仮面の競売

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/05/28 09:00
完成日
2019/06/04 00:37

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●不審なオークション
 オークションに盗品が出品される。それは自分の家から盗まれたものだから、取り返して欲しい。そのような依頼を受けたあなたたちは、そのオークション会場に潜入した。手伝いとして疾影士のエドと、魔術師のハンクも来ている。この二人は友人同士だ。
 盗まれたのは、フマーレの彫金師による金属製の花瓶であり、その精巧な細工から、界隈ではそれなりに値打ちがあるものとして知られているのだそうだ。

 あなたたちは会場入り口で仮面を配られた。笑顔をした男性の仮面だ。何故こんなものを……と思いつつもあなたたちはそれを被って、盗品を探すためにオークション会場へそれぞれ散らばった。
 参加者は皆、仮面を付けて低い声で会話をしていた。まるで身分を隠すようである。一体どうしてこんなことを……。あなたたちの中の幾人かは怪しんだかもしれない。

「あの……」
 あなたたちの中で、魔導スマートフォンか短伝話を持っている人は、ハンクからの着信に首を傾げた。
「エドがトイレに行ったっきり戻って来ないんです。お腹痛いのかと思ってトイレ見に行ったけど誰もいなくて……誰か一緒じゃありませんか?」
 あなたたちは誰もエドを見ていないので知らないと答える。すると彼はやや剣呑な声で、
「この前、ちょっと色々あったんだけど、それ以来エドは戻れない事情とかあったらちゃんと僕に説明してくれるようになったのに……どこに行ったんでしょうね?」
 などと言う。
「ううん、エドのことだから忘れてるのかな……後で言って聞かせないと。ひとまず仕事をしましょうか。お手間を取らせて申し訳ありません」
 そして通話は切れた。

●盗み聞き
 エドは手洗いを借りると、ハンクの元に戻ろうとして、気付いた。依頼人の声がする。
「……ですね……ほんとうに」
「何を仰いますか……も……でしょう……」
(あの人も来てたのか。やっぱり花瓶が心配なのかな。誰と話してるんだろう)
 エドは声がする部屋の前にしゃがみ込むと、興味津々で盗み聞きを試みた。

「あくまで健全なオークションで、盗品が一つと伝える。それを取り返して主催者ともども礼を言えば、このオークションがその後当局の目にとまることはないと、ね……考えたものだ。木の葉を隠すなら森の中、というが、森を隠すために木の葉だけ目立たせるとは」

(なんて?)
 エドは耳を疑った。つまり、この依頼はフェイクで……このオークションが、単に盗品売買の会場に選ばれた罪のない催しだと印象づけるために、一つだけが盗品だと嘘を吐いていたと……? このオークションそのものが盗品取引だとでも言うのか?
(いや、でもそうなら、全員仮面をしている理由もわかる……)
 全て盗品や、まずい品物なら、落札者も顔を知られたくはないだろう。
(ていうか怪しいに決まってるだろ。何でハンターを呼んだんだ)
 しかし、決定打でもない限り、そうそう疑えるものではない。いくらなんでも、一つを指して盗品だと言われているのに、他全部も盗品だろうとはなかなか言えない。
(やばい。皆に知らせないと。これでみすみす他の盗品を見逃したなんてなったら……)
 ハンターたちの名誉に関わる。
(今日来てる誰か、来る前に盗難の届けが出てる他の品物とか調べてたっけ)
 その場を離れようとして、エドは振り返った。そして息を呑む。
「ネズミが紛れ込んでいたようだな?」
 仮面を付けた男が立っていた。彼がパチンと指を鳴らすと、青白いガスが広がる。それがスリープクラウドだと気付いた時にはもう遅く……そのまま暴力的な眠気に襲われてそのまま眠りに落ちた。
(やべぇ、後でハンクに殺される……)

●エドの処遇
 依頼人の男は頭を抱えた。このオークションがまっとうだと印象づけるために呼んだハンターの一人が、あろうことか、自分の関与を証明する話を聞いてしまっていたのである。
「どうするんだ?」
「あとで、人体解剖に飢えているマッド医者のところにでも引き渡すか。活きの良い生体だ。顔は中の下って感じだけど、皮膚の下が元気なら満足するだろう」
「それしかあるまいな。喉を潰しておけ」
「いや、スリープクラウドも掛けているし、そうそう起きられまい。仮に普通の術なら凌げるくらいの抵抗力があっても、俺の魔術なら抵抗出来る奴は二割まで落ちる」
「猿ぐつわでもはめておけ。解剖したときに臓器に傷があった、なんて文句を言われても面倒だ。できるだけ丁寧に、な」

