• 王戦

【王戦】ガルドブルム

マスター:馬車猪

シナリオ形態
イベント
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~100人
サポート
0~0人
報酬
多め
相談期間
6日
締切
2019/05/09 07:30
完成日
2019/05/21 18:01

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 お手上げであった。
 敵は歪虚が百数十体。
 頭は王級ですらなく、配下のほとんどがシェオル型歪虚に及ばない。
 しかし奴等は飛ぶのだ。
 逃げるのを恥とも思わず距離をとり、人類の弱い箇所を狙うのだ。
 王国諸侯が共同で軍を差し向けても捕捉すらできず逆に本拠を襲撃される。
 王国騎士隊や聖堂戦士団の主力を派遣すれば勝つことはできる。
 逃げ回る歪虚を捕捉するのに数週間かかり、戦力を引き抜かれた対傲慢王戦線が崩壊してしまうだろうが。
「サルバトーレ級は使えないのか」
「大精霊様の力を借りることができれば」
 そんな意見も出たが妄言として切り捨てられた。
 1番戦力が足りないのはクリムゾンウェスト連合軍であり、1国家の1地方の戦いに手を差し伸べる余裕などないのだ。
 それでも、否、だからこそ戦力とみなされていない者達も動き出した。

●聖職者達
「これ、重文か国宝級じゃないかね?」
「異教の像とはいえこれはさすがに……」
 リアルブルーの高位聖職者達が、純金製の装飾品や像の前で困惑している。
 対照的に、聖堂教会から派遣されてきた司教や司祭は平然とした顔で彫刻刀を使っている。
 数百年大事に扱われ、信仰すら捧げられた品々が無造作に刻まれ砕かれ中のマテリアルごと加工されていく。
「あっ」
 填め込まれたサファイアにひびが入った。
 司教の顔に冷や汗が浮かび、皺に沿って流れる。。
「砕いて儀式用の塗料に混ぜましょう。今のままですと足りませんし」
 よりにもよってエクラの印を潰しながら、司祭が真顔で提案した。
 美麗な細工も無残に潰れ、累代の家宝が使い捨ての儀式補助具に化けている。
「司祭、君は……」
 聖職者として珍しくもない貴族出身者だ。
 ここ数百年で2桁後半の一族がガルドブルムに殺されている。
 彼女は元々歪虚に厳しい。だが今は厳しいという表現では全く足りない、並の歪虚よりも禍々しい感情を緑の瞳に浮かべている。
「そう、だな」
 司教が気力を振り絞る。様々な宗教と宗派の者達も覚悟を決めた。
 様々な祈りの言葉をBGMに金や宝石が加工されていく。
 いずれも、黒竜に対して恨み骨髄な貴族家や聖堂が提供した品々であった。

●黒竜
 1本のブレスが石壁を溶かして内側を焼き尽くした。
 街を守る戦士達の動きが乱れ、デュミナス型の歪虚に押し込まれていく。
「そろそろか」
 傲慢王と王国騎士隊の目をかいくぐり、CAM型の歪虚を増やし邪魔となる都市を機能停止させた。
 これで王都への障害はなくなった。
 傲慢と殴り合う王国に後ろから殴りかかり、女王以下の美味しい箇所を食らうことができる。
「聞けてめェら! 王国を落とすぞ。美姫も戦士も速い者勝ちだ。全ての占領地を放棄しイルダーナへ突っ込め!」
 上空の風にも負けない大音声。
 竜種歪虚が咆哮し、デュミナス型歪虚が号砲を撃ち、墜ちたワイバーンが目の前の人間を無視して王都に向かって飛び立つ。
「来ないなら先に行くぜ」
 リゼリオがある方角を一瞥する。
 ハンターが止めに来ないならそれでも構わない。
 王都を食らい、傲慢王に挑み、勝てれば食らって邪神目指して突き進むだけだ。
「……何だ?」
 違和感があった。
 大出力ブレス直後の疲労を除けば心身共に万全のはずだ。
 なのに思考が空転している様な感覚が、一瞬だけ現れ消えた。
 五感を研ぎ澄ませる。
 角の先から尻尾の先まで何度も己を見つめ直し、4回目にしてようやく方向感覚の狂いに気付く。
 そこからは一瞬だ。
 感覚を狂わせる薄い結界を破る。
 予定の進路から数キロもずれている。
 これまで近づくことを避けていた、ハンターズソサエティー支部が目の前50メートルにある。
 瀟洒だった壁には呪詛としか思えぬ陣がみっちりと描き込まれ、歪虚の認識を狂わす法術陣が起動している。
「来ましたか」
 司祭が詠唱を止めた。
 支部を覆い尽くす法術陣から色が抜けていく。
 マテリアルを使い尽くしたのだ。
 神霊樹分樹の気配が感じられる様にようになる。ハンターが一斉に転移してくるまで後数秒だ。
「そこまでするか」
 竜の喉が機嫌よさげに鳴る。
 膨大なマテリアルを使い捨てにしてのおびき寄せ作戦だ。
 この程度には評価してくれたかと、安堵と満足を半々に感じる。
 強引に大地を蹴った。
 大通りに巨大な蜘蛛の巣状のひびが入り、高速での前進から超高速での待避に切り替わる。
 だが間に合わない。
 既にハンターは転移を完了し、剣や砲をこちらへ剥けている。
 確実に先手をとられると断定し、黒竜は心底楽しげに笑った。

●竜
「強者ガ来タゾッ」
 最小個体でも16メートルを超える竜が、押し合いへし合いしながら空を飛ぶ。
 既に戦いは始まっている。
 正と負の力がそれぞれ凄まじすぎてどちらが有利か分からない。
「急ゲッ、ボスガ皆食ッテシマウ!」
「ノロマハ後デ来イッ!!」
 腕の筋肉が発達した敏捷な竜が先頭集団となり、分厚い鱗に包まれ遠くからでも熱を感じる竜が必死に食らいつく。
「ボスガ死ンダラドウスルッ」
「最高ノ敵ッテ事ダッ」
 炎が涎じみて零れ、獰猛な唸りが小さな精霊を怯えさせた。

●歪虚CAM
 規則正しい足音が響いている。
 傲慢勢力の目を盗むようにしてマテリアルを食らい、張りぼて同然の状態から連続攻撃可能な個体にまで成り上がった歪虚CAMが行進している。
 形はCAM奪還ゲームで奪われたデュミナス型よりも見窄らしい。
 しかしセンサーに宿った光は強烈で、強さとマテリアルを求める強欲な色をしている。
 機体バランスを崩すほど大きなブースターに火が灯る。
 一斉集中攻撃可能な位置にそれぞれが跳んで、ハンターを討ち果たして操縦席に吸収するつもりだった。

●歪虚ワイバーン
 雑魔であった。
 飛龍から落ちた個体も自然発生した個体も、30mm弾1発で砕ける強度しかない。
 だが闘志に溢れている。
 6体で1隊の集団をつくり、正マテリアルの塊であるハンターの隙を伺っている。
 砲声と咆哮が重なり合い、天頂に浮かぶ太陽が容赦なく戦場を照らしていた。



・地図(1文字縦横20スクエア)
 abcdefg
あ林林通□□□□
い林林通□□□□ □=市街。石造りの2~4階建。たまに脆い建物あり
う林林通□□□□ 林=手入れされた林。平均全高10メートル。頑丈
え支支通通通通通 支=ハンターズソサエティー支部。出撃用の穴が大量に開いています
お支支通□□□□ 通=大通り。馬車の荷台や屋台が放置されています
か林林通□□□□
き林林通□□□□
く林林通□□□□

非戦闘員は避難済
司祭の初期位置はbえの右端。スキル残量0、生命力1割以下
ガルドブルムの初期位置はcえ
竜、歪虚CAMは、gえの東に到着予定。到着予定地点を通り過ぎて迎撃に向かうことも可能
ハンターの初期位置は、支、または支に隣接したマスのいずれか。個々人がそれぞれ選択可。プレイングで指定無しの場合cえになります

