• 血断

【血断】眠りを断って死に惑え

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
5~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/05/16 15:00
完成日
2019/05/23 00:43

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●三者三様
「撃破一択」
「撃破は……うーん、封印かなぁ……」
 エドとハンクが口々に言うのを、ジョンは絶望的な目で見ている。

 三人で生活を共にしている住居の食卓。発表された選択肢について、エドとハンクが話し始めた。エドはどうするの? ハンクがそう尋ねて、エドは即答したのだ。
「撃破ってお前……」
「何だよ。邪神さえいなくなれば全てが解決するんだぜ」
「封印だって……同じじゃないか?」
「まあ、お前には一生わかんねぇよな」
 エドは苦笑して見せた。
「俺はな、人生で初めて『嫌な奴を殺しに行って構わない』って言われてるんだ」
 ジョンは絶句した。
「おま、お前……」
「お前には絶対わからない。頭が良くて、人間関係にも困らなくて、馬鹿にされることもそうそうない。お前にはわからない」
 呪文のように繰り返される、「お前にはわからない」。わかってたまるか。殺して構わないと言われて張り切るなんて。ルサンチマンが燃料になる人間を、ジョンは永遠に理解できない。
「ハンク、君もそうなのか……?」
「僕は、まあ、エドの気持ちもわからなくはないけど、そこまでエネルギーにはできないかな……」
「そうじゃなくて……」
 ジョンは言葉を切る。
「人が死ぬんだぞ。見ただろ、この前の作戦で」
 ソードオブジェクトが落下して、爆発が起こって大量のハンターが死んだ。撃破となったら、知人の遺影だって並ぶかもしれない。遺影を並べる世界がある保証もない。もう嫌だ。あんなに大量の魂をすり身にして燃やす戦い、ごめんだ。
「僕たちだってあんな風に死ぬかも知れないんだぞ! お前、この前死にたくないって言ったじゃないか!」
「取り込まれて楽になる保証もねぇよ。死ぬよりキツいかもしれないじゃん。ごめんな、ジョン。俺は撃破に入れる。だからって追い出すのは勘弁してくれよな。つっても、俺の一票で変わるわけじゃないし。そんなに怖い顔すんなよ」
 エドは冗談でも言うように笑った。ジョンは唖然として……本当に口が利けなくなったかのように、その顔を見つめる。
「……」
「なんだよ、いつもみたいに言い返さないの?」
「エド、僕は、今、初めて、お前のことを怖いと思った」
 指先が冷たい。
 僕は一体誰と生活していたんだろう? この人一体誰なんだろう。何でこんなに考えてることが理解できないんだろう。同じ人間なのに。
「何だ、今更かよ。友達に付き合って、イクシード・アプリなんていかがわしいものを、特に自分の利益も考えないでインストールした俺がまともだと思ってたのか? ハンクにはエマって動機があったけど俺には何もなかったぜ」
「酔狂だったって言うのか」
「まあそんな言い方もできるな。別にハンクと心中するつもりもなかった」
「そうなの?」
「何でがっかりしてんだよお前」
「し、してないよ別に……」
「……」
 ジョンはスプーンを置いて立ち上がった。
「食わないの?」
「……寝る」

●ハンターオフィスにて
「ジョン、顔が虚無になってるけどどうしたの?」
「なんでもない……」
 結局、一睡もできなかった。翌日、三人でハンターオフィスを訪れると、受付のC.J.(kz0273)がジョンの顔を見て首を傾げる。オフィス職員は残りの二人を見るが、エドもハンクも肩を竦めるだけだ。
「……まあ、良いけど」
 ハンターたちに迫られている「決断」のことなら、自分が口を出すべきではない。
「またぽつぽつ歪虚事件はあるんだな。邪神側は侵攻しないって言ってたんじゃないの?」
「あくまで大規模な侵攻はね。雑魔なんかは勝手に湧いてくるからさ。その辺のお掃除は続けないといけないわけ」
「なるほどね」
「で、ちょっと人手が要りそうな事件があるから君たちは他のハンターと合流して行ってきて。小さな町にね、歪虚ゴーレムみたいなのが出ちゃって。潰れた家屋に閉じ込められた人もいるみたい」
「オッケー」
「……ジョンは留守番する?」
「いや、行く」
「大丈夫か?」
 エドが怪訝そうに言う。お前のせいだよ! と叫んでしまうわけにもいかないので、ジョンは黙り込んだ。
「ジョンは見ておくから大丈夫ですよ、CJ」
 にこにこしながらハンクが言う。C.J.はしばらく三人の顔を見比べていたが、
「……くれぐれも気をつけてね?」
 目を細めてそれだけ言った。