 この屋敷は、オークション会場になるように増築されていた。品物の保管場所、遠方から来た客が泊まる部屋もある。エドとか言うハンターは、空いた客室に放り込んでおこう。持ち物を調べると、投擲武器の手裏剣とスマートフォンが見つかった。この辺は、品物を保管している部屋に……いや、偽の依頼を受けたハンターたちが、保管室に忍び込んだりしたら一発で露見する。

「いや、いっそ出品物ということにしたらどうだ? リアルブルーから伝わった手裏剣、みたいな感じで……多少傷もあるし、断言してしまえば疑わないさ。スマートフォンは俺が預かろう」
 魔術師が言った。その案は採用され、エドの手裏剣は出品物として保管室にそれらしく置かれた。

リプレイ本文

●行動開始
「……嫌な予感がするです……」
 アルマ・A・エインズワース(ka4901)はハンクからの伝話が切れると小さく呟いた。先日のことだ。山奥の教会で殺人未遂があった時、やはりハンターが一人行方不明になった。犯罪の証拠を掴んでしまったために口封じで閉じ込められていたのだが……その時のことを思い出す。
 その時、肩を叩く者があった。トリプルJ(ka6653)だ。アルマとは別の意味で嫌な予感を覚えている様である。
「何かハンクが暴走しそうな気がするんで、俺はハンクに合流するぜ。エド見つけたら連絡くれや。少なくとも何かあったなら、仲間に何かしてくれた奴をとっちめにゃならんだろうからな」
「あ、いたいた。んもう、お二人一緒にいると目立ちすぎですぅ。離れて離れてぇ」
 二人の服の裾を掴んで引っ張るのは星野 ハナ(ka5852)だ。彼女は一枚のタロットを見せる。吊るされた男の正位置だった。
「何だそりゃ」
「見たとおりのカードですぅ。死神ですら逆位置は再生とかの意味があるんですけどぉ、吊るされた男はぶっちゃけ正位置でも逆位置でもあんまり良い意味がなくてぇ……忍耐とかはあるんですけど、現状が良いことを指す意味ではないですしぃ……諸説ありますし、リーディングとか文脈にもよりますけどぉ」
 それから軽くクリスタルネックレスを持ち上げて、
「放っておくと命の危機かもしれません~。大雑把に保管庫の方と客室の方の両方にネックレスが反応してるのでぇ、まずそっちを探すと良いかもですぅ。あとぉ、これは占い結果じゃないですけどぉ、ハンクくんに誰かが合流してぇ、ハンクくんが突っ走らないようにした方が良いかもって思いますぅ」
「お前もそう思うか」
 トリプルJはしみじみと頷く。
「ハンクと話してると、こう肚の底がヒヤァッとする時があるんだが……何だろうな」
「……気のせいじゃないと思いますねぇ」
「僕はエドさん探しに行くです!」
 アルマがしゃきっと背筋を伸ばした。
「私も行きますぅ。どこかに閉じ込められてるならぁ、式符で覗いちゃうのが早いと思うのでぇ」
 アルマとハナが会場を離れると、トリプルJはハンクと連絡を取った。
「ハンク、大広間の入口に来てくれるか。仮面のせいでよく分からん、合流しよう」
「はい。わかりました」
 不気味なほど大人しい。二人はすぐに合流を果たした。
「今他の奴らがエドを探しに行った。俺達にゃ探索系のスキルはないし、誰かがオークションで落札もせにゃならん。何か起こってるなら単独行動は拙い。分かるな、ハンク……俺とお前の今の仕事は落札だ」
 他で会場に残っているのはサクラ・エルフリード(ka2598)だ。仮面だらけのこの会場でも、猫耳カチューシャがよく目立つ。
「何かきな臭いなとは思ったんですが……ひとまず、私も監視に徹しましょうか……何かあったら呼んでください」
「おう。頼むぜ」