リプレイ本文

●黒い翼
 とても小さく見えた。
 翼を除けばCAMと同程度。感じ取れる負の気配も高位歪虚としては並以下だ。
 意外と簡単な相手なのかなと思いながら、リューリ・ハルマ(ka0502)とグリフォン・ヨエルがガルドブルムから見て斜め下に潜り込んだ。
 熱を感じた。
 負マテリアルから変換された力が黒竜から強烈に吹きつけている。
 そこにマテリアルは混じっていない。
 恐るべき効率で力に変わっているため、膨大な負マテリアルを持っているのに感じさせないだけだ。
「きっついなぁ」
 盾代わりに持って来た魔斧を構え直す。
 普段は餌付けされもふもふに甘んじているヨエルがきりりとする。
「アルトちゃんの後押しもしないとだしね」
 にやりと笑って弱気を振り払い、両手で魔斧を持ったまま声高く開戦を告げた。
「ガルドブルムを落としに行くよ!」
 熱せられた空気の中に幻の腕が出現する。
 異様な速度で飛ぶ黒竜を包み込み、2本、4本とはじき飛ばされながら最後の3本が肩と腰を押さえ込む。
 そして、半減してもヨエル並の速度でリューリに突っ込ん来た。
「私に流して!」
 ガルドブルムの姿勢は崩れるどころか安定している。
 右の爪先に体重と速度を乗せ、グリフォンごとリューリを押し潰す進路で1人と1頭に迫る。
「この程度じゃ」
 猫を思わせる毛に包まれた耳がぴくりと動く。
 斧の角度が僅かに変わり、巨大な刃と爪が火花を散らしながら互いに離れて行く。
「止まらないよ!」
 グリフォンとエルフの左半身から血が噴き出す。
 傷は派手に見えても、致命傷はもちろん再起不能にも遠かった。
 やって、というリューリのハンドサインを見てマリィア・バルデス(ka5848)が息を吐く。
 転移直後であるのにマスティマ・morte anjoは普段より調子が良いほどだ。
 強力な歪虚である黒竜を見上げ、マリィアの闘志がマスティマを通して噴き上がる。
「強さに貪欲な竜種の王」
 鱗に覆われた体がうねる。
 無数の銃弾を8割方躱し、残った2割も器用に受け流してかすり傷にしかならない。
 その上、弾幕にいくつか潜む凶悪な魔力は全て躱すということまでして見せた。
「ただの十三魔じゃなくて、貴方も偉大な竜王だったと思うわよ」
 マスティマの翼が広がる。
 洪水の如く正マテリアルが集まり、マリィアに導かれて胸部前方に巨大かつ多層の魔法陣を形作る。
「だから……初手は全力で当たらせてもらうっ」
 黒竜がにやりと笑う。
 避けようのない裁きの光が竜を圧倒する速度で黒い体を貫く。
 鱗の下で蠢いていた負マテリアルが、一時的に機能停止を強いられ沈黙した。
 マリィア機が一歩踏み込んでリューリ達の前へ。
 後退するリューリの背を狙う一撃を防ぐためだ。
 分かっていても躱すのが困難な3連爪攻撃をシールドで弾き、ぎりぎりで回避し、最も厚い胴部装甲で受け止める。
 スキルを使わぬ通常攻撃なのにマスティマは中破にまで追い込まれた。
 純白の角を持つドラグーンが雄叫びをあげた。
 移動が封じられても脅威な竜へ、ただのワイバーンでしかない空色の龍と共に突撃する。
 龍血覚醒に伴い大型化した龍角が、黒竜の瞳に鮮烈に映った。
「狙いはそっちか」
 ユウ(ka6891)が守護者であるということに惑わされた。
 高性能ではあってもただの鞭でしかない物が、ユウの技術により黒竜の回避を乱す障害物と化す。
「翼をもらうよ、ガルドさ~ん」
 激戦の場に似合わぬ淡々とした声がガルドブルムの耳に届く。
 リチェルカ・ディーオ(ka1760)が駆るオファニムの銃撃は強いだけでなく正確で、ガルドブルムが回避に失敗した時点で翼の片方にかなりの被害が出る。
「念入りな回避が必要な程度には強くなったか」
 このハンターとの付き合いも長い。
 強者に育った今こそ食らってやろうと、黒竜の瞳に闘志と食欲の色が浮かぶ。
「うーん、ガルドさんはちょっと鈍ったかもね」
 わざとらしい目配せ。
 それがはったりかただの感想か判断できず、とにかく回避と防御を続けようとしてユウの鞭に回避を乱された。
「地と水が交わる処に氷の花は咲く」
 銃弾の豪雨の中に水と土の力が混じっている。
 弾雨の奥には氷花の幻影が浮かび、そこから伸びる本の金蔓がガルドブルムの右脚にまで到達する。
「茨の蔓は白き地を覆い」
 ガルドブルムが無意識に吼える。
 あらゆる状態異常に抵抗するはずの力が易々と貫かれ骨が震える。
「汝を永久凍土に閉じ込めん」
 エステル・ソル(ka3983)の詠唱が完了した。
 冷気が骨を伝わり負マテリアルを冒し、災厄の十三魔のあらゆる動きを阻害する。
 その状態異常強度は桁外れだ。
 ガルドブルムが全力を振り絞っても、エステルの氷蔓だけは打ち破れない。
「ハルマゲドンが」
 ユウの鋭敏な知覚が、マスティマの術が消え去ったのに気付く。
 凄まじい、予想の上限を超える抵抗だ。
 だが氷蔓が効いているなら打つ手はある。
「イコニアさんが命がけで創ってくれたこのチャンス、決して無駄にしてはいけません。黒竜ガルドブルム、ここで討ちます!」
 その言葉に行動が伴うと直感し、黒竜の体に気合いが満ちる。
「大精霊よ!」
 ユウが魔剣を振り上げる。
 剣の属性をユウの属性が塗りつぶし、大精霊が司る正義のマテリアルを光に変えて黒竜の周囲を満たす。
 驚異的な速度と回避能力を持つガルドブルムでも、多重に戒められた状態では回避の技も鈍る。
 漆黒の鱗に光が浸透。
 重装甲CAMを超える堅さの鱗に紙当然の脆さが押しつけられた。
「ちょっと待ってよ、ガルドさ~ん」
 脚を使って黒竜が駆ける。
 動きが鈍りに鈍っても回避成功率は7割を越え、声とは逆に容赦のないリチェルカの銃撃も大部分を回避する。
「うわー、当たってるのに効かないよ~」
 ヘビーガトリングで制圧射撃を浴びせても抵抗される。
 さすがに落ち込む。
 しかし落胆を口にしたのはわざとだ。
 ガルドブルムが後退する方向は、リチェルカの思惑通りに誘導されていた。
「何百年も野放しになるわけだ。真上に飛ばれていたらそのまま逃げられていたぜ」
 トリプルJ(ka6653)がイェジドの上で不敵に笑う。
 放棄された屋台の上なので足場は不安定。
 しかし屋台の高さ2メートルが、ファントムハンドの射程にガルドブルムを収めさせる。
「逃がさねぇよ」
 覚悟を決め、不敵な表情で幻の腕を解き放つ。
 いくら抵抗が高くてもCAMと同程度のサイズでしかないガルドブルムはファントムハンドに抵抗できない。
「いい覚悟だ」
「そっちがな」
 ガルドブルムが引き寄せられながら体をひねる。
 尻尾が別の生き物のようにうねって、トリプルJだけでなく近くのハンター全員を打ち据えようとする。
「空中戦ならともかく」
 光の障壁が縦横無尽な尻尾を柔らかく受け止める。
 その速度が鈍った訳ではないが、そのままなら10名近くを意識朦朧としたはずの一撃がヴァイス(ka0364)だけを襲う。
「やるな」
 聖盾剣で受けても完全には防ぎきれず、ヴァイスの目の光がわずかに薄れた。
 トリプルJが吼える。
 精緻なマテリアル操作でヴァイスの不調を引き受け。
 回復した直後のヴァイスがイェジド・グレンと手分けして3連爪攻撃を防ぐ。
 何度も目にして動きに目が慣れているのに、単純に速くて重い攻撃はヴァイスほどのハンターでも長時間防ぐことは不可能だ。
「どうした。このまま囲まれて押し潰される気か」
 ヴァイスが事実を言うことで挑発する。
 ガルドブルムの高速に対応するため分散しているハンター達も、このまま脚を止めての戦いが続けば集結を終えて総攻撃を開始する。
 そうなれば、王級に届かぬ竜では為す術無く首を駆られる。
「そいつは怖いなァ!」
 爪の代わりに脚が来た。
 躱すために半歩の後退を強いられ、続く爪2つはヴァイスではなくトリプルJを襲う。
 赤黒い血と肉片が飛び、乾いた石畳を濡らした。
「うらぁぁああぁああ!」
 傷ついても倒れない。
 自身も吼えて幻腕を打ち破った竜に再度幻腕を絡ませ空への道を塞ぐ。
「まだ付き合ってもらうぜ?」
 リジェネレーションを使っているが重傷だ。
 ファミリアヒーリングを使ってもイェジドもふらふらだ。
 それでも、トリプルJ主従は歯を赤く染めた状態で飄々としていた。
 全長4メートルはある刃が異様な精度で竜翼の根元を打った。
 不意を打たれて衝撃を受け流せず、ひゅうと悲鳴じみた息がガルドブルムの口から漏れる。
「逃がす気はねぇし、逃がさねぇぞ」
 ルクシュヴァリエ・ウィガールを一体化したアーサー・ホーガン(ka0471)が、同じ高さの目線で黒竜と向かい合う。
「そっちも急がしそうだなァ?」
「お前程じゃねぇよ」
 頭上に浮かぶ符が雷に変じてガルドブルムを襲う。
 地表や高所からの銃撃が、どこに避けてもどれかは当たる角度で迫ってくる。
 当たっても急所だけは避ける様はアーサー達ハンターに似すぎていて、この歪虚が何から学んで強くなったかよく分かる。
「つれないねぇ、今の情勢で心置きなく『喧嘩』できるのはこれがきっと最後で、お前が最後の『喧嘩相手』になるだろうにな」
 見事な体術と分厚い装甲でも爪を防ぎきれず深い傷を負う。
 反撃の斬撃は仲間の援護があっても10中3程度しか当たらない。
 だが当たれば確実に翼を損傷させる。
 まだ飛んではいるが、当たる度に少しずつ速度が落ちていた。
「巧くて美味い相手が何十人もいるのに1人に拘ると思うか?」
「ハッ、違いない」
 溜め無しでの9連続ブレス。
 アーサー達なら耐えられるが、移動や攻撃に特化した幻獣だと紛れ当たり1発でもかなり危険だ。
「同じ対象は狙えないスキルだ。見た目ほどの脅威はない」
 ヴァイスがあっさりと見破り、危なそうな進路のブレスだけを受け実質9のブレスを無効化した。
 トリプルJが限界を迎える。
 幻獣はまだいけるがトリプルJはリザレクションが必要だ。
 黒竜は幻腕を引きちぎるのに失敗した。だがファントムハンドの新規行使抜きでは足止めが後十数秒しか続かない。
「ここまで来たら全力で五色光符陣祭りですぅ!」
 雷が絶え間なく続く。
 起点は宙に浮かぶ符だが源は刻騎ゴーレム・ルクちゃんだ。
「命も牙も爪も置いてくですぅ!」
「足りねェなァ!」
「やせ我慢がばれてるんですよばーか!」
 双方完全に殺す気だ。
 足止めする前衛ハンターの分厚い防御を真正面から削りながら、移動力が回復した直後に飛び掛かるため力を溜めるガルドブルム。
 対する星野 ハナ(ka5852)は回避失敗と急所への被弾という不運が重なっても生き延びる機体の中から延々と術を使い確率論的に当てていく。
「どうせアンタ、黒さんに心臓やっちゃうんでしょぉ! 私の本気あれだけ見せたんだからぁ、角でも牙でもよこしなさいぃ」
「そいつァ誤解だな。欲しいなら奪うもんだ。力も、獲物もなァ!」
 黒竜が消えた。
 超高位ハンター並みの技を持つ全高8メートルの巨体が、ハンターとユニットの合間をすり抜け全力の回し蹴りをルクちゃんへ叩き込む。
 2回転半だ。
 最初の2度は前のめりに回避。三度目は防御も間に合わず、接触の瞬間装甲が歪みフレームにひびが入った。
「アンタ程度じゃ足りないって言ってるんですよ! アンタの一部に私の邪神戦争一緒に見せてあげますよぅ」
 戦闘継続に問題なし。
 コクピットのハナの体に負傷無し。
 ルクちゃんを半分焼き焦がすつもりで放った雷が、攻撃直後の黒竜の肩を焼き翼を震わせた。
「逃げんなーっ!!」
 竜の脚が地面を蹴り飛ばし急上昇。
 ハナとルクちゃんだけでなく、術攻撃と銃弾の豪雨を置き去りにする。
 だが1つの砲弾だけが彼に追随した。
「包囲を抜け出すのが遅かったではないかねガルドブルム君! 待ち兼ねたよ」
 ルクシュヴァリエがロングレンジライフルを手放す。
 鞘から引き抜いた斬艦刀は、操縦席の久我・御言(ka4137)の力を吸い込み怪しい光を放つ。
「さあ、雌雄を決しよう!」
 彼我の戦力は天文学的とまではいかないが赤子と大人の差がある。
 心は対等でもそれ以外の全てが劣位にある。
 天災が如き象徴、その実物である竜が目の前にいる。
 一瞬のミスが致命になることが肌で感じられ震えが止まらない。
 それ以上に、昂ぶりが止まらず思考と観測の速度が増していく。
「見え見えだよ」
 ただの9連ブレスなど牽制にもならない。
 御言は敢えてブレスに当たる進路を選び、退避途中の竜の前に立ち塞がる。
 人機一体の連続使用で心身がすり切れる寸前だが構わない。使い続けねばすり切れる前に魂もろとも消し飛ばされる。
「これがお前か!」
「そうだ。これが私だよガルドブルム君!」
 ルクシュヴァリエの基本戦術である光あれを使う振りをして急接近。
 限界まで加速した状態で斬艦刀を振り下ろす。
 御言の腕でも制御しきれぬ速度が黒竜の予測を失敗させ、斬艦刀の切っ先が翼の皮膜に大きな切れ目を入れた。
「ガルドブルム……厄災をもたらす歪虚は此処で倒します!!」
 絶好の機会にエステル・ソルが必殺の一撃を放つ。
 未だ氷蔓の効果は続いているが効果は永遠ではない。
 動きが乱れた回避が落ちに落ちた今、もう一度氷蔓を浴びせて最期に導くつもりだった。
「ハッ、どっちかを選べッてか?」
 竜が強引に体をひねる。
 無理な力がかかり皮膜の切れ目が広がり、飛行用に運用していたマテリアルの一部がそこから漏れて拡散する。
 それを吹き飛ばす様にして両足で着地。
 氷蔓の効果が砕ける。黒竜は水晶の如きマテリアルを置き去りにしてハンターの陣へ躍り込む。
「御言め、よくぞここまで読み切るものだ」
 黒竜の速度は最早圧倒できではない。
 レイア・アローネ(ka4082)のワイバーンが急加速して追い抜き、主の攻撃の機会を提供する。
「当たるまで待つと思うか?」
 ガルドブルムが目を細める。
 当てたなら敬意を以てワイバーンごと食らってやるという態度だ。
「ああ、ただの部位狙いでは間に合わぬだろうな」
 剣状の星神器を構える。
「守護者か!」
 よく来てくれたと笑顔で答え、逃げから攻撃に切り替えた爪3連撃を繰り出した。
「一手足りぬ」
 絶技オロチアラマサの攻撃回数は4回。
 3度までは余裕をもって回避したものの、4つめの斬撃は爪の防御も間に合わず胸から心臓の直撃コースに乗る。
「やるなァ!」
 ためらいなく右の翼を受けに使う。
 機能美すら感じられていた竜翼が端から半ばまで潰され、ガルドブルムの速度が一気に低下した。
 レイアは追撃しない。
 前のめりだったワイバーンを強く促しガルドブルムの間合いから離脱させる。
 その直後、爪と尻尾が同時に届いているとしか思えない4連撃が、凄まじい防御を誇る前衛を打ち据え後退させた。
「一皮剥けたか」
「最高の見本が目の前にあるからなァ!!」
 自身を構成するマテリアルの半分と引き替えに、黒竜は守護者達の戦い方を学んだ。、