●臨場
「お待ちしていました!」
 町長はハンターたちが到着するや、地図を広げた。現在地は南側の商工会議所だ。
「ここ、東にある集会場の周辺に今集まっている状態です。連中は北側から入って、真ん中まで来てから東に行ったようです。目撃証言合わせると六はいるようですが、全部が東に行ったわけじゃなさそうです。また北側は被害が酷くて、潰れた家に子どもが取り残されているみたいで……ただ、まだそっちにもゴーレムがいるから私たちでは手が出せないんです」
 ハンターたちは三々五々、役割を決めて対応に回るのだった。

リプレイ本文

●ハンターオフィスにて
「わふーっ、こないだぶりですー!」
 アルマ・A・エインズワース(ka4901)は、オフィスで合流するや三人組に飛びついた。正確にはエドにである。この三人の中でも、エドは彼のお気に入り、らしい。エドの方もまんざらではないので大人しく愛でられている。
「えへへへへへ」
 ちなみにこのエドワード・ダックワース、アルマが守護者を取得したことには全く気付いていない。サブクラスは傍から見てわかるものではないのだが、なんと言うか、鈍い。元々の認識が「親切にしてくれて危ないところを助けてくれる人」なので尚更だろう。最近守護者になった、と言われても、逆にピンと来ないかもしれない。元々守ってくれていたから。

「よぉハンク、お前も依頼に出るんだな。今日はよろしく頼むぜ」
 と、今回初めて依頼にハンターとして出るハンクへ声を掛けたのはトリプルJ(ka6653)だ。同盟動乱の事件に巻き込まれていたハンクを何かと気に掛けていた彼としては、ハンクが自分たちの側に立っていることは喜ばしいようだ。肩を叩く。
「はい。よろしくお願いします」
 精神が安定してきただろうか。そう言って愛想良く微笑みを返した。この前、ハンクと呼んでくださいと伝えたが、今日実際呼ばれて嬉しいようでもある。

「ジョンくん今日はよろし……あれ?」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)は、同じ聖導士のジョンにそう声を掛けて、顔色が悪いことに気付いたらしい。トリプルJも気付いている。
「……ところでなんで今日こっちはこうなんだ。子供か……子供だな」
「そうだよ。子供だよ」
 C.J.が目を細めた。彼はトリプルJを手招きして、
「そう言うことでよろしく頼む。アメリカでは君がジョンを見付けたって聞いた。今回もよろしくね? 連れ戻してやって」

●索敵
 現場に到着してから、町長の説明を受けると、最初に動いたのは岩井崎 旭(ka0234)と時音 ざくろ(ka1250)だった。旭は天駆けるもので飛び上がり、ざくろは機械化怪鳥Lo+を飛ばしてファミリアズアイで視覚を共有する。行動決定前の索敵だ
「東が多いんだっけ? 東側中心に見ていくよ」
 覚醒の効果で、頭部がミミズクになっても、問題無く疎通はできる。学生三人は少々驚いていたようだったが、くりくりとした鳥の目玉に愛嬌を感じているようでもあった。
「全部が東じゃないと言っていたね」
 鞍馬 真(ka5819)は札を広げて占った。
「北にもいるなら、あとは西かな? でも西と一口に言っても広いからね」
 以前、東西南北を範囲にして、「西側」の細かい方角まで占いが叩き出したことがある。会心の結果がそう何度も出るわけではないだろうが、西側に絞ればまた細かいところまでわかるかもしれない。
「私たちに近い方と出た。時音さん、南西の方偵察できるかな?」
「うん。見ていくね」
 Lo+を飛ばしながらざくろが言った。怪鳥は、長い首を優美に伸ばしながら空に飛んで行く。
「五十メートルが限度だけど」
「その範囲に何もねぇのがわかりゃ御の字だろ。何かあれば儲けもんだ」
 トリプルJが肩を竦めた。少ししてから、トランシーバーに旭からの報告が入る。
「見えたぜ。東側には小さいのとでかいのが合わせて五体、北側にはでかいのが一体いる。西はちょっと見えない。ざくろ、どうだ?」
「えーっとね……あっ、いたいた! 大きいのと小さいのが、のしのし歩いてるよ!」
「その数では、東が手厚くなった方が良いな」
 セシア・クローバー(ka7248)が腕を組んで言った。
「どう分かれる? 私は東に向かおう」