●情報収集
 一方、オークション開始直後から別行動をしていたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)とマリィア・バルデス(ka5848)は、保管庫に侵入していた。最初、アルトがナイトカーテンで姿を隠し、スタッフと一緒に滑り込もうとしたのだが、なかなかガードが堅かった。仕方なく無人になるのを待って、ピッキングで侵入したと言うわけである。
「遺跡などの探索用に研いたんだが意外なところで役立ちそうだな」
 鍵は難なく開いた。
「マリィアさん、先に入って」
 マリィアに隠密の手段はない。あまり長く廊下に立たせておけないのだ。
「オークションに盗品が一つだけ、ね……。どうやって審査をすり抜けたのか。どうやって売買情報を掴んだのか。どうして開催前に買戻ししなかったの。色々怪しすぎるのよ……」
「情報筋からだと言っていたな。そんな情報筋、どうやって繋がったのか、と思うことはある」
「ええ。あら、これかしらね、例の花瓶は」
「そうみたいだ。写真を撮っておこう」
「そうね」
 アルトは魔導スマートフォンで、マリィアは魔導カメラで手分けして出品物の写真を撮る。アルトは会場のトリプルJと連絡を取り、
「トリプルJさん、今どんな感じ?」
『白熱してるな。だがもうすぐ決着が付きそうだぜ』
「わかった。マリィアさん、とりあえずあの姿見の後ろにいてくれ」
 アルトもスマートフォンの電源を切る。ついでにトランシーバー代わりのイヤリングも受信できないようにした。
「そうね。見つかったら大事だものね」
 マリィアは肩を竦めると、姿見の後ろに隠れた。
「隠れながら話して良いかしら」
「うん」
「この話があった時、調べたのよ。このオークションについて。オークションの主催団体と、開催頻度ね」
「どうだった?」
「とても怪しいわ」
 主催団体が行なうオークションはこれが初めて、と言うことになっている。
「初めて?」
「ええ。でも、それまでの実績はオークションと何の関係もなさそうなのよ」
「それは……」
「乗っ取ったとかそう言うことよね。罪のない団体を。元の彼らがどうなったかはわからないわ」
「団体の詳細まで調べないと思われたのかな」
「ハンターって、ただ正義感で動いてるだけじゃないのよねぇ。哀れっぽく泣きつけば良いと思ってるかもしれないけど」
「違いないね……ん、足音がする」
 アルトは壁際に寄った。マリィアも口をつぐむ。少ししてから鍵が開き、仮面を付けたスタッフが入って来た。きょろきょろと部屋を見回し、
「何か騒がしいと思ったんだけどな……気のせいかな。他の部屋かぁ」
 そう言いながら、次の出品物を持って行く。扉が閉められ、鍵を掛けると、二人は息を吐いた。
「大丈夫かな……マリィアさん、続きを聞いても良いかな? 他にも何かあるんだろう?」
「ええ」
 マリィアは話した。前述の通り、どうやって審査をすり抜けたのか。どうやって売買情報を掴んだのか。どうして開催前に買戻ししなかったのか。あまりにも不審な点が多すぎる。そこで、今回の依頼の品と同じかそれ以上のランクである芸術品の盗難がなかったかを調べた。
「それがこの資料なんだけどね」
「どれどれ……ここにあるもの、いくつかここに載っているように見えるな」
「ええ、私も同じに見えるのよ。この絵皿、この盗難品と同じじゃない?」
「主催者が気付いていないだけ、ということもあり得るが……多すぎるな」
「でしょう? それと、見てこの手裏剣」
 マリィアは、テーブルの隅で雑に放られている手裏剣を指した。
「リアルブルーから伝わった手裏剣。ふぅん。これだけ芸術品が並んで由緒も書いてあるのに、これだけはないのか。ガラクタみたいな扱いだな」
「ねえ、アルト。いなくなったって連絡のあったエド、手裏剣を持ってたわよね?」
「……彼から取り上げられた、と?」
「可能性はあるわ。彼、巻き込まれ体質なのかしら……郷祭でも歪虚事件に巻き込まれてたのよ」
「まあ、ハンターならそう言うこともあるだろう。だとすると、先に捜索してる人たちに伝えた方が良いな」
 アルトはドアに耳を付けて廊下の音を聞く。すると人の気配がしたので、再びマリィアを姿見に隠して自分もじっとしていた。先ほどと同じようにやり過ごすと、二人はエドを捜すと言っていたアルマに連絡を取った。
「もしもしアルマ? 私よ。エドのものらしき手裏剣が出品物保管庫にあるのよ。彼は見つかった?」
『わうー……まだです……身ぐるみ剥がれている可能性あるです?』
「なきにしもあらず、だわ。丸腰の可能性があるから気をつけてあげて頂戴」
『はいですっ! 僕、番犬さんしてますっ』
「見つかったら教えてね」
『はいっ』
 通話を終えると、マリィアはアルトが紙束を手にしているのを見た。
「あら、なぁに? それ」
「出品目録かな。これが見たかったんだ。盗品をどこで仕入れたとか、そんな情報が記されたものがあればと思ったんだが」
 盗品と気がつかずに仕入れたとしても、何らかを記録したの帳簿などがあればそこから出品者に繋がり、調査の取っ掛かりになる。
「取り返しましただけでは今後も起きそうだし、臭いものは元から断たないといけないしな」
「そうだわね……それで、どう?」
「出品者の名前が書いてある。これも写真に撮っておこう」
 二人はまた、目録の内容を写真に収めた。
「さて、こんなものか。ひとまず、この花瓶が持ち出されるまでは見てた方が良いな」
「そうね……トリプルJが落札しようとしていたし、事前に知らせた方が良いわね」

