人の奇跡、ミュゲの軌跡

マスター:DoLLer

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2019/05/07 09:00
完成日
2019/05/19 15:58

このシナリオは5日間納期が延長されています。

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nori

オープニング

 大量のスズランを小さな樽に差し込んで、見栄えが良くなるように一茎ずつ手入れすれば、準備は完成。後はこれに『ご自由にどうぞ』という看板の前においてあげれば。それで準備はお終い。
 女性は自分の店となった建物を振り返った。
 大きなテナントスペースは種々の花で満ちていた。どれもが雨戸から差し込む朝日に輝いてくれる。自分にはもったいない位のスペースだと思ったが、花屋をするなら絶対にここだと思っていた場所をいただけたのだから、恐縮してばかりではいられない。
 一度夢見て店を持った時は、こんな気持ちにはならなれず悲しいばかり。
 二度夢見て店を持った今日、こんな気持ちでいられることは嬉しいばかり。
「ありがとう……」
 女性がぽつりとそう零して、さてととスズランの入った樽を持ち上げたところで大きな胸板が彼女の視界に入った。
「今日が開店日か」
「そうよ」
 女性はにっこりと笑って見せた。
 このピースホライズンで花屋をしていた彼女だったが、儲けが出ずに閉店をした彼女。だが、その花がハンター達の間で贈り合うことで、小さな奇跡がいくつか起きた。と噂になった。
 それは失意の彼女を救った。
「昔の私はピースホライズンっていう街で仕事をしたかっただけだと気づかされたわ。花も結局その道具なだけで、人を幸せにすることなんて二の次だった。そりゃお客も来ないわよね」
 そんな彼女を最後までぶっきらぼうながら支えてくれた男に、彼女は笑いかけた。
 彼が最後まで幼なじみとして、客として、努力してくれたから、小さな奇跡は起きたのだから。
「最高の花を育ててきたわ。リアルブルーの知識もいっぱい読んで、多少なら季節外れの花を栽培することもできた。どれもが私からみんなに差し上げられる最大のプレゼントを用意できたわ」
 このミュゲの日にね。

 ミュゲの日。スズランを贈り、その人に幸せが来ることを願うとある地方の風習。
 幸せはもう十分にもらうことができた。生きる意味、自分の新しい道すらもらったのだから、今度は彼女が幸せを届ける日。
 彼女はずっとこの日を待っていたのだ。
 この日に合わせて、誰にもが渡し合えるスズランを用意できたし、そしてその他の花々もできる限り用意した。
「スズランは無料提供なのか。テナント料だってかかるだろう」
「だからこの花々。スズラン以外のメッセージを届けたい人だっていると思うわ。恋する人にはバラを。感謝を捧げたい人にはカーネーション。希望をもらったという人にはアイリス。一緒に伝えて贈ってもらえばいいと思うのよ」
「なるほどな」
 男は少し考えると、それじゃあとスズランを幾本か取り出した。
 そしてポケットから指輪をその茎に通して、そのまま女性に渡した。
「来年もまた、同じことができるように祈ってる」
 スズランの花言葉は『幸せが再び訪れますように』
 それを指輪に通して贈ってくれたと言う事に、女性はしばらく赤面して涙を浮かべたあと、そのスズランを両手で受け取った。
「……奇跡みたいな幸せを何回呼び起こせば気が済むのよ」
 これから開店だというのに。
 だけど、花に込めた想いは必ず通じるのは、間違いないようだった。