●決断の結論
 東側にはハンクを連れて、アルマ、ユメリア(ka7010)、セシアが旭に合流することになった。北側家屋には、ディーナとトリプルJがジョンの支援も兼ねて担当。西側の索敵には、ざくろと真がエドを連れて行く。
「同じ魔術師としてよろしく」
 セシアがハンクにそう挨拶をすると、ハンクも微笑んで、
「こちらこそよろしくお願いします」
「あちらの彼は体調でも悪いのか?」
 ジョンのことだ。
「うーん、よく眠れなかったみたいなんですよね。なんなら眠らせちゃおうかなって思ってスリープクラウド持ってきたけど、トリプルJさんがいるんだったら大丈夫かなぁ。ジョンはちょっと前にお世話になったから慕ってるんです。ディーナさんも強い人だって聞いてますし」
「そうか……決断……君達とは違う答えだったのか?」
「ううん、彼はまだ結論を出してないんです」
「そうか」
 彼女は頷いて、先を急いだ。

●爆風(炎属性)
 集会場に到着すると、既に旭が交戦していた。ゴーレムからの殴打は回避している。
「待たせたな、旭」
 セシアが声を掛けると、旭は手を挙げてそれに応えた。
「まずは鎮魂歌を」
 ユメリアがレクイエムを歌い上げた。歪虚に使うのにはもったいないような美しい旋律、抑揚であった。メロディまで聞こえてくるようだ。いや、実際聞こえている。彼女が覚醒すると、その力を行使する際に音楽が聞こえることがあるからだ。全てが歌の届く範囲にいるわけではないが、一部にはよく効いている。
「一直線にできないか? ライトニングボルトで巻き込みたい」
「良いぜ!」
 セシアのリクエストに応えたのは旭だ。彼は青い光を纏った拳を握りしめ、外れたところにいる一体を殴り飛ばした。石畳を削って、ゴーレムが後ろに滑っていく。
「ありがとう。さて」
 その間に、多数を巻き込める場所に移動したセシアが、エクステンドレンジからのライトニングボルトを放った。雷撃が低い位置を奔る。効いているようだ。ユメリアのレクイエムが効いていて、どれも上手く身動きが取れないようだ。元々重たい体も災いしているだろう。
「思ったより効いてるな」
「ハンクさん、これ土属性です! 風が有効です! ちなみに僕持ってないです!」
 セシアの呟きから気付いたアルマがハンクに言った。ハンクは困った様に、
「風……? ファイアーボールの爆風は風に入りますか?」
「うん、ないだろうな」
「わん……」
 ゴーレムが並んだままなのを見て、アルマがファイアースローワーを放った。
「あ、そうだウィンドスラッシュ……」
 ハンクは杖を掲げた。鋭い風がゴーレムに襲いかかる。
「お、良いな、効いているぞ」
「その調子です! 僕は火力で押し切ります!」
 ゴーレムが反撃に出た。殴り掛かられた旭は軽く回避。アルマは攻性防壁で弾き返す。
「足止めをしましょう」
 ユメリアがプルガトリオで釘付けにした。
「例え、なんか難しい重い悩み事ムードに流されても!」
 旭が拳を握りしめた。
「殴り合って血を流して、そうして全部振り切る!! 邪神がどーだとか、うだうだ考える前に、町は守る! ゴーレムはブチ砕く!」

 踊り狂う乱気流。相手を翻弄するように。
 明日を想う竜環。その紋様が、青い光を放った。
 続けざまに放たれた打撃がゴーレムを砕いて、崩す。

「そうだ! 俺はそーゆーのだ! 覚悟しろよ、ゴーレム野郎!!」

 彼の気迫に圧されたのか、プルガトリオにもがいているのか、別のゴーレムが身じろぎした。だが逃げることはできない。
「ハンク、チャンスだ、畳み掛けよう」
「はい!」
 セシアが放つライトニングボルトの直線上から外れた個体にウィンドスラッシュ。それでもまだ残っている個体には、アルマがデルタレイを叩き込んだ。