●The Hanged Man
 エド捜索に出たアルマとハナは、生命感知で反応があった部屋を片っ端から式符で覗いて回った。
「うーん、戦利品撫で回してご満悦って感じですぅ……ってこれほんとただの覗きですぅ。嫁入りがどんどん遠のきますぅ……」
「エドさんの命がかかってるです! ハナさん頑張ってくださいです!」
「わかってますしぃ、お仕事はしますけどぉ、こう、自分の姿に悲しい物が……」
 式符が戻って来た。視覚を共有しているハナは、トホホな自分の顔を見てしまって苦笑する。
「そこで何をしている」
 不意に声が掛かった。仮面をつけた男が腕を組んでこちらを見ている。ハナは困った。
「えっとぉ……」
「物音がしたので、警備のために見て回ってましたですー」
 アルマがしれっとして言い放つ。
 断言してしまえば疑わないものである。仮面の男は、
「そうか……さっきもネズミを一匹捕まえたからな。充分気をつけてくれ」
 頷いて去って行く。
「疑いませんでしたねぇ……」
 声が聞こえなくなるところまで遠のいたのを見て、ハナが囁いた。
「おどおどしてるとそっちの方が怪しまれますです」
 そこに、マリィアから着信が入った。
『もしもしアルマ? 私よ。エドのものらしき手裏剣が出品物保管庫にあるのよ。彼は見つかった?』
「わうー……まだです……身ぐるみ剥がれている可能性あるです?」
『なきにしもあらず、だわ。丸腰の可能性があるから気をつけてあげて頂戴』
「はいですっ! 僕、番犬さんしてますっ」
『見つかったら教えてね』
「はいっ」
 通話を終えると、アルマの顔がすっと真顔になり、そのまま笑顔に移行する。
(あ、これもう駄目なやつですぅ。エドくん捕まえた人はご愁傷様ですぅ……)
「エドさんの手裏剣が出品物にまぎれ込ませてあったみたいです」
「さっきの仮面さんが言ってた、ネズミってぇ、ともするとエドくん……?」
「早く見付けないと大変ですっ」
「多分ですけどぉ」
 ハナは小声で囁いた。
「仮に、本当に仮面さんがエドくんを捕まえていたならぁ……エドくんを生かして帰す気ってあんまりないと思うんですぅ」
 吊るされた男を思い出す。逆さに脚と首を縛り付けられている男のカード。
「タロットはそこから受けた印象も大事なんですぅ。吊るされた男の解釈には諸説ありますけど、少なくとも私は嫌な感じしか受けませんでしたぁ……」
「わん……」
「というわけでぇ、ちょっと焦り気味で探して行きましょぉ」
「はいですっ」
 そしてハナの式符は見付けた。
 縛られてソファに寝かされたエドの姿を。