リプレイ本文

●花をあげる、ということ
「やっと言えることができる。ありがとうって」
 志鷹 都(ka1140)に差し出されたのは懐かしい栞だった。
 2年前のあの姿のままで。絶望をほんの僅かな希望に変えてくれたメッセージもそのままに。
「その気持ちが、私の弱さから何度も何度も救ってくれたわ。この花たちを輝かせてくれた」
「素敵な言葉をありがとう。でも輝かせたのはあなた自身。あなたの愛が瑞々しい花々に輝きを与えたから」
 店を彩る花はどれも本当に素敵で、花が歌っているようにさえ感じる。
 この輝きの一部に自分の気持ちが伝わっているなら、都も嬉しくて。花々に挨拶して回るように、店の中を見て回り、紫のチューリップとブルースターを引き抜いたところで、同じように花を見ては一本一本、慎重に花を選んでいく鞍馬 真(ka5819)の姿を見つけた。その視線に気づいて真もまた都に気づいて軽く頭を垂れた。
「この前は、どうも」
 言葉少ななのは、彼があまり多くを語らないタイプだからか、それとも、手にした花の数が、もう両手でも抱えるのがやっとという量になっていたからか。今にも花におぼれそうな姿に、都は自分の持っていた花を「花束にお願いします」と渡すと、真の持っていた花を少し持つのを手伝った。
「たくさん思う人がいるんですね」
「ええ、怪我で寝込んでいる友、恋に苦しむ親しい友に。信頼する戦友に、妹のような存在に、共に戦場を駆けてくれるくれる幻獣達に、それから……」
 一人ひとりの顔を思い浮かべて花をより分けていく真は、そこまで言って、都が注文した花束を見た。
「君もたくさんの花を買うと思っていたよ」
「私が伸ばせる手はそう長くないから」
 大事なものはみんな違う。そこにかける力も。あの花を貰える人はきっとその花の意味に隠れた尽きる事のない想い、信じあう心を感じ取ることができるのだろう。
 花に込める想い、プレゼントするという行為への想いも様々。
 新たに来店したエステル・ソル(ka3983)は弾けるような笑顔で、スズランを樽ごと持ってきたではないか。
「素敵な日はみんなでお祝いするのもいいと思います。まだ見ぬ人にも幸せを配って、みんなで幸せになりたいのです。ということで全部いただいてよろしいでしょうか♪」
 規模が違う。
「でもこれだけじゃ家に持って帰る分もなさそうなのです……なので、お家にも届けてほしいのです。薔薇が大好きなお母様の為に週に一度、届けてくれませんでしょうかっ」
「任せてください。私の彼、ハンターですから。それに優しい人が魔導バイクを進呈してくれたんです。どこであっても花は必ずお届けします」
 外に停めてあった魔導バイク。それはルカ(ka0962)が置いていったものだった。少しでもお役に立てればと言伝を残して。

「大変ですけど、がんばって。あなたに出会えた奇跡と、お二人の奇跡に感謝と……」
 2人で花を届けるという気持ちが窺いしった都は、目を細めた後、ブーケやクッキーとお茶を詰めた紙袋をそっと差し出した。
「ありがとう。奇跡がこれからも続きますように。私も努力するわ。来年もまた特別な花と物語を用意して待っているわ」
 
「ありがとうございます。それじゃ行ってきますっ」
 エステルが魔箒に乗るのを見送った真は、ふとその光景の向こうに、見たことのある黒髪を見かけた。
「悪いんだけど、そこの彼にこいつを頼むよ」
 真は樽を持ち上げて、浮き上がった箒に樽を引っ掛けると、作ってもらった花束の一つを樽に差し入れた。
「はい、お任せください! そぉーれ」
 エステルは真っ青な空へと飛び立ち、その花をばらまき始めた。
「ん……?」
 Gacrux(ka2726)は急に舞い散り出した花の雨を見上げた。スズランが降ってくるというのはなんとも不思議な光景で。だがGacruxはそれほど驚くような性質ではなかった。
「スズランは毒があるというのに」
 顔色一つ変えずに落ちてきたスズランを手にしたGacruxだったが、その腕に収まるように重量感のある花束が降ってきたことにはさすがに目を見開かざるを得なかった。
 そう鮮やかではないけれども質実さを窺わせるのは花束を選んだ人間の気質なのか、それとも自分への言葉なのか。
「……幸せ、か」
 Gacruxはしばらく花束を見つめたあと、そのまま歩みを進めた。彼のいくべき場所へ。伝えるべきものの為に。