●目的を果たすために
 真はざくろが見付けたゴーレムの方へ向かう道すがら、エドにさりげなく、
「何かジョン君が死にそうな顔をしていたけど、昨日何かあった?」
「昨日? ああ、何かどれに投票する? みたいな話してたけど。そう言えばそれから様子が変かもしれないな」
 エドはジョンがそこまで思い詰めているだなんて、欠片も思っていないので、首を傾げながら答える。
「エドくんはどれに入れるつもりなんだい?」
「俺? 撃破かなー」
 恐らくだが、昨日その話題の中でエドとジョンの間で意見の相違があったのだろう。この前のエバーグリーンでもそうだったが、恐らくエドは、ジョンが自分の何を嫌がっているのかわかっていない。それで、何度でも衝突を繰り返す。
 だから、というわけでもないが、彼は理由を尋ねなかった。どの選択肢が選ばれても、それを叶える力は必要になる。今は結論を模索しながら力を蓄える時だろう。
「……そっか。なら、強くならないとね。邪神でも何でも殺せるくらいに」
「うん」
 エドは嬉しそうに頷いた。
「真はそう言ってくれると思った」

●上乗せ
「いたよ、二人とも」
 家屋の角から向こうを伺っていたざくろが二人を手招きする。彼の後ろから真とエドもひょこっと顔を出した。Lo+でざくろが見たとおり、大型と小型のゴーレムがのっしのっしと歩いている。
「トロい」
 エドが鼻で笑った。自分より運動神経が悪そうに見えるとつい優越感に浸ってしまうのである。
「確かに動きは鈍いかも。でも重そうだし、ぶっ飛ばされる可能性はあるよね」
 ざくろが顎に手を当てながら考える。
「二人とも、細いから飛んで行きそうだよな」
「エドくんも結構細いからね」
 などと話しながら、三人はひとまず接近した。ちなみに、ぶっ飛ばされるかどうかは抵抗値にかかっているので、最も練度の低いエドが一番ぶっ飛ばされる可能性がある。
 ざくろは、携帯していた盾・ナナカマド、短刀・アナプティラス、剣・レーヴァテインを、操牙で展開した。
「固そうだしね! これで威力を上乗せできないかなって」
 なおかつ、今日装備しているドラグーンサークレットは腕力を高めるものだ。龍が象徴する力と知恵の内、力の恩恵を得るサークレットである。
「よし。そっちは任せるよ。私は大きい方にできるだけ攻撃を当てられるように試してみる」
 真の剣が青いマテリアルを帯びた。
「俺は? 俺は?」
「エドくんは思うようにやって良いよ。巻き込まれないようには気をつけて欲しいかな」
「わーい!」
 仕込み杖を抜刀したエドははしゃいでいる。
「いくぞ!」
 ざくろはカオスウィースにマテリアルを流し込み、巨大化させた。超重錬成だ。
「解放・超重操剣禍炎×の字斬り!」
 レーヴァテインとアナプティラスを同時に射出。さらにカオスウィースのマテリアルを強制的に解放。かなり制御が難しい技術だが、ざくろはそれらをこなした。転ばせることには失敗したが、かなりのダメージが入ったことが見て取れる。重く、鈍いが短い音。惰性ではなく、制御しきっての一撃であることがその音からもわかった。
 そこを狙ってエドがアサルトディスタンスで斬りかかった。が、
「固い!」
 大したダメージは入っていないだろう。
 一方の真は、メインとして持ってきているストームレインに蒼炎華を纏わせている。クトネシリカと併せた二刀流で、続けざまにゴーレムを斬りつけた。そこから、アスラトゥーリ。オーラの斬撃が長く伸び、ざくろの前のゴーレムも巻き込んだ。
 小型の方はそれで消えたが、大型は持ちこたえた。それは、目の前にいる真にそのまま殴り掛かる。真は軽く跳び退って回避した。
「もう一度……! 食らえ! 超重操剣禍炎×の字斬り!」
 背後からざくろがもう一度カオスウィースを叩き付けた。操牙で射出した剣と短刀も追い打ちを掛ける。
「すげー!」
 エドがぱちぱちと手を叩いた。ゴーレムがゆっくりと倒れる。真が後ろに下がった。倒れたゴーレムは、そのまま塵になって消えていった。