 寝相が悪かっただろうか。ソファから上半身がずり落ちた彼の姿は、吊るされた男の姿によく似ていた。

●仮面の競売
『ヴァレンティーニだ。今、例の花瓶が持ち出された。次の出品物はそれだろう』
「了解したぜ。競り落とす」
 トリプルJは通話を着ると、ハンクを軽く肘で小突いた。
「行くぞ」
「はい」
 そこに、人込みをかき分けてサクラがやって来た。
「あの……私、ちょっと聞き耳を立てていたんですが……」
「どうした?」
「何か……『ああ、知ってる、あの家に置いてあったやつだ。上手くやったな』って声が聞こえてきて……」
 トリプルJとハンクは顔を見合わせた。
「なるほどな?」
「安く買い取って出品してる可能性もありますけど……どの道、手口によっては詐欺ですよね?」
「はい……なんか、事情通ぶってる人がいて、そう言うことをいちいち言ってるんです……あれはどこそこの家にあったやつ、あっちはどこどこ」
「きな臭ぇな」
「では百万から!」
 司会者が告げる。
「百五十万!」
 ハンクが叫んだ。
「二百万!」
「二百五十出す!」
「三百です……」
「三百二十!」
「これ、落とせそうですか?」
「落とすしかねぇだろ」
 その時、トリプルJのスマートフォンが鳴った。ハナだ。
「もしもし?」
『あっ、トリプルJさんですぅ? 星野ですぅ! エドくん見つかりましたぁ!』
「でかした。具合はどうだ?」
『スリープクラウドで眠らされてただけみたいですぅ。命に別状ありませぇん……ただぁ……』
 ハナは声を潜めた。
『アルマさんがぁ……えらくご立腹でぇ……』
 トリプルJは傍らのハンクを見る。
「五百万!」
 彼は落札を目指して、サクラと一緒に値段をつり上げていた。
「こっちもキレそうな奴がいるけどな……まあ、頑張ってくれや……」
『はいぃ……それでぇ、エドくんによるとぉ、このオークション、全部盗品の闇オークションだったらしくってぇ……』
「なんだと?」
『どうしますぅ? 合流した方が良いですよねぇ?』
「だな。ひとまず花瓶が終わったら、最初に分かれたところで落ち合おうぜ。アルトたちは隠密してるだろうから向こうからの連絡を待とう」
『はぁい』
 通話を切る。花瓶は七百万でサクラが落札した。注目を浴びたサクラは縮こまりながらトリプルJとハンクの後ろに隠れる。
「エドが見つかった」
「……!」
 ハンクの目が光った。トリプルJは更に、ハナからの通話内容を二人に小声で告げる。
「とりあえず、星野たちに合流するぞ」

●エドの救出
 話は少し前に遡る。
 吊るされた男よろしくソファからずり落ちて爆睡していたエドは、アルマがピッキングしている音にも当然気付かず寝こけていた。
「わううー……」
 誰でも得手不得手があるものだが、アルマは力仕事が苦手である。思いっきり蹴り飛ばすよりも、シーブスツールで鍵開けする方が早いと判断した。いざとなったら蹴破ろうとしているハナに後ろを任せて、モノクル越しに鍵穴を探る。
 やがて、カチッと確かな手応えを感じた。
「開きました!」
「お疲れ様ですぅ!」
「エドさん……!」
「うーん……むにゃむにゃ……ジョン……あと五分……良かったらハナに頼んで俺の代わりに式符連れてって……」
「五センチのエドくんってぇ、無理がないですぅ?」
「エドさんっ、僕です! アルマですっ! 起きてくださいー!」
 ぺちち、とほっぺたを軽く叩く。
「むにゃ……? ハッ!? 俺は一体何を……!?」
「良かったですー! 起きなかったらどうしようって思いましたですー!」
 アルマは手持ちの道具からヒーリングポーションを渡した。ついでにぎゅうぎゅうに抱きしめる。何しろ弟にしたいとまで思っているのだ。こんな目に遭わされて何も感じないはずはない。
「で、誰です? 君をこんな目に遭わせたの」
「わかんねぇなぁ。仮面してたから。でもあれはスリープクラウドだったと思うから魔術師なんだと思うよ」
 まだ眠そうだ。
「それから、俺たちどうも盗品オークションにお呼ばれされたみたいだぜ」
 エドが見聞きしたことを話していると、アルマのスマートフォンが鳴る。マリィアだった。ハナもトリプルJに伝話をしていた。
『保管庫に他にも盗品があったわ。これ、盗品オークションかもしれないわね。一度みんなで集まって話し合った方が良いかも。ところでエドは見つかったかしら』
「見つかりました!」
『あら、良かったわ。じゃあ一度落ち合いましょうか』
 集合場所を決めて、通話を終えると、
「ところでエド君、何か無くなった物とかないですぅ? さっきのエド君の様子からしてぇ、エド君を捕まえた人達はあんまりエド君を逃がす気がなかったんじゃないかなぁと思うんですよねぇ。ならエド君の金目の物なんかを持ち逃げしてるかもって思いましてぇ」
 ハナなりのオブラートである。君のこと殺して捨てる気だったかもしれないよ、ということだ。
「えーっとね……あ、手裏剣がねぇや……げっ!? スマホもない!」
「やっぱり……とりあえずぅ、ここ出て皆と合流しましょぉ」
 ハナは式符で外を確認してから、二人を手招きして廊下に出た。