●強欲竜の行進
「まずいな」
 最高速を除けば開戦時のガルドブルムに迫る機体の中で、キヅカ・リク(ka0038)が深刻な表情で呻いた。
 敵陣が雑そのものだ。
 戦闘の竜種は飛びながら押し合い圧し合いして範囲攻撃の良い的だ。
 歪虚CAMとワイバーンは戦術を心得ているようだが個々の力が弱すぎる。
「ここまで染まっているとは」
 だが戦意が凄まじい。
 隣の同属が死のうが己が滅びに瀕しようが戦いを止めないという気迫に満ちている。
 竜種の先頭、一際目立つ赤のドラゴンが得意げに笑った気がした。
「いいだろう。俺達の全力に付き合ってもらうぞ」
 竜達が一斉に左右と上に散った。
 前衛ハンター並みの体術を空中で披露しながら、喉奥から口元へ膨大な熱が溢れる。
「ハルマゲドン起動」
 大精霊由来の圧倒的な力がキヅカの技術で振るわれる。
 放たれる直前のブレスが次々に消え、体格だけならガルドブルムを上回る竜達が動揺した。
「その程度で」
 翼パーツを変形させながらカイトシールドを振り上げる。
 竜の爪の形に凹みが出来、異様な加速をした赤竜が楽しげに笑った。
「効くと思ったか」
 もう一方の腕を繰り出す。
 構えた斬艦刀は力任せでありながら狙いも精密で、竜種集団のリーダーの頭部を刺し貫けるだけの威力があった。
 鋼よりも強靱な牙が砕ける音が響く。
 赤竜は斬艦刀に噛みつき押し止め、マスティマ相手に互角のつばぜり合いに持ち込んだ。
「グランソード、チャンスだ!」
 空駆けるルクシュヴァリエが、マスティマ対竜の激戦に乱入する。
 明るいだけでなく真っ直ぐなマテリアルが、右手に構えた機剣を3倍の長さにまで巨大化させる。
「魔動剣」
 赤竜以外の歪虚が時音 ざくろ(ka1250)と魔動冒険王『グランソード』に襲いかかる。
 ブレスは使えなくても身のこなしも攻撃速度も雑魔とは次元が違う。
 囲まれたならざくろ達でも危ない。
「光の剣風!」
 横に構えて真横に振り抜く。
 ただそれだけの技だが速度も重さも桁外れで、裏付けとなる技術もまた凄まじい。
 それを理解出来る頭と回避出来る技術を持っているからこそ、竜種達は完成直前の包囲を諦めざくろから離れる。
 2頭の竜が、強く打たれた腹を押さえて血混じりの唾液を吐いた。
「よくぞこれだけ集めた!」
 地を駆けるルクシュヴァリエが巨大な鉤爪を構える。
 命中率は良くても威力に欠ける傾向がある形状なのに、秘められた力は激戦中の赤竜も警戒するほどだ。
「我等の力」
 速度を保ったままルベーノ・バルバライン(ka6752)と刻騎ゴーレムが飛ぶ。
 拳の間合いには、腹を打たれて耐性を崩した、全長17メートルに達する大型竜。
「味わうがいい」
 紅色のかぎ爪から光が伸びる。
 激しく熱く、人間の限界近くまで高められた技量を感じさせる密度で光の剣が伸びる。
「守護者かッ」
 光は止まらない。
 被弾した竜に隠れて近づいて来たもう1頭が胸の中央を指し貫かれ苦鳴をもらす。
「大精霊の力を借りるまでもないわ」
 ルクシュヴァリエ内の小精霊が警告。
 散弾じみた数とサイズのブレスが上と左右からルベーノ機を襲う。
「悪くない、悪くないぞこういう乱戦は!」
 フライトシールドを背面にまわして被害を極限。
 ルベーノは、驚くべき速さで状態異常から回復した竜種に突撃していった。
「吸い込め電磁の渦……ショック☆超魔動電磁バリアー!」
 電撃を浴びたドラゴンがグランソードから離れる。
 その動きで開いた空間に踏み込み、ざくろは斜め下に向かって機剣を構え、叫ぶ。
「一刀両断、スーパーリヒトカイザー!」
 剣の巨大化は3倍では止まらず、竜種2頭を刺し貫いても止まらず3頭目の片翼を斬り飛ばした。
「ここまではうまくいったか」
 誘き寄せの際に使われた物を思い出して遠い目になりながら、ロニ・カルディス(ka0551)はワイバーン・ラヴェンドラに命じて竜種集団の左側面に向かわせる。
 マスティマを迂回する動きに気付かれたことに気付き、竜種は怒りもせずに逆に喜んだ。
 知恵も勘も力だ。
 相手が小柄なドワーフでも、戦う相手としても食らう相手としても不足はない。
「まだハルマゲドンは効いているようだな」
 散弾ブレスがないならラヴェンドラに任せても大丈夫だ。
 問題は、足止めできたのが2頭でしかないこと。
 斜め下方で、3頭の竜種が地上の幻獣に向けブレスを斉射しようとしていた。
「させぬ」
 ロニの手の影から厚さの存在しない刃が無数に放たれる。
 不意を打たれた3頭は上半身に直撃を浴び、ブレスの向きがロニへと変わる。
「っ」
 散弾ブレス3頭分はロニの防御能力を超えていた。
 シールドによる防御を全て成功させても致命傷に近い。
 眼前の2頭は、侮りも哀れみもせず左右からロニを食らい引きちぎろうとした。
「させません!」
 若い声が叱咤の如く響く。
「光よ……あの人を癒やして」
 血は足りないままだがロニの千切れた肉が補われる。
 ワイバーンと手分けして躱して受け流し、サクラ・エルフリード(ka2598)に促されて位置を入れ替える。
「身代ワリカ」
「手加減ハゼヌ」
「私もワイバーンも射撃しか出来ないわけじゃないのですよ……。むしろ近接の方が得意なのです!」
 ロニより小柄な体を包むのは全身鎧聖光の守護。
 それに加えて盾と剣を構えても体の動きは軽やかで、ワイバーンが避けきれなかったブレスを盾で受けて見せる。
「下、ちょうど爆撃位置ですね……。ワイバーン、レイン・オブ・ライトを!」
「甘イ」
 ドラゴン達の回避技術は小さく身の軽いワイバーン並だ。
 余裕を以て、サクラの狙った通りの進路と速度で回避する。
「グランソード!」
 そこにざくろ機が急襲。
 隙だらけの背中を切り裂かれて2頭が地表に向かって落下していく。
「貰ッタ!」
 竜がサクラの至近にいた。
 その大きさがサクラの逃げ道を塞ぎ、サクラを乗せたワイバーンが恐怖で微かに震えた。
「お願いします!」
 サクラは元気に言った。
 ロニが撃ち出した無数の影刃がサクラ周辺の竜を貫き四半分の動きを止め。
 サクラからもプルガトリオによる刃が放たれ竜種の被害が拡大する。
 ワイバーンは覚悟を決め、サクラに施された障壁を信じてドラゴンとドラゴンの間をすり抜け突破した。
「何処までやれるかわかりませんが、出来る限り戦線の維持を頑張らせて貰いましょう……」
 サクラは、意識してある方向に目を向けない様していた。
 口を大きく開いたドラゴンが10メートル近く落下する。
 石造りの建物に翼をぶつけてしまい、目に見えて速度が鈍り不時着気味に着地する。
 ハンターからの攻撃だ。
「何処カラッ?」
「いやはや、聞けば答えが返ってくると思っているのですかね」
 百数十メートル離れた建物と建物の間で、マッシュ・アクラシス(ka0771)が身長の倍近いサイズの巨大弓を引き絞っている。
 標的は反応速度が前衛ハンター並だ。
 正面からの射撃では10中2当たれば幸運なほどだろう。
「2秒後に移動」
 微かな声を聞き取りワイバーンが無言でうなずいた。
 矢から指が離れ、重々しい振動を残してはるか遠くに矢が消える。
「マタッ!?」
 17メートルの竜の尻に、1本の矢が完全に埋まった。
 痛みに耐えることはできても射手を見つけられないという事実は自尊心を大きく傷つける。
「まあ、要するに仕留めるのが私である必要は無いという事ですな……」
 協力感謝の目礼をサクラの背に行ってから、マッシュとワイバーンは次の狙撃ポイントに向かう。
「鬱陶シイッ」
 ワイバーンでも難しい回避運動を行いながら、竜種の中でも特に大きい個体が牙を剥いた。
 紫の光が体を削っている。
 マッシュのときとは違い誰によるものかは分かる。
 紫の光は威力は並程度なのに貫通性能が凄まじい。
 同属の巨体が目隠しになり、予想外の方向から鱗に当たって筋まで届いた。
「巨躯が自慢の竜種共がよりにもよって物量戦とは、敵もハンターを余程警戒しているようだな」
「中身ガ雑魚デモ乗リ者ガ強イトコレホドッ」
「そのような考えだからまとめ役にすらなれないのだ」
 コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が駆るのはエクスシアだ。
 マスティマが飛んでいる戦場では力不足が否めないが、彼女の技術と戦術を考慮に入れたら評価は覆る。
「ヌゥッ」
 範囲攻撃は避けにくい。
 エンハンサーを駆使しているため威力も低くはなく、撃破数は皆無でも竜種全体に与えたダメージは上位陣だ。
「体格の違いが戦力の決定的な違いだと思い上がるな」
 ブースターを使わず脚で跳ぶ。
 お得意の散弾ブレスも射程内に相手がいないなら役に立たない。
 むきになったドラゴンが、不用意に前に出すぎて大ぶりの蹴りを繰り出した。
「死に物狂いなのは貴様らだけではないことを」
 脚から勢いがなくなった瞬間に、ハルバードのマテリアル刃がめりこむ。
「教えてやる……!」
 人間と竜の視線が交わり、熱い火花が散った。
 岩を砕く音が大きく響いた。
 元は先代領主の像が建っていた巨大な台座に、無骨を通り越して禍々しい安定用装置が埋め込まれる。
「よくぞここまで戦力を溜め込んだ」
 砲戦機ヤクト・バウプラネットカノーネのコクピットで、ミグ・ロマイヤー(ka0665)が笑みを浮かべる。
 強いドラゴン、速いワイバーン、遠くまで攻撃が届く歪虚CAMなど、戦い方次第で同数のハンターを圧倒しかねない大戦力がHMD越しに見える。
「故にここが貴様等の最期じゃ。別れはあの世でするがいい!」
 性能は良くても特筆すべき箇所のない滑空砲が、頭のネジがダース単位で飛んでいるとしか思えない爆発で砲弾を発射する。
 竜種集団の先頭はハンターと戦闘中だが、後続の竜種はガルドブルムとの合流を目指した移動用陣形だ。
 つまり、広範囲の爆発に巻き込むことができる。
「狼狽エルナッ」
「コレホドノ攻撃数に限リガ」
 ありはするが残り80回である。
 元台座というより1区画の土地を台無しにする勢いで凶悪が砲撃が続く。
 並んでブレスを撃てばマスティマごとハンターを吹き飛ばせるかもしれないブレス特化の竜達が、直径60メートルの砲撃を嫌って左右に散って行く。
「ヨシ行ケ!」
「小童共ニ獲物ヲ渡スナッ」
 竜共が嬉々としてビルじみた建物を乗り越えた。
 歪虚ワイバーンを軽視している訳でも邪魔に思っている訳でもない。
 後輩にいいところを見せようと、己を奮い立たせて前進を続けているだけだ。
 聞きたくなかった悲鳴が届く。
 はるか遠くでプラズマの爆発が2回繰り返され、特に目をかけていた集団2つが群れとしての機能を失ったことに気付いてしまう。
「人間ンッ!」
「ドコダ。ドコニイル」
 怒りはしても最低限の冷静さは失わない。
 煮えたぎる憎悪と戦意を感じさせる瞳で戦場全体を見渡し、小さな翼の動きに気付いた。
「大丈夫まだ遠い。惑わして」
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)の声にポロウが何度もうなずき、盾に使える位置へ幻影結界を設置する。
 異様な高音と範囲のブレスがカーミンとポロウに迫り、しかし結界によって効果を発揮できずに時間と負マテリアルを無駄にしただけで終わる。
「カーミン、こっちは任せろ」
 ガルドブルムを慎重に避けて力を温存してきたジャック・エルギン(ka1522)が、出し惜しみ無しで竜種の隊列へ突っ込んだ。
 巨体竜の位置取りは嫌らしく、タイミングを絶妙にずらしたブレスは威力があるのに躱しづらい。
「すげえ光景だな」
 この状況で笑って見せる。
 敵首魁とその配下の誘引分断は巧くいった。
 後は敵に集団としての力を発揮させないまま削り切るだけだ。
「いくぜ」
 龍鉱石でできた刀身が赤く激しく輝く。
 ジャックの力だけではここまで強くはならない。
 間違いなく元となった龍が力を貸している。
「来イ!!」
 真正面から挑まれて逃げるような性格なら最初からここにはいない。
 3頭の竜が、勇者と戦るのに相応しいのは俺だと押し合いへし合いしながら突進する。
「2対3で文句は言わないでよ」
 カーミンはマテリアル刃の形を崩して柄を鋭く振る。
 元刃が鞭の如く跳ね上がり、戦闘の巨体竜の胸を打ち据える。
 ダメージは0に近いが肺から息が逃げた。
 速度が思ったように上がらず、ジャックとグリフォン・オストロの一撃離脱の突撃を回避しきれない。
「さすが」
 鱗を砕き肉を抉り骨を削った手応えがジャックの手の平にある。
 普通の竜なら絶命確実のダメージを与えたのに、竜は平然とした顔で飛んでいる。
「巧イナ」
「いつまで余裕面が続くかな」
 竜の目が細められ、痛みを吹き飛ばす歓喜と共にジャックに襲いかかった。
 蒼穹に炎の華が咲く。
 大型竜数十体とハンター76名がぶつかり合う戦場においては平凡な威力でしかなく、しかし上から回り込もうとする竜にとっては文字通り死ぬほど邪魔だった。
「ヌゥッ」
 淡い桃色の光が傷ついた腹を抉る。
 血とそれに含まれる負マテリアルを腹の中に戻そうとして、既に限界に達していた竜がそのまま地上へ墜ちていく。
「避けられると思いました?」
「思ッタ。負ケタ」
 最期のマテリアルをアシェ-ル(ka2983)への賛辞に変えて、永く生きた竜種歪虚がマテリアルごと砕けてこの世から消滅した。
「これで4頭」
 アシェ-ルが額の汗を拭う。
 最も高い戦場を実質アシェール1人で担当しているのだ。
 別の竜種の動きを読んで斜め移動へ移動。
 竜が驚きに目を見開き、3頭が高度を下げ速度を上げ散弾ブレスを複数方向から打ち込んできた、。
「簡単には落ちたりしませんからね」
 鮮やかな桃色の装甲が陽光に負けずに煌めき、濃い正マテリアルが火の属性を帯びる。
「防御魔術師ですから!」
 半ばを躱し、回避し損ねた散弾ブレスも分厚い装甲で防ぐ。
 アシェ-ルが反撃に移る前に地上から砲撃と狙撃が行われ、腹と下腹に深手を負った竜が高度を下げていく。
「例え、スキルが切れても、最後まで諦めたりしませんからね……私、結構しぶといですから!」
 それはそれとして補給は欠かさない
 上空へ向かう竜がいないことを確認してから、墜ちていくドラゴンを追い抜く勢いで高度を下げる。
「立ち上がれ、勇者たちよ。あなた達の想いはここで途切れなんかしない、させない!」
 ユメリア(ka7010)の祈りが精霊を引き寄せ癒やしの力を顕現させる。
 ハンターや幻獣だけでなく、CAMやルクシュヴァリエのパーツが戦闘可能な形にずれて安定する。
「空はお願いします」
 アシェールを見送り、魔導バイクのアクセルを思い切り踏む。
 まず癒し手を潰せという教えに忠実なドラゴンが、直前までユメリアのいた場所に両足を揃えて着地し1メートル以上めりこんだ。
 散弾ブレス。
 盾で受け対大型生物用装備を調えても防ぎきれぬ威力がユメリアを苛み、しかし致命傷に達する前に己のフルリカバリーで回復する。
「私は何があっても、皆さまの想いを守りますっ」
 歪虚への怒り、平和への願い、愛する人たちへの誓い。
 それぞれが行き着き想いを果たせるように、命と魂を賭ける覚悟を固めていた。

●歪虚CAM最終型
 特大ブースターによる200メートルの跳躍の前では、あらゆる地形は障害になり得ない。
 もちろんデメリットも巨大だ。
 大きすぎるブースターが邪魔で回避能力は低くなり、特に跳躍時は防御も困難でブースターに当たればそれだけで爆発四散しかねない。
 だから、敵から遠く離れた場所に降下して遠距離砲撃に専念という、徹底的に基本に忠実な戦い方をしようとした。
「遅い!」
 無数のマテリアル結晶に囲まれ、夢路 まよい(ka1328)が可愛らしく怒っている。
 まよいに人魚の精霊をけしかけられた大型竜達は、これ以上の交戦は不利と判断して足が止まったまよいから逃げ出した。
 100メートル以上離れた場所にデュミナス型歪虚が着地し砲撃用の隊形をとる。
 ハンターと比べると判断と行動が遅すぎ、かつてのリアルブルー非覚醒者部隊にも劣る。
 だからまよいは、自分から向かうことにした。
「イケロスー」
 主に呼ばれ、艶やかな翼のグリフォンが気合いを入れる。
 空中移動は得意でも空中戦闘は苦手な種ではあるが、技術と気合いで以てワイバーン並の空中戦闘能力を獲得する。
 105mm弾の弾雨がイケロスを包み込む。
 1つの砲につき1発では計算が合わない数の、合計80に達する弾幕だ。
 まよい1人に集中しているわけではないが一部でも十分に危険であった。
「がんばれー」
 どこか愛嬌を感じさせるグリフォンがアクロバットじみた飛行を繰り返す。
 回避困難な連続砲撃を、高位ハンター前衛じみた回避技術で躱しに躱して希に被弾し根性で耐える。
「天空に輝ける星々よ」
 透き通った声が風に負けずに響く。
「七つの罪を焼き尽くす業火となれ……ヘプタグラム!」
 着地直後で飛び立てぬ歪虚CAMの群れが、巨大な爆風に飲み込まれた。
「今から対歪虚CAMに専念します!」
 竜種と戦う味方に一言通信してから、四十八願 星音(ka6128)は赤いオファニムと共に射撃戦を開始する。
 強化されているとはいえ105mmスナイパーライフルしか持っていない敵とは性能が違う。
 敵を上回る射程を活かし、一方的に肩分プラズマキャノンを撃ち込み1機ずつ大破から全壊に追い込む。
「砲戦する歪虚デュミナスですか。いつどこで略奪されたものかは知りませんが、こちらにもCAM砲兵としての意地があります! 負けるわけにはいきません!」
 デュミナス型は低速でも的確に陣形を変形させている。
 星音機が漫然と射撃するだけなら包囲されただろうが、星音は移動力の優越を活かして徹底的に有利な戦いを維持する。
「しかし……」
 多い。
 威力は並でも2連続砲撃可能機は貴重なはずだが、どこでこんなものを調達してきたのだろう。
「敵跳躍まで推定20秒」
 考え事をしている間も攻めは緩めず、もう1体に止めを刺してスコアを1つ増やす。
「雑兵でも数がいればそこそこの脅威か」
 鳳凰院ひりょ(ka3744)のエクスシアが何発もの30mm弾を浴びた。
 良好な装甲とマテリアルカーテンの組み合わせで中破にもなっていないがこのまま戦うと危険だ。
「このまま俺に拘るなら楽なんだけど……な!」
 マテリアルビーム起動。
 紫の光が3機の砲戦特化機を貫き、1機だけがブースターを燃え上がらせて前のめりに倒れる。
 残り2機はぎりぎりで中破というところだ。
 元の設計が良すぎて、黒竜により雑に作られたデュミナス型も見た目以上に堅牢だ。
「間に合った! 畜生ドラゴン連中しつこすぎるぜ」
 蒼のワイバーンが優雅に石造4階建ての屋上へ。
 藤堂研司(ka0569)が大口径魔導砲を手に転がり落ちるように鞍から降りる。
 降りたときには発射態勢は整い、砲口の奥から強烈なマテリアルが漏れた。
「9体いただく!」
 連続する9の音が1つに重なって聞こえた。
 放物線を描いた9の砲弾はデュミナスのパーツを砕いただけでは終わらず、機体の制御を担う負マテリアルを乱して歪虚CAMの性能を大きく引き下げる。
「敵ブースター再起動!」
 星音の連続射撃が飛行中のデュミナスに当たって激しく揺らす。
 うち1機は完全にバランスを崩して落下し大破した。
「おぉ……予想以上だな」
 研司の追撃は間に合わなかったが9機中7機の歪虚CAMが跳躍中に姿勢制御に失敗して建物や大通りに突っ込んだ。
 最もましな個体も手足が千切れ、スナイパーライフルを失うものまでいて戦力は半減以下だ。
「俺が片目を抉った奴がボスとはな。もう片方貰いたい気はするが」
 相棒と共に飛翔する。
 歪虚CAMの窮地に気付いた大型竜が仕掛けてくるが、ワイバーン・竜葵が研司の技術の結晶である機動要塞藤堂号を操りブレスの豪雨を平然とのりきる。
「今は他を叩く! 行くぞ竜葵!」
 敵と味方が入り乱れた混戦が始まろうとしていた。
「デュミナス型歪虚は個体での戦闘を選択した。繰り返す。デュミナス型歪虚は陣形を放棄し……」
 一度高度を上げて敵の動きを目で確かめてから、ひりょは味方全体に対し必要な情報を伝達する。
 多少通信に障害があるとはいえ、これだけ味方の数が多いと誰から受信して周囲に伝えてくれるだろう。
「全体の脅威は減ったが」
 機体が安定してから即ミサイルを発射。
 圧倒的な射程とそこそこの効果範囲を除けば平凡な対歪虚ミサイルも、ブースターで無理矢理跳んでいるデュミナス型にとっては死の運び手だ。
 爆発。
 揺れ。
 そして墜落。
 2つと3つの炎が都市の中に発生した。
「適材適所で連携を組んで来た歪虚群……ですか。厄介な事ですね、本当に……」
 言葉の内容とは逆に落ち着き払い、天央 観智(ka0896)はセンサが拾い上げた情報だけでなく複数回線から流れ込む情報をまとめて検証する。
 地形と敵味方の位置が表示された鳥瞰図には、真正面からぶつかり合うハンターと竜種、そして個別行動をとるようになった歪虚CAMと歪虚ワイバーンが映し出されている。
「おっと、私の機体は歪虚ではありませんよ」
 こちらを見て微かに動揺した味方機に、まとめた情報を添えて挨拶を送る。
 同時に脳波で射撃諸元を入力。
 石造り建物の影から現れたデュミナスへ砲口を向け引き金を引く。
 整備状態が根本的に違い、魔導型デュミナス射撃戦仕様が一方的に歪虚CAMを打ち倒す。
「手前に中破が1機。……はい、よろしく」
 凶悪な速度の砲弾が腹部を抉って半回転させ、観智に誘導されたハンターが素早く近づき止めを刺す。
 観智はそれ以上意識を向けず、浮遊盾の向きを変えて次の獲物に狙いを定める。
「後3機」
 異様な回避能力を持つ黒竜や竜種に比べれば与しやすい相手だ。
 もちろん、有利な狙撃ポイントに陣取られるとハンターやハンターズソサエティー支部に被害が出かねないので、油断も手抜きもなく最大効率で処理を進める。
 1機。2機と仕留めたところで呼び出し音が鳴る
「……助かる。任せた。南側は任せて欲しい」
 大重量を載せることなど考えていない屋根を揺らしもせずに駆け抜け、数メートル高い建物に屋根に飛び移って新たな狙撃ポイントにした。
「狙い撃ちです」
 使い慣れた黒と金色のR7がエルバッハ・リオン(ka2434)の思い通りに動く。
 今は温存より殲滅速度優先だ。
 支部を……神霊樹分樹を狙える位置にいる歪虚CAMを最優先で撃ち抜き仕留める。
「無茶をしますね」
 顔見知りが術でガルドブルムを誘き寄せたのは凄いと思う。
 同時に、神霊樹分樹という特級の神秘兼インフラに歪虚を近づけるのは正直どうかと思う。
「まあ意図は分かります」
 当初の6頭編隊ではなく2頭1組で飛んできたワイバーンがブレスを吐く。
 範囲攻撃でも連続攻撃でもない攻撃など脅威ではない。
 無人の建物を盾にすることで1つを防ぎもう1つのブレスは向きを変えるだけで易々と回避した。
「決戦も近いのに、こんな集団を残しておくわけにはいきません」
 機体内のマテリアルを正確に操りマテリアルキャノンに再装填。
 生きているうちで最も神霊樹分樹に近い歪虚CAM……は観智に任せてエルバッハは自分の近い2番目に砲を向ける。
「こちらでも助けてあげましょう」
 本人が聞いたら嬉嬉として報酬の増額と仕事の追加を押しつけてきそうな事を言いながら、スキルのリソースと引き替えに歪虚CAMを仕留めていく。
「オォッ?」
 竜種が尻餅をつき頭部をデュミナス型歪虚の脚が掠める。
「歪虚CAMが支部へ跳んだ」
 了解の返事が届く前に、暗色のドミニオンがドラゴンの周囲をぐるりと回る。
 脇と腹と脚から血が噴き出す。
 血に濡れた斬機刀を手に魔導型ドミニオンが後ろへ跳ぶ。
 勢いよく閉じた竜の顎が痛そうな音を立て、無防備な背後に遠距離狙撃が突き刺さる。
「了解、迎撃間に合っ」
「ソノ鉄ノ体、新型カ」
 竜種が大真面目に言っているけれども、央崎 枢(ka5153)のウォルフ・ライエは魔導型ドミニオンでありデュミナスよりさらに古い。
「確かめて見るか?」
 呼吸を感じさせない踏み込みで竜種の喉元を正確に狙う。
「貴様ガ強者ッ、ソレデ十分ヨッ」
 後ろに無様に倒れながら真下から尻尾を跳ね上げる。
 枢は回避が間に合わぬと判断し、大型の盾で受け流して鱗と盾の間に火花を発生させた。
「貴様ァァ!」
 見事着地したはずの竜が地団駄を踏む。
 枢が竜を攻撃せず、CAM基準での小型銃で歪虚CAMに銃撃を浴びせたのだ。
「誰一人欠けることなく、揃って帰還するつもりでね」
 四肢と判断は冷静に。
 心は負マテリアルを蒸発させるほどに熱く。
 魔導型ドミニオンの乗り手は心技体が見事に揃っている。
 竜が静かになる。
「ホゥ」
 竜が目を輝かせる。
「ホゥ!」
 体の内側から膨大な熱と負マテリアルが噴き上がる。
 熱を持った鱗は赤熱する大地のようで、重々しくも高速の踏み込みから無数のブレスを放つ。
「悪いが一騎打ちをする余裕はないからな」
 フライトシールドで浮かび上がりながらの斬撃が、心臓の上の鱗を数枚砕く。
 斜め後ろから銃弾を浴びつつ、竜は渾身の拳を繰り出した銃撃と激突した。
「どこもかしこもブレスの色か」
 デュミナス型歪虚も慣れてきたらしい。
 カイン・A・A・マッコール(ka5336)が発砲する前に木々の間に姿を隠す。
 その周辺に見知った気配を感じて背中を向ける。
 信頼故の丸投げだ。
 実際数秒後には歪虚CAMの気配が1つ減っていた。
「多いな」
 竜種も歪虚CAMも数は減っているはずだが支部周辺に限っては増えるばかりだ。
 頭上から丸い影が急接近。
 防御優先の機体設定故に回避は諦め、聖機盾で無理なく受け、体の割に脆く見える竜の脚へ渾身の斬撃を振り下ろす。
「温イゾ人間!」
 攻撃と抗議を繰り出してくる竜へ舌打ちを返す。
「畜生、機体は慣れないし数の面で不利ってのは地獄だけど、この程度超えられないなら、強くなろうとした意味がない」
 斜め情報からの歪虚ワイバーンブレスを躱しながら、遠くから中へ伸びていく細い炎をちらりと見る。
 距離があるのに負の気配を感じる。
 あれを撃てるとすれば、ガルドブルムだけだ。
「母さんの想い人、いや想い竜だっけ? どっちでもいいか、母さんが想いを遂げられるようにきっちり露払いをさせてもらうか」
「若イナ人間。ダガ私モ弱クハナイゾ!!」
 刃とブレスが、互いの命を削り合った。