●ここで待ってて
「戦闘は後ろで見て貰っていても良いかな。でも子供は一緒に助けに行こうなの」
 ディーナに手を引かれて、ジョンはトリプルJについて北に向かった。
「人に相談できないくらい、苦しい感じなの?」
「……」
 喋ったら吐きそうだ。口を開けないままでいるジョンを見て、ディーナは、
「そっか」
 それだけ言って、追求しなかった。少女の白くて小さな手は、ジョンの手をしっかりと握っている。存在を保証するように。
 トリプルJは超聴覚と超嗅覚を用いて子どもの音や臭いを探っている。しかし、音はともかく、臭いに関してはやや難しい。サンプルがない。
 とは言え、旭からの報告があったから、大体の位置はわかっていた。そして彼らは見付けた。住宅街で歩き回っているゴーレムと、その向こうで潰れている家を。
「あの家か」
「きっとそうなの。先にゴーレム撃破した方が安全なの」
「違いねぇな。おい」
 トリプルJはジョンを振り返る。
「今のお前じゃ怪我するだろ。そっちに隠れてろ」
「でも……」
「体調不良で戦場に出たら死んじゃうの。ここで待ってて、ね?」
「心配すんな。俺もこいつもそんなヤワじゃねぇ。ヒーラー一人いないくらいでどうこうならねぇよ」

●ヒット&ヒット
「さて。まあ、言わなくても考えてることは同じだろ」
 メイスの素振りをしているディーナを見て、トリプルJは言った。
「私もそう思うの。お願いしますなの」
「よし」
 トリプルJはファントムハンドをゴーレムに伸ばした。何かの気配には気付いたらしいゴーレムがこちらを向く前に、その胴体をがっちりと掴む。そのまま、ずるずるとこちらに引き寄せた。
 そこに、ディーナがフォースクラッシュで殴り掛かった。容赦のない一撃だ。ゴッ、と重たい音がする。そこにトリプルJがインシネレーションでワイルドラッシュを叩き込んだ。ジョンは知らないことだが、インシネレーションは殺人鬼が用いていたとも言われている。殺意が高い。
 いたってシンプルな戦法だった。殴られれば避けるか防御するかして対応。それでダメージが大きければディーナが回復する。逃げようとするならトリプルJがファントムハンドで捕まえておく。それをディーナが殴る。トリプルJも殴る。

 ゴン、ゴツッ、ガッ、バキッ、ドゴン。

 黙々と殴り合いが続いた。ジョンはその様子を物陰から見ながら震え上がった。
(つ、つよい……)
 二メートルを越すゴーレムに立ち向かうのもそうだが、すぐ近くを陣取り、相手も逃がさず、ひたすらに殴り続ける。その集中力と気力は、熟練のハンターだからこそなせる業だろう。
 当然と言うべきかなんと言うか、ゴーレムはやがて消えた。殺意が高い。
「ジョンくんお待たせなの!」
 レイバシアーを担いだディーナが笑顔で迎えに来た。
「お、お疲れ様でした……」
「開けて~!」
 その時、潰れた家の中から子どもの声がした。ディーナは慌てて駆けつける。
「開けて開けて! 弟と一緒に閉じ込められちゃったの!」
「待ってて!」
 ディーナはドアノブを掴んで普通に開けようとしたが、どうも損壊した衝撃で建て付けが悪くなったらしい。開かない。
「トリプルJさん手伝ってなの」
 ちなみに、ディーナも本気を出せばよっぽどのことがない限り開けられる。トリプルJが、他にゴーレムがいないか確認している間に、聖歌によるサルヴェイションを子どもたちに聞かせた。
「開けるか」
「せーの!」
 それでなくても開けられるハンター二人に加えて、トリプルJは怪力無双も用いた。ドアは蝶番からバッキリと音を立てて外れる。
 幸いにも、取り残されていた姉弟はかすり傷程度の負傷だ。他に外傷はない。頭を撃った様子もなかった。トリプルJは通信機で他の戦域に連絡を入れる。
「子どもたちは助けた。悪いが援護は行けねぇ。送り届ける」
「ああ、よろしく頼む。こっちも片付いたから安心してくれ」
「こっちも済んだよ。お疲れ様。子どもたちはお願いするよ」
 セシアと真から返事を聞くと、三人は子どもを連れて商工会議所に向かった。
「二人ともよく頑張ったね。ご褒美だよ」
 道すがら、ディーナはキャンディと二人とジョンの口に放り込む。彼女は、姉とジョンの手を掴むと手を繋がせた。
「最近、誰かと手を繋いだり撫でられたこと、あるかな? 私達聖導士は、人を守るために戦ってるの。自分が戦ってでも何を守りたいか、探しに行ってみる?」