●捕り物
「なぁ、ハンク」
 合流する道すがら、トリプルJはハンクにそっと囁いた。
「何ですか?」
「報復したいなら戦闘中にしろよ。投降後にやったら流石に俺でも庇えないからな」
「えっ、そんな無理ですよ」
「無理っておま」
「だって何か強い人なんでしょ?」
 指にはめたマジックリングをさする。知人の司祭からもらったものをそのままお守りのように持っているのだ。
「僕はほら、あんまり強くないから」
「そ、そうか……」
 やがて、知った顔のハンターたちが見えた。エドはアルマがしっかり抱え込んでいる。
「エド、大丈夫?」
 ハンクが気遣わしげに声を掛けると、
「超眠い」
「もう少し頑張って頂戴。ところで、主催者を押さえるならボヤ騒ぎを起こして問答無用に捕まえる? 今回荒事はあるかもって思ったのよね。騒ぎを起こせば主催者は逃走資金確保に集まるんじゃないかしら。あとはエドで誘き寄せるか、ね」
 発煙手榴弾をチラ見せさせる。
「ちょっと待ってくださいぃ。せめてどこにいるか確認を……あー、会場と保管庫に反応がぁ。人目につかない所で捕縛したいのにぃ」
 ダウジングが反応したのがその方向だったらしい。ついでにタロットで占ったところ、「力」のカードが引けた。
「物理が強いクラスが一人はいそうですぅ。一人は魔術師で間違いなさそうですしぃ……」
「廊下は任せた。俺たちは会場で騒ぐ。行くぞ」
「はい! エド、気をつけてね」
 トリプルJがハンクを連れて行くと、マリィアは発煙筒に着火した。もくもくと白い煙が上がる。
「火事だ!!!」
「速やかに避難してください!」
 トリプルJとハンクが会場で騒いでいると、こちらにまっすぐ近寄って来る人影がある。
「やっぱりさっきのぉ……」
「ふん。嗅ぎ回るネズミの割には、堂々とした振る舞いも後ろめたくなかったようだな。おかげですぐに疑えなかったぞ」
「いやぁ、それあなたがちょっと抜けてるだけだと思うんですぅ……」
「くそ! 見付けてしまったか!」
 偽依頼人が頭を抱える。その前に立っていたのは、先ほどハナとアルマを見付けた魔術師らしき仮面の男だ。もう一人、挌闘武器を身につけた体格の良い男がいる。
「あいつ」
 エドが魔術師を指してアルマとハナに耳打ちした。ハナがスマートフォンでエドに伝話すると、魔術師の方から着信音が鳴った。彼は舌打ちをすると、端末を放り出す。
「あっ、俺のスマホ……」
 証言と証拠。二つ揃った。アルマが外套を翻して魔術師に歩み寄る。
「あはっ。そうですかー、貴方が。具体的にその後どうする気だったかお聞かせ願えます?」
「知る必要はない」
「少なくともそのまま帰すつもりはなかったわよね? でも傷は付けなかった。奴隷にでもするつもりだった?」
 黄金拳銃を構えたマリィアが片眉を上げた。
「いや、どちらかと言うと標本だな。解剖の……」
「ぎゃあ」
 想像したのか、エドが身震いした。アルマがにっこりと笑い……それを見た偽依頼人は踵を返して走り出した。
「依頼人、逃げたわ」
 マリィアがトリプルJにインカムで伝達する。
「上手くやりましたねー。殺ス」
「ふん……服装の派手さには知性が出るぞ。すぐに殺す、と口にするのもな。行儀が良いとは言えないようだ」
「派手って……それ……私にも何か言いたいことがあるんでしょうか……?」
 動く度に煌めく「一輝闘閃」の文字を背負ったサクラが少しむっとしたように言う彼女は、マッスルトーチによる筋肉の輝きを放った。
「相手をしてやれ」
 魔術師が偉そうに挌闘士に告げる。言われた方は少々カンに障ったようだが、言われたとおりサクラに接近した。
「あなたの相手は私の方ですよ……柄が悪い人の相手はしたくないですが仕方ないです……」
「食らえ!」
 放たれる気功波を回避する。アルトが駆けつけた。
「サクラさん、援護する」
「わかりました、お願いします……! 筋肉の神による罰を喰らいなさい……必殺・倫理爆裂拳……!」
 ルーンソードによる渾身の一撃!
「動くな」
 アルトが低く一喝し、縄付き鈎爪を繰り出した。脚に引っかかり、挌闘士は転ぶ。
 そこに倫理爆裂拳が襲いかかる! 湧き出すマテリアルを節制の力に変えて──対象の精神によって威力を増す一撃!
「ぐわ!?」
 内側から働きかける威力。体内から破壊される痛みに、苦痛の悲鳴が上がった。
「効果が低い場合は……知能が低いという事ですよ……」
「結構効いている様だぞ」
 アルトの言うとおり、倫理爆裂拳はそれなりの効果を見せているようである。
「思ったより知性が高いのでしょうか……」
「知性っておま………おま……馬鹿に挌闘士が務まると思ってんのか……?」
 悶絶しながら言う。アルトはそこに歩み寄ると、
「続きは牢屋で聞こうか」
 軽く当て身で気絶させた。手を振りながら、
「スキルは手加減ができないからな。こう言うときに素手は便利だな」
 伸びた挌闘士から武装を取り上げて、彼女はしみじみと頷いた。