●ブレスは添えるだけ
「あんなの勝てるわけないでちゅ!」
 北谷王子 朝騎(ka5818)が投げ出すように体を傾け、朝騎を乗せたポロウが傾きを利用して真横に急旋回した。
 9つの極太ブレスに紛れて色の薄い光が。
 ポロウの羽から1メートルは離れていたのに、大火力バーナーで炙られたかのように羽の先がぼろぼろになった。
「うわーん、死にたくいでちゅー!」
 演技なのだろうが感情が剥き出しすぎて真実にしか見えない。
 朝騎とポロウの逃げっぷりはそれほどの迫力があった。
「俺の逃げ道を塞いでいるのに良く言うゼ」
「いやそれはマジで偶然でちゅ」
 一瞬真顔に戻った朝騎と、器用に中指を立てるのに似た仕草をするポロウ。
 強烈な挑発なのに、ガルドブルムは腹の底から笑って傷口から負マテリアルを零した。
「ヌ」
 翼の向きが強制的に変えられる。
 腹から叩き付けられそうになり受け身でやり過ごし、当然のように速度が0に近くなる。
「それで王国を横合いから殴りつけた心算か、バカめ」
 上からの声と目線なのに不思議と傲岸不遜には感じられない。
 能力と実績に加えて高みを目指し続ける生き様が強い説得力を与えている。、
「世界一分厚いとこに突っ込んだ事も分からんか」
 神霊樹分樹による転移ネットワークはクリムゾンウェスト連合軍の心臓だ。
 通常時ですら守りは分厚く、戦時である今は言うまでもない。
 アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は、聖祈剣を振り下ろすことなく合図を送る。
 ポロウ・ヴィオーラが胸を張り、眼前のドラゴンと比べるとあまりにもささやかに見える結界を1つ作り上げた。
「筋肉が足りねェぞ」
「必要十分な量も分からぬか」
 黒竜の体は見えているのに一瞬でも目を離せばその瞬間に分からなくなる。
 アウレールと同等以上の覚醒者の技が、全高8メートル越えの体に宿り牙を剥く。
 ポロウから降り、同時に突き込まれたようにしか見えない左右から爪を踊るように躱す。
 瞬間移動じみた頭突きは聖盾剣と分厚い防御で以て耐え、黒竜の重さを己の加速に変え結界の中に滑り込む。
 そのブレスに音は伴わない。
 負マテリアルが異様な効率でエネルギーに変わり、黒竜の喉奥からアウレールへ向け真っ直ぐに伸びる。
 幻影結界が砕け、宇宙まで届きそうなブレスを消滅させた。
「それが奥の手か?」
 声かけはフェイント。
 基本に忠実なまま人類の限界まで達した斬撃が竜の首の伸びる。
「おゥ、今の俺のな」
 剣の腹を爪で押し退け、ガルドブルムは斜め後ろへ跳んだ。
「弾種炸裂弾、連続装填――ブチかませドラングっ!」
 ガルドブルムとの合流を目指す竜種に子弾の雨が降る。
 防御力不足が一部で囁かれるVolcaniusも攻撃力は健在で、半端な戦闘力しか持たないワイバーンを砕き深手を負った竜種を撃退する。
「騎士や遺物を散々喰らったんだ。ついでにコイツも喰らいやがれ」
 歪虚CAMの狙撃が集中しだしたのを見て、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は長くはもたないと判断し……。
 直感に従いVolcaniusと別々の方向へ飛び退いた。
「これを耐えるかッ」
 最小限の被弾で済ませた1人と1機を見て黒竜が喜びの声をあげる。
「そろそろ竜退治にもウンザリしてたところだ」
 星神器を使わされたとはいえ、ガルドブルムの攻撃を1手潰したと思えばよい取引だ。
 レイオスが鞘から引き抜いた刃が天を向いて山吹色の光を放つ。
「正義執行!」
 光の密度と範囲が増し山吹色の塔と化す。
 ハンターも幻獣もユニットも傷を癒やされ力を増す。
「さすがッ」
 評価し、恐れ、怯えない。
 ガルドブルムは一度完全に攻撃を止めて移動に専念、そして当然のようにそこにいた朝騎に向かって残像すら見えない回し蹴りと尻尾による打撃を繰り出す。
「朝騎の芝居にまんまと騙されまちたね」
 盾で受けたのに全身の骨が痛い。
 だが、高位歪虚並にある朝騎の抵抗が貫通されるほどではない。
「イコニアさんのご先祖様の仇でちゅ」
 呪詛返しされた高度な技が、強度を増して黒竜の心身を縛った。
「瑠璃茉莉っ、全部使ってから退避っ」
 可愛らしい顔の右半分に迫力のある紋様を浮かび上がらせた百鬼 一夏(ka7308)が、ポロウと分かれて単身ガルドブルムに突撃する。
 一般基準では英雄や魔人扱いが当然の強さではあるが、守護者や守護者級のハンターと比べると明らかに力不足。
 だが判断力と思い切りはそれ以上だ。
「硬いっ、重いっ、ぐねぐねしてるぅっ」
 ガルドブルムの尻尾相手に投げ技を仕掛けている。
 通常時なら一瞬で振りほどかれてしまったはずだが、自身の強烈な状態異常攻撃を増幅して返されたガルドブルムはあらゆることが巧くいかない。
 一夏の判断力が掴んだ勝機であった。
「そろそろ終わりにしてやるよ」
 一夏が増やした好機をレイオスが活かす。
 落ちに落ちて普通の高水準程度にまで落ちた回避技術を躱して山吹色の刃を肩に叩き込む。
 が、この状態でもしぶとく体を動かされ爪で受けられ少々の破損で乗り切られた。
「わぅ。貰えたのって評価じゃなくて、多分ただの恨みと怯えです?」
「どうかな。いずれにせよ機であるのは確かだ」
 アルマ・A・エインズワース(ka4901)と仙堂 紫苑(ka5953)は世間話のように話しながら攻撃準備を終えた。
「歪虚軍将の上限近くか」
 紫苑が霊的な視覚で黒竜を観ると、マテリアルの流れがアルマ並に滑らかだ。
 アルマのような術運用能力がない分、肉体が異様な水準で強化されていることが分かる。
「安全策でいく」
 それだけでアルマや他のメンバーにも通じる。
 風もないのに揺れ始めた天秤に手を触れ、文字通りの全力のマテリアルに大精霊から預かった力を加えて注ぎ込む。
「従え」
「ヌゥッ!?」
「わ」
 ガルドブルムの体から力が抜ける。
 一夏の投げ技が綺麗に決まり、背を打った黒竜の腹に一夏が背中から落下する。
「効果は最短で10秒!」
「わぅ、びっくり。あ、個人的には何の恨みもないですけど試し撃ちに付き合ってくださいね」
 力みも緊張もなく霊的な方向へ一歩踏み出す。
 強力な生命力と凶悪なまでに練り込まれた魔力が、際限なくアルマから引き剥がされていく。
「デルタレイが」
 3角形の光が10出現しアルマの姿を隠す。
 黒竜は己の危機を理解しているのに死者の掟に縛られ指一本動かせない。
「いっぱいです!」
 3角形1つあたり光線3つ。
 理論上の上限近い威力が5割上がった上に紫苑達の支援によりさらに数割上がる。
 結果何が起きるかというと、最高の質の術攻撃数十の同時攻撃だ。
 一夏が飛び退く。
 竜の体が無数の光に貫かれ、沸騰した血と負マテリアルが混じったものが傷口からどろりと零れる。
 これで勝ったと多くの者が判断した。
 しかしアルマは、リーリー・ミーティアを強く促し全力で逃げ出していた。
「お兄ちゃんもう時間ないから頑張って」
「……死ぬなよ」
 通信機越しに返って来た返事に微笑み、アルマは唇をぬらす血をハンカチで拭き取った。
「奴の速度が上がるぞ。後衛は距離をとれ!」
 紫苑が警告する。
 ガルドブルムが鼻息で鼻血を吹き飛ばす。
 前回りで起き上がることもできず、震える前脚で力の無い翼を引きずり身を起こす。
 内在する負マテリアルは開戦前の2割を切っている。
 なのに目は生き生きして死ぬかけのはずの体から精気が溢れていた。
「この状況で油断しねェとは、さすがだ」
「急げ!」
 紫苑はガルドブルムに応えず、どこに語りかけたか分からないよう大声を出した。
 紫苑からのアイシクルコフィンを弾き、黒竜はこれまでの限界を超えた集中で戦場を見渡し、気付く。
 土埃を全身に浴び死んだように横たわる男が抱えた魔導銃に、ガルドブルムの腕を砕くだけのエネルギーが詰まっている。
 体はまだ回復しない。
 躱すだけの速度も、攻撃のため近づく速度もまだ出ない。
「これこそ我が銃」
 キャリコ・ビューイ(ka5044)が口を開く。
 極限の集中がキャリコの全てを射撃に捧げている。
 黒竜の脚に力が戻る。
 攻撃側に取っては嫌らしい動きをして、しかし上半身の動きが伴わないのでこれなら確実に当たる。
「銃は数あれど我がものは一つ」
 力がかかりすぎた竜牙が砕けた。
 開放しろと暴れる力をキャリコが宥め、全てが揃う瞬間を待ち受ける。
 声も音も消えた。
 ただ、当てたという感触だけが指先に残っていた。
「見事ッ」
 無事だった翼の根元が大きく歪んでいる。
 キャリコの全てを投じた弾でも貫通できなかった。
 しかし、繊細な筋と骨格を歪ませるだけの威力は十分にあった。
「こっちです!」
 キャリコだけでなく多くのハンターと幻獣が状況に気付いて一夏の元へ向かう。
 黒竜の手足に力が戻り、血だらけ傷だらけの体に強靱な何かが宿った。
「俺の出番は終わりか」
 キャリコが銃を下ろしてポロウに乗る。
 その直後、ガルドブルムが跳躍し至近距離から無数のブレスを放った。
 1つのブレスを除きたいした威力は無い。
 志願してこの戦場にくるようなハンターは、前衛でも後衛でも常人なら即死の炎に耐えられる。
 だが1つ混じった炎だけは別だ。
 当たれば死ぬ。
 防御面で大精霊の力を借りられなければ、守護者ですら死ぬ。
 幻影結界が消滅しポロウが最期の息じみた呼吸をした。
 生きている。
 邪神翼の攻撃に耐えた結界が、今回も役立ってくれたがもう残りがない。
「撤収です」
「撤収だ」
 スキルが空になったハンターと幻獣が、思い切り良く撤退を開始した。
 ガルドブルムは困惑した。
 これほどの戦士達が、このまま逃げられると判断するのだろうか。
 翼は駄目でも脚は無事だ。
 逃げる人間の背にブレスを撃ち込むのは、200年前までの経験があるので非常に容易い。
「へいへいへいーい! もう死ぬ寸前じゃーん」
 殿、という訳ではないだろう。
 ガルドブルムの包囲を目指すハンターとは別に、撤退中のハンターを庇う位置に真新しい機体が立っている。
「別に逃げるのを追って食ってもいいよー。その前に俺様がぱくっと頂いちゃうからよっ」
 刻騎ゴーレムと一体化しても凄まじい眼光で挑発の言葉を吐く。
 チンピラじみているというよりチンピラそのものの言動だが、ただのチンピラにこれほどの力と度胸があるはずもない。
 竜が破顔する。
 ゾファル・G・初火(ka4407)が構えをとる。
 そして、双方一瞬で最高速まで加速し、フェントをかけあった結果の真正面からの激突コースを選ぶ。
 先手はガルドブルムだ。
 地面という支えを活かして全身の力を最大限に引き出し、尻尾とあわせて4回同時の攻撃をルクシュヴァリエ・ルッ君に向ける。
 拳と尻尾だけならかなりの確率で避けることができる。
 が、絶妙のタイミングでセンサを狙うブレスが刻騎ゴーレムの動きを乱し、結果として拳が次々に着弾する。
 特に分厚くした腕は耐えたが、腹にめりこんだ竜爪はゾファルの体を傷つけていた。
「はっ」
「ハッ」
 心からの笑みが同時に浮かび。
 ルッ君とゾファルの全力の振り下ろしが黒竜の頭を150度回転させた。
「チャンピオンより効くだろ?」
 飛行能力が途切れ着地でバランスを崩す。
 黒竜は血の代わりに負マテリアルを吐きながら腕で叩いて頭の向きを直す。
「お前以外のチャンピオンは知らねェな」
 尻尾がぐるりと回ってルッ君が吹き飛んだ。
「失せろ、トカゲ」
 ルッ君は攻撃前に吹き飛ばされたがもう1機のルクシュヴァリエは間に合った。
 ゾファル機に気を取られすぎた黒竜に、物理的にも魔術的にも威力を高めに高めた超々重斧のフルスイングをぶち当てる。
 無論それで終わりでは無い。
 ルクシュヴァリエの特技である光の刃が、ガルドブルムだけでなくその逃げ道を覆い尽くしてさらなる深手を負わせた。
「飛べないのなら」
 ユーロス・フォルケ(ka3862)のルクシュヴァリエは白兵戦特化機であり空中戦には向いていない。
 だからユーロス自身のスキルをトレースさせて宙に立ち、斧が届く高度という圧倒的有利な位置を保って容赦の無い攻撃を続ける。
「ブランクか」
 長期間戦場に立ち続けたハンターと比べるとユーロスの練度は低い。
 ブレスの豪雨を避ける技も耐える力もない。
「お前を倒すならこれで十分だ」
 それでもいいのだ。
 ユーロスが用意したルクシュヴァリエ・エインヘリヤルは十分に強く、ユーロス自身のスキルと判断力を加えることでガルドブルムに届く刃となる。
 なにより、エインヘリヤルであればあのブレスが直撃してもユーロスの命だけは守り抜く。
「違いない!」
 骨が見えた現状でも黒竜の勢いは衰えない。
 数度躱した後の一撃を防ぎきれず、エインヘリヤルは爪撃を浴びて一歩後ろへ押し出された。
「絶対に近づかないこと」
 ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)はかつてない強さでワイバーン・セレーネに言い聞かせた。
 至近距離での複数回攻撃抜きならば、あのブレスはまず当たらない。
 あれは防御側の対処能力を上回ってから使うから強力なのだ。
 もちろん紛れ当たりはあり得るがそんなことを考えていたら対高位歪虚戦には参加できない。
「アレ仕留めれたら報酬上乗せしてくれないかなぁ……」
 機導師ではあるが銃だけを使っている。
 当たってもかすり傷にしかならなくても、黒竜は既に重傷の域にある。
 かすり傷でも十分な戦果だ。
「この程度か?」
 死にかけの竜が寂しげにつぶやく。
 過去の戦い全てを上回る戦いを味わえた。
 だがもう目の前に飛び抜けた強者はいない。
 後は逃げて戦闘力を保ったまま回復を待つか、あるいは神霊樹分樹でも食らうか。どれも格を上げる行動なのに心は震えない。
「お待たせしました」
 礼儀正しい挨拶が確かに聞こえた。
 空気の振動では無く、熱い正マテリアルが籠もった拳がそう語っていた。
「精霊?」
 刻騎ゴーレムの鉤爪を受け流しカウンターを試みる。
 ルクシュヴァリエはフィロ(ka6966)の動きを忠実に再現し、ふわりと華のある所作で跳んで黒竜の目の前へ着地する。
「オートマトンという奴か」
 フィロは応える必要がないので応えない。
 手数に勝る黒竜相手に攻防と移動に防御まで揃った技で対抗。
 機体が中破に至った時点で距離をとり幻糸の柱を発動する。
「通れるぞ?」
「一手無駄にする危険を冒しますか? かなりお疲れのようですが」
 いざというときは機体を捨てる準備をしつつ事実のみを指摘する。
 そうしている間も銃撃と砲撃がガルドブルムに届き1割の確率で確実に削っていく。
「しぶとい」
 ワイバーンがバレルロールを披露する。
 まるで常時見ているかのように、集中力が僅かに鈍ったタイミングで黒竜からブレスが飛んでくる。
 ルナリリルは正面からの風に目を細め、何個目になるか分からない再装填作業を瞬く間に終わらせた。
「期待値なら後数分で済むけど」
 徹底した改造で長砲身となったアルコルを構える。
 ルナリリルによるマテリアル操作が銃身に紋様を浮かび上がらせ、一瞬ごとに変化し続ける。
「最終形態があると考えるのが無難?」
 リアルブルーに詳しい彼女はゲームについても造詣が深い。
 紋様が一際濃く複雑になり、始祖鳥の骸骨が刻まれた銃から決定的な1発が放たれた。
「ンガッ」
 ガルドブルムの意思に反した声が出る。
 胸を穿った弾丸が肺腑を傷つける。
 痛みで思考と動きが鈍ったタイミングで、ハンター達は重体者の後送と負傷者の治療を素早く進めた。
「重体の方はっ」
 アニス・エリダヌス(ka2491)がワイバーンから飛び降る。
 誘導され、聖剣を手に極めて高度な法術を発動。
 絶命直前の呼吸が安定する。2人もだ。
「次はっ」
 振り返る。
 かなりの距離を移動してきたガルドブルムが、擱座したCAMや寝かされたハンターへ大量のブレスを吐く瞬間を目撃する。
「大丈夫です」
 黒竜を惑わせる天使の力が飛び散る羽の幻を見せる。
 いくつか穴が開いたCAMはあるが、重体のハンターへの被害はない。
 アニスのエンジェルフェザーの効果だった。
「ここを通すわけにはいきません」
 真っ直ぐに睨み据え、最後のリザレクションでもう2人を死の淵から呼び戻す。
「最後まで希望は捨てない。ハンターの性格……よくご存じでしょう?」
「直接見るのは最高だな」
 体の端が時折薄れるほどに消耗しているのに、ガルドブルムの闘志は衰えず身のこなしは益々洗練されていく。
 アニスは、目の前の竜と絶対に分かり合えないことを確信した。
「ありがとうございます」
 応急修理が完了したフィロも戦線に復帰する。
 アニスは歪虚へ向かう前衛達に障壁による支援を行い、黒竜の脅威に対抗した。