●君の決意を送り出す
 ひとまず、全てのゴーレム撃破が確認された。町長への報告するために、他のメンバーとの合流を待つ間、ハンクはセシアとユメリアを交えて、選択肢について話をしている。
「僕は封印に入れたいなって思ってるんです。撃破は、予想される被害を考えると、ちょっと荷が重くて。僕はそんなに戦えないし、責任が持てないから……」
「私も封印が一番近いでしょうか」
 ユメリアが言った。
「精霊や幻獣、異世界。そうしたものが消えて行くことは、それらを語る吟遊詩人も……私ですね……いずれ消えゆく定めとなります。今は科学の進歩も著しい。歴史の保持なども私が語る間もなくなるでしょう」
「事実を保存することと、それを見て思ったことを語る人がいるのは違うと思いますけど……」
「でもそもそも想いと言うものは一度灯れば消えはしない。無意識ではすべての人知はつながり記憶されている。今ある命は大切にし……大切に生きる以上、その想いを継がなければなりません」
 神代の終わりを迎えても。ここで見知ったものが消えるわけではない。
「そうですね……僕もたくさんの人に助けてもらいました。その人たちには、やっぱりそれぞれ色んな背景があって、その上で助けてくれましたから。お世話になったことは、忘れたくないですね」
「ただ邪神が食らった星や命もいつか救いがもたらされるようにもしたいと思っています」
「と、言うと?」
「力を無くした後も、それで終わりではなく、その先も含めて考えないとそれはただの先送り」
 ユメリアは微笑む。一度灯れば消えない想いを継ぐために。
「その為には、あなたの想いを、ここにいる皆の想いを力にすることが重要だと思います。機会がきた時には、是非お貸しくださいね」
「はい。僕で良かったら」
 ハンクは頷いた。それから、黙って聞いているセシアを見る。
「セシアさんはどうするつもりなんですか?」
「私は討伐と考えてるが、お互いその答え、理由、その理由に至った自分を大事にしよう」
 彼女はあっさりとそれだけ答えた。肩を竦める。
「答えをひとつにするというのは、同じ答えを選ばない者を否定するという意味じゃないと思う。そうであるならその動きそのものが歪みじゃないか? 違う答えを持った人も肯定した先がひとつになることと思うが私は単純に先の百年、千年先の誰かに困ってほしくないだけだし」
「ううん、それが封印のネックですよね……」
「リアルブルーでは、『君の意見には反対だ。だが、君がそれを言う権利は死んでも守る』という言葉があると聞く。私はそれでいいんじゃないかと思うんだがな」
 他のメンバーも三々五々戻って来た。セシアはハンクを見送る。
 友の元へ。