●幸せを重ねて誓う
 街を彩るスズランの花に誰もが目を細める中、その鈴鳴りを支える茎の上に、妖精が降り立った。
 茎の上で嬉しく跳ねる妖精に誰もが目を瞠る中、その呼びかけに答えるように、新たに妖精が集まった。
 楽しそうなのは誰が見てもわかって。幸せをもらっているのは人だけじゃないようで。その姿からまた幸せが溢れだす。
「良かった。仲良くしてくれてる……」
 世話をしているモイラとフォルンが、近衛 惣助(ka0510)の妖精と輪を作ってくれているのが何より嬉しかった。
 だってあの子もこの子も、本当はソースケから贈られたから。遠い家族でもあるわけだから。仲良くなってくれたのは家族の絆を確かめられたような気がするの。シェリル・マイヤーズ(ka0509)は妖精の軌跡を残す燐光がリボンのように結ばれていく姿が、ほら。
「……ありがと」
 妖精たちからもらった力を勇気に変えてシェリルは共に花を差し出す。小さな笑顔がスズランと霞草の白色に淡いで咲き誇る。
「LHで私達の為に戦ってくれたこと、ずっと、気にかけてくれたこと。私、ソースケじゃないから、その理由、わからない……けど、嬉しかった」
 その顔にくしゃり笑う惣助は、シェリルと膝を落として同じ目線にまで腰を下ろして、その花を受け取った。
 スズランの甘い香りと霞草の彩りが、心からの気持ちを表してくれていた。汚れのない色を選んでくれることが、心から嬉しい。
 助けられなかったものも多い中で、助けられた命が、今、白い白い花をこうして差し出してくれるのだから。
「俺の方こそ、ありがとう」
 でも、その言葉は一抹の不安を呼んで、シェリルは白い花の向こうから赤い瞳が心配そうに見つめる。
「前の手紙も、いつまでも健勝で。って書いてあった。ありがとうで終わるのも、このまま終わりそう……イヤ」
「すまない、言葉が足りてなかったか」
 惣助は頭を垂れると、妖精たちにお願いごとをした。
 買っておいた花束をもってきてほしいと。
「心配ないさ、生きて帰るよ」
 スズランに、燕子花、カランコエ、胡蝶蘭。シェリルとは対照的な色と形も弾けるよ花束が妖精たちに運ばれて来る。
 幸せを願う君の気持ちに、この身のこの色すべてをかけて応えるために。

●花言葉は意気地なし
「お疲れさまでした」
 去ったルナ・レンフィールド(ka1565)が渡してくれたカーネーションに神楽(ka2032)は胸を高鳴らせた。女の子から花をもらうって破壊力高い。
 それなら、こちらから渡す花にも、同じ気持ちになってくれるだろうか。
 カーネーションを勇気のお守りがわりにすると、神楽は改めて花束をぐっと握りしめてやって来たアミィを迎えた。
「やっほー! 話ってなに?」
「アミィにちょっとでも幸せわけてやろうと思ってきたっす!!」
 神楽は緊張で心臓がやたらうるさくなる中、後ろ手に持ったスズランの花束をアミィの前に差し出した。

 顔が隠れるほどのスズランの花。
 薔薇を一輪隠すほどのスズランの束。
 驚いて言葉と、何もかも騙くらかすその心を停めて、彼女の核心に狙いを定める。
「こういうのもあるんすよ」
 スズランの束の中に隠した一輪の赤いバラを取り出して、その胸へと、核心へと打ち込む。
「か、神楽……」
 朱に染まって涙をこぼすアミィ。そしてアミィは感極まって……

「おーい? どしたの」
 その一言で神楽は現実に戻ってきた。
 花束は差し出したものの薔薇は……そのまま。
 腕よ、うごけっすぅぅぅぅ!!! と念じるも左手は動いてくれない。
「ありがとっ、これあたしからね♪」
 アミィは花束を受け取ると、コデマリに包まれた赤い薔薇束を神楽に差し出した。


「ふふ……」
 シグルドと落ち合って、一緒に歩く。
 高瀬 未悠(ka3199)の眼前で歩調が自然と揃って並ぶ靴の音、つながる影、掌から伝わる温かさ。
 何もかもが幸せだった。
「今日は随分お洒落してきたね」
 ユメリア(ka7010)の手でアップにされた髪はシンビジウムのバレッタ。花芯に入れた香水は未悠の火照る想いに合わせて甘い香りを生み出し、ミュゲの日の特別なドレスに、胸には黒猫のネックレス。
 面持ちを変えるごとにきらりきらり輝きを変えて、万華鏡のようだと彼は笑った。
 その笑顔がたまらなく嬉しい。
「そういうシグルドだって」
 白系のスーツの彼はもちろんお洒落だけど、その顔がこの青空より晴れやかなのだ。同じ笑顔でも全く違うの。心から楽しんで一緒に歩いてくれるのが伝わってくる。靴の音、つながる影、掌から伝わる温かさから。
「3年前に一緒にご飯を食べたこと。料理の味。2年前には会えない切なさに苦しくなった。でも、今あなたはここにいる。一緒に過ごしてくれる」
 今までの想いが波のようにして押し寄せてくると、そのなだらかな調子も我慢できなくなって、未悠は手をつないだままその腕に体を寄せた。離れたくない。そんな気持ちでいっぱいになる。
「ずっとこうしていたかったの」
 体いっぱいにシグルドの熱を感じるのをシグルドはその背を抱きしめ返し、自分の熱を、鼓動を、立ち上る香りを感じてくれる。
「幸せになってほしい人はいっぱいいるけれど、幸せにしたい人はただ一人、あなただけよ」
「ありがとう。その決意をもう十分すぎるほど見せてくれた。君は完全な芙蓉の花だよ。いつまでも咲く、咲き誇る花だ。君が僕を幸せにするように、君を僕は守り続ける。雨の日も風の日も、心が濡れても。君と伸ばしてくれたこの手は、離さない」
「私もよ。春、夏、秋、冬を越えて、一年中、いつの日も、どんな時も、重ねていきましょう」
 見つめ合う中、2人の顔が明るくなって、同じ輝きを宿した。
「愛してる……シグルド」
 この光輝く世界の中で、未悠はいつぞやのように背伸びした。