●支部
 目覚めはポーションの香りだった。
「イコちゃん! この指何本に見える?」
 最近では親より馴染みのある顔が呼びかけている。
「拳を握っているじゃないですか」
 司祭は笑顔を作ったつもりだが、強ばった顔にしかなっていなかった。
「ほんとーに心配したんだからね。ディーナさんと別れて即倒れちゃうし」
 宵待 サクラ(ka5561)に言われ、聖堂教会司祭が眉間に皺を寄せて記憶を検索する。
「確か……」
「カーナボン司祭にこんな所で死んでほしくないの。司祭は神使だと思うの」
「そう、そんな感じで」
 うんうんとうなずき合う。
「本当に神使だったり?」
「高位の精霊様方の意思は分かりませんよ」
 累代の恨みがある黒竜を殺せるかどうかの方がはるかに重要だ。
「んー」
 サクラはしばし悩む、結局口にすることに決めた。
「率直に聞くよ。勝てたら相殺できそう?」
 イコニアがそっと視線を逸らす。
 大規模な法術を強引に施した結果、支部の外壁だけでなく神霊樹分樹を守る防壁までぼろぼろだ。
「だいたい分かったよ。がんばろ?」
「ですね」
 気が抜けたのか私人としての顔でうなずく。そして、部屋からエントランスに移動した瞬間ひくりと口元が動いた。
 王国としては近代的な街並みが、瓦礫が転がり粉塵が舞う紛争地帯に様変わりしている。
「思ったより被害が少ないね」
 歪虚も建物破壊を積極的に狙っている訳ではないので、たまにブレスが流れ弾として当たったり回避に失敗した竜種が突っ込んだり墜落する歪虚CAMが建物と爆発する程度だ。
 要するに街の傷は深い。
「せめて領主様には許されるよう頑張り……」
 司祭の顔から甘さが消えた。
「敵襲です。支部に残った職員とパルムの皆さんに伝えて下さい」
 数体の歪虚ワイバーンを護衛に、生き残りの歪虚CAMが支部にに向かって来ていた。
 そこから百数十メートル北東。妙に元気の良いネプチューンが大型竜と正面衝突して目を回した。
「ガルドブルムでもない歪虚にこれだけ手間取るとは」
 ワイバーンを駆るフィーナ・マギ・フィルム(ka6617)が小さな手で拳をつくり俯いた。
「畜生ッ、反論デキン」
 薄れていくネプチューンを警戒しながら、全長18メートルに達する竜が大きな息を吐く。
「ダガ」
 このまま行けばボスもハンターも迂回して神霊樹分樹を直撃できる。
 守備部隊とこのエルフに挟撃されれば確実に滅ぼされるとはいえ、神霊樹分樹を狙うならハイリスクで当たり前だ。
「儂ハ死ヌマデ止マラヌゥッ」
 氷の魔術の直撃を浴び、体が震えるほど冷やされても元気に飛んでいる。
 正直、放っておいても知り合い達がなんとかする気もするが、支部にいる司祭は結構なうっかりなのでここで止めておきたい。
「ホフマン連続装填指示、炸裂弾×2撃て~」
 定評のある炸裂弾が、支部を射程におさめたデュミナス型ペアを砕いた。
「弾種変更、左向け左~」
 支部の中庭でVolcanius・ホフマンが向きを変え。
「射撃自由~」
 スキル無しでも長大な射程を誇るプラズマキャノンでデュミナス型相手に射撃戦を始めry。
「ピンチというほどじゃないけど~」
 ホフマンに登って肩を蹴り屋上へ移動。
 司祭の声が聞こえる当たりに移動して北東を見る。
「このタイミングで~」
「フハハッ、ボス、先ニ頂クゾッ」
 鈍色の鎖が伸を伸ばしてフィーナを置き去りにした竜種をぐるぐる巻きにした。
「コレハ!?」
 ただのファントムハンドだ。
 使用者を倒せば脱出できる。
 当然のようにメイム(ka2290)が狙われ、しかしメイムはは出現させた障壁を巧みに操り浅手のみで済ませる。
 その分天井に穴が開いて司祭の悲鳴が聞こえるが勘弁してもらおう。神霊樹分樹に傷をつけるよりずっとましなはずだ。
「待たせた」
 ワイバーンに乗るフィーナのマテリアルが膨れあがり、白い肌に刻まれた刻印が輝く。
 乗騎ごと包み込む形で球形魔法陣が出現。
 フィーナが魔杖を振ると先程を上回る冷気が大型竜種を直撃した。
「見事ダ若キ戦士達ヨ……」
 満足げに消えていくドラゴンを平然と無視する2人とワイバーン1体が、ガルドブルムのいる方向を見て警戒を強める。
「ホフマンに迎撃準備させるね~」
 運ばれてくる重軽傷者が予想以上に多かった。
「白縹っ」
 ペガサスが支部の入り口にサンクチュアリを展開する。
 竜種を防ぐのは無理でも、歪虚ワイバーンが勢いをつけて進入を試みてもまず進入不可能だ。
「い、いこ、司祭、様」
 よりにもよってこのタイミングで、ルカ(ka0962)の人見知りが発症した。
「はい、ポーション用意しますね」
 ルカもイコニアも法術の専門家なので、どもろうが目を回そうがやるべきことは伝わる。
 運び込まれた重傷者がマットに上にずらりと並べられ、ポーションの香りが漂った。
「んんっ」
 口を閉じ患者に向き合えば、ルカは聖女の称号でも足りない治癒術の使い手だ。
 実に20人近くが短時間で癒やされ戦闘可能な状態で起き上がる。
 そのタイミングでサンクチュアリが尽きた。
 巨体の竜2頭が入り口から顔を突っ込みブレスを吐き出そうとする。
 ルカがプルガトリオによる闇の刃を打ち込み片方の移動を封じる。
 回復した約20人が慣れた動きで分断してあっという間に1頭ずつ屠る。
「出発します」
 カオスセラミック製の弓を手にペガサスへ乗り、自身が回復した者達と一緒に最後の戦場へ向かう。