●追跡
『依頼人、逃げたわ』
 マリィアからの連絡を受けて、トリプルJは周囲を見回した。いた。仲間たちが集まっている方から逃げてくる男。見覚えがある。
「ハンク! ちょっと飛んでくるぜ!」
「わかりました! 気をつけて」
 ハンクからの返事を聞くと、トリプルJは天駆けるもので飛び上がった。人々の頭上を飛んで行く。
「待て! 逃げるんじゃねぇ!」
「ひえぇ……!」
「そうは問屋が卸さねぇってんだよ!」
 一般人の足で引き離せるわけもない。追い抜いて、正面に立ち塞がってそのまま鉄爪を喉元に突きつけた。
「諦めな。ケチな芝居にゃ誰も入札しねぇってよ」

●裏目に出る手腕
 一方、魔術師に相対している四人である。魔術師はアルマにひとしきり嫌みを言うと、すっとこちらに杖を向ける。
「仕方ない。まとめて眠っていてもらおうか」
「残念ですけどぉ、そうはいかないんですよねぇ。あなたがご自分の腕に自信があればあるほどぉ、裏目に出るって言うかぁ!」
 青白いガスが広がる。それを受けて、ハナが呪詛返しを発動した。エドは身構えたが、全く眠くならなかった。
「え、嘘。抵抗した……?」
「私が抵抗できればエドくんにもお裾分けできるんですぅ!」
「マジかよ」
「なん……だと……これが……東方の符術……」
 魔術師は愕然として膝を突いた。呪詛返しの、「呪詛返し」たる所以だ。ハナが言うとおり、強力なスリープクラウドが裏目に出た。
「ふふっ、君が間接的にこの子にしようとしたように、ばらばらにしてあげます。壊れたおもちゃみたいに……お揃いにするのも虫唾が走るので」
 ストーンサークル。精霊降ろしとも呼ばれる術によって、アルマの周囲にはマテリアル結晶が展開した。エドが目を剥いている。
「貴様……!」
 宝術:ネプチューン。人魚の精霊を顕現させ、螺旋を描く水流を放って相手を吹き飛ばす術だ。勢いの良い水流が魔術師に襲いかかる。
「うぐっ!?」
 高速回転する水流がぶち当たった魔術師はそれだけで目を覚ました。しかし、桁外れの威力。一瞬で戦闘不能に陥った。
「ぐ……かはっ……精霊降ろしだと……? 話には聞いていたが……これが……」
「マッド野郎って自分がピンチでも興味津々を隠さないから尊敬するよ……」
 エドがやれやれと首を横に振る。
「そこまで!」
 こちらも片付いたことに気付いたのだろう、アルトが声を張り上げた。
「無駄な抵抗はやめろ。命まで奪うつもりはない」
「ぐ……!」
「おしまいですか」
 アルマは唇を尖らせる。ぐったりと倒れ伏した魔術師は起き上がろうとして失敗した。とても抵抗できる状態ではない。アルトとマリィアが駆け寄って杖を取り上げた。
「アルマ、ハナ、手伝って頂戴。術具って後はどれだと思う? 術クラスの意見も聞きたいわ」
「術師系ってぇ、思わぬものが発動媒体になってたりするのでぇ……それこそ身ぐるみ剥ぐしかないんですけどぉ」
 今彼女が履いているブーツも、魔術具として使用できる。アルマが歩み寄った。
「ぜーんぶ壊すです。杖も、お洋服も」