 あなたが私の生きる意味よ。

●幸せの距離感
「ふわ~、すっごい賑やかな街。花の街ね!」
 ノア(ka7212)は大はしゃぎしながら街を駆けだした。街はどれもが浮つくように、花々で彩られ、雑多な花の香りを押し混ぜており、街行く旅人たちはもちろん、孤児院の子供たちと思しき少年少女すら花やお菓子をもって駆け回っている。
 彼女の言葉通りだと鹿東 悠(ka0725)は思いつつ、彼女を眺めてはゆっくりとその後を追っていると、ノアはそのまま急転回して、満面の笑みを悠に向けた。
「どう? 似合う?」
 それは彼女の髪に挿した霞草。白く淡く彩るそれはノアから光の粒が生まれるようで。
「良く似合いますよ」
「やった! それじゃ悠にも上げるね。お誘いしてくれたお礼だよ」
 ノアは霞草をどこにさそうかなと、悠の体の周りをグルグルと回って、それから胸ポケットに収めるともう一度笑う。
「いつもお仕事お疲れ様。今日くらいはのんびりしましょ♪」
 ころころと変わる笑顔、どの一面も輝いていて、明るい笑顔が悠には眩しいくらいで。手がぴくりと動いた。
「ありがとう」
 動いた指を掌に押し込めて、人差し指だけ、花屋へと突き出した。
「あのお店はなかなか面白そうですね」
「本当だ。箒のお姉さんが花を降らしてる! 紅茶のいい香りもする!」
 駆けだして、さっそくその賑やかな光景に大はしゃぎするノアにそっと付き従うようにして悠は店に到着すると、店主のエリンに挨拶をした。
「ねえ悠なーにして……」
 声をかけたノアの鼻に、スズランの白と緑に包まれる青と黄色の鮮やかなトーンの花が差し出された。
「普段のお返し、です」
「あ、これルピナス?」
「はい、11月2日の誕生花ともいわれます。こっちはユリオプスデージー」
 笑顔と共に花を説明するとノアの顔はきらきらと輝いた。
「私の誕生日の花なんだ……ありがとう!」
 その笑顔が太陽のようで、悠は微笑んだ。
 それが悠の心をも照らして、温かくしてくれる。その温かさに悠もまた笑顔を浮かべた。
 どうして? なんて言葉が飛んでくるかと心配したけれどノアはそんなことを聞いてくることはなかった。
 今の距離感で十分幸せそうにしてくれていることが、悠にも嬉しかった。
「今度はお菓子のいい香りする。ねぇ、悠、行こう♪」
 そしてまたノアは駆け出して行った。花束を振って。