●混戦
「匂ウ、匂ウゾオッ」
 美貌のエルフに鼻を近付け鼻息荒いドラゴンは、控えめに表現しても変態であった。
「リゼル!」
 グリフォン・リゼルが高度を下げイツキ・ウィオラス(ka6512)が槍の切っ先を滑らせる。
「待テッ」
 食欲と戦闘欲を分けて考えない竜種が、グリフォンのホバリングに似た動きで半回転し両手を伸ばした。
「彼の竜が、これほどの悪夢を撒き散らす」
 槍が伸びる。
 強く儚い輝きが、言動の雑さとは逆に精緻を極める回避術を上回る。
「なら――私は、其の悉くを、断ち切るまでの事」
「匂イガ濃クナッタゾ素晴ラシィ!」
 マテリアルの気配のことだ。
 目を見開き鼻からブレスに似た炎を吐く歪虚は視覚的暴力である。
 それでも強さは本物だ。
 散弾ブレスは非常に高密度で、スキル無しの弾幕なら平然と無傷で済ますリゼルも何度か被弾している。
 風の結界と盾を併用して被害を抑えてはいるが、そろそろスキルの残量が拙い。
「オフッ?」
 竜種の巨体が一方に引っ張られる。
 家屋並の重さと特大重機並みの力があるのに全く逆らえない。
「外の世界はこれほどの修羅場か」
 ファントムハンドで引っ張ったウルミラ(ka6896)が手綱を操作する。
 ワイバーンは主の誘導に即従い、大きなドラゴンが庇っていた歪虚ワイバーンにブレスをぶつける。
 範囲攻撃としては範囲が控えめなのに敵ワイバーンの被害は重傷2に軽傷1もいる。
「大小の竜種で連携するとはな」
 相手が歪虚ワイバーンだけで都市を守る必要もないならウルミラだけでもなんとかなるが、避難済みとはいえ都市の上空で強力な歪虚が多数いる戦場ではハンターが大勢いても難しい。
「奴がガルドブルム、か」
 地上で転げ回るようにして戦う竜をちらりと見る。
「龍戦士として挑みたいところだが……」
「余所見カッ」
 左に首を伸ばしてフェイント、その上で右から全力爪パンチという技を披露するドラゴン。
 散弾ブレスと比べれば避けやすく、ワイバーンが余裕をもって回避してくれたが当たれば多分死ぬ。
「そんな余裕はないが」
 イツキがウルミラに目礼してワイバーンを追撃する。
 歪虚ワイバーンはどれも弱いが戦い慣れしていて、逃げる班と牽制する班に分かれてイツキに全滅させられるまでの時間を延ばしていく。
「奴との戦いを待ち望んでた者も多いようだ。ならば戦いやすくしてやるまでさ」
 お前など小さな障害でしかないと言い切られたのに、竜は御満悦な表情でウルミラに突撃し……イツキから飛んできた閃光に腹を突き刺された。
「効イタゾッ」
 生命力が半分以上削られてもドラゴンは元気だ。
 改めてウルミラを狙うかイツキを追うかどちらにしようと上機嫌に考え、凶悪な殺気に気付いて急降下による増速兼回避運動を試みる。
「五月蠅い竜だ」
 飄々とした声が風に乗って届き、一瞬遅れてファイアーボールの爆発が、さらに一瞬遅れて無数の子弾が左から打ち付けられる。
「魔法使イモイイナ!!」
 受け身で落下被害軽減と移動をした上で立ち上がる。
 竜はブレスの準備を終えていて、ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)とその背後のVolcaniusに強烈なブレスを向ける直前、喉をレイピアの切っ先で強打される。
「別ノエルフ?」
 アーシャ(ka6456)は突きを命中させた後その場に留まらず竜の脇を通り抜ける。
「取り巻きっていうには大きいけど」
 別の竜対ハンターの戦いでできたクレーターに飛び込んだ瞬間90度方向転換。
 無論速度は緩めず走り続け、エルフ焼きを作るため撃ち込まれたブレスをなんとか回避する。
「小回りが効く分この程度はね」
「強サニモ色々アルナッ」
 地面を蹴って飛び上がり、しつこくアーシャを狙うドラゴン。
 それはヴィルマに致命的な隙を晒す行動でもある。
「いくらでも我の魔法で地に堕とし、ひれ伏させてやろう。墜ち這いずれ竜どもよ」
 使われたのはただのファイアーボールだ。
 単に使い手が優れているだけの、射程も効果範囲も平凡な攻撃術。
「ヌッ、クッ」
 そして、強力な竜でも回避に意識を裂かねば直撃を浴び大打撃を受ける有効な攻撃だ。
 十分な距離をとったVolcaniusから再度の炸裂弾、しかも今度は連発だ。
 厚いが並程度の強度しか無い鱗に子弾が無数にめりこみ、竜の脳に痛みが届く。
 金髪ポニテエルフが竜を無視して、地上に落ちた歪虚ワイバーンを刺し殺すのが見えた。
「コレ以上」
 言い終える前に竜が炎に包み込まれた。
「1つ下げろ。撃て」
 東から大量の弾が飛んでくる。
 これだけなら避けることも耐えることもできただろうが、Volcaniusに狙われ逃げる先もないし同時に複数方向を防ぐこともできない。
「ムネン」
 重々しい音を立てて通りの中央に落ち、数百年分の風化が一瞬で済んだ後に薄れて消えた。
「ここも終わりか」
 シガレット=ウナギパイ(ka2884)が、傾いた吸い殻入れに1本放り込んだ。
 戦場中央ではグランドスラムで賑やかだが、ここからの砲撃が届く距離に歪虚がいない。
「分かれて行動する訳にもな」
 相棒であるVolcaniusは今日だけでキルスコアを6つ増やした。
 大した成果ではあるのだが防御面では相変わらずだ。
 シガレットが先行すればワイバーンやドラゴンが真横から突っ込んできた相棒が死ぬ。
 敵にもその程度の頭はあるのだ。
「運ぼうか?」
 降下してきた魔導ヘリコプターが懸架用アンカーを垂らす。
「頼むわ」
 シガレットはもう1本をポケットに戻し、魔杖を軽く真横に振った。
「気付イテイタノカッ」
 器用に匍匐前進してきた竜種に大量の闇刃が突き刺さる。
 足止めは10秒程度しか効かなくても、その時間があればゴーレムが接続作業を終えヘリコプターが距離を稼ぐことができる。
「流れ弾1つで墜ちる気は無いが……」
 パイロットの花(ka6246)が独りごちる。
 巨大な重りをぶら下げているので目立つし防御困難だし速度も出ない。
 それでも、高火力と低移動力に定評のあるゴーレムを地形を無視して運べるのは非常に素晴らしい。
「出来ることをやるだけさ」
 切り離す。
 着地に向いていないはずのVolcaniusが両手で平衡を維持して着地に成功。
 赤いオファニムに追い込まれた歪虚ワイバーン達に大量の子弾をお見舞いした。
 Volcaniusがいた空間を長射程散弾ブレスが貫く。
 死がすぐ側にあるのに花は表情を動かさず、冷静に魔法の煙を発生させ遠方からの砲撃を妨害する。
「好きに戦って連携がとれるか。大したものだ」
 ハンターも歪虚も、長距離通信する手段がないのに戦術データリンクがあるかのように戦っていた。
 ビルに似た建物から下向きに飛んだ。
 途中でマテリアルの足場を蹴って向きを調整。
 体温が感じられる距離で体格の良い竜種の方から腹までを通り過ぎた。
「ただ聞いてるのと実際に目の当たりにするのとはやはり違うな」
 東條 奏多(ka6425)が血振るいすると血より負マテリアルが多い体液が地面を汚す。
 半秒遅れて竜種に刻まれた傷が開きから血が流れ出す。
「ドコカラ……ソ奴ガ運ンダノカ」
 ポロウのてばさきは主である奏多を盾にしている。
 悪意故の行動ではない。
 紛れ当たり1発で死ぬ可能性があるのでやむをえずだ。
「ここまでの質と数の竜が集まるとは、また珍しい」
「ソノ言葉ソノママ返ス」
 大規模作戦が行われる様な要地ならともかく、それ以外では76人のハンターが集まることなどまずあり得ない。
「まあ、人を害する歪虚だってことは事実だ。せっかくの機会だし、一匹残らず一網打尽にしてしまおうか」
 格好つけているように見えてその実ポロウへの援護だ。
 ポロウが通信機から情報を聞き取り、味方が使う可能性のある位置とタイミングで幻影結界を設置する。
 竜が楽しげに牙を剥き出し、その巨体で奏多の動きを制限しながらブレスを連射する。
 激しく打ち合う人と竜の後ろを超射程ブレスが貫き幻影結界を1つ消費させていた。
 アームユニットやマウンター必須の重火器とはいえ、単独の火器でつくられた弾幕がワイバーンを3体も打ち据えた。
 ダメージはないが姿勢の乱れは激しい。
 3体中2体が立て直しに失敗して放置屋台の影に不時着した。
「こちら花、ポルックスだ。Volcaniusを下ろしたので歪虚ワイバーンの処理に回る」
「了解」
 アニス・テスタロッサ(ka0141)は赤いオファニムを低空で飛ばつつ弾幕を張り続ける
 元々あった障害物に戦闘でできた穴が加わったことで、地上は落とし穴の宝庫と化している。
「多過ぎんだろ……どっから湧いてくんだか……」
 HMDの一部にある鳥瞰図には、建物の影から現れる竜やワイバーンが複数新規に表示されている。
 奴等は見た目や言動よりは賢い。
「まあ、やるしかねぇんだがよ」
 機体の動きは派手だが戦い方は地味かつ着実だ。
 遮蔽物から飛び出した歪虚ワイバーンを確実に撃ち、花がVolcaniusを運び終えた時はその空域の対処を任せて別の空域に向かう。
「今更逃げようなんてなムシ良過ぎんだろ……」
 大型竜種の数は半分まで減ったことにようやく気付いたワイバーンが、1羽、また1羽と郊外を目指す。
「逃がすと思ってんのか」
 背中に銃弾を撃ち込むほど簡単なことはない。
 万が一にも外さないよう安定した足場へ着地し、いつも通りに狙いをつけ1発ずつ撃ち込む。
「後は赤竜に黒竜か。制圧射撃は効きそうにねぇな」
 一瞬だけ全体の状況を確認してから、アニスは街の外への空路を完璧に塞いだ。

●レッドドラゴン
 桜吹雪に似た光が、傷と凹みで覆われた鱗に弾かれた。
「あー、うむ」
 赤竜の喉から流暢な言葉が発せられる。
「弱い攻撃は私には効かない。あの連中と戦うのがお勧めだ」
 サイズは同程度でも負の気配が半分以下の竜を指し示す赤竜に、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)が見事な営業スマイルで応えた。
「忠告に感謝します。でも必要ありません」
「大変結構!」
 予備動作も殺意もなかった。
 真摯な態度で、赤の竜がエラ1人を殺すために全力を出す。
 単純に強くて速いブレスがエラを乗せるワイバーン・北極に迫る。
 酷く避けづらく、回避に長けた北極でも脚の先に当たりかけた。
「小細工が効かない相手ですか」
 限界まで強化を重ねた盾で北極が塞いだことを振動で感じ取る。
「焼き払え、延炎」
 散弾ブレス並みに速くて躱しづらいた破壊エネルギー噴射され、しかし余裕を以て躱される。
「なるほど」
「楽しめそうだ」
 双方驚きすらせず、淡々と己の最高の攻撃と防御を繰り返した。
「降りてきやがれ!」
「私はボスほど戦狂いではない」
 赤竜が大真面目に言ってボルディア・コンフラムス(ka0796)を見下ろす。
 高位の歪虚としては情け無いにもほどがある発言だが、発言に説得力が出てしまうほどにボルディアが強い。
 エラと北極が斜め上へ回り込む。
 赤竜にとりブレスで狙い易い位置ではあるが、今ブレスを吐けばボルディアが放置屋台を足場に一撃を繰り出してくる。
「さすが」
 ボルディアの踏み込みは竜の予測より1歩深い。
 円形の斬撃が両足を斬り飛ばす軌道で赤竜に近づく。
「油断してくれていいぜ」
「お前達相手に油断する馬鹿は群れにはいない」
 竜は器用に体を捻って円錐状にブレスを放つ。
 ボルディアもエラも北極も効果範囲で、当然のように全員が完璧に回避する。
 回避成功率は9割だ。
 敵も、味方も、超高次元の戦いはなかなか当たらず長引く傾向がある。
「押サレテイルッ」
「援護ダッ」
 赤竜とハンターの戦いに気付き、元気なドラゴンがわらわらと集まってくる。
 大きく息を吸って、負マテリアルを足してブレスとして吐く。
 4体分の炎は強いだけでなく空間全体を覆う攻撃で、特にワイバーンには危険に見えた。
 だが届かない。
 予め準備していた幻影結界がブレスに無効化ではなく命中低下を強いる。
 本来なら躱しづらいブレスも平凡な攻撃と同程度にまで落ちた。
「赤竜のブレスには通じないだろうが」
 ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は幻影結界設置をポロウに任せて引き金を引く。
 回復をもたらすエネルギーショットがワイバーンに当て、万一被弾しても墜落しない程度に癒やす。
「この程度の歪虚なら問題ない」
 十分に強い相手ではあるが赤竜や黒竜と比べれば与し易い。
 何故なら、少なくとも状態異常攻撃は効くのだから。
 ドラゴンブレスに酷似した白い光が、死角から竜達を貫通する。
 生じた傷は致命的でなく、しかし浸透してきた正マテリアルの影響は致命的に限りなく近い。
「オ前ッ」
 混乱した竜が隣の竜に体当たりして2頭とも姿勢を崩す。
 どちらもガルドブルムに仕込まれた体術で受け身はとるが、ボルディアという高威力重防御を兼ね備えたハンターに襲われリーダーへ援護ができなくなる。
 エラが攻撃を続けながら合図を送る。
 ツィスカが、数百メートルは離れているのにこちらを認識している黒竜を警戒する。
「構わない」
 許可を与えられたポロウが幻影結界を使い尽くす。
 その時点で黒竜の意識が外れたのに気付き、ツィスカは口の端に苦苦しげに歪めた。
「王国がここまで資源を費やす訳だ」
 異様に面倒な相手だ。
 脅威自体は王級より下だが、逃げるのも部下との連携も平然と行う分討伐に時間がかかる。
 こういう歪虚は王級や邪神との決戦まで殺すしかない。
 ツィスカは敢えて目立つ動作で破壊エネルギーをばらまく。
 広範囲で避けづらくはあるが、巨体に似合わぬ回避技術を持つ竜種にはなかなか当たらない。
 それでも、回避や防御を強いて他に注意を向けさせないという効果はあった。
「これで」
 夜桜 奏音(ka5754)が符をつまむ。
「少しは負担が減ると」
 日常的な独り言に聞こえるのに、頭の天辺から指先までマテリアルが完全に制御されている。
「いいんですけど」
 ただの五色光符陣……結界展開からの光攻撃に見えるが実態は違う。
 技術とスキルと強力な符で状態異常が徹底的に強化されている。
「しまっ」
 赤竜がエラへの防御を放棄し地を蹴って逃げようとするが間に合わない。
 光が何度も何度もドラゴンを打ち据え、超人じみた回避の技も攻撃の手段も使えないほど痛めつける。
「ここだ」
 全高8メートルの武者鎧が、ブレスと砲弾行き交う空を急降下してくる。
 強引な軌道なのに被弾箇所は驚くほどに少ない。
 まず間違いなく人機一体による能力強化を多用している。
「これに合流されればガルドブルム対応班でも手に負えなくなる」
 南護 炎(ka6651)のマテリアルが機体内の精霊と重なり斬艦刀と装甲を蒼く光らせる。
 左肩に染め抜かれた覚悟完了の4文字が、黒なのに太陽よりも眩しく輝いた。
「ここで終わらせる」
 人工音声がレディと準備完了を告げ。
 機体内で炎に力を貸す中小精霊が全力で応援する。
「来い人間!」
 ルクシュヴァリエが駆け赤竜が待ち構える。
 正マテリアルが一度斬艦刀の中に詰め込まれ、斬艦刀を覆い隠す巨大な刃をなって炎の意に従う。
 蒼と紅に染まったセンサがドラゴンの動きと思考の全てを見通し。
 赤竜の反応を超える速度で巨大刃が斜め上へ。竜の腹から胸が1メートル以上抉れ、傷口が炭化もできず負マテリアルに変わる。
「おぉ!」
 刃の向きを180度変えてもう一撃。
 回避が間に合わぬと判断した竜は、片方の腕を盾にして骨にひびを入れられた。
「抵抗が……増した?」
 惜しみなく符を使いながら奏音がつぶやく。
 強化した五色光符陣を連続で使うことで行動阻害の押しつけには成功している。
 だが、術への抵抗力が増している感覚が確かにある。
「歌で刻み、剣で響かせる」
 地表すれすれを白銀の龍が飛ぶ。
 騎乗するアリア・セリウス(ka6424)が構える2剣が、使い手のマテリアルの影響でこの世ならざる艶を得る。
「鱗も翼も、繚乱と舞う刃に耐えられるかしら」
「食らって前に進む!」
 赤竜が両足で大地を踏みしめる。
 負マテリアルが燃え上がり、鱗を焦がしながら無数の散弾となりルクシュヴァリエを大きく傷つける。
「強敵たる竜という困難、翼持たぬものが空で戦う理不尽」
 声は歌となり所作は術となる。
 アリアのあらゆる要素が銀の刃としてまとまり、赤竜との接触の瞬間開放される。
 3つの斬撃が同時に踊る。
 この瞬間おそらくガルドブルム以上の読みができてはいたが、アリアの剣にはわずかに及ばず爪が砕かれ腕骨のひびが広がり本命の斬撃への対処が間に合わない。
 鈴の音に似た音が響き、赤竜の腕一本が半ばから断たれ宙に舞った。
「見えた、見えたぞ」
 腕一本を失い存在の大量の負マテリアルを失ったのにドラゴンの体調は過去最高だ。
 散弾ブレスの1つ1つを向きを操作し、今最大の脅威であるアリアの四肢に7割を着弾させる。
 防具が傷つき白い肌が焼け、だがそれが即直ったのを気付いてしまった。
「聖導士っ」
 ソナ(ka1352)が無言で力場の盾を展開する。
 回復役から潰せというのは知り合いの司祭も同意する基本戦術なので、今後は最優先で狙われてしまうと判断した。
 ルクシュヴァリエが赤竜とソナの間に割って入る。
 ソナを守るために躱せずブレスが何度も命中。大破以上のダメージを受け……機能が停止するより速くフレームの特殊金属を回復させられた。
「ありがとうございます。無理は、せずに」
 ソナは強力な癒し手であり、緊急時の治療に適したファーストエイドを準備してきた。
 仮に外からブレスの支援があろうと被弾時に直してしまえばそれで済む。
「だがっ」
 人類用の剣とユニット用の剣で削られていても竜は動きを止めない。
 一際大量の空気を吸い込み、自らの大半を使い潰すつもりで極太のブレスをソナへ向けた。
「うおおお、気付かれたくはないがこれ以上の機会はないわぁ!!」
 煌びやかなエクスシアが印を切る。
 正負どちらにも乱れに乱れたマテリアルが整えられていき、特に負に傾いた極太散弾ブレスが無かった状態にまで戻される。
 竜が目を見開き、だが回避と受け流しの動きは止めずに命を保つ。
「ワシ、関わっとりません」
 動揺で口笛に失敗するほどの殺気を感じる。
 同時に、そろりそろりと動いてルクシュヴァリエを盾にしながら再度カウンターマジックを使える距離を保つ。
「そうか」
 赤竜は納得した。
 負ける。
 ハンターが無数の失敗を繰り返すというあり得ない展開にならない限り死は確定した。
 それでも調子は最高だ。
 思考の速度で手足もブレスも動いている。
「そうか!」
 前に出る。
 ルクシュヴァリエが躱され前衛の鎧が砕け、しかしソナの即時治療が戦死者も重傷者も発生させない。
「長くはもちません」
「ガルドブルム戦に首を突っ込まなければ大丈夫じゃろ。あれは……」
 ディヤー・A・バトロス(ka5743)が普段から被っている剽げた仮面が消える。
「まずいぞ」
 遠くで発生した爆発が大気を揺らして突風を引き起こし赤竜もハンターも激しく揺らす。
 そんな地獄や異界じみた空間で、アリアが2剣を手に待ち受ける。
 前傾した竜が残った片腕を振りかぶり音速越えの打ち下ろし。
 銀の髪と光が揺れて、拳の下を潜ったアリアが胸板ごと心臓を刺し貫いた。
「みご」
 最期の見栄を張る力も残っていない。
 赤竜は力の入った中途半端な顔と体勢のまま、血の一滴も残さず薄れて消えた。
「負傷者はこちらへ。スフィアを使います!」
 余韻に浸る余裕はない。
 ソナは手際よく負傷者を集めてヒーリングスフィアで回復させ、他の面々も再装填や武具の点検を速やかに行う。
 ディヤーだけが、深刻な目つきのまま最後の激戦地を凝視している。
「やばいとは思っておったし警告もしたが」
 スラスターを起動する。
 元々高移動力のエクスシア・ジャウハラに限界ぎりぎりの速度を強いる。
「被害を、大きくするわけには、いかぬ」
 ブレスが1つ、ハンターの胸を撃ち抜いていた。

