた。そろそろ帰らねば灯のない道で難儀するだろう。
 しかし澪の隣に香墨が座り込み、呟く。
「やっぱり。まだ離れたくない。一緒にいたい。でも葵のことも大事だから。私は……」
 その寂しげな声に澪が香墨の肩を抱く。
「今……香墨はここにいる。また、会えた。だから葵も一緒だよ。いつか、また、会える」
「……寂しいけれど。旅した間も繋がりを忘れたことはなかった。それはこれからも同じ。……生きてさえいれば。また会えるから。……ずっといっしょ」
 香墨は涙を拭うと皆に「ありがとう」と笑み、別れ際に葵へ雪結晶のピアスとドレス「ナイトミスト」を手渡した。
 水属性のピアスは葵に力を与え、洞窟では闇属性のドレスも心強い味方となるだろう。
『香墨、汝にはいつも助けられておるな。感謝を。いつかまた必ず会おうぞ』
「ん。葵も元気で」
 こうして香墨は乗馬すると、一回だけ皆に手を振って去っていった。

 その後の別れはフィーが笑顔で葵とハグをするという明るいものだった。
 そんな帰り道、澪が呟く。
「フィー、香墨がいなくなった時に思いを共有できて、誰より私を慰めてくれたのが貴女だった。貴女がいてくれたから、私は受け入れられた」
「私モ、澪ト一緒ダッタカラ我慢デキタ。デモ……」
 その時、Gacruxがさりげなく語り掛ける。
「フィー、思い切って街に出てみませんか。幻獣のチューダやテルルは人気者、あなたももふもふの一人者として人気を博すかもしれません。それに今日の料理は美味でしたし、人や店に関わるのはどうでしょう? 看板娘になれるのでは?」
 一方エステルは心安らぐ道を提案した。植物を育む力を持つフィーのために。
「私は……戦で大地が荒らされていますから、これから先のために新しく緑地を広げるのもいいと思います。でも焦ることはありませんよ。私達も日々沢山悩んで、悩み慣れています。何時だって相談してくださいね。お友達のように」
「Gacrux、エステル、新シイ道ヲ教エテクレテアリガト! 私ッテ皆ノ役ニ立テルノネ、コレカライッパイ考エテミル。ソレト皆ハモウ、私ノ大切ナオ友達ダヨ!」
 その時、マリィアが魔導スマートフォンを差し出した。
「それならフィー、これを貴女にあげる。魔導スマホは生体マテリアルに反応するから貴女でも使えるはずよ。これからはフィーが自分で思い出を貯めていって」
 フィーの手をとり先ほど魔導スマホに撮影した画像を表示させるマリィア。たくさんの笑顔と葵の姿が映っている。
「イイノ? コンナニ凄イモノ」
「思い出は買えないものよ? それに緊急時の連絡にも使える。フィーの安全のためにも持っていて」
「ワァ、宝物ガ増エタノ! アリガトウ!」
 早速皆の姿を撮影するフィー。マリィアは笑いながらその姿を眺めた。
(きっと近いうちにデータがいっぱいになるでしょうね)と。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 8
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacruxka2726
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨ka6760

重体一覧

参加者一覧

  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨(ka6760
    鬼|16才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/04/15 00:31:11
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/04/14 20:17:13