●荒稼ぎクイーン
「はい、幸せの日には幸せなお菓子を。ミネア様のキッチンカー到来でございますー」
 詩天から応援に駆け付けた五条君香の声が盛大に響き渡ると、スズランの花が舞い散る特別な桜幕符を次々と披露して、耳目を一気に集める。そこにシャーリーン・クリオール(ka0184)とミネアの合作ガトー・ピレネーの美味しい香りが広がってくるとすれば。
 しょげた気持ちも自然と癒され、あれよあれよと人が集まる。
 ディーナ・フェルミ(ka5843)もそんな一人。
「ミュゲの日の波に乗り損ねたの……」
 大事な彼は遥か遥かタスカービレ。今から行って間に合うわけもなし。あちこちで花咲く恋人たち、想い人たちの睦まじい姿に自分の姿を重ねてみては、いけないいけないと気持ちを振りきるばかり。そんな中で出会ったミネアのキッチンカーから漂う果物の香りたっぷりの甘い香りと人だかりに目が行く。
「そんな悲しい瞳は今この場所には似合いませぬ。さあ、食べて食べて忘れませぬか。シャーリーン様のお菓子は日持ちもします。持ち運べもしますよっ」
 一目見ただけでディーナの心中を察する五条。
「乗るしかないの、このビッグウェーブに。お菓子全部いただくの!!」
「全部ですね! シャーリーン様、ミネア様、焼いて焼いて焼きまくるのですっ」
「五条さん、明らかに曲解してるよね!!?」
 ディーナの全部と、五条の全部は指すものが違うだろと、ミネアが突っ込むが、それをシャーリーンがそっととどめた。
「悲しい思い出は食べて解消する。そしてガトー・ピレネーに合わせる果物の配合を変えれば、種類はいくつでも作れるものさ」
 互いにwin-winさ。ウィンクするシャーリーンにミネアは返す言葉もなくなった。
「えーい、わっかりました。全力を出します!!!」
 突如始まる食い倒れ大会。
 乱入者を次々なぎ倒すディーナの食べっぷり。そしてそれに挑み続けるシャーリーンとミネア。
「ミネア殿、ここが踏ん張り時だよ」
「料理人の意地を見せるぅぅぅぅ」
「さあ、こちらの大食い女王に挑戦するものはいませぬかー♪ 参加はこちらー、あ、単品販売もしておりますよー」

 数時間後。
 五条の突如開催した大食い大会で優勝して少し気晴らしになったと笑顔で帰宅したディーナの背後では、へとへとになったミネアと五条が倒れていた。
「歴代最高記録の売り上げにございますよ……」
「そんなに大儲けしてどうするのさ」
 その言葉に五条は起き上がり、そしてミネアとシャーリーンに顔を向けると、鞄に詰め込んでいたスズランのブーケを取り出した
「明日がもっと幸せになるためでございます。詩天もミネア様も、そしてシャーリーン様も」
「五条さんの言う通りだね。あたし、シャーリーンさんがずっと一緒にいてくれてここまでこれたんだし、その想いがもっと広がるように努力したい」
 ミネアからも贈られるスズランのブーケ。二つの花束にシャーリーンは照れ笑いして、その頭を撫でた。
「これからもずっと一緒さ。一緒に料理できたことはあたしも嬉しいよ」
 三人はぱしっと腕を合わせて握手を交わした。

●歌の魔力
「ご一緒できて良かったです!」
 街角でのゲリラ演奏をやりきりカーネーションを差し出すルナに、ユメリアは微笑んで受け取りながら尋ねた。
「ルナ様は歌わないのですか?」
 その言葉にルナは少しはにかんだ。
「……もう克服はしているんですけど、昔、歌うことで人を不幸にしたことがあって」
 怖れはない。だけど積極的に歌いたいかと言われると、やはりそれも違う気がして。
 ほんの少し残る胸の痛みがちくりと蘇る。
「……歌は魔力がこもるといいますからね。力は強ければ強いほど、意図せぬことを起こします」
 その言葉にルナはぱっと顔を上げると、ユメリアの青い瞳が飛び込んできた。瞳の奥はまるで泉のように青く深く、見透かされているようで。
「ルナ様は天賦の才をお持ちなのでしょうね。私よりずっと素敵な力の持ち主です」
 悪魔のような呪いがかけられていると思った。または偶然の塊だと思っていたそれが、私の溢れるような、力だった……?
 それがコントロールできずにいた? ルナの中で何かのピースがかちりとはまっていくような気がして。
「あの、ユメリアさん。今度は私が……歌ってもいいですか」