「全部ですぅ?」
「はいです」
「戦闘不能だし、そこまでしなくても良いかもしれないけど、客室のシーツでも使いましょうか」
「俺がやるよ」
 エドが苦笑した。
「屈辱的に剥いてやろうじゃん」

 魔術師は身につけているものをすべてはぎ取られ、シーツでサナギの様に巻かれて拘束された。取り上げられた魔術具……というか持ち物は山積みにされ、アルマがデルタレイで破壊している。
「……つまんないです」
「俺は面白かった。宝術すごいね」
 エドがその横で、壊されて行く術具を興味深そうに見ている。装備品を破壊する機会なんてそうそうない。
 マリィアはそんなエドの後ろ姿を見ながら肩を竦めた。
「……エドはお手柄だったと思うわ、多分」

●大団円
 すぐに応援が呼ばれた。本当に火事だと思っていた客たちの一部はそれで捕まった。
「すげぇ面子だな」
 応援の一人、ヴィクターが居並ぶハンターを見て目を白黒させている。アルト、ハナ、アルマには先日助けてもらったし、マリィアはヴィルジーリオを搬送するとき、彼が運転する魔導トラックの護衛だった。トリプルJのこともマシューから聞いていた。
「エルフリードさんは、私が味覚狩りでゴリラに殴られた時に助けに来て下さった方です」
 ヴィルジーリオからのコメントを受けて、
「実力者で来てたんだな……運の尽きだったな」
 しみじみと頷く。身動きが取れなくなった魔術師と挌闘士は担架で運ばれて行った。ヴィクターはアルマを見て怪訝そうな顔をする。
「ところで、お前さん、なんだってそいつに貼り付いてんだ?」
「番犬です!」
「愛犬家の写真にありそうな絵面だな……」
 エドにひっついたアルマを見て、ヴィクターが微笑みながら頷いた。
「大型犬と子供が一緒に遊んでるやつ……」
「ふふ」
 ハンクが笑った。そこに、食べたものが思いの外苦かった様な顔をしたトリプルJがやって来て、
「エド、ハンク、お前らもう少し仲良しろや」
「え? 何で? 充分仲良いけど?」
「そうですよ。ご存知じゃないですか」
 口々に言われて、今度は思いの外酸っぱかった顔をする。
「……なら良い……」
 証拠品として、盗品も次々と運び出される。
 絢爛な行列であった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 9
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重体一覧

参加者一覧

  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アルマ・A・エインズワース(ka4901
エルフ|26才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2019/05/28 00:07:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/05/26 19:02:59