●ガルドブルム
 サルバトーレ・ロッソ到来直後は、駆け出しの後衛覚醒者によじ登られてしまう程度の雑な動きしかできなかった。
 それからの数年で十字砲火を鼻歌交じりで躱せる程度に己を鍛え上げた。
 だが歪虚としての格は変わらない。
 鍛えたのは技術であり、技術である以上物理法則を超えることはない。
「思えば随分長い付き合いになったものですが」
 龍槍を竜血が伝い、エリゴス家の紋章とヴァルナ=エリゴス(ka2651)の腕を深紅に染めた。
 10撃ち込めば1当たる。
 黒竜の守りはその程度なのだ。
「それもここまで。決着としましょう、ガルドブルム」
 槍を引き抜く動作で左右からの竜爪を弾き、9つのブレスとその影に隠れた本命を両の目で見つめた。
「あっぶねー、じゃが何度でも消してやるわ!」
 ブレスの熱は歪虚王由来ではあるが使うのは歪虚軍将であるガルドブルムだ。
 ディヤーの術が見事に効果を発揮し9の炎と1のプラズマを掻き消した。
「これで弾切れか」
「冷静じゃな畜生っ」
 楽しげに笑う黒竜と騒ぐエクスシア乗り。
 どちらも行動選択は効率最優先で、黒竜は9の炎を牽制に用いディヤーは十分な距離をとって銃撃で嫌がらせする。
「初めて会ったとは別の生き物だなァ」
 ヴァルナを庇ったワイバーン・シエルが体を振って主を振り落とす。
 その状況でもヴァルナの体幹は揺れない。
「私との初戦など記憶していないでしょう」
 大地と爪で押し潰すつもりの一撃が頭上から。
 ヴァルナは着地のタイミングで、体の力とマテリアルを穂先に集中する形で真上に突き上げた。
 攻撃に成功したのに腕の骨が砕ける。
 龍槍ヴィロー・ユが竜爪の根元を貫き骨まで抉る。
 前のめりの倒れるヴァルナの背に、竜は止めの一撃を加えようとして至近の殺気に気付いた。
「これに反応するっ?」
 セレス・フュラー(ka6276)が両足でガルドブルムの頬を蹴る。
 半ばまで埋まっていたスティレットが引き抜かれ、削られた耳の穴から血と負マテリアルが噴き出す。
「陽気な暗殺者だ」
「暗殺は嫌い?」
 爪の3連撃を平然と躱して、セレスは己の気配を世界に溶け込ませた。
「俺もよくやるってことだ」
 9の炎の間隔を狭めて範囲攻撃として扱う。
 予め予測していたのでその攻撃範囲にセレスはいないが、自分の足で移動する必要があるため再攻撃には時間がかかりそうだ。
 10秒間で数十やそれ以上の攻撃が行き来する戦場では、驚くほど早く時間が過ぎる。
「この突撃司祭っ、前に出すぎたら護衛もできなって分からないですかっ」
 人類対黒竜の決戦から西に200メートルの場所で、カティス・フィルム(ka2486)が感情を爆発させた。
 彼女の周囲を回る青い球体も、怒りを表すように上下にも揺れている。
 大人しく、真面目で、けれど引っ込み思案な彼女がここまで激するだけの原因がある。
「そんなこと言わないで、ねっ」
 図々しく言ってくる司祭の顔に、イェジド・フィルスが前脚で軽いパンチを入れた。
 うぉん、と助けを求める声が響く。
 自身も傷ついた幻獣が主を乗せたままこちらへ向かって来る。
「フィル。あなた頼りになっちゃいますが、危険な場合は小さく吠えてくださいね」
 いきなり小さく吠えられた。
 カティスは片手でイコニアのカソックを掴み、利き腕で蒼機杖を構えたまま目と耳に意識を集中する。
 コンクリに近い色をした歪虚ワイバーンが2つ、地面に這いつくばったまま微速前進中だった。
 ちらりとイコニアを見る。
 支部から無断拝借したポーションの封を切り、幻獣やその主人に呑ませては支部に向かわせている。
「フィーの苦労が」
 魔導書がカティスのマテリアルに反応する。
 書と杖とカティスが霊的に結びついて相互に力を高め合う。
「想像できちゃいます!」
 重力波が大通りの凹みを襲う。
 咄嗟に飛び退こうとするがただの歪虚ワイバーンでは躱しきれずに翼や胴に直撃を受け飛び立つこともできない。
 フィルスが微かな足音を立てて近づき片方の首を爪状武器で押し折った。
 逆側の耳にひと突き入れたセレスが吹き飛ばされた。
 イコニアが馬を走らせ落ちる前に抱き留めるが意識が無い。
「ここまでです」
 カティスの厳しい態度に司祭も逆らわず、黒竜に背を向け神霊樹分樹へ逃走を開始した。
「あなたの相手は私達です」
 逃げるハンターを背中に庇う形で、エステル(ka5826)が上品な礼をする。
 数分前まで付き従っていたVolcaniusが数十メートル北に倒れたままで、同行するハンターも開戦の頃と比べると四半減だ。
 ガルドブルムの状態はそれより酷い。
 負マテリアルは尽きる寸前で翼は皮膜だけでなく骨まで消えている。
 呼吸も安定せず精気があるのは1対の目だけだ。
「空飛ぶ竜には麦を撒き、地を這う竜には棺桶を」
 彼方で砲声と雄叫びが響いているのにエステルの言葉しか耳に届かない。
「飛天真如ガルドブルム。今日この地にて、王国の一つの諺が消えることを目指させて頂きましょう!」
 言葉が光の波動に変じてガルドブルムを襲う。
 避けにくい面での攻撃もこの黒竜にとってはひょろひょろ矢と同じだ。
 ただし、ルクシュヴァリエの全力攻撃並の威力があるなら話は別だ。
「司教か」
 ハンター稼業を続けている間は無位無官の予定だ。
 エステルは強固な盾を構えて隙を見せず、飛び退いた黒竜との距離を静かに詰めた。
「会えるのを楽しみにしてたぞガルドブルム」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が宙を駆ける。
 戦闘後の危険を覚悟して超覚醒を発動し、通常でもエステルの術を上回る威力の刀に大精霊の加護を集中させる。
「救恤者だ。攻撃回数稼げ、後7回っ」
 ローエン・アイザック(ka5946)が大声を出し、近くのアルスレーテ・フュラー(ka6148)だけでなく遠方のVolcaniusや砲戦CAMから砲撃が集中する。・
「よし」
 己の滅びが至近に迫っても黒竜の心身は鈍らない。
 爪、足、尻尾の全てで本命と牽制を兼ねた連続攻撃を繰り出す。
 その中で最初にアルトへ届くのは尻尾だ。
 連続攻撃で回避困難にした上で、視認も難しい尻尾先端による打撃を行う。
 受けの準備はできても回避は全く間に合わず、法術装甲の胸部に直撃を食らってしまった。
 アルトの口から息が漏れ、それだけだ。
 目の前の黒竜並みの抵抗力で耐え抜いたのだ。
「その身に刻めガルドブルム」
 エステルの治癒術が深刻なダメージを一瞬で消し去る。
 アルトの体を満たすマテリアルは正負は違えど今のガルドブルムを上回る。
 振り上げ、振り下ろし、貫き、切り裂く。
 9つ連続する斬撃を全く避けることができず、辛うじて爪で受け鱗で受け流し固く力を込めた筋と骨で耐える。
「これが、ヒトの力だ」
 返答は尻尾と爪、残りわずかなマテリアルを使った超威力ブレスだ。
 ぼろぼろの外見よりも負マテリアルの損害が酷い黒竜と超絶の技を使った直後とアルトを比べれば、割合としてはダメージは同程度。
 故に当たればアルトは即死だ。
 高度なリザレクションでも間に合わない。
「視野が狭まりましたね」
 アルトに届く前の尻尾が弾かれる。
 盾を構えたエステルが、光の障壁を広げて被害をエステル1人に留めている。
「全くとんでない戦いだ。歯牙にもかけられないのは助かるがね」
 ローエンは魔法の箒を使ってガルドブルムや17メートル級ドラゴンの視界から逃れている。
 それでいて気配で戦況を察し、エステルがダメージを負うとすぐにフルリカバリーを撃ち込み命の危険から遠ざける。
「今回は静かに静かに頑張らせてもらおうかな」
 レクイエムを演奏してもガルドブルムには効かない。
 ジャッジメントなど届く距離に近づく前にブレスで骨まで焼かれる。
 だから、ボスを助けようと悲壮な覚悟を決めた歪虚ワイバーンを法術で牽制してガルドブルムに逆転の切っ掛けを与えない。
「雑魚じゃないけど最強戦力をぶつけるほどじゃない、かといって雑兵で勝てるわけがない程度には強い」
 さすがに息切れしたアルトの反対側からアルスレーテが仕掛ける。
「私も、最強は無理だけど、それくらいにはなりたいものね」
 足として使うママチャリは、速度は多少速い程度だが安定が超高級乗用車並だ。
 アルスレーテの平衡感覚と全身の筋肉の質が並外れているのだ。
「片道か?」
「まさか」
 黒竜のつぶやきに笑顔で応え、エステルの攻撃にあわせ黒竜の体に美しい蹴りを叩き込む。
 ひびが入り先端が砕けた竜爪がそっと足に触れる。腕一本でアルスレーテを投げ飛ばそうとする。
 アルスレーテはママチャリを強引に止めて躱しはしたが、矢継ぎ早の爪と尻尾に喉や顔面を容赦なく狙われた。
「おあいにく様」
 黒塗りの鉄扇で受ける。
 筋が断絶し骨が悲鳴をあげる。
 だが大部分の衝撃は地面に逃がしてぎりぎりで戦闘力を保っている。
「この程度慣れてるの、よっ」
 連続の蹴りから距離を離すことで躱す。
 ガルドブルムはエステルのセイクリッドフラッシュを至近距離で浴びせられた。
 そしてそのまま、逃げた。
 最高速は落ちても向きの変更速度は変わらず近くで見れば瞬間移動じみている。
「いいザマねガルドブルム」
 強いマテリアル光を纏う機体が最後の飛行を始めた。
 何もない場所へ、無意味にしか見えない射撃を猛然と行い、その数メートル手間で翼を失った竜が急停止する。
「お前か」
 逃げる途中なのに、移動力の差ですぐに追いつかれるのに胸を張り目を輝かせている。
「ウーナ、エルフェノクよ」
 高度も速度も攻撃力も、全て高水準でもウーナ(ka1439)は過信しない。
 万一に逃がせば今の戦闘力のまま開戦時の頑丈さを取り戻しかねない。
 移動力と高度と射程の優位を徹底的に活かして銃撃を続ける。
 エステル達が追いついてきたが、ウーナは足止めに専念するつもりはない。
「ここで殺し切る!」
「その機体ではなァ!」
 竜は受けて立った。
 幾何学円状のマテリアルで加速された銃弾を真正面から受けて防ぎ、移動力の差を行動回数の差で押し潰してブレスと共に連撃を繰り出す。
「っ」
 右の爪が完全に砕けて後ろへ散る。
 そのまま殴りつけた拳によりプラズマライフルが歪む。
 続く左の拳が、コクピットがある箇所を砕いて中まで届く。
「ごめ……エルフェ」
 一瞬速く脱出したウーナが、踏み固められた地面に激しくぶつかり2度弾んだ。
「空中戦なら貴様の勝……」
 安堵から講評じみた真似をしかけた竜が、左の違和感に気付いて動揺する。
 爪が抜けない。
 堅さと粘りけを兼ね備えたフレームが、半ば割れた爪にめり込んで機体全体で重石になっている。
 計画段階から関わったウーナによる、機体全てを使い尽くす罠だった。
 これで、ガルドブルムは逃げられない。
「次に会う時を楽しみにと言っていた……ついにその日が来ましたね」
 右爪が砕け左腕が封じられた竜の前に、白龍の巫女が白いワイバーンから降り立つ。
 何度もリザレクションを受けて体調は最悪。
 ガルドブルムと同じだ
「お渡ししたまま返してもらっていないランタンの利子、今日ここで払ってもらいますっ」
「ハッ、利子ごとお前を頂くッ」
 Uisca Amhran(ka0754)は微笑んで、己の支配領域を半歩分広げる。
 浮遊する照明が限界まで光度を上げ黒竜の顔を照らし、超覚醒に加えてほぼ全生命力を燃やして得た力が杖を覆う魔力刃に変わる。
「遅いッ」
 黒竜の方がわずかに速い。
 さらに冴えを増した尻尾打撃と腕一本の連続パンチが細い体を打つ。
 ワイバーン・ウイヴルなら途中で肉片と化す連打なのに、Uiscaは原形を留めているだけでなく魔力刃を維持している。覇者の剛勇の効果だ。
「頑張って下さい」
 ローエンが治癒術を使い魔箒で撤退。
「ご武運を」
 エステルが最後のフルリカバリーを使い、消耗が限界を超え完全に気絶する。
「これが今の私の本気……最後に受け取ってくださいっ」
 戦術、実力、仲間との連携。
 全てを積み上げた結果の9度の魔力刃がガルドブルムに向かう。
 黒竜が受け、受け、ひたすらに受ける。
 エルフェノクからようやく引き抜いた左で防御を行うたびに、体だけでなくガルドブルムを構成するマテリアルがダメージを受ける。
「これか、これが俺の」
 魂が燃え上がる。
 残るマテリアルは燃えかす同然なのに足は萎えず前へ進む。
 Uiscaの魔力刃が消えても、ガルドブルムの全身は止まらず口元に巨大な炎があった。
「邪神翼と戦うくらいのハンターが集まったの。だから……だから負けられないの。ここで眠るの、ガルドブルム!」
 開戦直後にイコニアをこの世に引き戻した法術がUiscaを元に戻す。
 スキルも減った、常人なら魂がすり潰されるほど消耗している、それでも体が元通りなら戦える。
「黒の夢、前に出るな! ペイン、お前もっ」
 メンカル(ka5338)が必死に呼びかけている。
 黒い飛龍が9つの炎の間を通り、尻尾の間合いに入らぬよう慎重に飛ぼうとして翼が震えた。
「“約束通り”奪いに来たのな! 子供は世界ひとつ分でどう? マイダーリン」
 童女の様に明るく、慈母の如く暖かな声で、黒の夢(ka0187)が見開いたままの瞳でガルドブルムを凝視する。
 守護者複数相手に絶望的な戦闘を続けながら、黒の竜は失望が滲む呟きを零す。
「舐めているのか」
 骨とマテリアルが同時に砕ける。
 曲がった脚で地面を蹴ることで破損箇所が広がっていく。
「舐めてなんかいないわ。竜を空から墜す、我輩のこの戦場での役割よ」
 唇から零れた息が蝶の群れを思わせる炎と化して黒竜の頭を狙う。
 狙いも威力も十分以上で、しかし今なお成長を続けるガルドブルムの回避を上回るほどではない。
 生き残りの竜種からのブレスを塞ぎながら、メンカルは気付きたくないものに気付いてしまう。
「まさか……そうなのか」
 メンカルが苦い表情になる。
 価値観が違い過ぎる
 歪虚と人間が異なるのは当たり前。
 だが、ガルドブルムも黒の夢もメンカル自身も全く異なっているのに実感として気付かされた。
「どこまで噛み合っているのか」
 黒竜は負、黒の夢は負よりの正。
 メンカルが恐れる事態はおそらくあり得ない。
 だが、確率が0でない以上、メンカルの魂を蝕む黒い感情は消えない。
 大型竜が背後から打ち倒される。
 メンカルは気配を消して包囲されたガルドブルムに迫る。
「黒の夢。恨むなり憎むなり好きにするがいい。ただ、お前の感情が欲しい」
 己とこの状況を嗤いながら、魂を振り絞る様に吼え刃を繰り出した。
「生きる事だけが救いだなんて、誰が言ったの? 誰の器にも入り切らない愛なんて竜にでも喰わせておけば」
 黒の夢は止めもせず助けもしない。
 ただ、目の前の男と決着をつけるために全てをのせて謡い、手を伸ばす。
「それでは届かんッ」
 守護者の攻めをいなし炎をすり抜け黒の夢に肩を当てる。
 メンカルの投擲した刃は眼球に当たりはしたが刺さらず跳ね返される。
 骨と肉が潰れる致命的な音が、他の全てより大きく響いた。
「何度でも繰り返して届かせるの」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)は断固として宣言する。
 死に至る傷も再起不能な消耗も、精緻な極まるマテリアル運用と法術行使で全て無しにする。
「ひょっとして別の話、なの?」
 少し混乱しながら斜め後ろへ。
 音も無く飛んできた黒竜が直前までディーナがいた石畳を微塵に砕く。
「さてな。誰が勝つかが重要だろ?」
「気が合うのだから死ねなの」
 リーリーに回り込ませ攻撃的法術を使うと思わせて前衛にフルリカバリー。
 無駄な防御をしてしまった竜が、ディーナの戦術と法術の巧みさに満足げに尻尾を振る。攻撃だ。
「ん」
 胸を打たれ。
「ぁ」
 動きが鈍ったディーナに拳が次々命中する。
 無事だったリーリーが必死に逃げようとし、十数メートル走ったところで気絶したはずのディーナに手綱を引っ張られる。
「頼むの」
 大いなる祝福に包まれ、リリティア・オルベール(ka3054)がガルドブルムと正面から向き合った。
 自然と笑みが浮かぶ。
 目の前の敵は、強大な力を持ち、それでも尚喰らい、挑み、人の術理すら強欲に求めた清々しいほどに竜である歪虚。
 それはリリティアの鏡写しの様だ。
 心技体とその延長で装備ある装備を鍛え上げたリリティア並の成長をしてここにある。
「私、ずっと待ち焦がれて楽しみにしていたんですよ?」
 ワイバーン・倶利伽羅は見届けるため距離をとる。
 地上での戦いでは主の邪魔にしかならない。
 一瞬でも見逃すことのないよう目を見開いて竜と人を凝視する。
「よし」
 黒い体から無駄な力が抜ける。
 立ち止まれば鼓動が止まるほどに血とマテリアルが足りない。
 それでも、今この時がガルドブルムの最盛期だ。
 合図の必要も無く双方駆け出し、研ぎ澄まされた刃とブレスが同じ速度で伸びる。
 リリティアが加速する。
 最初の尻尾撃はディーナのゴッドブレスで耐えた。
 黒竜と同等の速度で拳を躱し蹴りを避け、躱しきれぬブレスを切り裂きながら宙を蹴って神斬を突き入れる。
「体に穴が開いても前のめりですか。あなたらしい」
 眉間の側の鱗から両手持ちの柄が生えてた。
 長く鋭い刃は、脳、脊髄、そして黒竜の核である負マテリアルを完全に貫いている。
 魂の消えた体は熱に耐えきれず、鱗が歪んで割れていく。
 戦いの中で全てを燃やし尽くした竜の体が、端から空気に溶けていく。
「あ」
 機上に立っていた黒の夢が倒れそうになりメンカルに支えられる。
「――その首飾り……ちゃんと届いていたのだな……嬉しい……ね、愉しかった?」
 亡骸は答えない。
 制御されなくなった負マテリアルが炎上して骨も肉も鱗も燃えていく。
 地面に落ちた小さな装飾品が、炎の色を映していた。
「思えば託宣は貴方の事だったのかもしれません」
 目の前の光景は良くも悪くも語り継がれるだろう。
 Uiscaは空に竜種が飛んでいないことを確かめ、街の外で待機している領主軍に連絡を入れる。
「葬送の証にするつもりだったのですけどね」
 リリティアの懐の龍鉱石が、完全に力を失い小さな石に変じている。
 あるいは、龍が何らかの力添えをしてくれたのかもしれない。
「貴方の分まで、邪神との戦いを楽しんできますね」
 防具に張り付いた乾いた血を払う
 リリティアだけでなく、蘇生を繰り返したハンター達は危険なほど血を流し消耗している。
「いつか時の果てでまた出会えたなら」
 その時はどうか、横に立って並べる間柄でありますように。
 ハンター達はそれぞれの思いを胸に、次の戦場へ続く転移門をくぐるのだった。