●選べば来るお別れを
 ハンターオフィスに帰還すると、アルマはエドとハンクに手招きした。ジョンは……と言うと、トリプルJに引きずられている。アメリカの森でジョンを見付けたのがトリプルJだったから、実は会いたがっていたのをエドもハンクも知っている。だから引き留めなかった。
「どうしたんだよ」
「お二人、邪神についてはどれを選択するおつもりですか?」
「撃破一択」
「僕は封印かなぁって」
「わう」
「そう言うアルマは?」
「勿論撃破一択です。皆さんに二度と会えないのは寂しいですし、それに……」
 耳がしょもん、と垂れた。
「封印だけは選べないんです。僕、恋人さんができまして」
「それは、封印で潰える関係なんですか?」
 ハンクが慎重に尋ねた。
「僕もジョンと同じで、できれば人間の被害がない方が良いと思って封印にしています。ジョンは結論出せてませんけど。あ、つまり……精霊さん? 超自然の方、なんですね?」
「精霊と人間って付き合えんの!?」
「はい……英霊さん……つまり、精霊なんです。僕の恋人」
 二人は顔を見合わせる。それからエドがはたと思いついた様に、
「あ、そうだよ。駄目だよハンク。オートマトンに何か影響出そうじゃん」
「え? どうして?」
「いや、憶測だし、どうなるかはわかんないけど……ボディに精霊をインストールしてるのがオートマトンだって聞いたよ、俺。あ、でもボディがあると大丈夫なのか……? いやわかんないけど……」
 ハンクはエバーグリーンの任務に参加していないのでいまいちピンと来ていないが、エドがどうやら本心からその可能性に困っていることには気付いたようだ。
「あの子がいない世界で生きる位なら、地獄に飛び込んだ方がマシです」
 アルマは断言する。
「封印って選択を否定するわけじゃなくて。でも、できればあの子を消さないでほしいなって……あ、ごめんなさい。皆さんにとっては知らない子ですもんね」
「……ねえ、エド、真さんやざくろさんに挨拶しなくて良いの?」
「え?」
「一緒に行動したでしょ? それに真さん、随分エドのこと気に掛けてたから」
「うーん、そうだな。二人ともいつも俺に構ってくれるんだよな。じゃあちょっと挨拶してこよ。アルマまたね。俺も撃破だから、あんまり気落ちすんなよ」
「はいですっ」

●重なる目的、対極の手段
 エドを見送ると、アルマはハンクの顔をじっと見た。
「人払い、ですよね? 何か僕に言いたいこと、あるです?」
「結論から言います。僕はエドが死地にいくのが嫌です。彼は邪神に一矢報いたがってるから前線に志願するでしょう。それは、アルマさんが恋人さんとお別れしたくないのと根っこの感情は一緒だと思ってます」
「はい」
 反論は予想していたのだろう。アルマは頷いた。
「これは内緒ですけど、僕はエドの命を他人に取られたくありません。アウグスタもそれで裏切りました」
 それを聞いて、アルマは先日「自分によりも他人に手を出される方が嫌じゃないか?」と尋ねた時に、微妙にハンクの反応が鈍かったことに納得した。他人「が」手を出すのが嫌なのだ。
「でも、根っこの部分は同じなので……アルマさんがその精霊さんとお別れしたくないのもわかります。うーん。困ったな……誰かエドに戦闘の適性なしって烙印を押してくれないかな」
「わん……」
 突然言うことが雑になる男、ヘンリー・フェアフィールド。
「うーん。望んでいることが同じなのに叶えられる選択肢が正反対だなんて……いざとなったらエドを縛ってどこかに放り込むしかないのかな……いや、でも放り込んだ場所が安全な保証もないし……あ、ジョンは慎重だから簡単に死なないと思うので心配してないんです。それは誤解しないでください」
「はいです」
「後悔したくないですし、後悔した時にアルマさんを恨みたくありません」
 自分もこれで討伐に入れて、討伐が選ばれて、その上でエドが死んだ時、弱い自分はきっと誰かのせいにしたくなる。
「でも、もう少し考えてみますね。聞いてくださってありがとうございます。話せて良かった」
 ハンクはそう言って微笑むと、その場を後にしようとして、振り返った。
「今のは内緒話でお願いします」

●蛮族エドワード
「誰がどんな理由でどの選択肢を選んでも、私は批判も否定もしない」
 形ばかりの挨拶を済ませたエドが、ざくろと真をそのままつかまえて雑談している。その中でやはり選択肢の話になり、真はそう答えた。
「大人~! ざくろは?」
「ざくろは撃破か封印、出来るなら撃破したいなって……いつ復活するかわからない問題を、これから生まれる子供に背負わせたくないし」
「リア充~! 恭順は?」
「えっ、恭順? 無い無い、データになって生きる様な物でしょ、ざくろ二次元と三次元はちゃんと区別付く男だから」
「はっはっは」
 何故かツボに入ったのだろう。エドは手を叩いて笑った。真はその様子を見ながら少し微笑んで、
「ただ、どの選択肢にしても力は必要になる。だから今は、考えながら強くなるべき時期なんだろうな、と考えている」
「真は大人だな……ざくろは愛に満ちてるよ」
 エドは頬杖を突いた。
「俺も強くならなきゃなあ。シェオルの首くらいは取りたい……」
「エドがやると蛮族だよ……」
 書類仕事に一段落ついて話に混ざったC.J.が苦笑しながら言った。