●遍く幸せ
 歌声が聞こえる広場から背を向けるようにしてカーネーションを握っていたのはアウレール・V・ブラオラント(ka2531)だった。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
 ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)の言葉にアウレールは振り返ると、カーネーションをそっと内ポケットに押し込んだ。
 その姿にツィスカは微かに眉根を寄せると、一歩詰め寄った。
「スズランの花言葉を皆で祝うとは本当に非日常を感じる日です。アウレール殿、貴方もその中に含まれてもいいと思うのです」
 帝国のことでアウレールが動き回っていたことは知っていたが、何があったかは噂も聞かず、その内彼は何事もなく決戦に向かって準備を進めていた。
 だが時折見せる、遠くを見つめる目は、いつもとは違うものを見ていることをうすらと感じていた。だからこそ、ツィスカは今日は着飾り、ミュゲの日を彼と楽しもうと決めていたのだ。
「アウレール殿はいつも自分を犠牲にして、最大限の幸福に走ってきました。その身が穢れようとも、厭わない」
 そんな言葉を言ってくれるな。
 そんな目で見てくれるな。
 アウレールはツィスカのまっすぐな目線に耐えられず、視線を外した。
「世の中には汚泥の中でも輝くような人間がいるものだ」
 汚れも厭わないと突き進んできた自分は何なのだろう。あの消えた墓地で埋もれるのは自分であるべきだったのではないか。
「もう一度言わせてください。アウレール殿にもミュゲの日による幸せは含まれます」
 ツィスカはその胸に押し付けるようにしてスズランの花束を差し出した。
「幸せが、ありますように」
 しばらくその胸に揺れるスズランの花を見つめていたアウレールは、溜め息まじりの笑顔を浮かべた。
「幸せが再び訪れますように」
 アウレールの言葉と共に差し出されるスズランの花に、ツィスカはまっすぐ手を伸ばして受け取った。
「アウレール殿。折角ですのでミュゲの日を楽しみましょう。私はアウレール殿が着ているようなスズランの衣装が着てみたい」
「……服屋か貸衣装屋を探せばすぐ見つかるかもしれないな」
 2人のぎこちないスズラン配りも、大勢の人が喜んで受け取ってくれるだろう。

●遥か空へ
 渡される花、受け取る気持ち、賑わいの一つ一つにも花が咲く。
 キヅカ・リク(ka0038)はそんな光景をなんとなく眺めながら、歩いていた。
「終わりがあるから、人は始められる……んじゃないよなぁ、やっぱり」
 邪神との決戦は近い。そして場合によっては離れ離れになるから、今。ここで。
 そんな悲壮めいた空気は1つも感じない。そう、ただの1つも。みんな純粋に気持ちを表したくって、今までの積み重ねに感謝して、果てない未来に想いを馳せるからこそ、今日、花を贈り合っているのだから。
 ちょっとばかり自分の気持ちと意見が証明されたような気がして、リクは今まで頑張ってきたかいもあったかなと思う。
 のだが。 
「ふぇぇ……この手詰まり感。この悲しみをどうすりゃいいの、ですよぅ」
 そんな泣き声が聞こえてくる。
 花を渡したい。でもその相手は遥か空の果て。
 星野 ハナ(ka5852)はため息をついた。このスズランをもって「隊長さーん♪ これは食べ物じゃないですよぉ?」なんてじゃれ合いの言葉の一つもかけたいのだが、渡す頃にはきっとこんなに可愛い花はもうしぼんでしまっている。そう思うと気持ちもしぼんでしまう。
「なんじゃ、切ない顔よのう」
 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)はハナのしょぼくれる気持ちは十分に分かっていた。自分も似たようなものだ。
 スズランと、赤いゼラニウムとポトスで作ったブーケを渡す相手は……ある意味、ハナの求める相手よりも遠いところにいる。だからこそ、だからこそ。
「直接届けられなくとも……」
 蜜鈴は一瞬炎を舞い上が瀬るようにして覚醒を果たすと、その火の粉がペンタスの花びらへと変じていくのにあわせて、銀月と花緑青のリボンで結んだブーケを空へと舞い上げる。
「想いを花に、心を風に、彼方の貴方へ届けよう」
 花は舞い上がると同時に渓谷に立つピースホライズン特有の風に捕まり、未来への希望を託された花は、太陽の光の中に吸い込まれるようにして消えて行く。
「おおお、風に飛ばす! それはグッドアイデアですぅ」
 その姿にハナは大きく喜ぶと、カーネーションとアイリスを買い足した。そうだ。風はどこにだって届くし、想いは世界をも超えてきたじゃないか。
「さっきみたいなの手伝ってもらいたいと思うんですけどぉ、いいですかぁ?」
「もちろんじゃ」
 風に乗り遅れて微かに香るゼラニウムの香りで、少し気持ちの整理をつけた蜜鈴はしっかり頷いた。こんなように彼の事も背負ってやれるようにと思いながら。
「それじゃお願いしますよぉ」
 風にのって飛んでいくハナの花束。それを見上げて大きく叫んだ。
「深紅ちゃーーーーん、早く元気になってねーーーーー。幸せがありますようにーーーっ!!!」
 その瞬間、香花幻舞の勢いが強まった気がした。
 この気持ちが、少しでも遠くまで届きますように。