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  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマka0502
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司ka0569
  • 雪の感謝
    リチェルカ・ディーオka1760
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531
  • 東方帝の正室
    アシェ-ルka2983
  • 部族なき部族
    エステル・ソルka3983
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJka6653
  • 無垢なる守護者
    ユウka6891

重体一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢ka0187
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマka0502
  • 支援巧者
    ロニ・カルディスka0551
  • 緑龍の巫女
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  • 雪の感謝
    リチェルカ・ディーオka1760
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカーka1990
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531
  • The Fragarach
    リリティア・オルベールka3054
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火ka4407
  • 胃痛領主
    メンカルka5338
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎ka5818
  • 聖堂教会司祭
    エステルka5826
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラーka6148
  • 風と踊る娘
    通りすがりのSさんka6276
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJka6653

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    エストレリア・フーガ
    エストレリア・フーガ(ka0038unit012
    ユニット|CAM
  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    レラージュ・アキュレイト(ka0141unit003
    ユニット|CAM
  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ペイン
    ペイン(ka0187unit004
    ユニット|幻獣

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    グレン
    グレン(ka0364unit001
    ユニット|幻獣
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ウィガール
    ウィガール(ka0471unit004
    ユニット|CAM
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ヨエル
    ヨエル(ka0502unit003
    ユニット|幻獣
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ラヴェンドラ
    ラヴェンドラ(ka0551unit004
    ユニット|幻獣
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    リュウキ
    竜葵(ka0569unit003
    ユニット|幻獣
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ウイヴル
    ウイヴル(ka0754unit003
    ユニット|幻獣
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    ワイバーン(ka0771unit002
    ユニット|幻獣
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    魔導型デュミナス射撃戦仕様(ka0896unit003
    ユニット|CAM

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    シロハナダ
    白縹(ka0962unit004
    ユニット|幻獣
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    マドウボウケンオウグランソード
    魔動冒険王『グランソード』(ka1250unit008
    ユニット|CAM
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    イケロス
    イケロス(ka1328unit002
    ユニット|幻獣
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ルーハン
    Laochan(ka1352unit003
    ユニット|幻獣
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    エルフェノク
    ElphEnoch(ka1439unit004
    ユニット|CAM
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    オストロ
    オストロ(ka1522unit006
    ユニット|幻獣
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ナム・フォウ
    No.4(ka1559unit004
    ユニット|幻獣
  • 雪の感謝
    リチェルカ・ディーオ(ka1760
    人間(紅)|17才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    オファニム(ka1760unit007
    ユニット|CAM
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ドラングレーヴェ
    ドラングレーヴェ(ka1990unit005
    ユニット|ゴーレム
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ホフマン
    ホフマン(ka2290unit003
    ユニット|ゴーレム
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ウィザード
    ウィザード(ka2434unit003
    ユニット|CAM
  • ティーマイスター
    カティス・フィルム(ka2486
    人間(紅)|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    フィルス
    フィルス(ka2486unit003
    ユニット|幻獣
  • 勝利の女神
    アニス・エリダヌス(ka2491
    エルフ|14才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    トゥバン(ka2491unit004
    ユニット|幻獣
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ヴィオーラ
    ヴィオーラ(ka2531unit009
    ユニット|幻獣
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    シュナイト
    シュナイト(ka2549unit004
    ユニット|ゴーレム
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    ワイバーン(ka2598unit005
    ユニット|幻獣
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    シエル
    シエル(ka2651unit004
    ユニット|幻獣
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ヴォルカヌス」
    相棒(ka2884unit002
    ユニット|ゴーレム
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    コッキソウチャクディエム
    刻騎装着「シュヴァリエ-DM」(ka2983unit007
    ユニット|CAM
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    クリカラ
    倶利伽羅(ka3054unit001
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ジュリア
    ジュリア(ka3109unit003
    ユニット|幻獣
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ノースポール
    北極(ka3142unit008
    ユニット|幻獣
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka3744unit003
    ユニット|CAM
  • たたかう者
    ユーロス・フォルケ(ka3862
    人間(紅)|17才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ホロウレイドノボウレイタチ
    エインヘリヤル(ka3862unit002
    ユニット|CAM
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    フローライト
    フロー(ka3983unit003
    ユニット|幻獣
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アウローラ
    アウローラ(ka4082unit001
    ユニット|幻獣
  • 竜潰
    ルナリリル・フェルフューズ(ka4108
    エルフ|16才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    セレーネ
    セレーネ(ka4108unit006
    ユニット|幻獣
  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言(ka4137
    人間(蒼)|21才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka4137unit006
    ユニット|CAM
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ルックン
    ルッ君(ka4407unit008
    ユニット|CAM
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    カラミティ・ホーネット
    カラミティ・ホーネット(ka4561unit006
    ユニット|CAM
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ミーティア
    ミーティア(ka4901unit005
    ユニット|幻獣
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ポロウ
    ポロウ(ka5044unit005
    ユニット|幻獣
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ウォルフ・ライエ
    ウォルフ・ライエ(ka5153unit002
    ユニット|CAM
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ムメイ
    -無銘-(ka5336unit016
    ユニット|CAM
  • 胃痛領主
    メンカル(ka5338
    人間(紅)|26才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    エーギル
    エーギル(ka5338unit003
    ユニット|幻獣
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ハタシロウ
    二十四郎(ka5561unit002
    ユニット|幻獣
  • 鉄壁の機兵操者
    ディヤー・A・バトロス(ka5743
    人間(紅)|11才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ジャウハラ
    ジャウハラ(ka5743unit001
    ユニット|CAM
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ボレアス
    ボレアス(ka5754unit002
    ユニット|幻獣
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ポロウ
    ポロウ(ka5818unit017
    ユニット|幻獣
  • 聖堂教会司祭
    エステル(ka5826
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ヴォルカヌス」
    刻令ゴーレム「Volcanius」(ka5826unit004
    ユニット|ゴーレム
  • アウレールの太陽
    ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ポロウ
    ポロウ(ka5835unit001
    ユニット|幻獣
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    リーリー
    リーリー(ka5843unit001
    ユニット|幻獣
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    モルチ アンジョ
    morte anjo(ka5848unit007
    ユニット|CAM
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ルクチャン
    ルクちゃん(ka5852unit008
    ユニット|CAM
  • 戦導師
    ローエン・アイザック(ka5946
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 大局を見据える者
    仙堂 紫苑(ka5953
    人間(紅)|23才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    フィン
    フィン(ka5953unit006
    ユニット|幻獣
  • 竜潰
    四十八願 星音(ka6128
    人間(蒼)|10才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ハチロウ
    OFM86(ka6128unit002
    ユニット|CAM
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 仕事が丁寧
    花(ka6246
    鬼|42才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ファラン
    花嵐(ka6246unit002
    ユニット|飛行機
  • 風と踊る娘
    通りすがりのSさん(ka6276
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    リタ
    リタ(ka6424unit005
    ユニット|幻獣
  • 背負う全てを未来へ
    東條 奏多(ka6425
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ポロウ
    てばさき(ka6425unit005
    ユニット|幻獣
  • 孝純のお友達
    アーシャ(ka6456
    エルフ|20才|女性|舞刀士
  • 闇を貫く
    イツキ・ウィオラス(ka6512
    エルフ|16才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    リゼル
    リゼル(ka6512unit002
    ユニット|幻獣
  • 丘精霊の絆
    フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
    エルフ|20才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    シュヴァルツェ
    Schwarze(ka6617unit002
    ユニット|幻獣
  • 覚悟の漢
    南護 炎(ka6651
    人間(蒼)|18才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    ファイト・ウィズ・ドリーム
    FightWithDream(ka6651unit006
    ユニット|CAM
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イェジド(ka6653unit002
    ユニット|幻獣
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka6752unit007
    ユニット|CAM
  • 無垢なる守護者
    ユウ(ka6891
    ドラグーン|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    クウ
    クウ(ka6891unit002
    ユニット|幻獣
  • 焔は絶えず
    ウルミラ(ka6896
    ドラグーン|22才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    プラーナ
    プラーナ(ka6896unit001
    ユニット|幻獣
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    コッキゴーレム「ルクシュヴァリエ」
    刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」(ka6966unit006
    ユニット|CAM
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏(ka7308
    鬼|17才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    ルリマツリ
    瑠璃茉莉(ka7308unit001
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【ガルドブルム対応】
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/05/09 03:21:41
アイコン 【後続(その他)対応】
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/05/09 07:10:54
アイコン 質問卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2019/05/08 09:16:22
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/08 23:22:05
アイコン 【相談卓】
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/05/09 03:17:56