●逃げ道
 トリプルJはジョンを部屋の隅に引っ張った。今にも吐きそう、という顔をしている彼に、
「お前、今日寝てねぇだろ。何があった」
「……」
「だんまりか。言えねえことか。女にでも振られたか……違うな。エドとハンクと喧嘩でもしたか」
「してない」
 喧嘩はあくまで話が通じる相手と成立するのだ。価値観が違いすぎて喧嘩にもならない。
「……おい、お前ら本当に三人で同居して大丈夫か。同居じゃなくてアパートメントの別個室くらいの距離感の方が負担にならないんじゃないのか」
「あの二人だけにしてたらそれこそ心中されそうで気が休まりません」
「心中ってお前な……」
 ある意味、先日ハンクが巻き込まれた歪虚騒ぎは、隔離しなければいけないのがハンクだったから上手くいったのだ。
「……まあ、わからなくもねぇが……あんまり苦しいなら逃げてみろ。向き合えないなら、向き合えるまで全力で逃げろ。そうすりゃな、これ以上は逃げられねぇって自分で腹括れる時が来る。俺んとこでもどっかの司祭の所でもいい。とりあえず転がり込め」
「はい……お気遣いありがとうございます……ごめんなさい……折角来てくれたのに……」

●覚悟を決めるその日まで
「随分と顔色悪いけど、大丈夫か?」
 ふらふらと歩いていると、旭が声を掛けた。ハンクと行動していた人だ。今はすっかり人間の頭部に戻っている。
「大丈夫です……お気遣いありがとうございます」
「まあ、選択肢なんて出されたって悩むよな。戦わずに済むんならってのも正しいんだと思うぜ。散々ヴォイドと先の見えない戦いをして、生存圏を奪われたり奪い返したり。もう御免だってのは、当然だよな」
 旭はのんびりとした調子で言う。
「でもなー。俺にとってのクリムゾンウェストは、人間に動植物、そこに幻獣も精霊もいて。それが当たり前の、そーゆー世界なんだよな」
「……」
「イクシードとして、人に力を貸してくれた精霊を見捨てたくない」
「……ああ」
 見捨てたくない。
 たった一言、その言葉が胸に突き刺さった。

 見捨てたくない。

 法も信仰も、そこで生きる誰かを見捨てないためのものだ。弱肉強食になりがちな世の中で、弱い人を見捨てないための、強い人がただの暴力装置にならないためのものだ。弱い人を置き去りにしないための、強い人をどうしようもないと投げ出さないためのものだ。
 見捨てたくない。その気持ちでジョンは法学を志したし、理解しえないエドから目を離せないのだって、捨て鉢になりがちな彼を見捨てたくないからだ。
 旭は続ける。
「ガーディアンとして、世界の一部が消えるなんて選択肢は取りたくない。俺が手を伸ばす、俺が想う『いい明日』は、やっぱり精霊とか幻獣とかが一緒にいる、よく分かんねー相変わらずな世界だ」
「……はい……僕も、見捨てたくないです」
 邪神なんて、歪虚の総本山と戦うのはどうしても怖い。あんなに人が死ぬ事態だってごめんだ。
「一人でも、生き延びて欲しいと思います」
 世界も見捨てたくない。
 けれど、戦う人だって見捨てたくない。死ぬ必要のない人を死なせたくない。いや、死ぬ必要のある人間などいてはならない。
「……もうちょっと、考えてみます。死ぬほど後悔するかもしれないけど、自分で決めたいです」
「おう、それが良いと思うぜ」
 旭はにこにこしている。
 彼は「良い明日」を視野に入れているのだろうか。

 アルマと話しているハンク、ざくろと真を雑談に付き合わせているエドを見やる。はっきり言って、全く理解できない。トリプルJの言うとおり、得体の知れない考えを持っている二人から、少しだけ逃げておくことにしよう。それから、腹を括れるまで考えるとしよう。

 覚悟を決めるその日まで。

依頼結果

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参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • レオーネの隣で、星に
    セシア・クローバー(ka7248
    人間(紅)|19才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/05/15 17:26:43
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/13 16:05:23