 そんな姿をリクはぼんやりと眺めていた。
「そういえば、最近行っていなかったな」
 もう届かないところに行ってしまった人のことが頭に浮かぶ。
 その気持ちは今でも胸の中ちらちらと燃えているし、何かの際にその顔が、あの姿が浮かんでくる。遺された悲しみの先に続いたこの道にはまだ先はある。
「すみません、お花ください。できれば日持ちする奴がいいんだけど……」
 もらった花を持ってリクはリゼリオへと旅立った。
 自分を変えてくれた、大切な人の元へ。
 自分の基となる場所へ。

●折れた枝、芽吹く枝
「幸せは訪れましたか?」
 スズランと共に贈られたそんなサイアの言葉に、クレール・ディンセルフ(ka0586)はもちろんと反射的に笑って見せた。
「……わかんない、というのが正しいところかな。ただ、できることは全力でやってるから後悔は1つもないよ。サイアさんはどう?」
「同じです」
 幸せってそもそもなんなのか。自分の幸せは間違いなくこれだなんて言えるのは、少ないかもしれない。
「後悔ってのはやらなかったから起こるわけで、全力でやりきったらそうそう起こらないよ」
 えへん。と自信たっぷりに言うのはミーファの方だった。クレールからもらったスズランを目線の高さに合わせて、あちらこちらに向けている。
「何してるの?」
「こうすると花に包まれるカップリングを楽しめる。ほらほら、絵になる。クレールさんって男装とかカッコ良さそうですよね」
 クレールと訪れてきた天央 観智(ka0896)を目の中のキャンバスにいれる姿に苦笑した。
「相変わらずですね……」
 天央 観智(ka0896)はそんなミーファに梅の枝を差し出した。
「切っても切っても、そこから枝を伸ばす……梅はミーファさんのようだと……思いまして」
「あー、わかる。本当にへこたれないよね。ファルバウティやエルフハイムで辛いことがあっても、本当にすぐ立ち直って」
 クレールは笑って、ああ、そうだなと思った。
 全力を尽くしていたら、後悔なんか起こるわけがない。善悪でしばられない、ルールに頭を押さえつけられず、本当にやりたい事は信念を持って貫く。
 クレールはカリスマリス・クレールに視線を落とした。父さんの武器とは方向性は全然違うけど、多分、全力を尽くす気持ちはしっかり受け継いでいるように思う。それから、同じように全力を尽くして地獄に堕ちたあいつの気持ちも。
 道を違えてなけりゃ、いいライバルになれたのかもしれない。
「お花ありがとうね。また何かあったら言って」
 そう言って別れたクレールをしばらくサイアとミーファは首をかしげていた。何か心の傷に触れるような事でも言ってしまったかしらと。
「全力を尽くした相手……幸せをちょっと願う相手……まだいるんじゃないでしょうか」
 観智はサイアにスズランを渡しながら、そういった。
「梅は折れた分だけ、新たな命が芽吹くように……折れて終わりじゃないことも多いと思うんですよ……そこから新たな想いが芽吹くことも……そういうことを確認する日が、ミュゲの日じゃないですかね」
 そっか。
 観智の言葉に2人は顔を合わせて頷くと、貰ったスズランを大きく振って見送った。

●幸せはんぶんこ
 七夜・真夕(ka3977)は待ち合わせた噴水の縁に腰かける雪継・紅葉(ka5188)は駆け寄ると、両手で抱えるほどのスズランを差し出した。
「はい、紅葉。これは私から♪」
 幸せがいっぱいいっぱいありますように。そんな言葉を添えると紅葉の顔は恥じらいと幸せで髪と同じように朱に染まった。そして差し出した花の色も同じ色。
「……ありがと。これはボクから」
 薔薇の花束。真夕はそのメッセージに破顔して、しばらく座り込んだ。
「やっぱり大好きだから。それに合うものと言ったらね」
 紅葉はそういうと真夕からもらったスズランの花束を愛おしく見つめ、それからふと思いついて、その花束をばらした。
「どうしたの?」
「スズランの花冠にしたらどうかなと思って。それなら手も空いて、真夕の手を握れるでしょ」
 その言葉に嬉しくなったが、花冠は初めての経験らしく、その手はたどたどしい。
 真夕は肩を寄せるとそ両手で紅葉を包むようにしながら、その手先を彼女の持つスズランにによせる。
「こうやって束ねて……一本の蔓で巻いていくのよ」
「すごい、真夕!」]
 紅葉の頭を飾る花冠に嬉しくなって、今度は紅葉が習ったように花冠を完成させて真夕の艶やかな黒髪を飾り見つめ合った。
「ふふふ、綺麗よ紅葉」
 どちらからともなく笑みがこぼれると、2人はしっかり抱きしめ合った。
「真夕……、ありがとう」
 軽く口づけをする紅葉に、真夕は照れることもなく受け入れるとバラの花束を真夕は改めて紅葉に差し出した。
「これも半分こしあいましょう」
 2人は腕を組んで歩きだした。
「あ、あのお店どうかな」
「今、向こうでドラジェを配ってたわ」
 互いに手を引き合い、2人は街中を笑い声と共に走り抜けていった。

●騎士と姫の誓い
「綺麗!」
 年頃の少女のように戻った声を上げてクリームヒルトは歓声を上げた。目の前に広がるのは花屋の店主エリンがスズランを一人でも多くの人に渡そうと作ったスズラン畑だ。一面が白と緑に覆われている。
「人を幸せにしたいって想いは、景色をも変えるんだよな」
 リュー・グランフェスト(ka2419)も同じ光景を横に立って眺めながらそう語り掛けた。彼女の苦しみが、彼女の決意が少しでも形になっていることを伝えるために。
「それじゃ次行くか。飯もうまいもの食べたいだろ」
 そう言って道を指し示すリューだったが、彼女は振り向いたまま切なそうに微笑んでいた。
「そういえば星の守護者になったのよね、おめでとう。魔導列車の中で過ごしたあの日がもう遠い昔見たい」
 彼女には仕事はたくさんある、地方を守るためにたくさんの人が訪れてくる。見回りに会議に忙殺されている近況は聞いたが、彼女から離れた人々の話は聞くことはできなかった。
 その言葉を聞いて、リューは道を戻ると、クリームヒルトの手を掴んだ。
「どこも行きゃしないよ。どこも行かないから、お前を独りにしない為の……守護者だ」
「ありがとう……じゃあ、リューさんが守る大地をわたしは花いっぱいにして見せるね。みんなと一緒に、国を超えて、海を越えて。護る者がとてもとても大切だと思えるように」
「ああ、どれも踏みにじりやさせないさ」
 そうして、2人は手をしっかり握って、来た道を戻っていった。

●一切は還流する
 ユメリアは草むらに座り、空を眺めていた。傍には渡す予定を失った花束。
 そんな彼女のまつげに影が覆い、彼女は振り返ると、シグルドと未悠が並んで立っていた。
「まず自分が幸せになることです。なんて言ったのはどこの誰だったかな」
「本当です。言った本人が幸せにならなきゃ」
「特別なトゥーロン、渡したかったんだよ」
 ミネアとシャーリーンが手を振ってやってきた。そんな人たちに囲まれてユメリアは少し微笑んで、立ち上がった。
「ユメリアは変なところで気を使っちゃうのよね。幸せにはもっと貪欲にならないと」
 未悠からフリージアのブーケを受け取り、ミネアとシャーリーンからはトゥーロンとスズランをもらうと、ユメリアはようやく役割を果たすことのできた色とりどりの花束を差し出し……それよりもずっと美しく咲き誇る花々を抱きしめた。
「ありがとう」
「ありがとう」
 誰から言い出したのか、言葉が祝福の鐘のように幾度も響く。

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重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオール(ka0184
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 粛々たる刃
    鹿東 悠(ka0725
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 母のように
    都(ka1140
    人間(紅)|24才|女性|聖導士
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 一生を貴方と共に
    雪継・紅葉(ka5188
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • アウレールの太陽
    ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士

  • ノア(ka7212
    鬼|24才|女性|格闘士

サポート一覧

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/07 08:51:25